161 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:56 [ qUq6iUEM ]
青島は夢中になってジファンと狩野達の間へと飛び出していた。
自動小銃では間に合わない、と判断してのことである。
見えたのだ、ジファンの左手の中に幾つもの黒い釘のような物が浮いているのを。
「司令っ!」
ジファンが黒い釘のようなものを浮ばせる左手を下手投げの要領で振り上げようとした時には、青島はジファンと机越し、狩野の目の前へと移動していた。
「(間に合った!)」
そして青島はすぐ自分に降りかかるであろう激しい痛みを覚悟した。
そして青島の身体は真っ赤な血で染められた。
青島自身の血ではなく、天野の血によって。
162 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:56 [ qUq6iUEM ]
くそっ、この坊やが!
天野は自分よりも早く飛び出していく青島を見てそう叫びたい気持ちでいっぱいになった。
確かにベテランである自分を上回る反応速度と上官のために命を捨てるその覚悟は素晴らしいものだ。
しかし、自分の体がどれだけ大切なものであるかを知らない以上、ヒヨッコなのだ。
このような仕事は自分や佐藤、そう下の仕事なのだ、青島のような将来の高級幹部の仕事ではない。
机を踏み台替わりにしてジファンに飛びつく、机の上のワイングラスが踏みつけられ粉々に砕け散る。
そして天野は腹部を何かがすり抜けたように感じた。
そして、激痛。
天野は自らの防弾チョッキ――チタン製防弾プレートで貫通力重視のライフルでもない限り防げると言う触れ込みのはずだったが。――
に三つ銃の跡のような丸い穴が開いているのを見て、倒れた。
163 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:57 [ qUq6iUEM ]
天野を貫通し、背中から生えてくる「黒い釘」は青島の防弾チョッキの表面に当たって弾けて消えた。
「ばっ、バカな・・・。」
この呪文はあらゆるものを貫く、庇ったからと言って防げるものではない、のにもかかわらず傷を負ったのは飛び出てきた男一人。
「ええい、もう一度撃てば済むこと!」
ジファンが叫び指を鳴らす、すると後ろに侍っていた三人の男が青島たちの方を向き、ぶつぶつと何かを言いながら右手を前に出す、その手の中でまた「黒い釘」が形成されていく。
倒れ行く天野の後ろで呆然となった日本側一行、その中で唯一動いた人間が居た。
青島であった。
164 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:57 [ qUq6iUEM ]
彼は本来ならば一番動揺していてもおかしくない位置であった。
しかも体中あちらこちらが血で染まっている。
しかしこれをキレた状態と呼ぶのだろうか、青島は恐るべき冷静さ、恐るべき速度で護身用の9mm拳銃を引き抜き、安全装置を外す、そして倒れる天野を支え、その身体を盾のようにして男の一人の肩に拳銃を向け、引き金を引いた。
ガンパウダーに火がつき、炸裂し、弾が、あらゆるものの命を問答無用で奪い取る死神が打ち出された。
165 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:58 [ qUq6iUEM ]
男の一人、魔術師は篭手を構えた。
幸い敵は呆然としている、自らの精神力を媒体としてマナを手中にかき集め、圧縮する。
そしてそれは自分の魔法詠唱によって比類なき貫通力、殺傷力を持つ。
それを目の前に居る人間達、いや、エルフも一人居るが、の司令官らしき人間の心臓に狙いを定めて放つ。
今までそれで何人もの人間を殺してきたか、ジファンがこの地位に上り詰めるために、同じラーヴィナ候の部下を撃ち殺してきたこともあったが、皆例外なく倒れ伏した。
しかし、何かが破裂するような音がした、そう思った時には魔術師は肩に強烈な痛みを感じていた。
「がっ!…なんだ・・・熱・・・い・・・?」
と呟いた時には視界には天井しか映ってはいなかった。
166 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:58 [ qUq6iUEM ]
ジファンの横を風が通り過ぎた。
「がっ!」
悲鳴と共に部下の一人が仰向けに床に倒れる。
振り向くまもなく又一人が足を何かで撃ちぬかれ倒れる。
目の前のひ弱そうな男が握る黒い鉄の塊から煙が出ているのが見える。
「新型の弓矢か!?」
そう叫ぶと同時に自らの命の危険を感じ取りジファンは横に跳び、非常で入り口に向かって走りだした。
「逃がすか。」
青島はいったんジファンに狙いを定めるが、すぐに我に帰って最後の魔術師へと銃を向けた。
魔術師の黒い釘がこちらに向けて放たれようとしている――反応が遅れた――青島は身を強張らせた。
167 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:59 [ qUq6iUEM ]
ダァンッ!
手がはじけ飛ぶ、魔術師の腕が。肩から千切れた腕が地面に転がる。
青島が後ろを見ると部下の一人、出雲が64式自動小銃を構え、呆然とした顔で自らの煙を吹く銃を眺めていた。
「お、俺・・・は?」
「よくやった、出雲。天野の応急処置をしてやってくれ。」
呆然とする出雲の肩を青島はポンポンと叩いて、狩野たちのほうを向いた。
「ご無事でしたか?狩野司令、福地さん、セフェティナさん。」
「ああ、大丈夫だ・・・。ありがとう。」
狩野が未だにショック症状の福地の代わりに答える。
「今ならまだ、敵指揮官を潰せると思いますが。」
「いや、良い。怪我人の処置が先だ、船に戻る。それに我々は自衛隊、自分から攻めてはいけない。」
「は。」
青島は敬礼をすると天野の怪我の処置をおどおどとする出雲に代わりてきぱきとやっていく。
168 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:59 [ qUq6iUEM ]
「天野・・・、大丈夫か?」
「隊長、心配・・・なさら・・・ないで下・・・さい。」
「何が・・・何が大丈夫なものか!」
突然叫びだす人間が居た、福地である。
「おい!ああいう人間を片っ端から殺すのがお前達の仕事だろう!なんだこのザマは!」
狩野に掴み掛からんばかりの勢いで攻め立てる。
狩野はその福地の襟をぐいと掴んだ・
「な、何をする・・・?」
「ここはもう戦場です、生き残りたければ軍人の指示に従ってください。」
「き、貴様らにそんな指揮権は・・・。」
「それに、まだ正体も知れぬ相手の握手にニコニコと無用心に応じたのはだれでしょうか?」
「ぐっ・・・。」
狩野は襟を放した時、青島に通信が入った。
169 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 15:00 [ qUq6iUEM ]
ヘリ防衛部隊からであった。
「どうした佐藤?」
「た、大変です!船員達が突然矢や剣で我々に攻撃を!威嚇射撃だけでは防ぎきれません。正当防衛射撃の許可を!」
「代わりたまえ。」
狩野は青島の通信機を持つと叫んだ。
「我々も攻撃を受けた、敵船団には明確に我々に対する攻撃の意思があると見られる、正当防衛射撃を許可する。撃て!これは戦争だ!」
「・・・了解。」
異世界に転移してから約2日後、日本は戦後初めての戦争の口火が切られようとしていた。
日本では後に異界戦争、異世界側からは第一次アジェンド大戦と呼ばれる戦いの始まりであった。
青島は夢中になってジファンと狩野達の間へと飛び出していた。
自動小銃では間に合わない、と判断してのことである。
見えたのだ、ジファンの左手の中に幾つもの黒い釘のような物が浮いているのを。
「司令っ!」
ジファンが黒い釘のようなものを浮ばせる左手を下手投げの要領で振り上げようとした時には、青島はジファンと机越し、狩野の目の前へと移動していた。
「(間に合った!)」
そして青島はすぐ自分に降りかかるであろう激しい痛みを覚悟した。
そして青島の身体は真っ赤な血で染められた。
青島自身の血ではなく、天野の血によって。
162 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:56 [ qUq6iUEM ]
くそっ、この坊やが!
天野は自分よりも早く飛び出していく青島を見てそう叫びたい気持ちでいっぱいになった。
確かにベテランである自分を上回る反応速度と上官のために命を捨てるその覚悟は素晴らしいものだ。
しかし、自分の体がどれだけ大切なものであるかを知らない以上、ヒヨッコなのだ。
このような仕事は自分や佐藤、そう下の仕事なのだ、青島のような将来の高級幹部の仕事ではない。
机を踏み台替わりにしてジファンに飛びつく、机の上のワイングラスが踏みつけられ粉々に砕け散る。
そして天野は腹部を何かがすり抜けたように感じた。
そして、激痛。
天野は自らの防弾チョッキ――チタン製防弾プレートで貫通力重視のライフルでもない限り防げると言う触れ込みのはずだったが。――
に三つ銃の跡のような丸い穴が開いているのを見て、倒れた。
163 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:57 [ qUq6iUEM ]
天野を貫通し、背中から生えてくる「黒い釘」は青島の防弾チョッキの表面に当たって弾けて消えた。
「ばっ、バカな・・・。」
この呪文はあらゆるものを貫く、庇ったからと言って防げるものではない、のにもかかわらず傷を負ったのは飛び出てきた男一人。
「ええい、もう一度撃てば済むこと!」
ジファンが叫び指を鳴らす、すると後ろに侍っていた三人の男が青島たちの方を向き、ぶつぶつと何かを言いながら右手を前に出す、その手の中でまた「黒い釘」が形成されていく。
倒れ行く天野の後ろで呆然となった日本側一行、その中で唯一動いた人間が居た。
青島であった。
164 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:57 [ qUq6iUEM ]
彼は本来ならば一番動揺していてもおかしくない位置であった。
しかも体中あちらこちらが血で染まっている。
しかしこれをキレた状態と呼ぶのだろうか、青島は恐るべき冷静さ、恐るべき速度で護身用の9mm拳銃を引き抜き、安全装置を外す、そして倒れる天野を支え、その身体を盾のようにして男の一人の肩に拳銃を向け、引き金を引いた。
ガンパウダーに火がつき、炸裂し、弾が、あらゆるものの命を問答無用で奪い取る死神が打ち出された。
165 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:58 [ qUq6iUEM ]
男の一人、魔術師は篭手を構えた。
幸い敵は呆然としている、自らの精神力を媒体としてマナを手中にかき集め、圧縮する。
そしてそれは自分の魔法詠唱によって比類なき貫通力、殺傷力を持つ。
それを目の前に居る人間達、いや、エルフも一人居るが、の司令官らしき人間の心臓に狙いを定めて放つ。
今までそれで何人もの人間を殺してきたか、ジファンがこの地位に上り詰めるために、同じラーヴィナ候の部下を撃ち殺してきたこともあったが、皆例外なく倒れ伏した。
しかし、何かが破裂するような音がした、そう思った時には魔術師は肩に強烈な痛みを感じていた。
「がっ!…なんだ・・・熱・・・い・・・?」
と呟いた時には視界には天井しか映ってはいなかった。
166 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:58 [ qUq6iUEM ]
ジファンの横を風が通り過ぎた。
「がっ!」
悲鳴と共に部下の一人が仰向けに床に倒れる。
振り向くまもなく又一人が足を何かで撃ちぬかれ倒れる。
目の前のひ弱そうな男が握る黒い鉄の塊から煙が出ているのが見える。
「新型の弓矢か!?」
そう叫ぶと同時に自らの命の危険を感じ取りジファンは横に跳び、非常で入り口に向かって走りだした。
「逃がすか。」
青島はいったんジファンに狙いを定めるが、すぐに我に帰って最後の魔術師へと銃を向けた。
魔術師の黒い釘がこちらに向けて放たれようとしている――反応が遅れた――青島は身を強張らせた。
167 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:59 [ qUq6iUEM ]
ダァンッ!
手がはじけ飛ぶ、魔術師の腕が。肩から千切れた腕が地面に転がる。
青島が後ろを見ると部下の一人、出雲が64式自動小銃を構え、呆然とした顔で自らの煙を吹く銃を眺めていた。
「お、俺・・・は?」
「よくやった、出雲。天野の応急処置をしてやってくれ。」
呆然とする出雲の肩を青島はポンポンと叩いて、狩野たちのほうを向いた。
「ご無事でしたか?狩野司令、福地さん、セフェティナさん。」
「ああ、大丈夫だ・・・。ありがとう。」
狩野が未だにショック症状の福地の代わりに答える。
「今ならまだ、敵指揮官を潰せると思いますが。」
「いや、良い。怪我人の処置が先だ、船に戻る。それに我々は自衛隊、自分から攻めてはいけない。」
「は。」
青島は敬礼をすると天野の怪我の処置をおどおどとする出雲に代わりてきぱきとやっていく。
168 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 14:59 [ qUq6iUEM ]
「天野・・・、大丈夫か?」
「隊長、心配・・・なさら・・・ないで下・・・さい。」
「何が・・・何が大丈夫なものか!」
突然叫びだす人間が居た、福地である。
「おい!ああいう人間を片っ端から殺すのがお前達の仕事だろう!なんだこのザマは!」
狩野に掴み掛からんばかりの勢いで攻め立てる。
狩野はその福地の襟をぐいと掴んだ・
「な、何をする・・・?」
「ここはもう戦場です、生き残りたければ軍人の指示に従ってください。」
「き、貴様らにそんな指揮権は・・・。」
「それに、まだ正体も知れぬ相手の握手にニコニコと無用心に応じたのはだれでしょうか?」
「ぐっ・・・。」
狩野は襟を放した時、青島に通信が入った。
169 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/07/19(月) 15:00 [ qUq6iUEM ]
ヘリ防衛部隊からであった。
「どうした佐藤?」
「た、大変です!船員達が突然矢や剣で我々に攻撃を!威嚇射撃だけでは防ぎきれません。正当防衛射撃の許可を!」
「代わりたまえ。」
狩野は青島の通信機を持つと叫んだ。
「我々も攻撃を受けた、敵船団には明確に我々に対する攻撃の意思があると見られる、正当防衛射撃を許可する。撃て!これは戦争だ!」
「・・・了解。」
異世界に転移してから約2日後、日本は戦後初めての戦争の口火が切られようとしていた。
日本では後に異界戦争、異世界側からは第一次アジェンド大戦と呼ばれる戦いの始まりであった。