自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

07 第7話:領主の心を打つ福岡県人の心意気 ガシリア王国サラミド

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2004年5月15日9時43分 ガシリア王国サラミド港郊外 佐久間老人の店
 ドローテアはバルクマンを心配していた。果たしてブラムス大公に無事会うことができたのだろうか。自分は忠実な騎士をむざむざと死地に追いやってしまったのではないか。彼女は悩んでいた。そこへ、重岡が大慌てでやってきた。
「ドローテア様、村山が戻りました!」
 その言葉に彼女は勢いよく立ち上がると、離れを後にして玄関に向かった。
「ぜぇぜぇ・・・・。あああ、死ぬかと思った・・・・」
 玄関先には出発時とは全然格好の違う村山が息も絶え絶えになって横たわっている。その周りに柵は老人はじめ、従業員が集まっている。
「いったいどうしたんだ?」
「ブルトスの部下に見破られてな。このままじゃまずいと思って、フリマの会場で魔道学校のマントを捨てて別のマントを買って、盗聴器を入れた壺も叩き割って、この中に入れて逃げてきたんだ」
 そう言って村山は小さな小物入れをドローテアに見せた。中にはしっかりと、ブルトスの部屋に仕掛けた盗聴器が入っていた。こういった仕事の巧みさにドローテアは感心の笑みを浮かべ、重岡はただただ驚嘆するばかりだった。
「た、たいへんです!ブルトスの騎士が大勢押し寄せてきて、片っ端から農家を荒らし回ってます!」
 田舎道を1人の日本人が大声で叫びながら走ってきた。どうやら怪しきは片端から探りを入れるようだ。彼とほとんど同時に数十騎の騎士が佐久間老人の店の前に集まった。魔道学校のマント姿のドローテアと重岡、それに一般人のマントをかぶった村山が彼らと対峙している。
「佐久間!おまえの紹介で雇った掃除夫がえらいことをしてくれたぞ!」
 騎士の間からブルトスとギラーミンが歩み出てきた。騒ぎに気がついて近所の日本人が集まってくる。騎士が掃除夫に剣を突きつけて佐久間やドローテアたちの前に引き出してきた。日本人たちからどよめきの声があがった。
「この掃除夫め、我が屋敷に忍び込んで妙な機械をしかけたと白状したぞ!我々の会話を記録する機械だそうだな!機械を渡せ!」
 その言葉に、魔道学校のマントに身を包んだドローテアが一同の前に歩み出た。ブルトスの騎士たちが警戒して剣に手をかけた。それに構わずにドローテアは魔道学校の生徒らしく、彼らに問いかけた。
「ここまでギラーミン様とブルトス様がお怒りになるとは・・・。この男が仕掛けた機械にはいったいどんな会話が記録されてしまったのでしょうか?」

  魔道学校生徒を演じるドローテアが投げかけたのは手痛い質問だった。それを聞いてブルトスの表情は怒りで真っ赤になった。抜き身の剣をドローテアに向けて 叫んだ。それだけで、彼らにとってまずい会話が交わされたのであろう事は、この場に集まった人々には一発で理解できた。
「ええい!黙れ!」
「いや!黙らないぞ!」
 どのとき、集まった日本人から声があがった。農業に携わる者、近所の工場の労働者が集まっているが、今までひどい扱いをしてきたギラーミンとブルトスに口々に声を出し始めたのだ。
「ドローテア様が死んだとか行方不明とか言われているのをいいことに好き勝手しやがって!」
「アジェンダと通じてんじゃないかって噂もあるんだぞ!」
 彼らもまた、ただやられっぱなしではなかった。本国から入ってこない情報を求めて、サラミドに来る自衛官や市議会議員、アメリカ兵からいろいろと聞き出していたのだ。それと同時に、彼らにこの現状を訴えもしていた。だからいろいろと情報は知っているのだ。
「黙れ!黙れ!そのような流言飛語をばらまくと逮捕するぞ!」
 理屈で追いつめられたブルトスたちは一斉に剣を抜いた。さすがにその強硬姿勢に日本人たちもたじろいだ。それを見たドローテアは我慢の限界にたっしたのであろう。
「ガシリアの騎士がここまで墜ちたかっ!」
 そう叫ぶや、今まで顔を隠していたフードを脱いで素顔を一同にさらした。
「ギラーミン、ブルトス。よもや、私の顔を見忘れたわけはなかろう・・・」
 時代劇の決め台詞のようなドローテアの言葉と、彼女の素顔を見て、ギラーミンとブルトスは衝撃で顔をひきつらせ、日本人たちは喜びの声をあげた。正体を一番隠さねばいけない人物が正体を現したのだ。重岡と村山もマントを脱いだ。

「まだ正体をばらすのは早かったんじゃないですか?」
「我慢できなくてな・・・つい・・・」
 耳打ちした重岡に答えると、ドローテアはブルトスたちに向き直ったまま言う。
「その男をはなせ。人質を取るなど、ガシリア騎士の風上におけぬ」
「ふん!貴様がまさか生きているとはな。この男を返してほしくば、我々の会話を記録したという機械を渡せ。証拠がなければ貴様がいくらヴェート王に訴えたところで痛くもかゆくもないわ!」
 こいつら、半分自白してるじゃないかと村山は思わず笑いが出そうになるのを、どうにかこらえようとした。ドローテアは騎士の風上にも置けない彼らの行為に怒りを露わにするばかりだ。ここはひとつ、助け船を出してやるか。
「くっ、そういうことなら仕方ない・・・・」
 不意に村山はそう言って前に進み出た。彼が観念したと考えたブルトスとギラーミンは不敵な笑みを浮かべ、ドローテアは驚きの表情を浮かべている。
「村山殿・・・」
 とまどうドローテアに村山は悔しそうな表情を浮かべたまま目で合図した。それに気がついたのか、彼女はそれ以上なにも言わなかった。
「さあ、機械は渡す。先にその男をはなせ」
 村山の言葉を受けて、ブルトスが掃除夫を捕まえている騎士に無言で合図した。騎士は彼を突き飛ばすようにドローテアたちの方に返した。それを確認して村山も手に持っていたモノを彼らに投げた。
「ははは!証拠さえなければ、おまえたちの訴えなんか誰も相手にしないわ!」
 そう言ってブルトスは村山の投げた黒い機械を地面に落とすと、剣の柄でたたき壊した。人々から落胆のため息が聞こえた。完全に機械を壊したことを確認すると、周囲の騎士に目配せした。
「さて!偉大なる大神官の名をかたる不届き者を逮捕しろ!」
 ギラーミンの命令で数名の騎士が歩み寄る。それを見てドローテアはふうっとため息をついた。
「しかたがない、重岡殿、村山殿・・・・」
 名前を呼ばれた2人は同時にドローテアを振り返った。次の瞬間、ドローテアは2人の背中をどんと押した。
「えっ?」
 勢いで数歩前に進み出た2人に騎士たちは一斉に剣を構える。予想もしなかった展開に、ドローテアの真意を測りかねて村山と重岡は、再びドローテアに振り返った。
「こうなっては仕方がない・・・。同じガシリア国民に暴力は使いたくないが、重岡殿、村山殿。こらしめてやってくれ!」

 その言葉に、ブルトスの騎士たちは剣を一斉に2人に向けた。村山と重岡はしばらくきょとんとしていたが、言葉の意味が分かると大声を出して彼女に抗議した。
「冗談じゃない!俺たちは拳銃しか持ってないんだぞ!こんな大人数相手にできるか!」
「こっちでの発砲許可はないんですよ!知事の許可がないと発砲できませんよ!」
 数十人の騎士を相手に拳銃だけで、しかもこんな近距離で勝てるはずがない。しかも、ガシリアでの武器使用は県知事の許可がない。そんな事は知らないブルトスは大声で言った。
「ええい!手向かうようならば斬ってよい!」
 その声を合図に数名の騎士が剣を振りかざして重岡と村山に躍りかかった。
「うわああぁあ!来るぞぉ!」
「お、おい!重岡!俺を盾にするなぁ!」
 重岡は思わず村山を盾にして隠れた。村山も本気で斬りかかる騎士の迫力に思わず悲鳴をあげた。
「ぱん!ぱん!ぱん!」
 その時、3発の銃声が響いた。銃声を知っている日本人は思わず身をかがめ、初めて聞くガシリア騎士たちは、身体が硬直した。そして、重岡に斬りかかろうとした騎士が足から血を流してもがくのを見て、思わず後ずさった。
「なんだ?」
「俺は撃ってないぞ・・・」
  村山と重岡は互いに顔を見合わせて、銃声がしたとおぼしき方向を見た。ドローテアも剣を抜いたまま、佐久間老人の母屋方向、集まった日本人たちのほうを見 た。佐久間老人の母屋の影から、迷彩服の男がベレッタを構えたまま歩いてくるのが見えた。サングラスをかけている黒髪の将校だ。
「ホプキンス曹長!」
「サー!イエス!サー!」
 銃を構えたままドローテアや佐久間老人のすぐ近くまで歩いてきた男は大声で部下を呼んだ。すると今まで道路沿いの木立や、畑の中に隠れていたのであろう、迷彩服に完全武装の海兵隊が数十名姿を現した。
「Go!Go!Go!move!move it!」
 屈強な黒人曹長に指揮された小隊は何が起こったかわからないブルトス一派をあっという間に完全に包囲してしまった。呆然とした日本人青年が思わずつぶやいた。
「アメリカ軍だ・・・・」
 サングラスをかけた将校に指揮された海兵隊の一団はあっという間に、初めて見る異世界の兵器とその威力にたじろぐブルトスとギラーミンたちを包囲した。その将校に村山は見覚えがあった。フリーマーケットで彼を助けたあの将校だった。
「重岡殿、あの一団は?」
 ドローテアが重岡に尋ねた。重岡も思わぬ連中の登場で固まっていたが、どうにか在日米軍のことを彼女に説明した。彼女もサラミドにやってきている日本人でない兵隊や船のことは知っていたのですぐに納得できたようだ。

「やはり、ガシリアの政治抗争だったようだな・・・・」
 サングラスの将校はギラーミンとブルトスをにらみながら言った。日本人ではない、屈強な兵士の視線に2人は反論もできない。そんな2人に将校は手厳しく言った。
「おまえたちの部下が、休暇中、この港でフリーマーケットに出店した俺の部下に暴力を働いた。それで、領主である大神官に抗議しようとしたら、大神官は行方不明で、おまえらが代理で統治していると聞いてな。いろいろ調査させてもらったぞ」
 ようやく落ち着きを取り戻したギラーミンが不敵な笑みを浮かべて反論した。もっとも、その反論自体が低レベルなのだが・・・。

「し、証拠はあるのか?証拠を見せろ!」
 その反論に今度は村山が、余裕の笑みを浮かべて、ポケットからMDレコーダーを取り出して再生ボタンを押した。屋敷でのギラーミンとブルトスの会話が大音量で流された。
「ドボレク大臣もとっておきの魔法攻撃を準備されている。我々はガシリアと異世界の足並みを乱すのが任務だ。それさえ果たせば、ドボレク大臣が究極の魔法でガシリアを滅ぼした後、この土地は我々のモノだ。」
 おおっという声が日本人たちからあがった。彼らの噂は本当であると証明されたのだ。それを聞いて2人は顔を真っ青にした。さらに、村山は重岡にも合図した。彼もまたMDレコーダーを出して、峰岸所長の言葉を再生した。
「そ れが、今度王宮にヴェート王直属の部隊を創設するとかで、それで武器が必要になったとか言うんですが、何しろ向こうは情報を全然開示せずにブルトス公やそ の騎士が来て一方的に言うばかり、ミランス大神官の時とは全然対応が変わってしまって苦労しておる次第なんです・・・。しかも、拒否すれば今後の貴社の安 全は保障できないとか脅迫まがいのことまで・・・・。ミランス大神官が行方不明になったすぐ後からですら、たった1ヶ月弱でここまでいろいろ変わってしま うと対応できませんよ・・・」
「あ、うちの所長だ・・・・」
 これを聞いた日本人の1人が思わず言った。それを無視して村山は一同の前に歩み出た。ここからは「探偵」である彼の独壇場の場面だ。
「聞 いたとおりだ。こいつらは、日本で作られた武器を横流しして、日本人から税金をむしり取って蓄財していた!何のために?魔道大臣ドボレクが、いずれこの国 に、何か強大な攻撃を仕掛けることを知っていて、その後自分たちがこの国を支配するために、セコイまねして金を貯め込んでいた!」
 集まった日本人からは驚きのざわめきが起こり、ドローテアは満足げな笑みを浮かべ、重岡はきょとんとした表情をして、サングラスの将校は無関心そうな感じで村山を見ている。すっかり一同の注目を浴びて少々、芝居がかって手を顎にやった村山はさらに言葉を続ける。
「し かも、生存が確認されたドローテア、いや、大神官の情報を、故意に隠蔽して抵抗する日本人を押さえ込もうとしただけでなく、王都にいるヴェート王にも真相 を隠した。そんなことは侍従だかなんだかのギラーミンには造作もないことだ。だから、九州にも、王都にもこのサラミドの状況は伝わらなかったんだ」
 ますます調子に乗った村山は、剣を捨てて抵抗する気力もなくなったギラーミンとドボレクに近寄り、人差し指で彼らの胸をポンポンとつついた。その無礼な行為に2人は村山をにらみつけたが、完全に役に入っている村山は何とも思わないようだ。
「おまえら、日本をけっこうなめてるみたいだけどな、日本ではおまえらみたいな悪党を裁く法律がちゃんとあるんだ。外患誘致罪って言ってな。その罪状は・・・!問答無用で死刑!死刑!ざまあみろ!」
 いつの間にかキャラが若干変わりつつある村山は満面の笑みを浮かべて、MDレコーダーを2人の目の前にこれ見よがしに出した。
「そんで、これがその証拠!いやあ、ひょっとしたらこんな証拠押さえられないかもしれないから、最悪、ブルトス、あんたの会話を適当に録音してつなぎ合わせようかと思ってたんだが・・・。ここまで絵に描いたようにしゃべってくれて、どうもありがと!」
 目の前のレコーダーを奪い返そうと思わずブルトスが手を伸ばすが、村山は意地悪にもそれをさっと引っ込めた。罪人とは言え、あまりの村山の態度にギラーミンの怒りが爆発したようだ。
「貴様!証拠は渡すとさっき約束したではないか!」
 ギラーミンの怒りの抗議も、完全に調子に乗った村山には通用しなかった。ぷっと笑ってギラーミンを見ながら答える。

「ばーか。渡せと言われて簡単に渡すかよ。おまえら、ホントにバカじゃねーの?」
「く、くうぅぅ」
 バカ呼ばわりされて、ギラーミンとブルトスは怒りで身体をふるわせたが、完全武装の海兵隊に包囲された状態ではどうしようもない。
「村山、もういいだろ・・・」
 衆人の前でここまでバカにされたギラーミンとブルトスにさすがに同情を抱きそうになった重岡が、村山をドローテアの後ろに引っ込めた。一部始終を聞いた日本人からは感嘆の拍手が起こった。それを見届けたドローテアが集まった日本人に高らかに呼びかけた。
「日本人移民の諸君!私はこうして帰ってきた。ガシリアと日本の友情を怖そうともくろんだ悪人の野望も打ち砕かれた。諸君には私の留守中、迷惑をかけた。だが、これからは今まで通りの生活を保障する!」
 その言葉に日本人たちから割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
「ドローテア様が帰ってきた!」
「大神官様、ばんざーい!」
 その歓声を聞いて、目の前の若い女性が大神官であると気がついたサングラスの将校は驚いている様子だった。慌てて跪くと、すばやくドローテアの手を取りその手に口づけした。
「ま さか、あなたが領主のミランス様とは。自分はアメリカ合衆国海兵隊、ガルシア大尉です。あなたの領地と日本人を襲う巨悪を倒すのに、私の力が一助になって いれば光栄です。私も部下が暴行を受けたと聞いて、独自に調査しておりましたが、まさか、ガシリアを揺るがすようなことが行われていたとは思いも寄りませ んでしたが、密かに部下を集めていたのが幸いしました」
 ガルシア大尉の言葉に重岡は少し呆れずにいられなかった。彼の言葉は恐ろしく丁寧だが、 要するに、部下を暴行した犯人を捕まえるために1個小隊を率いて、襲われる確率が高く、目の敵にされている日本人の家を見張っていたのだ。その方が、犯人 に出会える確率も高いであろうから・・・。好戦的だと言われる海兵隊らしい発想だった。
 ドローテアはガルシアにも、重岡に言ったように「ドローテアでよい」と前置いてからそれに答えた。
「助太刀、感謝する。そなたのおかげでこうして、日本人の安全を確保し、国を売る売国奴を一網打尽にできた。」
 それを聞いて、ガルシアは情熱的な笑顔を浮かべ、ドローテアの手を握ったまま立ち上がり、周囲の人々に聞こえるように大声で言った。
「ドローテア、我々は共に協力できるに違いない。もちろん、ガシリアの大神官とアメリカの軍人としてではなく、個人として!私は探し求めていたのだ。君のような、美しく聡明で優しく、それでいて情熱的な女性を!」
 最後は半分彼の口説き文句に近いようだった。ドローテアは微妙なほほえみを浮かべて彼の言葉を受け流していた。事情のよくわからない日本人はとりあえず、拍手でお茶を濁し、佐久間夫妻は事件が解決したのと、ドローテアが帰還を公式に宣言した喜びで彼女に手を合わせた。
「なんまんだぶ、なんまんだぶ・・・」

2004年5月15日11時04分 ガシリア王国サラミド港郊外 佐久間老人の店
 やがて、バルクマンがブラムス大公と彼の率いる、親衛騎士団を連れてやってきた。異世界の精鋭に親衛騎士団まで出てきては、ギラーミンもブルトスももはや抵抗する気力もなくなっていた。おとなしく、親衛騎士団に引き立てられて王都ガシリアナに連行されていった。
「ドローテア、生きていてくれてうれしいぞ」
 豪奢なマントと鎧に身を包んだブラムス大公がドローテアを抱きしめた。しばらくして彼女を解放すると彼は言葉を続けた。
「ガシリアナに駐屯する自衛隊と王宮との連絡はギラーミンの部下が担当していたのだが、そのために王も私も、ここのところ、正確な情報が入ってこなくてやきもきしていたのだ。そこへバルクマンが来て事の次第を知り、急ぎ親衛騎士団を率いてやってきたわけだ。」
「はい、大公には我が領地のことでご迷惑をおかけいたしました。」
  膝を突いて平身低頭するドローテアというのを重岡も村山も見るのは初めてで、なにか新鮮な感じがした。周りの佐久間老人はじめ、日本人も敬愛するドローテ アよりもさらに偉いであろう人物の登場にただただ成り行きを見守るばかりだ。大公は笑顔で周囲を見回すと彼女に言った。
「よいよい。王には私からよく伝えておく。そなたは、ゆっくり休んで、日本で任務を続行してもらいたい・・・」
 そう言ってブラムス大公は重岡と村山に向き直った。2人は同時にひきつった笑顔で会釈するのがやっとだった。大公は代わる代わる2人の肩をしっかりと抱いて言葉をかけた。
「重岡殿、村山殿・・・。ドローテアを頼みましたぞ」
 思わぬお言葉に重岡はびしっと直立不動で敬礼し、村山は困ったように会釈して頭をぼりぼりかいた。それを見て満足げに微笑むと大公は彼の乗馬にさっそうとまたがった。
「では、これで失礼する」
「しばらくお待ちください!」
 立ち去ろうとする大公にガルシアが突然、跪いて声をかけた。少し驚く大公にそのまま、彼は言上した。
「私はアメリカ合衆国海兵隊に所属しておりますガルシア大尉です。その・・・、ミランス大神官についてお聞きしたいのですが・・・」

「ほお、ガルシア大尉。で、何を聞こうというのかね?」
 礼儀正しいガルシアの挨拶に笑顔で答える大公に、彼は思いきった様子で質問をぶつけた。
「異世界の私と、彼女は結婚できるのでしょうか・・・?」
「なに?」
 予想もしなかった質問にブラムス大公は目を丸くした。
「え?」
「結婚?」
 当のドローテアもあまりの唐突な言葉に、固まってしまった。佐久間老人や日本人たちもきょとんとし、重岡は笑顔がひきつったまま固まっている。バルクマンに至っては口をぽかんと開けている始末だった。ガルシアは周囲の驚きに構うことなく、大公に言葉を続けた。
「私の父はイタリアという国で生まれました。イタリアは、飲み食べ、そして愛することが人間らしい生き方とされます。私は、大神官を一目見た瞬間、恋に落ちました。私はこの燃えるような心を彼女に捧げることができるのでしょうか?」
 一通り情熱的なガルシアの口上を聞き終えると、大公は馬上で声を出して笑った。
「ははは!我が国は国民の恋愛を規制することはない。それが外国人とでもだ!ガルシア大尉、そなたの気持ちにドローテアが答えれば、結婚もよいではないか?ただし、当たり前だが双方の合意がないと結婚はできないぞ。せいぜいがんばるがよい!」
 笑いながら大公は出発した。それに続いて、剣に竜が巻き付く格好のガシリア国旗をなぞらえた旗印を掲げて、親衛騎士団が撤収していく。
「な・・・、がんばれとは・・・・」
 渦中の人物になってしまったドローテアは呆然と大公を見送った。呆然とする一同を後目に、お墨付きをもらったガルシアはドローテアの手を取った。
「ドローテア!愛に国境はない!2人で幸せな家庭を築こうじゃないか!」
 その言葉でようやく、自分の置かれている状況が理解できたドローテアは顔を真っ赤にした。
「ま、待て!私はまだそんな、結婚とかいうことは考えていない!」
 大慌てで否定するドローテアにもガルシアは動じることはない。
「それはそうでしょう。でも、私はあきらめない。きっと君の心を奪ってみせる!じゃあ、日本で会おう!我が恋人よ!」
 そう言って、彼女の手に口付けするとガルシアは部下に命じてさっさと撤収を開始した。近くに隠していたトラックに兵士が乗って港に撤収していく。その最後尾のハマーの座席から、ガルシアはドローテアに気障な投げキッスを送った。
「ドローテア!きっと君の心を奪ってみせるからな!」
 登場と同じく、撤収も唐突な海兵隊に残された人々は呆然とするばかりだった。

2004年5月18日10時02分 ガシリア王国サラミド港 船着き場
  大きな船着き場には数百名の日本人移民、数千のガシリア人が集結していた。沖には「おおすみ」が待機している。視察の議員団や、九州に向かうガシリアの高 官たちも連れている。ドローテアが行方不明になってギラーミンとブルトスがやってきて以来、情報遮断、鎖国状態だったサラミドも彼女の帰還と共に再び、ガ シリア最大の港として機能を始めた。
「すいませんが、自分は乗船したら睡眠薬を飲んで寝させてもらいます」
 二日酔いの顔をした重岡が申 し訳なさそうにドローテアに言った。無理もなかろう。あの事件が解決した後、彼女と重岡、村山は各地で引っ張りだこだった。そして旅立ちの日の前夜。佐久 間老人の店に集まった日本人移民が農業組合青年部主催で大宴会を行ったのだ。その青年部は今、中世の港で彼女たちを見送るために小倉祇園太鼓を披露してい る。
「おお!来ましたぞ!」
 紋付き袴姿の佐久間老人がドローテアに声をかけた。村山と重岡には聞き覚えのあるかけ声が近づいてくる。まさか・・・。
「ほいさ!ほいさ!ほいさ!ほいさ!」
「マジかよ・・・」
 思わず重岡がつぶやいた。サラミドのメインストリートを青年部と地元の住民合同で担いだ博多祇園山笠が走ってくるのが見えたのだ。煉瓦や木造の家々から次々と清い水がかけられている。いくらなんでも大げさすぎると思った。
「それだけ、彼女がここの連中に慕われてるってことだな」
 いつの間にか、日本人たちから渡された缶ビールを飲みながら村山が言った。そう言われて重岡も少し納得がいく気がした。そこへ、喧噪の中で彼を呼ぶ声に気がついた。
「重岡二尉!」
 出張所の峰岸だった。スーツを着込んで平身低頭している。重岡も思わず頭を下げた。
「いやあ。このたびはいろいろとお世話になりました。これ、うちで生産している剣です。記念にどうぞ」
「いやいや!これは受け取れませんよ」
 公務員の彼には受け取れない品物だった。それを村山がひょいっと取ると珍しそうに眺めた。
「こりゃいいや。バルクマン、今度使い方を教えてくれ」
「もちろんです、村山様」
 佐久間夫妻や日本人の婦人会に酒をごちそうになるバルクマンが二つ返事で答えた。それをかき消すように山笠隊が大声で博多三本締めを始めた。

「よ~ぉっ、パンパン、もひとつ、パンパン、よさんっ、パンパン、パン!」
(パンパンは手を打つ音ですが、表現力のなさでこのような形になりました)
 それを合図にしてドローテアが用意された壇上にあがった。彼女に気がついた群衆がたちまち静かになり、彼女に注目した。
「サ ラミドの市民と、日本人移民の諸君。私の留守中に、いろいろと諸君には迷惑をかけた。だが、悪人は捕らえられ、サラミドには平和が戻った。しかしながら、 まだガシリアとアジェンダの戦争は終わってはいない。それどころか、ドボレクは同盟国、日本に潜伏して卑怯な破壊工作を行っている。私はそれを防ぎ、ドボ レクを捕まえるために、再び日本に旅立つ」
 ここでドローテアは言葉を区切った。群衆は息を飲むように彼女の次の言葉を待っている。
「だが、心配しないで欲しい。私が再び、このサラミドの地を踏むときは、この戦争が我がガシリアと、同盟国日本の勝利に終わり、世界に真の平和がもたらされた時なのだから!」
 その瞬間、群衆から地鳴りが起こらんばかりの歓声があがった。村山はこの瞬間いつもの、わがままでタカビーなドローテアではなく、名君主ドローテアを見た気がした。らしくないが、ちょっと感動さえしていることに気がついた。
「ではバルクマン、行こうか・・・」
「はい、ドローテア様」
 バルクマンに声をかけ、颯爽と自衛隊の用意したランチに乗り込もうとしたドローテアは涙を浮かべる佐久間夫妻に気がついた。
「佐久間殿、本当に世話をかけた。私が帰ってくるまで、元気でいてくれ。・・・・バルクマン、あれを」
 バルクマンは佐久間夫妻に小さな封筒を手渡した。その中身を見た夫妻は驚きの表情をドローテアに向けた。中身は高校生になる佐久間夫妻の孫の写真だった。
「こっちに戻るついでに、孫のところに寄って預かってきたのだ。移民した佐久間と言えばすぐに住所もわかったからな・・・」
「あ、ありがとうございます・・・。いってらっしゃいませ」
 感涙むせぶ佐久間夫妻の言葉に無言で応えてドローテアは颯爽とランチに飛び乗った。それに続いてバルクマンも飛び乗る。
「あ、では、お世話になりました」
 群衆に一礼して重岡も続き、「じいさん、ばあさん、元気でな」と村山も続いた。群衆からの万歳三唱と花火に見送られてランチはゆっくりと「おおすみ」に向かって進み始めた。

2004年5月18日15時21分 ガシリア王国サラミド港沖 「おおすみ」艦上
 ドローテアは後部甲板でもう見えなくなった自分の領地を見つめていた。彼女の後ろにはいつものようにバルクマンが控えている。
「なあ、バルクマン」
「はい?」
 いつになく元気のなさそうなドローテアの呼びかけに、少しだけ遠慮がちに彼が答える。
「きっと、サラミドに2人で戻ろうぞ」
「はい!きっと」
 元気のない主人に代わって忠実な騎士が元気よく答えた。名君主とはいえ、まだ19。住み慣れた土地と彼女を慕ってくれる人々との別れはつらかったのだろう。そこへ村山が、ビールの入ったクーラーを片手にやってきた。
「何をへこんでるんだ?きっと帰るって約束しただろ?」
 そう言って、バルクマンとドローテアに缶ビールを手渡した。ドローテアがその缶を見て驚いたような表情を彼に向けた。その缶には「ミランスビール」と銘柄が打たれていたのだ。
「佐久間のじいさんの作ったビールだ。出発前に山ほど渡されたよ。寂しくなったらそれを飲んでがんばってくれってな・・・・。お?ちゃんと商標登録してあるぞ。抜け目のないじいさんだ!」
 日本人移民に親切にしてくれたドローテアに恩返しのつもりなのだろう。商標登録された「ミランスビール」の収益はサラミドや彼女の領地に還元されるという。
「さすがは佐久間殿ですな」
 感嘆したバルクマンが「ミランスビール」を開けながら言った。それに答えてドローテアも笑顔を取り戻してプルタブを開けた。
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