1098年 11月2日 午後8時
リリアは、数枚の紙を手に取ると、レイムに渡した。レイムは厳しい目つきで、一枚一枚目を通す。
「よし。」
彼女は納得したような表情で、小さく呟く。
「構成はこれでいいわ。リリア、次の式の書き出しに入って。」
「はい。」
リリアはそっけなく返事すると、羽ペンにインクをつけて、紙に構成式を書いていく。
レイムは、5人の仲間と共に、首都ロイレル近郊の家屋で、ある魔法の構成を行っている。
その魔法は、半年前にこの世界に呼び寄せたアメリカ軍を、元の世界に戻す帰還魔法である。
彼女達の寝床は、2階建ての木造建築物で、召喚時に使用したボロ屋と遜色ないほど古ぼけた建物である。
現在、チームは2つに分かれており、1チームはローグ・リンデル、ナスカ・ランドルフ、フレイヤ・アーバインの3人で、
彼らは儀式を行うときに必要な薬や魔法石を調達する。
もう1チームは、レイム・リーソン、マイント・ターナー、リリア・フレイドの3人で、
彼女達は魔法の重要な部分の構成式を日々組み上げている。
この作業は10月17日から始まっており、既に2週間が経過している。
当初は12月半ばまでかかる予定であったが、実際のところは11月の中旬辺りに術式が完成し、
25日までには帰還儀式を行う見込みである。
本来は、12月半ばでではなく、1月末にずれ込む可能性が高かった。しかし、第5艦隊司令長官のスプルーアンス大将は、
「元の世界でも、我々を待っている者たちがいる。この世界での戦争は終わった。
だが、自分達の世界の戦争はこれから激しくなるのだ。私は元の世界の戦争も早く終わらしたい。
そのためにも、君達には無理をかける。不本意ではあるが、どうか、帰還魔法の早期完成をお願いしたい。」
スプルーアンスは、術式の早期完成を強く望んでいるのだ。
リリアは、数枚の紙を手に取ると、レイムに渡した。レイムは厳しい目つきで、一枚一枚目を通す。
「よし。」
彼女は納得したような表情で、小さく呟く。
「構成はこれでいいわ。リリア、次の式の書き出しに入って。」
「はい。」
リリアはそっけなく返事すると、羽ペンにインクをつけて、紙に構成式を書いていく。
レイムは、5人の仲間と共に、首都ロイレル近郊の家屋で、ある魔法の構成を行っている。
その魔法は、半年前にこの世界に呼び寄せたアメリカ軍を、元の世界に戻す帰還魔法である。
彼女達の寝床は、2階建ての木造建築物で、召喚時に使用したボロ屋と遜色ないほど古ぼけた建物である。
現在、チームは2つに分かれており、1チームはローグ・リンデル、ナスカ・ランドルフ、フレイヤ・アーバインの3人で、
彼らは儀式を行うときに必要な薬や魔法石を調達する。
もう1チームは、レイム・リーソン、マイント・ターナー、リリア・フレイドの3人で、
彼女達は魔法の重要な部分の構成式を日々組み上げている。
この作業は10月17日から始まっており、既に2週間が経過している。
当初は12月半ばまでかかる予定であったが、実際のところは11月の中旬辺りに術式が完成し、
25日までには帰還儀式を行う見込みである。
本来は、12月半ばでではなく、1月末にずれ込む可能性が高かった。しかし、第5艦隊司令長官のスプルーアンス大将は、
「元の世界でも、我々を待っている者たちがいる。この世界での戦争は終わった。
だが、自分達の世界の戦争はこれから激しくなるのだ。私は元の世界の戦争も早く終わらしたい。
そのためにも、君達には無理をかける。不本意ではあるが、どうか、帰還魔法の早期完成をお願いしたい。」
スプルーアンスは、術式の早期完成を強く望んでいるのだ。
そもそも、彼女達が強引にこの世界に連れ込んできたのだ。
そして、スプルーアンス率いる異世界軍は、最初は自分達に反発しながらも、期待以上に活躍し、
大陸から戦火を消すばかりか、世界を破滅の危機からも救った。
その彼らにはいくら礼を言っても足りない。
星の国から来た勇者達は、早く帰る事を望んでいる。
その彼らの願いをかなえるために、レイム達は睡眠時間を削ってでも、術式を完成させようと、日々奮闘している。
睡眠時間は最長で5時間、最初の頃などは3時間もなかった。
レイム達とは比較的楽な仕事を任されているローグらでも1日6時間以上は寝ていない。
メンバー達の疲労は段々重なりつつある。だが、それを承知で、メンバー達は自らの仕事を淡々とこなしつつあった。
そして、スプルーアンス率いる異世界軍は、最初は自分達に反発しながらも、期待以上に活躍し、
大陸から戦火を消すばかりか、世界を破滅の危機からも救った。
その彼らにはいくら礼を言っても足りない。
星の国から来た勇者達は、早く帰る事を望んでいる。
その彼らの願いをかなえるために、レイム達は睡眠時間を削ってでも、術式を完成させようと、日々奮闘している。
睡眠時間は最長で5時間、最初の頃などは3時間もなかった。
レイム達とは比較的楽な仕事を任されているローグらでも1日6時間以上は寝ていない。
メンバー達の疲労は段々重なりつつある。だが、それを承知で、メンバー達は自らの仕事を淡々とこなしつつあった。
「少し、休憩しよう。」
レイムは部屋に残っているリリアとマイントに声をかけた。
「あまり詰めすぎると、体を壊すわ。外の空気でも吸ってきたほうがいいよ。」
彼女はニコリと笑う。
「分かりました。それではレイム姉さん、あたし、夜の空でも眺めてきます。」
リリアは席から立ち上がると、やや浮かない表情で外に出て行った。
「ねえマイント。」
彼女はおもむろにマイントに声をかけた。
「なんですか、先輩?」
「最近、リリア元気ないけど、どうかしたの?」
マイントは少し困ったような表情を浮かべる。マイントは普段の仕事に没頭していたから、あまり他人の様子などは気にしていなかった。
しかし、心当たりがあるのか、マイントはあっと思い出した。
「そういえば、艦から降りた時から、少し元気が失せたような感がありますね。」
「艦というと・・・・レキシントンね。」
リリアは、6月の17日から、ヴァルレキュア側のオブザーバーという肩書きで、第58任務部隊旗艦の空母レキシントンに乗艦している。
レイムは部屋に残っているリリアとマイントに声をかけた。
「あまり詰めすぎると、体を壊すわ。外の空気でも吸ってきたほうがいいよ。」
彼女はニコリと笑う。
「分かりました。それではレイム姉さん、あたし、夜の空でも眺めてきます。」
リリアは席から立ち上がると、やや浮かない表情で外に出て行った。
「ねえマイント。」
彼女はおもむろにマイントに声をかけた。
「なんですか、先輩?」
「最近、リリア元気ないけど、どうかしたの?」
マイントは少し困ったような表情を浮かべる。マイントは普段の仕事に没頭していたから、あまり他人の様子などは気にしていなかった。
しかし、心当たりがあるのか、マイントはあっと思い出した。
「そういえば、艦から降りた時から、少し元気が失せたような感がありますね。」
「艦というと・・・・レキシントンね。」
リリアは、6月の17日から、ヴァルレキュア側のオブザーバーという肩書きで、第58任務部隊旗艦の空母レキシントンに乗艦している。
そのレキシントンに、リリアは3ヶ月以上乗り込み、ミッチャー中将やバーク大佐などを補佐していた。
一方では、彼女は徐々にレキシントンの乗員達に馴染んでいき、下艦から1週間前には、乗員から半分本気、半分冗談で、
「あんたはこの艦の一員だから、降りないでほしいな」
と言われている。
「最近は見なくなったけど、帰還魔法を作り始めた時はやたらにため息が多かったような気がするわね。」
「どこか、ぬぐえない気持ちがあるんですかねえ。」
マイントはため息まじりにそう呟いた。
「あの子にとって、軍艦に乗った3ヶ月間は、とても大切なものだったのかもしれない。
でも、それがある日を境にいなくなる。本人は分かりきっていると思うけど、どこか
切り離せないものがあるのかもしれない。」
一方では、彼女は徐々にレキシントンの乗員達に馴染んでいき、下艦から1週間前には、乗員から半分本気、半分冗談で、
「あんたはこの艦の一員だから、降りないでほしいな」
と言われている。
「最近は見なくなったけど、帰還魔法を作り始めた時はやたらにため息が多かったような気がするわね。」
「どこか、ぬぐえない気持ちがあるんですかねえ。」
マイントはため息まじりにそう呟いた。
「あの子にとって、軍艦に乗った3ヶ月間は、とても大切なものだったのかもしれない。
でも、それがある日を境にいなくなる。本人は分かりきっていると思うけど、どこか
切り離せないものがあるのかもしれない。」
冬の冷たい風が、体を冷やす。
風は冷たいが、猛烈とでも、弱くでもなく、その昼間のような中途半端な風。
「はあ~・・・・・」
リリアは小屋の後ろの小さな丘で、1人たたずんでいた。
脳裏には、今まで仲良く過ごしてきた「仲間達」の顔が浮かぶ。
彼らの着ている服は、数ヶ月前までは全く見たこともないようなものである。
「みんな、今頃どうしてるのかな。」
彼女は小さく呟く。まだあどけなさを残しているリリアの表情は、どことなく曇っていた。
3ヶ月
風は冷たいが、猛烈とでも、弱くでもなく、その昼間のような中途半端な風。
「はあ~・・・・・」
リリアは小屋の後ろの小さな丘で、1人たたずんでいた。
脳裏には、今まで仲良く過ごしてきた「仲間達」の顔が浮かぶ。
彼らの着ている服は、数ヶ月前までは全く見たこともないようなものである。
「みんな、今頃どうしてるのかな。」
彼女は小さく呟く。まだあどけなさを残しているリリアの表情は、どことなく曇っていた。
3ヶ月
たった3ヶ月だけ。
誰もがそう思うだろう。でも、その3ヶ月間、レキシントンで体験した事は、驚きの連続だった。
仲間もできた。彼らはリリアに声をかけては面白話や、あるいは身になる話などを教えてくれた。
誰もがそう思うだろう。でも、その3ヶ月間、レキシントンで体験した事は、驚きの連続だった。
仲間もできた。彼らはリリアに声をかけては面白話や、あるいは身になる話などを教えてくれた。
仕事の合間に、リリアは彼らと接する事によって、今までになかった自信をつけることが出来た。
そんな苦楽を共にした人達も、あと2週間と少しで消えるのだ。分かってはいるが、どことなく辛い。
「君は、この世界でやるべきことがある。連れて行って欲しいと言う気持ちは分かるが、
君の人生はヴァルレキュアの為に尽くすべきだ。」
誰かが言った言葉が、今でも心に深く刻まれている。
「リリア」
後ろから聞きなれた声がする。
「あっ・・・・・レイム姉さん。」
「どうしたの?なんか浮かない顔してるけど。」
レイムは微笑みながら、リリアの隣に寄ってきた。
「悩み事があるなら、相談に乗るよ?」
そう言って、彼女はリリアの右隣に座った。
「寒くなったね。気象観測所からは、1週間後には雪が降るって言われてるわ。」
「雪ですか・・・・・小さい頃は、雪が降っても外ではしゃぎまわってましたね。」
「はしゃぎすぎて、カゼとか起こした事ない?」
「そりゃあ、もう、毎年ありましたね。」
リリアがそう言うと、2人は声を上げて笑った。
「あたしもよ。」
レイムは笑いながらそう言う。少し乱れた長髪を整えて、レイムは言葉を続ける。
「レキシントンで過ごした時はどうだった?」
「良かったですよ。」
リリアはきっぱりと言う。
そんな苦楽を共にした人達も、あと2週間と少しで消えるのだ。分かってはいるが、どことなく辛い。
「君は、この世界でやるべきことがある。連れて行って欲しいと言う気持ちは分かるが、
君の人生はヴァルレキュアの為に尽くすべきだ。」
誰かが言った言葉が、今でも心に深く刻まれている。
「リリア」
後ろから聞きなれた声がする。
「あっ・・・・・レイム姉さん。」
「どうしたの?なんか浮かない顔してるけど。」
レイムは微笑みながら、リリアの隣に寄ってきた。
「悩み事があるなら、相談に乗るよ?」
そう言って、彼女はリリアの右隣に座った。
「寒くなったね。気象観測所からは、1週間後には雪が降るって言われてるわ。」
「雪ですか・・・・・小さい頃は、雪が降っても外ではしゃぎまわってましたね。」
「はしゃぎすぎて、カゼとか起こした事ない?」
「そりゃあ、もう、毎年ありましたね。」
リリアがそう言うと、2人は声を上げて笑った。
「あたしもよ。」
レイムは笑いながらそう言う。少し乱れた長髪を整えて、レイムは言葉を続ける。
「レキシントンで過ごした時はどうだった?」
「良かったですよ。」
リリアはきっぱりと言う。
「オブザーバーの仕事はきつかったけど、なんとかこなせましたし、
それに船の乗員のみんなも、あたしに良くしてくれました。」
「よくしてくれた・・・・ね。まさか肉体」
「そんな事は一度も無かったですよ。残念でした。」
イタズラっぽい笑みを浮かべながら、リリアは言う。
「そう、ならいいわ。でも今ので注意する点がひとつ。」
突然、レイムはリリアの左頬をつねる。
「人の話は途中で遮らない。次からは気をつけて?」
「い!いたいいたい!」
「聞いてる?」
少し怖い笑みを浮かべながら、レイムは質問する。
「ええ、わ、分かりました。」
そう言ったのを確認すると、レイムは指を離す。
(遮るなって言われても、あんな話をするなら誰でも遮るわよ)
内心で、リリアは不満に思うが、それは口に出さなかった。
「それはいいとして。そういえば、あなたの誕生日は8月だったわね?」
「8月の27日です。」
リリアは急に笑顔になる。なにかいいことがあったのだろう。
「27日の前日に、知り合いになった乗員の人に誕生日はいつか?と聞かれたんです。
最初はそっけなく答えたんですけど、27日の夕方に、船の休憩室に入ってくるなり、いきなり乗員の人達が
口々にハッピーバースデー!とか言って自分の誕生日を祝ってくれたんです。なんでも、
アメリカでは誕生日を祝うイベントがあって、それを周囲の仲間達と共に祝うのが伝統らしいんです。」
ヴァルレキュアには、誕生日を祝う習慣が無い。ただ、自分が年を重ねた事を知るのみである。
それに船の乗員のみんなも、あたしに良くしてくれました。」
「よくしてくれた・・・・ね。まさか肉体」
「そんな事は一度も無かったですよ。残念でした。」
イタズラっぽい笑みを浮かべながら、リリアは言う。
「そう、ならいいわ。でも今ので注意する点がひとつ。」
突然、レイムはリリアの左頬をつねる。
「人の話は途中で遮らない。次からは気をつけて?」
「い!いたいいたい!」
「聞いてる?」
少し怖い笑みを浮かべながら、レイムは質問する。
「ええ、わ、分かりました。」
そう言ったのを確認すると、レイムは指を離す。
(遮るなって言われても、あんな話をするなら誰でも遮るわよ)
内心で、リリアは不満に思うが、それは口に出さなかった。
「それはいいとして。そういえば、あなたの誕生日は8月だったわね?」
「8月の27日です。」
リリアは急に笑顔になる。なにかいいことがあったのだろう。
「27日の前日に、知り合いになった乗員の人に誕生日はいつか?と聞かれたんです。
最初はそっけなく答えたんですけど、27日の夕方に、船の休憩室に入ってくるなり、いきなり乗員の人達が
口々にハッピーバースデー!とか言って自分の誕生日を祝ってくれたんです。なんでも、
アメリカでは誕生日を祝うイベントがあって、それを周囲の仲間達と共に祝うのが伝統らしいんです。」
ヴァルレキュアには、誕生日を祝う習慣が無い。ただ、自分が年を重ねた事を知るのみである。
であるから、最初リリアは分からなかったが、バウンズ兵曹長からこの話を聞かされると、
リリアはなぜ知り合いの乗員がいっぱい集まっているのかが分かった。
その日のリリアの誕生日には、100人のレキシントン乗員が集まり、彼らは艦の中で唯一の魔法使い
の誕生日を心から祝った。
ちなみに、そのイベントで出されたアイスクリームを、リリアは調子に乗って食べまくったが、
その翌日は、ずっと腹痛に悩まされた。
それから、リリアは、レイムにレキシントンで体験した出来事を全て話した。
リリアはなぜ知り合いの乗員がいっぱい集まっているのかが分かった。
その日のリリアの誕生日には、100人のレキシントン乗員が集まり、彼らは艦の中で唯一の魔法使い
の誕生日を心から祝った。
ちなみに、そのイベントで出されたアイスクリームを、リリアは調子に乗って食べまくったが、
その翌日は、ずっと腹痛に悩まされた。
それから、リリアは、レイムにレキシントンで体験した出来事を全て話した。
「なるほどねぇ。乗った甲斐はあったわね。」
「ええ。」
思い出話に花を咲かせた2人だったが、リリアはまたもや、浮かない顔に戻りつつあった。
「リリア、あなたが体験した事はとても素晴らしいことだと思う。でもね、」
レイムは、柔らかな口調を維持しつつも、表情を固くした。
「彼らはもう帰らないといけないの。分かれるのは確かに辛いと思うわ。
でも、人間で会いもあれば、必ず別れもあるもの。」
「必ず・・・・別れはある、ですか。」
「そう。だから、今はあの艦の事は忘れるのよ。はっきり言って、
今のあなたはレキシントンのことばかり頭が行って、仕事が少し身に入っていないわ。
そんな事に惑わされるなら、魔道師は務まらない。」
「・・・・・・・・・・・・」
リリアは押し黙った。
脳裏に、レキシントン最後の日が甦った。
「ええ。」
思い出話に花を咲かせた2人だったが、リリアはまたもや、浮かない顔に戻りつつあった。
「リリア、あなたが体験した事はとても素晴らしいことだと思う。でもね、」
レイムは、柔らかな口調を維持しつつも、表情を固くした。
「彼らはもう帰らないといけないの。分かれるのは確かに辛いと思うわ。
でも、人間で会いもあれば、必ず別れもあるもの。」
「必ず・・・・別れはある、ですか。」
「そう。だから、今はあの艦の事は忘れるのよ。はっきり言って、
今のあなたはレキシントンのことばかり頭が行って、仕事が少し身に入っていないわ。
そんな事に惑わされるなら、魔道師は務まらない。」
「・・・・・・・・・・・・」
リリアは押し黙った。
脳裏に、レキシントン最後の日が甦った。
「リリア君、行くのだな?」
しわくちゃ顔のミッチャー中将が言ってきた。
「はい。」
彼女は意を決したような、固い表情で口調を強めて言う。
午前10時。リリアはレキシントンから下艦するときがやって来た。
彼女は2日前まで、一緒に異世界に行きたいと公言していたが、バーク大佐に説得されて
この世界に留まる事を決断した。
「この3ヶ月間、本当にお世話になりました。
ここで習った事を、本来の仕事でも生かせられるように頑張ります。」
「帰還魔法の事は、よろしく頼むぞ。」
バーク大佐はそう言いながら、握手を求めてきた。リリアはそれを握り返す。
とても暖かい手である。それでいて、握る力は強かった。
「レキシントンのアイドルが去るのは少し寂しいが、まあ仕方ない。でも楽しかったぞ。」
赤ら顔のリッチ大佐も握手を求めてくる。それに、リリアも気の利いた冗談を言いつつ、握手を返した。
それぞれの別れの言葉を胸に、彼女は艦橋の幕僚や職員に別れの言葉を言った。
レキシントンの乗員は、それぞれの仕事についていたため、リリアに会うことは無かった。
主に知り合いだったバウンズ兵曹長などの少数が、手短に別れを告げたのみである。
下艦するまでの間、乗員はリリアを見ると、親しくさようならなどの別れの言葉を言ってきた。
内火艇に乗り移る前には、それまで少なかった出迎えは多くなり、誰もが彼女の今後の無事を祈っていた。
「リリアちゃん!絶対に俺たちの事を忘れるなよ!」
「愛してるぜー!」
「あの世界に帰っても、俺たちは君の事はずっと忘れんぞ!」
「アイスの味もずっと覚えていてくれよー!」
気がつく頃には、乗員のほとんどが、若き魔道師の下艦を見送っていた。
彼らの声援は、内火艇が港の影に消え去るまで続いていた。
リリアはこの時まで、絶対に泣かぬと決めていたが、涙は勝手にこぼれてきた。
しばらくは、その涙は止め処もなくあふれ続けていた。
しわくちゃ顔のミッチャー中将が言ってきた。
「はい。」
彼女は意を決したような、固い表情で口調を強めて言う。
午前10時。リリアはレキシントンから下艦するときがやって来た。
彼女は2日前まで、一緒に異世界に行きたいと公言していたが、バーク大佐に説得されて
この世界に留まる事を決断した。
「この3ヶ月間、本当にお世話になりました。
ここで習った事を、本来の仕事でも生かせられるように頑張ります。」
「帰還魔法の事は、よろしく頼むぞ。」
バーク大佐はそう言いながら、握手を求めてきた。リリアはそれを握り返す。
とても暖かい手である。それでいて、握る力は強かった。
「レキシントンのアイドルが去るのは少し寂しいが、まあ仕方ない。でも楽しかったぞ。」
赤ら顔のリッチ大佐も握手を求めてくる。それに、リリアも気の利いた冗談を言いつつ、握手を返した。
それぞれの別れの言葉を胸に、彼女は艦橋の幕僚や職員に別れの言葉を言った。
レキシントンの乗員は、それぞれの仕事についていたため、リリアに会うことは無かった。
主に知り合いだったバウンズ兵曹長などの少数が、手短に別れを告げたのみである。
下艦するまでの間、乗員はリリアを見ると、親しくさようならなどの別れの言葉を言ってきた。
内火艇に乗り移る前には、それまで少なかった出迎えは多くなり、誰もが彼女の今後の無事を祈っていた。
「リリアちゃん!絶対に俺たちの事を忘れるなよ!」
「愛してるぜー!」
「あの世界に帰っても、俺たちは君の事はずっと忘れんぞ!」
「アイスの味もずっと覚えていてくれよー!」
気がつく頃には、乗員のほとんどが、若き魔道師の下艦を見送っていた。
彼らの声援は、内火艇が港の影に消え去るまで続いていた。
リリアはこの時まで、絶対に泣かぬと決めていたが、涙は勝手にこぼれてきた。
しばらくは、その涙は止め処もなくあふれ続けていた。
「務まらないですか・・・・・」
「ええ。」
レイムはきっぱりと言う。
「いかなる場面においても、魔道師は冷静たるべき。そう習ったでしょう。」
彼女は、そっとリリアの左肩に手を置く。
「でも、あの3ヶ月間は無駄ではなかったと、私は思う。そして、あなたもそう思っているはず。
レキシントンの乗員達が、今のあんたの姿を見たらどう思う?きっと悲しくなるに違いないわ。
あの人達が望むのは、あなたが元気でいること。」
「・・・・・そう・・・・ですね。」
「そうよ。何も完全に忘れろとは言わないけれども、今は仕事に集中するべきよ。
あなたはそれが出来ていない。リリア、しばらくはあの事を忘れなさい。」
しばらくの沈黙の後、リリアは顔をうつむかせる。
泣いているのだろうか、頬の下に光るものが流れていった。
しかし、彼女はそれをぬぐうと、けろりとした表情でレイムに向き直った。
「分かりました。しばらくは、忘れる事にします。」
そう言うと、彼女はいきなり立ち上がって小屋に戻っていく。
「リリア!まだ休み時間中よ。」
「なんだか、急に仕事をやりたくなりました。それに、これからちょっと
難しい構成式を組まないといけないので、早く済ましたいんです。
まあ、要するに、めんどくさいものはさっさとやるって奴かな。それじゃ!」
リリアは早口でまくしたてると、さっさと小屋の中に入ってしまった。
「めんどくさいものはさっさとやる・・・・・」
今までのリリアからは、こんな言葉は全く聞かれなかった。
「あの子も変わったわね。」
そう呟き、レイムは苦笑した。
「ええ。」
レイムはきっぱりと言う。
「いかなる場面においても、魔道師は冷静たるべき。そう習ったでしょう。」
彼女は、そっとリリアの左肩に手を置く。
「でも、あの3ヶ月間は無駄ではなかったと、私は思う。そして、あなたもそう思っているはず。
レキシントンの乗員達が、今のあんたの姿を見たらどう思う?きっと悲しくなるに違いないわ。
あの人達が望むのは、あなたが元気でいること。」
「・・・・・そう・・・・ですね。」
「そうよ。何も完全に忘れろとは言わないけれども、今は仕事に集中するべきよ。
あなたはそれが出来ていない。リリア、しばらくはあの事を忘れなさい。」
しばらくの沈黙の後、リリアは顔をうつむかせる。
泣いているのだろうか、頬の下に光るものが流れていった。
しかし、彼女はそれをぬぐうと、けろりとした表情でレイムに向き直った。
「分かりました。しばらくは、忘れる事にします。」
そう言うと、彼女はいきなり立ち上がって小屋に戻っていく。
「リリア!まだ休み時間中よ。」
「なんだか、急に仕事をやりたくなりました。それに、これからちょっと
難しい構成式を組まないといけないので、早く済ましたいんです。
まあ、要するに、めんどくさいものはさっさとやるって奴かな。それじゃ!」
リリアは早口でまくしたてると、さっさと小屋の中に入ってしまった。
「めんどくさいものはさっさとやる・・・・・」
今までのリリアからは、こんな言葉は全く聞かれなかった。
「あの子も変わったわね。」
そう呟き、レイムは苦笑した。
11月13日 ウルシー 午前11時
戦艦ノースカロライナの作戦室では、第5艦隊の幕僚達が、額を寄せ合って話をしていた。
「最終的に被った損害は、空母2隻、軽巡2隻、駆逐艦8隻、給油艦1沈没。
大破が空母1、戦艦1、重巡2隻、軽巡2隻、駆逐艦4隻、航空機は400機喪失。
人員の損害は、陸軍が戦死1018人、海兵隊が1829人、海軍が2943人。
負傷者は全体で19789人となっております。」
デイビス参謀長の声を聞いたスプルーアンスは、つかの間瞑目する。
「キング作戦部長に詰られるのは確実だな。」
彼は自嘲めいた口調で言う。
「いや、開口一番でクビを宣告されるかもしれん。まあ、私としては、一方的にクビにされるつもりはないがね。」
「もし、長官が海軍を追い出されそうになれば、私も辞表を出します。」
デイビスはスプルーアンスの側に歩み寄った。
「確かに現世界の戦局にはなんら関与していません。ですが、長官の判断能力はとても冴えていました。
その事が海軍上層部にも知られれば、長官に賛同するものもいるはずです。」
「そうです!」
アームストロング中佐も当然だとばかりに口を開く。
「むしろ、長官の功績は素晴らしいものだと思います。」
「いかに素晴らしかろうが、突然消えて、戦線を少なからず混乱させた事は事実だ。」
スプルーアンスは頭に血の上り始めた幕僚達を抑えた。
「責任は全て私にある。諸君らの事は、現世界に帰還してなんら処罰を与えぬように伝える。
それよりも、今は会議中だ。私の擁護はよい。」
彼の冷ややかな口調は、会議室のトーンを一気に下げた。
「それに、海軍を辞めさせられても、生活までは取り上げられないだろう。
それよりも、今は現世界に帰還した際の対応を協議しよう。」
「確かにそうです。」
戦艦ノースカロライナの作戦室では、第5艦隊の幕僚達が、額を寄せ合って話をしていた。
「最終的に被った損害は、空母2隻、軽巡2隻、駆逐艦8隻、給油艦1沈没。
大破が空母1、戦艦1、重巡2隻、軽巡2隻、駆逐艦4隻、航空機は400機喪失。
人員の損害は、陸軍が戦死1018人、海兵隊が1829人、海軍が2943人。
負傷者は全体で19789人となっております。」
デイビス参謀長の声を聞いたスプルーアンスは、つかの間瞑目する。
「キング作戦部長に詰られるのは確実だな。」
彼は自嘲めいた口調で言う。
「いや、開口一番でクビを宣告されるかもしれん。まあ、私としては、一方的にクビにされるつもりはないがね。」
「もし、長官が海軍を追い出されそうになれば、私も辞表を出します。」
デイビスはスプルーアンスの側に歩み寄った。
「確かに現世界の戦局にはなんら関与していません。ですが、長官の判断能力はとても冴えていました。
その事が海軍上層部にも知られれば、長官に賛同するものもいるはずです。」
「そうです!」
アームストロング中佐も当然だとばかりに口を開く。
「むしろ、長官の功績は素晴らしいものだと思います。」
「いかに素晴らしかろうが、突然消えて、戦線を少なからず混乱させた事は事実だ。」
スプルーアンスは頭に血の上り始めた幕僚達を抑えた。
「責任は全て私にある。諸君らの事は、現世界に帰還してなんら処罰を与えぬように伝える。
それよりも、今は会議中だ。私の擁護はよい。」
彼の冷ややかな口調は、会議室のトーンを一気に下げた。
「それに、海軍を辞めさせられても、生活までは取り上げられないだろう。
それよりも、今は現世界に帰還した際の対応を協議しよう。」
「確かにそうです。」
マコーミック少佐も頷く。
「長官擁護は今は無しにして、帰還後の行動を話すべきでしょう。」
「その通りだな。さて、被害統計は大雑把にこの通りであるが、次に問題なのは補給だ。兵站参謀。」
「はっ。」
バートン・ビッグス大佐が反応し、スプルーアンスに顔を向ける。
「弾薬はどれぐらい残っている?」
「地上軍のほうは、サイフェルバン侵攻作戦、その1月後の防衛戦で、備蓄弾薬の57%を消耗しております。
現地点では上陸部隊に弾薬の不足が出始めています。陸軍航空隊のほうは、爆弾や機銃弾の備蓄は5割を切っております。」
「相当減っているな。やはり防衛戦時の大放出が原因なのかな?」
「恐らくそうでしょう。あの防衛戦の時には、侵攻作戦の時に使用した弾薬の量を1日でほぼ使い切っています。」
「海軍はどうだね?」
スプルーアンスは海軍のほうに話を移させた。
「海軍のほうは、機動部隊用の爆弾は3会戦分、魚雷は5回戦分残っております。
護衛空母部隊は爆弾、魚雷共に4会戦分、補充の艦載機はF6Fが24機、SB2Cが45機、
TBFが21機残っております。この艦載機は本日、護衛空母に載せられてマーシャル諸島に持ち込まれる予定です。」
「魚雷の数が多いな。」
デイビス少将が訝しげな口調で言う。
「魚雷の数が多いのは、この異世界で使う機会がほとんどなかったためです。
本来、魚雷は精密機械であり、保有数も爆弾と比べて少ない数でありました。
ですが、この異世界の海空戦では爆弾が主に使用されたため、最終的に魚雷が爆弾の保有数を上回る結果となっています。」
「ふむ・・・・・・もし、帰還後すぐに日本軍の基地に攻勢をかけるとしたら、実行できそうかね?」
「できます。爆弾、魚雷の保有量は少ないではありますが、それでも、各空母、といっても高速機動部隊ですが、
それぞれの弾薬庫をあと3、4回は満杯にできる量が残っております。
当然、日本海軍の機動部隊とも4つに組んで対決できます。」
「長官擁護は今は無しにして、帰還後の行動を話すべきでしょう。」
「その通りだな。さて、被害統計は大雑把にこの通りであるが、次に問題なのは補給だ。兵站参謀。」
「はっ。」
バートン・ビッグス大佐が反応し、スプルーアンスに顔を向ける。
「弾薬はどれぐらい残っている?」
「地上軍のほうは、サイフェルバン侵攻作戦、その1月後の防衛戦で、備蓄弾薬の57%を消耗しております。
現地点では上陸部隊に弾薬の不足が出始めています。陸軍航空隊のほうは、爆弾や機銃弾の備蓄は5割を切っております。」
「相当減っているな。やはり防衛戦時の大放出が原因なのかな?」
「恐らくそうでしょう。あの防衛戦の時には、侵攻作戦の時に使用した弾薬の量を1日でほぼ使い切っています。」
「海軍はどうだね?」
スプルーアンスは海軍のほうに話を移させた。
「海軍のほうは、機動部隊用の爆弾は3会戦分、魚雷は5回戦分残っております。
護衛空母部隊は爆弾、魚雷共に4会戦分、補充の艦載機はF6Fが24機、SB2Cが45機、
TBFが21機残っております。この艦載機は本日、護衛空母に載せられてマーシャル諸島に持ち込まれる予定です。」
「魚雷の数が多いな。」
デイビス少将が訝しげな口調で言う。
「魚雷の数が多いのは、この異世界で使う機会がほとんどなかったためです。
本来、魚雷は精密機械であり、保有数も爆弾と比べて少ない数でありました。
ですが、この異世界の海空戦では爆弾が主に使用されたため、最終的に魚雷が爆弾の保有数を上回る結果となっています。」
「ふむ・・・・・・もし、帰還後すぐに日本軍の基地に攻勢をかけるとしたら、実行できそうかね?」
「できます。爆弾、魚雷の保有量は少ないではありますが、それでも、各空母、といっても高速機動部隊ですが、
それぞれの弾薬庫をあと3、4回は満杯にできる量が残っております。
当然、日本海軍の機動部隊とも4つに組んで対決できます。」
「そうか。要するに、全体的に備蓄量は下がっているが、それでも敵と戦える分は残っていると言うわけだな?」
「そうであります。」
ビッグス大佐は自身ありげに頷く。
「武器は揃っているとして、乗員はどうだね?」
「乗員は、ここ最近戦闘がないため、充分に休養が取れているようです。
2日前までは半舷上陸も行われていましたから、士気に関しては問題はありません。」
「残留者は出ていないかね?」
「今現在は確認されておりません。」
アームストロング中佐が言う。
「残留者がいるか居ないかは、出港直前になっても確かめろ。帰還する際の一番の問題は
残留者がでるか出ないかだ。出ない事に越した事はないが、わが軍は14万を越す部隊だ。
必ず残留しようと思っているものがいるかもしれない。苦労をかけることになるが、
その点については皆に一層努力してもらう。次は損傷艦艇だが。」
「損傷艦艇で、パールハーバーのドッグに入港予定の艦は次の通りです。」
フォレステル大佐が紙を持って説明を始める。
「まず、正規空母についてはエンタープライズとヨークタウンが入港の要ありと判断されています。
エンタープライズは缶室が1つ、浸水で使用不能になっており、交換が必要です。
今は応急修理で26ノットは出ますが、浮きドッグの能力では、現在資材不足で出来ないとのことです。
それからヨークタウンは、ブリュンス岬沖海戦時に敵機が舷側エレベーターに突入してこれを破壊しています。
その際、エレベーターの制動装置が完全に破損しており、制動装置も交換が必要とのことです。」
「ヨークタウンもか。」
スプルーアンスはぶすりと呟く。
「あと、軽空母カウペンスが、1週間前に機関故障を起こしており、現在23ノットまでしか速力が出ません。
調べによると、故障はやや酷いようで、浮きドッグの修理能力では満足に直す事は不可能であり、
これもパールハーバー、もしくは本国のサンディエゴに持っていくしかないそうです。
「そうであります。」
ビッグス大佐は自身ありげに頷く。
「武器は揃っているとして、乗員はどうだね?」
「乗員は、ここ最近戦闘がないため、充分に休養が取れているようです。
2日前までは半舷上陸も行われていましたから、士気に関しては問題はありません。」
「残留者は出ていないかね?」
「今現在は確認されておりません。」
アームストロング中佐が言う。
「残留者がいるか居ないかは、出港直前になっても確かめろ。帰還する際の一番の問題は
残留者がでるか出ないかだ。出ない事に越した事はないが、わが軍は14万を越す部隊だ。
必ず残留しようと思っているものがいるかもしれない。苦労をかけることになるが、
その点については皆に一層努力してもらう。次は損傷艦艇だが。」
「損傷艦艇で、パールハーバーのドッグに入港予定の艦は次の通りです。」
フォレステル大佐が紙を持って説明を始める。
「まず、正規空母についてはエンタープライズとヨークタウンが入港の要ありと判断されています。
エンタープライズは缶室が1つ、浸水で使用不能になっており、交換が必要です。
今は応急修理で26ノットは出ますが、浮きドッグの能力では、現在資材不足で出来ないとのことです。
それからヨークタウンは、ブリュンス岬沖海戦時に敵機が舷側エレベーターに突入してこれを破壊しています。
その際、エレベーターの制動装置が完全に破損しており、制動装置も交換が必要とのことです。」
「ヨークタウンもか。」
スプルーアンスはぶすりと呟く。
「あと、軽空母カウペンスが、1週間前に機関故障を起こしており、現在23ノットまでしか速力が出ません。
調べによると、故障はやや酷いようで、浮きドッグの修理能力では満足に直す事は不可能であり、
これもパールハーバー、もしくは本国のサンディエゴに持っていくしかないそうです。
次に戦艦ですが、まずアイオワが左舷側に損傷を負っており、資材不足のため修理は7割程度
しか終わっていません。それからアラバマが、第1砲塔の旋回版が歪んでいるため、これもパールハーバー、
もしくはサンディエゴで本格修理が必要とのことです。」
この他にも、重巡洋艦はウィチタとサンフランシスコ、軽巡はブルックリン、駆逐艦はベル、アンソニー、
コンウェイがパールハーバー、もしくはサンディエゴなどの本国のドッグで本格修理が必要と、フォレステル大佐は説明した。
「現在、わが第5艦隊の主力だけで、使用可能艦船は戦艦5隻、空母11隻、無理をすれば12隻。
重巡が6隻、軽巡10隻、駆逐艦が54隻か。主力だけでも、随分と減ったものだな。」
しか終わっていません。それからアラバマが、第1砲塔の旋回版が歪んでいるため、これもパールハーバー、
もしくはサンディエゴで本格修理が必要とのことです。」
この他にも、重巡洋艦はウィチタとサンフランシスコ、軽巡はブルックリン、駆逐艦はベル、アンソニー、
コンウェイがパールハーバー、もしくはサンディエゴなどの本国のドッグで本格修理が必要と、フォレステル大佐は説明した。
「現在、わが第5艦隊の主力だけで、使用可能艦船は戦艦5隻、空母11隻、無理をすれば12隻。
重巡が6隻、軽巡10隻、駆逐艦が54隻か。主力だけでも、随分と減ったものだな。」
当初、相手が航空機や高性能の軍艦を持っていると聞いて、
「張り合いがあるな」
と感心したスプルーアンスではあったが、今の心境では、バーマントが中世のような装備であれば、と思っている。
張り合いのある敵がいるという事は、すなわち、味方の戦力が減る可能性も高いと言う事である。
それを、スプルーアンスは改めて思い知らされたような気がした。
「第58任務部隊は合計で843機が使用可能であり、補充を行えば定数一杯の870機に達します。」
「戦力は減ったと言えど、いずれは大兵力を有しているのだな。」
スプルーアンスは、微かに顔をほころばせた。この戦力ならば、すぐに出撃を命ぜられても戦場に急行できる。彼はそう確信した。
「次に、マーシャル諸島に帰港する際であるが、停泊地は出撃前と同じとする。
第58任務部隊、52任務部隊の一部はメジュロ環礁。第51、52任務部隊はクェゼリン環礁、
第53、54任務部隊はビキニ環礁に停泊する。マーシャルに残留している部隊からは異常はないか?」
「張り合いがあるな」
と感心したスプルーアンスではあったが、今の心境では、バーマントが中世のような装備であれば、と思っている。
張り合いのある敵がいるという事は、すなわち、味方の戦力が減る可能性も高いと言う事である。
それを、スプルーアンスは改めて思い知らされたような気がした。
「第58任務部隊は合計で843機が使用可能であり、補充を行えば定数一杯の870機に達します。」
「戦力は減ったと言えど、いずれは大兵力を有しているのだな。」
スプルーアンスは、微かに顔をほころばせた。この戦力ならば、すぐに出撃を命ぜられても戦場に急行できる。彼はそう確信した。
「次に、マーシャル諸島に帰港する際であるが、停泊地は出撃前と同じとする。
第58任務部隊、52任務部隊の一部はメジュロ環礁。第51、52任務部隊はクェゼリン環礁、
第53、54任務部隊はビキニ環礁に停泊する。マーシャルに残留している部隊からは異常はないか?」
「マーシャル駐留部隊からは、全て異常なし、受け入れ準備は万端なりとの報告が入っています。」
マーシャル諸島には、既に陸軍航空隊の第689航空隊が、クェゼリン環礁の飛行場に着陸している。
レイム達からは、17日には術式は完成すると言われている。
第58任務部隊は、損傷艦や輸送船団を見送った後に、19日の午前7時、最後の撤収艦隊として、
ウルシーとシュングリルから出港する。
マーシャル入港は22日の早朝を予定している。
そして、その3日か4日後に、帰還魔法の儀式が行われる。
「大体の準備は整ったな。あとの問題は、ウルシーの航空隊の撤収や、施設の撤去作業だな。」
彼は、机に出された書類に目を通しながら、そう言い放つ。
「この世界にいられるのもあと僅かだが、最後まで仕事はしっかりやらねばな。」
スプルーアンスは、一口コーヒーをすすり、新たに口を開く。
「ちなみに、撤去作業はどれぐらいで終わるかね?」
「早めに見積もっても17日早朝まではかかる見通しです。」
「とりあえず、作業に当たる兵員には無理はするなと伝えておけ。ここで怪我したら損だからな。」
その後も、撤収作戦の内容の煮詰めや、今後の予定の話などが続いた。
マーシャル諸島には、既に陸軍航空隊の第689航空隊が、クェゼリン環礁の飛行場に着陸している。
レイム達からは、17日には術式は完成すると言われている。
第58任務部隊は、損傷艦や輸送船団を見送った後に、19日の午前7時、最後の撤収艦隊として、
ウルシーとシュングリルから出港する。
マーシャル入港は22日の早朝を予定している。
そして、その3日か4日後に、帰還魔法の儀式が行われる。
「大体の準備は整ったな。あとの問題は、ウルシーの航空隊の撤収や、施設の撤去作業だな。」
彼は、机に出された書類に目を通しながら、そう言い放つ。
「この世界にいられるのもあと僅かだが、最後まで仕事はしっかりやらねばな。」
スプルーアンスは、一口コーヒーをすすり、新たに口を開く。
「ちなみに、撤去作業はどれぐらいで終わるかね?」
「早めに見積もっても17日早朝まではかかる見通しです。」
「とりあえず、作業に当たる兵員には無理はするなと伝えておけ。ここで怪我したら損だからな。」
その後も、撤収作戦の内容の煮詰めや、今後の予定の話などが続いた。