自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

15 最終回:それぞれの道

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だれでも歓迎! 編集
2004年10月3日 9時21分 北九州市小倉北区京町 村山の事務所

 小倉の街は相変わらずだった。モノレールは走り、バスとタクシーが通りを埋めている。歩道はサラリーマンや学生がせわしなく歩き、銀行前では駐車禁止のアナウンスが繰り返し流されている。
「センセー、いつもの特別ボーナスはぁ?」
 事務所のソファーで新聞を読む村山に美雪がおねだりする。ため息をつきながら村山はスーツの内ポケットから例によって、駅前のパチンコ屋の店員から仕入れた裏情報を彼女に渡した。
「さんきゅ!今、コーヒー入れるね!」
  上機嫌でキッチンにスキップする美雪を半ば呆れながら村山は見つめた。彼女はお金を貯めてガシリアに行くつもりなのだ。戦争の終わったガシリアは、ドロー テアの領地であるサラミドを中心に急速に日本=九州との関係を緊密にさせている。農業移民以外にも多くの人々がガシリアに渡航し、またガシリアの人々(こ れは国の許可を特別にもらった連中に限られる)も、多くこっちにやってきていた。
 新聞やテレビでは時々、ドローテアの姿や話題が目に付いてい た。ガシリア王国の若き改革者。アジェンダ帝国を降伏に追い込んだガシリアは大陸のさらに向こうの海にフロンティアを求めていた。大陸を2つに分ける戦乱 が終息して、外界への興味に国力を注ぐ余裕も出てきたようだ。後ろ盾もしっかりしている。在日米軍は石油などの燃料供給が確保されると、ガシリアの探険航 海に協力的になった。アメリカ人が持つフロンティア精神をくすぐるのだろうか・・・。村山には案外、ガルシア大尉がドローテアにいいところ見せたいばかり なのかもしれないとも思われた。
 そんな思いを馳せている村山の耳にパトカーのサイレンが聞こえてきた。1台や2台ではない。ものすごい数のパトカーのサイレンだった。
「センセー、なに?この音?」
 キッチンから美雪が出てきて窓を覗いた。そして、そのまま固まった。
「どうした?」
 のんきに尋ねる村山の耳に今度は階段を乱暴に踏みつける靴音が聞こえ、次の瞬間、彼の事務所のドアが乱暴に開かれた。たちまち、事務所は数十名の武装した自衛官で埋まった。まるで4月、重岡が乗り込んできたような光景だった。
「村山さん・・・・」
 だが、今度は重岡ではなかった。津田と伊藤が申し訳なさそうに武装した自衛官を従えて村山の前に立っている。
「よお。久しぶりだな」
 のんきに挨拶する村山に2人は顔を見合わせて申し訳なさそうに言った。
「すいませんが、美雪さんもいっしょにご同行願います」

2004年10月3日 11時32分 福岡市博多区千代 福岡県庁

 津田と伊藤にせかされるように知事室に入った村山と美雪を出迎えたのは彼らが驚くに十分な面々だった。
「ほお、村山殿。久しいのぉ」
 いかにも善良な王という感じのヴェート王。ドローテアの理解者ブラムス大公。浅川知事に、田所防衛庁長官、丸山連隊長に田島三佐、岩村県警本部長、重岡になぜか在日米軍のワドル大佐にガルシア大尉などなど・・・。そして、
「バ、バルクマン!」
 美雪が驚きと喜びの混じった声を出した。ヴェート王の後ろに控えた金髪の騎士が美雪にそっと微笑んだ。ということは当然・・・。
「村山殿、久しぶりだな・・・」
 今までに見たこともない女性らしい格好をしたドローテアだった。思わず村山は「風と共に去りぬ」の表紙にもなったスカーレット役のビビアン・リーを思い出した。
「ドロちゃん、似合ってるじゃない!」
 ぴしっと親指を立てた美雪にドローテアも笑って同じように返した。ほとんど同窓会みたいになった雰囲気を引き締めるように浅川が咳払いした。
「え、え~。ヴェート王。これでみんなそろいましたが、重大な発表とはいったい何でしょう?」
 浅川の質問に王も軽く咳払いして前置きした。言葉を選んでいるようだ。
「ふむ・・・・。実は、ドローテアが村山殿の子供を妊娠したようなのだ・・・・」
 誰もまったく予想もしなかった王の言葉で、知事室の空気は間違いなく凍り付いた。10秒ほどたっただろうか。丸山、田島、岩村がへなへなとその場に膝をついた。3人ともあまりのショックで失神したようだ。
「に、に、に、妊娠ですと?・・・・・」
「懲戒免職だ・・・・」
 浅川は呆然とし、重岡は家族のことが頭をよぎった。その中でどうにか美雪だけがドローテアに声をかけることができた。当の村山は完全に脳がフリーズしていてまったく微動だにしていない。
「え?じゃあ・・・。ドロちゃん。センセーの子供ができちゃったの?」
 逆に彼女のこの場に合わない言葉がよかったのだろう。ドローテアも少し恥ずかしそうにうなずいた。
「できちゃったですむか!」
 ガルシアが呆然とする村山に飛びかかった。
「村山!貴様卑怯だぞ!いつの間に私の太陽に手をつけたというのだ!」
「う・・・・!ギブ!ギブ!」
 マリーンの本気の絞めに村山は思わずガルシアの手をぽんぽんと叩いた。我に返った重岡と応援に駆けつけた津田と伊藤にようやくガルシアが引き離された。やっと我に返った丸山が今度は村山をヴェート王の前に差し出した。

「わかりました!この男はもう自衛隊の関係者でもなんでもありません!煮るなり焼くなりお好きにどうぞ!」
 丸山の言葉を引き継いで田島も岩村も後に続いた。
「さようです!死刑にしようとなんにしようと王のお好きなように!」
「まったくです!責任はすべてヤツにあります!」
 あまりのうろたえぶりに一同は唖然とした。ようやく、津田と伊藤になだめられて3人は村山から引き離された。雰囲気が落ち着くのを見計らって田所が例によってメガネの位置をなおしながら言った。
「ま あ、みなさん落ち着いてください。いつ、どこで仕込まれたかはともかく、ドローテア様の身体に新しい命が芽生えていることは事実です。しかも、それは我が 国とガシリアの友好の架け橋になる大切な命です。産まれてくる子供のために我々が何ができるかが重要ではないでしょうか?そのために王もわざわざおいでく ださったんでしょう?」
 彼の言葉に予想外のドタバタを目の当たりにしたヴェート王もペースを取り戻した。
「さよう!我が国としては村山殿にドローテアと結婚していただきたいと思っておるのだ」
「け、結婚ですと?」
 ようやく県知事として暫定政府首班として冷静さを取り戻した浅川が再び驚きの声をあげた。村山は再びぽかーんと口を開けている。
「俺とドローテアが結婚・・?」
 村山の独り言を受けて、ブラムス大公がにこやかな表情を村山に向けた。そのまま、浅川たちにはこれ以上のない衝撃的な言葉を発した。
「さよう。村山殿はドローテアと夫婦になり、大公として我が国に来ていただきたいのです。大神官家の夫となる以上、大公くらいの称号がないといけませんからな!」
「村山が、大公?そんなバカな?この男は我が自衛隊を退職した後、私の私生活を調査までした男ですぞ!」
 田島が真っ赤になってブラムス大公に抗議した。その田島の切れっぷりに思わず津田が伊藤に耳打ちするほどだった。
「やっぱ噂は本当だったんだな」
 田島の抗議もブラムス大公は全く意に介さない様子だった。
「村 山殿がこちらの国で探偵という職業なのはドローテアから報告を受けています。彼の持つ情報収集能力と騎士には考えも及ばない策略で、サラミドでは逆賊ギ ラーミンの陰謀も打ち砕くこともでき、なによりドボレク逮捕にもつながりました。我が国としてはドローテアの妊娠を機会にぜひ、村山殿に我が国の安全保障 について一役担っていただきたいのです」
 大公の言葉に一同は反論もできずに沈黙した。当の村山も困ったような複雑な表情のままだった。そんな村山を見かねたドローテアがうつむきながら言った。
「その・・・。村山殿は私と、その・・・夫婦になるというのは、そんなにいやなのか・・・・?」
 それでも彼は顔をひきつらせたままだった。たまりかねた美雪が強い口調で村山に言った。
「センセー、女にここまで言わせてどーすんの!」
 その言葉に村山も意を決したようだ。深呼吸して顔をあげるとドローテアに向き直った。
「わかった。俺も男だ。ドローテア、俺と結婚するか?」
 村山の返事を聞いたヴェート王が彼に歩み寄った。と、彼に短剣を手渡した。驚いた村山が王を見上げた。
「村山殿、大公の証だ。この剣があるかぎり、我が王家と村山家は永遠の友情で結ばれる。ドローテアをよろしく頼むぞ」

 その瞬間、ブラムス大公はじめガシリア側の面々から拍手がおこった。しぶしぶ、ことの成り行きを見守っていたガルシアもそれに応じた。釣られて田所や津田、伊藤も拍手を送り始めた。そこへ、丸山が重岡に歩み寄って耳打ちした。
「重岡君。これはどういうことかね?村山がガシリアの貴族になるだって?君はいったい何を監督していたんだね。大神官とよりによってあの村山が夫婦などとは・・・それもこれも君の責任だぞ」
 その言葉に、今まで我慢に我慢を重ねていた重岡の中の何かが切れた。
「ふざけんな!散々俺に責任を押しつけてやがって!なめんじゃねーぞ!そんなに言うなら責任とって辞めてやるよ!」
  あまりの展開に丸山はもちろん、浅川もなにも言えなかった。和やかなムードはすっかり吹き飛んで一同の視線は重岡と丸山に向けられていた。すっかりガスの 抜けた重岡は事の重大さに気がついて顔をひきつらせた。その時だった。ブラムス大公となにやら話をしていた一番の当事者の言葉だった。
「重岡。大公って親衛騎士団を持つことができるそうだ。おまえ、隊長になってみるか?」
 村山の思わぬ助け船だった。彼は視線をドローテアに向けた。彼女もまた笑って返した。
「重岡殿が来てくれるなら我が親衛騎士団の隊長も兼任していただこう」
「よっしゃ!決まりだ!あ、そうだ。伊藤に津田、おまえらも来るか?」
 調子に乗り始めた村山に我慢ができなくなった田島が思わず村山の前に進み出た。
「む、村山!きさま!現職の自衛官を勧誘するとは何事だ!」
 顔を真っ赤にして怒る田島を見て村山は勝ち誇ったような表情を浮かべた。
「田島殿、大公の前であるぞ。頭が高い・・・ぷ!」
「お、お、お、おのれぇ・・・・」
 時代劇のような台詞を吐く田島が顔を茹で蛸のように真っ赤にさせたのを見て村山は思わずドローテアの方を見て笑った。



2005年9月3日 12時32分 ガシリア王国サラミド郊外 日本人学校前

  中世の田園風景の中に鎮座する日本式建築の小学校から日本式チャイムが聞こえてきた。近くの畑で農作業をしていた人がそれを合図に一息入れる。ランドセル を背負った日本人、ガシリア人の子供たちが元気良く校門から走り出してそれぞれの家路についた。サラミド治める領主の意向でこの学校では日本人もガシリア 人も同じ教室で同じ教育を受けている。将来、彼らが大人になれば日本とガシリアの交流に大いに貢献することになるだろう。
「先生!さようなら!」
 その中に混じって重岡の娘、重岡美咲も数人の友達と一緒に校門をくぐった。彼女は門の前で立ち止まった。友達も帰ることなく、彼女といっしょだ。
「美咲ちゃん、今日も来るんでしょ?」
 友達の1人であるガシリア人の少女セリーナが声をかけた。美咲は「うん!」と答えた。とたんに周りの級友もうれしそうに歓声をあげた。
「あ!来た!」
  通学路を歩く子供から声があがった。その直後、学校からサラミド市内に向かう街道に数十騎の騎馬の音が聞こえた。剣に巻き付くドラゴンが火を吐く紋章。ガ シリア王国親衛騎士団の小旗を構えた騎士を先頭に2列縦隊の騎士団が校門で待つ美咲のところで停止した。その中で白馬に乗った騎士が颯爽と下馬して美咲に 歩み寄った。
「美咲様、お迎えにあがりました」
 兜を脱いで素顔を見せたのはにこやかな表情を浮かべるバルクマンだった。とたんに美咲の周りに集まっていた児童から歓声があがる。
「やった!今日はバルにいちゃんだ!」
「海に連れてって!」
「港に福岡からタンカーが入港するんだって!見に行こうよ!」
 子供たちのリクエストにいささか困った表情を浮かべたバルクマンは美咲を見た。「はい!これ」と美咲はランドセルから連絡帳を取り出すとバルクマンに渡した。
「今日の宿題は・・・・、なし。わかりました。でも、5時にはみなさんを家にお送りしますからね」
  連絡帳で子供たちに宿題がないことを確認してバルクマンは美咲たちを用意していた馬車にご案内した。ドローテアと村山の率いる親衛騎士団を取り仕切るのは バルクマンだった。騎士団の重要な任務のひとつは彼らの子女の送迎だった。当然、騎士団長の子供もその対象だ。いつの間にか、騎士団の送迎は小学校の名物 になり、自分だけ特別扱いがいやだった美咲の希望もあって、今は希望者には無条件で騎士団の送迎がなされている。
「バルクマン様、また寄り道をされるのですか?」
 隊列の先頭で旗付きの槍を構える騎士がバルクマンに尋ねた。颯爽と馬に飛び乗ったイケメン騎士は馬車に乗り込んで大はしゃぎの子供たちを見て微笑みながら彼に答えた。
「今日は宿題もないんだ。いいじゃないか」

2005年9月3日 13時12分 ガシリア王国サラミド市内 交易事務所

 事務所の中で、ガシリア王国大公である村山は相変わらずのよれよれのスーツ姿でソファーに座っていた。その向かいには本土からやってきた営業マンが座っている。彼は封筒を村山に差し出した。
「これはなんだ?」
「はあ、福岡の本社からのお気持ちです」
 村山は封筒を持ち上げた。ずっしりと重い。鹿児島の金塊であることは察しがついた。コーヒーを持ってきた美雪にそれを渡す。
「センセー、また賄賂なの?」
 呆れたように美雪が営業マンを見ながら言った。当の営業マンは汗を拭きながら、無駄な抵抗と知りながらしどろもどろの弁明を試みようとする。
「いえ、これは我がメーカーのガス器具をこちらで導入していただくための・・・・・」
「ふざけんな!てめー!帰れ!帰れ!」
  言い終わらないうちに村山の雷が落ちて、営業マンは飛び出していった。最近は需要の多いサラミドで独占的な利益を得ようと村山に賄賂を持ってくる会社も少 なくなかった。サラミドはガシリアと日本の交流の窓口だ。携帯電話をはじめ、電気、LPガス、固定電話も普及しつつある。
「大公殿、大声を出すでない。またステアが泣き出したではないか・・・」
 奥の部屋からドローテアが2人の愛娘であるステアを抱きながら出てきた。ステア・ミランス・村山。日本とガシリアの友好の象徴となるかわいい赤ちゃんは父母の手を煩わせるくらいわんぱくに育っている。愛するわが子を見やった村山は面々の笑みを浮かべた。
「あらら・・・・、ステア、驚かせてごめんなぁ」
 その親バカっぷりに美雪とドローテアは顔を見合わせて笑った。
「騎士団長のお帰りです!」
  そこへ入り口に立つ騎士が声をかけた。とたんに、交易事務所となっている建物の前に、ガシリア王国親衛騎士団の旗を立てたジープが止まった。重岡率いる親 衛騎士団は完全に自動車化されてアジェンダ残党による山賊行為を取り締まっていた。後続の騎士が乗る軽トラックは佐久間老人の提供なので、荷台に乱暴にペ ンキで「親衛騎士団」と書かれているものもあった。
「おお、お疲れ!まあ、ビールでも飲めよ」
 村山は辺境の山賊退治から帰ってきた迷彩服に89式小銃を抱えた重岡、津田、伊藤をソファーに座らせ、缶ビールを持ってこさせた。これらの装備は田所の配慮で親衛騎士団に「貸与」されていることになっているのだ。美雪の持ってきたビールでとりあえず乾杯する。
「村山大公様の事務所は、ここでありますか!」
 いきなり聞こえた威勢のいい声にみんな一斉に振り返った。その瞬間、驚きの声をあげた。
「お、尾上!?」
「尾上二曹?」
 ドローテアが顔を思わずひきつらせた。交易事務所の入り口に風采の上がらないヲタクが立っていた。彼は重岡たちとは一緒に退官しなかったのだが。どうして今頃・・・。誰もがそう思ったが、その答えは尾上自身がしゃべることになった。
「すいません。こっちに来る前に冬コミと夏コミだけは参加しようと思いまして・・・」
「はぁ?」
「もしかして退職金から何から全部つっこんだのか?」
 重岡の質問に尾上はかなり自慢げに地元の人に借りた馬車のモノをみんなに見せた。馬車には山のような同人誌とパソコンゲームが詰め込まれていた。
「ちょっと、超キモイんだけど・・・・」
 美雪が心底イヤそうにつぶやいた。

2005年9月3日 21時42分 ガシリア王国サラミド市内 船着き場

  サラミド港には日米の艦船、ガシリアの帆船が数多く停泊している。村山はこの港の光景が好きだった。福岡からの輸送船にはドローテアの領内から産出された 石油で作られたガスが積み卸しされている。まもなく、サラミド市内では一般人もガスコンロが使えるようになるだろう。「LPG」と書かれたローリー車が何 台も郊外に作られた充填所に走っていくのが見えた。市内を軽トラックの荷台に乗った甲冑の騎士団が巡回しているのが見えた。アジェンダ軍残党による犯罪防 止のためだった。
「やはりここであったか」
 その声に岸壁に座る村山は振り返った。予想通り、ドローテアだった。彼女は娘にも遺伝した自慢の金髪をかきあげながら缶ビールを手渡して夫の横に座った。
「ステアは?」
「事務所にいる。小娘とバルクマンがちゃんと子守してくれている」
 ちゃらんぽらんに見られがちな村山だが、子煩悩なことこの上なかった。津田に言わせれば「今からこれだと将来が思いやられる」とのことだ。
「尾上はどうするよ?」
 渡された缶ビールを軽く飲みながら村山が尋ねた。
「まさか追い返すわけにはいくまい。あれでも大事な第1独立偵察小隊の仲間だからな」
 結局、九州のメンバーがみんなそろってしまったわけだ。村山にはそれはそれで楽しいことになると思われた。きゅっとビールをあおってため息をついた。
「し かし、不思議だな。初めてここに来たときは単なる外国って感じだったが。大公になんてなってみると愛着っていうか、大切なモノに思えてくるんだよなぁ。ま あ宮殿でふんぞり返って家来を侍らすなんて柄じゃないから、事務所で好き勝手やっていても、なんつーかなぁ・・・・」
 言葉がうまく見つからない夫を見てドローテアは笑った。
「ああ!やっぱここだったか」
 重岡が2人を探していたようで慌てて駆けてきた。
「ドローテア様、お忘れじゃないですか?今日は佐久間さんたちが作った新酒の試飲会ですよ。佐久間さんが首を長くして待ってますよ」
 その言葉にドローテアは慌てて立ち上がった。村山も重い腰を上げながらスーツのポケットをさぐっている。
「悪い、先に行っててくれ。ちょっと一服していくから・・・」
「あまり佐久間殿を待たせるんじゃないぞ」
 そう言ってドローテアは笑いながら酒場に向かって走っていった。スーツからタバコを見つけだした村山は100円ライターで火をつけて煙を思い切り吸い込んだ。つられて重岡も同じようにタバコに火をつけて一服した。一息ついたところで村山が港を見ながら言った。
「重岡・・・・。なんか夢みたいじゃないか?俺みたいな男にかわいい娘ができて、今や魔法の国の貴族だぞ。歴史の教科書になんて書かれるんだろうな?」
 いつになく感慨深げな村山の言葉に重岡が思わず吹きだした。それを見た村山は思わずむっとした表情になった。慌てて重岡が取り繕う。
「いや、すまん。おまえがそんなことをまじめに考えるなんてな」
「俺だってたまには考えるさ。今はステアがいるんだ。あいつには立派な父親と母親が必要だからな。そこいらの女子高生みたいに変な虫が付かないように今からしっかりしとかないとな・・・」
 本当に柄でもない言葉を言う村山に重岡が再び笑った。
「あっ、笑ったな。おまえだって美咲がある日優男を連れてきて「彼氏です」なんて言われる日が来るかもしれないんだぞ。」
「美咲に限ってそんなことはあるはずがない。おまえだってステアの彼氏がラッパーだったらどうするよ?」
「ステアに限ってそんなことがあるわけねーだろうが!俺の夢はあいつが結婚式で泣きながら「お父さんいままでありがとう」って手紙を読んで泣くのが夢なんだよ」
「その旦那が茶髪のチーマーでも泣くんだろう?」
「泣くわけねーだろ!叩き出す!」
 2人の言い争いは酒場に到着してドローテア初め、集まった面々に制止されるまで続いた。

  2005年。九州の暫定政府とガシリア王国は新たな道を歩み始めた。ガシリア王国大公、村山はその後数々の国難を腹黒い知恵を駆使して退け、重岡は伊藤と 津田以上にストレスを感じながらも親衛騎士団隊長を勤めあげる。ドローテアと村山の愛娘ステアも聡明に成長し、日本とガシリアの架け橋となる。バルクマン と美雪はこの後結婚して幸せな生活を送ることになった。尾上は騎士団に所属しながらも美少女キャラをガシリアに流行させた教祖として長く、ヲタクたちの間 に名前を残すことになる。
 村山が「酔っぱらいの大公」と教科書に記載され、ドローテアがそれを支えた「稀代の名領主」と記述されるのまでの物語はまた別の機会に・・・・。
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