自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

098 第80話 ゼロ・アワー

最終更新:

tapper

- view
だれでも歓迎! 編集
第80話 ゼロ・アワー

1483年(1943年)8月31日 午後11時57分 カレアント公国ループレング

12時前のループレングは、不気味なほど静かであった。
辺りは闇に覆われているが、空は所々、雲の切れ目から星がのぞいている。
アメリカ第1歩兵師団第5野戦砲兵大隊の第1中隊長であるイリヤ・カツコフ大尉は、緊張を抑えきれぬ表情で周りを見回した。
暗闇の中には、うっすらといくつもの影が見える。影の形は2種類あり、1つめは大きく鎮座している155ミリM1榴弾砲だ。
もう1つはその周囲に取り付いている砲兵達だ。彼らのうち、何人かが体をそわそわさせている。
(緊張している奴は、俺だけではないか)
カツコフ大尉は伸びた無精髭を撫でながら、そう思った。
時計を見てみる。時刻は既に11時59分。ゼロアワーまで1分も無い。
未だに、辺りは静かだ。聞こえるのは虫の鳴き声と、風の音ぐらいだ。
1分後には、その静けさはあっと言う間にかき消され、M1榴弾砲が8マイル先のシホールアンル軍陣地に砲弾を叩き込む。
いや、このM1榴弾砲だけではない。第1歩兵師団の他の155ミリ砲、105ミリ砲や、第1歩兵師団以外の師団も、
一斉に砲を撃つ事になっている。
(合衆国陸軍始まって以来の制圧射撃だな)
カツコフ大尉がそう思った直後、時計の針が午前0時を指した。
中隊本部の電話が鳴った。大尉はすぐに受話器を取り上げた。

「もしもし。」
「私だ。砲撃を開始せよ。」

電話口の向こうにいる大隊長はそれだけ言って電話を切った。これだけで充分であった。

「中隊、撃ち方始めぇ!!」

カツコフ大尉が大音声で命じた。その直後、M2榴弾砲が一斉に火を噴いた。
それまでの静かな夜は、アメリカ軍部隊が放った一斉射撃によって様変わりした。

105ミリM2榴弾砲、155ミリM1榴弾砲、105ミリM7自走砲計千門以上の砲火は、前線の向かい側にあるシホールアンル軍陣地に注がれていった。
発砲開始から間も無く、草原の向こうの森林地帯に砲弾が落下した。砲弾はまず、森林地帯前面に構築された防御線に降り注いだ。
突然の砲撃に驚いたシホールアンル兵は、慌てて塹壕の中に入っていく。
大多数が塹壕の中に入った時、アメリカ軍野砲の放った砲弾が落下した。
砲弾は塹壕線の手前で落下し、派手に土を吹き上げた。
その数秒後に、先の落下地点よりも進んだ位置に砲弾が炸裂した。
徐々に近付いて来るアメリカ軍の砲弾幕に、シホールアンル兵達は恐怖に包まれた。
そしてその数秒後、敵の野砲弾が塹壕陣地に落下してきた。
塹壕の中に直撃した砲弾は、固まっていたシホールアンル兵10名ほどを一瞬で吹き飛ばし、この反攻作戦における1~10人目の犠牲者を生み出した。
別の砲弾は待機していたキメラに命中して、バラバラに吹き飛ばしてしまった。
またもやシホールアンル軍陣地に大量の野砲弾が叩きつけられ、人、武器、木箱、土などを分け隔てなく叩き潰し、塵に変えた。
野砲弾の弾幕に前線陣地が耕され始めて5分後、シホールアンル軍陣地のほうでも後方の野砲陣地から反撃の放火が開かれた。
第5歩兵師団第21野戦砲兵大隊は、シホールアンル軍の前線陣地から10.5キロほど離れた第2線陣地で105ミリ榴弾砲を撃ちまくっていた。
砲弾を30発ほど撃ち終えた直後、急に何かの飛翔音が聞こえた。

「おい・・・・こいつはやばいぞ・・・・!」

大隊長のトーマス・マーヴィン少佐は、聞こえてくる音の正体が何であるかすぐに分かった。
彼は急いで、指揮下の砲兵隊に注意を促そうとしたが、その直後、105ミリ野砲陣地に砲弾が落下してきた。
いきなりズダーン!という爆裂音が響き渡り、大地が揺れた。
マーヴィン少佐はこの時、落下してきた敵弾のうち1発が榴弾砲を吹き飛ばしている所を目撃した。

「畜生!何がシホット共の大砲は大したこと無いだ!しっかり届いているじゃねえか!!」

彼は顔を真っ赤にして怒鳴った。
マーヴィン少佐は、戦闘を経験した第7歩兵師団の野砲部隊の将兵から、シホールアンル側の野砲はこっちの野砲と比べて射程距離が短く、
一方的にアウトレンジできるから、相手に撃たれても大した事無いと聞かされていた。
ところが、シホールアンル側の放った砲弾は、射程圏外のはずであった野砲陣地に飛んで来た。
大半は外れ弾のようであったが、1発がまぐれ当たりし、105ミリ榴弾砲1門が吹き飛ばされた。


「注意しろ!敵の砲弾はこっちにも届くぞ!!」

マーヴィン少佐はすかさず、指揮下の各中隊に注意を促した。
しかし、敵弾は次々と飛来してきた。
最初の射弾は、榴弾砲1つを潰したのみで被害はなく、続いて飛来してきた敵弾も精度が悪く、陣地の近くに落ちるだけであった。
だが、敵の第5斉射弾がもろに陣地内落下してきた。
榴弾砲のすぐ後ろで敵弾が炸裂し、今しも砲弾を撃ち込もうとしていた砲兵数人が吹き飛ばされ、榴弾砲も大破する。
炸裂弾の破片が溜めて置いた弾薬箱に突き刺さり、誘爆で榴弾砲陣地が照らし出される。
とある砲弾が105ミリ榴弾砲に命中し、次の瞬間、榴弾砲がひしゃげ、砲兵達がばらばらに砕かれた。
続いて飛来して来た敵の砲弾は、とある中隊本部を直撃し、味方部隊の偉大なる勝利を願っていた中隊長を、8名の部下と共に爆死させた。
新たな砲弾が第21野戦砲兵大隊本部の後方30メートルに着弾した。
鼓膜を破らんばかりの轟音が鳴り響き、地面が揺れに揺れた。
マーヴィン少佐は振動に耐え切れずに転倒してしまった。その直後、爆風が大隊本部の天幕に吹き込んで、天幕を風圧で押し潰してしまった。
第21野戦砲兵大隊もすぐさま反撃に転じ、森の向こう側に光る発砲炎を目標に砲弾を撃ち込む。
後方の155ミリ砲陣地も、真っ先に反撃してきたシホールアンル軍砲兵部隊目掛けて猛砲撃を行う。
この時、シホールアンル側の反撃を受けたのは、第21野戦砲兵大隊だけではなかった。
同じ師団に属する第46野戦砲兵大隊も、第50野戦砲兵大隊も同様であった。
いや、反撃を受けたのは第7歩兵師団のみではない。
敵陣から11キロ圏内に入っている榴弾砲陣地は、ほぼ全てが発砲時の閃光をシホールアンル側に発見され、敵の前線陣地を
叩いている最中にいきなり反撃を食らっていた。
どのM2野戦砲兵大隊もすぐに反撃を命じたが、驚くべき事にいくら叩いてもなかなか効果は現れなかった。
この時、シホールアンル軍砲兵隊と、アメリカ側105ミリ榴弾砲部隊は彼我11.3キロの距離を置いていた。
105ミリM2榴弾砲の最大射程は11200メートル。
それに対し、反撃に出ていたシホールアンル側の砲兵部隊は、82年型重砲を装備していた。
この82年型重野砲は昨年開発されたばかりの新型野砲であり、アメリカ側はこの野砲の性能を知らなかった。
新型野砲は口径が136ミリもあり、射程距離は11400メートルと、M2榴弾砲を凌駕していた。
このため、M2榴弾砲が発射した砲弾は、シホールアンル側の陣地に届かず、逆に82年型重砲の砲弾は次々とM2榴弾砲陣地に落下し、
アメリカ側に夥しい損害を与えていた。

射程距離の足りなかった71年型野砲が味わった悲劇を、今度はアメリカ側が味わう事になったのである。
前線軍の各師団、旅団に配備された82年型重野砲は傘にかかってアメリカ軍砲兵陣地を潰しにかかったが、僅か15分ほどで立場は逆転した。
アメリカ軍に配備された野砲はM2榴弾砲のみではない。
M2榴弾砲陣地の後方には、M1榴弾砲、それにM1カノン砲「ロングトム」が配備されており、それらがシホールアンル砲兵陣地の
大体の位置を確認するや、敵陣砲撃を一旦棚上げにしてこの砲兵陣地を潰しにかかった。
155ミリ榴弾砲、カノン砲に捕捉されると、シホールアンル側の反撃も勢いを失いかけたが、シホールアンル砲兵部隊の一部は、
目標をM2榴弾砲陣地からその手前を狙った。
いや、狙ったと言うよりは、自らも猛砲撃を受けてパニックに陥った砲兵隊が砲弾の射程距離を短めに設定してしまっただけなのだが、
これが思いもよらぬ場所へ着弾した。
そのような事態は全戦線で起きていたが、特に手痛い被害を受けたのは、左翼側前線陣地で待機していた第5機甲師団の戦車部隊であった。
待機していた第5機甲師団所属の戦車部隊は、いつの間にか熾烈な撃ち合いと化した砲兵部隊同士の砲撃戦に見入っていたが。
突如自分達の所にも砲弾が落ち始めた。
シホールアンル側は、この戦車部隊に向けて7分間、136ミリ重砲を撃ちまくっていた。
その後は155ミリ砲弾によって重砲はあらかた叩き潰されたものの、第5機甲師団は早くもM4戦車6両、M3軽戦車2両、
M3ハーフトラック及び自走砲計7両を失い、突撃開始前から貴重な戦力を失ってしまった。
マーヴィン少佐の第21野戦砲兵大隊は、敵の砲弾が陣地に降り注いでからそれが止むまでの24分間、シホールアンル側の重砲隊に
撃たれっ放しになっていたが、その間、残ったM2榴弾砲は敵重砲弾に叩き潰され、または吹き飛ばされながらも、残った榴弾砲は
敵の前線陣地や森林地帯に向かって撃ちまくった。
マーヴィン少佐は、いつの間にか敵の砲弾が降って来ない事に気が付いた。

「シホット共の砲撃が止んだ・・・・・・155ミリがあらかた潰しちまったか。」

彼は確信していた。
マーヴィン少佐は、しきりに後方の榴弾砲陣地に支援砲撃を要請していた。
その要請に従ったのであろう。155ミリ砲陣地は敵陣後方にある忌々しい敵野砲陣地を薙ぎ払ってくれた。
砲弾の降らなくなったM2榴弾砲陣地が、155ミリ砲部隊の活躍を何よりも証明している。

「しかし、酷く叩かれた物だ。」

マーヴィン少佐は、目の前に見える砲兵中隊の惨状を見て顔をしかめた。
ゼロ・アワー時には、大隊の砲兵部隊が一斉に砲弾を放っていた。
数十門の大砲が敵に向けて砲を発砲する様は、まさに頼もしい物があった。
それが、今では敵にさんざん叩きまくられて使える砲が減少している。
目に見えるだけでも、4門のM2榴弾砲が破壊され、その周囲で重傷者が呻いており、そこに衛生兵が担架を担ぎながら走っていくのが見える。

「大隊全体で、2割はやられたかも知れんな。攻勢開始直後からこんな反撃を食らうとは・・・・・先が思いやられるぜ。」

マーヴィン少佐は不安げな表情でそう言ったが、その声は、砲撃を続ける榴弾砲の砲声でかき消された。


午前1時 

「前進!」

その声がレシーバーから響くなり、機甲師団は動き始めた。
ループレング戦線の左翼攻勢の主役である第1機甲師団は、1時間の準備砲撃の末に前進を開始した。
待機用に使用していた前線陣地からまず、M4シャーマン戦車が踊り出す。
M4シャーマンで編成される戦車大隊が1個大隊ほど前進すると、今度はハーフトラックが続いた。
その後方にはM3軽戦車と、自走砲であるM7プリーストが続行していく。
やがて、M4シャーマンは前進中に奇妙な隊形を作り始めた。
先頭車を基準に、その右、左斜めに後続車が続く、すると、また後続戦車が前方の戦車の右名斜め、又は左斜めに付く。
そうしているうちに、幅の広い矢のような楔形の隊形が出来上がった。
その後方に、ハーフトラックの隊列が一定の距離を置いて続行する。
その左横700メートルでは、同じように1個戦車大隊の背後にハーフトラック等が張り付いて、時速35キロのスピードで敵陣向かって突進している。
第1線陣地から敵の最前線陣地までは距離にして約9キロ。
所要時間は12、3分と言った所である。
このような隊形で草原地帯を突っ走っているのは、第1機甲師団のみではない。
同じ軍に属する第2機甲師団や、他の軍も同様に戦車部隊、機甲歩兵部隊等を全く同じ隊形で敵陣に向けて突進させている。

これが昼頃であれば、上空からは連合軍側前線から放たれた巨大な矢が、森林地帯に向けて突き刺さろうとしているように見えるであろう。
20分後には、後続の歩兵師団も後に続く事になっている。
第1機甲師団第21戦車連隊所属の第1戦車大隊B中隊に属するエーリヒ・ヴェンク中尉は、指揮下の戦車小隊を率いながら楔形隊形のまま前進を続けていた。

「今の所、敵の阻止放火は無しか。」

彼は揺れる車内に体を揺られながら、小さい声で呟いた。
上空に砲弾が空気を切り裂いて通る音が響く。
準備砲撃を終えた砲兵隊が、今度は攻撃前の援護射撃を行っているのだ。
今頃、準備砲撃で散々叩かれた敵の前線陣地は、より酷い有様になっているであろう。
(哀れだな、シホット)
ヴェンク中尉はそう思った。
待機陣地から出て10分が経過した時、砲弾の飛翔音が聞こえてきた。
ヴェンク中尉は味方の砲弾だと思っていたが、いきなり近くで爆発音が轟いた。
爆発音は連続して響いた。
最初は味方が誤射したと思ったが、砲弾はその後も連続して飛来し、前進部隊の周囲に集中していた。

「敵の阻止砲火だ!」

ヴェンク中尉は確信した。
恐らく、砲兵隊は敵野砲を完全に潰しきれなかったのかもしれない。
事実、その通りであった。
シホールアンル側は、アメリカ側の猛砲撃で野砲を次々と撃破させられたが、それでもある程度の数の野砲が生き残っていた。
この野砲部隊は一度砲撃を止めて、目標を敵野砲陣地から、迫り来るであろう敵前進部隊に切り替えた。
そして、反対側の敵陣からやって来た前進部隊が近付くのを待って、生き残った野砲が一斉に火を噴いた。
シホールアンル側の阻止砲火は、開始当初は凄まじかった。
第1機甲師団の前進部隊には、シホールアンル軍の71年型野砲、82年型重砲計41門が振り向けられ、それらが味方の仇とばかりに砲弾を撃ちまくった。
砲撃開始直後は、全く見当外れの位置に落下していたが、砲撃開始2分ほどでまず、第1戦車大隊A中隊の3号車が被弾した。
防御の薄い砲塔上面に落下した敵弾は薄い装甲を叩き割って、車内で炸裂した。

このため、3号車は被弾炎上してしまった。その次に、続行していたハーフトラックの1台がすぐ後ろに野砲弾の炸裂を受けた。
走っていたハーフトラックは後部部分から吹き飛ばされ、ぐるりと1回転した後地面に叩きつけられた。
思いのほか激しい阻止砲火に、アメリカ軍前進部隊は次々と損害を出していく。
しかし、シホールアンル側の阻止砲火も、パンツァーカイルを形成したアメリカ軍機甲部隊を押し留める事は出来ない。
アメリカ軍前進部隊の最先頭は、前進開始から僅か14分で敵の第1線陣地に到達した。
シホールアンル側の第1線陣地は、事前の砲撃によって徹底的に叩かれていた。
塹壕線はずたずたにされ、砲弾穴の周囲には軽装の騎士等が多数倒れていた。
戦車部隊はその塹壕線を乗り越えようとした時、前方に突進してくるゴーレムの群れが見えた。

「停止!」

第1戦車大隊の大隊長はすぐに命じ、前進部隊の進撃を一旦止めた。
ゴーレムの数は20体ほどで、森の向こうから約20キロのスピードで走って来る。
戦車隊はそのゴーレムの群れが距離500に近付いた所で75ミリ砲弾を撃った。
2体のゴーレムが75ミリ砲弾を受けた。
1体は上半身を吹き飛ばされて機能を停止し、2体目は片足を破壊されて地面に転倒する。
シャーマン戦車は続けて砲弾を放つ。更に3体のゴーレムが破壊された所で、ゴーレムの群れは別々に分散し始めた。
2体ずつに分かれたゴーレムは、戦車隊を包み込むようにして進もうとする。
だが、その間にもシャーマン戦車隊は1体、また1体と、突っ込んで来るゴーレムを討ち取っていく。
20体中、シャーマン戦車に近づけたのはわずか1体のみであった。
その1体は、B中隊の2号車に近付くと、その硬そうな拳を思い切り砲塔に叩き付けた。
その破壊力は凄まじく、砲塔上面の装甲版がひしゃげ、座っていた戦車長が叩き潰されたほどであった。
そのゴーレムは次に、豪腕を履帯に叩き付けた。履帯はその一撃で損傷してしまった。
更に戦車を殴り付けようとした時、そのゴーレムは75ミリ砲弾に吹き飛ばされた。
上空に照明弾が打ち上げられる。上空がぱあっと光り、視界の悪かった前線陣地の全容が曝け出された。
大隊長車は、森の向こう側に魔道士らしき物の集団を認めると、そこに75ミリ砲弾を撃ち込んだ。
爆発と共に人体と思しき物が派手に吹き上げられた。
シャーマン戦車隊乗り越えようとしていた塹壕の中から、シホールアンル兵の姿が見え隠れしている。
いきなり、シホールアンル兵は何かを投げつけてきた。

大隊長車の周囲に落ちてきたそれは、いきなり爆発した。

「前進再開!奴らを踏み潰せ!」

大隊長はすぐさま命じ、再び部隊を前進させた。
ゴーレムによって先頭不能に陥ったB中隊2号車を除き、全ての戦車とハーフトラックが再び進み始める。
シホールアンル兵達は必死に手榴弾らしきものを投げ込んでくるが、戦車であるシャーマンには当たり所が悪くない限り、
至近で爆発しても何ら効果は無かった。
シャーマン戦車は、塹壕の上を乗り越えていく。
1台のシャーマン戦車は、慌てて塹壕から這い出そうとするシホールアンル兵の一団を見た。
その一団に向けて機銃掃射をかけると、シホールアンル兵達はばたばた撃ち倒された。
時折、弓矢をシャーマンやハーフトラックに放ってくる敵兵もいるが、そんな物が通用するはずが無く、
逆に機銃弾を浴びて射殺されたり、負傷する者が続出した。
戦車部隊、装甲車部隊にあっさりと第1線陣地を突き破られ、第1線陣地のシホールアンル兵達はパニックに陥った。
慌てて後方に逃げ出そうとするシホールアンル兵達だが、後続して来たハーフトラックの一部が停車し、そこからアメリカ兵達が降りて来た。
彼らはアメリカ兵を見るなり、剣を振りかざして立ち向かったが、銃対剣では勝負は最初から付いていた。
立ち向かった12名のシホールアンル兵は例外なく全て射殺された。
機甲歩兵部隊は塹壕陣地の制圧にかかり、銃の力で瞬く間に陣地を制圧していった。
歩兵の一部が陣地制圧に取り掛かっている間、前進部隊の本隊は森林地帯に侵入していた。
ループレング地区の森林地帯は、木々が細かった。
第21戦車大隊のシャーマン戦車隊はちょうど北に伸びる小道に沿って移動していたが、パンツァーカイルの隊形で進んでいるため、
シャーマンの何両かはその細い木々をなぎ倒しながら進み続けた。
木々が進撃の邪魔となっているため、進撃スピードは20キロに落ちたが、シャーマン隊が木を倒してくれているため、後続のハーフトラック、
軽戦車、自走砲隊等はなんら障害も無く進めた。
縦1キロほどの森林地帯を順調に抜けつつあった前進部隊であったが、森林地帯を抜けるまであと300メートルと迫った時、
いつの間にか隠蔽されていたシホールアンル側の野砲が火を噴いた。
C中隊第2小隊長であるヴェンク中尉は、砲塔から体を出して周囲を警戒していたが、いきなり森の左右から戦功が煌くのが見えた。

「敵の野砲だ!」

ヴェンク中尉はそう叫びながら、急いで車内に入った。
ドーン!という爆発音が響き、森を進む前進部隊の左右で敵の砲弾が炸裂する。

「こちら3号車!キャタピラを吹っ飛ばされた!!」
「全隊停止!敵の野砲を撃て!」

大隊長の命令で、またもや前進部隊は停止した。
停止した前進部隊に、敵の野砲がまたもや発砲した。敵野砲弾が次々と炸裂する中、今度は後続の機甲歩兵大隊に被害が出た。
ハーフトラック1台が、右側方から野砲弾を受けてしまった。
野砲弾は瞬発弾であったが、装甲が戦車より薄いハーフトラックでは耐えられなかった。
たちまち車体の右側がざっくりと抉れ、乗っていた歩兵が派手に吹き飛ばされた。
報復はすぐに行われた。

「目標、敵野砲!距離300、弾種榴弾。ファイヤ!」

ヴェンク中尉の戦車は、左側にある野砲のうち、左から2つめの野砲を狙った。
砲弾は木々に当たる事無く飛び抜け、狙った野砲に命中してそれを爆破した。
戦車の中には、木々が邪魔で狙い打つ事が出来ぬものもいたが、その戦車はあろうことか、その野砲に向かって突進した。
薄い木々が次々と薙ぎ倒され、背の高い戦車が数両、敵の野砲に突っ込んでいく。
1両が左側のキャタピラを吹き飛ばされたが、残りが敵の野砲に迫った。
シホールアンル兵は恐れを成して逃げ出した。
その背後からシャーマン戦車の車載機銃が唸りを上げ、逃げ惑うシホールアンル兵を次々と射殺する。
野砲の1門が、突進してきたシャーマンに踏み潰された。野砲は一瞬にして潰され、ただの凹凸のある薄い鉄屑にされた。
右側の敵野砲が蹂躙されている間、左側の野砲はシャーマン戦車の砲撃によって次々と沈黙し、交戦開始7分後には全滅してしまった。
この短い戦闘で、前進部隊はシャーマン戦車1両が炎上し、2両が履帯を破壊されて行動不能となった。
後方ではハーフトラック1台が破壊され、2台が損傷した物の、被害はそれだけだった。

「くそ、なんでこんな所に敵の野砲があるんだ。」

ヴェンク中尉は、燃える敵野砲を見ながら忌々しげに呟いた。見た所、車輪らしき物がある。

先の準備砲撃で、何門かの野砲がここに運び出されたのであろう。
中尉がそう思った時、無線機から再び前進再開の声が響いた。

「考える暇もなしか。電撃戦というのも楽じゃねえな。」

彼は苦笑しながら呟いた。部隊は再び前進し始めた。
野砲を蹂躙したシャーマン戦車が定位置に戻ると、パンツァーカイルを形成して細い木々を蹴散らしながら前進する。
しばらくして、森が途切れた。前進部隊は敵の野砲陣地に踊り出していた。
敵の野砲陣地は、準備砲撃と、事前の援護射撃のお陰で大半が破壊されていたが、それでも生き残っていた砲がいた。
いきなり現れたアメリカ軍の戦車部隊に、シホールアンル兵達は誰もが仰天していた。

「前方に敵の野砲陣地発見!蹴散らせ!」

大隊長車から新たな指示が入る。
生き残っていた野砲が、砲を水平に倒しながら砲身を向けようとするが、砲弾を放つ事は出来なかった。
とある野砲は、砲身を戦車に向けた直後、その戦車から75ミリ砲弾を叩きつけられて爆砕された。
別の野砲は、砲兵が間に合わずと確信して砲身を向ける事すらかなわず、そのまま放棄された。
操作する砲兵が居なくなった野砲にシャーマン戦車が体当たりし、ものの数秒で踏み潰した。
この野砲陣地には、シホールアンル軍第9歩兵師団の野砲大隊が布陣していたが、野砲大隊の将兵は、突然森から現れ、
暴れ回るシャーマン戦車の群れに恐慌状態を起こし、殆どが後方に向けて逃げ出した。
その逃げるシホールアンル兵達にも、5、6台のシャーマン戦車が75ミリ砲弾を叩きつけたり、車載機銃を浴びせたりして次々と薙ぎ倒していた。
ループレング前線軍の左翼部隊は、アメリカ機甲師団の前進開始から30分足らずで、野砲陣地にも踏み込まれ、早くも壊走寸前の状態に追い込まれていた。

午前1時10分 ループレング前線右翼戦線

左翼戦線の攻勢はアメリカ側の思い通りに進んでいたが、他の戦線では左翼戦線ほど進撃は上手くいかなかった。
特に、右翼戦線では激しい戦闘が繰り広げられた。

第1線陣地後方の森林に隠れていた第123石甲師団は、アメリカ軍野砲の砲撃を受ける第1線陣地を歯噛みして見ながら、敵部隊が来るのを待っていた。

第28石甲連隊第1大隊に属する第2中隊は、配下の4足歩行式ストーンゴーレムを従えながら待機していた。

「敵の砲撃で、4体がやられてしまったか・・・・!」

第2中隊長であるテレド・ブルガド大尉は悔しげな口調で呻いた。
シホールアンル軍の新戦力であるキリラルブスは、4体編成で1個小隊。16体編成で1個中隊を編成している。
ブルガド大尉の中隊は、敵の事前砲撃で1個小隊相当のキリラルブスを失っているため、敵に対する攻撃力はがた落ちとなっている。
やっと、アメリカ軍の援護砲撃が終わり、石甲師団のキリラルブスは第1線陣地に移動を開始した。
間も無く、第2中隊も第1線陣地に姿を現した。
ブルガド大尉は、猛砲撃ですっかりすき返された陣地を見て、思わず顔を背けた。
第1線陣地は、敵の野砲弾によって徹底的に叩き潰され、砲弾穴の周囲には、戦死したシホールアンル兵が数え切れぬほど散乱していた。
無傷で生き残っていた数人の兵が、悲鳴を上げながらキリラルブスの側を通り抜け、森の方へ逃げて行った。

「これは酷すぎる・・・・」

ブルガド大尉は思わずそう呟いていた。
その時、別のキリラルブスが背中に乗せている野砲から照明弾を打ち上げた。
発射された照明弾の数は6発。その6発が上空で光った時、将兵は思わず息を飲んだ。
照明弾に照らし出された草原の向こうに、何十台というアメリカ軍戦車が、楔形のような隊形を形成して猛スピードで前進していた。

「いたぞ、アメリカ軍戦車だ!砲身を向ける!」

ブルガド大尉はそう言いながら、頭の中でキリラルブスに指示を送る。
キリラルブスに搭乗する3人の内、車長を務める者は魔道士であり、その魔道士がキリラルブスに指示を送って操る。
キリラルブスは姿勢をやや前かがみにした状態になって射界を広げる。
2人のうち1人が砲身を水平に倒して、車長が照準機を除く。

「弾種は榴弾ではなく徹甲弾を使う」
「分かりました。」

ブルガド大尉の言葉に従って、装填手が榴弾とは違う色をした砲弾を、砲身の後ろから詰め込む。
照明弾が絶えず打ち上げられ、アメリカ軍戦車部隊が照らし出される。それに向けて、数十体以上のキリラルブスが砲身を向けて、発砲の瞬間を待った。

「距離500グレル・・・・450グレル・・・・400グレル・・・・」

徐々にアメリカ軍戦車部隊が近付いて来る。
楔形隊形を形成して前進して来るアメリカ軍戦車部隊は、1隊だけではない。
その右横にもう2隊ほどの同様の戦車部隊が迫りつつある。
その部隊には、第24、25のいずれかの連隊が迎撃する事になっている。
彼らの当面の敵は、前方の戦車部隊だ。
彼我の距離が350グレルに迫った時、アメリカ軍戦車部隊が一斉に発砲した。
敵の主砲弾が第28石甲連隊の所に落下し、早くも2体のストーンゴーレムが被弾する。
連隊長が撃ち方始めの号令を魔法通信で送った。
それを聞き取ったキリラルブスが一斉に撃ち返した。
敵戦車部隊の周囲に野砲弾が炸裂して、火炎と土煙が吹き上がる。その中で1台の戦車が炎上した。

「やった!敵戦車が燃え上がったぞ!」

装填手が満面の笑みを浮かべて叫んだが、

「浮かれるな!さっさと弾を込めろ!!」

ブルガド大尉に一括されて、慌てて砲弾を入れる。
撃破できた敵戦車は1両だけで、損傷部分は車体の下部辺りである。
ブルガド大尉は、敵戦車の車体前面や砲塔部に火花が散るのを見ていた。
彼が狙っていた戦車には、弾は当たっていたはずなのだが、ただ砲塔に火花を散らしただけで何事も無かった可能のように前進している。
敵戦車部隊が撃ち返して来た。ドーン!という爆裂音が鳴り響き、数体のキリラルブスが派手に吹き飛んだ。
図体の割には、重量が10027リギル(15.04トン)と意外に軽めであるが、これは機動性を得るためにやや防御を犠牲にした結果である。
防御力は普通のストーンゴーレムと少し硬い程度であり、シャーマン戦車の75ミリ砲弾を受けてはひとたまりも無い。

「連隊長より各部隊へ!敵戦車部隊の側方に回れ!」
「了解。第1大隊はこれより敵部隊の右側方に回りこむ!続け!」

大隊長と連隊長が一通りやり取りした後、ブルガド大尉の属する第1大隊は大隊長の乗るキリラルブスを先頭に敵の右側方に移動を始めた。
ブルガド大尉の第2中隊も後を追う。
移動中のキリラルブスは乗り心地が悪い。
4足歩行で23レリンクのスピードが出るのはいい事だが、その間、激しい上下運動に耐えなければならない。
訓練の初期には、この激しい揺れによって酔ってしまう者が続出したほど、乗り心地は悪かった。
だが、一旦慣れてしまえば後は感嘆であった。
キリラルブスは、すき返された砲弾穴や、塹壕を飛び越えて敵戦車部隊の側方に回り込んでいく。
シャーマン戦車はこれを見逃さず、すかさず停止して回り込もうとするキリラルブスを狙い撃ちした。
大隊長の後に続いていたすぐ後ろのキリラルブスが、横腹に75ミリ弾を受けた。
たちまち胴体を分断されたキリラルブスは地面に転倒し、すぐ後ろに続いていたキリラルブス1体が巻き込まれて、これまた転倒してしまった。
その次に第1中隊長のキリラルブスが、命中弾を受けて急停止した。
それから10秒後に別のキリラルブスが頭を吹き飛ばされて、派手に煙を退きながら横転した。
実に5体目が破壊された所で、残りのキリラルブスがシャーマン隊の側面に何とか回り込んだ。
ブルガド大尉は、キリラルブスを停止させて砲の狙いを付けようとする。
やや上向き上げられていた砲身が、急いで水平に倒されてシャーマン戦車に狙い付ける。
ブルガド大尉は、砲塔をこちらに向けかけているシャーマン戦車に2.8ネルリ砲弾を叩き込んだ。
砲弾がシャーマン戦車の側面に命中した直後、そのシャーマンは大爆発を起こした。
この時、キリラルブスの放った砲弾は、距離400でシャーマンの側面に突き刺さり、車内で炸裂した。
その炸裂で乗員は残らずミンチにされ、破片が車内の砲弾に突き刺さり、それが誘爆して大爆発を起こした。

「よし。敵戦車を吹っ飛ばしてやった。側面なら何とかいけるぞ。次だ!」

ブルガド大尉はそう呟きながら、回転手に指示を下して野砲の狙いを次に変える。
その間、シャーマン戦車が1台、2台と次々に被弾炎上していく。
側面を次々に貫かれているのだ。
(これなら、敵を押さえ込めるかもしれない)

ブルガド大尉は、敵の攻勢を頓挫できるかも知れぬと微かに期待し始めた。
シャーマン戦車の報復はすぐに行われた。
砲塔をキリラルブスに向けるや、シャーマン隊が砲撃を再開する。
1体のキリラルブスが、右側の前足を打ち砕かれてがくりと傾いた。
傾いた後に別の戦車から撃たれた75ミリ弾が命中して胴体が爆砕された。
別のキリラルブスが胴体上面に75ミリ弾を受けてしまった。
砲弾の爆発が2.8ネルリ野砲と3人の乗員を一瞬のうちに薙ぎ払った。
あっという間に武器と操り手を失ったキリラルブスが、犬が伏せをするかのようにその場にへたり込んだ。
また、別のキリラルブスは、75ミリ弾を同時に2発受けた。1発はキリラルブスの顔面を粉砕し、もう1発は体の後ろ。
乗員が乗っている場所に命中して搭載弾薬を誘爆させた。
次の瞬間、ある程度の硬さを持つキリラルブスの巨体が一瞬にして砕け散り、草原の夜に派手な石の花火が出来上がった。

ドン!と、ブルガド大尉のキリラルブスがシャーマン戦車に向けて砲を撃つ。
狙ったシャーマン戦車に砲弾は当たらず、その前面で土を吹き飛ばした。

「クソ!外れた!」

ブルガド大尉は忌々しげにそう言いながら、部下に砲弾を装填させた後、再び同じシャーマン戦車を狙う。
今度はキャタピラに命中した。足回りが2.8ネルリ砲弾によって抉れ、転輪が何個もふき取んだ。

「とどめだ!」

ブルガド大尉は砲弾が装填されてから、このシャーマン戦車に次の砲弾を叩き込んだ。
狙い通り、車体の側面に命中し、シャーマン戦車は黒煙を吹き上げた。

「これで2台目だ!」

自然に、ブルガド大尉は口元を歪めていた。
いきなり、それほど離れていない所で爆裂音が響いた。

「味方のキリラルブスがやられました!」

装填手の悲痛な叫びが聞こえた。
その次に、また近い所で何かが爆発する音が、周囲を木霊した。

「構うな!次を狙うぞ!」

ブルガド大尉はそう言って、次の戦車を狙おうとした。その瞬間、大尉が乗るキリラルブスの体にガン!という強い衝撃が走った。
まずいと言いかけたブルガド大尉であったが、彼のキリラルブスは75ミリ砲弾によって胴体を打ち砕かれた。
ブルガド大尉を含む乗員3名は戦死した。


「シホット共があんな物を用意していたとは、情報部の奴らは何をやっていたんだ!?」

第4機甲師団第48戦車連隊所属である第8戦車大隊指揮官のファルク・スコックス少佐は、目の前に見える
4足歩行式のゴーレムを見ながら怒鳴っていた。
敵の前線陣地まであと一息という所で、第4機甲師団の先鋭であった第8戦車大隊は、いきなり奇妙な4足歩行式ゴーレムと出くわした。
このゴーレムは、前進している最中に前線陣地の後方に陣取っており、第8戦車大隊が近付くや、砲撃を加えてきた。
こちらが戦車を停止させ、反撃を加えて数体ほど吹き飛ばすと、今度は戦車大隊の側面に回り込んで来た。
スコックス少佐は隊形右側の戦車に右側方の敵、隊形左側の戦に左側方の敵を攻撃させた。
見慣れるゴーレムは、これまでのゴーレムとは明らかに違う動き。まるで、動物のような動きで側面に回り込んで来た。
その間、10体ほどのゴーレムを破壊したが、敵の戦意を挫くには少なすぎた。
側面に占位したゴーレムが、次々と大砲を撃ってきた。
驚くべき事に、ゴーレムが積んでいる大砲の砲弾は、シャーマン戦車の車体側面を貫通してきた。
敵弾の中には、貫通する事無く装甲版に当たっただけで爆発する砲弾もあったが、それは少数派であり、
残りはシャーマン戦車に対して致命弾を与えていた。

「出発前には敵の野砲のせいで、第5機甲師団の待機部隊に被害が出たようだし、今度は敵さんの新兵器がうじゃうじゃと
沸いて出てきやがった。シャーマンを倒せる大砲を担いでな。」

スコックス少佐はぶつくさ言う。砲手が狙ったゴーレムに砲弾を撃ち込む。そのゴーレムは見事に爆砕された。

「だが、俺達の乗るシャーマンでも倒せるのなら、それほど強敵でも無い。」

彼はニヤリと笑みを浮かべた。

「B中隊長車被弾!」

突然、指揮下の中隊長車が被弾したという凶報が舞い込んできた。

「チッ。一体何台やられちまうんだ!」

スコックス少佐は顔をしかめた。
この見慣れぬゴーレムと撃ち合ってから15分が経つが、スコックス少佐は、見た限りでは40体以上は破壊したと確信している。
しかし、こちら側も無傷ではなく、第8戦車大隊だけで12両のM4が破壊されている。
初めての戦車戦にしては異常ともいえる数字である。
それだけ、敵も強力になっているという証明であった。
スコックス少佐は、もう1体を破壊した所で敵ゴーレム部隊に異変が起こったのを見た。
敵ゴーレム部隊が、いきなり砲撃を止めて撤退し始め。
その慌てようは、まるで何かに追い立てられているかのようである。
4足歩行式のゴーレムが一通り森の方向を逃げ出して域、最後のゴーレムが大隊長車の横400メートルを通り過ぎようとした時、
後ろから砲弾をぶち込まれた。
そのゴーレムは煙を引きながら地面に転倒した。
その後方から、M4戦車より小さめの戦車が猛スピードで走行して来る。
D中隊のM3スチュアート軽戦車だ。
スコックス少佐は、敵ゴーレム部隊が左右両側面に展開するや、後続に混じっているD中隊に頃合を見計らって敵に突進しろと命じた。
敵ゴーレム部隊は、前衛のシャーマン隊と砲撃戦を演じている間、密かに回りこんでいるスチュアート戦車隊に気付かなかった。
シャーマン戦車隊との砲撃戦に苦戦を強いられ、挙句の果てに大隊長や中隊長が次々と戦死してゴーレム部隊将兵の士気が落ちかけている時、
D中隊は突撃を開始した。

目の前の戦車に苦戦している上に、横合いから新手の戦車部隊に突っ込まれては、ゴーレム部隊もたまらない。
たちまち2両ほどのゴーレムが37ミリ砲弾に討ち取られた。
突然の新手出現に状況が不利と悟ったゴーレム部隊は、散を乱して撤退していった。
ゴーレム部隊が敗走していくのを確認したスコックス少佐は、再び部隊を前進させる事にした。
一旦は崩れかけていた隊形がまた元に戻され、敵の襲撃前と同じ楔形隊形が形成される。
パンツァーカイルが形成されるや、第4機甲師団の前進部隊は再び進み始め、第1線陣地を難なく突破して森林地帯に突入して行った。


午前2時 東ループレング市 第20軍司令部

「閣下、戦況は最悪といってもいいでしょう。」

第20軍司令官であるムラウク・ライバスツ中将は、テーブルに置かれた地図を見ながら、参謀長の説明を聞いていた。
「我々の受け持ち区画である右翼陣地は、10分前に突破され、敵戦車部隊が後方の野砲陣地で第123石甲師団と野砲部隊が交戦中ですが、
どうやら苦戦中のようです。」
「他の戦線はどうなっている?」
「はい。左翼戦線では、30分前に敵戦車部隊が森林地帯後方の野砲陣地に到達しております。この左翼戦線では敵の進出がかなり早く、
第1線陣地から撤退した部隊が軒並み餌食にされるか、捕虜に取られているようです。魔法通信からの分析ですが、左翼戦線の敵は、
恐らくこの辺りまで進んでいる事でしょう。」

参謀長は、震えた手付きで指示棒を差した。その位置は、野砲陣地よりも更に1.8ゼルドも進んだ所である。
あと2ゼルドも進めば、第3軍の司令部に到達できるほどの近距離だ。

「なんて早さだ・・・・・これが、戦車の力というものか。」

ライバスツ中将は、慄然とした表情でそう言った。

「中央戦線では、敵部隊が野砲陣地をも突破し始めたと言うし。まだ一番マシな我々も、野砲陣地の辺りまで攻め込まれている。」

彼は、深いため息を吐いた。

「このままいけば・・・・左翼軍の敵が後方に回りみ、50万以上の将兵が包囲殲滅されるという最悪な事態になりかねんぞ。」

彼の短い一言は、第20軍司令部の幕僚達を戦慄させるに充分であった。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 星がはためく時
  • アメリカ軍
  • アメリカ
ウィキ募集バナー