8月12日、午前8時 サイフェルバン南飛行場
ここサイフェルバン南飛行場には陸軍第790航空隊が、急造された滑走路の脇に
所属機をずらりと並べていた。この日は雨だった。
「では、ちょっと司令部に行ってくる。」
航空隊司令官のビリー・ゲイガー大佐がそう言って、サイフェルバンの中央にある
司令部に出かけていった。
その光景を、愛機のB-25を機内で点検しながら見ていたポール・フランソワ大尉は、
後ろにいるドイツ系アメリカ人のトニー・バイエルン軍曹に声を掛けた。
バイエルン兵曹は新人で背が低いために、仲間からはちびのトニーとあだ名されている。
「なあトニー。最近おかしくないか?」
「え?何がっすか?」
「航空隊司令さ、5日前から3回も司令部に出かけている。この間はずっと指揮所に
張り付いていたのに、ここ数日はずっとおでかけだ。」
「そういえば、何か多いですよね。」
バイエルン軍曹は首をひねる。だが、歴戦の猛者であるフランソワ大尉は自信ありげに言った。
「トニー、もしかしたら、近いうちに俺たちの出番があるかも知れんぞ。」
「なぜ分かるんです?」
「まあ、俺が今考えたんだが、作戦前には必ず高級将校があちらこちらに飛び回るもんなんだ。
高級将校がそこらに飛び回るとしたら、次に来るのは作戦だ。ダンピール海峡の爆撃作戦でもそうだった。」
フランソワ大尉は、1942年に陸軍飛行中尉として前線任務についた。
8月になると、フランソワは南西太平洋軍所属のカクタス航空隊に配属され、B-26に乗って日本軍と渡り合った。
ここサイフェルバン南飛行場には陸軍第790航空隊が、急造された滑走路の脇に
所属機をずらりと並べていた。この日は雨だった。
「では、ちょっと司令部に行ってくる。」
航空隊司令官のビリー・ゲイガー大佐がそう言って、サイフェルバンの中央にある
司令部に出かけていった。
その光景を、愛機のB-25を機内で点検しながら見ていたポール・フランソワ大尉は、
後ろにいるドイツ系アメリカ人のトニー・バイエルン軍曹に声を掛けた。
バイエルン兵曹は新人で背が低いために、仲間からはちびのトニーとあだ名されている。
「なあトニー。最近おかしくないか?」
「え?何がっすか?」
「航空隊司令さ、5日前から3回も司令部に出かけている。この間はずっと指揮所に
張り付いていたのに、ここ数日はずっとおでかけだ。」
「そういえば、何か多いですよね。」
バイエルン軍曹は首をひねる。だが、歴戦の猛者であるフランソワ大尉は自信ありげに言った。
「トニー、もしかしたら、近いうちに俺たちの出番があるかも知れんぞ。」
「なぜ分かるんです?」
「まあ、俺が今考えたんだが、作戦前には必ず高級将校があちらこちらに飛び回るもんなんだ。
高級将校がそこらに飛び回るとしたら、次に来るのは作戦だ。ダンピール海峡の爆撃作戦でもそうだった。」
フランソワ大尉は、1942年に陸軍飛行中尉として前線任務についた。
8月になると、フランソワは南西太平洋軍所属のカクタス航空隊に配属され、B-26に乗って日本軍と渡り合った。
その後、ダンピール海峡海戦やニューギニアの爆撃作戦にも参加し、今では第790航空隊
でも屈指のベテランパイロットとして知られている。
フランソワ大尉の左頬には痛々しい傷跡がある。その傷跡は、ニューギニアで日本軍の戦闘機、
隼の機銃弾でつけられた傷である。
その後、なんとか基地まで辿り着いたものの、機体はひどく損傷し、後日廃棄されている。
搭乗員は彼と2人が生き残った。
44年4月に第790航空隊に転属になり、4月29日にクェゼリン環礁の飛行場に配属となった。
そしてこの召喚に巻き込まれたのである。
召喚された当初、陸軍航空隊の乗員たちは口々に召喚した魔道師たちを罵った。フランソワも、
「所詮、剣と盾しか使わん奴らに、俺たちが出て行く必要が無い。元の世界のほうが危険だが100倍ましだ。」
と、皮肉を言ったものだ。
しかし、バーマントという敵は意外に発展した国で、航空機や強力な軍艦で、第5艦隊の
新鋭軽巡や新鋭戦艦などを相手に猛然と戦いを挑んでいる。
陸軍航空隊も、戦闘機主体の第774航空隊が王都上空戦で敵飛空挺集団を相手に
暴れ回って全滅させる快挙を上げた。
それに対し、召喚した側のヴァルレキュアは、文字通り剣と盾が主体で、文字通り中世の軍隊を持っているに過ぎない。
大砲は装備しているが、威力はバーマント軍の砲に劣る。
銃器の開発も急いでいるというが、こっちはまだ実用化のメドに至っていない。
あらゆる点でバーマントに遅れを取っているが、軍はとても精強で、少ない兵力にも関わらず装備に
勝る大国バーマントを四苦八苦させている。
この事には誰もがバーマントを賞賛している。
それはともかく、陸軍航空隊の爆撃機乗り達は内心不満だった。
主に活躍しているのは第58任務部隊や護衛空母の航空隊ぐらいで、陸軍航空隊はあまり敵と戦っていない。
唯一、B-24爆撃隊によるララスクリス、クロイッチ空襲が1回だけあったほどで、
あとは基地で座学やイメージトレーニングなどの訓練に勤しんでいるだけであった。
だが、その悶々とした日々も終わるかもしれない。フランソワ大尉はそう思ったのだ。
でも屈指のベテランパイロットとして知られている。
フランソワ大尉の左頬には痛々しい傷跡がある。その傷跡は、ニューギニアで日本軍の戦闘機、
隼の機銃弾でつけられた傷である。
その後、なんとか基地まで辿り着いたものの、機体はひどく損傷し、後日廃棄されている。
搭乗員は彼と2人が生き残った。
44年4月に第790航空隊に転属になり、4月29日にクェゼリン環礁の飛行場に配属となった。
そしてこの召喚に巻き込まれたのである。
召喚された当初、陸軍航空隊の乗員たちは口々に召喚した魔道師たちを罵った。フランソワも、
「所詮、剣と盾しか使わん奴らに、俺たちが出て行く必要が無い。元の世界のほうが危険だが100倍ましだ。」
と、皮肉を言ったものだ。
しかし、バーマントという敵は意外に発展した国で、航空機や強力な軍艦で、第5艦隊の
新鋭軽巡や新鋭戦艦などを相手に猛然と戦いを挑んでいる。
陸軍航空隊も、戦闘機主体の第774航空隊が王都上空戦で敵飛空挺集団を相手に
暴れ回って全滅させる快挙を上げた。
それに対し、召喚した側のヴァルレキュアは、文字通り剣と盾が主体で、文字通り中世の軍隊を持っているに過ぎない。
大砲は装備しているが、威力はバーマント軍の砲に劣る。
銃器の開発も急いでいるというが、こっちはまだ実用化のメドに至っていない。
あらゆる点でバーマントに遅れを取っているが、軍はとても精強で、少ない兵力にも関わらず装備に
勝る大国バーマントを四苦八苦させている。
この事には誰もがバーマントを賞賛している。
それはともかく、陸軍航空隊の爆撃機乗り達は内心不満だった。
主に活躍しているのは第58任務部隊や護衛空母の航空隊ぐらいで、陸軍航空隊はあまり敵と戦っていない。
唯一、B-24爆撃隊によるララスクリス、クロイッチ空襲が1回だけあったほどで、
あとは基地で座学やイメージトレーニングなどの訓練に勤しんでいるだけであった。
だが、その悶々とした日々も終わるかもしれない。フランソワ大尉はそう思ったのだ。
「近いうちに何かあるな。」
「何かですか・・・・・例えば、どこぞの大きなダムを吹っ飛ばすとかですか?」
「スキップボミングでか?」
「そうです。最近敵さんもスキップボミングを活用して、海軍の駆逐艦や軽巡、空母
を痛めつけたそうです。なんか敵に持ち技をパクられたような気がして、仕方がないと思うんすよ。」
「俺も同感だね。まあ、バーマントはあの技を自分で開発したのだろうが、ここはいっちょ
本家の技を敵さんに見せたいものだな。本物のスキップボミングを。といっても、
何を攻撃するか分からんから、スキップボミングを見せられんと思うがね。」
フランソワ大尉はぶすりとした口調で言った。だが、近々出撃があるのは間違いないだろう。
フランソワはそう確信しながら、計器の点検を続けた。
「何かですか・・・・・例えば、どこぞの大きなダムを吹っ飛ばすとかですか?」
「スキップボミングでか?」
「そうです。最近敵さんもスキップボミングを活用して、海軍の駆逐艦や軽巡、空母
を痛めつけたそうです。なんか敵に持ち技をパクられたような気がして、仕方がないと思うんすよ。」
「俺も同感だね。まあ、バーマントはあの技を自分で開発したのだろうが、ここはいっちょ
本家の技を敵さんに見せたいものだな。本物のスキップボミングを。といっても、
何を攻撃するか分からんから、スキップボミングを見せられんと思うがね。」
フランソワ大尉はぶすりとした口調で言った。だが、近々出撃があるのは間違いないだろう。
フランソワはそう確信しながら、計器の点検を続けた。
8月13日 午後4時
この日の夕刻、魔道師のレイム・リーソンが、リリアとマイントを連れてインディアナポリスにやってきた。
3人は作戦室に案内された。作戦室には第5艦隊司令長官であるスプルーアンスとその幕僚、
それに第58任務部隊司令官ミッチャー中将とバーク参謀長が座っていた。
「かけたまえ。」
スプルーアンスは空いている3つの席に座らせた。
「さて、本題に入ろう。君たちが呼ばれたのは、ある事を確認しようと思ったからだ。」
「ある事とは、元の世界に帰る方法・・・・・ですね?」
レイムがそう聞くと、スプルーアンスは頷いた。
「そうだ。リーソン魔道師、何か方法はあるかな?」
その問いに、リーソンは待ってましたとばかりに口を開いた。
「方法はあります。私はここ2ヶ月間、召喚魔法を応用した帰還魔法の基礎を開発していました。
開発には私と他の魔道師で行いました。現在、工程は3割がたが終わっています。」
この日の夕刻、魔道師のレイム・リーソンが、リリアとマイントを連れてインディアナポリスにやってきた。
3人は作戦室に案内された。作戦室には第5艦隊司令長官であるスプルーアンスとその幕僚、
それに第58任務部隊司令官ミッチャー中将とバーク参謀長が座っていた。
「かけたまえ。」
スプルーアンスは空いている3つの席に座らせた。
「さて、本題に入ろう。君たちが呼ばれたのは、ある事を確認しようと思ったからだ。」
「ある事とは、元の世界に帰る方法・・・・・ですね?」
レイムがそう聞くと、スプルーアンスは頷いた。
「そうだ。リーソン魔道師、何か方法はあるかな?」
その問いに、リーソンは待ってましたとばかりに口を開いた。
「方法はあります。私はここ2ヶ月間、召喚魔法を応用した帰還魔法の基礎を開発していました。
開発には私と他の魔道師で行いました。現在、工程は3割がたが終わっています。」
レイムの答えに、米側一同からほっとするようなため息が漏れた。
レイムらが来る前に、彼らはもし彼女が帰る方法が無いと応えていたらどうなったかと色々討議していた。
まず第1案がバーマントを攻略した後、バーマントの領土を一部割譲してそこに新たな国家を作るか。
第2案がヴァルレキュアの庇護の下にそのままそこに住み着くか。
しかし、珍しいことにどっちの案でも結論は見出せなかった。そうして延々と話し合っている
うちにレイムらが来たのである。
「現状でいくと、帰還魔法の完成には早くて4ヶ月、普通で行くとあと半年かかります。」
「そうか。」
彼女の言葉を聞いて、スプルーアンスは満足そうな表情を浮かべた。
「君たちの努力に、私が全米軍を代表して礼を言う。ありがとう。」
スプルーアンスはわずかに頭を下げた。
(これで兵の士気もなんとか保つことができる)
スプルーアンスは、ここ最近兵の士気が落ちてきているという話を聞いている。
士気は依然高いものの、中にはこの戦争に悲観的な感じを抱くものも少なくない。
だが、これからは違う。帰る方法は確実にあるのだ。
レイム達には多大な負担を掛けることにはなるが、それでも頑張ってもらうしかない。
「ちょっと聞きたいことがあるのだが」
その時、ミッチャー中将が声を上げた。
「君たちの製作する帰還魔法だが、その魔法というものは元の時間、つまり召喚された5月の時点
に戻るのかね?」
ミッチャーの問いにレイムは表情を曇らせた。
「実は、元の時間に戻すのは、はっきり言って不可能です。」
レイムらが来る前に、彼らはもし彼女が帰る方法が無いと応えていたらどうなったかと色々討議していた。
まず第1案がバーマントを攻略した後、バーマントの領土を一部割譲してそこに新たな国家を作るか。
第2案がヴァルレキュアの庇護の下にそのままそこに住み着くか。
しかし、珍しいことにどっちの案でも結論は見出せなかった。そうして延々と話し合っている
うちにレイムらが来たのである。
「現状でいくと、帰還魔法の完成には早くて4ヶ月、普通で行くとあと半年かかります。」
「そうか。」
彼女の言葉を聞いて、スプルーアンスは満足そうな表情を浮かべた。
「君たちの努力に、私が全米軍を代表して礼を言う。ありがとう。」
スプルーアンスはわずかに頭を下げた。
(これで兵の士気もなんとか保つことができる)
スプルーアンスは、ここ最近兵の士気が落ちてきているという話を聞いている。
士気は依然高いものの、中にはこの戦争に悲観的な感じを抱くものも少なくない。
だが、これからは違う。帰る方法は確実にあるのだ。
レイム達には多大な負担を掛けることにはなるが、それでも頑張ってもらうしかない。
「ちょっと聞きたいことがあるのだが」
その時、ミッチャー中将が声を上げた。
「君たちの製作する帰還魔法だが、その魔法というものは元の時間、つまり召喚された5月の時点
に戻るのかね?」
ミッチャーの問いにレイムは表情を曇らせた。
「実は、元の時間に戻すのは、はっきり言って不可能です。」
彼女はその後、理由を長々と説明した。レイムの話によると、召喚された時の日付は5月。
今は8月である。仮に今帰るとしても、元の召喚された時間には戻ることができず、
現世界でも時間の進んだ時間にしか戻れないのである。
例を挙げれば、1944年5月に召喚され、異世界で半年を過ごしたとする。
そうすると、異世界から戻るときは、現世界の半年後、つまり1944年11月に戻るというわけだ。
これはいくらレイムらでもどうしようもなく、第5艦隊幕僚は、ややがっがりした。
(しかし、ようやく道が開けてきた。バーマント国内には、ジュレイ中将の言う革命グループも
存在しているという。我々は確実に、この戦争を終わりに導くことができる。そして、元の世界に戻ることができる。)
そうスプルーアンスは確信した。
その後も、今後の作戦内容などについて、2時間ほど彼らは話し合った。
今は8月である。仮に今帰るとしても、元の召喚された時間には戻ることができず、
現世界でも時間の進んだ時間にしか戻れないのである。
例を挙げれば、1944年5月に召喚され、異世界で半年を過ごしたとする。
そうすると、異世界から戻るときは、現世界の半年後、つまり1944年11月に戻るというわけだ。
これはいくらレイムらでもどうしようもなく、第5艦隊幕僚は、ややがっがりした。
(しかし、ようやく道が開けてきた。バーマント国内には、ジュレイ中将の言う革命グループも
存在しているという。我々は確実に、この戦争を終わりに導くことができる。そして、元の世界に戻ることができる。)
そうスプルーアンスは確信した。
その後も、今後の作戦内容などについて、2時間ほど彼らは話し合った。