自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

46

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
大陸暦1098年 9月7日 午後10時 プリングルッド
プリングルッドは、サイフェルバンの40キロ西に位置する町で、人口は元々10万を超える中規模な都市であった。
だが、今、このプリングルッドの町には人の姿は絶え、代わって軍人の姿が目立っている。
このプリングルッドには、東方軍集団の総司令部があり、第8軍が駐留している。
プリングルッドの北6キロには軍集団所属の第4軍、南7キロには同じく第12軍が駐屯している。
この東方軍集団は、アメリカ軍がサイフェルバンに強襲上陸を行った3週間後に急遽編成された。
東方軍集団の目的、それは、勢いに乗って侵攻してくるであろう異世界軍の陸上部隊を、これ以上内陸に進ませないこと。
それが任務である。
サイフェルバンが陥落したときは、次はプリングルッドに攻めてくると、東方軍集団の将兵は誰もが覚悟した。
サイフェルバンが包囲される以前、プリングルッドに逃げ出してきた部隊がいくつかあった。
その部隊の将兵は、いずれも酷い有様だった。
何よりもまず、覇気が無かった。それに負傷者が多く、健全なものが少なかった事。
脱出した兵が、集団で歩いているさまは、まるで幽鬼のようだったと、彼らを見かけた東方軍集団の将兵はそれぞれ口にしている。
サイフェルバンが陥落した2週間後には、サイフェルバン、プリングルッドの境界線付近に、敵軍が集結中との報告が入ると、
東方軍集団司令官のオリオス・ルーゲラー騎士元帥は全軍に警戒態勢を取らせた。
だが、待てども待てども敵軍は現れず、結局は、東方軍集団の警戒レベルを最低レベルまで引き下げた。
待機状態に入っているさなか、ルーゲラー騎士元帥のもとに何度も部下の将官が押しかけた。

「司令官閣下、今こそサイフェルバンに侵攻し、奴らの息の根を止めるべきです!」
「そうです!我々の総兵力は17万、それに対し、敵はたかだか6万ではありませんか。
全軍を投入すれば、サイフェルバンのローグレル閣下の仇が取れますぞ!」
「そうだ!今すぐ待機から攻勢に転じるべきです!」
だが、部下の強硬論も彼は拒んだ。
「皇帝陛下の意を忘れたのかね?陛下も同じ気持ちであろう。
だが、陛下は我々にここを死守せよと言っておられるのだ。それは今も変わらぬ。」
彼はそう言って部下達をたしなめてきた。
だが、9月1日、東方軍集団が震撼する出来事が起きた。それは首都ファルグリン空襲である。
この報告を魔法通信で受け取った時、ルーゲラー元帥は思わず愕然とした。
彼はこれまで、東方軍集団がサイフェルバン付近にいる限り、どこに新劇出来まいと思い込んでいた。
しかし、ルーゲラーは米航空機の航続距離を全く知らなかった。
敵の飛空挺が飛んできても、せいぜいウエイリンズ(サイフェルバンより西400キロ)まで届くかどうかと思っていた。
しかし、そんな思いはこの報告によって消し飛んだ。東方軍集団は、ただ地上にいるだけで、敵の大型飛空挺の進撃を防げぬのである。
そう、飛行機と人間では、全く話にならない。言うなれば、東方軍集団の存在価値が全くないということと同じである。
その事を、米軍はバーマント軍に知らしめたのである。
翌日の9月2日、ファルグリンの陸軍総司令部より魔法通信が入った。
「東方軍集団は、全兵力を持ってサイフェルバン方面のアメリカ軍を殲滅されたし。」
ごくそっけない文面ではあったが、その文の裏には、言い知れぬ激情が詰っていた。
この命令文を受け取った東方軍集団は、早速準備に入った。

ルーゲラー元帥の副官であるエンボスト少佐は、彼の部屋を訪れた。
「入ってもよろしいでしょうか?」
「おう、入っていいぞ。」
明瞭かつ、野太い声が中から聞こえた。それを確認したエンボスト少佐はドアを開けた。
ルーゲラー元帥はちょうど手紙を書いているところだった。
筆を止めた彼は、少佐に顔を向けた。
堀の深そうな顔にがっしりとした体格、紙は短めに切り揃え、花の下には立派なカイゼル髭を生やしている。
彼は普段から性格がよく、部下の面倒見がとても良い。よく前線に足を運んでは、兵卒や下士官兵などに頻繁に声をかけたりする。
部下からも人望があり、上層部からも優秀な将軍として一目置かれている。彼を慕う兵の中には、影でおやじさんと呼んでいる。
「各部隊の準備の具合はどうかね?」
「はい。全て順調に進んでおります。2日後には鉄道で、サイフェルバンより10キロ方面まで、兵を運べます。」
「そうか。」
その言葉を聞いたルーゲラー元帥は満足したように頷いた。
「エンボスト少佐、突っ立ってないで座りたまえ。君も疲れておるだろう。」
ルーゲラーは空いたイスを用意した。少佐は恐縮です、と言いながらイスに座った。
「エンボスト少佐も聞いていると思うが、今日、バリアングルブが爆撃されたことは知っているかね?」
「ええ、魔法士官から聞かされました。」
今日の昼方、ファルグリンより西300キロ離れた工業都市、バリアンブルグが爆撃を受けた。
バーマント側は知らなかったが、この日空襲に参加したのは、第689、第790航空隊のB-24爆撃機80機と、
P-51ムスタング36機である。
B-24爆撃機は500ポンド爆弾を定数の半数搭載で出撃した。バリアンブルグは、軍の魔法専門の施設と、兵器工場があった。
この空襲によって、バリアンブルグの施設と工場は壊滅に近い打撃を受けた。
このバリアンブルグもまた、バーマントで有数の大都市であり、市民はファルグリンと同様に混乱を起こしている。
それに、このバリアンブルグ空襲では、20発の500ポンド爆弾が、隣接する市街地に着弾して多大な被害を与えてしまった。
これが混乱に一層拍車をかけてしまった。唯一、この誤爆による死傷者が1人も出なかったことが、不幸中の幸いであった。
「市街地にも爆弾が落ちたらしいぞ。どうやら、これは早く勝負を決めないといかんな。
作戦開始が1週間遅れれば、また都市が敵の爆撃を受けることになる。」
「同感です。」
エンボスト少佐はうんうん頷く。

「それにしても、あれほど待機にこだわっていた皇帝陛下が、一転して侵攻せよと言うことから、
上層部はかなり頭にきているな。先日送られてきた魔法通信を見ても分かる。」
「閣下、我々は勝てるでしょうか?」
エンボスト少佐は、いきなり不安げな表情で彼に言ってきた。
「サイフェルバンが陥落する前、ローグレル閣下の軍団は18万もいました。
ですが、あの異世界軍は18万の大軍もものともせずに包囲し、サイフェルバン方面軍をあっさり殲滅しました。
あの精兵の誉れ高いサイフェルバン方面軍がですよ?その部隊を追い詰めた敵軍に、我々は勝てるでしょうか?」
「勝てる。」
ルーゲラーは即答した。
「確かにサイフェルバン方面軍は強かった。だが、わが東方軍集団と、サイフェルバン方面軍には違いがある。
それは、勝ち負け、そして武器の優劣差だ。
サイフェルバン方面軍は確かに精兵であったが、ヴァルレキュア戦初期には敵の精鋭軍団と真っ向から対立して敗北している。
それに、敵異世界軍が侵攻してきたときには、銃器の部隊配備は方面軍の6割程度しか進んでいなかった。
だが、わが東方軍集団は元々、無敗軍団と呼ばれたグランスプ軍団の生まれ変わりだ。」
グランスプ軍団とは、バーマント軍でも最も歴戦の部隊と言われている軍で、30年前の隣国の侵攻以来、常に最前線に投入され、勝利を収めてきた。
このヴァルレキュア戦でも、グランスプ軍団は多大な犠牲を出しながらも常に、味方の道を切り開いてきた。
この東方軍集団は、消耗し尽くしたグランスプ軍団を再編成した部隊である。
当然、兵の錬度も士気も高い。それに、問題の銃器の配備も、この東方軍集団は100%配備されている。
ちなみに、バーマント軍の武器更新は、第1に海軍、第2に空中騎士団、第3に陸軍とされて来ている。
なぜ陸軍が第3とされていると言うと、上層部は常に陸軍の強大な支援ができる兵器の開発を望んだ。

その結果、飛空挺、高速力の戦闘艦が開発され、陸軍の作戦はスムーズに行われるようになってきた。
だが、肝心の陸軍の装備は、つい最近まで剣と盾、弓矢といったものに過ぎなかった。
実は、航空機、戦闘艦の開発が、莫大な資金と手間を要したため、
陸軍の銃器などの近代兵器を整備する資金や時間が足りなかったのである。
だが、ここ数年の努力と、陸軍の交渉によって、陸軍は念願の各種近代兵器を装備するに至った。
現在、銃器の配備は、正規軍だけで70%が完了しており、現在も残りの部隊が更新中である。
「そう・・・ですよね。」
エンボスト少佐は、表情に笑みを浮かべて答えた。
「なんたって、我々は最強軍団、グランプス軍団の生まれ変わりですから。」
「おう、そうだとも。たかだか6万の敵上陸軍にビクビクしたんじゃあ、最強軍団の名が泣く。」
ルーゲラー元帥は、水の入った杯を掲げた。
「不幸な異世界軍の前途を憂い、乾杯。」
エンボスト少佐も、用意された水を飲み干す。
「閣下、私はこれから第8軍のほうに行かねばならぬので。」
「おお、そうか。苦労をかけるな。」
エンボスト少佐は一礼して、部屋から出て行った。
少佐が出て行ったとき、ルーゲラーは元の冷静な表情に戻った。
「最強軍団・・・・・か。」

彼は複雑な念を込め、呟いた。
(錬度も申し分ない、それに士気も高かったのは、サイフェルバン方面軍といえ同じだった。
しかし、我らとほぼ互角の精鋭軍団が、敵の機動作戦にあっさりはまり、包囲された。
もしかしたら、同じようなことが、わが東方軍集団に起きるのではないか?)
実を言うと、ルーゲラーは不安だった。確かに数は多い。それに敵軍には無い倍以上の軍を持っている。
だが、足りないものはある・・・・・・・・・

それは。

(飛空挺・・・・・だな。)
ルーゲラーは今、サイフェルバン方面軍が負けた理由が分かりつつあった。
サイフェルバン戦で味方の明暗を分けたもの、それは、航空戦力である。
確かに、サイフェルバン戦での機動作戦は、敵ながら見事だった。だが、その機動作戦を支えていたものは、飛空挺だった。
そう、敵の機動作戦が成功したのは、圧倒的な航空戦力を持つことだから、成しえたものだった。
かつて、グランプス軍団もヴァルレキュア戦時にはよく空中騎士団の支援を受けた。
中には空中騎士団の支援があったからこそ、作戦が成功したと言うことも何度かあった。
だが、味方の進撃を支えてくれた飛空挺は、今では西部に引っ込んでいる。東部には1機として見当たらない。
(もし、飛空挺の支援なしに、味方を進めたら・・・・・・・・・・・・)

彼はあることに思い至り、思わず目を覆ってしまった。
彼はその思いを忘れようと、手元にあった酒をがぶ飲みした。
その夜、ルーゲラー元帥は酔っ払いながら眠りに付いた。

9月8日 午後9時 ファルグリン
ファルグリン南部にあるとある酒場、クライク。
この店は、相変わらず人が大勢入っており、売り上げも悪くは無い。
だが、店の雰囲気は以前と異なっていた。
以前は、仕事帰りの労働者などが集まり、日々の苦労をねぎらいながら談笑をし、酒を飲み交わしていた。
だが、今日はどこか静かである。話し声は聞こえるが、どの声も陰鬱そうなものだった。
「なんか、みんな元気がないですね。」
カウンターの前で、テーブルを吹いていた店主のオーエル・ネイルグは、給仕の中年の女性店員の声を聞いた。
「元気か。あの日からずーっと、こんな感じだな。」
ネイルグは、そう言って溜息をついた。
9月1日の異世界軍の空襲は、ネイルグも見ていた。
どこからともなく現れた異形の飛空挺が、いきなり要塞に爆弾の雨を降らせたのだ。
黒煙に包まれていく要塞を、ネイルグは信じられない気持ちで眺めていた。
ファルグリン要塞は、その大きさからバーマントの守護神のように語られてきた。
そのバーマントの軍事力のシンボルとも言えるファルグリン要塞が、わずか80機の大型飛空挺
によってとんでもない被害を受けたのである。
その後、ダム崩壊によって起きた鉄砲水によって、一部の穀物畑が甚大な損害を被り、
3日前から国民生活には欠かせなかったパンが、食卓から消えてしまった。向こう1ヶ月ほどは、このままだという。
それだけでなく、飲料水の20%をダムの水に頼っていたファルグリンは、ここ4日ほど水不足に悩まされた。
その水不足も、西の大河から取り寄せることでなんとかなった。
「あの空襲で、俺は何かが崩れ去ったような気がするんだな。」
「と、いいますと?」

「ほら、このファルグリンって、一度も敵軍に攻められたことが無いだろう?恐らく、このファルグリンに
敵が見えないと言うことは、まだ敵に対してあまり苦戦していないという表れだったのかもしれない。
だが、この間の空襲で、敵軍の飛空挺は我が物顔に首都上空を飛び回り、やすやすと目的の施設に爆弾を叩き込んだ。」
「つまり、敵の軍隊は、自分達がこんなに遠くからでも襲うことが出来る、ということをあたし達国民に
知らしめようとした、ということですか?」
「その通りさ。」
ちなみに、9月1日の夕方の広報紙は、異世界軍のファルグリン空襲を報じたが、政府側はこのような文面を載せている。
「「不遜なる敵異世界軍は、汚らわしい作戦を立てた。それは、首都のかけがえの無い国民を狙った悪逆非道な無差別爆撃である。
だが、首都に飛来した敵の飛空挺は、ファルグリン要塞の威容に恐れをなし、この要塞と、近郊の軍事施設を爆撃した。
結果、要塞は甚大な損害を被ることになった。しかし、我々は懸命な反撃で、敵飛空挺を10機撃墜した。
残る敵はこれ以上の被害拡大を恐れ、尻尾を巻いて逃げていった。敵異世界軍とはいえ、最強ではないのである。
目下、軍上層部は、次なる敵の空襲に備えるため、対抗策を検討中である」」
その文面の下には、撃墜され、バラバラになった米軍機の写真が掲載され、翼の白い星がこれ見よがしに写っている。
この機体は、錬兵場空襲のさい、撃墜されたP-51であるが、このP-51は、被弾した後に火を噴きながら
建物に体当たりし、パイロット自らの命と引き換えにこれを爆破している。
文面の内容は、米軍側から見たら目を剥くような内容で、文の半分以上は嘘で散りばめられている。
大体、ファルグリン上空で撃墜された米軍機はP-51と、B-25の各1機、2機にすぎない。
あの空襲以来、ファルグリン市民の中にも、影ではあるが公国側の広報紙の内容を信じなくなったものが急増している。
このネイルグも、もはや広報紙は胡散臭いと思い始めている。
「第一な、サイフェルバンの戦闘に関しては相変わらず激戦中としか書かれていない。内容も2ヶ月前とさっぱり変わらん。」

ネイルグは、一層、声のトーンを落として言った。
「まだ陥落していないはずのサイフェルバンが、既に敵の手に落ちたと考えたら、
9月1日の異世界軍の空襲も説明が付くんだよ。」
「ネイルグさんもそう思うのかい?あたしも前々から同じようなことを思ってはいるんだけど。」
彼女も、周りの変化を肌に感じている。
彼女の隣の家は、息子が第2空中騎士団に所属しているが、ここ最近全く文通がないと言う。
「あの子は、2週間に1回は必ず手紙をよこすのに、手紙を出せないほど軍の仕事が忙しくなっているのかしら。」
息子の母親は心配している。戦死したなら、すぐに戦死公報が届くのだが、それも届かない。全く音沙汰無しである。
「俺も似たようなことを客から聞いた。サイフェルバンの従兄弟から手紙の返事が来ないとか言っていたな。」
「これは・・・・・何か裏にあるんじゃない?私達に伝えたらとてもまずいことが。」
「敵軍の捕虜に対する待遇とかも怪しいぞ。」
広報紙では、驚くべきことにこれまで行ってきた捕虜や、軍が行ってきた、敵国国民に対する蛮行が全く掲載されていないのだ。
掲載しない理由は簡単。国民の対外政策の支持が得られなくなるからである。
「まあ、言えることはひとつ。この戦争は・・・・・・・」
ネイルグは、囁くようにしていった。
「負け始めているな。」

同日 午後11時 ファルグリン郊外
納屋の中に、彼らはひっそりとたたずんでいた。そこに、戸を叩く音が聞こえた。
合言葉があっていることを確かめると、影の1人が入る許可を下した。
そこからフード帽の男が入ってくる。
「皆様、お久しぶりです。活動のほうはいかがですか?」
「うむ。こっちは新たに数人の同志を得た。いずれも、この戦いに疑問を持つものだ。」
フード帽の男、アートル中将が尋ねると、髭面の男は満足そうに応えた。
他のメンバーも似たようなことを報告してきた。
「あの空襲が、よっぽど応えたみたいね。」
女性メンバー、アートルの妹が何かをかみ締めるような表情で言う。
ファルグリンの空襲の報は、行商人や各種ギルドを伝って瞬く間に地方に波及した。
バーマント公国の住人達は恐れている。特に、サイフェルバンから1000キロ圏内にある規模の大きい都市では、
西のほうに住人が逃げ出していると言う報告が、2日前から首都に届いている。
それも2、3件ではない、20件、30件といった多さである。この数は今も増え続けている。
それに乗じるゆすりたかりも起き始めている有様だ。
「それはそうさ。なんと言っても、建国以来常に守り続けられた首都侵攻というタブーを、
敵さんはあっさりとやってのけたんだ。」
「そうだ。そして、その未知の敵の出現により、バーマント国民は皇帝を疑い始めている。
逆に言うと、これは我々にとって大きなチャンスでもある。」
髭面の男は、頬を紅潮させながらまくしたてる。
「あの30年前の戦争で、皇帝は常に疑心暗鬼になっている。しかし、あの皇帝にこの国はもう、任せてはおけぬ。
昔の古きよき時代、子供が笑って暮らせ、皇帝も穏やかな時代に戻さねばならない!」

古きよき時代・・・・・・バーマントも昔は平和だったのだ。
あの血で手を染めるような、大陸統一戦争が続けられている今とは大きく違っていた。
各国との文化交流も盛んに行われ、他の国からはバーマントはとても穏やかな国、と言われたこともある。
昔の前皇帝、エルゲンス・バーマント皇はどんな飢饉に会おうとも、どんな国に攻め入れられても、
そして自分が死に伏す寸前になっても、こう言い続けた。
(穏やかで、そして強さに溢れたバーマント国民なら、どんな試練も乗り越えられる)
と。
だが、それも今では現皇帝のお陰で見る影も無い。
「諸君、我らは前皇帝陛下の言葉を忘れてはいないであろう。今は未曾有の軍勢に攻め入れられているが、話の分からぬ相手ではない。
あの異世界軍は、確かに不意打ちを食らわせてきたが、あれは、いずれ私達はこのようになる。そうなる前にもどうしても戦いを
やめて欲しいという言葉が込められた攻撃だった。」
「そうです!あのララスクリス、クロイッチの惨状を見る限り、実力の差は歴然でした。
あの後の交渉を引き受けておれば・・・・・・・・それをたかだか10万程度の軍勢と見誤ったばかりに・・・・・」
彼らは、一度、米軍側が交渉の席を設けようとした事を知っていた。
だが、度重なる侵攻遅延に理性的な判断の出来なくなっていた皇帝は、交渉の席に着こうとしなかった。
そればかりか、みせしめとしてヴァルレキュアの王都ロイレルを、飛空挺部隊の空襲で焼き払おうとしている。
交渉を蹴った代償は大きかった。
ララスクリス、クロイッチの第1回空襲が終わった後、米軍は7月にその両都市を攻めると思い込ませて、
いきなりサイフェルバンに侵攻してきた。
そして幾多もの艦艇、航空機、そして人員がサイフェルバンに散っていった。
その消耗振りは凄まじかった。
サイフェルバンの味方軍を、飢えた猛獣のごとく喰らい尽くした米軍は、今やバーマントの首都を射程に収めた。
そして今日もまた、大型飛空挺の爆撃により、内陸の都市がまた1つ、燃えた。

「皇帝陛下は、東方軍集団に攻撃を命令されました。」
もはや誰も言葉が出なかった。
恐らく、飛空挺の支援の無い東方軍集団は、非常に苦しい戦いを余儀なくされるだろう。
ああ、なんたることか・・・・・・・
髭面はそう思うと、頭を抱えた。
「もう、時間は無い。」
髭面は顔を上げると、皆を見回した。
「諸君、これ以上不要な犠牲が出る前に、この国を正しい道に進ませねばならない。
革命の準備は、着々と進みつつある。だが、これからも、活動はいつもの通り、焦らず、慎重にやってもらいたい。」
髭面が手を前に差し出す。意図を察したメンバーは、自分の片腕も前に差し出した。
「諸君、国民は知りつつある。そして、国民は望みつつある。
その望みに、我らは応えていこう。バーマントのよき未来のために!」
「「バーマントのよき未来のために!!」」
彼らは決意をあらわに、その言葉を唱和した。
+ タグ編集
  • タグ:
  • US 001-020
  • アメリカ軍
  • アメリカ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー