※投稿者は作者とは別人です
166 :外伝(またはパラレル):2008/04/16(水) 12:22:35 ID:OiXF2z220
“ついてない17号”
それが仮装防空艦第17号に与えられたニックネームだった
故が無い訳ではない
進水式では海に向って滑り出そうとしたところで
レールが外れ乾ドックの中で横倒しになった
公試運転では艦長が全速を命じた途端
轟音とともに魔道機関が甲板を突き破り宙に舞い上がった
その後も漁船を沈める
イワシのオイル漬けに当って集団食中毒を起こす
機関長の不倫相手の亭主が腹マイトで乗り込んでくるetc
疫病神に取り付かれたかのごとく航海のたびに
大なり小なりトラブルに見舞われ続けた“ついてない17号”は
第71護送部隊の一翼を担い十三回目となるエスコート任務の最中に
アメリカ軍艦載機の襲撃を受けることになった
「船首ポムポム方位左六十距離八百…撃ち方はじめ!」
船首楼に据えられた八連装魔道銃-通称ポムポム砲-が発砲を開始する
水冷式の太い砲身を上下二列に四本ずつ並べたこの砲は
理論上は完璧な弾幕を構成できるはずだったが
大重量と複雑な機構が災いし極めて頻繁に故障するため
ポムポム砲に射撃を続けさせる唯一の方法は戦闘中に故障が発生しても
その場で修理できるよう砲架の下にレンチとハンマーを持った水兵を
仰向けに寝かせて貼り付けることだとバラムート掌砲長は断言していた
掌砲長の御言葉にも関わらずその日に限って一度も故障する事無く
快調に連射を続けるポムポム砲はF6F一機を撃墜し
すぐに次の標的-左舷から接近してくる雷撃機-に照準を合わせ
ホースで水を撒くように撃ち出される光弾が弧を描いて
「伏せろ!」
大声を発したショーファン艦長が床に身を投げ出すと同時に
金属が打ち抜かれ、引き裂かれ、粉砕される破壊的な音が鳴り響く
顔を上げた一同は目を剥いた
天井が綺麗さっぱり無くなっている
167 :外伝(またはパラレル):2008/04/16(水) 12:23:42 ID:OiXF2z220
全周旋回可能なポムポム砲は旋回盤と引き金を
機械的にリンクさせることによって自艦の上部構造物が射界に入ると
自動的に射撃をストップするようになっているのだが
ケーブルが切れたかカムが折れたか
艦尾を横切る雷撃機を追従する砲火がメインマストを切り飛ばし
船尾楼上構をごっそり削り取っていた
結局“ついてない17号”が受けた被害は自艦の対空火器による
自傷事故を除けば機銃掃射と爆弾の破片による軽症者
そして原因不明の舵の不調だけだった
胸を撫で下ろす艦長のもとにリアムスン副長がやって来る
「どうした?ケツをレイプされたって面だな」
「その通りです」
安心感からつい軽口を叩くショーファンに
これ以上ないというくらいシリアスな顔でリアムスンが報告した
「魚雷が舵に挟まりました、いつドカンといってもおかしくありません」
「なんてこった」
ショーファンは天を仰いだ
「対策は?」
「二~三人潜らせて引っこ抜く、コレしかありません」
かくしてリアムスン副長以下三名の志願者は舵と船尾外版の間に嵌まり込んだ
“暴れん棒”に取り付いた
船上のクーヨン一等水兵の握る命綱に合図が送られると同時に
操舵員の手の中で舵輪が一杯に回る
舵の動きに合わせて僅かに後退した魚雷を三人は渾身の力を込めて押し出した
あっけないほど簡単に外れた魚雷はゆらゆらと漂いながら
弾頭を明後日の方向に向けたところでスクリューが息を吹き返した
「な、なんだって――――――ッ!」
一度完全に停止した魚雷が再び走り出すなどということが起こりうるだろうか?
百人中百人が答えるだろう
あり得ないと
そのあり得ない事態を目の当たりにしたとき人は言う
事実は小説より奇なり
ショーファン艦長らが恐怖に満ちた視線を注ぐなか
白い航跡は左舷に大傾斜し辛うじて浮かんでいる“不屈の21号”に
吸い込まれるように命中した
「アッ――――――――――!?!」
その後“ついてない17号”は“トドメの17号”と呼ばれるように
なったという
168 :外伝(またはパラレル):2008/04/16(水) 12:24:14 ID:OiXF2z220
投下終了
166 :外伝(またはパラレル):2008/04/16(水) 12:22:35 ID:OiXF2z220
“ついてない17号”
それが仮装防空艦第17号に与えられたニックネームだった
故が無い訳ではない
進水式では海に向って滑り出そうとしたところで
レールが外れ乾ドックの中で横倒しになった
公試運転では艦長が全速を命じた途端
轟音とともに魔道機関が甲板を突き破り宙に舞い上がった
その後も漁船を沈める
イワシのオイル漬けに当って集団食中毒を起こす
機関長の不倫相手の亭主が腹マイトで乗り込んでくるetc
疫病神に取り付かれたかのごとく航海のたびに
大なり小なりトラブルに見舞われ続けた“ついてない17号”は
第71護送部隊の一翼を担い十三回目となるエスコート任務の最中に
アメリカ軍艦載機の襲撃を受けることになった
「船首ポムポム方位左六十距離八百…撃ち方はじめ!」
船首楼に据えられた八連装魔道銃-通称ポムポム砲-が発砲を開始する
水冷式の太い砲身を上下二列に四本ずつ並べたこの砲は
理論上は完璧な弾幕を構成できるはずだったが
大重量と複雑な機構が災いし極めて頻繁に故障するため
ポムポム砲に射撃を続けさせる唯一の方法は戦闘中に故障が発生しても
その場で修理できるよう砲架の下にレンチとハンマーを持った水兵を
仰向けに寝かせて貼り付けることだとバラムート掌砲長は断言していた
掌砲長の御言葉にも関わらずその日に限って一度も故障する事無く
快調に連射を続けるポムポム砲はF6F一機を撃墜し
すぐに次の標的-左舷から接近してくる雷撃機-に照準を合わせ
ホースで水を撒くように撃ち出される光弾が弧を描いて
「伏せろ!」
大声を発したショーファン艦長が床に身を投げ出すと同時に
金属が打ち抜かれ、引き裂かれ、粉砕される破壊的な音が鳴り響く
顔を上げた一同は目を剥いた
天井が綺麗さっぱり無くなっている
167 :外伝(またはパラレル):2008/04/16(水) 12:23:42 ID:OiXF2z220
全周旋回可能なポムポム砲は旋回盤と引き金を
機械的にリンクさせることによって自艦の上部構造物が射界に入ると
自動的に射撃をストップするようになっているのだが
ケーブルが切れたかカムが折れたか
艦尾を横切る雷撃機を追従する砲火がメインマストを切り飛ばし
船尾楼上構をごっそり削り取っていた
結局“ついてない17号”が受けた被害は自艦の対空火器による
自傷事故を除けば機銃掃射と爆弾の破片による軽症者
そして原因不明の舵の不調だけだった
胸を撫で下ろす艦長のもとにリアムスン副長がやって来る
「どうした?ケツをレイプされたって面だな」
「その通りです」
安心感からつい軽口を叩くショーファンに
これ以上ないというくらいシリアスな顔でリアムスンが報告した
「魚雷が舵に挟まりました、いつドカンといってもおかしくありません」
「なんてこった」
ショーファンは天を仰いだ
「対策は?」
「二~三人潜らせて引っこ抜く、コレしかありません」
かくしてリアムスン副長以下三名の志願者は舵と船尾外版の間に嵌まり込んだ
“暴れん棒”に取り付いた
船上のクーヨン一等水兵の握る命綱に合図が送られると同時に
操舵員の手の中で舵輪が一杯に回る
舵の動きに合わせて僅かに後退した魚雷を三人は渾身の力を込めて押し出した
あっけないほど簡単に外れた魚雷はゆらゆらと漂いながら
弾頭を明後日の方向に向けたところでスクリューが息を吹き返した
「な、なんだって――――――ッ!」
一度完全に停止した魚雷が再び走り出すなどということが起こりうるだろうか?
百人中百人が答えるだろう
あり得ないと
そのあり得ない事態を目の当たりにしたとき人は言う
事実は小説より奇なり
ショーファン艦長らが恐怖に満ちた視線を注ぐなか
白い航跡は左舷に大傾斜し辛うじて浮かんでいる“不屈の21号”に
吸い込まれるように命中した
「アッ――――――――――!?!」
その後“ついてない17号”は“トドメの17号”と呼ばれるように
なったという
168 :外伝(またはパラレル):2008/04/16(水) 12:24:14 ID:OiXF2z220
投下終了