自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

04 第4話:初出動

最終更新:

tapper

- view
だれでも歓迎! 編集
 2004年4月21日11時42分 福岡県遠賀郡芦屋町 芦屋海浜公園
  折尾警察署から派遣された少年課長、湯田は途方に暮れていた。若者たちは浜辺の一角にバリケードを築いて立ち退こうとしない。若年者が混じっているという だけで派遣された彼だ。すでに機動隊も待機しているが、サーファーどもの親が駆けつけてきている手前なかなか強制排除命令を出せないでいた。
 それよりもなによりも奇妙だったのが、説得に向かった交番巡査や町役場の職員までもがサーファーと一緒になって、中心の女性を拝んだりバリケードの設営を始めた点だ。強力な麻薬でも使って洗脳でもしたのだろうか。そうなると下手に近寄ることもできない。
「あー、ここは公共の海浜公園です!不法な占拠はできません。すぐに解散しなさい!」
  お茶を濁すようにパトカーのマイクで呼びかけるが効果はない。ここ数日毎日のように繰り返しているのだ。湯田は焦っていた。日に日に野次馬やマスコミが増 えている。現場が海浜公園内で車が入れるもっとも奥まった場所ということもあり、駐車場はパトカーとマスコミ、野次馬の車でいっぱいだった。
「おい、自衛隊が来たぞ!」
 マスコミが騒ぎ始めたので湯田も気がついた。2台の高機動車が人垣をかき分けながら湯田のところまで来て止まった。そこから降りてきた面々を見て湯田は言葉を失った。
「なんなんだぁ・・・?」
  迷彩服姿の自衛官は3名。しかも89式小銃に実弾が装填されている。それに続いて降りてきたのは、ガイジンだった。西洋甲冑に黒マント、サーベルを持った 若い男。自衛隊の制服を着ているがあざやかな金髪の女性。それに続いてデジカメを持った民間人らしい女までいる。自衛官の1人、重岡が湯田に敬礼して言葉 を発した。
「で、状況はいかがですか?」
「状況も何も!なんで自衛隊が出て来るんだ!これは警察の仕事だぞ!」
 抗議する湯田に重岡は1枚の書類を見せた。それを見て少年課長はわなわなと顔をふるわせた。
「あ、浅川知事の許可済みだってぇ!だが、だいたいなんだ?その・・・ドボレクとか言う輩は何者なんだ?今、あそこを占拠しているのはサーファーと外国人女性だぞ!」
 重岡はより詳しい説明を求めて、制服を着込んだガイジン女性、ドローテアに振り返った。
「あの女はドボレクが召還したナパイアスという魔獣だ。あの若者たち、早く助けぬとヤツに生命力を吸い取られて死んでしまうぞ。もっとも当の本人たちはナパイアスの幻術で喜んでヤツに協力しているので、苦しみも何もないだろうがな・・・」
 県警本部から来た通達を見ていた湯田は彼女がガシリア王国の高官であることは知っていた。であればこそ、彼女の目の前で警察の職務を自衛隊に奪われるのは気に入らなかった。福岡県警ここにあり、ということを外国の生意気な小娘に見せてやろうと思ったのだ。
「事情はよくわかりましたが、国内の治安維持は警察の職務です。若者たちを救い出し、ヤツを逮捕するのは我々に任せていただきたい!」
 魔法か幻術か知らないが、ガスマスクをかぶせた機動隊を突入させればいっぺんで解決するはずだ。湯田はハンドマイクを手に取るとマスコミとサーファーの親たちに説明を始めた。
「残念ですが、これより強制排除に乗り出します。この数日の膠着状態で、彼らの衰弱も懸念されます。どうか、関係者のみなさま。対応は安全を最優先で行いますので、ご了承ください。」
 マスコミと群衆のざわめきを背に湯田は機動隊に、無線で指示を出した。
「抵抗が激しい場合は催涙弾の使用も許可する!自衛隊に出る幕じゃないことを教えてやれ!」
 機動隊はガスマスクをかぶって整列した。重岡は事態はそんなレヴェルじゃないと湯田に抗議しようとしたが、ドローテアに止められた。
「まあ、放っておけ。今にわかる・・・・」
 彼女の言葉が終わらないうちに機動隊はジェラルミンの盾を手に前進を開始した。

 2004年4月21日12時04分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地
  丸山と田島はテレビの中継を食い入るように見つめていた。芦屋海浜公園で機動隊が浜を不法占拠する若者の強制排除に乗り出したというのだ。まったく最近の 若者はよくわからん。九州は変な世界にワープして大変だというのに、のんきにサーフィンに新興宗教か・・・。そう思って丸山が出前の天ざるそばを口に運ぼ うとしたときだった。
「目下、先ほど到着した自衛隊に動きはない模様です」
 テレビの実況を聞いてそばつゆを吹き出した。画面には見覚えのある面々が映っている。むろん、それは好意的に記憶に残っている連中ではない。
「なんだと!なんであいつらがいるんだ?」
「はあ、午前中に実弾と車両の要請がありましたが・・・・。まさかあそこにいるとは・・・」
 いくら知事の裁可はあるとは言え、実弾を装備した自衛隊が国内をおおっぴらにうろうろするのは、下手をすれば大問題に発展する。丸山の考えていた、「身内での大失態」とは比べ者にならない事態だ。
「田島君!君はあいつらの目的を聞いていなかったのか?」
「いえ!訓練と聞いていたのでてっきり、芦屋の空自かと思いまして・・・」
 汗を拭きながらしどろもどろする田島に丸山がさらに追い打ちをかける。
「で、空自に確認はしたのか?」
「い、いえ・・・」
 その時、田島の携帯が鳴った。他でもない、重岡からであった。
「もしもし!」
 この事態に対する説明を重岡に求めようとして、威厳のある声で電話に出た田島だったが、電話の向こうから聞こえてきたのは偉大なる大神官の声だった。
「田島殿!テレビとやらは見ておるか?」
「は、はい!」
 高圧的なドローテアの言葉に思わず田島は立ち上がりながら答えた。電話の主を知らない丸山はぽかんとしている。
「警察は作戦を失敗するだろう。我々の出番になる。重岡殿がえらく心配しているのだが、我々が行動をおこすのは何かまずいのか?」
  田島はこの質問に固まった。たしかに、丸山、田島、岩村の三者会談の後、浅川の裁可で彼らに与えられた権限には、国内での治安出動レヴェルの行動権は与え られている。だが、田島に言わせればそれは建前の問題であって、現実の問題ではない。しかも、その行動がテレビで生中継される中で行われるなんて前代未聞 のことだった。彼では当然答えることもできない。
「れ、連隊長と変わります」
 いぶかしがる丸山に田島がいきさつを告げると、連隊長も固まった。
「丸山殿、再度確認するが、我々は県知事の裁可通りに動いていいんだな?今回の騒ぎは間違いなく、ドボレクの召還した魔獣のしわざだ。警察の作戦が失敗したら、我々は行動を起こす。よろしいな?」
 もはや、有無を言わせないと言う口調でドローテアが丸山に迫った。
「は、はい・・・・」
 返す言葉を失い、丸山はそう答えるほかなかった。
「わかった。ご配慮感謝する。一応、この会話は記録しておくのであしからず」
 それを聞くとドローテアはさっさと電話を切った。しばらくの間、2人は黙り込んだ。
「あの小娘・・・、思った以上にやってくれるわ・・・」
 丸山が思わず吐き捨てるように言った。
「あの小娘、県知事の認可だけでは信用できなかったのか、我々の言質まで取りおった。これで今回に関しては我々は奴らと一蓮托生になってしまった・・・・」
 おそらく、そんなあくどい方法を考えつくのは村山しかない。やはり、なまじ組織を知っていて探偵なんかやっている人物を臨時雇いとは言え迎え入れるべきでなかったのかもしれない。今更ながら丸山は後悔した。

 2004年4月21日12時11分 福岡県遠賀郡芦屋町 芦屋海浜公園
  重岡から借りた携帯電話を彼に返しながらドローテアは村山を見やった。彼の予想通りだった。あのまま、現場の判断で独立偵察隊を動かしていれば、重岡に責 任が回り彼は免職、彼女は本国に帰る羽目になっていただろう。だが、丸山と田島の言質を押さえた今、その可能性はゼロに近くなった。
「まったく、村山殿は悪知恵が働く・・・・」
 苦笑しながらドローテアが村山に言った。出動の許可をもらおうとした尾上に、「訓練ということにしろ」と耳打ちしたのも村山だった。彼はさっきの会話を録音させた美雪を振り返った。彼女はMDレコーダーをチェックして親指をあげた。
「センセー、ばっちり!あのおっさんたちの会話が全部入ってる!いざとなったら、その辺にいるあたしの先輩にこれを聞かせたらオッケーってわけね!」
 彼女の大学時代の先輩はマスコミ関係に多く就職している。今日もこの取材で大勢来ているはずだ。その先輩方と彼女がどういう交友であるかまでは彼の知る範囲ではない。
「さて、これで行動の自由は確保できた。どうする?」
 村山の言葉にドローテアは機動隊が前進している少し先を示した。今彼らがいる駐車場から砂浜に入る境界線あたりだ。
「あの先はナパイアスの結界だ。あれ以上進むとヤツの幻術にはまってしまう。その手前でヤツに打撃を与える。ヤツは実体がないが物理攻撃はある程度の時間、効果がある。ヤツがその攻撃で受けたダメージを修復する間に、私がヤツを封印する。」
 その言葉を聞いて重岡が尾上を呼んだ。
「尾上、あの女を撃て。決して民間人は傷つけるな。おまえがヤツに弾丸を命中させたら、ドローテア様がヤツを封印する。できるだろ?」
 尾上は重岡でなく、ドローテアに向かって敬礼して元気よく答えた。
「はっ!お任せください!自分はA級射手です!必ずやドローテア様の期待に応えてみせます!」
 いろんな意味で興奮して鼻息の荒い尾上を見てドローテアは半分ひきつった笑顔を向けた。
「うむ・・・、まあ、任せたぞ。」
「あっ!ごらんください!」
 その時、バルクマンが声をあげた。一同は浜辺の方を見た。さっきまで元気よく進んでいた機動隊が突然前進を止めたのだ。湯田がうろたえながらハンドマイクで彼らに叫ぶ。
「どうした!なにかあったのか?」
 その言葉に反応するように機動隊の一団は一斉に回れ右をした。まるでナパイアスを守るかのような布陣だった。見事にナパイアスの幻術にはまってしまったようだ。
「やはり・・・な」
 バルクマンがひとりごちた。その言葉が、第一独立偵察小隊の活動開始の合図だった。
「いくぞ!」
「お、おい!待て!ここは対策を協議してから動くんだ!」
 湯田が止める間もなく、彼らは活動を開始した。

 2004年4月21日12時24分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地
 「あ、今自衛隊が動き始めました。機動隊が謎の停止をした地点にかなり接近しています。いったい何が始まるのでしょう?」
 テレビの実況を丸山と田島は固唾をのんで見守った。もはや、天ざるどころではない。この作戦の成否に自分たちの首がかかっているのだ。もっとも、この結果は彼らの仕掛けた罠を逆手に取られた自業自得なのだが。当の彼らはそれどころではなかった。
「頼むぞ・・・」
「まさか、奴らを応援することになるとは・・・」
「そもそも君が彼らの行き先を確認しなかったのが・・・・」
「お言葉ですが!連隊長が話も聞かずに決済するから・・・・」
 2人が言い合いを始めようとしたが、それはテレビの実況で中断された。
「どうやら、散開して様子を見るようです」

 2004年4月21日12時15分 福岡県遠賀郡芦屋町 芦屋海浜公園
 ナパイアスの結界にぎりぎりまで接近したところで、ドローテア、村山、尾上は茂みに隠れた。尾上は89式の二脚を据えてスコープを取り付けた。美雪は車に残した。丸腰の彼女には危険すぎると思えたからだ。
「準備できました・・・」
  めがねの奥で尾上が自信に満ちた目で、親愛なる大神官に報告した。重岡とバルクマンは万が一、村山やドローテアが遠隔攻撃を受けた場合の援護として少し離 れた地点に待機している。ドローテアは無言で頷くとなにやら長々と呪文を唱え始めた。そして懐から小さな壺を取り出した。一通り唱えると彼女は再び無言で 頷いた。合図だった。
「よく狙えよ・・・、尾上」
 村山は静かに言った。深呼吸して尾上がスコープをのぞき込んだ。2人は尾上の発砲を待った。5秒、10秒・・・・。いつまで待っても彼は撃たない。何か問題が発生したのか・・・
「どうした?尾上・・・」
 村山の問いかけにも尾上は答えない。ドローテアも心配そうに尾上を見つめている。再度、村山が尾上に声をかけた。
「尾上・・・・、どうした?」
「自分には・・・撃てません・・・」
 スコープを凝視し、引き金に手をかけたまま尾上はようやく言った。
「尾上、撃つんだ。撃たなきゃ、みんな死ぬんだぞ」
 初めて人を撃つ緊張なのだろう。尾上の肩は震えている。それに気がついたドローテアは口を開いた。それはさっき彼女が唱えた呪文が無効になったことを意味する。
「尾上二曹。ヤツは女性の形をしているが性別はない。人間でもないのだ。そなたが撃たないと私もヤツを封印できない!頼む」
 敬愛するという以上に彼が傾倒しているドローテアの言葉だ。尾上も言うことを聞くだろうと思った村山の思惑は見事にはずれることになった。
「自分には・・・撃てません」
  命令に忠実であろうとしているのはわかった。事実彼はスコープから目をそらすことも銃の構えを解くこともなかった。ただ、ほんの少し指先を動かすことがで きないのだ。それを見たドローテアはため息をつくと村山を見た。3人並んでうつぶせになっている状態で彼女の顔が村山のすぐ近くにあった。
「村山殿・・・、付き合ってもらうぞ」
 そう言うと彼女はすっくと茂みから立ち上がった。そして村山の手を取ると、一足飛びにナパイアスの結界に自ら飛び込んだ。
「お、おい!ちょっと待てぇぇぇぇぇ!」
 突然のことに大慌ての村山の絶叫があたりにこだました。

「ど、ドローテア様!」
 別の地点で待機していたバルクマンがその声に気がつき、驚いて彼女に続こうとしたが、どうにか重岡がそれを押さえ込んだ。
「尾上二曹!これでどうだ?私も村山殿もまもなく、ナパイアスの幻術に支配され、生命を吸い尽くされて死ぬ!私に命の限り尽くすと言ってくれたそなたの言葉は嘘か?」
 ドローテアの身を挺した言葉に尾上は絶句した。
「尾上!てめえ!撃つんだ!撃て!撃てよ!」
 村山はドローテアの言葉を聞いて半泣きになって叫んだ。逃れようにも身体が動かないのだ。少しずつ、ナパイアスの幻術に自分がかかっていくのがわかった。
「尾上二曹・・・・、撃てるのか?」
  幻術に支配されかけながらドローテアが再度、尾上に問いかけた。尾上は頬に流れる汗を拭った。そしてほんの1.2秒考え込んだが、次の瞬間迷うことなく引 き金を引いた。弾丸は見事ナパイアスの額に命中した。美しい魔獣からは血が出ることはない。着弾の衝撃で頭をのぞけらせただけだった。
「ドローテア、早く封印の呪文を!」
  着弾の瞬間、体が自由になった村山がドローテアを結界の外に連れ出しながら叫んだ。言うまでもなく、彼女は長い長い呪文を唱え始めていた。ナパイアスは命 中した額を修復しながらこの騒ぎに気がつき、支配したサーファーを操っていた。ゾンビのようにうつろな目をしたサーファーたちが2人に少しづつ近寄ってき た。
「ちくしょう!」
 大声で叫んで尾上はもう1度発砲した。弾丸が命中してナパイアスの美しい顔に弾痕ができる。即座にそれは修復を始めるが、その間サーファーたちの歩みは止まった。どうやら、修復が彼らを操ることよりも優先されるようだ。
「くそっ!」
 もう1度叫びながら尾上が発砲した。再び、ドローテアと村山に向かっていたサーファーたちの歩みが止まった。それとほぼ同じくして、ドローテアの呪文の朗詠も終わった。彼女は手のひらに収まりそうな先ほどの壺の蓋を開けると、呪文の最後の一文を叫んだ。
「我に力を与えたまえ!」
 その瞬間、周囲にちらばったナパイアスの結界は吹き飛んだ。何かがガラスのようにはじけたように見えた。操られていたサーファーや警官、役所の面々はその場に倒れた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
 風のような叫び声をあげて美しい女性の外見をしたナパイアスは、その顔をムンクの絵画のように醜く伸ばすと、すぽっ、と言う感じでドローテアの持つ壺に吸い込まれてしまった。それを見届けて、彼女は蓋を閉じた。それで終わりだった。大きくドローテアが深呼吸した。

「終わったのか?」
 別の地点で待機していた重岡が横のバルクマンに声をかけた。マントについた砂を払いながら騎士は答える。
「成功です。ドローテア様の持っている封印の壺にヤツは収められました。おしまいです」
 大昔に流行した「はく○ょん大魔王」の入っていた壺のたぐいということが重岡にも想像できた。重岡がほっとしたのもつかの間。ドローテアの怒りに満ちた声が彼の耳に届いた。
「尾上二曹!どうして撃たなかったんだ?」
 村山にまあまあとたしなめられながらもドローテアは怒りが収まらないようだった。無理もない。下手をすれば作戦全体が失敗する可能性も秘めていたのだ。
「まあまあ、俺たちは戦争をしたことがない。ヤツだって、木の目標以外は撃ったことなかったんだぞ。それを考えたら、この状況で、あの距離から全弾命中させただけでもたいしたもんじゃないか!」
「う、むう・・・・」
 確かに、尾上のいた位置からナパイアスのいた岩場まで150メートル以上離れている。村山の言葉を聞いて、彼とナパイアスのいた岩場を交互に見て彼女は少し考えていたが、ため息をつくと笑顔を浮かべて尾上の肩を叩いた。
「まあよい。とにかく、よくやってくれた」
 大神官様に許してもらえるどころか、お褒めの言葉までいただいた尾上はさっきまでの暗い顔から一転、安堵の表情を浮かべた。それを見て重岡もバルクマンもほっとした。
「さあ、帰るぞ」
 重岡の号令で、美雪が待つ高機動車に歩き始めた時、安心しきった尾上が言った。
「本当にすいませんでした。なにしろあの魔獣、「サ○ラ大戦」のグ○シーヌ様そっくりだったもんで、普通の顔なら撃てたんですけど・・・。グ○シーヌ様だけは撃てませんからねぇ・・・」
 その言葉を聞いて一同の歩みがぴたっと止まった。グ○シーヌとは、言わずと知れた某ゲームの金髪キャラだ。まさか、それで撃てなかったとは思いもしなかった。その意味を知っている重岡、村山は笑顔をひくひくさせている。
「じゃあ、つまり・・・・、なんだ・・・・。たとえば、あいつの顔が美雪だったら?」
 こめかみをピクピクさせながら問いかける村山に尾上はあっけらかんと言い放った。
「もちろん、撃ってますよ!自分でも驚きです。まさかあいつがグ○シーヌ様そっくりだなんて・・・・」
 ご丁寧にゲームキャラを「様付け」で呼ぶ尾上の言葉に、村山の中で何かが切れる音がした。
「てめえ!このヲタク野郎!ゲームキャラと俺の命とどっちが大事なんだよぉ!」
「ひいい!すいません!すいません!」
  重岡とバルクマンにどうにか引っ張られて村山は高機動車に放り込まれた。そうでもしないと尾上を絞め殺す可能性大だった。美雪といっしょに後部座席に座ら せて缶ビールを与えるとどうにか落ち着いたようだ。尾上は、怒り狂った村山に怯えてチワワのように別の高機動車の中に座り込んでいる。

 2004年4月21日13時42分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地
 テレビを食い入るように見つめていた丸山と田島は、実況が事件の解決、民間人の全員無事を伝えるのを聞いて安堵のため息をついた。どうにか、やってくれたようだった。
「いやはや、寿命が縮まりましたな・・・・」
 田島がハンカチで汗を拭いながら言った。丸山も震える手でタバコに火をつけている。
「ここで情報が入ってきました。自衛隊員が3発発砲し、宗教指導者と思われる女性を射殺したとのことです!」
「え?」
 丸山がつけたばかりのタバコを落とした。田島も一瞬のことで頭がフリーズしてしまった。

 2004年4月21日13時43分 福岡県遠賀郡芦屋町 芦屋海浜公園
 猛牛のように興奮した村山は美雪に任せて自衛官たちは撤収準備にかかった。そこへ県警の封鎖をくぐり抜けたテレビカメラが乱入してきた。
「女性を1名射殺したとは本当ですか?」
 レポーターにマイクを向けられた重岡は一瞬答えに窮して、周囲を見た。しかし、ここでは彼が最上位の階級だった。改めてそれを認識した重岡は深呼吸して質問に答え始めた。
「は、はあ・・・。確かに、隊員は3発発砲はしました・・・・」
「発砲したと言うことは、その女性に向けてですか?」
「その外国人女性は、若者や町役場の職員に危害を加えていたのですか?」
「い、いえ・・・。物理的な危害を加えるということは・・・」
 矢継ぎ早の質問に重岡の思考回路はショート寸前だった。まずい、ここで失言しては完全にアウトだ。彼は胃のあたりにずきずきと痛みを感じながら、次に発すべき言葉を考えていた。

 2004年4月21日13時43分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地
 「重岡ぁ・・・、よけいなことを言うんじゃないぞ・・・」
  丸山は祈るようにテレビを見ていた。今回の件に関しては、丸山田島も重岡と運命共同体だ。もしも、重岡がへまをやらかした場合、彼を免職処分にしても、村 山とあの秘書が先ほどの電話をきっと記録している。それをマスコミに流すに違いない。そうなれば、彼らとて無傷ではすまない。
 だが、彼らの願いもむなしく、レポーターの追求はますます激しくなっていく。
「ええい!警察は何をしておるんだ!」
「生中継です。ここで放送を中断させれば「権力の横暴だ」と警察に矛先が向きますからな・・・・」
 田島がもしも反対の立場だったら、決してレポーターを排除できないだろう。
「では、具体的に危害を加えない外国人女性を、自衛隊が警察の職務を引き継いで、射殺したのですか?」
「ああ、いや・・・。それについては・・・」
「この件は、暫定政府の浅川知事もご存じなのですか?」
 レポーターの質問はますます鋭くなっていく。それに比例して重岡の顔色が悪くなっていくのが、丸山にも田島にもわかった。
「自 衛隊は警察の職務である国内の治安維持活動を勝手に引き継いで、あまつさえ、国内で実弾を発砲したんですか?そうだとしたら、明確に法律違反、憲法違反で すよ!自衛隊がシビリアンコントロールからどのような形であれ、離れることは許されていないはずです。どうなんですか?」
 レポーターの言葉は明らかに敵意に満ちている。その時、顔面蒼白な重岡を押しのけて画面にでかでかと、金髪の美女が映った。それが誰であるかは2人は確認しないでもわかった。
「私がお答えしよう・・・」
 突然の選手交代にレポーターもいささか驚いているようだ。
「あ、その・・・あなたは自衛隊の関係者ですか?」
「いや、私は日本と友好国である、ガシリア王国大神官ドローテア・ミランスだ」
 大神官様の登場に丸山も田島も衝撃を通り越して、完全に呆然としている。
「やばい・・・・やばいぞ・・・」
 呆然とする丸山の携帯電話が鳴った。びくっとして彼は携帯の画面を見た。わなわなと顔をふるわせ、連隊長は田島を見た。
「浅川先生からだ・・・・・」

 2004年4月21日13時48分 福岡県遠賀郡芦屋町 芦屋海浜公園
 ドローテアはレポーターに向き直った。
「私 は王の命令で、この国に逃れたアジェンダ帝国魔道大臣ドボレクを追って来た。この国の政府と協力して対処するように命じられた。だが、船団はアジェンダの 奇襲に遭い、壊滅。どうにか助かったが救援が来ない。そこで、ここにいる村山殿と、まあ、契約して同行してもらうことになった。その直後、自衛隊に保護さ れ、浅川知事と会見した結果、自衛隊に独自の部隊を新設してドボレクが、この国で仕掛けるであろう攻撃に対処することになった。このことは、知事も自衛隊 の幹部も了解している。」
 包み隠さず、生中継でぶっちゃけたドローテアに重岡はもはやなすすべがなかった。妻子の顔が脳裏をよぎった。これでも うおしまいだ。自分は懲戒免職。愛想を尽かしかけている家族は彼の前から逃げてしまうだろう。車の中の村山と美雪も彼女のぶっちゃけっぷりに目をむいてい た。
「センセー、あの女。こっちが苦労して考えたカードを全部切っちゃってるよ!」
 さすがの村山もドローテアのぶっちゃけには正直たまげる以外になかったが、少し考えて大声を出して笑った。
「ははは!こりゃおもしれえ!」
「何がおもしろいのよ、センセー!このままじゃ、あたしたちせっかく自衛隊に雇ってもらったのにお払い箱になっちゃうじゃない!」
 村山は膨れる美雪を抱きしめようとしたが、すっと逃げられて舌打ちした。バルクマンと出会って以来どうも冷たい。やっぱり惚れちゃったんだろうか・・・。
「と、 とにかく、ここまでぶっちゃけられたら、浅川知事も丸山連隊長もどうしようもなくなるさ。俺たちをクビにすれば、彼らにいろいろと秘密にしておきたいこ と、つまり、重岡に責任を押しつけてあとは知らん顔しようって魂胆があったって証明するようなもんだ!こいつはおもしれえ!」
 村山は大笑いしながら、大神官が手練れのレポーターに返す言葉に注目した。
「で、魔法とさっきから言われていますが、証明はできるんですか?」
 ドローテアの話を聞いていたレポーターの質問に彼女はいたづらっぽい笑みを浮かべると、カメラマンに少し先にある松の木を映すように言った。そして、駐屯地で実験した呪文を唱えて見事松の木を吹き飛ばした。マスコミや群衆からだけでなく、県警からも驚きの声があがった。
「し、しかし、我が国はアジェンダ帝国には宣戦布告はしていません。ドボレク大臣がこの九州でそのような暴挙を起こすことは許されません・・・。」
 魔法を実際に見せられ、ドボレクの狙いを語られてもなおもレポーターは食い下がった。忠実な騎士であるバルクマンを従えたドローテアはカメラに向かって、いや、全九州の市民に向かって宣言した。
「こ の国の憲法とか法律は私も勉強した。だが、戦争は紙の上の話ではない。事実、今日ドボレクの召還したナパイアスに多くの人々の命が危険にさらされた。ドボ レクがこのような行為を続ける限り、私は私の部隊とこの国を守るために戦う。この国は、我がガシリアがもっとも苦しいときに、武器を作り送ってくれた。全 ガシリア国民はこのことを知っている。私は、この恩に報いるため、この国の民を守るために戦う」
 静かに、語りかけるようにドローテアはしゃべり続けた。レポーターも混ぜっ返しや茶々入れできないほどの威厳と高貴さにあふれていた。
「それがこの国の決まりを犯すことがあるならば、その批判は自衛隊が受けるのではない。私が受けるべきだ。よって、文句があるならば、このドローテア・ミランスに直接言うがいい!」
 前半はともかく、後半はほとんど喧嘩を売っているとしか思えないドローテアの言葉に重岡はその場に座り込んで頭を抱えた。
「言っちゃったよ・・・この人・・・・」
 同じ自衛官でありながら、強烈な「ドローテア様萌え」の尾上は正反対に感動して涙を流している。今までに見せたことのない敬意のこもった敬礼を捧げている。
「この命、ドローテア様に捧げます・・・ハァハァ」

 2004年4月21日13時56分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地
 浅川から状況説明を求められていた丸山は電話の向こうで、知事が高らかに笑うのを聞いてきょとんとした。彼もきっとテレビを見ているのだ。
「ははは!さすがは大神官だ!みごとに言いおった!」
「は、はあ・・・」
  浅川の笑いがいまいち理解できない丸山は曖昧な返事しか返すことができなかった。田島はテレビで堂々と宣言したドローテアをぽかんとした顔で見つめてい る。今まで、自分たちが払った努力とストレスはなんだったんだ。それと同時にほっとした部分も彼にはあった。彼女の「自衛隊を責めるな」という言葉だっ た。さすがは大神官様だ。祖国と、それを助けてくれた者のためには個人の名誉も投げ捨てる覚悟を感じたのだ。きっと浅川もそれを感じて、感心の笑いをあげ ているのだろう。
「まあ、そう言うことだ。丸山君、引き続き任せたぞ!」
 そう言って浅川は電話を切った。丸山にはわかっていた。浅川はドローテアの味方になってしまったのだ。選挙を控えてここまであっぱれな物言いをする、同盟国の高官を彼が放置するはずもない。このままでは、丸山、田島、岩村の乗った船は泥舟になってしまう。
「田島君、ここは・・・折れるしかないのか」
「仕方ありませんな」
 この期に及んでもまだ自己の保身を優先して考える丸山にいささか呆れながら田島は肩をすくめた。

 2004年4月21日20時26分 北九州市小倉南区北方 焼鳥「大ちゃん」
 大学の新歓コンパも一息ついた店内はかなり落ち着いていた。村山はのれんをくぐるとまっすぐにカウンターに向かった。すぐに威勢のいい声が店内に響く。
「いらっしゃい!お客さん、自衛隊の人?」
 おしぼりを持ってきたバイトの女子大生が聞いてくる。村山は上着を脱いでイスにかけながら彼女に答えた。
「まあね、とりあえず生2つ」
 バイトが持ってきた生ビールのジョッキを1つは自分が飲んで、もう1つを隣の席に座る人物に差し出した。
「まあ、飲みなよ」
 バイトの女の子はテレビを見ていたに違いない。興味津々な目で村山と隣に座った人物を見ていた。
「すんませ~ん!」
 村山たちの背後にある座敷から声がかからなかったら延々と見ていたであろう、彼女は少し残念そうな顔をすると、すぐに営業スマイルに表情を切り替えて座敷に歩いていった。
「すまぬ・・・・」
 バルクマンから行き先を聞いて追いかけてきた村山は、隣でうなだれるドローテアにもう1度ジョッキを勧めた。彼女はぐいっとそれを三分の一ほど飲んだ。
「あきれているのであろう?私の言葉は、この国全部に中継されたのだからな・・・」
 さすがのドローテアも中継が終わってカメラマンから生中継であることを教えられて驚いたのだ。レポーターの物言いが気に入らなくてついつい、言ってしまったことが重岡や村山に重大な結果を招いたかもしれないと思ったのだ。
「怒ってないよ。むしろすっきりした。俺も昔、自衛隊にいて言いたいことも言えない立場だったからな。それがたとえ、この国の行く末に関わることでも。それを代わりに言ってもらったんだ。おもしろかったよ」
 村山の楽天的な言葉に彼女はふっと笑った。
「そ ういう見方もこの国の者にはできるかもしれないな・・・・、しかし、私はそなた初め、この国の人々に迷惑ばっかりかけている。たとえそれがドボレクを捕ま えるためであってもだ。時々思うのだ。私がいなかったらもっと、この国の者だけでいい方法でヤツを捕まえることができるのではないかと、な」
 初めて見る大神官様の自信のない物言いに村山はいささかびっくりしながらビールを飲んだ。
「そんなことはない。君がいなかったら、ドボレクってのが来たこともわからなかったろうよ。今頃、あのサーファーは、鼻くそまで吸われて死んでるよ」
 彼の冗談めいた言葉を彼なりのフォローと受け取ったドローテアは力無く微笑んだ。
「・・・・、そなたは優しいな・・・」
「そうかな?「あの時」も充分優しかったと思うけどね・・・・」

 村山はそう言ってビールを飲み干した。「今夜は行ける!」 そう確信してドローテアの肩に手を回したときだった。
「ドローテア、今夜は俺と朝までい・・・・・・いってれぼっっ!!」
 恐ろしい衝撃が彼の顔面を襲って、そのまま後ろの座敷で飲んでいる学生のところまで吹っ飛んだ。
「わああ!」
「なにすんだよ、おっさん!」
 大学生の苦情を浴びながら、そして鼻の痛みをこらえながら村山がどうにか立ち上がった。強烈なドローテアの裏拳だった。そして、その目の前には仁王立ちになった、高貴な大神官がいた。
「無礼者!図に乗るな!」
 その怒鳴り声に村山はもちろん、彼が飛んできた座敷の大学生も思わず正座した。それを見届けると、ドローテアは薄く微笑すると、村山の上着から財布をとりだして勘定を済ませると店を出ていった。
「ばか!」
 彼女が店を出る瞬間発した言葉は村山には聞く余裕はなかった。
「ぎゃ、ぎゃああああああああ!!!」
 店を出る直前に彼女の発した呪文のせいで、股間の痛みに唖然とする大学生たちやバイトの店員の目を気にする余裕もなく村山は床を転げ回っていた。

========================================================================================================================
813 名前:いつかの228 投稿日:2005/01/13(木) 00:50 [ SxJFThIU ]
えー、こんなところです。
ここで登場人物をある程度紹介しておきます。
半分自分のためにですがw

814 名前:いつかの228 投稿日:2005/01/13(木) 01:00 [ SxJFThIU ]
村山次郎;探偵。元自衛官。大神官ドローテアと契約魔法を交わす。アル中っぽい
重岡竜明:陸上自衛隊二等陸尉。村山と動機。大神官捜索の責任者だが、
     村山とドローテアが関係を持った責任をとって左遷される妻子持ち
ドローテア・ミランス:異世界ガシリア王国大神官。
     門司港に向かう途中遭難。村山と肉体関係をかわすことにより契約魔法をかける。
     きれいな金髪美人で切れ者だが超トラブルメイカー
田村美雪:村山の秘書。公私ともに村山と関係が深いが、あっさりとバルクマンに鞍替え
     事務能力には長けている
バルクマン;ミランス家に代々使える騎士。ドローテアに絶対の忠誠を誓う、超イケメン
尾上二曹;武器のエキスパートだが、超ヲタク。半分やっかい払いで独立偵察小隊に転属になる。
     ゲームキャラを現実化したようなドローテアに絶対的な忠誠を誓っている。
浅川渡:福岡県知事兼暫定政権リーダー。政治家家系で一族から閣僚も出している。
丸山連隊長:第40普通科連隊長。ドローテアを引き取って「第一独立偵察小隊」を編成する。
      彼女に引っ張り回される。
田島三佐:西部方面総監部の幹部。門司港に到着するドローテアを出迎える大任だったが、
     彼女の遭難で悪運に見舞われる
岩村本部長:福岡県警本部長。ドローテア捜索を浅川に命じられるが、自衛隊と知事と板はさみになる
ドボレク:アジェンダ帝国魔道大臣。領地をガシリア王国軍に追われて九州に逃亡。
     様々な魔物を召還して九州を混乱させるが、目的は現在のところ不明。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 出動!独立偵察隊
  • SSスレ
ウィキ募集バナー