第173話 エルネイルの濃霧
1484年(1944年)8月17日 午前3時 エルネイル沖西方20マイル地点
この日、第4艦隊第48任務部隊に所属している護衛駆逐艦ピルスベリーは、僚艦ポープと共に、近海の洋上哨戒を行っていた。
ピルスベリー艦長であるロジャー・ファルク少佐は、露天艦橋から外を眺めていた。
「しかし、こいつは酷い霧だなぁ。なんで、こんな夏真っ盛りの時期に霧なんぞが発生するんだ。」
ファルク艦長は忌々しげに呟く。
「4日前から急にですよね。」
傍に立っていた当直将校がファルクに言う。
「ああ。本当、いきなりだよ。」
ファルクは返事しながら、不思議そうな表情を浮かべる。
エルネイルのみならず、ジャスオ領の北部から中部沿岸では、季節外れの霧が発生していた。
霧の発生時期は地域によって異なるが、エルネイル地方が霧に包まれ始めたのは13日の正午頃からである。
この突然の霧発生によって、エルネイル海岸は勿論の事、海岸から200キロまでの内陸部では航空作戦が出来難くなった。
そのため、現地での航空支援はほぼ不可能となってしまった。
それでも、連合軍部隊は進撃を続けたが、敵は事前に航空攻撃を全く受けていないため、これまでにない激しい迎撃を展開した。
この苦しい進撃の最中、バルランド軍は第62軍並びに、第64軍の総力を挙げて、8月15日を持って一大攻勢作戦を
行ったが、対するシホールアンル軍は温存していた後方予備軍の精鋭部隊を守備に当たらせていたため、攻勢はたった1日で頓挫。
唯一、リーレイ・レルス少将指揮下の第3自動車化師団が敵の防衛線を突破し、同地の防衛に当たっていた第202石甲師団に
大損害を与えて撃破したものの、同師団も少なからぬ損害を被り、止む無く撤退する事になった。
バルランド軍北大陸派遣軍総司令官であるウォージ・インゲルテント大将は、作戦に参加していなかった第67軍も加えて
再度攻撃を行おうと考えたが、熟慮の末、これ以上の攻撃は無策と判断して、攻撃を取りやめた。
その翌日から、連合軍とシホールアンル軍は膠着状態に陥り、前線では不気味な静寂が続いている。
「まったく、いつまで続くのかねぇ。このうざったい霧は。」
「さぁ。とにかく、海岸沿いに陣取っている前線が消えない限り、この状態は続きそうですね。」
当直将校はそこまで言ってから、ふと、出航前に、親しくなった自由ジャスオ軍兵士から聞いた話を思い出した。
「艦長。そういえば、この間、知り合ったばかりのジャスオ人からちょっとした小話を聞いたんですが、聞きますか?」
「ああ。言ってくれ。暇潰しには持って来いだ。」
艦長にそう言われた当直将校は、思わず苦笑いを浮かべる。
(この人も、大分疲れが溜まってるなぁ)
彼は内心でそう思いつつも、自らも体に倦怠感を感じていた。
第4艦隊所属の護衛駆逐艦部隊は、上陸開始から3日後に、このエルネイル海岸の警備のために配備された。
配備当初から2週間ほどは、シホールアンル側も度々、海洋生物による攻撃を繰り返していたが、ここ最近は
何の動きも無いため、彼らも次第に緊張が緩んで来た。
緊張が解れた後には、肉体的、並びに精神的な疲れが現れ始め、それは徐々に将兵の体を蝕み始めた。
特に、上陸開始から多忙な日々を送っていた第3艦隊所属の第37、第38任務部隊では、連続する作戦で将兵の疲労度が
限界に達していた。
TF37とTF38は2度ほど、エルネイル近海を離れているが、それは休息のためではなく、洋上補給のためであり、
決して休息をしていた訳ではない。
第3艦隊司令長官ハルゼー大将は、もうしばらくは我慢して貰おうと考えていたが、霧のため、しばらく航空援護が不可能で
あると事と、エルネイルには既に陸軍航空隊を始めとする連合軍航空隊が増強されていた事もあり、ここは休息を取るべき
であろうと判断した。
機動部隊の各艦では、ホウロナ諸島で久方ぶりの休息が与えられるとの通達があり、疲れていた将兵達は一斉に歓声を上げたという。
また、航空支援任務に当たっていた護衛空母部隊も、ホウロナ諸島への回航が決まった。
そんな喜色に包まれた機動部隊と護衛空母部隊とは対照的に、第4艦隊の護衛駆逐艦部隊は、いつもと同じように洋上の哨戒活動に入っていた。
そのため、将兵達にも疲れが見え始めていた。
「その知り合いからの話によれば、何でも、ジャスオ領沿岸では、30年に一度の割合で、季節外れの濃霧が発生するようです。」
「季節外れの濃霧・・・・って事は、こいつがそうか。」
「恐らくは。」
「恐らくは?」
ファルク少佐は怪訝な表情を浮かべた。
「ええ。その友人はですね、今年は前回から29年目だからまだ大丈夫だよって言ってたんです。だから、友人からしてみれば、
この大規模な濃霧の発生は、本当の意味での季節外れになる・・・・と思うのです。」
「普通より、1年早まった、という訳か。どうも臭いな。」
ファルク艦長は疑わしげな口調で言う。
「もしかして、シホット共が魔法とやらで、人為的にこの霧を発生させたんじゃねえか?」
「いえ、魔法で天気を変えるのは、ほぼ不可能だそうです。局地的な範囲ならば、何度か例はあるそうですが、
大規模な地域単位で天候を変えるのは無理みたいです。」
「あの魔法で1番のミスリアルでもか?」
「ええ。というか、難しすぎてどの国も途中で投げ出してしまったようです。あるとしたら、町に雨を降らせた、
とかぐらいのようです。」
「へぇ~。魔法もなかなか、不便な代物なんだなぁ。」
「艦長、実をいいますと、話にはまだ続きがあります。」
当直将校は表情に意味ありげな色を浮かべる。
「続き?」
「はい。そのジャスオ人の友人は、なかなかに饒舌な奴でしてね。太古の昔、この海域にはエイルネインルという気紛れな
人魚がおりまして、気分次第で周辺海域の天候を変えまくって、周辺の漁師達を大いに困らせていたようです。そこをたまたま
通りかかった冒険者がこのエイルネインルの説得に当たり、この気紛れな人魚様に大人しくしてもらったようです。一応、この
事件は何とか収まり、以降は人魚の姿を見られなくなりましたが、それから30年後の夏に、季節外れの濃霧が発生し、それ以来、
この海域では30年に1度・・・・あるいは、それ以内に濃霧が発生するようです。最も、30年以内に1度発生した時は、
いずれも24年、あるいは5年ぐらい経った時のようですが。」
「それが、今年は29年目で、こんな霧が発生した、という訳か。」
ファルク艦長はやれやれとばかりに首を振った。
「本当、気紛れな人魚様だな。」
「もしかしたら、原因は自分達にあるかもしれませんよ。」
当直将校は微笑みながら言う。
「1ヶ月近く前、自分達は何千隻という大船団でもってこのエルネイルに押し寄せましたからね。恐らく、人魚様はこれに驚いて、
慌ててこの海域を霧で包んだのではないですかね。」
「ハハハ!古の人魚様も、いきなり4000隻以上の大船団を見りゃぶったまげるわな。連合国の底力は、古の人魚様をも驚かせるか。
悪くないね。」
「艦長、そんな事言ったら、バチが当たりますぜ。」
「なぁーに、バチならとっくに当たっとる。」
彼は親指で艦橋トップを指す。
「3時間前から本艦の水上レーダーは動かなくなってる。人魚さんは、レーダーを壊して俺達にさっさと帰れ!と語りかけているんだろうな。」
ファルク艦長はそう言った後、ため息を吐く。
「ま、そんな下らん冗談は置いといて。この霧の中でレーダーが動かんというのは正直きついな。」
「ええ、確かに。今は、僚艦ポープのレーダーを頼りに哨戒を行っていますからね。」
ファルク艦長と当直将校は、前方300メートルを航行している僚艦に視線を向ける。
夜間の上に、霧が発生しているという事もあって、その姿は全く見えない。
1分おきに、ポープが探照灯を発する。ピルスベリーはそれを頼りに、僚艦を追っている。
「ポープとの連絡を密にしろ。最近はやたらに事故が続いているからな。別の船と衝突事故でも起こしたりでもしたら、事だからな。」
ファルク艦長は、やや沈んだトーンで当直将校に指示する。
この季節外れの霧の影響で、エルネイル沖では艦船同士の事故が続いている。
事故は霧が発生した翌日から起こっており、これまでに4件ほどが報告されている。
この連続する事故で沈没艦がでており、事態を重く見た連合国司令部はエルネイル沖を往来する艦船には厳重な警戒を取るように、
という異例の非常事態宣言を発するほどであった。
そんな危ない状況下で、頼みの綱である水上レーダーが故障した事は、ファルク艦長のみならず、乗員全員にも底知れぬ不安感を抱かせた。
「アイアイサー。ポープのレーダーは、我々にとって命綱ですからね。」
「ああ。多少オーバーな感があるが、間違いではないな。」
2人は不安感を紛らわせるかのように笑い合った。
それから20分後。
「航海長!ポープから緊急信です!」
「ん?何があった?」
当直将校は、血相を変えながら走り寄って来た伝令に、何気ない口調で聞きつつ、伝令が差し出した紙を受け取る。
紙に書かれた内容を一読した彼は、それまで浮かべていた余裕が一気に吹き飛んだかのような感覚に囚われた。
「艦長。大変な事が起きました!」
「大変な事だと?まさか、シホット共の襲撃か!?」
「いえ。違います。ひとまず、これを・・・・・」
当直将校は紙を渡した。それを受け取り、ファルク艦長は黙読する。
「くそったれめ。海軍工廠の奴ら、役立たずの不良品を取り付けやがったな!」
彼は、怒りに震えた口調で叫んだ。
「ポープのレーダーまでもが故障するとは。これじゃ作戦どころじゃないぞ!」
「艦長、どうしましょうか?ここ最近、やけに海難事故が続発していますし、ひとまず、任務を中断してはいかがでしょうか?」
「それは俺の一存で決められんよ。」
ファルク艦長は首を横に振りながら返す。
「一応、ポープの艦長と相談して、その後に駆逐隊司令に問い合わせよう。任務云々はその後だ。」
「分かりました。」
当直将校は頷いてから、通信兵にポープとの回線を開くようにと、指示を下した。
そんなピルスベリーに災厄が起きたのは、それから30分後の事であった。
「これじゃ任務にならんから、ひとまずはホウロナ諸島に行って、工作艦から修理を受けよ、か。まっ、妥当な判断だな。」
「ええ。ダメコン半からも、レーダーは本格的な修理を受けないと治らないと言っていますからね。しかし、どうしていきなり
壊れたんですかね。」
「さあ・・・・原因不明らしいからな。それよりも、今はこの霧を無事に抜けられる事を祈ろう。」
ファルク艦長は、ぶすりとした声音で当直将校に返した。
異変が起きたのはこの時であった。
「艦長!3時方向から大型船らしきものが接近します!」
唐突に、見張り員から緊迫した声音が上がった。
「何?距離は!?」
「約300です!」
「300だと?近すぎるぞ!!」
彼は思わず仰天してしまった。距離300メートルは、もはや距離とは言えない。
相手の進路とこちら側の進路が交錯していた場合、回避運動を行ったとしても衝突する可能性がある。
ましてや、相手側の速力が速い場合、事故発生の確率は飛躍的に増大する。
現在、ピルスベリーは13ノットの速力で航行している。これで相手側の速力が同じであれば、ひとまず希望は持てる。
だが、現実は残酷であった。
「大型船、時速20ノット前後で近付きつつあります!」
「くそったれめ!取舵だ!取舵一杯!相手側に知らせるために警告音も鳴らせ!!」
ピルスベリーの操舵員が、泡食った表情を浮かべながら舵輪を回す。煙突からけたたましい警笛も鳴り響いた。
やや間を置いて、艦首が回頭を始める。そのころには、、ピルスベリーと大型船との距離は200に迫っていた。
「ん?あれは・・・・・カレアント軍のクズツォネフ級戦艦じゃねえか!!」
ファルクは思わず叫んだ。
カレアント軍の主力艦であるクズツォネフ級一等重武装戦列艦(米海軍では戦艦と呼んでいる)は、古めかしい
ながらも立派な軍艦であり、基準排水量は27000トンにも上る大型艦である。
そんな船に、基準排水量1000トンそこそこの護衛駆逐艦が衝突されれば、どうなるかは、子供でも分かる事だ。
「回れ!早く回らんかぁ!!」
ファルク艦長は、もどかしげに回る艦首に向けて怒声を上げる。
相手側の船も回避運動を始めた。
だが、もはや間に合わなかった。
ピルスベリーの艦尾に、カレアント艦の尖った艦首が迫ってくる。
彼は、カレアント戦艦の艦首には、古めかしいラム(衝角)が付いている事を知っていた。
「間に合わん。総員衝撃に備えー!!」
ファルク艦長は、マイクを取りあげ、艦内の乗員全員に命じる。
それから20秒後に、今までに感じた事のない衝撃が艦尾から伝わった。
メリメリメリという何かが突き刺さる音と、地震のような振動が1200トンの艦体を揺さぶる。
カレアント艦の艦首は、ピルスベリーの小さな艦体を押し潰し、艦尾付近の艦内で作業を行っていた7名の水兵は、唐突に起きた
衝撃を感じた後に、突き出て来た艦首によって押し潰され、命を落とした。
振動が収まると同時に、ファルク艦長は反射的にダメコン班を向かわせていた。
だが、彼の内心では、もはやピルスベリーは助からないという諦めの思いで満たされていた。
1484年(1944年)8月20日 午前8時 カリフォルニア州サンディエゴ
カリフォルニア州サンディエゴにある太平洋艦隊司令部では、太平洋艦隊司令長官であるチェスター・ニミッツ大将を
始めとする幕僚達が、作戦室内に集まっていた。
「では、ひとまず報告を聞こう。まずは、エルネイルで起きている珍事についてだ。」
「はっ。」
太平洋艦隊参謀長であるフランク・フレッチャー中将が頷き、説明を始める。
「エルネイル付近では、8月13日から今に至るまで、前線の影響による濃霧が発生していました。この濃霧の発生は、
同地の航空作戦に支障を来したのみならず、展開中の連合国艦船にも影響を及ぼしています。この間、我がアメリカを
始めとする連合国は、立て続けに海難事故を引き起こしてしまいました。」
13日以来、季節外れの濃霧に包まれているエルネイル沖では、翌日から連合国側が思いがけない珍事を引き起こした。
この珍事は、異例の非常事態事件が出された後も幾度か起きている。
「まず、14日夜半に、ミスリアル海軍所属の小型艇と、バルランド海軍所属の駆逐艦が衝突。小型艇は沈没しましたが、
幸いにも乗員は全員が無事救助されています。15日昼間、カレアント海軍所属の駆逐艦と、同海軍所属の巡洋艦が衝突。
駆逐艦は大破し、後方に避退しました。16日には、我が海軍所属の潜水艦ライオンフィッシュと、グレンキア海軍の
2級戦列艦が衝突。ライオンフィッシュは艦体が破損し、ホウロナ諸島に交代しています。また、同日、レースベルン海軍の
駆逐艦が、バルランド軍のスループ船1隻と衝突し、スループ船は沈没。乗組員3名が死亡しました。17日には我が海軍
所属の護衛駆逐艦ピルスベリーと、カレアント軍戦艦クズツォネフが衝突。ピルスベリーは沈没し、乗組員15名が死亡、
31名が負傷しています。18日にはLSTとグレンキア海軍所属の一等戦列艦が衝突し、両艦共、艦首を大破しています。
19日にはバルランド海軍所属のスループ船がレンフェラルの攻撃を受けて沈没しています。また、同時刻に我が海軍の
護衛空母レアルタ・アイランドと駆逐艦2隻が同じく、レンフェラルの攻撃を受け、駆逐艦1隻が沈没。レアルタ・アイランドと
もう1隻の駆逐艦は大破し、ホウロナ諸島に避退しました。」
フレッチャー中将は紙から目を離し、ニミッツに顔を向ける。
「この1週間で、敵襲が2件、事故が5件発生し、連合国海軍は沈没5隻、損傷艦8隻を出す事になりました。人員の損害は、
我が海軍のみで死者193名、負傷者400名となっています。各国海軍の人的損害の報告は、今の所、詳細がまだ入っておりません。」
「ううむ・・・・・それにしても、事故が頻発したな。」
ニミッツは深いため息を吐く。
「まるで、日露戦争中の日本海軍みたいだ。」
「海難事故が頻発する原因は、やはりあの濃霧にあるかと思われますが、他にも様々な原因があります。」
「そこの所は、私も聞いているよ。濃霧は勿論だが、連続した出動で、各国軍の将兵が疲れていた、という事も原因の1つだ。
あの時点で、各国海軍の艦隊は、短い方でも3週間、長い方では1カ月間連続で勤務していたからな。我々も似たような物だったが、
定期的に休みを取らなかったために、艦隊の将兵は士気を低下させてしまった。」
ニミッツは頷きながら答えた。
「しまいには、敵の海洋生物の侵入さえも許してしまう有様だ。どんなに忙しい時でも、やはり休養は必要だな。」
「長官、それもありますが、もう1つ気掛かりな点があります。」
情報主任参謀のエドウィン・レイトン大佐が手を上げる。
「今回、相次ぐ濃霧の影響で、予想外の事が起きましたが、その中で、水上レーダーの突発的な故障が原因で、別の船との
衝突に至った、という物があります。」
「確か、レーダーが故障したのは、護衛駆逐艦のピルスベリーとポープだったな。」
「はい。この2隻は、互いにペアを組んでエルネイル沖を哨戒しておりました。ですが、2隻の搭載していた水上レーダーが
相次いで故障した結果、同じく、トラブルを起こしていたカレアント軍艦の接近を察知できず、結果的に衝突事故を起こしています。
私が問題と感じているのは、水上レーダーが唐突に故障した事です。」
「水上レーダーの故障率の事は聞いているが、以前にも何件か報告されていたな。」
「はい。ですが、報告があった部隊はいずれもが本国で訓練中の艦ばかり。ですが、今回は作戦行動中の軍艦が、いきなり故障を
起こしています。前線部隊からの報告はこれ以外にありませんが、もし、レーダーに問題があるとすれば、これは由々しき事態かと思われます。」
「うむ。ミスターレイトン、君の言う事はよくわかる。」
ニミッツは頷いた。
「SGレーダーは優秀なレーダーだ。だが、先の事故のように唐突に停止してしまうとなると、しかも、実戦の最中に止まりでもしたら、
その艦は非常に危ない事態に陥る。よって、私はSGレーダーの信頼性を改善させるためにも、改めて品質改良等も含めた改善策を、
開発側と協議したいと思う。兵器は、実戦で動いてこそ、その本分を果たせるからな。その事について、私は明日、海軍省に出向くつもりだ。」
「ひとまず、この事故に関しては各国海軍からの情報を集めたうえで、改めて検討する方が良いでしょう。」
「そうだな。」
ニミッツは相槌を打ってから、フレッチャーに視線を向ける。
「今回の海難事故についてはこれで良いとして、エルネイル付近の天候はどうなっている?」
「はっ。気象班からの報告によりますと、前線は北上しつつあるとの事。エルネイルは3日以内には、通常の天候に戻るようです。」
「それは良い事だ。」
ニミッツはようやく、頬を緩ませる。
「ですが長官。油断は禁物です。」
レイトン大佐が緊張した声音で言ってくる。
「昨日、潜水艦ディースとダーターが、シホールアンル本国北西部のアルブランパ港から、敵機動部隊出航せり、という報告を送ってきています。」
アメリカ海軍は、7月初旬頃からシホールアンル帝国の主要軍港の1つである、アルブランパの沖合に10隻の潜水艦を監視のため配備している。
ディースとダーターは、4日前に交代でこの海域に到着し、アルブランパ沖の哨戒に当たっていた。
この2隻は、8月20日未明に、太平洋艦隊司令部あてに敵竜母3隻、または4隻を主力とする機動部隊が出港せり、という報告を送ってきている。
太平洋艦隊司令部では、これはシホールアンル海軍がレスタン領並びに、ヒーレリ領西岸の制海権保持のために、本格的に動き出したのだろうと判断していた。
だが、幕僚達の内心では、敵がただ、制海権の維持のみに終始するはずがない、という思いがあった。
「ディースとダーターは、それぞれ30マイルほど離れた海域におりましたが、この2隻が同時に敵竜母部隊を発見したとなると・・・・
敵は最低でも7隻程度の竜母を有する事になります。」
「この場合、更にあと1個竜母群が別で出動している、と考えた方が良い。となると、敵は竜母部隊のほぼ全力を投入して来た事になるな。」
ニミッツは嘆息しながらレイトンに返す。
「長官、シホールアンルが海軍の主力部隊を派遣したとなると、敵は新たな攻勢を計画している可能性があります。」
作戦参謀のフォレスト・シャーマン大佐が言う。
「それは、敵が陸軍と海軍で共同作戦を行おうとしている、という事かね?」
「必ずしもあるとは限りませんが、無いとも言い切れません。」
シャーマンはきっぱりと言い放つ。
「敵は、前回の攻勢で我が機動部隊に航空部隊を差し向け、一時的に航空支援の減殺に成功しています。あの時、敵の航空部隊は
陸軍のワイバーン隊でしたが、これと同じ方法を、機動部隊を用いて実行する可能性があります。」
「作戦参謀の言う通りですな。」
情報副参謀のジョセフ・ロシュフォート中佐が相槌を打つ。
「ですが、敵が陸海協同で攻勢を行う可能性は、極めて低いかと思われます。現在、エルネイル地方のみならず、ジャスオ領方面の
シホールアンル軍は、我が軍に対して防御一辺倒で当たっています。5日前に北ウェンステル領が陥落して以来は、その傾向は
より強く現れています。」
「バルランド軍の攻勢失敗で、敵の意図が明らかになったからな。」
ニミッツは頷きながら言う。
「となると、シホールアンル軍はやはり、制海権の維持が主目的である、と判断してよろしいでしょう。」
ここで黙って話を聞いていた航空参謀のウィンクス・レメロイ大佐が言う。
レメロイ大佐は、ニミッツが太平洋艦隊司令長官に任命された際、練習航空隊の司令から抜擢された新規スタッフである。
彼は今年で38歳を迎え、年齢的にはまだ若い。
ちなみに、巡洋戦艦アラスカ艦長であるリューエンリ・アイツベルン大佐と、戦艦アイオワ艦長であるブルース・メイヤー大佐とは同期の仲である。
「敵は最低でも、竜母9隻。最高でも12隻を引き連れ、艦載ワイバーンは約600~750騎以上を有しています。ですが、
第3艦隊は、第37、第38任務部隊の2個高速機動部隊を保有しています。TF37は正規空母6隻、軽空母5隻、TF38は
正規空母4隻、軽空母4隻を中核とし、艦載機数はTF37で約800機、TF38で約580機です。これに加え、TF37には
3日後に、新鋭空母のボクサーが加わります。そして、TF38では、修理に出ていた空母エセックスと、機関故障から治った
空母ヨークタウンが加わります。それも加えますと、TF37は900機前後、TF38は740機前後の艦載機を有します。
この2個任務部隊を合わせれば、第3艦隊は1500から600機の艦載機を保有し、その数はシホールアンル機動部隊の約2倍以上に
達します。」
レメロイ大佐は、幕僚達の顔を見回しながら説明する。
第3艦隊は、一時期、キング提督の英断で大西洋艦隊に貸し出されていたエセックス級空母のボクサーが新たに配備される事になり、
ボクサーはミスリアル王国のエスピリットゥ・サントで出港準備を終え、明日にでもホウロナ諸島に向かう予定だ。
それに加え、空襲で損傷していた空母エセックスと、エルネイル沖が濃霧に覆われる前に突然、機関に不調を来した空母ヨークタウンが、
共にホウロナ諸島に配備された大型浮きドックで修理を終え、原隊に復帰する事が可能となった。
この事で、第3艦隊の主力部隊は再び強化されるに至った。
「先ほど、敵は制海権保持以外の事もやりかねないのでは?という意見がでておりましたが、私はそうではないと思います。敵は
貴重な竜母を失いたくないがために、我々の情報をある程度手に入れているはずです。第3艦隊が、自軍の機動部隊より遥かに
強大な戦力である事は、重々承知しているでしょう。この状態で打って出れば、数の少ないシホールアンル機動部隊が壊滅するのは
当然です。我々と戦うには、戦力が溜まるまで待つか、あるいは、自軍の基地航空部隊の勢力圏内で戦うしか、方法は無いでしょう。」
「つまり、こっちが打って出るまでは、内庭に引っ込んでいるという事か。」
ニミッツは納得したように頷く。
「内庭といっても、前進拠点であるヒーレリの海軍基地は、ホウロナ諸島から1800キロほどしか離れていません。敵が南に数日ほど
通して航行すれば、あっという間にホウロナ近海に到達します。」
「ふむ。睨みを利かすには最適な場所、という訳か。陸軍のB-29を飛ばしても、航続距離はギリギリ届く程度だ。天候次第では到達
できない事もあるだろう。敵は良い所に基地を構えたな。」
ニミッツは、頭の中でヒーレリ領沿岸の土地を思い浮かべる。
シホールアンル海軍は、ヒーレリ領西南の土地、イースフィクルという港町に拠点を置いている。
この拠点にも、米海軍はガトー級並びに、バラオ級潜水艦計12隻を配備し、監視に当たらせている。
イースフィルクには、レスタン領並びに、ジャスオ領北部から逃れて来た艦艇や輸送船が入港し続け、その数は通常時の2倍に伸びているという。
また、イースフィルクは陸軍のワイバーン部隊も多数配備され、その数は推定でも、1個空中騎士軍相当と見積もられている。
「イースフィルクは、アルブランパ基地から約3000キロ離れています。敵機動部隊が16ノットのスピードで航行すれば、
約5日でイースフィルクに到達します。」
「ダーターとディースの報告が届けられてから既に7時間が経過している。イースフィルクには、あと4日強で到達するな。」
ニミッツはそう言ってから、側に置いてあった水入りのコップを取って、少しだけ飲む。
「長官。機動部隊は、1週間ほどの休養で万全な体制を整いつつあります。この際、総力を挙げて敵機動部隊を殲滅しては?」
フレッチャーが進言する。
歴戦の空母指揮官でもあった彼は、洋上での航空戦は先手必勝が基本であると常に思っている。
この敵機動部隊も、第3艦隊の2個任務部隊をぶつけて壊滅させてはどうか?という考えが彼の内心で浮かんでいた。
「いや、それは止した方が良い。」
しかし、ニミッツは進言を取り下げた。
「敵機動部隊が壊滅すれば、確かに戦局は我々に有利になるだろう。だが、あのシホールアンルが、そう簡単に主力を潰させてくれるとは
思えん。イースフィルクは、シホールアンルにとってはただの属領だが、軍事的には重要拠点だ。前線部隊には、ここ最近、本国から
増援のワイバーンが送られてきているようだが、敵も重要拠点の守りは堅くするだろう。それに、エルネイル海岸の飛行場も、まだまだ未熟だ。
せめて、あと1カ月か、長くても2カ月は、我々は敵地に侵攻できまいよ。ま、敵の手薄な場所がはっきりと分かれば、話は変わって
くるかも知れんがね。」
「幾らなんでも、それはありますまい。」
レイトン大佐が苦笑しながら言う。
「もしそうなったら、私は情報部の連中を誘ってお祝いでも開きますよ。」
「お祝いとは、これまた暢気な考えだな。」
ニミッツの何気ない返事に、幕僚達からはどっと笑いが上がった。
「ひとまず、第3艦隊には情報を送り、警戒態勢を取らせよう。あのシホールアンルの事だ。またぞろ何をしでかすか分からんからな。」
ニミッツはそう言ってから、会議を締め括った。
1484年(1944年)8月17日 午前3時 エルネイル沖西方20マイル地点
この日、第4艦隊第48任務部隊に所属している護衛駆逐艦ピルスベリーは、僚艦ポープと共に、近海の洋上哨戒を行っていた。
ピルスベリー艦長であるロジャー・ファルク少佐は、露天艦橋から外を眺めていた。
「しかし、こいつは酷い霧だなぁ。なんで、こんな夏真っ盛りの時期に霧なんぞが発生するんだ。」
ファルク艦長は忌々しげに呟く。
「4日前から急にですよね。」
傍に立っていた当直将校がファルクに言う。
「ああ。本当、いきなりだよ。」
ファルクは返事しながら、不思議そうな表情を浮かべる。
エルネイルのみならず、ジャスオ領の北部から中部沿岸では、季節外れの霧が発生していた。
霧の発生時期は地域によって異なるが、エルネイル地方が霧に包まれ始めたのは13日の正午頃からである。
この突然の霧発生によって、エルネイル海岸は勿論の事、海岸から200キロまでの内陸部では航空作戦が出来難くなった。
そのため、現地での航空支援はほぼ不可能となってしまった。
それでも、連合軍部隊は進撃を続けたが、敵は事前に航空攻撃を全く受けていないため、これまでにない激しい迎撃を展開した。
この苦しい進撃の最中、バルランド軍は第62軍並びに、第64軍の総力を挙げて、8月15日を持って一大攻勢作戦を
行ったが、対するシホールアンル軍は温存していた後方予備軍の精鋭部隊を守備に当たらせていたため、攻勢はたった1日で頓挫。
唯一、リーレイ・レルス少将指揮下の第3自動車化師団が敵の防衛線を突破し、同地の防衛に当たっていた第202石甲師団に
大損害を与えて撃破したものの、同師団も少なからぬ損害を被り、止む無く撤退する事になった。
バルランド軍北大陸派遣軍総司令官であるウォージ・インゲルテント大将は、作戦に参加していなかった第67軍も加えて
再度攻撃を行おうと考えたが、熟慮の末、これ以上の攻撃は無策と判断して、攻撃を取りやめた。
その翌日から、連合軍とシホールアンル軍は膠着状態に陥り、前線では不気味な静寂が続いている。
「まったく、いつまで続くのかねぇ。このうざったい霧は。」
「さぁ。とにかく、海岸沿いに陣取っている前線が消えない限り、この状態は続きそうですね。」
当直将校はそこまで言ってから、ふと、出航前に、親しくなった自由ジャスオ軍兵士から聞いた話を思い出した。
「艦長。そういえば、この間、知り合ったばかりのジャスオ人からちょっとした小話を聞いたんですが、聞きますか?」
「ああ。言ってくれ。暇潰しには持って来いだ。」
艦長にそう言われた当直将校は、思わず苦笑いを浮かべる。
(この人も、大分疲れが溜まってるなぁ)
彼は内心でそう思いつつも、自らも体に倦怠感を感じていた。
第4艦隊所属の護衛駆逐艦部隊は、上陸開始から3日後に、このエルネイル海岸の警備のために配備された。
配備当初から2週間ほどは、シホールアンル側も度々、海洋生物による攻撃を繰り返していたが、ここ最近は
何の動きも無いため、彼らも次第に緊張が緩んで来た。
緊張が解れた後には、肉体的、並びに精神的な疲れが現れ始め、それは徐々に将兵の体を蝕み始めた。
特に、上陸開始から多忙な日々を送っていた第3艦隊所属の第37、第38任務部隊では、連続する作戦で将兵の疲労度が
限界に達していた。
TF37とTF38は2度ほど、エルネイル近海を離れているが、それは休息のためではなく、洋上補給のためであり、
決して休息をしていた訳ではない。
第3艦隊司令長官ハルゼー大将は、もうしばらくは我慢して貰おうと考えていたが、霧のため、しばらく航空援護が不可能で
あると事と、エルネイルには既に陸軍航空隊を始めとする連合軍航空隊が増強されていた事もあり、ここは休息を取るべき
であろうと判断した。
機動部隊の各艦では、ホウロナ諸島で久方ぶりの休息が与えられるとの通達があり、疲れていた将兵達は一斉に歓声を上げたという。
また、航空支援任務に当たっていた護衛空母部隊も、ホウロナ諸島への回航が決まった。
そんな喜色に包まれた機動部隊と護衛空母部隊とは対照的に、第4艦隊の護衛駆逐艦部隊は、いつもと同じように洋上の哨戒活動に入っていた。
そのため、将兵達にも疲れが見え始めていた。
「その知り合いからの話によれば、何でも、ジャスオ領沿岸では、30年に一度の割合で、季節外れの濃霧が発生するようです。」
「季節外れの濃霧・・・・って事は、こいつがそうか。」
「恐らくは。」
「恐らくは?」
ファルク少佐は怪訝な表情を浮かべた。
「ええ。その友人はですね、今年は前回から29年目だからまだ大丈夫だよって言ってたんです。だから、友人からしてみれば、
この大規模な濃霧の発生は、本当の意味での季節外れになる・・・・と思うのです。」
「普通より、1年早まった、という訳か。どうも臭いな。」
ファルク艦長は疑わしげな口調で言う。
「もしかして、シホット共が魔法とやらで、人為的にこの霧を発生させたんじゃねえか?」
「いえ、魔法で天気を変えるのは、ほぼ不可能だそうです。局地的な範囲ならば、何度か例はあるそうですが、
大規模な地域単位で天候を変えるのは無理みたいです。」
「あの魔法で1番のミスリアルでもか?」
「ええ。というか、難しすぎてどの国も途中で投げ出してしまったようです。あるとしたら、町に雨を降らせた、
とかぐらいのようです。」
「へぇ~。魔法もなかなか、不便な代物なんだなぁ。」
「艦長、実をいいますと、話にはまだ続きがあります。」
当直将校は表情に意味ありげな色を浮かべる。
「続き?」
「はい。そのジャスオ人の友人は、なかなかに饒舌な奴でしてね。太古の昔、この海域にはエイルネインルという気紛れな
人魚がおりまして、気分次第で周辺海域の天候を変えまくって、周辺の漁師達を大いに困らせていたようです。そこをたまたま
通りかかった冒険者がこのエイルネインルの説得に当たり、この気紛れな人魚様に大人しくしてもらったようです。一応、この
事件は何とか収まり、以降は人魚の姿を見られなくなりましたが、それから30年後の夏に、季節外れの濃霧が発生し、それ以来、
この海域では30年に1度・・・・あるいは、それ以内に濃霧が発生するようです。最も、30年以内に1度発生した時は、
いずれも24年、あるいは5年ぐらい経った時のようですが。」
「それが、今年は29年目で、こんな霧が発生した、という訳か。」
ファルク艦長はやれやれとばかりに首を振った。
「本当、気紛れな人魚様だな。」
「もしかしたら、原因は自分達にあるかもしれませんよ。」
当直将校は微笑みながら言う。
「1ヶ月近く前、自分達は何千隻という大船団でもってこのエルネイルに押し寄せましたからね。恐らく、人魚様はこれに驚いて、
慌ててこの海域を霧で包んだのではないですかね。」
「ハハハ!古の人魚様も、いきなり4000隻以上の大船団を見りゃぶったまげるわな。連合国の底力は、古の人魚様をも驚かせるか。
悪くないね。」
「艦長、そんな事言ったら、バチが当たりますぜ。」
「なぁーに、バチならとっくに当たっとる。」
彼は親指で艦橋トップを指す。
「3時間前から本艦の水上レーダーは動かなくなってる。人魚さんは、レーダーを壊して俺達にさっさと帰れ!と語りかけているんだろうな。」
ファルク艦長はそう言った後、ため息を吐く。
「ま、そんな下らん冗談は置いといて。この霧の中でレーダーが動かんというのは正直きついな。」
「ええ、確かに。今は、僚艦ポープのレーダーを頼りに哨戒を行っていますからね。」
ファルク艦長と当直将校は、前方300メートルを航行している僚艦に視線を向ける。
夜間の上に、霧が発生しているという事もあって、その姿は全く見えない。
1分おきに、ポープが探照灯を発する。ピルスベリーはそれを頼りに、僚艦を追っている。
「ポープとの連絡を密にしろ。最近はやたらに事故が続いているからな。別の船と衝突事故でも起こしたりでもしたら、事だからな。」
ファルク艦長は、やや沈んだトーンで当直将校に指示する。
この季節外れの霧の影響で、エルネイル沖では艦船同士の事故が続いている。
事故は霧が発生した翌日から起こっており、これまでに4件ほどが報告されている。
この連続する事故で沈没艦がでており、事態を重く見た連合国司令部はエルネイル沖を往来する艦船には厳重な警戒を取るように、
という異例の非常事態宣言を発するほどであった。
そんな危ない状況下で、頼みの綱である水上レーダーが故障した事は、ファルク艦長のみならず、乗員全員にも底知れぬ不安感を抱かせた。
「アイアイサー。ポープのレーダーは、我々にとって命綱ですからね。」
「ああ。多少オーバーな感があるが、間違いではないな。」
2人は不安感を紛らわせるかのように笑い合った。
それから20分後。
「航海長!ポープから緊急信です!」
「ん?何があった?」
当直将校は、血相を変えながら走り寄って来た伝令に、何気ない口調で聞きつつ、伝令が差し出した紙を受け取る。
紙に書かれた内容を一読した彼は、それまで浮かべていた余裕が一気に吹き飛んだかのような感覚に囚われた。
「艦長。大変な事が起きました!」
「大変な事だと?まさか、シホット共の襲撃か!?」
「いえ。違います。ひとまず、これを・・・・・」
当直将校は紙を渡した。それを受け取り、ファルク艦長は黙読する。
「くそったれめ。海軍工廠の奴ら、役立たずの不良品を取り付けやがったな!」
彼は、怒りに震えた口調で叫んだ。
「ポープのレーダーまでもが故障するとは。これじゃ作戦どころじゃないぞ!」
「艦長、どうしましょうか?ここ最近、やけに海難事故が続発していますし、ひとまず、任務を中断してはいかがでしょうか?」
「それは俺の一存で決められんよ。」
ファルク艦長は首を横に振りながら返す。
「一応、ポープの艦長と相談して、その後に駆逐隊司令に問い合わせよう。任務云々はその後だ。」
「分かりました。」
当直将校は頷いてから、通信兵にポープとの回線を開くようにと、指示を下した。
そんなピルスベリーに災厄が起きたのは、それから30分後の事であった。
「これじゃ任務にならんから、ひとまずはホウロナ諸島に行って、工作艦から修理を受けよ、か。まっ、妥当な判断だな。」
「ええ。ダメコン半からも、レーダーは本格的な修理を受けないと治らないと言っていますからね。しかし、どうしていきなり
壊れたんですかね。」
「さあ・・・・原因不明らしいからな。それよりも、今はこの霧を無事に抜けられる事を祈ろう。」
ファルク艦長は、ぶすりとした声音で当直将校に返した。
異変が起きたのはこの時であった。
「艦長!3時方向から大型船らしきものが接近します!」
唐突に、見張り員から緊迫した声音が上がった。
「何?距離は!?」
「約300です!」
「300だと?近すぎるぞ!!」
彼は思わず仰天してしまった。距離300メートルは、もはや距離とは言えない。
相手の進路とこちら側の進路が交錯していた場合、回避運動を行ったとしても衝突する可能性がある。
ましてや、相手側の速力が速い場合、事故発生の確率は飛躍的に増大する。
現在、ピルスベリーは13ノットの速力で航行している。これで相手側の速力が同じであれば、ひとまず希望は持てる。
だが、現実は残酷であった。
「大型船、時速20ノット前後で近付きつつあります!」
「くそったれめ!取舵だ!取舵一杯!相手側に知らせるために警告音も鳴らせ!!」
ピルスベリーの操舵員が、泡食った表情を浮かべながら舵輪を回す。煙突からけたたましい警笛も鳴り響いた。
やや間を置いて、艦首が回頭を始める。そのころには、、ピルスベリーと大型船との距離は200に迫っていた。
「ん?あれは・・・・・カレアント軍のクズツォネフ級戦艦じゃねえか!!」
ファルクは思わず叫んだ。
カレアント軍の主力艦であるクズツォネフ級一等重武装戦列艦(米海軍では戦艦と呼んでいる)は、古めかしい
ながらも立派な軍艦であり、基準排水量は27000トンにも上る大型艦である。
そんな船に、基準排水量1000トンそこそこの護衛駆逐艦が衝突されれば、どうなるかは、子供でも分かる事だ。
「回れ!早く回らんかぁ!!」
ファルク艦長は、もどかしげに回る艦首に向けて怒声を上げる。
相手側の船も回避運動を始めた。
だが、もはや間に合わなかった。
ピルスベリーの艦尾に、カレアント艦の尖った艦首が迫ってくる。
彼は、カレアント戦艦の艦首には、古めかしいラム(衝角)が付いている事を知っていた。
「間に合わん。総員衝撃に備えー!!」
ファルク艦長は、マイクを取りあげ、艦内の乗員全員に命じる。
それから20秒後に、今までに感じた事のない衝撃が艦尾から伝わった。
メリメリメリという何かが突き刺さる音と、地震のような振動が1200トンの艦体を揺さぶる。
カレアント艦の艦首は、ピルスベリーの小さな艦体を押し潰し、艦尾付近の艦内で作業を行っていた7名の水兵は、唐突に起きた
衝撃を感じた後に、突き出て来た艦首によって押し潰され、命を落とした。
振動が収まると同時に、ファルク艦長は反射的にダメコン班を向かわせていた。
だが、彼の内心では、もはやピルスベリーは助からないという諦めの思いで満たされていた。
1484年(1944年)8月20日 午前8時 カリフォルニア州サンディエゴ
カリフォルニア州サンディエゴにある太平洋艦隊司令部では、太平洋艦隊司令長官であるチェスター・ニミッツ大将を
始めとする幕僚達が、作戦室内に集まっていた。
「では、ひとまず報告を聞こう。まずは、エルネイルで起きている珍事についてだ。」
「はっ。」
太平洋艦隊参謀長であるフランク・フレッチャー中将が頷き、説明を始める。
「エルネイル付近では、8月13日から今に至るまで、前線の影響による濃霧が発生していました。この濃霧の発生は、
同地の航空作戦に支障を来したのみならず、展開中の連合国艦船にも影響を及ぼしています。この間、我がアメリカを
始めとする連合国は、立て続けに海難事故を引き起こしてしまいました。」
13日以来、季節外れの濃霧に包まれているエルネイル沖では、翌日から連合国側が思いがけない珍事を引き起こした。
この珍事は、異例の非常事態事件が出された後も幾度か起きている。
「まず、14日夜半に、ミスリアル海軍所属の小型艇と、バルランド海軍所属の駆逐艦が衝突。小型艇は沈没しましたが、
幸いにも乗員は全員が無事救助されています。15日昼間、カレアント海軍所属の駆逐艦と、同海軍所属の巡洋艦が衝突。
駆逐艦は大破し、後方に避退しました。16日には、我が海軍所属の潜水艦ライオンフィッシュと、グレンキア海軍の
2級戦列艦が衝突。ライオンフィッシュは艦体が破損し、ホウロナ諸島に交代しています。また、同日、レースベルン海軍の
駆逐艦が、バルランド軍のスループ船1隻と衝突し、スループ船は沈没。乗組員3名が死亡しました。17日には我が海軍
所属の護衛駆逐艦ピルスベリーと、カレアント軍戦艦クズツォネフが衝突。ピルスベリーは沈没し、乗組員15名が死亡、
31名が負傷しています。18日にはLSTとグレンキア海軍所属の一等戦列艦が衝突し、両艦共、艦首を大破しています。
19日にはバルランド海軍所属のスループ船がレンフェラルの攻撃を受けて沈没しています。また、同時刻に我が海軍の
護衛空母レアルタ・アイランドと駆逐艦2隻が同じく、レンフェラルの攻撃を受け、駆逐艦1隻が沈没。レアルタ・アイランドと
もう1隻の駆逐艦は大破し、ホウロナ諸島に避退しました。」
フレッチャー中将は紙から目を離し、ニミッツに顔を向ける。
「この1週間で、敵襲が2件、事故が5件発生し、連合国海軍は沈没5隻、損傷艦8隻を出す事になりました。人員の損害は、
我が海軍のみで死者193名、負傷者400名となっています。各国海軍の人的損害の報告は、今の所、詳細がまだ入っておりません。」
「ううむ・・・・・それにしても、事故が頻発したな。」
ニミッツは深いため息を吐く。
「まるで、日露戦争中の日本海軍みたいだ。」
「海難事故が頻発する原因は、やはりあの濃霧にあるかと思われますが、他にも様々な原因があります。」
「そこの所は、私も聞いているよ。濃霧は勿論だが、連続した出動で、各国軍の将兵が疲れていた、という事も原因の1つだ。
あの時点で、各国海軍の艦隊は、短い方でも3週間、長い方では1カ月間連続で勤務していたからな。我々も似たような物だったが、
定期的に休みを取らなかったために、艦隊の将兵は士気を低下させてしまった。」
ニミッツは頷きながら答えた。
「しまいには、敵の海洋生物の侵入さえも許してしまう有様だ。どんなに忙しい時でも、やはり休養は必要だな。」
「長官、それもありますが、もう1つ気掛かりな点があります。」
情報主任参謀のエドウィン・レイトン大佐が手を上げる。
「今回、相次ぐ濃霧の影響で、予想外の事が起きましたが、その中で、水上レーダーの突発的な故障が原因で、別の船との
衝突に至った、という物があります。」
「確か、レーダーが故障したのは、護衛駆逐艦のピルスベリーとポープだったな。」
「はい。この2隻は、互いにペアを組んでエルネイル沖を哨戒しておりました。ですが、2隻の搭載していた水上レーダーが
相次いで故障した結果、同じく、トラブルを起こしていたカレアント軍艦の接近を察知できず、結果的に衝突事故を起こしています。
私が問題と感じているのは、水上レーダーが唐突に故障した事です。」
「水上レーダーの故障率の事は聞いているが、以前にも何件か報告されていたな。」
「はい。ですが、報告があった部隊はいずれもが本国で訓練中の艦ばかり。ですが、今回は作戦行動中の軍艦が、いきなり故障を
起こしています。前線部隊からの報告はこれ以外にありませんが、もし、レーダーに問題があるとすれば、これは由々しき事態かと思われます。」
「うむ。ミスターレイトン、君の言う事はよくわかる。」
ニミッツは頷いた。
「SGレーダーは優秀なレーダーだ。だが、先の事故のように唐突に停止してしまうとなると、しかも、実戦の最中に止まりでもしたら、
その艦は非常に危ない事態に陥る。よって、私はSGレーダーの信頼性を改善させるためにも、改めて品質改良等も含めた改善策を、
開発側と協議したいと思う。兵器は、実戦で動いてこそ、その本分を果たせるからな。その事について、私は明日、海軍省に出向くつもりだ。」
「ひとまず、この事故に関しては各国海軍からの情報を集めたうえで、改めて検討する方が良いでしょう。」
「そうだな。」
ニミッツは相槌を打ってから、フレッチャーに視線を向ける。
「今回の海難事故についてはこれで良いとして、エルネイル付近の天候はどうなっている?」
「はっ。気象班からの報告によりますと、前線は北上しつつあるとの事。エルネイルは3日以内には、通常の天候に戻るようです。」
「それは良い事だ。」
ニミッツはようやく、頬を緩ませる。
「ですが長官。油断は禁物です。」
レイトン大佐が緊張した声音で言ってくる。
「昨日、潜水艦ディースとダーターが、シホールアンル本国北西部のアルブランパ港から、敵機動部隊出航せり、という報告を送ってきています。」
アメリカ海軍は、7月初旬頃からシホールアンル帝国の主要軍港の1つである、アルブランパの沖合に10隻の潜水艦を監視のため配備している。
ディースとダーターは、4日前に交代でこの海域に到着し、アルブランパ沖の哨戒に当たっていた。
この2隻は、8月20日未明に、太平洋艦隊司令部あてに敵竜母3隻、または4隻を主力とする機動部隊が出港せり、という報告を送ってきている。
太平洋艦隊司令部では、これはシホールアンル海軍がレスタン領並びに、ヒーレリ領西岸の制海権保持のために、本格的に動き出したのだろうと判断していた。
だが、幕僚達の内心では、敵がただ、制海権の維持のみに終始するはずがない、という思いがあった。
「ディースとダーターは、それぞれ30マイルほど離れた海域におりましたが、この2隻が同時に敵竜母部隊を発見したとなると・・・・
敵は最低でも7隻程度の竜母を有する事になります。」
「この場合、更にあと1個竜母群が別で出動している、と考えた方が良い。となると、敵は竜母部隊のほぼ全力を投入して来た事になるな。」
ニミッツは嘆息しながらレイトンに返す。
「長官、シホールアンルが海軍の主力部隊を派遣したとなると、敵は新たな攻勢を計画している可能性があります。」
作戦参謀のフォレスト・シャーマン大佐が言う。
「それは、敵が陸軍と海軍で共同作戦を行おうとしている、という事かね?」
「必ずしもあるとは限りませんが、無いとも言い切れません。」
シャーマンはきっぱりと言い放つ。
「敵は、前回の攻勢で我が機動部隊に航空部隊を差し向け、一時的に航空支援の減殺に成功しています。あの時、敵の航空部隊は
陸軍のワイバーン隊でしたが、これと同じ方法を、機動部隊を用いて実行する可能性があります。」
「作戦参謀の言う通りですな。」
情報副参謀のジョセフ・ロシュフォート中佐が相槌を打つ。
「ですが、敵が陸海協同で攻勢を行う可能性は、極めて低いかと思われます。現在、エルネイル地方のみならず、ジャスオ領方面の
シホールアンル軍は、我が軍に対して防御一辺倒で当たっています。5日前に北ウェンステル領が陥落して以来は、その傾向は
より強く現れています。」
「バルランド軍の攻勢失敗で、敵の意図が明らかになったからな。」
ニミッツは頷きながら言う。
「となると、シホールアンル軍はやはり、制海権の維持が主目的である、と判断してよろしいでしょう。」
ここで黙って話を聞いていた航空参謀のウィンクス・レメロイ大佐が言う。
レメロイ大佐は、ニミッツが太平洋艦隊司令長官に任命された際、練習航空隊の司令から抜擢された新規スタッフである。
彼は今年で38歳を迎え、年齢的にはまだ若い。
ちなみに、巡洋戦艦アラスカ艦長であるリューエンリ・アイツベルン大佐と、戦艦アイオワ艦長であるブルース・メイヤー大佐とは同期の仲である。
「敵は最低でも、竜母9隻。最高でも12隻を引き連れ、艦載ワイバーンは約600~750騎以上を有しています。ですが、
第3艦隊は、第37、第38任務部隊の2個高速機動部隊を保有しています。TF37は正規空母6隻、軽空母5隻、TF38は
正規空母4隻、軽空母4隻を中核とし、艦載機数はTF37で約800機、TF38で約580機です。これに加え、TF37には
3日後に、新鋭空母のボクサーが加わります。そして、TF38では、修理に出ていた空母エセックスと、機関故障から治った
空母ヨークタウンが加わります。それも加えますと、TF37は900機前後、TF38は740機前後の艦載機を有します。
この2個任務部隊を合わせれば、第3艦隊は1500から600機の艦載機を保有し、その数はシホールアンル機動部隊の約2倍以上に
達します。」
レメロイ大佐は、幕僚達の顔を見回しながら説明する。
第3艦隊は、一時期、キング提督の英断で大西洋艦隊に貸し出されていたエセックス級空母のボクサーが新たに配備される事になり、
ボクサーはミスリアル王国のエスピリットゥ・サントで出港準備を終え、明日にでもホウロナ諸島に向かう予定だ。
それに加え、空襲で損傷していた空母エセックスと、エルネイル沖が濃霧に覆われる前に突然、機関に不調を来した空母ヨークタウンが、
共にホウロナ諸島に配備された大型浮きドックで修理を終え、原隊に復帰する事が可能となった。
この事で、第3艦隊の主力部隊は再び強化されるに至った。
「先ほど、敵は制海権保持以外の事もやりかねないのでは?という意見がでておりましたが、私はそうではないと思います。敵は
貴重な竜母を失いたくないがために、我々の情報をある程度手に入れているはずです。第3艦隊が、自軍の機動部隊より遥かに
強大な戦力である事は、重々承知しているでしょう。この状態で打って出れば、数の少ないシホールアンル機動部隊が壊滅するのは
当然です。我々と戦うには、戦力が溜まるまで待つか、あるいは、自軍の基地航空部隊の勢力圏内で戦うしか、方法は無いでしょう。」
「つまり、こっちが打って出るまでは、内庭に引っ込んでいるという事か。」
ニミッツは納得したように頷く。
「内庭といっても、前進拠点であるヒーレリの海軍基地は、ホウロナ諸島から1800キロほどしか離れていません。敵が南に数日ほど
通して航行すれば、あっという間にホウロナ近海に到達します。」
「ふむ。睨みを利かすには最適な場所、という訳か。陸軍のB-29を飛ばしても、航続距離はギリギリ届く程度だ。天候次第では到達
できない事もあるだろう。敵は良い所に基地を構えたな。」
ニミッツは、頭の中でヒーレリ領沿岸の土地を思い浮かべる。
シホールアンル海軍は、ヒーレリ領西南の土地、イースフィクルという港町に拠点を置いている。
この拠点にも、米海軍はガトー級並びに、バラオ級潜水艦計12隻を配備し、監視に当たらせている。
イースフィルクには、レスタン領並びに、ジャスオ領北部から逃れて来た艦艇や輸送船が入港し続け、その数は通常時の2倍に伸びているという。
また、イースフィルクは陸軍のワイバーン部隊も多数配備され、その数は推定でも、1個空中騎士軍相当と見積もられている。
「イースフィルクは、アルブランパ基地から約3000キロ離れています。敵機動部隊が16ノットのスピードで航行すれば、
約5日でイースフィルクに到達します。」
「ダーターとディースの報告が届けられてから既に7時間が経過している。イースフィルクには、あと4日強で到達するな。」
ニミッツはそう言ってから、側に置いてあった水入りのコップを取って、少しだけ飲む。
「長官。機動部隊は、1週間ほどの休養で万全な体制を整いつつあります。この際、総力を挙げて敵機動部隊を殲滅しては?」
フレッチャーが進言する。
歴戦の空母指揮官でもあった彼は、洋上での航空戦は先手必勝が基本であると常に思っている。
この敵機動部隊も、第3艦隊の2個任務部隊をぶつけて壊滅させてはどうか?という考えが彼の内心で浮かんでいた。
「いや、それは止した方が良い。」
しかし、ニミッツは進言を取り下げた。
「敵機動部隊が壊滅すれば、確かに戦局は我々に有利になるだろう。だが、あのシホールアンルが、そう簡単に主力を潰させてくれるとは
思えん。イースフィルクは、シホールアンルにとってはただの属領だが、軍事的には重要拠点だ。前線部隊には、ここ最近、本国から
増援のワイバーンが送られてきているようだが、敵も重要拠点の守りは堅くするだろう。それに、エルネイル海岸の飛行場も、まだまだ未熟だ。
せめて、あと1カ月か、長くても2カ月は、我々は敵地に侵攻できまいよ。ま、敵の手薄な場所がはっきりと分かれば、話は変わって
くるかも知れんがね。」
「幾らなんでも、それはありますまい。」
レイトン大佐が苦笑しながら言う。
「もしそうなったら、私は情報部の連中を誘ってお祝いでも開きますよ。」
「お祝いとは、これまた暢気な考えだな。」
ニミッツの何気ない返事に、幕僚達からはどっと笑いが上がった。
「ひとまず、第3艦隊には情報を送り、警戒態勢を取らせよう。あのシホールアンルの事だ。またぞろ何をしでかすか分からんからな。」
ニミッツはそう言ってから、会議を締め括った。