自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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芝尾たちは気の重いまま出迎えに向かったが、その気分は男を見た途端に
吹き飛んでしまった。

きらびやかというか、妙に光る服に身を包んだ男は、敵意や悪意と言った物を
欠片も発散してはいなかったのだ。後ろの民衆は戸惑いを感じているよう
だったが、特に危険な気配は無かった。

芝尾らが艦から降り立つと、周囲の空気は明らかにざわついた。見慣れない
物から見慣れない人間が降りてきたのだから、それも仕方がないのだろうが。

男は馬をゆっくりと繰り、かぱりかぱりという足音と共に、屈強な従者を
数人引き連れて進んできた。双方の距離が2m程まで縮まったあたりで、男は
従者達に抱え上げられ、地面へと下ろされた。

ゆったりした服や長襟のせいで分かりづらかったが、近くで見ると男はとても
太っていた。恰幅が良いとも言えるのだろうが、かなり動き辛そうだった。
男は自衛官達に向き直ると、挨拶のことばを述べた。

「初めまして、私の名はムグニーと言います。どうもお恥ずかしいところを
お見せしました。なにせこのような体なもので、お許し願いたい。と言っています」

山村が挨拶の言葉を翻訳すると、芝尾はすぐに返答した。
「初めましてムグニーさん。私は日本から来た芝尾と申します」

そういって芝尾は頭を下げたが、彼は反応を示さなかった。
慌てて山村が言葉を伝えると、すぐに彼は笑顔で頷いた。

この時後ろにいた望田は、誰もが日本語を分かるわけではないのだな、と思っていた。
昨日は唐突に日本語同士の会話が成立したが、今日はそうも行かないらしい。
しかしなぜ、この地域に日本語が伝わっていたのだろう?やはり気になる。

望田がそんなことを考えているうちに、前の方では話が進みはじめていた。
「なるほど、あなたは商人なのですか。確かにご立派な格好ですねえ。
しかし、商人の方が一体なんのご用でこちらに?」

芝尾が疑問に思ったのは、なぜ来たのが政府関係者ではないのかと言うことだった。
昨日は特に問題なく寄港も荷揚げも出来たが、一日経てば誰かが騒ぎ出すだろうと覚悟を
決めていた所もあった。『基本方針』もそれに対応する為の行動として計画されていた。

だから芝尾の質問意図もそこにあったのだが、彼はそれに気付かなかった。
「一体何のご用で?商人が港に来るとなれば話は一つ。商談に決まっているでしょう」

その言葉が山村の口から伝えられたとき、芝尾は混乱した。この状況は一体何なんだ?
自分の想定したものとは、違うどころか180度逆を向いている。

取り敢えず余計な思考を押しとどめ、芝尾はまた質問した。
「商売?あなたたちは、我々を警戒してはいないのですか」

今度の質問は、はっきりとした物だった。一番恐ろしく、一番ありうる態度を
何故とらないのか、その事は疑問であって当然だった。

昨晩は貴族シャーリーフの屋敷に赴いたが、その時は服装と持ち込んだ贈答品以外に、
問題になりうる物は見せていない。しかし今は、他の船より遙かに巨大な鋼鉄の艦が
背後にあるのだ。状況が違いすぎると言って良い。
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しかしそれでも、彼はにこやかな態度を変えなかった。
「あなた方を警戒する理由など、どこにありましょう。あなた方が悪人でない事は、
今朝までに分かっていることです。だから私は、ここに来ました」

芝尾の頭からは、まだ疑問符が消えていなかった。
「それはどういう事でしょう?」
「本当の悪党ならば、なぜ停泊許可を得たり倉庫を借りたりするのです?それ以前に
港の奥に何もせずに来るなど、普通はしません」
「なるほど。そういう事でしたか」

芝尾にもようやく話が飲み込めた。要するに彼は、艦隊の行動が悪党にしては間抜け
すぎると言っているのだった。

港の奥に、しかも許可を求めて停泊すれば、問題を起こしたらすぐに取り囲まれるか
港を封鎖される。つまり退路が無くなる。密輸品を運び込む船にしても、昼日中から
貸倉庫に大量の荷を運び込むなどおかしな事だった。

こう考えれば、艦隊がすぐに危険をもたらさない事は明らかであった。そして危険で
無いと分かった場合、艦隊は敵どころか宝の山に早変わりする。

見知らぬ外国から来た巨大な船、そこには貴重な積み荷や宝、珍しい品物が積み込まれて
いる可能性が高かった。もし仮に奴隷船だとしても、相当な大きさだ。取引すれば
ちょっとした金になるほどの数が居ることは間違いなかった。

だからこそムグニーは、この船の主に挨拶しに来たのだった。すぐに取引が成立しなくても
問題はない。船主が買い手を探しはじめた時に、顔を覚えていてくれればそれでいい、と。

この事を理解した芝尾は、思わず笑い出したくなった。何のことはない、理由は違えども
彼のやっていることは、自分と大して変わらないのだ。

取り敢えず芝尾は微笑を返しつつ、彼に返事をした。
「すぐに商談を行うことは出来ませんが、お話を伺うことは出来ます。こちらの状況や
希望も色々とありますし、まずはそこからでよろしいですか?」

単なる挨拶でも良しと考えていたムグニーは、意外に色よい返事に喜んだ。
一応の話し合いが出来るとあらば、これに乗らない訳には行かなかった。

「ではここで立ち話も何ですので、我々の船の上に来ませんか?嵐のせいで船内は
少し散らかっていますが、甲板に席を用意するくらいは出来ます」

芝尾が艦を選んだのは、自分の土俵に相手を上げるという基本的発想だった。
甲板にしか上げないのはもちろんパニックを予想した上での判断だが、同時に
未だに艦内から吐瀉物の臭いが取り切れていない為でもあった。

この芝尾の提案に彼はうなずき、この騒ぎも一応の集結を見た。そしてこの事が、派遣部隊に
足場を与えるきっかけともなった。とりあえず危険がないと分かったため、他にも艦隊を訪れる
商人や貴族が現れ出したのである。

艦隊が宝の山であるとは先に述べたが、それに気付いたのが一人でないのもまた当然だった。
だから交渉可能と分かった時点で、商人達は我先にと交渉を求めてやって来たのだった。

それと同時に基本方針の挨拶回りも続行され、貴族等に様々な珍品奇品が送られるように
なると、派遣部隊の噂は広まっていった。東から来た奇妙な人々は、凄いものや変な物を
持っていると知れ渡るにつれ、貴族達は彼らに興味を持つようになっていった。

ただの珍品好きも居れば、物を送られること自体をステイタスと見なす者や、彼らの力を
自分の利益に繋げようと考える者まで、興味の持ち方は多様だったが。

とにかくこうした状況により、自衛隊は概ね好意的に街に迎え入れられた。小さかった
希望も、多少は大きくなり始めていたのだった。

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