自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

225 第170話 狡猾武者

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第170話 狡猾武者

1484年(1944年)8月4日 午前7時 フィグムミント郊外10ゼルド地点

その日の天候は曇り気味であり、青空は全く見えなかった。
だが、視線を変えれば、車窓から見える森や遠くの山岳地帯が見渡せ、それだけでも長旅で疲れた心を癒してくれそうだった。

「今日は少し、天気が芳しくないようだな。」

その男は、車窓の風景を眺めながら、眠気覚ましの熱い香茶を啜っていた。

「閣下。もうすぐで、フィグムミントに到達します。」

目の前に向き合うようにして座っていた参謀が、彼に声を掛けてきた。

「フィグムミントまではあとどれぐらいかね?」
「10ゼルドほどです。」
「この調子なら、あと40分ほどで到着するか。」

男は香茶の入ったカップをテーブルに置いた後、あくびをしながら肩や腕を回した。

「しかし、列車での長旅は意外と応える物だな。」

彼は苦笑しながら、副官に言う。

「ですが、たまにはこうした、のんびりとした旅も良いのではありませんか?」
「のんびり・・・・か。まぁ、そうかもしれんな。」

男はそう言ってから、ハッハッハ!と声高に笑った。
彼・・・・先月末に戦死したテイマート将軍に代わって、ジャスオ領中部方面軍司令官に任命されたルィキム・エルグマド大将は、
ひとしきり笑った後、再びカップを取り、香茶を一口すすった。
ルィキム・エルグマド大将は、今年で58歳になる。
軍人としてはそろそろ限界とされる年齢だ。
だが、エルグマドは年齢の割に体つきはがっしりとしており、顔つきは柔和ながらも精悍そのものであり、短く刈りあげられた
銀色の頭髪がそれを強く醸し出している。
傍目から見れば、働き盛りの40代半ばの将官に見えるほど、彼は若々しく見えた。
エルグマド大将は、ジャスオ方面に配置が決まるまでは本国の総司令部に勤務していた。
彼は、過去の戦において多大な功績を収めてきており、彼の戦いぶりから、シホールアンル国内では「帝国の大英雄」「シホールアンルの切り札」
という二つ名を付けられているが、
軍内では「狡猾武者」という変わった渾名を頂戴している。
なぜ彼が狡猾武者という渾名を付けられたか?
その理由は、彼が時折見せる変わった戦い方にあった。
彼は、軍団を率いれば他の軍団にも負けず劣らずに大暴れするのだが、彼の軍団は、よく自軍よりも格上の軍を相手にする事があった。
軍団は軍よりも格下であり、たいていの場合は戦力の多い軍が軍団を叩き潰す。
だが、エルグマドはよく地の利を生す事で戦力の差を補うか、あるいは謀略を企てて敵軍を動揺させたあとに軍団を突っ込ませ、
大混乱の内に大将を討ち取るなど、あらゆる戦術に長けていた。
特に、謀略を企てながら戦う戦の場合、エルグマドの軍団は常に鮮やかな勝利を収めるため、彼は味方内から「狡猾武者」という
渾名を頂戴する事になったのである。
戦場では無骨ながらも、繊細な荒武者という印象の強い彼だが、同時に、シホールアンル軍人には数少ない人情家でもある。
彼は、捕らえた敵軍の兵はなるべく危害を加えなかった。
それに、占領地域の住民たちにも出来る限りの配慮をし、兵には無辜な住民に乱暴を加える物は軍人として恥であるから、
厳に戒めよと言い伝えてきた。
エルグマドは、この大陸統一戦争にも従軍しており、最初のレスタン攻略戦やデイレア侵攻作戦に参加している。
だが、この戦争での彼の軍歴はそれだけだ。
エルグマドは、デイレア戦勝の後、前線勤務から外され、後方であったバイスエ領駐屯の第32軍司令官に任命された。
この時、彼は前線指揮官をくびになったのだと確信していた。そして、その原因も、彼は知っていた。

上層部は、エルグマドのやり方が気に入らなかった。
エルグマドの軍は、通常のシホールアンル軍と比較して、捕虜に危害を加えず、また、住民に対してもさほど収奪せずといった
珍しい事を行っていた。
また、エルグマドは住民の虐待を禁じていたため、地域住民からも好評であった。
だが、それが上層部から因縁を付けられるきっかけとなった。
デイレア戦勝後から1ヶ月後、エルグマドは唐突に指揮下の第21軍司令官を解任され、後方の第32軍司令官に任命された。
それ以来、エルグマドは後方をどさ周りさせられ、そして対米開戦から2年後に本国総司令部へ配置換えとなった。
本国総司令部付けとなった後も、彼は満足行く仕事を任される事はなく、大将昇任後も彼は司令部の会議に参加する事も出来ず、
無意味な生活を過ごし続けていた。
そんな彼にも、ようやく前線に復帰出来る時が来た。

「9年ぶりの前線か。この9年間は、本当に長かったな。その間、戦闘形態は大きく変わってしまった。」

エルグマドは言いながら、机に置いてある書類に視線を向ける。
書類にはアメリカ軍の情報が書かれており、片隅には戦車と呼ばれる兵器や、幾つもの飛空挺の絵が描かれている。

「俺が戦う事になる連合軍は、これまで戦った敵よりも戦意が高く、そして、武器や補給にも恵まれている。俺は本国の石頭共に
命ぜられてここまで来たが、こりゃどえらい仕事を押し付けられたものだ。」

エルグマドは苦笑しながら副官に言った。

「ですが、閣下の鬱憤もようやく晴らせますな。何しろ、閣下はシホールアンルの切り札とも呼ばれるお方です。連合軍なんぞは
一捻りでしょう。」
「おいおい、無茶言わんでくれ。流石に、一捻り・・・・とは出来んよ。」

エルグマドは首を振りながら副官の言葉を否定した。

「打って出るのは自殺行為だ。こっちも多数のワイバーン隊は居るが、奴らがいまいちだという事はこの間の戦いで
証明されている。ここは、慎重に行くべきだ。」

「はっ。確かに・・・・」

副官は顔を赤らめてから頭を下げた。

「申し訳ありません。私の考えが甘すぎました。」
「気にするな。誰だって一度はそう思うものさ。」

エルグマドはさりげない口調で副官に言う。

「まぁ、それはともかく。各軍の司令官は現地に集まっているかね?」
「はっ。第20軍及び、第27軍司令官、それに、第9軍司令官はフィグムミントの仮説司令部でお待ちになられております。」
「そうか。一通り挨拶が済んだら、すぐに会議を始める。今は戦況が押しているから、手短にやらねばな。」

エルグマドはそう言ってから、再び書類に目を通し始めた。
それから20分が経った時、唐突に何かの爆音が響いて来た。
いきなり、エルグマドの個室のドアがガラッと開かれた。

「閣下!敵襲であります!」
「何?」

エルグマドは聞き返す。

「敵襲だと?民兵かね?」
「いえ、敵の飛空挺であります!」

士官がそういった直後、対空射撃の音が鳴り始めた。
エルグマドの列車は、6両編成であり、1両目は機関室。2両目は対空用の魔道銃が置かれ、客車は3両目から5両目まで。

6両目は2両目と同じ対空車両となっている。
この列車には装甲が張り巡らされている。
しかし、強度は機銃弾をはじき返せる程度であり、爆弾やロケット弾を受ければひとたまりもない。

「まずい事態になりましたな。」
副官が口を震わせながら言う。

「飛空挺となると、敵はアメリカ軍機です。」
「アメリカ軍は確か、サンダーボルトという化け物を持っていたな。もしあいつが来ていたら、この列車はたちまち完全破壊されるだろう。」

エルグマドは副官とは対照的に、落ち着いた口調で言った。
しばし対空戦闘が続いたかと思うと、いきなり爆発音が響いた。
ダーン!という轟音が鳴り、列車が大きく揺れる。その直後、さらなる爆発音が轟き、今度は先とは比べ物にならない揺れが伝わる。
いきなり列車が右に大きく傾いた。

「うぉ!?」

副官が驚いた声を挙げながら、部屋の中を転げまわる。エルグマドも同様に突っ転がされた。
列車は右に大きく傾き、地面をこするような激しい振動が伝わる。
この時、装甲列車は2機のP-39エアラコブラに襲われていた。
どこからともなく現れたこの2機は、列車の右前方上方から襲い掛かった。
すぐに対空魔道銃が猛然と撃ちまくり、弾幕を張ったが、2機のエアラコブラを巧みな機動で弾幕を掻い潜り、距離400に
迫った所で胴体の爆弾を投下した。
最初の爆弾は列車から10メートル右側に離れた地面に落下し、派手に土くれや砂を噴き上げた。
2発目は1両目に命中した。
直撃弾を受けた機関車両は、この一撃で動力部の魔法石を粉砕された他、爆圧が車体後部にまで抜けて車体を歪ませただけなく、
一部の車輪をも吹き飛ばした。
この結果、1両目は線路の右側に脱線し、連結されていた他の車両もこれに巻き込まれる形で、次々に脱線してしまった。

列車の巨体が線路の側の茂みに突っ込む。地震と見紛わんばかりの激しい震動が、横転した列車の車体を激しく揺さぶる。
やがて、被弾した機関部が森の木々の群れに突っ込んだ。
木々が次々となぎ倒され、しばしの間、巨獣の悲鳴のようなきしみ音が辺りに木霊した。

揺れは唐突に収まった。

「う・・・・」

エルグマドは、うつ伏せに倒れていた。
体の節々が痛むが、それを押して彼は起き上がる。

「閣下!ご無事ですか!?」

後ろで副官の声が聞こえる。

「ああ!大丈夫だ!」

エルグマドは快活のある声音で副官に応じた。

「おお、ご無事でしたか!」
「ああ、なんとかな。それより、今は他の負傷者を助けよう。」

彼は副官にそう言ってから、不意に車窓に目が止まった。窓のガラスは割れ、そこから太い丸太が突き出ている。
丸太は座席に食い込んでいた。
もし、あの振動で吹き飛ばされていなかったら、今頃は丸太に押しつぶされていたであろう。

「九死に一生、という奴か。」

エルグマドは落ち着いた声音で呟いた後、半開きになった扉から廊下に出た。
横転した車内で負傷者の救助を行いつつ、エルグマドはやっとの思いで車外に出る事が出来た。

「ふぅ、やっと出れたな。」

しわくちゃになった軍服をはたきながら、彼は呟いた。
列車は線路から外れ、完全に森の中に突っ込んでいた。被弾した機関車両からは黒煙が噴きあがっている。

「あの分じゃ、機関車両の将兵は全員戦死だな。」
「それにしても、いきなりアメリカ軍機が襲ってくるとは。」

副官がそう言った時、上空を2機の敵機が通り過ぎて行った。この時、エルグマドは敵機の国籍マークが一瞬だけ見えた。

「いや、あれはアメリカ軍機じゃない?」
「え?」
「あの国籍マークは、カレアントの物だ。アメリカ軍機なら、丸の下地に星が描かれているが、あの敵機はそれが無い。
代わりにカレアント国旗に描かれていたマークがあった。」
「という事は、あれはカレアント軍の飛空挺なのですか!?」

副官は驚く。

「あの野獣共が、飛空挺なぞ作れるはずが・・・・・」
「勿論、作れるはずがない。今のカレアントには、そんな技術力は無い。」

エルグマドは断言する。

「だが、譲ってもらう事は出来る。」
「譲ってもらう・・・・という事は、あれはアメリカが?」

「そうだろうな。」

彼は頷いた。

「アメリカ軍は北大陸やレーフェイルにも膨大な軍を派遣している。航空兵力もだ。普通なら、自国軍の装備を賄うだけで一杯一杯だ。
しかし、アメリカはその制限が緩い。いや、」

彼は少しため息を吐いてから、言葉を続ける。

「無限・・・・と言ったほうが良いかもしれんな。」
「それはいくらなんでも・・・・・」
「そう、幾らなんでもあり得ない。だが、アメリカの場合はあり得てしまうんだ。君は隣国から戻ってきたばかりだから分からんだろうが、
俺は本国の総司令部で色々見てきたんだ。だから、アメリカという国が、どんな物なのかはある程度分かっている。」

エルグマドはそこまで言ってから、いきなり苦笑いを浮かべる。

「とはいえ、俺は本物のアメリカ軍とは戦った事はない。いわば、素人も同然だ。だから、これからアメリカ人と戦い慣れている奴と
色々話をしなければならん。それにしても、」

彼は飛び去る2機のエアラコブラを見つめながら、自嘲気味に言った。

「到着早々、歓迎してくれるとはね。敵さんの礼儀正しさは感心せねばな。」


同日午前8時30分 フィグムミント

フィグムミントの仮説司令部では、蜂の巣をつついたような騒ぎが起きていた。

午前7時25分に飛び込んできた、

「特別列車爆撃さる」

という魔法通信は、仮説司令部に集まっていた将軍達をパニックに陥れた。
その後、特別列車に乗っていた魔道士からは連絡が途絶え、それが彼らのパニックを増長させた。
「総司令官閣下の安否はまだ分からんか?」

司令部内の席に座っている第20軍司令官ムラウク・ライバスツ中将は、隣に座っているレーミア・パームル大佐に尋ねる。いつも冷静な彼にしては、珍しく落ち着かぬ様子だった。

「はぁ・・・相変わらず、総司令官閣下に付いている魔道士からは何の連絡もありません。」
「なんてこったい!俺達は短期間の間に、総司令官を2人もやられちまったという事か?冗談じゃないぞ!」

ライバスツと向き合うようにして座っていた恰幅の良い男が、いきなり呆れたような口ぶりでそう言い放った。

「フェッテグト。まぁ今は落ち着け。」

彼は、落ち着かぬ後輩に対して、たおやかな物言いで諌める。
だが、本人も落ち着いていないのは明らかであり、言葉の節々に震えがある。

「しかし先輩。総司令部に付いている魔道士までもがやられちまったとなると、もはや・・・」

フェッテグト中将は、次第に声を沈ませる。
スリンク・フェッテグト中将は、第27軍を率いる軍司令官であり、年齢は49歳である。
体つきは痩せているようにみえるが、服を脱げば筋肉質であり、実際、彼は武術家として知られている。
顔の堀は深く、口元には薄い髭を生やしている。
傍目からみれば精悍その物であるが、後頭部に束ねている黒い長髪がそれをやや削いでいる。
ライバスツとは士官学校時代の2期後輩であり、フェッテグトはライバスツの事を尊敬できる先輩として見ている。

そのため、彼はプライベートの時でもライバスツの事を先輩と呼んでいる。

「安否がどうかは、捜索隊の報告を聞くまで待つしかない。それまではどうする事も出来んさ。」

ライバスツは首をすくめながらフェッテグトに言う。

「それにしても、こんな日にアメリカ軍の空襲があるとは。」

パームル大佐はため息交じりの口調で喋った。

「お陰で、まだ残っていた物資集積所が完全に焼けてしまいました。」
「空襲に来ていた敵機の中には、カレアント軍の国旗を付けた奴もいた。連中、海岸部の飛行場に大群を送り込んで来たようだな。」

フェッテグトの言葉に、司令部の誰もが一様に頷く。
フィグムミントは、午前7時40分頃に、海岸部から発進したとみられる80機の敵戦爆連合編隊に襲われた。
襲撃にやって来た敵機は、F4Uコルセア、P-47サンダーボルト、P-39エアラコブラの混成編隊であり、この敵機群はワイバーン隊と
空中戦を行いながら、先日、B-29の空襲を受けた物資集積所に襲い掛かって来た。
敵機の中には、フィグムミント市内を走り回るシホールアンル軍の馬車を狙い撃ちにする物もおり、これによって被害が続出した。
その敵機の一部は、あろうことか、新任の総司令官が乗った特別列車を爆撃したのである。
空襲が終わった直後、フィグムミントの部隊から捜索隊を出しているが、特別列車がどのような被害を受け、そして、どれぐらいの
死傷者が出たのかは、未だに分かっていない。

「今度の総司令官閣下は、テイマート閣下と違って優秀そのものだが・・・・今はとにかく、生きている事を願うしかない。」

誰もが、その思いで一杯だった。
しかし、5分後。仮説司令部の空気を吹き飛ばすような報告が飛び込んできた。

「失礼します!」

部屋の外から魔道士が入って来た。ライバスツはちらりとパームルを見る。彼女は既に魔法通信を受信していたのか、意味ありげな表情を浮かべる。

「捜索隊からの報告です。捜索隊は、鉄道沿いの街道でエルグマド閣下を発見したようです。」
「生きているのか?」

ライバスツがすかさず質問する。

「はい。閣下は、馬に乗ってフィグムミントに急行しているようです。」
「ほっ・・・・・そうか!」

ライバスツは心の底から安堵し、思わず笑みがこぼれた。
それから一瞬間を置いて、彼は先の言葉を思い出し、もう1度魔道士官に尋ねた。

「おい。今確か、馬に乗ってフィグムミントに向かっている・・・と言わなかったか?」
「は?あ・・・・はっ!確かにそう申し上げました。」
「ちょっと待て。」

フェッテグトも魔道士官に尋ねる。彼は呆気に取られたような表情を浮かべていた。

「総司令官閣下が馬に乗ってここに向かっているのか!?捜索隊に追随していった馬車にも乗らずに!?」
「はっ。何でも、時間が無いから先に急ぐぞと申されて、副官と一緒に走って行かれたと。」
「・・・・・・・・」

フェッテグトは、新司令官の奇妙な行動を聞かされ、思考が停止した。

「ハッハッハッ!これはまた、あの人らしいな。」

対して、ライバスツは愉快そうに笑っていた。

「先輩!いくらなんでも、護衛抜きに閣下を走らせるのはまずいでしょう!ジャスオ領には、連合軍の上陸に刺激された
民兵が辺りをうろちょろしてるんですぞ!こんな所に、方面軍司令官がほぼ無防備のまま外に出るなんて!」
「確かにまずいな。だがなフェッテグト。あの人はそんじょそこらの将軍とは訳が違うぞ。それに、エルグマドさんの
副官は、普段は日陰者だが能力は折り紙つきだ。元は特殊戦闘旅団(魔法騎士師団とほぼ同格の精鋭部隊である)の
将校をやっていた。10人程度の民兵が襲ってくれば、たちまちのうちに蹴散らしてしまうよ。まっ、相手が銃を
持っていたら話は別だが。」

それから10分後。仮説司令部の外がにわかに騒がしくなってきた。
馬の蹄の音が近付いてきたかと思うと、それは入り口の前で止まった。
(仮説司令部は1階建てで、将軍達が集まる作戦室は玄関のすぐ近くのため、来客が来たかどうかはすぐにわかる)
作戦室に、入り口の警備に当たっていた衛兵が飛び込んできた。

「新司令官閣下がお見えになりました!」
「なんと。意外と早く付いたな。」

フェッテグトは壁に掛けられた時計を見つめながら呟く。
作戦室内に居た将軍や随員の幕僚達は、その新司令官を出迎えるため、一斉に席から立った。
だが、

「やあ、すまんね。すっかり遅刻してしまったよ。」

衛兵の後ろから、出迎えるはずであった新司令官が副官を伴って現れた。

「気を付け!」

思わぬ初対面に、全員が(ライバスツを除く)驚きながらも、席から立ち上がって直立不動の体勢を取る。

「皆の物、待たせて済まんな。立ち話も何だから、まずは座って話そうか。」

エルグマドは緊張を解すかのような柔らかい口調で皆に言った。その一言で、彼らの緊張は一気に抜けてしまった。
彼らはエルグマドの言われるがままに、困惑顔を浮かべながら席に座った。

「閣下、特別列車が爆撃で破壊されたそうですが、お体の方は大丈夫ですか?」

フェッテグトは心配して声を掛ける。

「最初は流石にやばいかと思ったが、不幸中の幸いでこの通りピンピンしておる。どうやら、この老いぼれにも多少の運は
残っているようだな。」
「はっ、ご無事で何よりです。しかし、長旅の疲れもあるうえに、事故現場から直接こちらに出向かれたせいで、体の方は
お疲れでしょう。ここは少し、休まれては?」
「いやいや。その必要はなかろうよ。それよりも、わしは今すぐ会議をしたいのだ。こんなにも逼迫した戦況の地で指揮を取るんだ。
今すぐにでも対策は練らなければいかんだろう?」

エルグマドはフェッテグトに聞き返した。

「はっ。仰せのとおりです。」
「ふむ、分かればよろしい。それにしても、敵さんの思わぬ歓迎に遭って、予定の時間よりも遅れてしまったよ。たまたま、近くを
通りかかった気前の良い爺さんに会わなかったら、今頃はもっと遅刻しとっただろうなぁ。」

エルグマドはそう言ってから、味のある笑みを浮かべた。

「今さらで済まんが、ひとまず紹介をするとしよう。」

彼は席を立ちあがる。

「私が、戦死されたテイマート将軍に代わって、中部方面軍司令官に任命された、ルィキム・エルグマド大将である。
まず、率直に言わせてもらう。」

エルグマドは、それまでとは打って変わった真剣な口調で言う。

「わしは、対米戦には素人だ。」

思いがけぬ言葉に、作戦室に集まった軍司令官・随員達は一様にどよめいた。ただ1人、ライバスツだけはこの様子を面白そうに見つめていた。

「本国では資料が豊富にあり、ある程度の情報を頭に叩き込む事が出来た。だが、こと実戦経験に関しては、諸君らと比べたらわしは
赤子同然だ。諸君らは、この戦でアメリカ軍と幾度も戦火を交えている。わしは、実戦経験豊富な諸君らをあえて師とあおぐ。わしの
未だに知らぬ知識を、諸君らは思う存分に伝えてもらいたい。」

エルグマドの真剣な語りに、誰もが気圧されていた。

「わかりました。」

ここで、ライバスツが言葉を発する。

「閣下の真摯な思い。しかと受け止めました。これからは、閣下の指揮の下に、我が第20軍は敵を打ち崩すべく、最後まで働きましょう。」
「ライバスツか。」

エルグマドの表情が和らぐ。

「久しいな。南大陸で見事な働きをした貴様が居れば、私も指揮がやりやすくなる。」
「閣下、我ら第27軍も、同じ思いであります。」
「ほう、フェッテグトか。先の攻勢での判断は見事だった。貴様は少々向こう見ずな所があるが、今では立派な戦略家になったな。」
「はっ。ありがとうございます。」
「第9軍司令官。君の戦いもなかなか悪くはなかった。第9軍は今、第11軍の残余を合わせても定数の6割強しか居ないが、君たちは
敵軍の恐ろしさを幾度も体験している。ある意味では、第9軍も貴重な野戦軍だ。これからの戦いでは、君達も重要な存在となるから、
敗戦に気を落とさず、気ままにやってくれ。」

第20軍司令官、第27軍司令官に比べて、やや気落ち気味に顔を俯かせていた第9軍司令官は、新司令官が発した思わぬ言葉に驚き、
慌てて顔を上げた。

「頼りにしておるぞ。」

テイマートは笑みを浮かべながら言う。彼は本気で第9軍の今後に期待していた。

「は、はい!必ずや、敵を討ち果たして見せます!」

第9軍司令官は、憂鬱そうな表情を改め、元気のある声で答えた。

「うむ。さて、ここからは話題を変えるとして・・・・・」

エルグマドは、口調を改めてから、背後に振り返る。彼の後ろの壁には、ジャスオ領西部の地図が掲げられていた。

「現在、わが中部方面軍は、北はイッヒミクグから南はギリョナルグの線まで戦線を後退させている。敵は、リモントンギから
更に10ゼルド前進している。この調子でいけば、3日以内に前線はレンケリミントまで後退するだろう。」

彼は側にあった指示棒で地図をつつきながら説明する。

「我々中部方面軍は、無為な攻勢を中止したため、戦力の低下は一応抑えられている。だが、損害は決して少なく、一部の部隊
では戦力の補充を受けなければ戦う事もままならなない・・・・と、わしは報告書で読んでいる。」
「確かに、現状は厳しい物があります。」

ライバスツが頷きながら言ってきた。

「ですが、レンケリミントはリモントンギと違って、地形も充分に把握できており、各部隊もリモントンギ戦よりは遥かにましな
状態で戦う事が出来ます。閣下、反撃を行うのならば、是非、レンケリミントで行うべきです。」

「その通りです。」

フェッテグトも賛同する。

「我々には、未だに手付かずの軍団が残されています。ここでリモントンギ戦のように決戦を行えば」
「敵に大打撃を与えられる。そうだろう?」

エルグマドはフェッテグトの言葉を遮った。

「しかし、そうはならんかもしれん。諸君らも知っていると思うが、北ウェンステルで息をひそめていた連合軍が、本格的に活動を再開
している。目下、北ウェンステル駐留軍が応戦中だが、早くて1週間・・・・遅くても、3週間以内には戦線はジャスオ領にまでせり
上がっているだろう。」

北ウェンステル駐留軍は、6月の初旬頃から前進を停止したアメリカ軍や連合軍とにらみ合いを続けていたが、8月2日早朝、2か月近くに
渡って続いていた静寂は、アメリカ軍砲兵隊の猛砲撃によって打ち破られた。
砲撃開始から2時間後には、アメリカ軍が機甲師団を先頭にシホールアンル側の陣地に突っ込んで来た。
連合軍は、アメリカ軍4個軍、カレアント軍1個軍、バルランド軍2個軍、それに、新生成ったウェンステル義勇軍4個師団
(アメリカからの武器援助を受けている)で編成されており、攻撃の先鋒はアメリカ軍が請け負った。
これに対して、ウェンステル駐留軍は3個軍と、劣勢であったが、膠着状態に陥っている間に本国から補給や新兵器(キリラルブス改の事である)
を受領していたため、猛然と反撃を行い、アメリカ軍の前進部隊に出血を強要していた。
シホールアンル側は勇戦したものの、兵器の性能差はいかんともしがたく、戦線は以前と同じように、じりじりと後退しつつある。

「敵が南からも迫っている以上、ウェンステル駐留軍とジャズオ南部方面軍は必然的に、北に撤退しなければならない。敵が南から来るのならば
まだ良かったが、今は西からも迫りつつある。もし、君らが反撃を行い、万が一、敗北したとしたら・・・・・」

エルグマドは、アメリカ軍の占領地に指示棒を置き、それを一気に海側にまで滑らせた。

「敵は当然、こうやって軍を動かす。」

「ジャスオ領のみならず、デイレア領にも侵攻ですか。」
「そうだ。敵の上陸軍は、推定でも80万はいる。その大部分は、アメリカ製の装備で固めている。優秀な移動兵器を装備した軍隊なら、
上陸地点から300ゼルド(900キロ)もの距離を走破する事は、さほど難しい事ではあるまい。」

エルグマドは両手を机に置き、前のめりになる体勢で将軍や随員達を見回す。

「敵がどれほどの時間で西から東に縦断するかは分からん。だが、さほど長くない時間で達成できる事は確かだ。」
「将軍閣下は、敵が短時間で大陸を縦断する事を心配しておられますが、本当にその事は可能なのですか?」

第9軍司令官がやや不快げな表情を浮かべながら尋ねる。彼の内心には、悲観論ばかりを言ってどうするかという思いがあった。

「うむ。これまでの敵の行動を見る限り、300ゼルドの距離を2週間。遅くて3週間ほどで走破できる。」
「2週間・・・・・」
「諸君、これは決してデタラメな数字ではないぞ。」

エルグマドは念を押すように言う。

「君達は、パットン将軍を知っているだろう?あの有名なジョージ・パットンだ。彼は、南大陸反攻開始から僅か3日で、
50ゼルドも前進している。無論、敵はずっとこの調子で前進出来るはずはないだろう。しかし、それでも敵は、300
ゼルドという、一昔前ならば地の果てにも思えるような距離を僅か1ヶ月足らずで走破出来る。その後に残るのは、
包囲された北ウェンステル駐留軍や、南部方面軍の将兵達だ。」

彼は、指示棒でジャスオ領南部を幾度も小突いた。

「この2方面軍丸々が包囲下に置かれるとは限らん。だが、敵も撤退中の部隊を徹底的に追い詰めるだろうから、多くて6割。
少なくとも4割・・・・しめて20万もの将兵がこの巨大な牢獄に閉じ込められる事になる。」

作戦室は静まり返っていた。

「正直言って、私は、航空支援が満足に出来ない今の状況で、攻勢に打って出るのは自殺行為であると確信している。
敵上陸部隊の総数は、ジャスオ方面軍のみならず、デイレア方面軍の総数にも匹敵する。それに加え、敵には強力な援護も付いている。」
エルグマドは指示棒を机に置く。
コトッという音が、静まり返った作戦室内に不気味なほど響く。

「私としては、中部方面軍は防御に集中させようと考えている。勿論、局地的な機動防御などは行ってもよろしい。だが、
その際も深追いしてはならん。」

彼は、かっと目を見開いた。

「中部方面軍の壊滅は、南部方面軍、ウェンステル駐留軍の壊滅にも繋がると心掛けよ。」

エルグマドは、微かに大きな声音でそう言った。
彼の熱意は、ライバスツを始めとする軍司令官達に伝わった。

「これから、中部方面軍は、敵の行く手を遮る巨大な石として機能するだろう。辛く、長い戦いになるが、頼むぞ。」
「「はい!」」

一同は凛とした声音でエルグマドに返した。

「うむ。元気があってよろしい。」

エルグマドは、満足げに言う。

「さて、これから具体的な打ち合わせに入るとしよう。諸君、何か意見は無いかね?」

真っ先にライバスツが手を上げた。

「聞こう。」
「はっ。」

ライバスツは軽く会釈してから、意見を言い始めた。

「先ほど、閣下は航空部隊の支援が満足に行かない今、攻勢出るのは自殺行為、だと申されましたな?」
「そうだ。」
「実を言いますと、今のままでも、我が軍は危うい状況にあるのです。」
「危うい、だと?」
「はい。原因は、航空部隊の戦力低下にあります。中部方面の防空を担当している中部航空軍は、敵上陸前後から続けられる
航空作戦で戦力が減じております。このため、前線の防空区域にいくつか穴が生じています。」

中部航空軍は、連合軍が上陸を開始する前には1300騎ものワイバーンと208機の飛空挺を保有していたが、連戦に次ぐ連戦で、
ワイバーンの稼働数900騎、飛空挺の稼働数は150機に激減している。
中部航空軍は、僅か1週間で戦力を3割も削り取られたのである。
この大損害は、中部航空軍の首脳部を驚愕させるには十分なものだった。

「敵がこの穴を突いて、大空襲を仕掛けてきたら、地上軍は更に損害を出します。これに対処するには、更に航空部隊の増派が
必要かと思われます。」
「私からも意見があります。」

フェッテグトも手を上げた。

「何だ?」
「前線の事ですが、現在、我々はレンケリミントから5ゼルド西に前線を構築しておりますが、この防御線は本国の総司令部から直接
命ぜられて敷いた物です。ですが、この地方に防御線を敷くには問題があります。」
「問題とは?」

「はい。この地方は、遮蔽物が少ない平原地帯なのです。こんな場所に布陣したのでは、敵にどうぞ、空襲してくださいと言っているような物です。
ここは、防御線をレンケリミントから3ゼルド東にあるテンミィドまで下げるべきです。ここには、充分な遮蔽物がありますし、リモントンギと
同じような林が至る所に生えております。」
「なるほど、防御には向いているという事か。」

エルグマドはそう呟いてから、しばし思考を巡らせる。
2、3分ほど黙考した後、彼は口を開いた。

「君達の意見はよく理解した。ライバスツ、確か、敵は陸軍と海軍の航空部隊に支援されているようだな?」
「はい。ホウロナ諸島からは、敵の大型爆撃機が頻々に来襲してきます。それに加え、洋上にはアメリカ海軍の大艦隊がおります。
この艦隊は、空母20隻を主力とするハルゼーの大機動部隊です。この機動部隊からは常に支援機が飛んできており、陸軍機との
防戦で手一杯の時に戦場に乱入して、味方部隊に散々な被害を与える事が多々あります。陸軍機も侮れませんが、この海軍機の大群
だけでも何とかなればと、私は常日頃から思っています。」
「これに加え、南方方面からも、スーパーフォートレスの編隊が時折来襲し、後方の兵站基地を爆撃していきます。」

パームル大佐が付け加える。

「航空部隊の増派は、ワイバーンに限らず、飛空挺も加えて行った方が良いかと思われます。」
「航空部隊の増派に関してだが、本国は増派を最小限に留めるようだ。」
「何ですと!?」

ライバスツは思わず、声を荒げた。

「総司令部は中部方面の現状が分からないのですか!?」
「まあまあ、落ち着け。話は最後まで聞く物だぞ?」

エルグマドは意味ありげにニヤリと笑った。

「はっ、失礼いたしました。」
「うむ。とにかく、陸軍は大規模な増派を行わないと決めた。だが、海軍は陸軍に対して、段違いの対応を示してくれた。」
「段違いの、と申しますと?」

第9軍司令官が尋ねる。

「ああ。海軍さんは、竜母機動部隊を近々投入するつもりらしい。どれぐらいの戦力を投入するかは不明だが、海軍側の反応からして、
第4機動艦隊を丸々投入するようだ。」
「第4機動艦隊・・・・それも、丸々ですと!?」

将軍達はどよめきの声を上げた。
シホールアンル海軍の主力とも言うべき第4機動艦隊は、主力である12隻の竜母を始めに、新鋭戦艦や新鋭巡洋艦等が優先的に配備されている。
海軍の精鋭とも言うべき第4機動艦隊が、この近海に投入されるとしたら、アメリカ海軍もそれに対応しなければならない。

「そうだ。第4機動艦隊が近海に現れれば、敵機動部隊も地上支援どころではなくなる。そうなれば、必然的に空の脅威も減る。」
「なるほど。海軍は気前が良いですな。」

ライバスツは海軍の思い切りの良さに機嫌を取り直した。

「海軍も、陸軍部隊にあまり損害を出して欲しくないと思っているのだろう。これで、陸軍の上層部も反応して航空部隊を大規模に増派してくれればなぁ。」

対して、エルグマドは苦笑しながら応える。どうやら、陸軍の反応に満足してないようだ。

「それから、フェッテグトの言っていた防御線の件だが。」

彼はフェッテグトに顔を向ける。

「この際、上の言葉なぞ無視して構わん。私は、君の言っていた方針を取ろうと思っている。」

「本当ですか!?」

フェッテグトは驚きの余り声を上げる。嬉しさよりも、命令を無視して良いのかという思いが強かった。

「しかし、それでは、本国の意志に反する事に。」
「君達は、テイマートの意志に従ったために、リモントンギで酷い目に会ったのを忘れたのかね?」

エルグマドが冷たい声音で問う。

「わしは、先にも言った通り対米戦においては素人だ。それに対して、君達はアメリカ軍の恐ろしさを知っている。その君達は、
確たる根拠を持って防御線の後退を進言したではないか。私は、君らの意見を頭の中で考えた末に、決断したのだ。」

エルグマドは、ゆっくりと一同の顔を見回した後、改めて問うた。

「君らは、敵に好き放題爆撃されても良いかね?」

エルグマドの問いに、一同は答えた。
答えは勿論、否である。

「そうだ。だから、わしは防御線を後退させる事にした。そもそも、アメリカ人共に爆撃目標を示してやる義理なぞない。敵はこっちを
苦労させるために爆弾を抱えて来るんだ。ならば、こっちも身を隠し、おもてなしをする奴を増やして敵さんを苦労させねばな。」

彼が言葉を言い終えるや、一同はどっと笑い声を上げた。

就任早々に始まった会議は順調に進み、午前11時には終わった。
会議が終わると、将軍達は作戦室から出て行った。ライバスツは最後の1人になるのを見計らって、エルグマドの側に歩み寄った。

「遅れましたが、先輩、お久しぶりです。」

ライバスツはエルグマドに右手を差し出す。

「ああ、本当に久しぶりだな。」

エルグマドは満面の笑みを浮かべて、ライバスツの手を握った。
ライバスツとエルグマドは、若い頃からよく同じ部隊の一員として戦場を駆け巡っており、2人は長い間、よき先輩と後輩で居続けた。

「かれこれ7年ぶりですか。」
「ふむ、それぐらいになるな。貴様の噂は聞いておったぞ。昔は女性兵士にすらいじめられていた軟弱物が、今では“南大陸の智将”
と呼ばれるほどに成長するとは。」
「ははは、昔の話はよしてくださいよ。」

ライバスツは恥ずかしそうに言う。

「しかし、本国から先輩が来られるとは。私は予想だにしていませんでしたよ。」
「本国の総司令部では役立たずなばかりに、こうして前線に放り込まれてしまったのだよ。いやはや、面目ない限りだ。」

エルグマドはそう言ってから、高笑いを上げた。

「またまた、御冗談を。」
「ふむ、くだらん冗談を言っても仕方が無いか。」

エルグマドは顔から笑みを消した。

「わしは、陸軍総司令官から直々に命令を受けてここに来たが、陸軍総司令官は、実は皇帝陛下がわしを指名したと行っておったな。」
「皇帝陛下が?」
「そうだ。詳しい内容は教えてくれなかったが、皇帝の指名であるからには、俺もそうそうとヘマは出来ん。」
「しかし、本当によろしいのでしょうか?先の防御線後退の話は、本国の意志にそむく形になりますが。」
「構わんさ。」

エルグマドは即答する。

「そもそも、本国の馬鹿どもは、自分達の考えが常に正しいと思い込んでいる。だが、実際は穴だらけだ。奴らは、情報は良く取り込んでいるが、
常にツメが甘すぎる。先のリモントンギ戦だって、元々は本国から持ち込まれた作戦案だ。あの作戦案は詰めが甘いどころか、全体が駄目だった。
ああなっては、優秀な将兵達を無駄に失うだけだ。俺は、将兵達を無駄に死なせないために、より防御に向いた場所まで前線を後退させた。
全ては、南の友軍部隊が最後の一兵まで、安全に北へ逃れるためだ。言うなれば、貴様が南大陸でやった事と同じ事さ。」
「そういう考えでしたか。」

ライバスツは納得し、顔を頷かせる。

「やはり、閣下は相変わらず、人情家ですな。昔からちっとも変わらない。」
「何を言うか。わしは自分が正しいと思った事をやったまでだぞ。」
「はは。そうですな。」

ライバスツは苦笑する。

「とはいえ、これで防御戦はなんとかこなせそうです。本国では、またひと悶着ありそうですが。」
「なに、勝手に騒がせておけばよい。連中は、わしにヘマをしてもらいたくて仕方が無いのだ。」

エルグマドはそこまで言ってから、急に不敵な笑みを浮かべた。

「最も、わしはそう簡単にヘマをしないがね。」
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