自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

72 外伝06

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1098年10月4日 午前10時
バーマント陸軍第77歩兵師団は、先頭の第1連隊をまずカウェルサントに向け、出撃させた。
第1連隊は2500人の将兵から成っている。彼らは3日の夜にヌーメアを出発した後、ひたすら東に向かった。
連隊は大きく3つの方向に別れ、それぞれの大隊が距離1キロの間隔を取って進撃を続けている。
カウェルサントの西10キロには、革命側の防御陣地があると報告されている。
第1連隊の連隊長であるイアム・ワフィムル大佐は、そこからさらに西北3キロにある高さ70メートルの
高地に砲兵中隊を布陣させ、準備砲撃の後に部隊を突入させようと考えた。
午前10時にはカウェルサントまで18キロの位置に到達した。
左翼(北側)の第3大隊に所属する砲兵中隊は、ポールレントと名づけられた目標の高地へ向かうため、2個小隊に護衛されながら部隊から離れた。

午後2時40分 ポールレント高地
砲兵中隊は、開けた高地に大砲の砲列を敷き終えた。

「ヴィキク大尉、砲の設置が完了いたしました。」

砲兵中隊の中隊長であるヌクキュビ・ヴィキク大尉はそれを聞いて、満足そうな表情を浮かべた。

「素晴らしい。さすがはベテランの砲兵部隊だ。動きがいい。」
「ありがとうございます。これも日々の訓練の賜物です。」
「さて。森の陣地でうずくまっている革命派の連中に渇を入れよう。砲撃準備用意!」

彼の号令が高地に木霊する。
砲兵中隊の各将兵は、急ぎで行われた設置作業に疲労の表情を浮かべていたが、
その疲れが吹き飛んだかのように、素早く動いた。
彼らが操作する大砲は、13センチ口径のKIB-21と呼ばれる砲である。
この大砲は砲身の全長が5メートルで、砲弾を9キロ先まで飛ばす事が出来る。

このKIB-21は、東海岸にも配備され、サイフェルバン奪還作戦の時には地上部隊と、
要塞に配置された砲がアメリカ軍の砲兵部隊や、第5艦隊の砲撃部隊と撃ち合っている。
砲はKIB-21だけではなく、KIB-12と呼ばれる7センチ砲も配備されている。
この7センチ砲も7.2キロ先の敵を撃つ事が出来る。
KIB-21が6門、KIB-21が8門。計14門の大砲が、3キロ先の革命派の陣地に照準を合わせている。
最も、森に覆われているため、大体の位置しかつかめていない。
そのため、この砲撃はめくら撃ちに近い形となる。
それでも、割り当てられた区域を満遍なく叩けば、敵陣地にも被害を与えられると、ヴィキク大尉は確信していた。
それぞれの砲に、50発の砲弾と適量の装薬が割り当てられる。
各砲には4~6人の兵がつき、砲弾の補充や照準を合わせている。
そして10分が過ぎた。

「大尉。砲撃準備が完了いたしました。」
「よし、撃て!」

ヴィキク大尉は鋭い声音で命じる。直後、14門の大砲が一斉に火を噴いた。
やや間を置いて、3キロ先の森に白煙や黒煙が吹き上がった。
待機していた装填係がすかさず行動し、合図と共に砲弾を込め、装薬を放り込んだ。

ドオン!ドオン!
砲声が断続的に聞こえてくる。
「砲撃を始めたな。」
砲兵中隊の護衛を行っている小隊の兵士は呟いた。
彼は疲れていた。何故疲れているのかと言うと、彼も砲の設置作業に加わったためだ。
ヴィキク大尉は、自分達の中隊のみならず、警護の兵をも無理矢理動員して設置を急がせた。

そのため、比較的短い時間で設置は終わったものの、警護役である2個小隊の将兵達は疲れていた。
作業終了後、ヴィキク大尉に対する不満の声が、2個小隊の兵達から上がったのは言うまでも無い。

「攻撃開始まで、あと30分もあるというのに、そんなに早く攻撃する必要があるのかねえ」

兵士は苦りきった表情でそう言った。
砲兵中隊指揮官であるヴィキク大尉は、兵達からは出世欲しか無い将校とみなされている。
ヴィキク大尉はその通りの人物である。
他の上官や同僚に取り入っては、対立している者の秘密をばらして失脚させ、自分がその階級に進級する、と言う事が2度もあった。
本来ならば、彼は少尉、良くても中尉のはずなのだ。
なぜか世渡り上手のヴィキクは、23歳の時に少尉だったのに、26歳の今では大尉の階級を得ている。
彼に関する悪い噂はこれだけではない。
彼は気に入らない部下を見ると、何時間もネチナチと、言葉でいたぶるのである。
粘着塗料のようにいつまでも文句を言われた兵は、説教が終わる頃には、その日一日、心が荒れ果てて、後の業務に支障をきたしている。
この事から、ヴィキク大尉は部下達から影で“粘着荒らしのヴィキク”という不名誉なあだ名を頂戴している。
だから、2個小隊の兵達が最初に文句を言わなかったのは、“粘着荒らし”に逢わないようにするためである。
その部下達から嫌われているヴィキクの砲兵中隊は、革命派の陣地に向けて、盛んに大砲を撃ちまくっている。
最も、この砲撃は脅しの目的であるため、さしたる効果は与えられないだろうと誰もが思っていた。

「ヴィキク大尉が、東海岸戦線に投入されてれば、あの砲兵中隊の奴らも不幸な目に会わずに済んだのに。別の部隊でよかったもんだ。」

微かな幸せをかみ締めているその時、いきなり背後から誰かに羽交い絞めにされた。

「うっ!―――――――――――――!」

口を押さえられて言葉が発せない。顔は強引にやや右に向けられている。

その視線の先には、戦闘帽を被った犬耳の女、いや、冷酷な殺戮者の顔があった。
次の瞬間、首に激痛が走ったかと思うと、女の後頭部が視界に入った。
(首とは、こんなにも回せるものなんだな)
彼が意外な関心を思ったとき、視界は真っ暗になった。
敵兵の首をへし折ったイメインは、それが息絶えた事を確認すると、姿勢をかがめ、手をあげた。
後ろから9人の仲間たちが続々と出てきた。
仲間達が反ろうと、イメインは静かな声音で話し始めた。

「ここから400メートル行った所に、敵の砲兵陣地があります。ここの見張りはこの死体だけですが、陣地に近づくにつれて厳重です。」
「厳重か。それなら、暴れ甲斐があるというものだ。」

オイルエン大尉は、午前5時ごろにカウェルサントを出た後、他の班と共にこの高地に向かった。
現在、この高地には40名の撹乱部隊がおり、それらが攻撃開始の合図を、所定の位置でじっと待っている。

「敵戦力は、砲兵1個中隊に歩兵2個小隊です。見た限りでは、見張りの2個小隊は作業の疲れが
完全に取れてはおらず、注意も散漫になっています。」
「それなら、やりやすくていい。みんな、いいか?」

彼は振り返って言う。誰もが早くしてくれといわんばかりの表情だ。

「よし、各員、散開して敵を仕留めろ。以上!」

オイルエン大尉はたったそれだけを言うと、皆がどこかに散らばっていった。
イメインは振り返り、そのまま、まっすぐ歩いた。
彼女は2メートルほどの高さの岩に隠れた。そして、そっと見てみる。
20メートル右方向の木に2人。その10メートル先に2人がいる。
警備らしい警備は行っていない。それどころか、談笑さえしている。

(お気楽なものね・・・・・・・でも)
彼女は越の革ベルトから、4本のダガーを取り出した。刃渡りが10センチの投擲用の刃物だ。
岩に背を預け、一呼吸する。
刹那、彼女は岩から右横に飛び出した。
(それが命取りとなる!)
両手に2本ずつ持ったダガーが、右手、次に左手から放たれた。
気楽な表情で談笑をしていた男性兵2人が、彼女を見て呆然とする。その首もとや、顔面にダガーは容赦なく突き刺さった。
目標奥深く突き刺さったダガーは、目標に対して致命傷を与えた。30メートル先の別の2人にも、胸や腹にダガーが突き刺さった。
気の側に居た2人は即死であったが、第2目標の2人のうち、1人は致命傷とならなかった。
すかさず走り寄る。腹にダガーを突き立てられた兵士は、しばらくは何も叫べなかったが、イメインが近づくなり、絶叫を上げようとした。
しかし、それよりも早くイメインが寄ってきて、喉もとをナイフで切り裂く。
兵士は吹き出る血を抑えようと、喉もとを両手で押さえて、のた打ち回ったが、その行動は結果的に実らなかった。

ダガーが突き立てられて2分後に、その兵士は出血性ショックで死亡した。
彼女はすぐに次の行動に移る。
土手を越えると、なだらかな斜面があり、その下に10人ほどの兵士が散らばって警備にあたっている。
最初の1人に目をつけたイメインは、背中にかけていた小銃を手に取り、狙いをつける。
うつ伏せに姿勢をとり、目標に照準を合わせる。
パーン!という音が鳴り、60メートル先で彼女に背を向けていた男性兵が、銃弾を受け、胸から血を噴き出した。
残りが銃声に反応し、あたりを見回そうとする。イメインは2人目の女性兵に照準を代え、銃弾を放つ。
銃弾は見事に額に命中し、後頭部を吹き飛ばした。
わずか6秒で2人も打ち倒された敵側は、その場に伏せる。
そのため、イメインの3発目の銃弾は、3人目に当たることなく、空しくかわされた。

「あそこだ!あの土手の上を撃て!」

彼女が狙った、指揮官らしき男がそう叫ぶと、残りが一斉に小銃を撃ってきた。

イメインは上げていた頭を下げる。銃弾の唸り声がいくつも近づいては過ぎ去っていく。
銃弾が土手の下側に着弾し、土を跳ね上げた。
姿勢を起こして、彼女は4弾目を撃った。銃弾は指揮官の手前に着弾した。

「これはちょっと不利ね。」

そう呟いた彼女は、土手の後ろに転がりながら、その場を離れた。

「敵が居たぞ!逃がすな!!」

殺気立った声が聞こえてくる。それを無視して、イメインは土手より数メートル後方の木に隠れた。
隠れる間に、予備弾薬袋から銃弾2発を補充する。
土手の上に2,3人の敵兵が現れた。素早く木陰から姿を現し、その2、3人に向けて5発全弾を叩き込んだ。
半ば乱射に近い撃ち方だったが、それでも2人を射殺した。

「野郎!ぶち殺してやる!」

逆上したもう1人が小銃を撃って来る。イメインは鮮やかな動作で左に避ける。
避けると同時に、10メートル手前の相手に1本のダガーを放った。
惜しくも敵兵の顔を掠めただけであったが、相手は射撃を中断した。
(今だ!)
彼女は敵に走り寄った。あっという間に相手と目と鼻の先にまで接近する。

「は、はや」

言葉を続ける間もなく、小銃の銃床で叩き倒された。倒した後に、相手の喉に、ナイフで赤い線を一本引く。

すぐ目の前に、先の指揮官らしき男が現れた。
いきなりの遭遇に、敵が顔を歪ませる。その横っ面に回し蹴りを叩き込んた。
蹴り飛ばした時、ゴリッといういやな音が鳴ったが、けり倒された指揮官は、首をあらぬ方向に曲げていた。
土手のすぐ下には彼の部下達が迫っていた。一番後ろにいる敵兵でも、6メートルと離れていない。
やや密集する形で向かっていた。
(距離が近すぎる。弾を込める時間が無いね。ならば)
そう思った彼女は、あろう事か、自分の小銃を放り投げた。
そして左に落ちていた指揮官の小銃を拾って、まず先頭の敵兵を射殺する。
弾は2発しか入っていなかったため、すぐに弾切れとなった。
2人目に弾切れの小銃を投げる。銃を撃とうとしていた2人目は、慌てて避ける。
しかし、次に銃を構えた時、イメインは長剣を抜き放って、2人目を右下腹から逆袈裟に切り捨てた。
悲鳴が上がり、鮮血が迸る。イメインは帰り血を浴びるが、それを気に留めない。
残りが慌てて小銃を撃って来る。しかし、当てずっぽうに撃ちまくるため、素早い動きを繰り返すイメインに掠りもしない。

「うわ!来るな!!」

悲鳴じみた声が上がったが、それに構わず、彼女は3人目の首を切り落とした瞬間、素早くダガーを抜き、
1メートル離れた4人目に投げた。それは敵兵の右目に命中した。

「ぎゃあああー!」

激痛のあまり、小銃を離して刺さったナイフを抜こうとしたが、それは出来なかった。
4人目は腹に深い斬撃を叩き込まれ、鮮血を振りまいてうつ伏せに倒れた。
最後の5人目は、イメインの人間業とは思えない攻撃に臆したのか、慌ててその場から逃げようとしている。
彼女は、4人目の銃を取ると、それを5人目に向けた。

パン!パン!パン!パン!
弾倉に残っていた銃弾全てを叩き出し、内3発が背中に命中する。
背に3つの穴を開けられた敵兵は、痛みに呻きながら、うつ伏せに倒れた。
辺りの敵兵は、これで全部だった。

「掃除完了。」

そう言って、彼女は小銃を捨てて、倒れた5人目のとこに向かう。
5人目は若い男性兵だった。その敵兵が持っていたものは小銃ではなく、7ミリ口径の機関銃だった。

「こいつが腰抜けじゃなかったら、今頃は苦戦を強いられてた。」

抑揚の無い声でそう呟くと、イメインは息絶えた5人目から機関銃と予備弾薬を取り上げた。
イメインは、上半身が返り血で真っ赤に染まっており、まるで血に飢えた狼のようである。
砲撃開始から4分が経っていた。砲兵中隊は、徐々に着弾を南にずらしつつ、砲撃を続行していた。
砲声の合間に、銃声のようなものが聞こえてきた。

「おい!今銃声が聞こえなかったか?」
「銃声ですか?」

ヴィキク大尉は、隣の副官に聞いたが、副官は銃声を聞いていないようだった。
「あれは確かに銃声のような」

ドーン!という砲声が言葉を中断させた。
(気のせいか・・・・・・ここは敵の戦線から離れている。それに敵はたったの3000人弱しかいない。
革命派が攻勢にでるなんぞ、夢のまた夢だな)

そう思うと、彼は笑みがこぼれてきた。
とりあえず、今自分達がやるべき事は、この砲兵中隊の砲撃で、できるだけ敵を叩いて、
味方歩兵部隊の作戦をやりやすくする事だ。

(余計な考えはせず、今は自分の仕事に専念すべきだな)
そう思った彼だったが、どこからともなく、タン!タン!という銃声のようなものが聞こえた。

「・・・・・・そんなはずは。」

ヴィキク大尉はある考えに思い立ったが、とても信じられるものではない。
しかし、次の瞬間、後ろから爆発音が轟いた。
突然の、思わぬ方向からの異音に、誰もがぎょっとなって動きをやめた。
砲撃が中断され、あたりが静かになる。
だが、完全には静かにならない。
なぜかと言うと、後方で警備のため布陣していた2個小隊の方角から、間断なく銃声や爆発音が響いてたからだ。
その時、ぼろぼろになった警備小隊の兵士が、息も絶え絶えにヴィキク大尉のもとに現れた。
若い兵士の傷はかなり酷く、右目からは血が流れ、左腕は半ば千切れ、左胸と脇腹に銃創があった。

「て、敵が現れました。数は不明。自分達の部隊は・・・・奇襲にあって・・・・全・・・め・・・つ」

その兵士は力尽きて倒れてしまった。副官がその兵の脈を計る。しばらくして、副官はヴィキクに顔を向け、首を横に振った。

「敵襲だ!敵が後方に居るぞ!」

ヴィキク大尉は、すぐに叫んだ。その声を聞いた砲兵中隊の将兵達が、携行武器を引っさげて、応戦しようと、敵が居ると見られる後方に向かおうとした。
この時、警備の2個小隊は、革命派の撹乱部隊の奇襲を受けてしまった。
油断していた警備部隊は、手練ばかりの撹乱部隊の奇襲の前に混乱に陥り、次々と討ち取られてしまった。
革命派は40名ほどの部隊を各地に分散し、タイミングを見計らった上で攻撃を開始したのである。

革命派の思惑は見事に当たり、継戦派の部隊は面白いように次々と倒されていった。
そして、ヴィキク大尉が命令を発したタイミングもまずかった。
砲兵中隊の兵達が、小銃を手に増援に向かおうとした時、いきなり4人の人影が現れた。

「継戦派の連中だ!撃ちまくれ!」

オイルエン大尉は、部下にそう命じると、機関銃、小銃が一斉に火を噴いた。
パン!パン!ドドドドド!
2種類の銃声が重なり合い、曳光弾が走り寄ろうとしていた砲兵中隊の兵達に注がれる。
何の遮蔽物も無い所で、小数とはいえ銃の乱射を受けたのだからたまらない。
たちまち、7人の敵兵が打ち倒された。
残りの敵兵はその場に伏せて、小銃を撃ってきた。慌てて撃ったとはいえ、敵兵は40人以上いる。
つまり向ける銃口もこちら側の10倍である。

「マルファ!」
オイルエン大尉はマルファの名を呼ぶ」

頷いた彼女は、小銃を側において何かを唱え始める。
それが少しだけ続いた時、彼女はいきなり飛び出した。

「焼き払え!」

マルファは両手を前に出した。両手からは、なんと炎が噴き出し、それが40メートル手前で伏せていた敵兵達を薙いだ。
半数の兵が炎に包まれ、20の人型の炎が出来上がった。

「砕け散れ!」

マルファはそう言い放つと、彼女から何か青白い光が発せられ、敵兵達の目の前に突き刺さった。
と見た瞬間、ダーン!という轟音が鳴り響き、爆炎と土砂が吹き上がった。
火達磨になってのた打ち回る敵兵も、炎の惨禍を逃れた敵兵も、これに吹き飛ばされる。

「大尉!」

マルファは鋭い声音でそう言った。3人はすぐに小岩から飛び出し、銃を乱射した。
逃げ惑っていた敵兵のうち、3人がこれに叩き伏せられた。

「おい、あれを狙え!」

オイルエン大尉は、とあるものを指差した。100メートル手前にある大砲の側に、弾と装薬が積まれている。

「わかりました!」

マルファは威勢のいい返事で叫んだ後、飛んでくる銃弾を気にせずに呪文を詠唱。そして

「雷よ、敵を砕け!」

その瞬間、先と放たれたような青白い光が構えられた両手から発せられる。
しかし、その光は先のものとは、太さが違っていた。
青白い“雷”は、寸分たがわずに大砲の右側の弾薬置き場に当たった。
その次の瞬間、ズダアーン!というまさに雷のような大音響が鳴り響いた。
オイルエン大尉らはその場に伏せる。爆風が音を立てて背中の上を駆け巡っていく。
砲弾の誘爆は、13センチ砲を大きくひしゃげさせ、さらに隣の砲の弾薬置き場をも誘爆させ、新たな破壊を起こさせた。
ヴィキク大尉は、青白い光が見えた直後、すぐに斜面を降りようとしたが、大爆発に巻き込まれてバラバラになってしまった。

その時、第3大隊はポールレント高地より南東1キロの所で陣を張っていた。

「予定30分前から砲撃を始めるとは、ヴィキクの奴はかなり仕事熱心だな。」

天幕の中で部下と雑談を交わしていたワフィルム大佐は、砲兵中隊の砲撃に対して、そのような感想を漏らした。

「そのヴィキク大尉ですが、あまり彼の評判は良くないようです。」
「奴の評価なら聞いている。気に入らない部下に対する粘着ぶりはすごいそうだな。」
その刹那、ドーンという腹に応えるような音が聞こえた。
「・・・・・・今の聞こえたか?」
「ええ。聞こえました。」

ワフィルム大佐はさっと血の気が引いたような顔になり、すぐに天幕から飛び出した。
彼らが布陣している場所は、ポールレント高地が見える所にある。
大佐はその高地を見・・・・・・そして肩を落とした。
高地が黒煙に包まれている。左側から爆発が起こり、火炎と砲の破片らしきものが噴き上がる。

「まずったな。」

ワフィルム大佐はそう呟いた。

「連隊長!ヴィキク砲兵中隊より魔法通信です!」
「今入ったばかりか?」
「はい。内容は・・・・敵発見、兵・・・・・これだけです。」
「たったのそれだけ!?」
「そうです。恐らく、敵の兵に討ち取られたか・・・・・」
「あるいは、爆発に巻き込まれたか、どちらかだな」

ワフィルム大佐は、黒煙が噴き上がるポールレント高地を顎でしゃくった。

「ああ・・・・あ・・・・・」

仕留めた敵兵が、苦しそうに体を震わせる。敵兵の首には、イメインの右腕が巻かれている。
右腕さえ解けば、命は    助からない。
なぜか?答えは簡単である。右腕は首に巻かれ、左手には長剣が握られている。
そして、その長剣は背中に根元まで押し込まれ、切っ先が敵兵の胸の真ん中から突き出ていた。

「あなたも、軍に志願さえしなければ、このような目に逢わずに済んだのに。でも、いくら女と言えど、敵は敵。今回は諦める事ね。」

その女性魔道師の黒いローブは、胸と背中のあたりが血に濡れ、肌に張り付いていた。
敵魔道師はイメインの言葉が終わるのを待っていたかのように、脱力した。
敵魔道師の体を地面に倒し、長剣を敵の体から引き抜く。それは真っ赤に染まっていた。
戦闘中に拾った、白い布で血と脂を拭った。

「軍曹!ここにいたか!」

聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
オイルエン大尉だった。

「大尉、ご無事で。」
「砲台はあらかた潰したよ。これで、味方も幾分か、戦いがやりやすくなっただろう。」

砲列を敷いていた14門の大砲は、全てが爆発によって破壊され、そここに砲兵中隊の将兵の死体が散乱している。
生き残った敵兵達は、高地から逃げて行った。

「その魔道師は?」
オイルエン大尉が姿勢をかがめて、顔を確かめる。金髪碧眼の女性で、イメインと同じぐらいの年であろう。
その魔道師の手には、血に染まった短剣が握り締められていた。

「他の仲間に魔法通信を送ろうとしていたのです。間一髪阻止しましたが、彼女もなかなかの手練で、自分も傷をつけられてしまいました。」

イメインの右腕に、1本の赤い線が入っており、そこから血が流れている。
見た限りでは深いようにも見える。

「大丈夫か?」
「ええ。後の任務には支障はありません。」
「そうか・・・・・よし、撤退だ!騒ぎを聞きつけた敵がやってくるぞ。残りは皆撤退している。」

さあ、行くぞ!と、オイルエン大尉は足早に歩き始めた。イメインはその後を追う。
右の二の腕の傷が、やたらに痛かった。
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