自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

14 第14話:最後の決闘と偶然

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2004年8月12日 19時21分 北九州市小倉南区北方 居酒屋「次郎ちゃん」

 学生街の居酒屋で、大神官ドローテアと防衛庁長官、田所が密かに会見していた。密かにとは言え、目立つ2人だ。周囲の学生にはばればれだろう。そんなことも気にしないで、田所はビールをドローテアについでやった。
「いやはや、先日の若松でのご采配。お見事でした。まさか、海竜を餌付けしてしまうとは・・・」
「ふ ふ・・・。あれは私ではない。商店街の山下殿の発案なのだ。しかも、彼は海竜ショーを興業するそうだ。その興業で「ミランスビール」を売り出して、収益の 一部を我が領地のインフラ整備に充てるそうだ。その代わり、王都ガシリアナにある海竜に関する文献をよこすように要求してきた。さすがは商売人だ」
 してやられたという感じで笑うとドローテアはグラスのビールを飲み干した。茶髪の防衛庁長官は彼女にまたビールを注ぐ。お返しに彼女からも返杯を受ける。
「しかし、ドボレクも今頃焦っておるだろう・・・・。せっかくため込んだ魔法力で召還した魔獣がまさか、海竜ダイダロスで、しかもあっさり餌付けされたとあってはな」
 くすくす笑うドローテアにグラスのビールをぐいっとあおった田所が質問しようとした。だが、その時店員が注文していた軟骨揚げを持ってきたので、少し間をおいた。
「ドローテア様の斡旋で今、P3Cに魔道学校の生徒を搭乗させて全土の調査を行っていますが、この国は魔力を集中しにくいってどういう意味なんでしょう?いまいちわからないんですが・・・・」
「確かに、田所殿にはピンと来ないだろう。そもそも魔法とは、魔法力を必要とする。」 
 そう言ってドローテアは手のひらの上に火の玉を作り出した。田所はじめ、周囲の学生たちが驚きの声を出した。反応を確かめて笑いながら彼女はそれを引っ込めた。

「こ れくらいなら個人の資質でなんと言うこともない。だが、魔法の大きさと必要とする魔法力は比例する。また特例として、私と村山殿のように特定の行為によっ て行動を制限する契約魔法も存在するが、まあこれは例外だろう。簡単に言えば、派手な魔法ほど準備に時間がかかるわけだ。ましてや、ドボレクがやろうとし ている、ガシリアを一気に滅ぼす禁呪などは相当な準備期間と魔法力を必要とする。だが、この国にはそれを可能とするだけの魔法力をどういうわけか集中でき ない。」
「ましてや、ドボレクは祭りであんな大失敗をやらかした後だから、今すぐどうこうということはないってことですな?」
 彼女の言葉を瞬時に理解した田所が膝を叩いた。彼の反応を見てドローテアも満足そうに頷くが、若い長官はさらに疑問を持ったようだ。
「で?ヤツがやろうとしている禁呪ってなんなんです?呪いか何かの一種ですか?」
 その質問に大神官は箸で器用に挟んだ軟骨を口に放り込んで天井を見つめた。
「禁 呪にはいろいろある。巨大な石を召還してたたき落とすモノ。強力な雷で焼き尽くすモノとか・・・。禁呪は時に不発に終わることもある。我が国の研究ではそ の不発に終わった禁呪は別世界で威力を発揮したモノもあるかもしれないということだ。田所殿の世界にある伝説「インドラの矢」なぞ、案外太古の我が国とア ジェンダとの戦争の流れ弾かもしれぬ、ということだ」
 流れ弾のとばっちりで古代とは言え、都市が消滅するなんて冗談じゃないと田所は思ったが、証拠がない以上彼女を責めることはできないし、証拠があっても彼女の遙か祖先のやった話だ。
「まあ、ともあれ。ドボレクが何をするにしても、この国にいる限り魔法使いみたいなまねはできないわけですな。後はヤツの持つ修復能力を何とかできれば・・・。逮捕は容易ってことですね」
 ドボレクは魔法力を体内で循環させることで物理的攻撃のダメージを修復している。小倉のテロでそれは実際に目の当たりにされている。それでも、ドローテアは余裕の表情だった。
「それに関しては心配ない。手を打ってある、だが・・・・」
 ここまで言って彼女の表情が少しかげった。
「ほとんど可能性はないが、ヤツが打つ手はまだあるのだ・・・」

2004年8月13日 10時02分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地
  
 丸山と田島、岩村は田所を前にまるでいたずらをしかられる子供のようにしゅんとしていた。ソファーに座る3人に対して、窓の外の演習場を見つめる田所はぶっきらぼうに言った。
「どうでした?門司の花火は?」
 明らかな皮肉に3人はますます縮こまった。先日の祭りでの大失態を言っているのは目に見えていた。田所は厳しい表情で振り返って3人を見た。
「今 回の件と前回の件だけでも、みなさんには幹部として辞表でも出してもらいたいところですが・・・、残念ながら、ガシリアとの折衝、ドボレク一派との実戦経 験が我が自衛隊にはほとんどない。引き続き、みなさんには今のポストでこれまで以上に経験を活かしてがんばっていただきたいと考えています」
 その言葉に、思わず3人は胸をなで下ろした。だが、彼らの反応を予想していた田所はさらに語気を強めて言葉を続けた。
「ただし!これからは古い慣習や組織論は一切忘れていただきたい。あなたがたも今までの方法が、ドボレクには通用しないことがよくわかったはずです。今後は、ぼくやドローテア様の周辺の人々と連絡を密にして事に当たっていただきます!」
 それだけ言うと田所は3人の反論を聞くこともなく立ち去った。
「まずいことになりましたな・・・・」
 若い長官の去った部屋で一息ついた田島が口火を切った。
「これまでは、現場レベルでは重岡の責任。それ以上だと浅川先生の責任としてきましたが、これからはそうもいかなくなります。」
「腹をくくらねばいけないということか・・・」
 この言葉に丸山も腕を組んで考え込んだ。

2004年8月13日 12時43分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地

  第1独立偵察小隊の事務所には村山、バルクマン、美雪、津田三尉だけだ。交代で盆休みをとっているのだ。休みとは言え、ドローテアは隣のログハウスのテラ スで優雅にビールを飲みながら日光浴をしているだけなのだが。4人はともあれ、事務所で電話番だった。その電話が鳴って津田がだるそうに応対した。
「はい?・・・・え?うちはけっこうです!」
 がしゃっと受話器を置いたとたんにまた電話が鳴った。ため息をついて津田がまた電話に出る。
「え?だから・・・・。融資は間に合ってますって!」
 いらいらしながら津田は受話器をたたきつけた。美雪の持ってきたアイスコーヒーをブラックですすりながら、彼がぼやいた。
「まったく、自衛隊に融資のご案内なんて、いくら不景気でもふざけてますよ」
「ホント?そいつバカじゃないの・・・」
 相づちを打ちながら、ソファーに座ったバルクマンに美雪がアイスコーヒーを出した。村山と津田と違い、明らかに量が多い。というか、彼のはジョッキだ。あからさまにえこひいきされた金髪の騎士が笑顔を美雪に向けた。
「あ、美雪さん。コーヒーくらいなら私がやりますよ」
「いいの!バルクマンのために入れたんだから」
 目の前で繰り広げられるラブラブなトークに村山も思わず顔をしかめた。その時、また津田のデスクの電話が鳴った。ため息をつきながら彼が三度電話に出る。
「もしもし?え?だから融資はいらないって言ってるでしょ?あんた自衛隊に営業電話してどうすんの?」
  ただでさえ暑い日に目の前でこれまたアツアツな光景を目にしてしまい、半分八つ当たりで乱暴に受話器を置いた津田は村山に肩をすくめて見せた。村山は彼を 一瞥するが、アイスコーヒーをすすりながらノートパソコンでネットゲームに夢中になっている。そこへまた電話が鳴った。
「もしもし?またあんた?だから融資はいらないって言ってるでしょ?え?違う?ドローテア様に代われ?あのねぇ・・・・。こっちは勤務中なんですよ。勤務中にファンからの電話は受け付けられませんから!」
 さすがに受話器をたたきつけた津田のいらついた声が気になって村山も顔をあげた。
「どうしたんだ?」
「村山さん。さっきから変なヤツが電話してきて困ってるんですよ。融資の案内かと思ったらドローテア様に代われって。今度かかってきたらちょっとがつんと言ってやってくださいよ」
 津田の訴えを聞いた村山は「まかせとけ」と言うと、美雪に電話の子機を持ってこさせた。しつこい金融屋の勧誘電話はなれっこだった。そう思ったとたん、電話が鳴った。
「村山さん、一発かましてください」
 津田の期待に満ちた視線を受けて村山も余裕の笑みを浮かべて電話を取った。

「おい!いいかげんにしろよ。うちは融資もいらないし、ドローテア様萌えの電話もイヤってほどかかってきてんだよ!ふざけんじゃねーぞ!」
 村山の先制攻撃に受話器の向こうのヤツも少したじろいだようだった。それを察知した村山はさらに追い打ちをかける。
「だいたいなあ。お盆休みの自衛隊に電話かける神経が間違ってんだよ。わかってる?こっちはあんたみたいなくだらない電話を待つために電話番してんじゃねーんだよ!このボケ!」
 そう言って村山は一方的に電話を切った。「ほお」と言う感じで津田が見事な対応に拍手を送ろうとしたときだった。またまた電話が鳴った。
「ホントにしつけぇなぁ」
 ため息をつきながら村山が電話を取った。今度は向こうに言うだけ言わせて切ってやるつもりだった。先ほどとは違って少し穏やかに応対した。
「ここまでしつこいのも珍しいけどさぁ。なに?何の用事?融資?ドローテアのファン?なんでもいいから言いたこと勝手に言ってくれ・・・。」
 半分投げやりな村山の応対に受話器の向こうの声がようやく聞こえてきた。
「・・・貴様、このような無礼な物言い許さんぞ。わしを誰だと思っておるのだ」
 受話器から聞こえてきた高飛車な台詞に村山は黙って美雪たちにジェスチャーした。人差し指をこめかみにくっつけてくるくる回している。
「はいはい。休日出勤の金融屋さんか、ドローテア萌え野郎でしょ?あんたもっと有意義なことに電話代使ったら?自分で電話切った後むなしくなんないか?」
 半分暇つぶしモードの村山は面白がってなおも電話の主を挑発する。それにしびれを切らしたのか、電話の主は大声を出した。
「きさま!村山だな!わしの声を聞き忘れたか?数々の無礼な物言い!殺してやるぞ!東亜興産の、いや魔道大臣のドボレクとわかってのことか!!」
「ドボレクだと?」
 その声に反応した村山はさっと表情をこわばらせた。わざと彼は大げさに叫んだ。自分に向けられたメッセージと察した津田は慌ててドローテアを呼びに走った。村山の仕事は時間稼ぎだけだった。美雪にジェスチャーして県警の連絡員に電話を逆探知させるように指示した。

「しかし、魔法の国の大臣様が電話とはな・・・。それにしてもおまえ、金持ってんのか?おまえの会社俺たちでぶっつぶしたもんなぁ」
「・・・・。」
 その言葉に電話の向こうのドボレクは黙り込んだ。相当怒っているようだ。
「ドボレクから電話だと?」
 思ったよりも早くドローテアがやってきた。これで彼の仕事は終わりだった。謹んで彼女に受話器を渡した。
「ドボレクか・・・。貴様のたくらみもこのままでは無駄に終わるようだな」
 いきなりの勝利宣言。村山や美雪、津田にバルクマンははらはらしながらそれを見守っている。しばらく緊迫のやりとりが続いた。
「ほお・・・わかった・・・ガシリア王国大神官の名にかけて・・・」
 そう言ってドローテアは電話を切った。彼女は大きくため息をつくと、心配するみんなに振り返った。今まで見たこともない厳しい表情だった。
「ドローテア様、いったい何が・・・?」
 バルクマンの言葉を遮って彼女はソファーに身を投げ出した。そしてとんでもないことを口にした。
「今夜、ドボレクと決着をつける」
「なんだって?」
 一同は唖然とした。しばらく、誰も口を利ける状態ではなかったが、どうにか津田が口を開くことができた。
「で、では。休みを取っている連中を大至急呼びましょう・・・・」
「その必要はない」
 不愛想に答えたドローテアは立ち上がると、みんなに背を向けて窓を見やった。その言葉に津田は再び唖然とするほかなかった。代わってバルクマンが進み出た。
「では、私が護衛いたします」
「バルクマン、そなたもここに残れ。村山殿もだ。私だけで行く」
 ほとんど突き放すような感じの彼女の言葉に村山が半分怒ったように反論した。
「どういうことだ?せっかくみんなでここまでやってきたのに・・・・」
 窓を見ていたドローテアが村山に振り返った。その表情からは感情を感じることができなかった。
「どうもこうもない。私だけで行く。それだけだ。」
 それだけ言うとドローテアはプレハブの事務所のドアを開けた。あまりの物言いに思わずかっとなったのだろう。立ち去ろうとする彼女に再び村山が叫んだ。
「なんだそれ?俺たちはみんな用無しってことか?もう利用価値もないから最後は自分だけでおいしいところ持っていくつもりか?」
 村山の半分挑発じみた言葉にもドローテアは振り返ることはなかった。
「そう受け取ってもらってもかまわぬ」
 話し合いの余地はない、と言わんばかりにドアが少し乱暴に閉じられた。今までに見たこともないドローテアの態度にしばし、一同は固まってしまった。不意に村山がテーブルを蹴った。
「なんなんだよ!あの態度は!もう一回話をしてくるぞ!」

「お待ちください!」
 半分切れている村山をバルクマンが止めた。彼は美雪に合図して怒る村山と状況を把握できない津田をソファーに座らせた。そして大きくため息をついた。間髪入れずに村山と美雪がバルクマンに尋ねた。
「バルクマン、いったいどういうことだよ?」
「そうよ!今までのドロちゃんだったらなんでもあたしたちに相談してくれたのに、なんで今度だけ・・・」
 当然と言えば当然の質問にバルクマンは少し答えるのにためらっているようだったが、やがて決心したように大きく深呼吸した。
「申し訳ありません。我々の国の風習をご存じないみなさんからすれば、ドローテア様のあのお言葉は侮辱とも受け取れるでしょう・・・。ドローテア様はドボレクの決闘申し込みを承諾されたのです」
 騎士の言葉に3人は目をぱちくりさせた。その反応に彼らがよく事態を飲み込めてないと気がついたバルクマンがさらに詳しく説明した。
「つまり、今夜の件はドローテア様とドボレクだけのこと。まったく個人的なことなのです。他人の手出しは一切禁止されています。それどころか、国家の介入も・・・。ドローテア様が「ガシリア王国大神官の名にかけて」と言われたのが決闘の承諾と受け取られるのです。」
「鎌倉武士の名乗りを上げての一騎打ちみたいなものですな」
 バルクマンの言葉に津田が少し理解できたようだ。まだ考え込んでいた村山は不意にはっとした。
「お い。でもこのタイミングでドボレクのヤツがドローテアにそんなことを申し込むってことはだ。にっちもさっちもいかなくなったドボレクの作戦じゃないのか? 禁呪を使うだけの魔法力も残っていない、テロを起こそうにも手駒も金もこっちで抑えた。ヤツが巻き返すのに一番の邪魔者はドローテアだ」
 センセーの言葉に美雪もドボレクの考えていることがわかったようだ。
「つまり、ガシリアの騎士や神官だったら断るに断れない決闘を申し込んで、ドロちゃんを殺しちゃえば、ドボレクはじっくり作戦なり、魔法力を集めることなりできるわけね!」
「プロレスで言えば場外乱闘みたいなもんじゃないですか」
 津田もようやくみんなの話に追いついたようだ。ドローテアはドボレクの思惑がわかった上で、この決闘に引っぱり出されたわけだ。
「だったら、なおさらなんで俺たちに相談しないんだよ・・・・」
 彼女を取り巻く状況はわかったが、それでも納得行かない村山が思わずぼやいた。それにはバルクマンが少しの間も置かないで答えた。
「村 山様。それは、ドローテア様がみなさんのことを大切に思っているからに他なりません。決闘を申し込まれて受けないわけにはいかないドローテア様の事情もあ りますが、それ以上に相手はドボレクです。これまでのことを踏まえてどんな卑劣な罠を準備しているかわかりません。だからこそ、単身で行くと強固に言って いるのでしょう。」
 それを聞いた村山はさっきまでの怒りが収まっていくのを感じた。「素直じゃないなあ」と独り言を言うと、ソファーから立ち上がった。
「美雪、重岡と尾上を呼び出すんだ。津田は他の隊員をかき集めて連隊長に報告しろ」
「はい、センセー!」
「了解!」
 2人は村山の意図を察するとぱっと笑顔を浮かべてそれぞれのデスクの電話に飛びついた。それを見たバルクマンが慌てたが、村山は彼の肩をぽんぽんと叩くだけだった。
「村山様!お気持ちはわかりますが、これではドローテア様の名誉に関わります!」
 決闘を受けた者が他者に支援を請うことはこれ以上にない不名誉に値するというのだ。バルクマンの理屈ももっともだが、村山たちはそんなこと関係ない。
「わかってるって。そういうややこしい問題は、俺たちより頭のいい人に考えてもらおう。おまえはひとっ走り、田所さんの事務所に行ってくれ。今日は公務は午前だけで事務所にいるはずだ」

2004年8月13日 22時58分 北九州市若松区頓田 グリーンパーク南ゲート駐車場

  花と緑の博覧会のために作られた巨大な緑地。その入り口にドローテアはいた。乗り付けたタクシーも早々に返して、1人。持ち込んだ剣を握りしめていた。昼 間、大声で抗議した村山やびっくりするバルクマンや美雪、津田のことが思い出された。休みを取っている重岡や尾上は思いもよらないことだろう。
  だが、こうするしか彼女には選択肢はなかった。うすうす予想はしていたがまさか、ドボレクから彼女たちの世界のルールに則った決闘を申し込んでくるとは 思っていなかった。当然、彼女は断ることはできないし、大切な仲間をドボレクが自信満々で待ちかまえる罠に放り込むわけにもいかなかった。
「きたか・・・・」
 駐車場のゲート、その奥から黒い影が現れた。それが誰であるかはドローテアにとって確かめる必要もない。素早く剣を抜くと慎重に身構えた。その影が万感の思いを込めて叫ぶのが聞こえた。
「貴様のせいで計画が台無しだ!殺してやるわ!」
 月明かりの下、抜き身の剣だけがはっきり見えた。急速に間合いを詰めるドボレクにドローテアは少し下がって自分の間合いを保った。
「それはこっちの台詞だ・・・・」
 素早い動きでドローテアが剣を突く。が、ドボレクもそれをかわして大きく剣を振った。頭を傾けてドローテアはそれをよけるが、自慢の金髪が数本、彼の剣で宙に舞った。
「死ね!死ね!」
 ドボレクは力任せに右手の剣を打ち込み始めた。ドローテアも冷静にそれを受けかわすが、力任せの強打にじりじりと右に移動せざるを得ない。ひときわ大きなドボレクの強打を受けた弾みで踏み出した彼女の右足が何かを踏んだ。
「あ・・・・」
 それが何かはドローテアにはすぐにわかった。とたんに身体中から力が抜けていく。握っていた剣も力無く彼女の手から落ちた。
「ド、ドボレク・・・。謀ったな・・・・」

ド ローテアが踏んだのは封印の魔法の一種、それを発動させる魔法陣だった。これを踏むと魔法はもちろん、物理的な動きも制約される。やはり、ドボレクはいろ いろと罠を仕掛けていた。予想の範疇だったが罠にかかってしまってはどうにもならない。身動きのとれない大神官を見てドボレクが構えを解きながら笑った。
「ふははは!わしが何の準備もなしに貴様に決闘を申し込むと思ったか?」
「さっさと殺せ」
 開き直るドローテアをドボレクは意地悪そうな笑顔を浮かべて見やった。
「貴様にはさんざんわしの計画をじゃまされたからな。騎士らしく名誉の死など与えると思ったか?貴様には考えつく限りの屈辱的な死を与えてやろう。そして、貴様のいなくなったこの国でゆっくりとガシリアを滅ぼす禁呪を準備させてもらうとしよう・・・・。おい!」
 そう言ってドボレクはさっきまで隠れていた茂みに声をかけた。しかし、誰も応じる気配がない。舌打ちして再びドボレクはドローテアの喉元に剣を突きつけたまま、声をかけた。
「おい!」
 やはり反応はない。しびれを切らしたドボレクは茂みの方を振り返った。その時、強烈なサーチライトがドボレクの視界を奪った。
「おまえが呼んでるのはこいつらのことか?」
  ドボレクにとって聞き覚えのある声と共に、茂みの奥から後ろ手に手錠をはめられた東亜興産の社員が3名、自衛隊員によって引き立てられた。連中は福岡での 手入れを免れてドボレクと一緒に逃亡した連中だった。同時に、完全武装の自衛官が彼らの持っていた日本刀や拳銃を押収していた。決闘というのは名ばかり、 危なくなったらドローテアに襲いかかるように潜ませていたのだ。
「なっ、なに?」
 ドボレクの驚きに答えるように、彼の周囲360度から強烈なサーチライトが降り注いだ。広い駐車場で対峙していたドボレクとドローテアは真昼のような明るさの光に照らし出される格好となった。
「アジェンダ帝国魔道大臣ドボレク!ここまでだ!」
  拡声器を通した重岡の声を合図に駐車場を囲むきれいに刈り込まれた植木を壊しながら続々と89式装甲戦闘車、96式装輪装甲車が乗り込んできた。それらか ら降車した数十名の自衛隊員が次々とドボレクに89式小銃を向ける。びっしりと彼を包囲した隊列から重岡と村山が歩み出た。
「ど、どうして、そなたたちがここにいるのだ?」
 金縛りにあったような状態のまま、ドローテアが驚きの声をあげた。当然、彼らには決闘の場所など教えるはずもない。どうして彼らだけでなく、こんな大部隊がここに集結しているのか。彼女には理解できなかった。
 さらに、聞き覚えのある爆音がドローテアの耳に聞こえてきた。ほとんど動かない頭を動かして空を見ると、ガルシア大尉率いる海兵隊のCH-53が上空でホバリングしているのが見えた。

「行け!行け!行け!ぐずぐずするな!野郎ども!」
 ホプキンス曹長に率いられた海兵隊がヘリから下げられたワイヤーを伝ってわらわらと降下して自衛隊の隊列に加わった。最後に降下した完全武装のガルシアがにこやかにドローテアに向かって叫んだ。
「我が太陽、ドローテア!君の最大の危機と聞いて取るモノも取らずに駆けつけたよ!ちなみに、沖では日米のイージス艦がそこの指名手配者をロックオンしているから、心配しないで」
「村山さん、海兵隊はちょっと余計だったんでは・・・・。それにロックオンって俺たちまで吹っ飛ばされちゃいますよ・・・」
  津田がこっそりと村山に耳打ちした。たしかに、かなり大げさになってしまった。村山も状況を見て否定することはできなかった。今やドボレクの周囲は装甲車 に100名近い普通科隊員。後方には戦車、上空には海兵隊のヘリまでいるのだ。少し考えたがあっけらかんと村山は津田に答えた。
「うーん、まあいいだろ?この際だから」
 突然の過剰なまでの応援に驚きを隠せないドローテアは集まったみんなに向かって叫んだ。
「これは私とドボレクの問題だ。手を出すな!」
「そうはいかないんですよ」
 彼女の言葉に、隊列の奥から茶髪にメガネ。防衛庁長官の田所まで現れた。またしても予期もしない人物の登場に大神官の目はまんまるになった。
「ド ローテア様、この国には決闘罪っていう法律がありましてな。私的な決闘をすることを禁じているのです。つまり、ドボレクにとってこれまでのテロ行為などと 関係なく、ドローテア様と決闘することはそれ自体犯罪なんです。ドローテア様の名誉は我々の介入が原因で傷つくことはありません。なにしろ、我々は「偶 然」この決闘に遭遇しただけですから」
「偶然だと?何を屁理屈を言っておるんだ!!」
 ドローテアの首に剣を突きつけるドボレクは思わず叫んだ。
「貴様らの法律などどうでもよい!だが、今大神官を殺されるとわしを捕捉することはこの先困難になるぞ。わしには貴様らの銃弾も効かない!どうする?」
 予想されたドボレクの言い逃れを聞き、村山は一緒にいればいいのに、近くの茂みに隠れている尾上に手で合図した。間髪入れずに銃声が響いて、ドボレクがドローテアに向けた剣が根元から砕けた。
「くそっ!」
 次の瞬間、悪態をついたドボレクの肩にも銃弾が命中して、彼はあおむけに倒れた。
「・・・・バカなことを。すぐに回復するというのに・・・・。」
 血が流れているにもかかわらず余裕の笑みを浮かべるドボレクを田所は彼以上に不敵な笑みを浮かべて見つめていた。

「あなたの回復力は確認済みだ。ちゃんとこっちも手を打たさせてもらってますよ・・・。」
「なっ!」
 思わずドボレクは驚きと痛みで声をあげた。傷が回復しないのだ。驚くドボレクに村山が笑いながら言った。
「特製のFMJ弾だ。正式名称、フル・マジック・ジャケット弾。ドローテアが用意してくれていたんだけどな。ドローテアの魔法が込められた弾丸だ。今までみたいにそう簡単に回復はしないぞ」
 村山の言葉通り、ドボレクの受けた傷からは血がどくどくと流れている。それを認めた自衛隊員は慎重にドボレクに近寄った。重岡が倒れ込むドボレクに向かってメモを見ながら宣言した。
「魔 道大臣ドボレク、決闘罪および殺人未遂、銃刀法違反の現行犯。ならびに、殺人罪、騒乱罪、殺人教唆、利息制限法違反、出資法違反、政治資金規制法違反、選 挙管理法違反、傷害罪で逮捕状が出ている。なお、リーガロイヤルホテルより、器物損壊、威力業務妨害で、博多の事務所のオーナーから有印私文書偽造、詐欺 罪でも告発されている。あ、それと在日アメリカ海軍法務局からも殺人、殺人教唆で告発状が届いている。」
 重岡の合図でバルクマンに率いられた数名の自衛隊員が特殊な車両でやってきた。一見、普通のトラックだが荷台の部分がちょっと違う。大きな檻があり、その四隅にはへんてこな石がガムテープでぐるぐる巻きにされている。
「ふ、封印の石・・・」
 それを見たドボレクが思わず肩を押さえながらつぶやいた。この石に囲まれれば魔法力は失われてしまう。ドボレクにとってはチェックメイトの状況だった。それを見て村山が得意げに笑った。
「バルクマンがいざという時のために持っていたんだがな。これに詰めておまえはガシリアに連行だ。じゃあな」
「く、く、くそぉぉ・・・・」
 着剣した89式に囲まれてドボレクがその檻に入ると、金縛りにあったようなドローテアの身体が地面に崩れ落ちた。独立偵察小隊の面々が駆け寄った。
「まったく・・・よけいなまねをしてくれたものだ・・・」
 ぐったりと地面に座り込むドローテアが集まった面々の顔も見ないでつぶやいた。それに対して、美雪が何か言おうとしたが、村山がそれを制した。
「悪かったな。偶然、通りかかった俺たちが待ち伏せする東亜興産の連中を見つけたもんだからな。そしたらドローテアがやられそうになっているから、偶然助けただけだ。そうだよな?先生?」
 話を振られた田所がメガネの位置をなおしながら笑う。
「その通りです。ぼくもホントにたまたま通りかかっただけなんですよ。」
 田所に肘でつつかれた津田と伊藤も次々と見え見えの言い訳を半笑いで述べていく。
「俺たちもたまたま89式装甲戦闘車でドライブしていただけなんですよ。」
「そうっす。まさか、こんなところでドローテア様とドボレクが決闘をしているなんて知りもしなかったです」
 拘束したドボレクを連行するように命じていた重岡までも、白々しく言った。
「まったく、偶然ですよ。たまたまこの車両の運行試験をしていただけなんですから!」
 ここまで徹底してあからさまで見え見えの言い訳をされたドローテアはバルクマンの肩に捕まりながら笑うほかなかった。彼らがことさらに強調する「偶然」も彼女の名誉を守るための方便と気がついていた。
「なるほど、私もまだまだ運に見放されてはいないようだな・・・・」
 彼女がそう言ったときだった。たいして出番もなかったガルシアたちがヘリに乗って引き上げ始めた。強烈な風が一同を襲った。
「さらばだ!ドローテア!我々も実は偶然、幸か不幸か、効果的な降下訓練をしていただけなんだよ!」
 わざわざマイクで強調する必要もない駄洒落を叫びながらガルシアは飛び去った。重岡が飛び去っていくヘリを見ながら思わずつぶやいた。
「ちょっとしゃれにしては語呂が悪いな・・・」

2004年8月16日 18時19分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地

  盆明けの事務所は少しばかり雰囲気が違っていた。普段は事務所にあるプラズマテレビが延長コードで外に出されていた。その前には100名近い独立偵察小隊 の面々がいて、某公共放送のテレビ報道に釘付けになっている。ニュースセンターのアナウンサーが臨時ニュースを読み上げた。
「えー、本日午後。アジェンダ帝国はガシリア王国軍に無条件降伏を申し入れた模様です。あ、たった今、ガシリア王都、ガシリアナ駐在の自衛隊から確認がとれました。アジェンダ帝国はガシリア王国軍に無条件降伏を申し入れ、ガシリア王国はこれを受け入れたそうです」
 集まった隊員から歓声があがった。用意された演台にドローテアが登ると、たちまち隊員たちは沈黙して彼女の言葉を待った。
「諸君、長い者は数ヶ月。本当にご苦労だった。ドボレクも逮捕され昨日ガシリアナへ連行された。そして、今日。戦争も終わった・・・・」
 ここでドローテアは言葉を切った。少しうつむいたまま数秒沈黙したが、すっと顔をあげた。
「実は、私に本国へ帰国命令が出た。」
 思っても見ない言葉に整列した隊員がどよめいた。同席している村山も重岡も知らない話だった。美雪が驚いたようにバルクマンを見た。当然、ドローテアが帰る以上彼も同行せねばなるまい。
「すいません、美雪さん。どう言えばいいかわからなくて・・・・」
 肩をすくめるバルクマンに美雪が思わず駆け寄って抱きついた。そんなことが起こっている間もドローテアの言葉は続いた。
「私とて、苦楽を共にした諸君と離れるのは断腸の思いだが、ヴェート王のご命令とあっては応じるほかない。だが、これだけは言っておきたい。諸君は最高の部隊で、兵士・・・・、ではないな。最高の警察官、自衛隊員たちだ。本当にありがとう・・・」
 泣きながら彼女の言葉を聞いていた尾上が半分裏返った声で叫んだ。
「ガシリア王国大神官であり、我が部隊永遠の指揮官。ドローテア様に敬礼!」
 自衛隊史上、これほどまでに敬意のこもった敬礼はないであろうというくらいの敬礼が尾上の号令でドローテアに捧げられた。

2004年8月16日 20時36分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地

 事務所内で主だった面々が互いの労をねぎらっていた。半分、ドローテアとバルクマンの送別会みたいな感じだったので、雰囲気はなごやかなものだった。
「ま、まあ・・・・、尾上二曹。そう泣くでない・・・・」
 ずーっと泣きっぱなしの尾上を苦笑いしながらドローテアが慰めている。無理もない。尾上にとってみれば、彼女はゲームの画面から飛び出した理想の司令官なわけだ。
「しかし、ちょっと急すぎやしませんか?」
 最初は疫病神だった存在だが、今や自分の守り神に等しい存在になったドローテアに重岡が話しかけた。なにしろ、経過はともかく彼女がいなければ、彼の昇進もなかったのだから。
「こればかりは、ぼくの権限でもどうにもなりませんが、もうちょっとこっちでゆっくりできないものですか?」
 メガネに茶髪の田所も残念そうに重岡の後に続いた。
「うむ・・・。正直名残惜しい部分はある。だが、永遠の別れではない。なにしろ、あやつらがいるからな」
 笑いながらドローテアは、バルクマンに手紙と携帯電話を渡す美雪を見た。近々サラミドでも携帯電話が通じるようになるそうだ。と、彼女はいつものソファーでビールを飲む村山に声をかけた。
「村山殿。帰る前に、そなたと交わした契約魔法を解除しなければいけない」
 その言葉にうれしそうに村山は飛び上がった。
「おおお!そうだな!」
 村山の喜びとは裏腹に、ドローテアは少々顔をうつむけながら言葉を続けた。
「ついては・・・・、今から私の部屋へ来てはくれないだろうか?」
 ようやく、下半身の解放をしてもらえる村山は様子のおかしいドローテアに気がつかないようだった。喜々として立ち上がるとビールを一気に飲み干した。
「・・・・、ではバルクマン。今日はみんなと一緒に楽しく過ごすがよい」
 それだけ言うと彼女は津田や伊藤に軽く挨拶すると村山と事務所を後にした。おかわりの缶ビールを渡しながら重岡がバルクマンに尋ねた。
「しかし、契約魔法の解除ってどんなことをするんだ?どうせならみんなの前でやればすむだろうに・・・」
 横にいる美雪と真顔で質問する重岡を交互に見ながら、バルクマンは気まずそうに顔をしかめていたが、2人にそっと顔を近づけるように言った。
「実は、契約魔法の解除は契約時と同じ行為をする必要があるのです・・・・」
「えっ?つまりそれって・・・・」
 驚いた美雪が言葉を発しようとしたのを慌てて重岡が止めた。涙をようやく拭き終わった尾上が3人の会話に興味津々だったのだ。
「なんです?契約魔法の解除って・・・・」
 近寄ってくる尾上を重岡が大慌てで止めた。素早く財布から五千円札を出すと彼に渡した。
「いいから、ちょっとこれで酒買ってこい。な?」
 いぶかしげに事務所を出ていく尾上がドアを閉めるのを確認して3人はため息をついた。きょとんとする、田所、伊藤と津田に事情を話した重岡は大まじめにみんなに言った。
「尾上だけには言うんじゃないぞ。よくてショック死。最悪、村山を撃ち殺しかねんからな」

2004年8月18日 12時36分 北九州市門司区門司港 門司港レトロ前

 夏の門司港には多くの人々が集まっていた。沖には輸送艦「おおすみ」を始め、海自、米軍のイージス艦が錨を降ろしている。岸壁では日米合同の軍楽隊の演奏が続いている。
「浅川殿、いろいろと面倒をおかけした」
 ドローテアが浅川と握手をかわした。まぶしいくらいのフラッシュがたかれる。県知事改め、暫定政府首班もにこやかに彼女と握手を交わす。
「こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」
  彼女は続いて在日米軍のワドル大佐と向き合った。在日米軍は休戦後のアジェンダにガシリア軍と共に平和維持軍として進駐するのだ。自衛隊が進駐するのはや はりいろいろと難しいようだった。となれば、当然ガルシアもおつきあいが続くことになる。ワドル大佐の後ろに控えるガルシアが軽くウインクした。
「さて、重岡殿」
 津田や伊藤と共に整列した第1独立偵察小隊の面々にドローテアは向き直った。直立不動の姿勢をとる重岡に彼女は右手を差し出した。
「思えば重岡殿に一番迷惑をかけたかもしれないな・・・・。いろんな意味で・・・・」
 そう言って彼女はちらっと後方を見た。バルクマンと最後のお別れをする彼の娘、美咲がいた。
「ちゃんとお手紙書いてね」
「はいはい・・・。お約束ですからね」
 笑顔で美咲の頭をなでるバルクマンに重岡の妻、祐子が申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当に最後の最後まで申し訳ありません・・・」
 そう言う彼女に、「バル様」はさわやかな笑顔を浮かべて答える。
「いいんですよ。美咲殿は私の大事な「おともだち」ですから」
 津田と伊藤に率いられたびしっと敬礼する独立偵察小隊の面々を笑顔で見やりながらドローテアは隅っこにいる村山と美雪に歩み寄った。
 重岡には丸山、田島、岩村が近寄っていた。今までに見たここともないような表情で重岡の手を取った。
「重岡君、君ならばこの困難な任務を完遂してくれると確信していたぞ!」
「さよう!私もこれで晴れて総監部に帰ることができるというモノだ!」
「まったく、丸山連隊長と田島三佐の人物眼はたいしたものですな!」
 それぞれがそれぞれに手前勝手な賛辞を述べてドローテアに続いた。重岡は深い深いため息をついた。
「ドロちゃ~ん!」
 半泣きの美雪が歩み寄ってきたドローテアに抱きついた。最初は最悪の関係だった2人だが、いろいろあるうちにいい友達になっていた。
「泣くでない、小娘。ちゃんとメールは送るから」
 最後にドローテアはいつものよれよれのスーツ姿の村山と向かい合った。照れくさそうに頭をかく彼をまっすぐに見やった。
「・・・・村山殿。世話になったな」
 そう言われた村山は目をそらす。そんなセンセーを見て思わず美雪が何か言おうとした。が、その時海自の幹部がドローテアを迎えに来た。
「出航の準備ができました。ランチにお乗りください。」
 何も答えない村山に、少し寂しそうな笑顔を浮かべるとドローテアは岸壁に接岸したランチに向かって歩き出そうとした。美雪が思わず、村山の腕をつついた。彼女に続いてバルクマンもランチに向かって歩き始めた。
「あ・・・おい!ドローテア!」
 ランチに乗り込もうとしていたドローテアにようやく村山が声をかけた。照れくさそうに頭をぽりぽりしながら、ようやく彼は言葉を発した。
「その・・・、あっちに戻ったら佐久間のじいさんによろしくな・・・・。」
「わかっておる」
 その言葉にドローテアは満面の笑みを浮かべてランチに乗り込んだ。花火があがり、独立偵察小隊の面々が万歳三唱を始めた。動き出したランチからバルクマンが美雪に手を振っている。手を振り返しながら美雪がぽつっとつぶやいた。
「センセー、行っちゃったね・・・・。ドロちゃんに言うことがあったんじゃないの?」
 周囲のにぎやかさとは正反対の美雪の言葉を村山はただ、「いや、別に・・・」と返しただけだった。
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