189 :外パラサイト:2011/02/06(日) 07:44:37 ID:PYl3SWRU0
カレアント皇国女王ミレナ・カンレアク
人々から親しみを込めて「お騒がせ女王」と呼ばれるこの女傑については、歴史家の取材に対しとある側近がこう述べている。
「あの人は太陽だよ。遠くで見ているぶんにはこっちも元気をもらえるんだが、そばで世話するとなると火傷じゃ済まない」
そんなカンレアク女王は戦争中に様々な武勇伝を生み出しているが、今回はその中で1485年(1945年)1月のある日、レスタン領シェリキナ連峰上空で起きた事件をご紹介しよう。
その日、ミレナを乗せたカンレアク女王専用機「シバイタロカ号」は、眼下にシェリキナ連峰の山々を望む、ジャスオ・レスタン国境沿いを飛んでいた。
ク ワティバの海岸でマーケット作戦に参加する連合軍将兵を激励した-またも無理矢理飲まされ暴走したボルヴェルグ少将が居合わせたアメリカ軍高官を巻き込ん で色々ともの凄いことになったが、OSSまで投入して事件のもみ消しに動いた当局の努力によってことの詳細が明らかになることは永久にない-カンレアク女 王は、今度はガーデン作戦参加部隊の士気高揚を図るべく飛んできたのであった。
シバイタロカ号は、もともとは米軍がロッキード・ベガ社バーバンク工場で製造されたB-17F-10-VE42-5734号機を改造し、YB-40の名称で編隊援護機として試験運用していた機体である。
YB-40は爆弾を積まない銃撃専用機で、機首下面にリモコン式のチン・ターレット、爆弾倉直後の胴体上面-もとの通信士席-に動力砲塔が追加され、胴体側面銃座は油圧駆動式の二連装機銃に強化されている。
こ うして十四挺の機関銃を備えたYB-40にB-17の編隊の外縁を守らせ、襲ってくる敵に弾丸の雨を浴びせようという構想だったのだが、武装と装甲の追加 によって重くなったYB-40が編隊に混じるとかえってB-17の足を引っ張る結果になり、二十機作られたYB-40は数度の実戦テストのあと、全機第一 線から引き上げられてしまった。
そしてカレアント国内のデポで再度爆撃機に改修されるのを待っていたYB-40に「何これカッコイイ!」と目をつけ、いつもの“これ頂戴”病を発症させたのがカンレアク女王であった。
好奇心旺盛で特に軍事に強い関心を持つミレナは、新しいオモチャ-もとい兵器の試射や試乗のチャンスを逃さないよう政務の合間を縫って、国内外の軍事施設や演習場にじつに頻繁に足を運んでいたのである。
そんなカンレアク女王が空中戦艦とでも言うべきYB-40の威容を目にして、心奪われないなどということがあろうか?いやない。
かくしてYB-40・42-5734号機はめでたくカレアント皇国女王御用機として召し上げられ-無責任な噂ではYB-40を手に入れるため、アイゼンハワー相手に美人局まがいの手を使ったとか-今日は東に明日は西に、ミレナを乗せて飛び回ることになったのである。
190 :外パラサイト:2011/02/06(日) 07:45:33 ID:PYl3SWRU0
「あと20分、あと20分…お願いです、何事もなく過ぎ去ってください…」
シバイタロカ号のコクピット、二つ並んだ操縦席の右側で、副操縦士のロサス中尉は呪文のように唱え続けていた。
パイロットとしては優秀だがミレナの世話役としては常識人過ぎるため、シバイタロカ号の副操縦士になってからは神経をすり減らす日々が続いている。
その隣では、機長のレスパヴログ大尉―有能だが手を抜ける状況では容赦なく手を抜く性格から一部ではカンレアク女王の魂の双子と呼ばれている―が気持ちよさ気に高鼾をかいている。
こ の日シバイタロカ号に乗り組んでいたのはカンレアク女王以下、機長のレスパヴログ大尉、副操縦士のロサス中尉、航法士兼前方銃手のビダン少尉、機関士兼上 部一番銃手のブリトルニン曹長、無線士兼上部二番銃手のスキノッサ軍曹、下部銃手のカウリ伍長、右側面銃手のヘスビル軍曹、左側面銃手のサブラカ軍曹、後 部銃手のチェルミン伍長の合計十名、いずれも十八~二十六歳の、ピチピチでムチムチの綺麗どころである。
突然シバイタロカ号の上空で速度差を吸収するジグザグ飛行を続けていたエアラコブラが一斉に増槽を投棄した。
同時に機首で見張りについていたビダン少尉が機内通話で敵機発見を伝えてきた。
六機の護衛戦闘機-なんとなく不吉な響きではある-がまっしぐらに向かっていく先には、すっかりおなじみになった寸詰まりのシルエットを持つ飛行挺の一群がいる。
このときシバイタロカ号に襲い掛かったのは、ルシェヴリキ基地を発進した第八戦闘飛行団のドシュダム十二機だった。
この時期のレスタン領内は悪天候続きで、両軍とも大規模な空中戦力の運用は出来ない状況だったが、数少ない晴れ間を利用した少数機での奇襲攻撃はどちらも頻繁に行っていた。
ジャスオ領内の前線近くに作られた連合軍の急造飛行場は、ドシュダムの足で余裕を持って往復できるうえ飛行場の防備も薄い。
そこを急襲しての掃射攻撃を意図して進撃途上にあったドシュダム隊は、明らかにVIPが乗っていると思われる護衛付きの四発機を発見すると、ためらうことなく攻撃態勢に入った。
一方YB-40の機内では、流石にカレアント全軍から選りすぐられただけあって、乗組員は慌てず騒がず手分けして戦闘配置についていく。
「ふっふっふ、ワイバーンだろうが飛行挺だろうが有象無象の区別なく、私の弾丸は逃しはしない」
「陛下、訳分からないこと言ってないで席に戻ってください」
「や~だ~ここがいい~」
「お願いですから引っ込んでてくださいって!」
「HA☆NA☆SE!」
親衛隊員に羽交い絞めにされ、胴体側面銃座から引き剥がされるカンレアク女王。
抑え役のカラマンボ元帥が不在なのでいつにも増して聞き分けがない。
191 :外パラサイト:2011/02/06(日) 07:46:40 ID:PYl3SWRU0
シバイタロカ号の全乗員が見守るなか、シホールアンル軍飛行挺の蝿のような機影とアメリカ製戦闘機の鮫を思わせるシルエットの距離が急速に縮まっていく。
「やっつけろよ!」
ロサス中尉に叩き起こされたレスパヴログ大尉が叫んだ。
エアラコブラとドシュダムは互いに全砲火を浴びせながら正面からぶつかり合い、高速ですれ違うと同時に散開する。
ドシュダム隊は編隊を二つに分けた。
行く手を遮ろうとする六機のエアラコブラに挑戦するのは八機のドシュダム。
そして分離した四機がYB-40に向かう。
操縦席直後の一番砲塔を操作するブリトルニン曹長が最初に火蓋を切り、二番砲塔のスキノッサ軍曹が続いた。
ブローニング機関銃から放たれるオレンジ色の曳光弾と、魔導銃が吐き出す紫色の光弾が空中で交錯する。
YB-40から見て十時方向から接近してきたドシュダムは斜め上から袈裟斬りに射撃を浴びせ、四発機の腹の下を潜って四時方向に飛びぬける。
胴体下面に金玉袋のようにぶら下がった球形砲塔に潜り込んだカウリ伍長が目の前を飛び去る飛行挺に素早く砲塔を向けて五〇口径弾を浴びせる。
兎耳族ならではの鋭敏な聴覚によって視界に入る前から敵機の動きを捉えていたカウリの射撃は、最後尾のドシュダムを見事に捕らえた。
寸詰まりの機体から破片が飛び散り、シホールアンル軍の飛行挺はよろめきながら雲の下に消えていった。
一方シバイタロカ号の乗員も傷を負っていた。
上部第二砲塔が直撃弾を受けて破壊され、両目に破片を受けたスキノッサ軍曹が砲塔から転げ落ちる。
さらにヘスビル軍曹が両膝を撃ち砕かれてばったりと倒れた。
「おのれ、私の可愛い部下を!」
スキノッサとヘスビルの手当てをサブラカ軍曹に任せ、自ら二連装の五〇口径機関銃を握るミレナ。
三機に減ったドシュダムが絵に描いたような三角フォーメーションで突っ込んでくる。
YB-40は再び痛打を浴びた。
長い連続射撃を加えられたシバイタロカ号のアルミニウムの機体表面に穴が空き、操縦索が切断され、被弾した油圧系統から飛び散ったオイルが負傷者の血と混じりあった。
嵐のような攻撃のなかで「勇者は弾丸が避けて通る」という古いジンクスを証明するかのように、仁王立ちで撃ちまくるカンレアク女王。
一見メチャクチャに見えるその射撃は意外に的確かつ効果的で、シホールアンル軍の飛行挺一機に命中弾を与えていた。
魔導機関に弾丸を叩き込まれたドシュダムは、動力源の魔法石が崩壊する際に放出する大量の魔力に耐え切れず、七色の火の玉となって四散した。
192 :外パラサイト:2011/02/06(日) 07:47:31 ID:PYl3SWRU0
だがドシュダムの銃火も更なる犠牲を強いていた。
「やられた!」
インターコムにカウリ伍長の苦しげな声が流れる。
ミレナとサブラカが球形砲塔の中からわき腹に負傷したカウリを引っ張り出していると、後部から恐ろしい叫びがあがった。
後部区画に置かれていた酸素ボンベが銃撃を受けて爆発し、尾部銃手席が炎に包まれたのだ。
消火器を手にしたカンレアク女王がすっ飛んでいって火災を消し止め、全身に火傷を負ったチェルミン伍長を引きずってくる。
その間に怒りに燃える二機のドシュダムはシバイタロカ号の進路に回りこみ、体当たりも辞さない正面攻撃に打って出た。
YB-40の前方に向けて射撃できる全機銃が火を噴き、一機のドシュダムのキャノピーを五〇口径弾が粉砕した。
同時に四発機の風防が砕け散り、操縦席に血しぶきが舞う。
パイロットが即死した飛行挺は、シバイタロカ号を掠めて落下する際に左の主翼でYB-40の胴体にザックリと裂け目を入れ、サブラカの右腕の肘から下を切り飛ばした。
機首銃座のビダン少尉は腹を撃たれて重症。
上部砲塔のブリトルニンはドシュダムが激突した衝撃で脳震盪を起こしている。
遂にシバイタロカ号の乗員でまともに動けるのはカンレアク女王ただ一人になってしまった。
最後の一機となったドシュダムがYB-40に止めを刺そうとしたそのとき、三機のエアラコブラが飛来した。
護衛戦闘機隊がその数を半分に減らされながらも八機のシホールアンル軍機を駆逐して、絶対絶命の窮地に駆けつけたのだ。
二連装機銃を構えたミレナが見守るなか、最後のドシュダムは雲に飛び込んで遁走した。
ジャスオ・レスタン国境に近いラインドデートの町はずれに、アメリカ陸軍航空隊が使用する前線飛行場の一つがある。
ロードローラーで均した地面にスチールマットを敷いただけの急造滑走路の上で戦闘機を押したり引いたりしていた作業員は、空飛ぶ残骸といった有様のYB-40がまっしぐらに向かってくるのを見て仰天した。
シ バイタロカ号のコクピットでは、肩の傷から大量に出血して人事不詳に陥ったロサス中尉に代わって副操縦士席についたカンレアク女王が、意識はあるものの両 手足を負傷したレスパヴログ機長の指示に従い、左エルロンと方向舵を失ったうえフラップが利かないYB-40を着陸させようとしていた。
時速二百五十マイルで滑走路に突っ込んだシバイタロカ号は、列線に並んだムスタングを大鎌で麦を刈り取るようになぎ倒しながら飛行場を縦断し、百オクタンガソリンを満載した給油車に激突する寸前で停まった。
機首のハッチを乱暴に蹴り開け、滑走路に飛び降りた血まみれのミレナ―本人はかすり傷ひとつ負ってはいないのだが―が叫んだ。
「イシャはどこだ!?!」
負傷者とカンレアク女王を乗せた救急車が走り去ったあと、シバイタロカ号には大勢の野次馬が群がった。
一人の兵士が胴体に突き刺さったドシュダムの破片をつまんで引っこ抜くと、YB-40は大きく身震いし、次の瞬間バラバラになって崩れ落ちた。
カレアント皇国女王ミレナ・カンレアク
人々から親しみを込めて「お騒がせ女王」と呼ばれるこの女傑については、歴史家の取材に対しとある側近がこう述べている。
「あの人は太陽だよ。遠くで見ているぶんにはこっちも元気をもらえるんだが、そばで世話するとなると火傷じゃ済まない」
そんなカンレアク女王は戦争中に様々な武勇伝を生み出しているが、今回はその中で1485年(1945年)1月のある日、レスタン領シェリキナ連峰上空で起きた事件をご紹介しよう。
その日、ミレナを乗せたカンレアク女王専用機「シバイタロカ号」は、眼下にシェリキナ連峰の山々を望む、ジャスオ・レスタン国境沿いを飛んでいた。
ク ワティバの海岸でマーケット作戦に参加する連合軍将兵を激励した-またも無理矢理飲まされ暴走したボルヴェルグ少将が居合わせたアメリカ軍高官を巻き込ん で色々ともの凄いことになったが、OSSまで投入して事件のもみ消しに動いた当局の努力によってことの詳細が明らかになることは永久にない-カンレアク女 王は、今度はガーデン作戦参加部隊の士気高揚を図るべく飛んできたのであった。
シバイタロカ号は、もともとは米軍がロッキード・ベガ社バーバンク工場で製造されたB-17F-10-VE42-5734号機を改造し、YB-40の名称で編隊援護機として試験運用していた機体である。
YB-40は爆弾を積まない銃撃専用機で、機首下面にリモコン式のチン・ターレット、爆弾倉直後の胴体上面-もとの通信士席-に動力砲塔が追加され、胴体側面銃座は油圧駆動式の二連装機銃に強化されている。
こ うして十四挺の機関銃を備えたYB-40にB-17の編隊の外縁を守らせ、襲ってくる敵に弾丸の雨を浴びせようという構想だったのだが、武装と装甲の追加 によって重くなったYB-40が編隊に混じるとかえってB-17の足を引っ張る結果になり、二十機作られたYB-40は数度の実戦テストのあと、全機第一 線から引き上げられてしまった。
そしてカレアント国内のデポで再度爆撃機に改修されるのを待っていたYB-40に「何これカッコイイ!」と目をつけ、いつもの“これ頂戴”病を発症させたのがカンレアク女王であった。
好奇心旺盛で特に軍事に強い関心を持つミレナは、新しいオモチャ-もとい兵器の試射や試乗のチャンスを逃さないよう政務の合間を縫って、国内外の軍事施設や演習場にじつに頻繁に足を運んでいたのである。
そんなカンレアク女王が空中戦艦とでも言うべきYB-40の威容を目にして、心奪われないなどということがあろうか?いやない。
かくしてYB-40・42-5734号機はめでたくカレアント皇国女王御用機として召し上げられ-無責任な噂ではYB-40を手に入れるため、アイゼンハワー相手に美人局まがいの手を使ったとか-今日は東に明日は西に、ミレナを乗せて飛び回ることになったのである。
190 :外パラサイト:2011/02/06(日) 07:45:33 ID:PYl3SWRU0
「あと20分、あと20分…お願いです、何事もなく過ぎ去ってください…」
シバイタロカ号のコクピット、二つ並んだ操縦席の右側で、副操縦士のロサス中尉は呪文のように唱え続けていた。
パイロットとしては優秀だがミレナの世話役としては常識人過ぎるため、シバイタロカ号の副操縦士になってからは神経をすり減らす日々が続いている。
その隣では、機長のレスパヴログ大尉―有能だが手を抜ける状況では容赦なく手を抜く性格から一部ではカンレアク女王の魂の双子と呼ばれている―が気持ちよさ気に高鼾をかいている。
こ の日シバイタロカ号に乗り組んでいたのはカンレアク女王以下、機長のレスパヴログ大尉、副操縦士のロサス中尉、航法士兼前方銃手のビダン少尉、機関士兼上 部一番銃手のブリトルニン曹長、無線士兼上部二番銃手のスキノッサ軍曹、下部銃手のカウリ伍長、右側面銃手のヘスビル軍曹、左側面銃手のサブラカ軍曹、後 部銃手のチェルミン伍長の合計十名、いずれも十八~二十六歳の、ピチピチでムチムチの綺麗どころである。
突然シバイタロカ号の上空で速度差を吸収するジグザグ飛行を続けていたエアラコブラが一斉に増槽を投棄した。
同時に機首で見張りについていたビダン少尉が機内通話で敵機発見を伝えてきた。
六機の護衛戦闘機-なんとなく不吉な響きではある-がまっしぐらに向かっていく先には、すっかりおなじみになった寸詰まりのシルエットを持つ飛行挺の一群がいる。
このときシバイタロカ号に襲い掛かったのは、ルシェヴリキ基地を発進した第八戦闘飛行団のドシュダム十二機だった。
この時期のレスタン領内は悪天候続きで、両軍とも大規模な空中戦力の運用は出来ない状況だったが、数少ない晴れ間を利用した少数機での奇襲攻撃はどちらも頻繁に行っていた。
ジャスオ領内の前線近くに作られた連合軍の急造飛行場は、ドシュダムの足で余裕を持って往復できるうえ飛行場の防備も薄い。
そこを急襲しての掃射攻撃を意図して進撃途上にあったドシュダム隊は、明らかにVIPが乗っていると思われる護衛付きの四発機を発見すると、ためらうことなく攻撃態勢に入った。
一方YB-40の機内では、流石にカレアント全軍から選りすぐられただけあって、乗組員は慌てず騒がず手分けして戦闘配置についていく。
「ふっふっふ、ワイバーンだろうが飛行挺だろうが有象無象の区別なく、私の弾丸は逃しはしない」
「陛下、訳分からないこと言ってないで席に戻ってください」
「や~だ~ここがいい~」
「お願いですから引っ込んでてくださいって!」
「HA☆NA☆SE!」
親衛隊員に羽交い絞めにされ、胴体側面銃座から引き剥がされるカンレアク女王。
抑え役のカラマンボ元帥が不在なのでいつにも増して聞き分けがない。
191 :外パラサイト:2011/02/06(日) 07:46:40 ID:PYl3SWRU0
シバイタロカ号の全乗員が見守るなか、シホールアンル軍飛行挺の蝿のような機影とアメリカ製戦闘機の鮫を思わせるシルエットの距離が急速に縮まっていく。
「やっつけろよ!」
ロサス中尉に叩き起こされたレスパヴログ大尉が叫んだ。
エアラコブラとドシュダムは互いに全砲火を浴びせながら正面からぶつかり合い、高速ですれ違うと同時に散開する。
ドシュダム隊は編隊を二つに分けた。
行く手を遮ろうとする六機のエアラコブラに挑戦するのは八機のドシュダム。
そして分離した四機がYB-40に向かう。
操縦席直後の一番砲塔を操作するブリトルニン曹長が最初に火蓋を切り、二番砲塔のスキノッサ軍曹が続いた。
ブローニング機関銃から放たれるオレンジ色の曳光弾と、魔導銃が吐き出す紫色の光弾が空中で交錯する。
YB-40から見て十時方向から接近してきたドシュダムは斜め上から袈裟斬りに射撃を浴びせ、四発機の腹の下を潜って四時方向に飛びぬける。
胴体下面に金玉袋のようにぶら下がった球形砲塔に潜り込んだカウリ伍長が目の前を飛び去る飛行挺に素早く砲塔を向けて五〇口径弾を浴びせる。
兎耳族ならではの鋭敏な聴覚によって視界に入る前から敵機の動きを捉えていたカウリの射撃は、最後尾のドシュダムを見事に捕らえた。
寸詰まりの機体から破片が飛び散り、シホールアンル軍の飛行挺はよろめきながら雲の下に消えていった。
一方シバイタロカ号の乗員も傷を負っていた。
上部第二砲塔が直撃弾を受けて破壊され、両目に破片を受けたスキノッサ軍曹が砲塔から転げ落ちる。
さらにヘスビル軍曹が両膝を撃ち砕かれてばったりと倒れた。
「おのれ、私の可愛い部下を!」
スキノッサとヘスビルの手当てをサブラカ軍曹に任せ、自ら二連装の五〇口径機関銃を握るミレナ。
三機に減ったドシュダムが絵に描いたような三角フォーメーションで突っ込んでくる。
YB-40は再び痛打を浴びた。
長い連続射撃を加えられたシバイタロカ号のアルミニウムの機体表面に穴が空き、操縦索が切断され、被弾した油圧系統から飛び散ったオイルが負傷者の血と混じりあった。
嵐のような攻撃のなかで「勇者は弾丸が避けて通る」という古いジンクスを証明するかのように、仁王立ちで撃ちまくるカンレアク女王。
一見メチャクチャに見えるその射撃は意外に的確かつ効果的で、シホールアンル軍の飛行挺一機に命中弾を与えていた。
魔導機関に弾丸を叩き込まれたドシュダムは、動力源の魔法石が崩壊する際に放出する大量の魔力に耐え切れず、七色の火の玉となって四散した。
192 :外パラサイト:2011/02/06(日) 07:47:31 ID:PYl3SWRU0
だがドシュダムの銃火も更なる犠牲を強いていた。
「やられた!」
インターコムにカウリ伍長の苦しげな声が流れる。
ミレナとサブラカが球形砲塔の中からわき腹に負傷したカウリを引っ張り出していると、後部から恐ろしい叫びがあがった。
後部区画に置かれていた酸素ボンベが銃撃を受けて爆発し、尾部銃手席が炎に包まれたのだ。
消火器を手にしたカンレアク女王がすっ飛んでいって火災を消し止め、全身に火傷を負ったチェルミン伍長を引きずってくる。
その間に怒りに燃える二機のドシュダムはシバイタロカ号の進路に回りこみ、体当たりも辞さない正面攻撃に打って出た。
YB-40の前方に向けて射撃できる全機銃が火を噴き、一機のドシュダムのキャノピーを五〇口径弾が粉砕した。
同時に四発機の風防が砕け散り、操縦席に血しぶきが舞う。
パイロットが即死した飛行挺は、シバイタロカ号を掠めて落下する際に左の主翼でYB-40の胴体にザックリと裂け目を入れ、サブラカの右腕の肘から下を切り飛ばした。
機首銃座のビダン少尉は腹を撃たれて重症。
上部砲塔のブリトルニンはドシュダムが激突した衝撃で脳震盪を起こしている。
遂にシバイタロカ号の乗員でまともに動けるのはカンレアク女王ただ一人になってしまった。
最後の一機となったドシュダムがYB-40に止めを刺そうとしたそのとき、三機のエアラコブラが飛来した。
護衛戦闘機隊がその数を半分に減らされながらも八機のシホールアンル軍機を駆逐して、絶対絶命の窮地に駆けつけたのだ。
二連装機銃を構えたミレナが見守るなか、最後のドシュダムは雲に飛び込んで遁走した。
ジャスオ・レスタン国境に近いラインドデートの町はずれに、アメリカ陸軍航空隊が使用する前線飛行場の一つがある。
ロードローラーで均した地面にスチールマットを敷いただけの急造滑走路の上で戦闘機を押したり引いたりしていた作業員は、空飛ぶ残骸といった有様のYB-40がまっしぐらに向かってくるのを見て仰天した。
シ バイタロカ号のコクピットでは、肩の傷から大量に出血して人事不詳に陥ったロサス中尉に代わって副操縦士席についたカンレアク女王が、意識はあるものの両 手足を負傷したレスパヴログ機長の指示に従い、左エルロンと方向舵を失ったうえフラップが利かないYB-40を着陸させようとしていた。
時速二百五十マイルで滑走路に突っ込んだシバイタロカ号は、列線に並んだムスタングを大鎌で麦を刈り取るようになぎ倒しながら飛行場を縦断し、百オクタンガソリンを満載した給油車に激突する寸前で停まった。
機首のハッチを乱暴に蹴り開け、滑走路に飛び降りた血まみれのミレナ―本人はかすり傷ひとつ負ってはいないのだが―が叫んだ。
「イシャはどこだ!?!」
負傷者とカンレアク女王を乗せた救急車が走り去ったあと、シバイタロカ号には大勢の野次馬が群がった。
一人の兵士が胴体に突き刺さったドシュダムの破片をつまんで引っこ抜くと、YB-40は大きく身震いし、次の瞬間バラバラになって崩れ落ちた。