655 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:49 [ kHqoVL5Q ]
「ゼナ。」
しばらく黙りこくった後、アルクアイはゼナの方を見ることもせず言った。
「はっ。」
「あれはな、私がまともな人間である唯一の証拠なんだ。」
「え・・・?」
それ以上言葉を口にせず、アルクアイは歩き出した。
ゼナはアルクアイの言った言葉の意味が分からず、ただ立ち尽くすだけであった。
ざくっ、ザクッ。
俺は当ても無く歩いていた、まだファンナの居場所については報告が無い。
あの仮面の男もなかなか根性のある男だったようだ、
どちらにせよ、まずは城内に戻ることが先決だった。
まさか人一人を抱えた人間が番兵の見張っている門から出るわけがあるまい。
ザクッ。
自分の前方から同じように足音がするのを感じ、アルクアイは足を止めた。
それと同時にアルクアイは強烈なマナの干渉波を感じ横に飛びのいた。
と、同時に火球が今まで彼の居た場所を貫くようにして、飛んでいった。
火球は壁に当たることも無く、どこまでも飛んでいった。
「よく、かわしたな。」
アルクアイは声のするほうを見据えた。
そこに居たのは、ファンナを抱えたアルヴァールであった。
656 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:50 [ kHqoVL5Q ]
「何故だ?」
ファンナを受け取り、木の根元に寝かせながらアルクアイは言った。
「それはこの娘を助けたことか、今の攻撃か、どちらの行動に対してだ?」
「両方だ。」
ファンナの身体に積もり始めた雪を払い、そしてアルヴァールを見る。
「この城の中ではあらゆる罪を見逃すわけにいかん。そして今、王家のためにお前を殺す。」
アルヴァールの足元の雪が弾け、舞い上がる。
「!」
アルクアイは慌てて数歩下がった。
が、もうすでに彼の頭には勝算が存在しなかった。
腕に自身はある。だがゼナとロアがこの場に居たとしても
一人で十万の兵に値すると言われる目の前、男が本気で自分を殺そうとしている以上、
生き延びられる望みは薄かった。
「ファンナの件、とりあえず・・・礼を言っておこうか。」
「死に行くものに礼をされる筋合いは無い。が、この娘の命は保障しよう。」
フ・・・。
お互いの口許が微笑で歪んだ。
「止めだ。」
アルヴァールは構えを解き、言った。
「な・・・何?」
アルクアイは拍子抜けし、アルヴァールを見た。この男は一体何を考えているのか。
アルヴァールは自分のマントを翻した、そこには竜と剣をかたどった王家の紋章が鮮やかに染め抜かれていた。
「私は王家のためならば姑息な手も使おう、だが、王家の名にかけて外道に落ちる気はない。
それに、今お前を殺せばこの娘は自分がさらわれたせいだと思うだろうからな・・・。」
「随分と甘いことを言う。」
アルクアイが憎まれ口を叩くとアルヴァールは笑った。
「とりあえず、今日の会議の件、礼を言っておく。が、いつまでも自分の思い通りになると思うな、小僧。」
踵を返し、歩いていくアルヴァールの背中を見て、アルクアイはただ立ち竦んだままであった。
キン・・・キン
共振通信が繋がる。今更になって仮面は情報を吐いたようだった。
657 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:51 [ kHqoVL5Q ]
それから約三ヶ月。
日本は周辺の奴隷島の解放をほぼ終えていた。
アジェントはこれらの島々にほとんど兵を置いておらず、
はっきりいってしまって、この作業はあっけなかった。
支援物資と武器を携え、緊張してやってきた自衛隊員を、島民達は呆然とした眼で見つめていた。
もはや新たな外敵に抵抗する気力すら無かったのである。
「これは・・・ひどい・・・。」
そこで隊員たちが見たものは、略奪されつくし、破壊されつくした村々であった。
「アメリカ大陸発見後のネイティブアメリカンの村の様な物だ、
話には聞いていたが、実際に見るとひどい物だな。」
しかし、最初は警戒していた島民たちも、自衛隊員たちの持ってきた支援物資の山を見ると、
すぐさま警戒を解いた。
それどころか、すぐに歓待の宴を開き、日本の自分達への処遇を聞くと
嬉し涙を流しながら恭順を示したのである。
余程アジェントの略奪はひどい物だったのだろう、これらの反応は何処の島でもそう変わりは無かった。
そして自衛隊は早速これらの島々のいくつかに基地の建設を開始したのである。
更にこれにはもう一つメリットがあった。
これらの島々の凄惨な状況やその写真が、世論を積極派に大きく動かしたことである。
そしてこれらの状況を救った政府に対する支持率も上がりつつあった。
658 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:52 [ kHqoVL5Q ]
もう一方、ラーヴィナとの貿易も順調に始まっていた。
日本側の主な輸出物は鉄、セメント、そして酒であった。
向こうの品物に比べてはるかに質の高い鉄は軍事利用が危惧されたが
輸出物の不足のためにやむなく輸出され、
セメントは硬く、利用も応用が利く建築物質として好まれた。
しかし一番意外かつ、重宝なのは酒であった。
酒があらゆる儀式で使われ、国民も皆酒好きのこの国において、
蒸留酒で強い日本の酒は貴族垂涎の代物で、非常な高値で取引されたのであった。
それに対し、ラーヴィナからは様々な資源、食料が輸出され、
日本の産業もようやく息を吹き返し始めていた。
そしてこの貿易で最も利益を得ていたのはラーヴィナであった。
彼らは日本の品物を輸入し、アジェント全土に売り、
アジェント全土から輸入した品物を日本へと輸出する中継貿易を行っていたのである。
そしてこれによる差額でラーヴィナは莫大な利益を得ていた。
そしてこの貿易はある重大な状況を引き起こし始めていた。
この貿易で、アルクアイは市場よりも高い値段で輸出のための食糧を買い集めた、
そのために諸侯達は争って税を厳しくした上、食糧を買い集めたのである。
貨幣は食べることができない。これは農民達に深刻な食糧不足を引き起こし始めていた。
そうして貿易で得た利益によって税を軽くしていたラーヴィナ以外では、
アジェント国民達の不満が徐々に高まり始めていたのであった。
659 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:52 [ kHqoVL5Q ]
一方、バルトにはアジェントからの使者が何度も使わされていた。
まだ若いエグベルト8世は重要な判断をすることになったのだ。
「アークス、バグマン、どう思う?」
「はい、私達ダークエルフ、ドワーフの種族としては反対です。
ですが、バルト帝国大臣としては、これは願っても無い申し入れだと思います。」
バルト帝国とオズインとの戦争は膠着状態に陥っていた、
しかしそれは消耗戦になっているというわけではない、
これからの戦争においての兵力の不足を危惧したバルトが兵をひいたからであった。
そしてバルトは一種の妥協策を考えていた。
それはオズインとの講和であった。
別にバルトはオズインの土地が欲しいわけではない、
アジェント南の空白地とオズイン西のバルト領を結ぶ通り道と言うだけなのだ、
そして今考えられているのはオズインの西部割譲であった。
バルト帝国は占領地を直接統治することはしない、
割譲されたオズイン西部もオズインに今まで通り、統治を任せる予定であった。
「この同盟が結ばれればオズインは危機に陥ります、
となれば今論議中の講和にもすぐに乗ってくるでしょう。」
「ええ・・・なによりもう戦争をしなくて済むかもしれない。」
エグベルト8世は呟いた
アークスはその様子に彼女が僅か16の少女であることを思い出し、同情した。
そしてまた若くして逝ったエグベルト7世をつくづく惜しく思うのであった。
660 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:53 [ kHqoVL5Q ]
日本と小国との秘密裏の交渉も順調に進んでいた。
最初は所詮召還された奴隷島と日本を見ていた小国群も、
日本の持つ自衛隊の艦を見るとその考えを改め、この客を迎え入れた。
小国群にとってもアジェントが信用できなくなっている今、
このまま我慢して従うか、それとも団結してアジェントに立ち向かうかを決めかねている時であり、
この自らを盟主にしないかという強力な軍事力を持つ国の登場は棚から牡丹餅であった。
しかし得体の知れぬ国家をいきなり盟主と仰ぐわけにもいかない、
そのため今は小国群地域への自衛隊基地と飛行場の建設にとどまり、
(といってもこれも日本の観点からすると許可されたのが意外だったのだが)
今は友好を深めると同時に小国がアジェントからの保護を願う、と言う状況であった。
そして多くの自衛隊機地建設と同時に、自衛隊組織の再編も行われた。
そして海自では異界方面隊という方面隊が新設され、
赤羽が若さ故のタフさとその優れた手腕を買われ司令に任命され、軽空母の建設を開始した。
そして青島もまた、この異界方面隊に編入されたのであった。
「ここが・・・異世界・・・。」
青島はそして、初めて異世界の土を踏んだ。
風は故郷と変わらず優しく自分に吹きつけていた。
二章 糸冬
「ゼナ。」
しばらく黙りこくった後、アルクアイはゼナの方を見ることもせず言った。
「はっ。」
「あれはな、私がまともな人間である唯一の証拠なんだ。」
「え・・・?」
それ以上言葉を口にせず、アルクアイは歩き出した。
ゼナはアルクアイの言った言葉の意味が分からず、ただ立ち尽くすだけであった。
ざくっ、ザクッ。
俺は当ても無く歩いていた、まだファンナの居場所については報告が無い。
あの仮面の男もなかなか根性のある男だったようだ、
どちらにせよ、まずは城内に戻ることが先決だった。
まさか人一人を抱えた人間が番兵の見張っている門から出るわけがあるまい。
ザクッ。
自分の前方から同じように足音がするのを感じ、アルクアイは足を止めた。
それと同時にアルクアイは強烈なマナの干渉波を感じ横に飛びのいた。
と、同時に火球が今まで彼の居た場所を貫くようにして、飛んでいった。
火球は壁に当たることも無く、どこまでも飛んでいった。
「よく、かわしたな。」
アルクアイは声のするほうを見据えた。
そこに居たのは、ファンナを抱えたアルヴァールであった。
656 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:50 [ kHqoVL5Q ]
「何故だ?」
ファンナを受け取り、木の根元に寝かせながらアルクアイは言った。
「それはこの娘を助けたことか、今の攻撃か、どちらの行動に対してだ?」
「両方だ。」
ファンナの身体に積もり始めた雪を払い、そしてアルヴァールを見る。
「この城の中ではあらゆる罪を見逃すわけにいかん。そして今、王家のためにお前を殺す。」
アルヴァールの足元の雪が弾け、舞い上がる。
「!」
アルクアイは慌てて数歩下がった。
が、もうすでに彼の頭には勝算が存在しなかった。
腕に自身はある。だがゼナとロアがこの場に居たとしても
一人で十万の兵に値すると言われる目の前、男が本気で自分を殺そうとしている以上、
生き延びられる望みは薄かった。
「ファンナの件、とりあえず・・・礼を言っておこうか。」
「死に行くものに礼をされる筋合いは無い。が、この娘の命は保障しよう。」
フ・・・。
お互いの口許が微笑で歪んだ。
「止めだ。」
アルヴァールは構えを解き、言った。
「な・・・何?」
アルクアイは拍子抜けし、アルヴァールを見た。この男は一体何を考えているのか。
アルヴァールは自分のマントを翻した、そこには竜と剣をかたどった王家の紋章が鮮やかに染め抜かれていた。
「私は王家のためならば姑息な手も使おう、だが、王家の名にかけて外道に落ちる気はない。
それに、今お前を殺せばこの娘は自分がさらわれたせいだと思うだろうからな・・・。」
「随分と甘いことを言う。」
アルクアイが憎まれ口を叩くとアルヴァールは笑った。
「とりあえず、今日の会議の件、礼を言っておく。が、いつまでも自分の思い通りになると思うな、小僧。」
踵を返し、歩いていくアルヴァールの背中を見て、アルクアイはただ立ち竦んだままであった。
キン・・・キン
共振通信が繋がる。今更になって仮面は情報を吐いたようだった。
657 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:51 [ kHqoVL5Q ]
それから約三ヶ月。
日本は周辺の奴隷島の解放をほぼ終えていた。
アジェントはこれらの島々にほとんど兵を置いておらず、
はっきりいってしまって、この作業はあっけなかった。
支援物資と武器を携え、緊張してやってきた自衛隊員を、島民達は呆然とした眼で見つめていた。
もはや新たな外敵に抵抗する気力すら無かったのである。
「これは・・・ひどい・・・。」
そこで隊員たちが見たものは、略奪されつくし、破壊されつくした村々であった。
「アメリカ大陸発見後のネイティブアメリカンの村の様な物だ、
話には聞いていたが、実際に見るとひどい物だな。」
しかし、最初は警戒していた島民たちも、自衛隊員たちの持ってきた支援物資の山を見ると、
すぐさま警戒を解いた。
それどころか、すぐに歓待の宴を開き、日本の自分達への処遇を聞くと
嬉し涙を流しながら恭順を示したのである。
余程アジェントの略奪はひどい物だったのだろう、これらの反応は何処の島でもそう変わりは無かった。
そして自衛隊は早速これらの島々のいくつかに基地の建設を開始したのである。
更にこれにはもう一つメリットがあった。
これらの島々の凄惨な状況やその写真が、世論を積極派に大きく動かしたことである。
そしてこれらの状況を救った政府に対する支持率も上がりつつあった。
658 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:52 [ kHqoVL5Q ]
もう一方、ラーヴィナとの貿易も順調に始まっていた。
日本側の主な輸出物は鉄、セメント、そして酒であった。
向こうの品物に比べてはるかに質の高い鉄は軍事利用が危惧されたが
輸出物の不足のためにやむなく輸出され、
セメントは硬く、利用も応用が利く建築物質として好まれた。
しかし一番意外かつ、重宝なのは酒であった。
酒があらゆる儀式で使われ、国民も皆酒好きのこの国において、
蒸留酒で強い日本の酒は貴族垂涎の代物で、非常な高値で取引されたのであった。
それに対し、ラーヴィナからは様々な資源、食料が輸出され、
日本の産業もようやく息を吹き返し始めていた。
そしてこの貿易で最も利益を得ていたのはラーヴィナであった。
彼らは日本の品物を輸入し、アジェント全土に売り、
アジェント全土から輸入した品物を日本へと輸出する中継貿易を行っていたのである。
そしてこれによる差額でラーヴィナは莫大な利益を得ていた。
そしてこの貿易はある重大な状況を引き起こし始めていた。
この貿易で、アルクアイは市場よりも高い値段で輸出のための食糧を買い集めた、
そのために諸侯達は争って税を厳しくした上、食糧を買い集めたのである。
貨幣は食べることができない。これは農民達に深刻な食糧不足を引き起こし始めていた。
そうして貿易で得た利益によって税を軽くしていたラーヴィナ以外では、
アジェント国民達の不満が徐々に高まり始めていたのであった。
659 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:52 [ kHqoVL5Q ]
一方、バルトにはアジェントからの使者が何度も使わされていた。
まだ若いエグベルト8世は重要な判断をすることになったのだ。
「アークス、バグマン、どう思う?」
「はい、私達ダークエルフ、ドワーフの種族としては反対です。
ですが、バルト帝国大臣としては、これは願っても無い申し入れだと思います。」
バルト帝国とオズインとの戦争は膠着状態に陥っていた、
しかしそれは消耗戦になっているというわけではない、
これからの戦争においての兵力の不足を危惧したバルトが兵をひいたからであった。
そしてバルトは一種の妥協策を考えていた。
それはオズインとの講和であった。
別にバルトはオズインの土地が欲しいわけではない、
アジェント南の空白地とオズイン西のバルト領を結ぶ通り道と言うだけなのだ、
そして今考えられているのはオズインの西部割譲であった。
バルト帝国は占領地を直接統治することはしない、
割譲されたオズイン西部もオズインに今まで通り、統治を任せる予定であった。
「この同盟が結ばれればオズインは危機に陥ります、
となれば今論議中の講和にもすぐに乗ってくるでしょう。」
「ええ・・・なによりもう戦争をしなくて済むかもしれない。」
エグベルト8世は呟いた
アークスはその様子に彼女が僅か16の少女であることを思い出し、同情した。
そしてまた若くして逝ったエグベルト7世をつくづく惜しく思うのであった。
660 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/11(月) 14:53 [ kHqoVL5Q ]
日本と小国との秘密裏の交渉も順調に進んでいた。
最初は所詮召還された奴隷島と日本を見ていた小国群も、
日本の持つ自衛隊の艦を見るとその考えを改め、この客を迎え入れた。
小国群にとってもアジェントが信用できなくなっている今、
このまま我慢して従うか、それとも団結してアジェントに立ち向かうかを決めかねている時であり、
この自らを盟主にしないかという強力な軍事力を持つ国の登場は棚から牡丹餅であった。
しかし得体の知れぬ国家をいきなり盟主と仰ぐわけにもいかない、
そのため今は小国群地域への自衛隊基地と飛行場の建設にとどまり、
(といってもこれも日本の観点からすると許可されたのが意外だったのだが)
今は友好を深めると同時に小国がアジェントからの保護を願う、と言う状況であった。
そして多くの自衛隊機地建設と同時に、自衛隊組織の再編も行われた。
そして海自では異界方面隊という方面隊が新設され、
赤羽が若さ故のタフさとその優れた手腕を買われ司令に任命され、軽空母の建設を開始した。
そして青島もまた、この異界方面隊に編入されたのであった。
「ここが・・・異世界・・・。」
青島はそして、初めて異世界の土を踏んだ。
風は故郷と変わらず優しく自分に吹きつけていた。
二章 糸冬