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159 第121話 第2海兵師団上陸

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第121話 第2海兵師団上陸

1484年(1944年)3月3日 午後11時43分 ホウロナ諸島ファスコド島

ファスコド島の北部にある第515歩兵旅団の司令部では、旅団長であるラフルス・トイカル准将を初めとする、
守備隊の幹部達が集まって会議を開いていた。

「夜分遅くに召集をかけて済まぬが、早速本題に入ろう。」

トイカル准将は言いながら、座っている幹部達を眺め見る。
つい数日前までは、見えなかった人物が2人ほど混じっている。
この会議には、元第75魔法騎士師団で連隊長をしていたレアラ・トリフィン中佐と、アルスバト・タムト中佐が同席している。
2人の顔は憔悴しきっていた。
唐突に、砲弾の飛翔音が鳴り響き、そして炸裂する。
やや遠い位置で砲弾は炸裂したが、戦艦が放った砲弾なのであろう、振動は思いのほか強く、作戦室内もビリビリと震えた。
この振動に最も敏感に反応したのは、トリフィン中佐とタムト中佐であった。
声には出さないが、2人の表情は怯えの色を濃く滲ませていた。
(大分疲れとるようだな。本当に酷い顔をしている。)
2人の鬱屈した顔つきを見て、トイカルはそう思ったが、同時に別の思いが沸き起こった。
(しかし、あの2人から見れば、私も酷い顔をしているだろう。何しろ、昨日は3時間も寝れなかったからな)
彼は、睡眠不足で充血した目を一度だけ、手で擦ってから話を始めた。

「諸君。敵の上陸部隊が、ファスコド島の南西沖に姿を現したという情報を、海軍のレンフェラル隊が伝えてきた。
情報によると、敵上陸部隊は、午後10時現在。ファスコド島の南西30ゼルド付近を、7リンルの速度で北東に向かっていると言う。
この調子で行けば、明日の朝・・・・遅くても正午までには、アメリカ軍は上陸を開始するであろう。」

トイカルの言葉は、どこかゆったりとしていながらも、独特の重みがあった。

会議の参加者達の脳裏には、このゆったりとした口調が、じんと染み渡っていく。
参加者達は、誰も驚かない。
来るべき物が来た。彼らはただ、そう思っていた。

「明日からはいよいよ、敵地上部隊との戦闘だ。各部隊は、事前に通達したとおりに行動し、敵と戦ってもらいたい。」

トイカルは、トリフィン中佐とタムト中佐に顔を向けた。

「トリフィン君。タムト君。」

彼の凛とした声に、2人は一瞬ピクッと動く。

「はっ。」
「君達の部隊には合わない戦いとなるが、どうか、よろしく頼む。」

トイカルは、この若い士官に頭を下げた。

「戦力が充分とは言えぬ今、君達の協力は必要不可欠だ。一緒に、君達の師団長の分まで戦い抜こう。」
「はい。我々も微力を尽くします。」
「少ない手勢ではありますが、我々も敵に一泡吹かせるべく、努力する次第であります。」

2人の若い士官は、丁寧な口調で返事する。
旅団の幕僚の中には、彼らのその態度に、内心驚く者がいた。
トイカル自身もその1人であった。
(・・・・無理もあるまいな。)
彼は内心、複雑な思いで呟いていた。

(あの、尋常じゃない事前攻撃で一番損害を被ったのは、彼ら第75師団だ。今まで馬鹿にしていた敵が、あんな
信じられぬほどの重火力で彼らの部隊を叩き潰したのだから、彼らの心構えが変わるのは、致し方ない事だな)

第75師団は、3月3日までに戦死者4482人、負傷者5112人を出していた。
ファスコド島の北部には、第515旅団の司令部があるが、その最北端には洞窟がある。
シホールアンル軍は、この広大な洞窟を野戦病院に仕立て上げた。
医療設備は本国の病院並みに整っており、医療系の魔道士や看護兵も多数配備されている。

「これなら、どんな傷を受けてもすぐに直してもらえるな。」

トイカル准将は、野戦病院の充実振りにそう感嘆したほど、後方の医療体制は万全であった。
その万全の医療体制は、僅か3日間でパンク状態となっていた。
たった数日で、数千人単位の負傷者が運ばれて来る事など、誰が予想したであろうか?
野戦病院は、たちまち負傷者で溢れ返ってしまった。
第515旅団は、事前に堅牢な防御陣地を構築した甲斐もあって、損害は抑えられてはいたが、それでも戦死者634人、
負傷者1800人を出している。
旅団の総人員は7000人であるが、彼らは戦わずして、実に3割以上もの損害を被ってしまった。
防備を整えたトイカル旅団もまた、アメリカ軍艦艇の猛砲撃の前には敵わなかったのである。
そのトイカル旅団は、第75魔法騎士師団の残余4000人を指揮下に入れ、戦力は総計9000名となっている。
本当ならば、第75師団は、515旅団とは別々に戦う予定であったのだが、

「戦力が7割に減った今、アメリカ軍相手にはまともな作戦が立てようがない。」

と、負傷し、野戦病院に収容されたホルゴ少将は師団の残余を515旅団に組み込む事にした。
ホルゴ少将は、3月2日に、アメリカ軍の艦砲弾によって腹部に重傷を負い、大急ぎで野戦病院に担ぎ込まれた。
師団長負傷のニュースに、75師団の士気はどん底にまで突き落とされた。

そのホルゴ少将は、生き残りの連隊長であるトリフィン中佐とタムト中佐に残余の兵を任せた後、515旅団の指揮下に入れと命じたのである。
最初、2人の若い連隊長は反対した。
だが、ホルゴ少将は2人の反論を一蹴し、彼らを宥めた後に、改めてトイカル旅団へ合流する事を命じた。
こうして、第75師団の残余は515旅団の指揮下に入ったのだが。
アメリカ軍の艦砲射撃は、意思統一を果たしたファスコド島守備隊に向けて、容赦なく行われ続けた。
3日の早朝には、リベレーター爆撃機100機以上が来襲し、爆弾の雨を降らせた後、更に敵機動部隊から発艦した艦載機が来襲し、戦闘機、
攻撃機共に入れ替わり立ち代り攻撃を加えて来た。
それに加えて、相変わらずの激しい艦砲射撃が、ほとんどハゲ島と化したファスコド島に飽く事無くぶち込まれた。

(敵の事前攻撃は、憎らしいほど見事だ)
トイカル准将はそう思っていた。
この作戦室内にいる守備隊の幕僚達ですら、寝不足の上に、肉体的、精神的疲労によって顔がどす黒くなっている。
アメリカ艦隊は、昼間のみなならず、夜間に置いても定期的に艦砲射撃を再開しては、1時間以上に渡って島の大地を耕している。
艦砲射撃のみならず、敵機動部隊の艦載機も、少数ながら出没し、島に爆弾を叩きつけている。
砲撃や空襲の規模は昼間よりも小さいのだが、守備隊の将兵は、この執拗な攻撃によって多くが眠りを妨げられ、しまいには発狂する兵が出る有様だ。
これによって、ただでさえ少ない兵力が余計に減少している。
このままでは、敵が上陸するまでに守備隊は全滅する。
誰もがそう思っていた矢先に、敵の上陸部隊が現れたのである。
戦いを望んでいた彼らにとって、ある意味嬉しい情報であった。(後に、絶望にへと変わるのだが・・・・・)

「明日は、いよいよ敵地上部隊との戦闘だ。今は非常に不利な状況ではあるが、一日でも長く粘り、アメリカ軍に
シホールアンル野戦軍の底力を思い知らせてやろう。」

彼は、いささか勇ましい口調で会議を締めくくった。

3月4日 午前8時 ファスコド島南10マイル地点

第2海兵師団を乗せた輸送船団は、午前5時までにはファスコド島南10マイルの沖合いに進出していた。
船団は、途中で複数のレンフェラルの攻撃を受け、LST1隻及び弾薬運搬艦1隻が撃沈された。
特に、弾薬運搬艦が撃沈された時は派手な火柱が吹き上がり、その余波で護衛駆逐艦1隻が損傷したほどであった。
しかし、それ以外は敵の妨害行動は無く、護送船団は比較的平穏を保ったままファスコド島近海に進出できた。
上陸開始から2時間前の午前6時からは、輸送船上の海兵隊員に朝食が出された。
海兵隊員に出された朝食は、大半の部隊が焼きたてのステーキを出された。
しかし、第18海兵連隊、第1大隊の将兵達には、一風変わった料理が出された。
その料理は、肉やジャガイモ、ニンジン、タマネギの混じった茶色の液体に白いライス、そして、そのライスと茶色の液体の間に
入っている、5つに切り分けられた揚げ物。
それこそ、初めてこの世に生み出されたカツカレーであった。
1943年中盤。空母エンタープライズの夕食に出されたカレーライスの噂は、あっという間に全海軍に知れ渡っていた。
カレーライスは、匂いからして刺激の強そうな食べ物ではあるが、実際に食してみるとこれが妙に美味である。
エンタープライズの乗員達は、誰もがカレーライスを絶賛していた。
この“魅力の料理”は、他艦の主計科員も魅了し、多数の主計科兵が、サムナー1等水兵に教えを乞いに来た。
1944年2月からは、エセックス級やヨークタウン級等の空母や戦艦のみならず、軽巡や駆逐艦などの小艦艇にもカレーライスが出始め、
実質的にアメリカ海軍ではメジャーな料理の1つとなった。
そして、海兵隊の輸送艦に乗り組んでいたある日系人料理長も、カレーの魅力に取り付かれた1人であり、彼はこの日、海兵隊員の必勝を
祈願してカツカレーを振舞った。
海兵隊員は、この変てこな料理を見るや、一瞬食す事を躊躇ったが、いざ口にしてみると、とても美味であった。
こうして、海兵隊員達は、ステーキ、またはカツカレーをぺろりと平らげた後、上陸用舟艇へ乗り込み始めた。
海兵隊員が朝食を食べ始めた時には、第54任務部隊は最後の詰めに入っていた。
指揮下の戦艦7隻、巡洋艦10隻、駆逐艦24隻が、主砲を轟然と唸らせて、大小無数の砲弾をファスコド島に撃ち込んでいく。
午前7時になると、艦砲射撃が止んだ。
TF54の各艦艇がしばし休息している間、第57任務部隊、第58任務部隊から発艦した艦載機が飛来し、島の南部と言わず、北部と言わず、爆弾や機銃弾、ロケット弾を叩き込んだ。

空襲が終わると、再びTF54指揮下の艦が主砲を唸らせる。
機動部隊の艦載機と、TF54が上陸前の支援攻撃を行っている間、第2海兵師団の先発隊は上陸用舟艇に乗り組んで、他の舟艇隊と共に、隊形を整えていた。
第18海兵連隊第1大隊に所属するマクシミリアン・ホイット中尉は、海軍艦艇の砲撃を受け、絶え間無く噴煙を上げるファスコド島を見て、

「こりゃ、シホット共は全滅してるな。」

と思った。
彼は、偵察機が捉えたファスコド島の写真を一度見せてもらったが、見た限りでは、見事な森に覆われた美しい島という印象が強かった。
それが、今ではどうか。
本当ならば、島に生えているであろう美しい緑が、今では数えるほどしか見当たらなくなっている。
ここ3日の砲爆撃で、延べ2300機の航空攻撃、各主砲弾15万発の洗礼を受けた結果である。
ホイット中尉が、敵が事前砲撃で全滅したと思うのも仕方なかった。

「いいぞ海軍!俺達の仕事を残さんでくれ!」

とある海兵隊員が、心底嬉しそうな口調で、砲撃を行うサウスダコタ級戦艦に向けてそう言い放つ。
サウスダコタ級からは約200メートル離れているが、それでも主砲射撃の轟音は凄まじいものがある。
彼らは、朝食を食べた後、上陸用舟艇に乗り組んでいる。
彼らのLVTは、他のLVTと共に、円周運動を行いながら、上陸開始の命令が来るまで待機している。
最初は、がやがやと喧しかった部下達だが、20分、30分と時間が経つにつれて会話を交わす兵が少なくなって来た。
ホイット中尉は上陸後に知ったが、彼の小隊では、大半の兵が船酔いにかかっていた。
午前8時、洋上で待機していた上陸部隊に命令が下った。

「上陸部隊は直ちに海岸部に上陸し、橋頭堡を確保せよ。」

輸送船上の第2海兵師団司令部から発せられたこの命令に従い、無数のLVT、LSTがファスコド島の南海岸へ殺到して言った。

艦砲射撃は、午前8時30分に、上陸部隊が海岸1000メートルまで近付いた所で終わった。
この2時間半の間、TF54は4万発の砲弾を叩き込み、機動部隊からは400機の艦載機が飛来し、上陸地点のみならず、内陸部にも爆弾を叩き付けた。
無数の砲爆撃によって、すっかりすき返された海岸に最初のLVTが乗り上げた。
その時の時刻は、午前8時40分であった。


午前10時30分 ファスコド島北部第1防御線

元第75師団第5特技兵連隊に所属していたクア・ヘベルジ伍長は、第515旅団第201歩兵連隊の防御陣地の中で、魔道銃を構えていた。

「兄ちゃん、顔色が悪いぞ?」

彼は、隣に座っているこわもて顔のヒゲ面男。この防御陣地の指揮官である曹長に声をかけられた。

「体の具合が悪いのか?」
「いえ、体のほうは心配ありません。ただ・・・・」
「ただ?」

一瞬、言うのを躊躇ってしまったヘベルジ伍長に、曹長はすかさず聞いた。

「音が近付いています・・・・今までに聞いた事の無いような。金属の軋むような音です。」
「金属のきしむような音。そいつは戦車だな。」

曹長は、平然とした顔でそう断言した。

「だとすると、敵はすぐそこまで迫って来ている。いよいよ本番だぞ。」

曹長は分かっていた。

アメリカ軍は、戦車という陸上兵器を有している事を。

「どうして分かるんですか?」

ヘベルジ伍長は曹長に聞いてみた。

「見たんだよ。南大陸戦線で。友軍部隊を蟻のごとく蹴散らしていく様をな。今思い出しても、寒気がするね。」

曹長は、淡々とした口調でヘベルジ曹長に答えた。
それから10分ほどの間を置いて、第1戦陣地の前に敵が姿を現して来た。
銃眼の向こうに、幾つもの人影がそろそろと歩いている。
その人影は横にばらばらと散らばっており、ざっと見て60人程が歩いている。
背後には、見た事も無い物が、歩兵と歩調を合わせて移動している。
(あれが戦車か。)
ヘベルジ伍長は、その大砲と思しき物が付いた鉄の塊が、曹長の言っていた戦車であると確信した。
何故か、無性にのどが渇いてくる。
言いようも無い恐怖感に、体が震えるのを感じていた。
(くそ、俺は優秀な魔道士だぞ。まだ戦ってもいないうちに、敵に恐怖を感じるなんて!)
彼は内心で、初めて見る敵に怯えた自分を呪った。

「おい、深呼吸しろ。」

曹長が唐突に言って来る。

「せっかく見つけた優秀な射手にヘマをやらかされたくないからな。まずは3度ほど深呼吸だ。一緒にやるぞ。」

ヘベルジ伍長は、曹長に言われるがまま、3度深呼吸をした。

そのお陰で、完全にとまでは行かぬが、幾らか気分は落ち着けた。
敵の歩兵は、じりじりと迫って来る。
周囲には、砲爆撃によって耕され、所々に叩き折られた木の幹や、木の枝が散乱している。
その太い丸太を、アメリカ兵達はゆっくりと乗り越える。
後方の戦車は、小さめの丸太は踏み潰して通り、大きめの丸太は迂回して側を通り過ぎていく。
先頭の歩兵は、聳え立つ木の残骸に隠れながら、ゆっくりと前線陣地との距離を詰めていく。
今の所、アメリカ兵達はこの銃眼に気が付かない。

「流石に、幻影魔法でごまかしただけはある。」

曹長が、どこか皮肉気な口調で呟いた。

「最初から、こうやって共同で戦っていれば、あのアメリカ兵共相手に、もっと堂々と戦えたんだが、まぁそれはいいとして。」

曹長は、後ろに控えている魔道士に顔を向ける。
魔道士は首を横に振った。

「まだ撃つなよ。」

曹長は、ヘベルジ伍長に念を押した。
ヘベルジ伍長は、元々は弓を使って相手を打ち倒してきた。つい先日のバルランド軍との戦闘でも、彼は得意の弓でもって、6人のバルランド兵を射殺している。
そんな彼は、アメリカ側の事前砲撃によって部隊が壊乱した後、いつの間にか魔道銃の射手にされてしまっていた。

「すまんが、お前に射手をやってもらいてぇんだ!ウチの射手が翼の曲がった飛行機に撃たれて病院送りになっちまってね!
あんたが腕の弓使いって事は前から知ってたんだ。」

3月3日、命からがら、曹長の陣地に逃れてきた彼は、そこで曹長に無理矢理魔道銃の射手に任命されている。

魔道銃と弓は使い勝手が違うのだが、遠くの相手を狙い撃つ、という点では共通していないとも言えない。
彼は最初、曹長の命令を断っていたが、連隊長から515旅団の指揮下に入るように命じられていたため、彼は渋々命令に従うことにした。
アメリカ兵が、目測で100グレルまで近付いたな、とヘベルジ伍長が思った時、曹長に肩を叩かれた。

「撃て!」

その言葉を聴いた瞬間、ヘベルジは魔道銃を撃った。
リズミカルな振動が伝わり、色とりどりの光弾が、そろそろと進んでいたアメリカ軍歩兵に向けて放たれる。
アメリカ兵からしたら、この突然の銃撃は不意打ち同然であったが、彼らの動きは早かった。
ヘベルジは、4人は打ち倒せるなと思っていたが、アメリカ兵は瞬時に遮蔽物に隠れてしまった。
運悪く、隠れるタイミングの遅かったアメリカ兵が数発の光弾に体を撃ち抜かれ、痙攣しながら倒れた。
ヘベルジのいる防御陣地のみならず、生き残りの防御陣地全てが、今までの鬱憤を晴らすかのように、魔道銃を撃ちまくった。
後方から砲弾の飛翔音が聞こえた。その1秒後に、アメリカ兵がいたと思しき場所に爆発が起きる。
2人のアメリカ兵が、四肢を広げた状態で宙に待った。
アメリカ兵達も小銃を撃ち返して来た。
しかし、位置が正確に掴めていないのか、ほとんどメクラ撃ち同然であった。
ヘベルジは、アメリカ兵の隠れている遮蔽物に向けて、魔道銃を断続的に撃つ。
10発撃ったら3秒ほど休み、10発打ったら3秒ほど休み・・・・・
これの繰り返しだ。
アメリカ兵の少し後ろにいた戦車にも、光弾が注がれるが、車体に火花を飛び散らすだけで全く被害を与えていない。
戦車の大砲が火を噴いた。
陣地の右側に砲弾が突き刺さったのであろう、ドーン!という爆発音が鳴り響き、銃眼が黒煙や、土埃に覆われて視界が遮られた。

「畜生!」

ヘベルジ伍長は思わず罵声を上げた。

彼は知らなかったが、この時、M4戦車は、ヘベルジ伍長の10メートル右から放たれる光弾の発射点目掛けて、75ミリ弾をぶち込んだ。
砲弾は、幻影魔法で隠れていた防御陣地に命中するや、瞬時に吹き飛ばした。
アメリカ兵が、銃火の嵐にめげる事無く、逆に小銃や機銃を撃ちまくりながら迫って来る。
ヘベルジは、背中に変てこな物を背負い、何かを耳に当てながら喋り捲るアメリカ兵を見つけた。
彼はまず、そのアメリカ兵を狙って撃った。
最初は見当はずれの位置に光弾は命中していたが、3発がアメリカ兵の足や腕に当たった。
アメリカ兵は体から血を噴出しながら、仰向けに倒れた。

「ようし、ざまあ見ろ!」

ヘベルジ伍長は快哉を叫んだ。
しかし、彼の喜びも、次の瞬間凍りついた。

「敵機だ!」

彼は、敵部隊の後方の空から現れた機影を見つけた。
機影は4つ。
そのどれもが、主翼の付け根を極端に折り曲げている。
コルセアだ。
コルセアは海兵隊員を巻き込まないように注意しつつ、超低空でシホールアンル軍陣地に迫り、距離500メートルでロケット弾を発射した。
ヘベルジは危ない!と叫んでから魔道銃から離れ、防御陣地の床に伏せた。
彼の反応を見た曹長や、他の兵もただ事ではないと確信し、銃眼から身を離して思い思いの場所に伏せたり、身を屈めたりした。
爆発音が連続して鳴り響き、振動が大地を揺さぶる。
木々の破片や土くれが、開かれた銃眼から爆風と共に入り込んだ。
ヘベルジのいた防御陣地は無事であったが、その隣の防御陣地には、2発のロケット弾が命中していた。
瞬発弾である弾頭は、石材で作られた天蓋に命中して爆発した。

本来ならば、ある程度の打撃に耐えられた筈なのだが、突貫工事による手抜き作業の影響で強度は想定値より低かった。
そのため、爆風がもろい天蓋を突き破って内部に吹き込み、中にいた6人の射手や兵は、全て戦死した。
べつの防御陣地では、銃眼の10メートル手前でロケット弾が炸裂した。
炸裂の瞬間、ロケット弾の破片や土くれが猛烈な勢いで吹き込み、それまで魔道銃を撃っていた射手は、一瞬にして顔を切り刻まれ、両目を失明してしまった。
一瞬の喧騒が鳴り止んだのを確認したヘベルジは、再び魔道銃に取り付いた。
その時には、数十名以上のアメリカ兵が、距離40グレルほどの近距離にまで迫っていた。
彼は慌てて魔道銃を撃とうとしたが、魔道銃はウンともスンとも言わない。
(魔法石の魔力が切れたのだ!)
瞬時に原因を突き止めた彼は、慌てて装填係に言い付けて、魔道銃に装填されている魔力の切れた魔法石を代わりの魔法石に取り替えさせた。
再び射撃を開始した時には、アメリカ兵はすぐそこまでの距離にまで迫っていた。
2、3人ほどのアメリカ兵が、光弾を食らって薙ぎ倒されるが、残りのアメリカ兵はひるまずに距離を詰めてくる。
更に1人を打ち倒した所で、1人のアメリカ兵が、銃眼の視界から消えた。
防御陣地の右側に取り付いたのだ。

「敵が近くにいる!」

ヘベルジは、すかさず叫んだ。
その時、銃眼から何かが投げ込まれた。
それは、陣地の入り口の辺りまで転がると、バーン!という轟音を発して炸裂した。
ヘベルジは、背中に激しい痛みを感じた。
今までに体験した事の無い痛みだ。これだけで、彼の意識の大半は刈り取られてしまった。
彼は、力なく倒れ込んだ。
薄れ行く意識の中、後ろでバン!バン!と何かが弾ける音が聞こえ、耳の側で何かが当たった。
手榴弾を投げ込んだアメリカ兵が、ガーランドライフルを陣地内に撃ち込んでいるのだが、彼にとってそんな事はどうでも良かった。
(ああ・・・・俺は、こうやってあっけなく死んでいくんだなぁ)
ヘベルジは、やや暢気な口調で呟くと、そのまま瞼を閉じた。

第18海兵連隊第1大隊は、島の北西部にある敵の前線で足止めを食っていた。

「駄目です!シホット共は巧みに陣地を偽装していて、わけの分からん内に撃ち殺されてしまいます!」

第1大隊B中隊第1小隊を指揮するマシリアン・ホイット中尉は、小隊長の報告を聞いて顔をしかめた。

「畜生め、海軍の奴らは何をしていた!」

彼としては、シホールアンル軍が盛んに魔道銃を撃ってくる事自体信じられなかった。
上陸当初、第2海兵師団は何ら攻撃を受けなかった。ファスコド島の南部から中部にかけて、敵は防御戦を全く敷いていなかった。
そのため、最初は慎重に前進していた海兵隊員も、しまいには鼻歌交じりに進撃するほどだった。
きっと、シホールアンル軍は事前の砲爆撃で全滅したに違いない。
上陸部隊の大半がそう思いかけていた時、彼らはシホールアンル側の防御戦に突き当たったのである。

「海軍さんの文句は後に言うとして、今は敵陣を突破することを考えましょう。」

部下の軍曹が、いささか穏やかな口調で宥めたが、その直後、20メートル離れた後方に砲弾が落下した。
咄嗟に身を伏せて、四方八方に飛び散っているであろう破片を避けた。

「ああ、君の言うとおりだな。」

ホィット中尉は、顎に付いた泥を腕の袖で拭き取りながら返事する。

「シホット共は、変てこな魔法で陣地自体を消しています。まぁ、盛んに撃ちまくって位置を露呈しているので意味はありませんが、
敵は十字砲火を行えるように陣地を構築しています。」
「これをなんとかするには・・・・・」

ホィット中尉は、ふと、戦車砲によって爆砕される敵陣地が見えた。これによって、敵から放たれてきた光弾の量が、いくらか和らいだ。

「あそこから側面に回り、あの銃眼の中に手榴弾をぶち込むか、ジャックの背負っている火炎放射器で焼き払ったほうがいいな。」
「まぁ、現状ではそれぐらいしか出来ませんな。やって見ましょう。」

軍曹は頷くと、自らが率いる分隊を纏めて、敵陣への攻撃を行うことにした。
後方のシャーマン戦車が、またもや主砲を放つ。
砲弾がとある場所に突き刺さった。
そこは、今さっきまで盛んに光弾を放っていたが、75ミリ砲弾を直接ぶち込まれて、火力を制圧されてしまった。

「よし、今だ!あそこの窪地まで走るぞ!」

軍曹は、今しがた沈黙した敵陣の目の前にある窪地まで駆け抜ける事にした。まず、軍曹から先に突っ走っていく。
その後ろから、分隊の部下達が走っていく。
彼らに向かって、光弾が注がれる。弾が周囲に当たり、木片や土くれが跳ね上げられた。
1人の兵が足を打たれて昏倒する。その兵は、走り去ろうとする仲間に助けを求めたが、その次の瞬間に追い討ちが掛けられ、絶命する。
軍曹は、光弾を吐き出す銃眼にトミーガンを撃ち返しながら、窪地に隠れた。
彼の分隊は、1人を除いて全員が無事であった。
窪地の縁に、光弾が注がれ、絶え間なく土が跳ね上がる。
彼らが反撃して来ないのをいい事に、シホールアンル兵は好き放題魔道銃を撃ちまくって来る。
しかし、その射撃が唐突に終わった。銃眼の中で、シホールアンル兵が何かを叫んでいる。

「ジャック!シホット共は弾切れのようだ、いまのうちにそいつでやれ!」

軍曹はすかさず、ジャックと呼ばれた二等兵に命じた。
頷いた二等兵は、すぐに立ち上がって火炎放射器を構えた。7メートルほど手前には、魔道銃の銃身が睨んでいる。

その射手と思わず目が合ってしまった。射手が驚きの表情を浮かべた瞬間、ジャックは火炎放射器を放った。
ゴオオオォォーーー!という身の毛のよだつような音と共に、紅蓮の炎がトーチカに注がれる。
その1秒後に中から悲鳴が聞こえた。
石造りのトーチカの中から、後ろの塹壕に5人の火達磨となったシホールアンル兵が飛び出し、塹壕の中や、その上を転げ回っている。
走りよった軍曹達は、その火の塊に向かって、トミーガンやガーランドライフルを撃ちこんだ。
熱さにのた打ち回っていた敵兵達は、その“慈悲”によって楽にされた。
ホイット中尉の率いる残りの分隊も、犠牲を出しながら1つずつ、陣地を潰していった。
第2大隊では、第1大隊ほど戦いは楽ではなかった。
第2大隊は、シホールアンル側の銃砲撃は勿論の事、召喚獣による攻撃まで受けた。
魔道銃の集中射に足止めを食らっている所に、どこぞから現れたライオンのような化け物によって、たちまち2名が食い殺される。
それを見たとある海兵隊員は、パニックになってその場から立ち上がり、戦車のいる場所まで逃げようとした。
その後姿を、魔道銃が狙い撃ちにし、その海兵隊員は恐怖に顔を歪めたまま戦死した。
とある小隊には、ゴーレムのような召喚獣が襲い掛かって来た。
だが、その召喚獣は、近付く前に海兵隊員が持っていたM1ロケットランチャーの攻撃を食らってしまった。
50メートルの至近距離で、ロケット弾の炸裂を受けたゴーレムは、あっという間に胴体部分が四散した。
海兵隊員を食い殺した召喚獣には、シャーマン戦車から75ミリ砲弾の洗礼を受けた。
召喚獣はとっさの機動で避けたが、M2重機の掃射を全身に受けて射殺された。
第2大隊は、幾度も敵陣を抜こうとしたが、その度に銃砲弾や魔法攻撃、あるいは召喚獣によって追い返された。
しまいには、シャーマン戦車10台が投入された。
意外な健闘を見せたシホールアンル軍も、陸の移動砲台とも言える戦車の猛攻を受けてはたまらなかった。
シャーマン戦車は、敵に有力な対戦車兵器が無いのをいい事に、持ち前の機動力でもってトーチカ群を撃破し、塹壕陣地を次々と踏みにじった。
戦闘開始から2時間で、第2大隊はシホールアンル軍第1線陣地を突破した。
第515旅団201歩兵連隊第4大隊に所属するトバ・マンス軍曹は、塹壕陣地に大量のアメリカ兵が雪崩れ込んで来るのを目の当たりにしていた。

「アメリカ人共が攻めて来たぞ!戦え!」

彼は部下に命じてそう言うと、自ら先頭に立って戦い始めた。
あちこちで激しい白兵戦が繰り広げられる。
第75師団に所属していた女性魔道士が、愛用のナイフを使って、銃剣を突き出して来るアメリカ兵のどを次々と掻っ捌く。
敵兵の返り血に染まったその魔道士は、殺戮に寄ったようにニヤリと笑みを浮かべる。
別のアメリカ兵が小銃を構えて撃とうとしたが、次の瞬間には袖から別のナイフを取り出して投擲する。
ナイフはアメリカ兵の首に突き刺さった。
4人のアメリカ兵をいとも簡単に倒したその女性魔道兵だが、遠くから小銃で狙い撃ちにされた。
胸からを血を噴出した魔道士は、仰向けに倒れる。何が起きたのか理解出来ぬといった表情を浮かべて、目を見開いたまま絶命した。
別の所では、アメリカ兵が複数のシホールアンル兵に群がられている。
しかし、そのアメリカ兵は、身長は2メートルはあろうかという大男で、やたらに長い髪を振り乱しながらトミーガンを乱射した。
あっという間に3人のシホールアンル兵が薙ぎ倒される。別のシホールアンル兵は、そのアメリカ兵の足に剣を深々と突き刺したが、驚くべき事にアメリカ兵は尚走り続け、別のシホールアンル兵の集団を見つけるや、そこ目掛けてまたもやトミーガンを乱射した。
首を跳ねられるまでに、新たに5人のシホールアンル兵が撃ち倒された。
白兵戦は、開始から僅か10分で片が付いた。
白兵戦には勇猛で定評のあるシホールアンル兵も、銃器には敵わず、1人を倒す間に5、6人が銃で打ち倒される始末であった。

第18海兵連隊第1大隊は、ようやく敵の第2線陣地の一部を占領していた。
第2線陣地の抵抗もなかなかに激しかったが、第1大隊は、とある援軍のお陰で、先の戦闘とは比較的に楽な状態で終えていた。

「しかし、戦艦の主砲射撃って、凄いモンですねぇ。」

ホィット中尉は、軍曹の言葉に頷いた。

「あれだけやかましかった敵さんが、あっという間に大人しくなったな。」

彼は、陣地から手を上げて立ち尽くしている敵兵を見ながらそう言った。
この敵陣内には、TF54の戦艦群から放たれた砲弾が着弾していた。
5分間の艦砲射撃で、敵の主だった防御陣地はすき返されてしまった。
この支援砲撃で完全に戦意を失った敵兵は、今、目の前で降伏の意を示している。
唐突に、ショットガンを持っていた兵がシホールアンル兵に走り寄った、と思いきや、いきなり敵兵を殴り倒した。

「おい、何やっているんだ!やめんか!」

倒れたシホールアンル兵を、銃床で殴りつける歩兵に向けてホィット中尉は怒鳴った。

「こいつらは降伏している。手荒な真似はするな!」
「小隊長、こいつらのせいで、戦友のシバーズは死んだんですよ?こんな奴らに情けなんざ無用ですよ。」

シホールアンル兵を殴りつけた歩兵は、ばつの悪そうな表情を浮かべながらも、自分の思いを打ち明けた。

「馬鹿野郎、そんな時代を遅れの事なんざしないでいい。無抵抗の敵を撃つのは、頭が腐った畜生のする事だ。俺たちは、捕虜になったら
自分がしてもらいたい事敵にするだけだ。ただし・・・・」

ホィット中尉は、手を上げて、こちらの様子を伺う捕虜を睨み付けた。

「騙まし討ちを仕掛けてきた奴は、容赦なく撃ち殺していい。卑怯者に情けを掛けるほど、合衆国海兵隊は甘くは無いからな。」

彼は、わざとドスの利いた声音でそう言い放った。
ホィット中尉は、後方から来た部隊に捕虜を預けると、再び北へ向かって部隊を前進させて行った。
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