自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

54

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
9月22日 午前10時 エルヴィント岬
ここエルヴィント岬には監視用の高さ10メートルの監視小屋がある。
この監視小屋は、南西300キロにあるサイフェルバンから来るであろう、米軍の侵攻部隊に備えるためである。
監視小屋は8月の中旬に立てられており、このエルヴィント地方の第121歩兵師団の分隊が、
交代ずつで監視に当たっていた。
岬の左には、砂浜と、少し内陸に住宅地がある。
もし、米軍が侵攻するならば、この砂浜から侵攻してくるであろうと考えられている。
だが、その侵攻を事前に知る手段は、今は無い。
昔は海竜情報収集隊の海竜によって事前情報が伝えられていたが、その海竜も、北西の海に引き揚げてしまっている。
そのため、バーマント兵達はどこに米軍が来るのか全く分からない。
そして、その緊張する日も1ヶ月以上が経った22日。
この日、監視小屋には8人のバーマント兵がおり、3人が望遠鏡で洋上を眺め、2人が対空機銃の手入れ、3人はこの後の行動確認を行っていた。
「畜生め、何時間も望遠鏡をのぞくと、目がチラチラしてかなわんね。」
中央の望遠鏡を覗いていたラスレルグ伍長は、しきりに眉間を押さえる。
長い間、望遠鏡を覗くと視力が低下してくる。それだけではなく、見えてないものまで見たと錯覚してしまう。
このため、望遠鏡を覗くのは3時間までとされている。その交代の時間まであと少しである。
ふと、水平線上に何かが見えた。ラスレルグはおや?と思った。
(また海竜かな?)
彼はそう心で呟く。実は1週間前、彼は敵艦発見と大声で叫んでしまった。
たちまち分隊中が騒然となった。

だが、それは老齢の海竜が水上でのんびり泳いでいたのを敵艦と間違えてしまったのである。
このため、ラスレルグは分隊長から大目玉を食らった。
サイフェルバンが陥落してから、軍の将兵はどこか殺気立っているようにも見える。
その問題のアメリカ軍は、9月初めの味方の攻勢を弾き飛ばして以来何ら行動を取っていない。
そのアメリカ軍の静けさが、逆にバーマント兵にとって不気味に思えた。
その言いようの無い圧迫感が、ラスレルグが海竜を米艦と誤認した原因だと皆からは言われている。
その彼が、不審なものを見つけた。一旦望遠鏡から目を離し、目をこする。それでもう一度眺めてみる。
(いない・・・・・やっぱりあれは見間違いか)
彼はそう思った。
その時、水平線上からうっすらと、何かの影が現れた。それも複数である。
「?」
ラスレルグは不思議に思った。味方艦なのだろうか?
影はますます増えていく。そして、気がついた頃には、水平線上には30以上の船が姿を現していた。
「ぶ、分隊長!」
右隣の同僚が、悲鳴のような声で分隊長を呼ぶ。呼ばれた分隊長は慌ててハシゴを上り、見張り室に入ってきた。
「何事か?」
「こ、これを!」
同僚は望遠鏡を分隊長に譲った。分隊長が固定された望遠鏡を覗き込む。
隣で彼の顔色を見ていたラスレルグは、分隊長の顔色が、がらりと変わるのが分かった。
「み、味方でしょうか?」
「バカモン!あれは敵だ!アメリカ軍がやってきたんだ!」
分隊長は望遠鏡から飛び退くと、すぐに監視小屋を降りて行った。
「魔道師!すぐに連絡だ!」
下で分隊長が魔道師を呼んでいる。その間にも彼は望遠鏡を眺めた。うっすらとだが、遠くの上空に幾つもの黒い粒が見える。
それはやがてぶつぶつと増えて行き、しまいには100を越す数に至っていた。
「敵飛空挺らしきもの100機確認!」
ラスレルグは上ずった声でそう叫んだ。
「来た・・・・・ついに白星の悪魔が・・・・俺達を殺しに来たんだ!!」
左隣の図体のでかい兵士が、頭を抱えて喚いた。
彼らは知らなかったが、この100機の飛空挺は、第58任務部隊の第1、第2任務群から発艦した戦爆連合120機の編隊だった。
目指すはエルヴィントにある最近出来たばかりの軍需工場であった。

9月23日 午後11時40分 バーマント公国カルリア
目の前には、高々と聳え立つ城塞がある。
そう、この城塞こそ、現皇帝に疎まれ、粛清されたグリフィン第3皇子が収監されているカルリア監獄だ。
その城塞の所々には破壊された箇所や爆炎で撫で付けられた後がある。23日早朝の空襲によるものだ。
「全隊、止まれ!」
第232歩兵旅団はカルリアより南8キロのユウルリアからカルリア防衛の任を受けて転進してきた。
そして、ユウルリアに駐屯していた2個旅団は、1個旅団が23日午後までに南方に急送され、1個旅団が空襲によって戦力が減少している。
第232歩兵旅団は、エルヴィントに急送した1個旅団の代わりとして急遽カルリアに向かわされたのである。
(少々驚いた事もあったが、事は順調に進んでいる)
先頭を歩いていた第232歩兵旅団長、アレルグ・キリーファン少将はそう確信した。
顔つきは精悍で、日に焼けている。体はがっしりしていて、その腕っ節はなんら、若い精兵に劣らない。
止まれの指示を受けた旅団は、全員が行き足を止める。
かがり火がずっと奥まで続いている。7000人の将兵が、街道を埋め尽くしている。
「本日、我々は決起する!」
キリーファン少将の明瞭な声が響き渡る。
「今まで、我々は耐えてきた。現皇帝のどんな命令にも耐えてきた。だが、もはや、耐える時代は終わった。
味方を平気で見捨てようとする現皇帝を尊敬できるか?否!国民をうその情報でごまかすか?否!断じて否だ!!」
彼は拳を振り上げて、将兵に熱く語る。
「偽りが賞賛される時代は、終わったのだ!そして、我々は時代を作る!偽りが、そして愚考が賞賛されぬ時代を!
我々は、ただ今を持って、革命軍になる。我らの目的は、あの忌まわしき体制派の支配する、カルリアからグリフィン殿下を救う。
諸君!新たな時代は、我々にかかっている!勝利を、我らの手に!」
「「勝利を、我らの手に!!」」
旅団の兵は、一斉に気勢を上げた。目指すは、カルリア監獄。

9月22日のエルヴィントは、米機動部隊の空襲によって大混乱に陥った。
午後1時までに200機の米艦載機が来襲し、施設や陣地などを壊しまくった。
午後には新たに300機の米艦載機が3波に分かれて来襲し、
大は司令部から小はエルヴィント岬の監視小屋まで、散々に暴れまわった。
米機動部隊はこれだけに留まらず、第4群の艦載機78機が北200キロのユウルリアまで来襲し、
ここでも傍若無人な銃爆撃を繰り返した。
ユウルリアの第232旅団は幸いにも人員の被害は無かったが、旅団の糧秣施設や倉庫などが叩き潰された。
他にもユウルリア南70キロのベイエリオにも米艦載機54機が来襲し、ここでもバーマント軍関係の施設を襲った。
ベイエリオでは、軍施設だけではなく、市庁舎も銃爆撃を受けた。
空襲を受けたのは午後4時で、市庁舎は既にもぬけの殻であったが、米軍機はこの装飾の入った市庁舎に容赦なく爆弾をぶち込み、
機銃弾を撃ち込んでただの巨大な粗大ごみに変えてしまった。
22日だけで、米機動部隊はバーマント本国の東海岸一体を荒らし回ったのである。
そして、その機動部隊の艦載機はこのカルリアにも現れた。
この敵偵察機は1時間ほど偵察して引き返していった。
翌日の23日、カルリア地方に第58、3任務群から飛び立った140機の攻撃隊が襲い掛かった。
カルリアには監獄の他に、飛行場と2個旅団の駐屯地、錬兵場がある
。米艦載機はまず、飛行場と第237騎兵旅団の駐屯地に襲い掛かり、滑走路と駐屯地に銃爆撃を浴びせた。
午前10時には第58.4任務群から発艦した120機の攻撃隊が別の旅団の駐屯地
(この旅団はエルヴィントに移送中)とカルリア監獄に襲い掛かった。
この空襲で、カルリア監獄に爆弾12発が落とされた。
このカルリア監獄を襲撃した部隊は、空母レキシントンのヘルダイバー12機と、ヘルキャット12機で、
18あった機銃座のうち、7つが爆弾で叩き壊され、8つがヘルキャットの機銃弾で制圧された。

また、監獄敷地内にある1階建てのレンガ造りの処刑場と、監獄のシンボルでもある築30年の
巨大な木造の城門が1000ポンド爆弾によって破壊された。
カルリア地方を襲った米艦載機はこの2波だけである。

城塞の大正門の破片を片付けていたジリーグ・ピランツア中尉は、ふと、不審なものを見かけた。
監獄に繋がる道に、無数の黒い人影がある。
それらはかがり火を焚いて、淡々とした調子で向かって来ている。
「手伝いに来たんですかね?」
彼の部下の軍曹が、疲れたような表情で言ってきた。
城門の破片を片付ける作業は意外に難関だった。
木造で高さ4メートル、幅6メートルもある城門は頑丈な作りになっているはずだったが、
ヘルダイバーの1000ポンド爆弾は難なくこの頑丈そうな城門をぶち壊した。
実を言うと、ヘルダイバーの爆弾は城門から内側10メートル離れた機銃座を狙ったものであるが、
たまたま城門のすぐ前に着弾した。
爆風は凄まじいもので、たちまち厚さ60センチの城門は下部分が吹飛ばされ、大量の木屑をばら撒いた。
城門の修復作業をするにはまず、破壊された木造の扉を撤去し、破片を集めなければならない。
この作業は交代でピランツア中尉は2直目になる。
作業を開始してから2時間。だいぶ破片も取れ、城門の撤去作業も大詰めを迎えつつある。
そんな時に、不審な集団に出会ったのである。
「手伝いにしては・・・・・」
数が多すぎる。普通、道のずっと向こうまで人が埋め尽くすはずが無い。

「人が多すぎだぞ。なんか怪しいな。」
ピランツア中尉はそう思った。
「そういえば、ユウルリアから第232歩兵旅団が来るらしいですよ。
なんでも、エルヴィントに移送された精鋭旅団の埋め合わせとかで。」
「ふーん。」
ピランツア中尉は適当に応える。
「全く、アメリカ軍の奴ら、やりたい放題やってくれたもんですよ。」
部下は憎憎しげにそう言う。不審な集団は、監獄まであと700メートルと迫っている。
「今日は家に帰って、恋人と一緒に夜を楽しもうと思ったのに。それが、こんな作業に追われるなんて。
敵の機動部隊もここに誰が収監されているかわかっちゃいるんですかね?」
「分かっていないから攻撃したんじゃないのか?まあ、敵さんが多くなかったから、被害が少なくてよかったけど。」
彼は収監者を思い出した。収監者は元王族のグリフィン・バーマントである。
そして視線を不意に向かってくる集団に向けた。
その時、彼の脳裏に不吉な思いがよぎった。
(もしかして、あの集団は、反逆者を奪還する兵力だとしたら)
相変わらず、不審な集団はゆっくりと向かっている。
あまりにも不審に思ったのか、完全武装の警備兵が20人ほど、門の前に立ちはだかった。
その時、
「「ウオー!!」」
という気勢を上げる声が聞こえた。その声に仰天した兵はみな、作業を止めて門の外に振り返った。
いきなり、集団が走り始めた。雄たけびを上げながら急速に門に(門跡と言った方がよい)迫りつつあった。
「止まれ!貴様達はどこの部隊か!!」

警備兵が一斉に小銃を向ける。
しかし、集団は足を止めない。そして彼らが掲げている旗に思いがけない文字があった。
「革命」
その文字を見たピランツア中尉は背筋が凍りついた。
「あいつらは叛徒だぞ!!」
同じ文字を見たのか、部下が顔を真っ青にして叫んだ。警備兵が小銃を放った。
数人が撃たれて倒れ、あるいはよろける。
だが、手遅れだった。洪水の如く接近してきた集団は、立ちはだかっていた警備兵をたちまち蹴散らしてしまった。
小銃、長剣を振りかざした不審な集団は、あっという間に監獄内になだれ込んだ。
ピランツア中尉はあまりの恐ろしさにその場から逃げ去ろうとした。
だが、いきなり後ろから何者かに掴まれ、引きずり倒されてしまう。
転倒したピランツア中尉は唯一の武器であるナイフを取ろうとした。
だが、左の腰のナイフはあっさりと取り上げられてしまった。
彼を倒し、ナイフを奪った兵士は、彼の胸を踏みつけると顔面に小銃を向けた。
「降伏するか!?」
その男性兵士は物凄い剣幕で彼を睨み付けた。否と答えればすぐに殺す。そんな雰囲気が漂っている。
「わ、わかった。降伏する。」
そう言うと、ピランツア中尉は納得がいかないままうつ伏せにされ、両手を後ろ手で縛られた。
男の腕章には、第232歩兵旅団のマークがある。
この時、中尉は第232歩兵旅団が反乱を起こしたとようやく分かる事が出来た。
事件がおきてからわずか2分ほどの事である。

第2連隊は監獄の東棟を占拠するように命じられていた。
カルリア監獄は、東棟、西棟に別れていて、それぞれが6階建ての建造物となっている。
各階には政治犯用の独房が40部屋あり、東棟、西棟合計で840名の囚人が収監できる。
この日は540名の囚人が収監されており、東棟には213名が独房に入れられていた。
監獄突入部隊は第1、第2連隊の計3000人。包囲部隊は第3、第4、第5連隊4000人である。
これに対し、監獄側は守備隊が1000人、警備兵が200人、計1200人しかいない。
それが各所に散らばっているため、監獄側は常に3倍近い敵を相手しなければならない。
第2連隊に所属する第2大隊の第6中隊は監獄の4階部分に突入しようとした。
先頭の兵が4階の警備兵詰め所に近づいた時、無数の銃弾が襲い掛かってきた。
先行していた2人が不意打ちを食らって倒れる。
残りはなんとか這って味方の元に引き返す。攻勢魔法の爆発の閃光が走り、幾人かが一時的に視力を失った。
ここの敵は意外に頑強であった。蟻一匹通さぬとばかりに、銃弾、攻勢魔法を浴びせてくる。
中隊長のエルフェルム中尉は、4階の敵が頑強に抵抗している事に何かが引っ掛かるような感じがした。
他の階でも戦闘が繰り広げられているが、どこも反乱側が押している。だが、ここの敵だけはある種の気迫が感じられる。
(なるほど・・・・・ここの階に殿下がおられるな)
エルフェルム中尉は確信した。
(ならば、それを打ち砕くのみ!)
彼はそう決意すると、後ろを振り返った。
「おい!例のヤツを持って来い!勇者からの贈り物だ!!」
彼の声に触発されて、1人の兵士が肩に担いでいた長い布を渡す。それを受け取ると、エルフェルムは布を取っ払った。

それは、驚く事なかれ、米軍のロケットランチャーである。
実は移送前の21日に、ユウルリア沿岸に2隻の米潜水艦が秘密裏に接近していた。
アルバコアとガバラは、2艦合計で120個のロケットランチャーを、指導員つきでバーマント側の革命勢力に渡した。
指導員は捕虜から志願したバーマント人で、この作戦の前にロケットランチャーの使い方を米側の教官から習得していた。
そのロケットランチャーが、威力を発揮するときが来た。
「敵は100メートル前方の事務所にいます。結構腕の立つ奴がいますよ。」
「奴らも必死なのさ。」
エルフェルム中尉は部下が弾を込めるのを確認した。
「俺たちも必死だけどな」
彼はそう言って、ニヤリと笑みを浮かべる。すぐに左に顔を向け、待機していた女性魔道師に顎をしゃくる。
意味を理解した女性魔道師は、左腕前に出し、呪文を唱えた。
呪文詠唱が3秒ほど続いた後、通路にボフッ、という音が鳴り、黄緑色の煙幕が現れた。
一瞬戸惑ったのか、向こう側から銃撃が止む。当然向こうも魔道師がいる。
魔法で作られた煙幕は当然打ち消す魔法を持っている。
その一瞬の隙を付くかのように、エルフェルム中尉はバズーカを構えた。
煙幕が打ち消されるまでわずか3秒。その間にバズーカの引き金を引くのである。一歩間違えれば、返り討ちにあう。
それを承知で、彼は構えた。肩膝をつけ、右肩にかつぐ。そして煙幕の彼方に向けて引き金を引こうとした。
その瞬間、煙幕がパッと消えた。
「食らえ!」
彼はそう叫ぶと同時に引き金を引いた。バシュウ!という音と共にロケット弾が撃ち出された。
エルフェルムはすぐに左の物陰に飛び退く。彼が立っていた場所に無数の銃弾が撃ち込まれる。
次の瞬間、ドーン!という轟音が鳴り響いた。
ガラスの割れるけたたましい音が鳴り、爆風が彼らの待機している所まで吹き荒れる。

「突撃ぃ!」
螺旋階段で待機していた兵達が起き上がり、一斉に通路に踊りだす。
全力疾走で警備兵詰め所に突っ込む。
よろめきながら出てきた警備兵を味方兵が取り押さえて捕縛する。
警備兵詰め所には20人の警備兵、守備兵がいたが、ロケット弾の爆発で6人が死亡、14人が負傷していた。

「指揮官!首都から通信であります!」
4階の奥に立てこもる部隊の指揮官に、魔道師が書いた通信文を渡す。
「直ちに、グリフィン・バーマントを・・・・処刑せよ。発、グルアロス・バーマント皇帝」
指揮官は頷くと、残りの部下12人を見渡した。
「これより、反逆者の処刑を行う!これは、皇帝陛下直々の命令である!」
カイゼル髭の指揮官は威圧するかのように大声で言う。突然の事態に、誰もが唖然とする。
今、カルリア監獄は未知の勢力に襲撃されている。
既に4階の第1防御線は突破されている。今は第2防御線が踏ん張っているが、敵は圧倒的多数である。
いずれ押し切られるのは目に見えている。
それに、この急な命令文、もしかして、首都まで反乱勢力に襲われているのだろうか。
恐らくそうだろう。そうでなければ、こんな急な命令は送りつけてこない。
「わかりました皇帝陛下。貴方への最後のご奉仕、しかとやらさせていただきます。」
指揮官はそう言うと、部下達を率いてとある独房に向かい始めた。
向かう独房は、グリフィン・バーマント収監されている独房である。
(もはやバーマント皇の公国は無くなるだろう。だが、自分は皇帝陛下に忠義を尽くした身。
それならば、私は最後の最後まで、皇帝陛下の言うとおりにしよう)
指揮官は昔からバーマント皇の対外政策に賛成だった。
彼は30年前の戦争で、12歳のときに両親を亡くしていた。

その時から、彼は大陸を統一さえすれば戦争は無くなると思い込んでいた。
その事から、本来の仕事。反乱者の死刑執行は嬉々として行っていた。
「公国の素晴らしき政策に反するものに必要なのは牢獄ではない。死である。」
指揮官は常日頃からそう公言している。
そしてこの時も、最後の“仕事”をこなすべく、独房に向けて歩みを重ねていた。
(皇帝陛下の政策に一番反対し、挙句の果てに反乱者と手を結び、国家転覆を図った反逆者、
グリフィン元殿下を処刑できるとは、私の最後の仕事にこれほどふさわしいものはないだろう。
皇帝陛下、感謝いたしますぞ)
指揮官はそう心の中で呟くと、不気味な笑みを浮かべていた。
指揮官、殺人狂のヴレルのあだ名で呼ばれるヴレンデルス大佐はグリフィンの独房が見えるのを、今か今かと待っていた。
左の角を曲がれば、グリフィンの独房はすぐそこである。
角を曲がった。そして待望のときがやってきた、と思った時、少々意外な光景がそこにはあった。
独房の前には、監獄副長のルワイス・エルレイドと付き添いの女性秘書と男性魔道師がいた。
「やあヴレンデルス大佐。」
「これはこれは、エルレイド副長。どうしてこのような場所へ?」
「ああ、実はな。中の反逆者を処刑せよと私の魔道師に陛下からの直接命令が来たのだ。」
「なるほど・・・・・副所長。その仕事は我らにお任せ願い無いでしょうか?」
「仕事か。うむ。」
エルレイド副長は頷いた。ヴレンデルス大佐らは再び歩き始めた。独房まであと3メートルの位置に来た。
その時、前の通路から味方の兵が、慌しくやってきた。どれもこれも、顔が酷く汚れている。
「副長、すぐに・・・・」
「・・・・そうか。わかった。」
ヴレンデル大佐は第2防御線から逃げてきたなと思った。その兵士達は第2防御線で見かけた事がある。
(おそらく、脱出を促そうとしているのだろう)

彼はそう確信すると、その兵士達に顔を向けた。
「脱出もいいが。私達は最後にもう一仕事をやらねばならんのだ。だから少しばかりでよい。時間を稼いではくれないか?」
「・・・・・・分かりました。」
兵士達の指揮官らしい先頭の男が頷いた。
(これで、最後の仕事を終わらせられる)
そう思った瞬間、いきなり兵士達がヴレンデル大佐らに飛びかかった。大佐は指揮官の男に思い切り顔面をぶん殴られた。
いきなりの不意打ちに、彼らはなすすべも無く叩きのめされた。数は大佐らが13人、兵士達が7人と優勢であった。
だが、まさか味方が殴ってくるとは思わなかった。彼らは味方だと思って安心しきっていたのだ。
しかし、それはとんでもない間違いだった。ヴレンデル大佐らは、縛り上げられる時に彼らが敵だと確信した。
しかし、時既に遅し。
13人はわずか1分も経たないうちに全員が床を這わされる結果となった。
「くそ、貴様ら!これはどういうことか!?」
左頬を赤く腫らしたヴレンデル大佐が彼らを睨みつける。
「どういうことだと?」
副長がせせら笑う。
「つまり、こういうことなのだよ。」
副長は独房の鍵を開けた。
中から、粗末な囚人服を着た金髪の若い男が、のっそりと現れた。
「殿下、お待たせいたしました。」
副長と、秘書、男性魔道師、そして兵士達は肩膝を地面に付け、右手を胸につけて頭をたれた。
グリフィンはあたりを見回した。10人ほどの男が縛り上げられ、それ意外が自分に対して頭をたれている。
「貴方達が、僕を助けようとしたのですね。」
「はい。その通りであります。」
副長のエルレイドが顔を上げた。気がつくと、銃声は4階から鳴らなくなっていた

午前0時20分 エルヴィント岬沖北東160マイル沖
スプルーアンス第5艦隊司令長官は、個室で眠っていた。
その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。
最初は遠くから聞こえるようであったが、徐々に鮮明になってくる。
目を開けたスプルーアンスは、ドアの向こうに答えた。
「入れ。」
その声が聞こえたのだろう、ドアの向こうの主が失礼しますと言ってくる。
ドアが開かれ、廊下の薄明かりが長官公室に差し込む。
入ってきたのはアームストロング中佐である。
「長官、緊急信が入りました。」
「読んでみろ。」
スプルーアンスは姿勢を起こした。
「レキシントン搭載のアベンジャーからです。我、カルリア監獄で暴動らしきものを確認せり、以上であります。」
「そうか。革命勢力がついに決行したか。」
スプルーアンスは珍しく、満足そうな表情を浮かべた。

話は少し遡る。
9月20日、突如、降伏してきた6人のバーマント兵はいきなり上層部の人に合わせてほしいと頼んできた。
最初、現地指揮官は彼らの話をまともに聞かなかったが、詳しく聞いてみると、彼らは革命決行の日時を教えると言って来たのだ。
これに飛びついたのが第5艦隊司令部で、スプルーアンスらはすぐさまインディアナポリスから、
サイフェルバンの第5水陸両用軍団司令部へと向かった。
話は明け方まで続いた。
話によると、バーマント公国の革命勢力は9月24日を期に一斉に革命を起こすと、第5艦隊司令部に伝えてきた。

その決行日時までに、東部のとある地方になんらかの攻撃を加え、敵の目を逸らしてほしいと言って来たのである。
米上層部はすぐに協議に取り掛かった。そして出来上がったのが今回の偽装侵攻作戦なのである。
まず、侵攻前に潜水艦2隻でユウルリアの決起軍に武器を貸与する。
潜水艦が出航したあとは第58任務部隊の全任務群、そして80隻の輸送船団が抜錨し、エルヴィント沖に向かった。
そして輸送船団をこれ見よがしにエルヴィント沖に現し、エルヴィントを始めとする
東部一帯を機動部隊の艦載機で爆撃する事で、バーマント側にあたかも、米軍が新たな侵攻を
行おうとしていると思わせようとしたのである。
バーマント皇を始めとするバーマント側上層部は、東部海岸を荒らし回る米機動部隊と、
突如として、エルヴィント沖に大挙して現れた米軍輸送船団に仰天した。
「すぐに増援部隊をエルヴィントに向かわせよ!!」
バーマント皇は直ちに増援部隊の派遣を命じた。
そして、有力部隊を最も重要な場所に貼り付けず、決起軍にその場所に向かわせてしまうと言う
致命的なミスを犯したのである。
それに気が付いたときは、もはや後の祭りであった。

午前0時30分 カルリア監獄
監獄の周囲は、第232歩兵旅団の将兵に取り囲まれていた。
そして、監獄の各所は猛烈な攻勢によって次々に陥落、守備兵、警備兵達は降伏した。
監獄の入り口に、周りを囲まれながら出てきたグリフィンの姿があった。
兵士達は、作戦の成功を祝すかのように、小銃、長剣を上に掲げ、しきりに新生バーマント万歳!を叫んでいた。
「殿下、この兵士達は、あなたと同じ志を持つものたちです。」
グリフィンは思わず感激してきた。今まで、自分は孤立無援だと思っていた。
これまでただ、独房で暇を持て余し、そして無機質に1日を終える生活をしていた。
そしてこれからも続くだろう。彼はそう確信していた。したはずだった。
だが、今ではどうか。2年半前に絶滅していたはずの反対派の芽は生きていたのだ。
「あなたはもう、孤立無援ではありません。」
副長は感慨深げにそう言った。
自然に、周りの声が静まって行く。やがて、声は聞こえなくなった。
誰もが、グリフィンを見つめている。
何かを待っている。兵士達は、確かに待っていた。グリフィンの決意を。
「みんな。」
グリフィンは良く透き通る声で、将兵達に語りかける。
「私のために、この様な事をしてまで尽くす精神はとても誇りに思う。ありがとう。」
グリフィンは皆に向けて、一礼した。

「皆も知っていると思うが、もはや、このバーマント公国はもとの姿とは遠くかけ離れたものとなってしまった。
他の国々は統一派の侵攻で次々と滅び、荒廃した国も幾つかある。そして、今も、おろかな政策に幻惑された
同胞達が、ヴァルレキュアを狙っている。」
グリフィンは表情を曇らせる。
「だが、我々はそのような政策には屈しない。そう、悪しきバーマントの国策は、この日をもって終わるだろう。
いや、終わらせる!そのために、我々は立ち上がった!諸君、皇帝に怯え、ゴマすりをする時代はもう終わった。
これからは、かつてのような、穏やかな国だと言われるように戻る。だが、戻るには試練を超えていかなければならない。
そう、今。今この時だ!これからは、厳しい試練が待っているだろう。だが、我々バーマント人が誇りとする、
粘り強さを持ってすれば、この試練にも打ち勝つはずだ!」
グリフィンは、自分が思っていたことを全てぶちまけた。
「諸君、1つだけ聞いておこう。本当に・・・・・私でいいのだな?」
グリフィンは皆に問うた。そのこへ、1人の女性兵士が歩み出た。
「殿下。そのために、我々はここに来たのであります!」
彼女の言葉に触発されたように、兵士達は言葉をグリフィンに浴びせた。
「分かった。みんなの気持ち。私は確かに受け取った。」
グリフィンは、旅団長の剣を借りた。それを、彼は高々と掲げた。
「私と共に、昔のバーマントを取り戻そう!」
「「バーマント公国万歳!!!!」」
何千人という大人数の雄たけびは、轟々とカルリア、そして大陸の大地に響き渡った。
+ タグ編集
  • タグ:
  • US 001-020
  • アメリカ軍
  • アメリカ
ウィキ募集バナー