切札 ◆gry038wOvE



「しゃらくせええええええええええええええっっ!!!!」

 生存者のうち、こんな声をあげる人間が血祭ドウコクを除いて他にいるだろうか。
 お察しの通り、この声の主はドウコクである。
 第五回放送とともに、こうして怒りの声をあげているわけだ。ここが何もない部屋だったがゆえに何もなかったが、もし箪笥や家具が置いてあれば、それを蹴散らして発散するだろう。傍若無人が彼の本質である。

 残り人数を十人に減らせという指示──この騒動の冒頭には、そんなわかりやすい理由があった。
 即ち、彼も沖一也左翔太郎を抹殺する方針に切り替わったという事だ。

「ま、待てドウコク……!! マンプクの口車に乗せられてどうする!?」
「わぁってるが、帰ってから奴を捜して殺すのも手っ取り早ぇじゃねえか!!」

 剣を振り上げようとするドウコクに、とにかく必死で一也が止めようとする。
 もはや脊髄反射的に殺戮に走ろうとするドウコクをなだめるのは大変だ。
 ただ、何とかこれも説得できる方法は転がっている。

「捜すと言っても、おそらく奴はお前の知らない世界に逃げてしまうぞ! 二度とお前の前に姿を現さないかもしれない!」
「あぁ? 俺の知らねえ世界だと……?」

 ドウコクがそれを聞いて、少し黙り、ぴたりと動きを止めた。
 そんなレベルの話さえ殆ど知らないのだろうか。異郷の存在は知っているかもしれないが、それが人と妖との二世界に渡る程度の話しか知らないのかもしれない。
 これが説得の為の材料となりそうな事は間違いない。

「ああ、俺たちはそれぞれ別の世界から来ている。お前も未知の力を持つ敵と会った事もあるだろう? 主催側は、その世界を相互的に渡り歩く能力も持っているはずだ」

 まあ、単独行動を続けていた彼がそんな事知らないのは計算済みだ。情報差が彼を利用するのに都合が良い。
 とにかく、その言葉で黙ったからには、説得の余地がある可能性は非常に高い。

「だが、どっちにしろ俺は元の世界って奴に帰らなきゃならねえしな。こんな場所にいつまでもいるわけには──」

 ドウコクの反論前に、より手っ取り早い手段というのを見つけ出しかけている。
 総大将血祭ドウコクは元の世界に必要な存在だ。もしいなければ、外道衆の没落もあり得る。シンケンジャーもいないが、ドウコクもいない。
 アヤカシも大分死んだうえに、シタリが元の世界に残されている現状では、マンプクを殺すのも一つだが、何より帰らなければならないだろう。

「帰る方法だって、俺たちが残り六時間で見つけ出せば問題はない。方法はある」

 しかし、それでも一也は反論の余地を見つけた。
 ドウコクの情報不足を利用するのである。ハッタリでも何でも、その場をしのぐために使える方便は全て使う。
 マンプク殺しよりも帰還を優先するのが大局であると、彼も理性でわかり始めているだろうが、

「この島の外の様子を見せよう」

 一也が先ほどから様子を見ていたバットショットの映像も、だんだんと海以外の物が映り始めていたのである。先ほど、スタッグフォンを見ておいたのだ。
 そこには、一也も安心感で胸をなでおろすような映像が残っていた。
 別の島の外観だ。
 海岸線の向こうに、もう一つ別の島があるのが見え始めていた。確かに、外には考察通り、別の島が存在したという事である。ただ、それが目の錯覚である可能性も否めない。何せ、距離が離れるにつれ画質がだんだんと低くなっているのである。
 だが、仮に錯覚であるとしても、ハッタリの材料としては使える。
 その映像を見せるべく、彼はスタッグフォンを手に取った。

「うん……?」

 ……見ると、不在着信三件とメールが二通、入っていた。ショドウフォンからだ。つまり、孤門一輝たちのチームである。
 不在着信のうち一件だけは、特殊i-podから。これはつぼみたちからだろう。
 少しメールを開いてみたが、そこには桃園ラブから沖一也と左翔太郎を心配する内容のメールが入っていた。すぐにでも返してやりたいが、それはもう少し時間に余裕ができてからにしよう。
 まあ、今は、動画の方をドウコクに見せておこう。

「ドウコク、君に見てほしいのはこの映像だ。映像はさっきまでは海ばかり映していたが、今は別の島が映り始めている。もう間もなく島に着くはずだ。主催者の基地があるかもしれない」
「……てめえら随分凄ぇもん持っていやがるじゃねえか。俺たちがいねえ間に随分技術をつけやがったもんだ。前までは箱の中で活動を見るのが精いっぱいだったってえのに」

 ドウコクが興味津々にそれを見ていた。
 小さい箱の中にチカチカと物が映っている程度の認識しかないのかもしれない。
 ドウコクの興味が明らかにこの携帯電話に向いていて、映像がどんな意味を成しているのか理解していなさそうなのが辛い。

(こ、こいつ、この殺し合い内だけでなく、人間社会に対しても随分情報が遅れている……! くっ、外道衆の技術を最先端まで発展させたくなってきた……いかんいかん!)

 宇宙進出まで果たしている科学者ゆえの葛藤が内心で目覚める。彼らの技術を発展させても人間側が不利になるだけであるが、それでも思わず彼らの科学水準の発展を願ってしまうのが一也である。

「と、とにかく、この映像の通り、外には脱出のアテがあるんだ。まずはお前の首輪を解除する。それからは、せめてあと五時間、待ってくれ。五時間後までに解決できなければ、俺を殺してもらっても構わない」

 とは言うものの、内心ではあと六時間の内に脱出できるかというと微妙なのが現状だった。こちらの準備が整うまでには随分時間がかかったし、あとの五時間をバットショットの映像でどうにか判断しなければならないのだ。
 おそらくは、残り五時間で全て果たすのは無理である。──五時間後に起こるのは、ドウコクとの戦闘だ。
 もっと時間をかけて色々と行えれば良いのだが、タイムリミットが設けられた挙句、こうしてドウコクが近寄ってきてしまっては、それから先の行動も難しい。

 主催側は随分厄介な事をしてくれたものである。
 六時間以内に十人に減らせ、というのは、ただの額面通りな主催の敗北宣言ではなさそうだ。
 何せ、この六時間で十人まで減らすとなれば、不和が生まれるのは間違いない。十四人の殆どが味方である最中、生贄を四人ほど、誰かが薦めなければならないわけだ。

 この場合、生き残れる確率の方が高い事が、この場合の問題点だ。
 なまじ生き残る希望が高い分、そこに縋りたい気持ちが強くなる。自分は十指に入るだろうという期待と、そこから切り捨てられる四人になる不安がせめぎ合うだろう。これが残り一人になるまで……というなら、何故か諦めもつくのだが、ここまでの苦労を清算する機会があれば、犠牲になろうなどとは思いたくないに違いない。
 犠牲になる側も、そんな数少ない犠牲の側にはなりたくないと思うのが心理である。
 ……とはいえ、ドウコクのような人間を除けば、これはまだ何とかなる範疇である。今自分がいるのは、危機的状況下でも他者を尊重できる人間は寄り集まっていると自負できる集団だ。

 主催側の評価としては、最後のチャンスとして演出する意味も深いという点も一点だ。
 このまま十一名以上生き残れば、この孤島──いや、この世界に置き去りにされるというが、それが問題なのである。
 脱出ルートを、あくまで主催側への干渉によって果たそうとしていた対主催陣営にとって、確実に必要な存在となるのが、主催陣営だ。こうして、主催陣が殺し合いを諦め、そこにゲームメーカーがいるという前提を崩す事で、「このままでは帰れない」という状況にリアリティを持たせている。
 そして、無人の世界にたかだか十数名で放置されれば、大した時間を要さずに死なせてしまう。元の世界に帰りたいのが全員の本心だろうから、それも崩れてしまうわけだ。
 これも、なるべくならば主催逃亡後も全力を尽くして脱出計画を練るだろうが、今はそうもいかない。ドウコクはそう気が長い生物ではなさそうだ。

「……」

 とにかく、残り六時間で一也たちにできるのは、「希望を捨てずにベストを尽くす」という事だけであった。
 一也は己の鼓動が早まっていくのを感じた。
 ドウコクは短気である。五時間は長いと取るか、短いと取るかは彼にとってどうなのか──返答を待つ時間が妙に長く感じられた。

「……まあいいだろう。どっちにしろ、五時間もあればてめぇらも手がかりを得る」

 ドウコクが迷った挙句に剣を鞘に収める事になり、一也は内心ほっと溜息をついた。
 どうやら、説得自体は上手に終了したらしい。悪い言い方をすれば、上手く騙せたというところだろう。
 幸いにも、ドウコクはこちらの技術の底を知らなかった。どの程度が一也たちの技術で可能な範疇なのかを理解していないのだ。その為、六時間以内の脱出がほぼ不可能である事など彼は知る由もない。
 一也が、自分たちの技術の限界を悟り始めていようとも、せめてそれを表情に出さなければドウコクは騙せる。

 上手い具合に持って行けたとは言い難いが、それでも五時間の猶予が得られた。
 今のところは、それで充分だ。

「……ふぅ。それじゃあ、ドウコク、首輪を解除するからおとなしくしてくれ。解除は五分で済む」
「五分だと!? まさか、あいつら、そんなチンケな物で俺を縛ってやがったのか!」
「ああ、腹立たしい事かもしれないが、今は落ち着いてくれ。落ち着かない事には首輪も解除できない」

 元々、ドウコクの期待は主催と参加者のどちらにも向いていないはずだ。
 面と向かって対話できる方に信頼のバランスが寄るのは至極当然の事である。
 それこそ、ちょっとした説得でも口説けるほどだ。

(……さて、この仕事を終えたら)

 一也は、翔太郎の方をちらと見た。
 彼は、まったく、脱出にもドウコクにも一切興味がなさそうだった。
 一也も、そんな彼を温かく見守ろうとは全く思わなかった。
 ただ、ドウコクが首輪を解除した後が彼に発破をかける時だ。

 一也は、素早くメールでショドウフォンに『心配ない。バットショットが周囲の様子を映し始めたから、一端、目を通してくれ』という内容のメールを送り、ドウコクの方に工具を持って行った。






 さて、ドウコクの首輪の解除には、やはり全くといっていいほど、時間はかからなかった。
 ドウコクとて、本当に五分もしないうちに自分の首を縛っていた鉄の輪が解除されるとは思いもよらなかっただろう。
 なるほど、ここまで随分と長い間、この首を縛っていてくれたが、どうやらその事も含め、すべて茶番の材料だったらしい。──そう思うとドウコクの胸にも苛立ちが湧いて来る。
 マンプクの首を頭に描きながら、彼はともかく口を開いた。

「……チッ。とにかく首輪が解除された所で────」

 一也が身構える。
 この瞬間が恐ろしいのだ。
 ドウコクにとって、首輪が解除された後の一也たちは邪魔だと判断されまいか、その一点。
 邪魔者は勿論、殺される事になるだろうと思い、緊張の一時が流れる。

「────酒でも飲むか」

 と、思ったが、案外ドウコクは聞き分けが良いタイプの怪物であるようだ。

 少なくとも、今ここで一也たちを殺す事には意味を感じていないと判断していい。
 あとの五時間の猶予は確実に保証されているものらしい。
 外道シンケンレッドが、一升瓶をドウコクに向けて手渡しており、まさしく彼の方は酒宴の気分のようだった。
 今の彼にとって必要なのは、口にアルコールの苦味や辛味を広げさせる事なのである。その摂取によって、一也や翔太郎たちと慣れ合うストレスを発散し、しばらくマンプクを殺せる万能感に酔い浸るのが目的らしい。
 まあ、実際のところ、ドウコクの実力ならばマンプクなど取るに足らない相手であるが、現状、相手が積極的に姿を現さないゆえに怒りが溜まっているようだ。

 アルコールは正常な判断を鈍らせるので、一也たちの目からしても安全とまでは行かない。こんな状況下で他人に飲ませないのが最良の判断である。
 だが、あのまま酒を飲むのを妨害させると、それこそこちらに危害を加えかねない厄介さだ。まあ、ある程度酔いに強い体質である事を祈ろう。

 ドウコクには背を向けた。その背に切り傷の残る事はなかった。

「さて、ドウコクの首輪の解除は終わったな」

 一也は、何か言いたげに翔太郎の方へと歩いて行ったのだった。
 その様子に気づいたようで、翔太郎は顔を上げた。虚ろなまなざしで一也を見上げる。
 しかし、一也の眼は、そんな翔太郎の心に突き刺さるほど鋭く、先ほどドウコクと対峙していた時よりも数段、「敵に相対する目」に近い眼光であると感じた。
 まさしく、心眼でその危険性を翔太郎は感じたのである。

「翔太郎くん」
「……っ!」

 思わず、一言呼ばれるだけで翔太郎が目を逸らす。
 まるで、これから熊でも倒そうと言う格闘家の気概。それが翔太郎の精神になだれ込む。
 格闘家、ゆえの眼力であった。翔太郎の弱さを責め立てる意思があるのは確かだ。だからこそ、翔太郎は更なる弱さでそれを覆い隠そうとする。

「……放っといてくれ! ……もう俺は仮面ライダーじゃない!」

 仮面ライダーである事。──それが、左翔太郎の誇りであった。
 街をドーパントから守って来たのは、フィリップがいて、仮面ライダーダブルにもなれたからこそだ。
 だが、今この腕で何が救える? この場所でこれ以上、翔太郎に何ができるというのか。それを思えば、その誇りが打ち砕かれるのも当然であった。この先、戦うイメージが湧かず、苦難の道が脳裏をよぎる。

「仮面ライダーでなくなったくらいで戦う意志を失うならば、お前は最初から仮面ライダーじゃないッ!!」

 だが、そんな翔太郎の耳に、あまりにも大きすぎる声が鳴り響いた。
 ドウコクも、酒を飲もうとしていた体を止める。
 気迫は誰にも負けない。──赤心少林拳の使い手たるこの男である。
 翔太郎は、それでも反論をするくらいの怒りがあった。勇気ではなく、苛立ちが咄嗟に弁解の余地を作る。

「ッ! そんな事言ったって……俺にはフィリップも、この腕もないんだ! 仮面ライダーじゃなくなっただけじゃない! 人間として戦う事だって、もう……!」

 語尾が下がっていた。明らかに、一言を口に出すのを躊躇う彼であった。
 彼らしくはなかったが、自分らしくないと自覚しているからこそ、実際の現状を口に出す時に偉く弱気だったのだろう。
 自分の状況を考えるならば、仮面ライダーとして戦う事に既に限界があるのは容易にわかる話だ。

「沖、放っておけ、そいつにはもう、何もねぇ。このシンケンレッドと同じだ。……まあ、せいぜい、そいつがいなくなりゃあ残り十人に近づくだけ、って所か? 同情が欲しいなら、少しはしてやるぜ」

 一也の背中でドウコクが言うが、彼はそんな言葉を聞き入れる気がなかった。
 ドウコクの言う事は、かなり尤もであるとも一也は思っているが、同時にこうして喝を入れれば立ち直る可能性を、一也は信じていた。
 あくまで、一也はこの左翔太郎なる男を、まだよくは知らない。
 ただの軟弱な普通の青年かもしれなければ、底が深い人間かもしれない。それはまだわからないが、これまでこの男が仮面ライダーとして戦ってきた事だけが明瞭たる事実として一也に何かを残している。
 その経緯、その戦いの記録は一也も小耳に挟んでいた。

「……いや、左翔太郎は何も持っていないわけじゃない。師に憧れ、仲間を重んじ、仮面ライダーとして戦う為の魂を持っていたはずだ」
「……」
「お前はまだ戦える。俺はお前を再び、仮面ライダーとして戦わせる事だってできる。こいつを見てくれ」

 翔太郎の視界に、一也は自分の持つ切り札を見せた。
 翔太郎の瞳孔が広がる。
 まさしく、そこには「右腕」と呼ぶべきモノと、翔太郎自身もよく知っている「ロストドライバー」というベルトとメモリが在った。
 それは、まさしく、この翔太郎が必要としている物たちであった。

「沖さん……っ! こいつは────」
「知っているだろう。いくつものカセットアームを搭載した、結城丈二の右腕。そして、これが石堀光彦がお前の為に俺に手渡した新しい変身ベルト・ロストドライバー、俺が見つけたT2ファングメモリだ」

 まるで、少し息を吹き返した人間のように、翔太郎は羨望に近い眼差しでそれを見た。
 彼の男が、再び仮面ライダージョーカーとして戦う準備はある。翔太郎もジョーカーメモリを残しており、まさにその姿へと再誕する為にはおあつらえ向きであった。
 全てが揃っていた。翔太郎は、それを見て思わず、無いはずの右腕を伸ばした。

「こいつがあれば……」

 だが、一方で迷いもあった。右腕でそれを掴む事などできるはずないのに右腕を伸ばしたのは、おそらくその迷いが原因だろう。──左腕で、確実にそれを掴んでしまうのは本能的に避けたかったのだ。
 こうして戦う道を選べば、再び彼は痛みを受けなければならない。あのガドルのような強敵と戦う事だってあるかもしれない。
 ドウコクだってそうだ。彼と戦わなければならない。

 恐ろしい。

 こうして、守られる側でいる事がどれだけ楽か。──仮面ライダースーパー1のような戦士がいれば、それで充分ではないのか。
 そう思ってしまう。積極的に戦ったからこそ、鋼牙やフィリップは死んだ。自分もそうなるかもしれない。守るためには、自分の命さえ犠牲にする覚悟が必須なのだ。今こうしてぬるま湯に使った翔太郎が再びそれを手にするには、少しの抵抗がある──それも、無理のない話であった。
 彼は、普通の人生の中で偶然仮面ライダーになったただの人間である。一也とは違った。

「……だが、翔太郎くん。君にこれを、ただ渡すわけにはいかない。この右腕は、俺が尊敬した一人の戦士の物なんだ。……それに、この右腕を君の腕に移植するには、君の腕を丁度良い長さまで削り取る必要がある。神経を繋ぐ作業も、普通の人では耐えられないほどの地獄の痛みが伴うだろう。作業も俺が手探りで行うから、痛みがどれだけ長引くかもわからない。それを全て麻酔なしで行わなければならない」

 少しばかり優しい声色になった一也の説明を聞いたところでは、それはまさしく、移植だけでもこれまでの戦い以上の地獄が待ち受ける道であるように思えた。
 聞くだけで嫌になりそうな話だった。
 だんだんと、アタッチメントによって再び仮面ライダーになる幻想が遠ざかっていく。その為に必要な覚悟は、並大抵の物ではないのだろう。腕があるからといって、都合よく、何のリスクもなくそれを義手として使えるわけではないのだ。
 翔太郎の中で膨れ上がる恐怖は、それだけにはとどまらない。

「仮面ライダーに戻った後も覚悟が必要だ。君はまた、茨の道に飛び込む事になる」

 再び、フィリップたちの事を思い出した。
 彼らは戦いの中に消えていった。彼らが普通の人間ならばどうだろう。
 元々、こうして殺し合いに巻き込まれる事もなかったのだろうか。

 ……そう、この殺し合いに巻き込まれた人間は、大半がそうした特殊な能力を持っていた。
 改造人間、ガイアメモリ、魔法、クリスタルパワー、ラダム、モヂカラ、ウルトラマン、魔戒騎士──あらゆる理由で変身ができる戦士たち。それが今回のターゲットだったのだ。
 再び、仮面ライダーとなれば、己や周囲の人間が傷つく可能性も否めない。
 帰った後も、待ち受けるのは地獄の戦いの日々だ。その苦痛を受けながら、毎日生きられるだろうか。──翔太郎の中には、不安が広がっていた。

「……まあ、そうすぐには決心がつかないか。だが、悪いがこちらにも時間はない。ならば、こちらで手っ取り早く試させてもらおう」

 翔太郎もしばらく黙り込んでいたのだろうか。反射的に言葉を返せるほど、覚悟する行為は簡単ではなかった。
 しかし、時間が経るごとに、その「意思」なる物は弱まっていく。
 考える事もまた、時折、その人間が本来答えるべき「覚悟」を鈍らせ、殺してしまう一つの要因たりえるのだ。ゆえに、一也は待たなかった。考える時間を与えるくらいならば、いっそ、自分の手で彼を見極めようと、彼は構えた。

「変───身!!」

 梅花の構え、そして仮面ライダースーパー1への変身。
 敵にさえも美しいと評された、惑星開発用改造人間成功作の銀色のフォルムが輝く。
 電子音が鳴り、一也の全身に力が廻る。
 その異形に表情はなく、それが今回、無機質な非人間を象っていた。
 ドウコクが睨んだ。

「オイ、何のつもりだ?」
「御免!」

 スーパー1は、銀色の腕のまま、窓を叩き割った。この程度、パワーハンドを使うほどでもない。高く嫌な音が鳴り、窓が砕け、外の庭に散らばる。窓辺の細やかな風が部屋の中に入って来た。
 翔太郎もドウコクも、脊髄反射的に彼のその一瞬の行動に、驚愕する。
 この男、何をしようというのか。

「草花、木々……この庭にある全ての物を今から焼き尽くす。覚悟ある者ならば、この花たちの為にさえ、その命をかけられるはずだ」

 そう、翔太郎が振り向けば、外には、綺麗に庭を彩る細やかな園芸があった。──誰かが丁寧に育てた庭の植物たちであった。
 芝も誰も必要以上に首を伸ばさず整えられ、刺々しい松の葉や可愛らしい花々が風に揺れていた。
 その外の空間へと、スーパー1はゆっくりと歩いて出て行った。翔太郎の顔の横を、冷徹無比なマシンが焼き尽くそうとする。
 いくら翔太郎の為とはいえ、仮面ライダーがこうして、細やかな命を奪おうとして良いのか──。
 やめてくれ。
 俺の為に、そんな事──。命を奪うような事は──。

「チェンジ! 冷熱ハンド!」

 そう言って突き出した緑のファイブハンドは、炎を空に向けて吐き出した。
 彼は、今この男は本気であった。まさしく心を鬼にして、全てを業火に包む気概を持っていた。
 ──その一瞬だけでもわかる。誰が止められようはずもない。
 冷熱ハンドの超高温火炎が人間の命を、悲鳴もあげぬ間に殺せる威力を誇っている事は言うまでもないはずだ。
 灼熱の地獄。人の体など一瞬で焼いてしまう事は想像に難くない。

「まずは、あの花からだ……!」

 スーパー1が目を向けた先には、小さなコスモス花が、ただ一つ、はぐれて咲いていた。
 きちんと整えられたこの名家の庭園の中で、ただ一つそこに花があるのは全く不自然な話だろう。しかし、ここを整備する者たちが、偶然、はぐれてそこに咲いていたそれを排除するのを嫌ったに違いない。
 どこから種が運ばれたのかはわからないが、美しく生きる一輪の花が自ずと生えた事に感服し、気づかぬふりをしたのだろう。
 そんなドラマさえも想像できる、一輪の花。しかし、勿論焼かれればその命も尽き、今発しているような無用の美しさも醜く崩れ落ちる。
 それでも、スーパー1はやり遂げねばならなかった。

「すまない……! この試験の為に散ってもらう……!」

 灼熱の中に飛び込み、花を守る絶対の意思を持つ者などいようものか。
 ドウコクは、ばかばかしいと思いながら背を向けた。
 仮にもし、立ち向かったとしても、スーパー1に敵うはずがない。
 人間の生身でそれができない事くらい、誰でも一瞬にしてわかるはずだ。

「────ッッ!!」

 ……しかし、だ。
 人間の意思は、ドウコクの期待などを遥かに超える優しさも持ち合わせていた。
 ドウコクは、それを過小評価していたのかもしれない。
 さわやかな風がドウコクの体にそよがれる中、男の叫びがその間に響き渡ったのである。

「やめろォォォォォォッッ!!」

 ──圧倒的戦力さえ無視して、掴みかからずにはいられない“本能”の持ち主が、そこにはいた。たとえ無駄でも、命をかけなければならないと、そう思った男がいた。
 男は駆け出し、その花へと迫る悪魔の手を振り払おうとした。
 スーパー1は、予期こそしていたが、一瞬にしてその気迫に体を固めた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォッ!!!」

 魂は、人を震わせる。
 男は、理屈ではなく、魂でそれを守る──困っている者があれば、放っておけない心を持っているだけであった。
 街を愛せるにはいられず、街にいる全ての物を守らずにはいられない、そんな男。

「……っつぅッ……!」

 ──左翔太郎は、自分でも気づかぬうちに、その左手でスーパー1の顔面にパンチを叩き込んだのであった。右腕から先がなく、スーパー1の腕を振り払う事はできなかった。
 しかし、ただ本能が、自分の拳が砕ける危険さえ無視して、スーパー1の顔面へと向かっていってしまった。
 自分の左腕に伝う、鉄を殴った感触とともに、この男は正気を取り戻していく。

 スーパー1は、変身を解除した。──コスモスの花は、元気に揺れていた。

「──翔太郎くん。やはり、君には確かに、仮面ライダーの魂がある。それを認めよう。しかし、残念だが、その魂や想いだけじゃあ、何も守れない……」

 炎がその命を焼き払う前に、翔太郎は前に出たのだ。無力な体で、彼は自分の左拳を見た。
 腫れている。痛んでいる。思わず、声をあげている。当然、一也がこのまま花を焼くつもりでいたならば、花の命はなかっただろう。

「その想いと、鉄の体を併せ持つのが仮面ライダーだ」
「ああ」
「鉄の体が必要か?」
「……ああ」
「それならば、お前にくれてやろう」

 それが今の翔太郎の中で燻っている想いを解放する術だというのなら、即答できた。このもどかしい想いを抱えたまま生きてはいけないのが、左翔太郎という短期な男なのであった。
 一也に言われたような「覚悟」というのは正直言えば、無い。痛みがある改造手術も、過酷な戦いも、仲間を喪うのも嫌だった。
 しかし、放っておけないと思う心があるならば、嘘をついてでも有ると答え、改造手術でも何でも受けてやろうと翔太郎は思ったのだった。──何かを守りたい気持ちならば、まだ胸の中に在る。






 志葉屋敷の一室。
 無菌室などあるはずもなかった。ただドウコクと外道シンケンレッドがいなければ少しは埃が立つ可能性が低くなるから、それで退いてもらった。
 麻酔もあるはずがなかった。ただ一口の酒を飲み、少しの酔いが麻酔代わりになれば、それで辛うじて、多少の気休めになる。
 消毒も手術道具もあるはずがなかった。機械を解体するための道具と部品だけがアタッチメントと同じにあるだけだった。
 刃は、支給品の一つを使い、ただありあわせの物で全て任せる。医者でさえ、ただ多少知識があるだけの、専門分野も異なる科学者だ。
 本郷猛や結城丈二はともかく、何故か一文字隼人、風見志郎などの歴戦の改造人間までもが辛うじて持っている謎の能力がこの人体改造である。水産大学に通っていた神敬介も後の世には医者なのだから驚きだ。沖一也がこの謎の医学能力を持っていないはずがないだろう。たぶん。

 即ち──

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 地獄の苦しみとともに、左翔太郎は、あまりにも粗雑な手術を受ける羽目になっていたのである。一也もこんな酷い環境で改造手術などしたくはなかったが、仕方がない。非人道的と罵られようとも、状況が状況であるため、本当にやむを得ないのだ。
 このバトルロワイアル中、おそらく最も無慈悲でグロテスクな解体を行うのが仮面ライダーであり、それを受けるのも仮面ライダーであるとは誰が想像した事だろう。

「うわああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!」

 散華斑痕刀なる刃が、翔太郎の体をマーカーの通りに切断する。血しぶきというほどではないが、少しだけ血が跳ねた。
 一也は、その血を布で拭うと、きわめて冷淡な顔で手術に臨んでいる。心を鬼にして行わなければならない。
 一也が翔太郎の悲鳴に申し訳なく思いながらも、力任せにその凶暴な刃を台に向けて押していく。肉が削げ落ち、骨に当たる。骨の周りを削いでいき、その柔らかい部位を翔太郎の体から外していく。
 その後、少し出っ張った骨をこの刃でまた削っていかなければならない。
 骨を刺激しても充分に痛みは伝う。翔太郎の叫び声はまたも伝う。

「やめろォォォォォォォッ!!!!! うわ、うわあああああああああああああッッッッ!!!!!!!!」

 結城と翔太郎は身長も体格もほぼ変わらず、二人ともおおよそ成人男性平均程度で差はない腕の太さだ。長ささえ調整すれば、適合する可能性は高い。アタッチメント自体、元々は結城丈二が装着する予定ではなかった物を流用しているくらいなので、太さに関しては、おおよそ調整が効く。

「さて、次は、神経を繋ぐ。歯を食いしばれ」

 しかし、一也は機械的に言うしかなかった。
 あまり優しい言葉をかける物ではない。自分自身も集中力を削がないよう、あくまで冷徹な機械として黙々と作業をする。あまり人間の悲鳴を聞きたいとは思わないが、本当に仕方がない事をしなければ仕方がない状況なので仕方がないし、まあとにかく仕方がない事なのだ。決して一也の趣味ではない。
 とにかく、発する言葉は、その工程の説明だけだ。自分が今何をされているのかを理解しながらであれば、翔太郎としても次への関心が湧くはずである。それが最低限の話。しかし、それが頭に入っているとは思えなかった。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーッッッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 たかだか十分が数時間とさえ感じる強烈な痛みに支配されている。翔太郎時間では、とっくに五時間経っていてもおかしくないのではないかという気がしてくる。
 しかも進んでいる実感というのが薄く、ピンセットなどで神経と神経を繋げる作業は目で見るだけでも気持ち悪い。痛いという以上に、自分の体に新たなパーツが増えていく気味の悪さが嫌だった。
 吐きそうになる感覚を何とか払拭しようとしていた。意識を消し去りたい気持ちも生まれる。しかし、今はこの意識は消せない。
 頭の上に汗が溜まるような感覚。天井を見て、天井の向こうに喉の奥から、この痛みを伝えていく。声が枯れ始める。

「ッッッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 今日のいずれの戦いにも勝る身体的な痛みだ。それはあるいは、ドウコクに胸骨を折られた時よりも遥かに痛みが激しい。
 ガドルに吹っ飛ばされた瞬間の、一瞬の感覚とは桁違いに、──精密な作業は、その一つ一つが長い痛みを伴う。
 ただ、フィリップや照井などの仲間たちを喪った心の痛みに比べればずっとマシであり、フェイトやユーノが受けた痛みよりは生ぬるい物であろうと思い、彼は耐えていた。

『それに杏子……お前が魔女になったとしても何も心配はするな……
 お前が人々に絶望を振りまき泣かせる前に……俺がお前を殺してやる』

 そうだ。────不意に翔太郎は、一つの約束を思い出した。
 あの約束を忘れてはならない。
 痛みを感じているのは、自分や死んだ人間たちだけじゃない。

(……あいつも……)

 抜け殻になった翔太郎を、冷たい瞳で見つめた杏子。
 その瞳が不意に翔太郎の脳裏を掠め、一瞬、翔太郎は痛みを忘れた。
 杏子がああして怒ったのも無理はない。
 翔太郎は、約束さえ忘れて杏子の心を傷つけていた。────これも一つの罪ではないか。

「くっ……!」

 神経はまだ繋がれているのだろうか。
 翔太郎の腕に、一つ、一つ。コードが繋がれ、翔太郎に新たな腕を取り付けようとする。
 これがあれば、また戦える。一人の男の戦いの記録が、今度は翔太郎に繋がっていく。
 小指が、少し動いたが、作業中なので叱責された。






 それから、翔太郎の感覚では、とっくに六時間以上の時間が経ったように思えた。
 しかし、手術は急を要し、安全や正確さよりもいち早く終える事を目的としていたがゆえ、一時間半という短時間で全てが終わっていた。
 時計を見た時は、五時間分ほど人生を得したような気分にもなったが、後々考えてみれば、この手術によって、翔太郎は、五年分ほど健康寿命を擦り減らしただろう。やはり大損である。
 油断して右腕を失うなど、もう二度と御免だ。まだ嫌な汗をかいている気分だ。

 もしかして、半分、気を失っていたのだろうか。──そういえば、意識はあったような、なかったような、微妙な記憶だ。しかし、手術を終えた時は目を開けていたはずで、ほっと安心した気がする。
 それというのも、あまりの痛みに脳が何も考えなくなっていたのかもしれない。五感が贈る全てはリアルな映像として脳内に送られているが、それが何を意味しているのか考えるほどの効力を失っていたのだろう。

「はぁ……はぁ……」

 起き上がると、右腕が確かに動いた。
 つい数時間ほど前まで、自分の腕を動かしていたはずだったが、こうして動かしてみると、少し動きが硬く、違和感があった。
 アタッチメントというのは、そういう物なのかもしれない。

「──成功だ、翔太郎くん。よく頑張った」

 と、こちらに向ける一也の笑顔が、怖すぎて、翔太郎はひきつった笑いを返した。
 この人は優しく微笑んでいるが、翔太郎としては一也の存在そのものがトラウマである。
 ここまでのスパルタ教育が原因で、翔太郎としては苦手意識が芽生えてしまう相手だ。
 翔太郎は震えた声で言う。

「……あ、ああ。そうみたいだな」
「これがロストドライバーだ。使い方は君の方がよく知っているね?」
「……」

 翔太郎は、新たな腕でロストドライバーを掴んだ。その瞬間、一也に対する恐怖などという物は吹き飛んだ。
 ロストドライバーの重量は、思ったよりも幾分か軽い。

『よう、その様子だと、守りし者っていうのが本当にわかったみたいだな、翔太郎』
「あんたは……」

 ザルバが再び口を開いた事に翔太郎は気づいた。
 この魔導輪は、口うるさいが拗ねやすく、基本的には自分が認めた者としか言葉を交わさない。精神の弱い者には語り掛ける事さえない……などという場合もある。
 そんな彼が、一度見捨て、口を閉ざしたザルバだったが、今再び口を開いたようだ。

『俺様にも見せてくれよ、あんたの変身とやらを』
「……言われなくてもな」

 軽量のロストドライバーを手にすると、そのまま翔太郎は腰にそれを据えた。
 ザルバに何も言われずとも、そういう展開になるのはわかっていた。

≪僕の好きだった街をよろしく。仮面ライダー、左翔太郎≫

 あの時と同じ。
 ハーフボイルドだった翔太郎が、一人の仮面ライダーとして戦わねばならない時が来た。
 そうだ、あの時の事を思い出す。
 フィリップがいなくても自分だけで戦おうと決意した、あの時の事を──。

「ふ……まさか、また俺だけで、コイツの世話になる時が来るなんてな」

 コネクションベルトリングが翔太郎の腰を巻き、ロストドライバーが装着される。
 これは、翔太郎が独り立ちしようと、せめて心の中だけではそう決意した証なのだ。
 翔太郎は、ジョーカーメモリを懐から取り出した。

≪帽子の似合う男になれ……≫

 スカル、エターナル、アクセル、あらゆる風都の仮面ライダーたちが、それぞれと惹きあったメモリを使って変身してきた。
 翔太郎と最も引き合うメモリは何か。

 JOKERのメモリである。これが彼に最も似合う帽子。

──JOKER!!──

 サウンドが鳴るとともに、翔太郎はそれをロストドライバーにはめ込んだ。
 スロットの奥にジョーカーメモリが装填される。
 電子音が鳴ると、彼はその音の心地よささえ感じてしまうのだった。
 地球のコアと全く同じ、その声が、翔太郎の中にある切り札の記憶を刺激する。



「見ててくれ、沖さん、結城さん、照井、フィリップ、おやっさん、それに杏子……仮面ライダーのみんなに風都のみんな、ガイアセイバーズのみんな。これが、俺の切り札だ……!」



 翔太郎にとって、切り札は常に自分の元に来るものであった。
 ガドルの攻撃を受けても、このジョーカーメモリは破壊されず、翔太郎の手元に残り続けた。
 ここまで死守してきたガイアメモリである。
 このガイアメモリがある限り、翔太郎は絶えず、仮面ライダーとしての力も発揮できる。



「────変身!」



 ──その叫びと共に、左翔太郎は、黒き仮面ライダージョーカーへと変身した。
 右腕には、アタッチメントを装着するスロットが残っている。ジョーカーでありながら、ライダーマンのようにアームまで変えられる、新たな戦士の誕生であった。






 ……と、ここまではカッコいい仮面ライダージョーカーであるが、その初仕事は汚れ仕事も良い所であった。
 志葉屋敷の一室で、外道シンケンレッドとともに血祭ドウコクを起こすのが今の彼の務めであった。というのも、この血祭ドウコク、疲労状態に重ねて酒を摂取したばかりに、もはや泥酔状態で眠りこけているのだ。
 暴れると危険な彼である。一也は一也で後片付けに忙しいので、翠屋に向かわせるのは翔太郎の仕事になる。

「起きろ、ドウコク……おい」
「うるせええええええええええっっ!!」
「お前の方がうるせえっ!! ……あー、まったく、だから酔っ払いは厭なんだよ……」

 大暴れしかねないドウコクを、何とか外道シンケンレッドと引っ張って、これから翠屋に向かい、すぐに冴島邸までワープしなければならない。
 こちらも先が思いやられる状況だ。
 ドウコクに受けた痛みは忘れないが、それでも今は協力するしかない。
 もう少し自分勝手でない男だったならば、どれほどいいか……。

(待ってろ、杏子。もうお前を失望させたりなんかしねぇ。いや、誰かに失望されたまま、俺は終われねぇよ)

 ドウコクをやっとこさ促して、立たせるまでに成功する。
 足元がおぼつかない様子であった。とにかく、物理攻撃をしかけるほど暴れまわらないのが不幸中の幸いだろうか。

(いずれ、コイツとの決着を一緒につけようぜ。俺もすぐに行くからよ)

 酔っ払いの相手などという汚れ仕事がジョーカーのここでの初仕事とは思わなかった。まるで警察官のようである。
 しかし、だからこそ、その仕事は妙に風都の仮面ライダーらしかった。
 再び街を守れる力を手に入れた喜び。
 それを背負っているようであった。






 こちらは沖一也である。
 とにかく、手術が無事成功したからには、他のグループにも報告をしなければならなかった。ホウレンソウはチームでも重要な事で、それを行う術があるのに行わないわけにはいかない。
 たとえ、隠したい事情があるとしても、持っている情報は全て包み隠さず公表するべきだと思う。
 幸いにも、一也の方からは不幸な連絡はない。

「ああ、こっちの手術は成功した。……ああ、それで、そっちはどうなっている?」

 電話は、石堀、暁、ヴィヴィオのチームに発信されたものだ。
 翔太郎は、既にこの場を去り、ドウコクを呼びに行っていた。手術が終わった以上、手際よく冴島邸に向かう準備をしなければならないのだ。

「どうした? 何故、黙っている? 超光騎士はどうしたんだ?」

 考えてみれば、超光騎士はもうとっくに回収されていてもおかしくない頃合いだ。
 何せ、一時間以上も時間が経過しているのである。ここまで時間がかかっているとなれば、それこそ何かトラブルがあったとしか考えられない。
 電流を流す作業によほどの精密性が必要なのか、それとも超光騎士が全く起動しないのか、戦闘に巻き込まれたのか……。
 と思ったが、実際のところ違うらしく、一也の表情は変わった。

「問題?」

 思わず、向こうの言葉に対して訊き返す。
 何か不穏な空気と予感がしたのであった。

「何!? ヴィヴィオちゃんが攫われた!? 一体どういう事だ!! どういう状況になっているんだ!?」

 一也は、思わず向こうの連絡に仰天しそうになった。
 ヴィヴィオが攫われた──というあまりにも酷すぎる事実が一也に突き付けられたのである。どうしてそんな状況になったのかはわからない。
 しかも、こちらの想いとは裏腹に、向こうが明らかに自分たちの不手際を隠す気満々だった事に一也は内心ショックを受ける。

「……そうか、わかった。また後で連絡する」

 とにかく、今は落ち着き、一也は連絡を切った。
 時間がない中でトラブルが立て続き、内心では苛立ちもあるが、起きてしまった事に対して怒りを露わにしても仕方がない。

(バットショットはどうなっている……?)

 一也は、ふとバットショットの事を思い出して画面を動画に切り替えた。
 これを見るのも大事な仕事ではないか。
 バットショットからリアルタイムで送られてくる動画の方も、先ほどの手術のせいでしばらく見られなかった。
 暁たちがあの状況では、バットショットの映像を注視するのは一也たちの仕事になるだろう。今、一番することが少なく、何より主催側に対する考察を行わなければならないのは彼らだ。

「……なっ!!!!!!!!!」

 不意にバットショットの画面に切り替えた一也だが、彼は思わずその画面を見て声をあげた。この状況で、まさかこんな事に……。

(隠さなければならない情報か……)

 一也は理解する。
 なるほど、それも時には必要だ。
 これは、少なくとも、ドウコクにだけは悟られてはならない。
 いや、その為には、他の誰にもなるべく知られないようにしなければならないだろう。



 そこに映っていたのは────


【2日目 朝】
【B-2 志葉屋敷】

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0~2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:なんて事だ……なんて事だ……
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:仮面ライダーZXか…。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
第二回放送ニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、首輪解除、フィリップの死に対する放心状態と精神的ダメージ、切断された右腕に結城のアタッチメント移植、仮面ライダージョーカーに変身中
[装備]:カセットアーム&カセットアーム用アタッチメント六本+予備アタッチメント(パワーアーム、マシンガンアーム+硬化ムース弾、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム/カマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アーム) 、ロストドライバー@仮面ライダーW、ダブルドライバー(破壊)@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(サイクロン、アイスエイジ、支給品外ファング)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、魔導輪ザルバ@牙狼、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×11(翔太郎、スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか、鋼牙、)、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー、サイクロン、ルナ、ヒート)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン、アクセル、クイーン)、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、スタッグフォン+スタッグメモリ(通信機能回復)@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、evil tail@仮面ライダーW、エクストリームメモリ(破壊)@仮面ライダーW、ファングメモリ(破壊)@仮面ライダーW、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト、三影、冴子、結城、零、翔太郎、フィリップ、つぼみ、良牙、鋼牙、孤門、美希、ヴィヴィオ、杏子、姫矢))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」、「月」、「皇帝」、「審判」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼、ランダム支給品1~4(鋼牙1~3、村雨0~1)、翔太郎の右腕
[思考]
基本:俺は仮面ライダーだ。
0:ドウコクを連れて冴島邸に行く。
1:杏子に謝る。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。
※ダブルドライバーが破壊されました。また、フィリップが死亡したため、仮にダブルドライバーが修復されても変身はできません。
※仮面ライダージョーカーとして変身した際、右腕でライダーマンのアタッチメントが使えます。


【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷、ほぼ泥酔状態
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:大量のコンビニの酒
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:仕方がないので一也たちと協力し、主催者を殺す。 もし11時までに動きがなければ一也を殺して参加者を10人まで減らす。
1:マンプクや加頭を殺す。
2:杏子や翔太郎なども後で殺す。ただし、マンプクたちを倒してから(11時までに問題が解決していなければ別)。
3:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問。
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。


【外道シンケンレッド@天装戦隊ゴセイジャーVSシンケンジャー エピックon銀幕】
[状態]:健康
[装備]:烈火大斬刀@侍戦隊シンケンジャー、モウギュウバズーカ@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本:外道衆の総大将である血祭ドウコクに従う。
[備考]
※外見は「ゴセイジャーVSシンケンジャー」に出てくる物とほぼ同じです。
※これは丈瑠自身というわけではありませんが、はぐれ外道衆なので、二の目はありません。


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最終更新:2014年08月29日 21:22