自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

220 外伝41

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175 :外伝:2009/05/20(水) 20:27:20 ID:p7nj.31.0
『ふらいみ~とぅ~ざむぅ~ん♪』
『よしなさい』
『ブー!い~じゃないせっかくの夜間飛行なんだから歌のひとつやふたつ』
『前々から言おうと思っていたけれどアルク、貴女には使命感とか真剣味とかいうものが今一つ足りないと
思うの』
『あたしに言わせるとアルトは肩に力が入りすぎだにゃ~』
『貴女ねえ…』
『あ~お嬢さん方、お客さんが見えたようだぞ?』
CVL-27ラングレイのCICから指示を出す戦闘機管制官の連絡を聞いて、二人の無駄口はピタリと止
まった(一時的にだが)。
その年の5月下旬から6月上旬にかけて、西海岸沖では夜間飛行中の航空機が突然消息を断つという事件が
連続して起きており、海上を漂流しているところを救助されたパイロットの証言で、どうやら未知の飛行生物の襲撃によるものらしいということが判明した。
アメリカ海軍は対抗策としてF6F-5Nを装備する夜間戦闘飛行隊VF(N)-91の投入を決定。
怪生物の迎撃に送り出されたのは、夜間の空中戦にかけては部隊一の技量を持つアルトネスティとアルクネ
ストラの双子のヴァンパイア姉妹であった。
VF(N)-91のホームベースとなっている軽空母のCICでは、PIPスコープにプロットされた二機
の夜間戦闘機と、未知の怪生物の動きに全員の注目が集まっている。
その中には二人の特別ゲスト、記念すべきレスタン人戦闘機乗りの初陣を見届けるべくやって来た自由レス
タン軍のブランドー伯爵と、ミスカトニック大学で教鞭を執る未確認生物学の泰斗、ツェペリ教授がいた。
ちなみにブランドー伯爵は俳優のピーター・カッシングに、ツェペリ教授はドナルド・プレザンスに瓜二つ
で、この二人が並んで立っているだけで、現代科学の粋を尽くした航空母艦のCICが、往年のハマー・
プロダクションが製作した怪奇映画のワンシーンのような、ある種のいかがわしさが充満した空間に変質し
てしまっていた。
『ターゲットは君達から見て二時の方向、ほぼ同高度にいるはずだ』
『了解、こちらのレーダーでも捕捉しました』
『ていうか、あたしらなら目視でも全然いけるけどねー』
『そういうことは、思ってても口には出さないものです』
などと言っている間にも夜の狩人であるドラキュリーナ姉妹の瞳は接近する怪生物の姿を目敏く捉えてい
た。
後に「フライマンタ」と命名されるその生物は、なるほど地球産のエイによく似ていた。
サイズは中型爆撃機ほどもあったが。

176 :外伝:2009/05/20(水) 20:28:28 ID:p7nj.31.0
さらに目も鼻も口も無く、頭部から突き出した二本の触角、P-59エアラコメットのエアインテイクのよ
うに横腹に空いた用途不明な二つの穴、細長い尻尾の先から伸びるY字形の尾鰭はどことなく近未来の航空
機をイメージさせる。
だが、全身をのらりくらりと波打たせ、泳ぐように飛行する動きは間違いなく生物(ナマモノ)のそれだ。
『あら、可愛い』
『キモッ!』
同時に発せられた双子の感想は申し合わせたように正反対だった。
『アルト、この航海が終わったら目医者に行こう』
『ああアルクあの愛らしさが理解出来ないなんて、やっぱり幼少期の情操教育に問題があったのね』
なにこの双子漫才?
怪生物はそんな二人に向って頭部の触角からショッキングピンクの怪光線を発射する。
『おっと、くそ!』
『―――――ッ!』
アルクは盛大に罵り声をあげ、アルトは僅かに口元を歪めて、互いに反対方向にロールを打つ。
二人が吸血鬼の優れた反応速度を持ち合わせておらず、二人の機体が補助翼にスプリングタブが無く、横転
性能の劣るF6F-3だったら避けきれなかっただろうが、二機のヘルキャットは見事に避けた。
だが安心する暇は無い。
フライマンタは巨体に似合わぬ軽快な動きで、海面に向って螺旋降下を続けるアルク機の動きにぴたりと追
従してみせただけでなく、ぐんぐんと距離を詰めていた。
『ぬお!アルクちゃんスーパーピンチ?』
『苦しいときこそ歌うのよ、さんはい』
『い~と~まきまき、ってゴラァ!』
口では怒鳴りつつも微笑むアルク。
彼女の目には斜め宙返りを打ってアルク機と交錯する軌道に乗り、今まさにフライマンタの頭上から逆落と
しに襲いかかろうとするアルトのヘルキャットが映っていた。
Mk8照準器に投射されるオレンジ色のピパー(リングは輝度が強すぎて夜の一族の鋭敏な視力を損なうた
め、改修によってピパーだけが投射されるようになっている)にフライマンタの灰色の背中をとらえたアル
トは、恋人の■■■を扱うように繊細なタッチで、操縦桿に取り付けられたトリガーをまさぐる。
戦闘機に搭載された武装を斉射する瞬間、アルトはいつも性的快感を覚える。
今回、初の実戦で照準器に獲物を捕えてのそれは原爆級だった。
子宮の奥で炸裂したエクスタシーは背骨に沿って、シベリア超特急のような勢いで脳天めがけて駆け上がる。
「AHA……」
思わず漏らした声は電波に乗ってラングレイのCICに届いただけでなく、気を利かせた管制官が繋いだ艦
内伝達系を伝わって、全てのスピーカーに流されていた。
思わず前屈みになった乗組員の数は三桁に達したという。

177 :外伝:2009/05/20(水) 20:29:42 ID:p7nj.31.0
そんなドタバタは一切関知せず、六挺の機関銃から発射された銃弾は純然たる物理法則に従い、毎秒800
メートルを越すスピードで標的に突き刺さる。
悲鳴はなかった。
噴き出す血しぶきも、飛び散る肉片もなく、ゴムのような表皮に直径0.5インチの丸い穴が無数に空いた
だけだった。
それでもなにがしかのダメージはあったようで、フライマンタは大きく身震いするとアルク機から離れ、よ
ろめきながら高度を下げていく。
『もうずっと私のターン!』
猛烈な勢いで後を追うアルクのヘルキャット。
アルトは信頼する妹に後を任せると、浅い角度の上昇旋回でアルク機を援護する位置につく。
アルクは六挺の機関銃を撃ち放しにしながらフライマンタに肉薄する。
曳光弾の帯に包まれた怪生物は、真っ逆様に海面に突っ込み、盛大な水飛沫をあげた。
『ケツ舐めな!』
キャノピーを開け放ち、よくない手つきをするアルクを見て、アルトは頭を押えた。
『女の子はエレガントに…』
三日後、ロブスターを獲っていた漁船の網に、海底で傷を癒していたフライマンタが引っ掛った。
早速ミスカトニック大学に運ばれ生態調査が行われたところ、フライマンタは元来大変大人しい生物で、特
定の周波数の航空無線に対してだけ過激に反応することがわかった。
ツェペリ教授は語る。
「私の同僚のクラシック愛好家の隣りに毎晩大音量でデキシィを鳴らす奴が越してきたんだがね、奴さんと
うとう三日目の晩に44口径のウインチェスターを持ち出したよ。つまりはそういうことだ」
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