自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

039 第31話 シーハリケーンの奮迅

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第31話 シーハリケーンの奮迅

1482年 7月1日 フェルレンデ岬180マイル沖

「北東80マイル付近に敵大編隊!」

空母イラストリアスのレーダー手が、緊張に顔を引きつらせながら報告してきた。

「艦長。北東80マイル付近に大編隊です。」
「来たか・・・・・・」

イラストリアス艦長のスレッド大佐は、その報告に驚く事も無く、予め決めていた指示を下した。

「戦闘機隊を発艦させる。艦首を風上立てよ。」
「アイアイサー!」

それから間を置いて、イラストリアスは艦首を風上に向かわせた。
第26任務部隊の寮艦も、イラストリアスにならって一斉回頭を行った。
敵の偵察ワイバーンに発見されたのは、午前6時30分頃であった。
偵察ワイバーンは第26任務部隊の上空まで近寄った後、引き返していった。
マオンド側のワイバーンは、1400キロの航続距離を持っている。
第26任務部隊は、そのワイバーンの航続距離内にいるため、大規模な空襲が予想された。
そして、それはやって来た。
イラストリアスの甲板上では、既に待機していた24機の戦闘機が、エンジンを轟々とうならせて発艦の時を待っている。

「艦長、発艦準備完了です!」

飛行長のバイラッハ中佐が報告すると、スレッド艦長はうなずいた。

「発艦始め。」

特に気負う事もなく、スレッド艦長は言い放った。
まず、シーハリケーンがするすると飛行甲板を滑っていき、エンジン音を高鳴らせながら空に舞い上がる。
シーハリケーン、ワイルドキャットが全て発艦するまでさほど時間はかからなかった。

「全く、一難去ってまた一難か。どうも、第26任務部隊は呪われているような気がするな。」

スレッド艦長は顔をしかめながらそう言う。

「そうですか?むしろ自分としては運が良いと思いますが。」
「どうしてだね?」

バイラッハ中佐の言葉に、スレッド艦長は怪訝な表情を浮かべる。

「昨日の空襲では、1機の喪失もなくグラーズレットの空襲を成功させていますし、その後の水上砲戦でも
敵艦隊に壊滅的な打撃を与えて追い返しています。それも1艦の喪失もなく。」
「なるほど。確かに運が良いな。だが、この空襲が終わるまでは、私は運が良かったとは思わない。
運が良かったか、悪かったかを判断するのは、この空襲をしのぎ、機動部隊がノーフォークに戻った時だ。
それまでは何ともいえんよ。」

スレッド艦長は、編隊を組んで敵がいる空域に向かう戦闘機隊を見ながらそう語った。

「今は、運が良かったな、と言えるように頑張るしかあるまい。」

午前8時45分

イラストリアスから発艦したシーハリケーン、ワイルドキャット計24機は、マオンド側の攻撃隊と
艦隊より北東40マイル付近で遭遇した。

「こちら指揮官機。敵編隊を発見した。今から攻撃する。」

イラストリアス戦闘機隊長であるランス・リッキー少佐は部下達にそう伝えた。
現在、イラストリアス隊は高度4500メートルの上空にいる。
それに対し、敵編隊は3000メートル付近を、緊密な編隊を組んで機動部隊に向かっている。

「敵の先頭集団を狙う。」

リッキー少佐は、まず、2つに分かれている敵編隊のうち、一番間近の先頭集団を叩くことにした。
しばらくは、4500を維持したまま敵に被さるように飛行を続ける。
やがて、戦闘機隊の襲撃を危惧したのか、ワイバーンの一部が分離し、上昇を開始した。

「突っ込めぇ!」

リッキー少佐は喚くように命じ、操縦桿を前に押し倒す。
風防ガラスの向こう側に豆粒ほどのワイバーンが見えた。
シーハリケーンのエンジンが高々とうなり、速度がぐんぐん上がる。
小さな粒にしか見えなかったワイバーンが、徐々にハッキリしていく。
(あいつを狙うぞ)
リッキー少佐は、他のワイバーンと違って、緑色の装飾が付けられているワイバーンを狙うことにした。

彼我の距離はみるみる縮まり、相手の姿もハッキリと分かった。照準機の向こうのワイバーンが口を開けた。
その時、リッキー少佐は距離300まで迫っていた。

「食らえ!」

そう叫びながら、機銃を放った。
タタタタタタ!という軽快な発射音がなり、8本の赤い線がシャワーのごとく、敵ワイバーンに向かっていった。
ワイバーンも口から緑色の光弾を連射ではき出してくる。
その次の瞬間、7.7ミリ機銃弾は敵ワイバーンに突き刺さった。
無数の機銃弾がつたない魔法防御をうち破り、にワイバーンは目や口のみならず、翼や前足を抉られる。
御者には胴体に数発の機銃弾がぶち込まれ、一瞬のうちに絶命した。
機銃弾を叩き込んだワイバーンと高速ですれ違い、別のワイバーンに照準を切り替える。
ワイバーンが光弾をはき出す。すかさず、リッキー少佐は機銃を撃ちながら、機体を右に横滑りさせてこれをかわす。
光弾は機体の左側を過ぎ去ったが、同時にこちら側の射弾も惜しいところで外れた。
そのワイバーンも後ろに吹っ飛び、また別のワイバーンと正面から撃ち合う。
互いに高速で接近し合うから、射撃の機会は一瞬である。
リッキー少佐は、照準が合った事も確認せずに機銃を放つが、ろくに狙いも付けずに撃ったため、これも外れた。
戦闘ワイバーンとの正面対決は一瞬のうちに終わる。

「貴様らに用はない。俺達の目標は、貴様らが守っていたものだ。」

リッキー少佐は、前方にいる攻撃ワイバーンの群れを見ながらそう呟いた。
24機のシーハリケーン、ワイルドキャットのうち、11機が戦闘ワイバーンとの乱戦に移るが、
残りは戦闘ワイバーンの迎撃を突破し、攻撃ワイバーンに殺到した。

まず、リッキー少佐は一番左側のワイバーンを狙うことにした。
500キロ以上の高速で飛行しているため、距離はあっという間に詰まった。
ワイバーンを操る御者が、上方から襲いかかってくるシーハリケーンを見た。

「イラストリアスには近付けさせん!」

そう叫びながら、リッキー少佐は機銃を撃つ。
両翼に4丁ずつ、計8丁の7.7ミリ機銃弾が、弾幕となって狙った攻撃ワイバーンにぶちまけられる。
狙われた攻撃ワイバーンは、咄嗟に体をひねって避けようとしたが、爆弾を抱いていたワイバーンの動きは鈍かった。
次の瞬間、無数の7.7ミリ機銃弾が殺到し、ワイバーン、竜騎士がいっしょくたに引き裂かれる。
機銃弾が竜騎士の額から後頭部にへ内容物を吹き散らして出、体にも容赦なく突き刺さり、ワイバーンも背面を機銃弾に
抉られ、翼の片方が一点に集中された高速弾にもぎ取られた。
編隊の外側の攻撃ワイバーンが1騎叩き落とされた事を機に、戦闘機隊はまず、編隊の外側を集中して叩く。
13機のシーハリケーン、ワイルドキャットが敵編隊の下に飛び抜けていった後には、32騎いた攻撃ワイバーンは
27騎に撃ち減らされていた。
この襲撃で編隊が崩れかけた時に、今度は下方から戦闘機が突っ込んでくる。
そうはさせじと、第2編隊の護衛に当たっていた戦闘ワイバーンが阻止しようとする。
だが、シホールアンルのワイバーンと比べ、マオンドのワイバーンの最高速力は、キロに換算して470キロ。
それに対し、ワイルドキャット、シーハリケーンは500キロ以上の猛速で、機銃を撃ちまくりながらこのワイバーン群を突破する。
1機のハリケーンが、運悪くエンジン部分に光弾を叩き込まれた。
液冷エンジン特有の尖った機首が一瞬にしてひしゃげる。
パイロットが驚愕の表情を浮かべた次の瞬間、別の光弾がコクピットにぶち込まれた。
胸に光弾を叩き込まれたパイロットは束の間、苦しみに表情をゆがめ、絶叫を発するが、その絶叫もすぐに途切れ、パイロットはうなだれた。
白煙を引きながら落ちていくシーハリケーンを見るや、有効弾を与えたワイバーンの御者が笑みを浮かべた。

「やった!アメリカ人をたたき落としたぞ!」

初の米軍機撃墜に、ワイバーンを操る竜騎士は心臓が跳ね上がらんばかりに高鳴った。
だが、その高鳴る胸元も、12.7ミリ機銃弾に風穴を開けられ、喜びの表情を凍り付かせると、
竜騎士はワイバーンごと、海に落ちていった。
シーハリケーン、ワイルドキャットは獅子奮迅の活躍を見せ、多くの敵ワイバーンを撃墜したが、
わずか24機では80騎以上の大編隊を押し留める事は出来なかった。

「敵編隊接近!艦隊より20マイル!」

第26任務部隊の上空に、ワイバーンの編隊がやって来た。
敵編隊は、輪形陣の右斜め後ろからTF26を追い掛ける形だ。

「旗艦より信号。艦隊針路330度。」

見張りが、プリンス・オブ・ウェールズから送られてきた信号を読みとり、艦橋に伝える。

「変針。針路330度。面舵一杯。」
「針路330度、面舵一杯。アイアイサー。」

スレッド艦長は航海科に指示を下した。TF26の全艦が、一斉回頭し、敵編隊に右側面を晒す形になった。
回頭が終了した後、輪形陣右舷の一番外側に位置する駆逐艦のセイバーが高角砲を撃ち始めた。
それが合図だったかのように、駆逐艦群、巡洋艦群が一斉に砲撃を開始した。
輪形陣は、駆逐艦を外縁に配置し、中央部にイラストリアス、その右舷にプリンス・オブ・ウェールズ、
左舷にレナウン、その周囲に4隻の巡洋艦が配置されている。
昨日の水上砲戦で、TF26は対空火器をいくらか破壊されており、対空防御力は低下している。

「大丈夫かな?」

スレッド大佐は、減少した対空砲火でどれだけ敵ワイバーンを落とせるか心配だった。
イラストリアスは、飛行甲板を装甲で覆っているが、10騎や20騎以上のワイバーンが殺到し、
爆弾を10発単位でぶち込まれる事は好ましくない。
いくら重装甲の甲板とはいえ、被弾を無限に耐えることは出来ない。
そのためにも、対空砲陣の活躍に期待するしかない。
高度1000付近からワイバーンは輪形陣に侵入しつつあるが、その周囲に高角砲弾がしきりに炸裂している。
1騎のワイバーンが、高角砲弾の破片をもろに食らい、よれよれとふらつきながら海に落下していく。
別のワイバーンの至近で、高角砲弾が炸裂した次の瞬間、上下運動していたワイバーンの翼が二つとも分離し、
ワイバーンは砲弾の如く、まっしぐらに海面に直行した。
イラストリアスと、左舷のプリンス・オブ・ウェールズも高角砲を発射する。
昨日の海戦で、損傷艦の多いTF26だが、高角砲に関してはかなりの数が残っていたようだ。
その証拠に、敵ワイバーンの周囲で炸裂する爆煙は多く、1騎、また1騎と、次々に海面に落下、または弾け飛んだ。
数騎のワイバーンが輪形陣の外輪部を抜けるや、高度を下げ始めた。急降下爆撃ではなく、暖降下爆撃のようだ。

「敵ワイバーン、降下開始!」

やがて、機銃の射撃も開始された。
各艦の艦上で、機銃手が目を血走らせながらワイバーンを狙い撃った。
400キロ以上のスピードで、3騎のワイバーンはイラストリアスに向かう。
40ミリポンポン砲や20ミリ機銃、28ミリ4連装機銃がガンガン唸り、無数の機銃弾がワイバーンに吐き出される。
唐突に、1騎のワイバーンがよろめいて、そのまま海面に落下していった。
プリンス・オブ・ウェールズの至近に来た時に、別の1騎が全身を機銃弾に引き裂かれて無数の破片を空中にまき散らす。

残った1騎が、高度500で爆弾を投下してきた。

「敵騎爆弾投下!」

見張りの声が艦橋に届くが、スレッド艦長は回避命令を出さない。

「落ち着け、当たらん!」

彼が断言した時、爆弾はイラストリアスを飛び越して左舷側に落下した。

「狙いが甘いな。」

スレッド艦長は冷淡な口調でそう呟いた。

「続けて敵ワイバーン4騎、降下に入りました!」

今度は、4騎のワイバーンが、同じく右舷側からイラストリアスに向かってくる。
各艦から放たれる機銃弾が、死に神の伸ばした手のようにワイバーンに伸びていく。
1騎のワイバーンが、アッパーカットを食らったかのように突き上げられ、空中をひとしきりのたうった後に海面に落下する。
残りは機銃弾をはね除けるようにイラストリアスに接近していく。

「面舵一杯!」

スレッド艦長は高角砲、機銃の喧噪に負けぬ大音声で命じた。
やや間を置いて、イラストリアスの艦首が右に振られ始めた。
イラストリアスまで、あと少しまで迫っていた3騎のワイバーンは、慌てふためいたように爆弾を投下した。

3騎のうち、一番右側のワイバーンの御者が、唐突に体をくの字に曲げながら後ろに吹き飛ばされた。
御者を消されたワイバーンに40ミリ弾が集中し、あっという間に顔面や胴体を大口径機関砲弾に粉砕される。
元々、打たれ強い事で評判の良いワイバーンだが、高速で飛んでくる40ミリ機銃弾に耐えられるはずもなく、
一息に抹殺された。
イラストリアスの右舷に、3本の水柱が立ちあがった。
水中爆発の衝撃は、イラストリアスの艦体を叩き、震動させた。

「右舷に至近弾!命中無し!」

スレッド艦長は、ため息をつきながら額の汗をぬぐった。

「危なかった。急回頭を指示しなかったら3発とも食らってたな。」

彼はそう言いつつも、視線を右舷側に戻す。ワイバーン群は、1000メートルの高度から20騎ほど、
3000メートルの高度から10騎余りが輪形陣の中央に向かいつつある。
今は、1000メートル組が対空砲火の盛大な歓迎を受けている。

「まだまだいやがるなぁ」

スレッド艦長は苦々しげに呟いた。
イラストリアスは、その後の暖降下爆撃を何とか凌ぎきった。途中、命中しそうになった時もあった
が、スレッド艦長の巧みな操艦で全弾回避した。

「敵はもう残り少ない。後一息だぞ!」

スレッド艦長はそう言って、艦橋要員を叱咤激励するが、その時、

「敵騎、急降下!」

の声が艦橋に響いた。
スレッド艦長は一瞬のうちに、艦橋の外をぐるりと見渡した。

「・・・・まずいな・・・」

艦隊は、連続するワイバーンの猛攻に隊形が乱れていた。
イラストリアスの至近にはプリンス・オブ・ウェールズとドーセットシャーがいるだけで、他の艦とは離れている。
相互支援の取れにくくなった時に、敵ワイバーンは急降下を開始したのだ。
イラストリアスの全火器が、急角度から突っ込んでくるワイバーンに向けて猛然と放たれた。
プリンス・オブ・ウェールズとドーセットシャーも機銃の傘をイラストリアスの上空にかける。
1騎、2騎と、ワイバーンが次々と討ち取られるが、敵は臆することなく急降下を続行する。
敵の4番騎が高度700メートルで爆弾を投下した。

「取り舵一杯!」

スレッド大佐はすかさず指示を下した。
艦首が左に振られ、長大なウェーキが弧を描いていく。
4番騎の爆弾は、イラストリアスの後方右舷側に落下する。続けて6番騎の爆弾が、艦首右舷側に至近弾として着弾した。
ドーン!という轟音がなり、下から突き上げるような衝撃にイラストリアスが震える。
7番騎が投下寸前に機銃弾に落とされたが、8番騎が爆弾を投下した。その爆弾は、左舷側の中央部に至近弾として落下した。

「畜生、敵もなかなかだな!」

スレッド大佐が呻くように言ったその時、艦橋の外がピカッと光った。
バァーン!という雷が炸裂するような轟音が辺りを木霊した。突然の轟音に、艦橋に詰めていた皆が聴力を麻痺させた。
聴力が回復する暇もなく、2発目が中央部よりやや前側の一に落下して、けたたましい炸裂音を轟かせた。
11番騎の登弾は外れたが、12番騎の爆弾は中央部よりやや後部にぶち込まれ、盛大に火炎と黒煙を吹き上げた。

「飛行甲板に爆弾3発命中!」
「・・・・くそ!」

スレッド艦長は、内心悔しい気持ちで一杯になった。
1発の被弾もさせぬと、必死に艦を操ったものの、思いは実らず、3発の被弾を喫してしまった。

「暖降下爆撃で疲弊させた時に急降下爆撃で相手をぶちのめす・・・・・その考え、敵ながら天晴れだ。」

スレッド艦長は、意気揚々と対空砲火の射程外に抜けるワイバーンを見据える。

「悔しいが、俺の操艦能力が足りなかったことになるな。」

やがて、飛行甲板上から黒煙が晴れ始める。
3発の直撃弾を受けた飛行甲板は、格納甲板まで被害が及び、空母としての機能を減殺された。

された筈だった。

「しかし、それが通用するのは他の機動部隊だけだ。このイラストリアスには通用せん!」

彼が断言した時、イラストリアスから黒煙が晴れた。

直撃弾を受けた飛行甲板は、中央部から後部よりの3ヶ所がやや凹み、焦げ跡が付いていたが、
飛行甲板そのものは無事であり、下の格納甲板には何ら損害は無かった。
ワイバーンは、未だに近くの上空にいるが、彼らがどのような表情で、このイラストリアスを見ているか
判然としなかった。
ワイバーンの空襲は、先の急降下爆撃で沙汰止みとなったが、攻撃隊指揮官の目標である敵空母の無力化は、完全に失敗した。


1482年 7月1日 午後8時 マオンド共和国フェルレンデ

「一体・・・・・・・この被害は何だね?」

遁走中の第26任務部隊に空襲を仕掛けた陸軍第97空中騎士軍の司令官である、ルポード・ウェギ中将は、
目を通していた書面から、この書類を持って来た主任参謀にへと視線を向ける。

「空中騎士軍全体で統計したものですが。」

主任参謀は声音を陰らせながら、言葉を吐き出した。

「これだけの被害を受けて、敵に与えた損害は空母1隻に戦艦1隻に爆弾を命中させたのみ。撃沈艦は?撃破した敵艦は!?」

ウェギ中将は顔を真っ青にしながら、喚くように言う。
第97空中騎士軍は、90騎編成の空中騎士団4個で編成されており、1日未明に、遁走中のアメリカ機動部隊を空襲でもって
撃滅せよと、首都から命じられた。

「これでアメリカ空母を撃沈すれば、アメリカ人共も少しは懲りるだろう。」

ウェギ中将は大乗り気で昨敵ワイバーンを発進させ、午前5時に早速、遁走中のアメリカ機動部隊を発見した。
4個の空中騎士団は、時間を分けながら勇躍、出撃したが、待っていたのはアメリカ軍機との激しい空中戦と、
敵機動部隊の猛烈な対空砲火であった。
それに、アメリカ機動部隊は早朝発見したものとは別に、そこから北方100ゼルド付近にも新たに発見された。
4波に分かれた280騎のワイバーンは、3波が発見済みの艦隊へ、残りが新たに発見された艦隊に向かった。
しかし、結果は敵機40機撃墜、空母1、戦艦1中破をさせたのみに留まり、マオンド側はワイバーン112騎喪失
という大損害を受けた。
そして敵艦隊は、午後の空襲もはね除けて、悠々とワイバーンの航続距離外に抜けていった。
そして、第97空中騎士軍は、最終的にワイバーン167騎喪失という大損害を受けて、戦力を半分以上にまで減らされてしまった。

「航続距離ギリギリまでワイバーンを飛ばした事が、被害拡大につながったのかもしれん。
戦果が充分であれば、この犠牲も報われたかも知れぬのに・・・・」
「司令官、報告に上がった竜騎士の中には、いくら爆弾を叩き付けても母艦機能を
維持していた空母がいたと証言しています。」

「何?」

ウェギ中将は顔を上げて主任参謀に問うた。

「君は、爆弾の効かぬ空母がいると言うのかね?」
「そうは言っておりません。ただ、やたらに打たれ強い空母が敵機動部隊の中に混じっていた、と言うことです。
最終的には飛行甲板から黒煙をあげていましたが。」
「その空母の形は?」
「竜騎士の報告では確か・・・・・ワスプ級に似ていたと。」
「ワスプ級・・・・か。おおかた、アメリカは防御力を強化した空母を投入してきたのだろう。
くそ、なんて厄介な代物を。」

ウェギ中将はしわがれた声で言った。

「道理で、敵空母撃破の報告が入らぬものだ。爆弾10発を叩き付けても、普通に航行していると聞いておかしいと思った。」
「上層部にはどのように報告なさいますか?」
「そのままでよい。あれこれ戦果を脚色しても、攻撃に当たった竜騎士達から洩れる。それよりかはスパッと報告して
後に備えるだけだ。」

彼はそう言うと、泣き笑いのような笑みを浮かべた。


1482年 7月2日 午前9時

スレッド艦長は、イラストリアスの飛行甲板を見るなり、唸るように呟いた。

「それにしても、500ポンドクラスの爆弾を、11発も受けたのに、イラストリアスは何不自由無く航行している。」
「それもこれも、装甲甲板のおかげですな。」

副長が満足気に言ってきた。

「最後はケチがついたが、今こうして敵の勢力圏を抜けられたのだからよしとしよう。」

そう言うなり、2人は苦笑した。
昨日のマオンド側の空襲は激烈であった。イラストリアスを有するTF26は、実に4波の航空攻撃を受けた。
イラストリアスは、合計で11発の直撃弾を受けた。
1発の爆弾は、艦首の非装甲部分を貫通して格納甲板で炸裂したが、残り10発は装甲部に命中し、装甲板は見事に耐えた。

被弾の影響で、ソードフィッシュ2機が完全に破壊され、至近弾で高角砲1基、機銃座6丁が使い物にならなくなったが、
応急修理で穴は塞がれ、発着機能は既に回復している。
イラストリアス搭載のシーハリケーン、ワイルドキャットは獅子奮迅の活躍を見せてくれた。
2機のシーハリケーン、1機のワイルドキャットが撃墜されたシーハリケーン3機が修理不能と判断されたが、
敵62機撃墜の戦果を挙げた。
途中で、応援にかけつけたTF23やTF24,25の戦闘機隊もTF26の支援に当たり、TF23が空襲を受けて
戦艦サウスダコタ、重巡ウィチタが損傷したものの、レーフェイル大陸襲撃部隊は、無事にマオンドの勢力圏を抜けた。
大西洋艦隊の全正規空母を投入したリンクショック作戦は、予想以上の大戦果を挙げ、無事に終了したのである。

「それにしても、今回の作戦は、俺達のデビュー戦となった訳だが。どうも次から次へと、災難が降りかかってきたな。
まるで何かに呪われているみたいだ。」

スレッド艦長は感慨深げにそう呟いた。

「きっと、この世界に試されていたんじゃないですかな。」
「試されていた、か。それにしては、相当荒っぽいテストだな。敵の航空部隊はともかく、
敵の水上部隊に襲われるのは、二度とご免だな。」

と、スレッド艦長はため息をついた。
機動部隊は、闇夜の海を、ひたすらノーフォークに向かって航行を続けていた。
夜の心地よい風に気をよくしたスレッド艦長は、久方ぶりに安心した表情を浮かべた。

1482年 7月2日 マオンド共和国広報発表

7月1日、わがマオンド共和国陸海軍は、本領土の近海に展開中であった、アメリカ空母部隊に対し、
果敢なる攻撃を加え、再攻撃を企図していた敵艦隊を本領海から撃退せり。

戦果、アメリカ新大型正規空母1隻大破、同空母1隻中破、新型戦艦3隻中破、
本戦闘を、フェルレンデ沖海戦と呼称する。
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