685 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:19 [ kHqoVL5Q ]
「…アジェントにアシェナの神の栄光がありますように。」
セフェティナの一日は祈りから始まる。
魔術士官となってからは毎日のように礼拝堂でこの祈りを行ってきた。
アシェナの神は、いつでも自分達を見守っていてくれている、彼女はそう思っていた。
本当に…?
帰るべきか、帰らざるべきか。
セフェティナは迷っていた。
政府はもうすでに周辺奴隷島への侵攻を決めていた。
そしてそれはアジェントと日本の対立を意味する。つまり日本が母国と対立するのだ。
帰るかどうか決めねばならないリミットは刻一刻と迫っていた。
「私はどうすればいいのですか…?アシェナ様………青島さん…。」
「おはよ、セフェティナちゃん。」
ぼうっと廊下を歩いているセフェティナに声をかけたのは佐藤であった。
基地に来た当初はお客様扱いであったセフェティナも時が経つにつれて隊員の面々と打ち解け始めていた、
今はそれが逆に彼女を苦しめる結果となっているのだが。
「あ、佐藤さん…。どうしたんですか?」
「あ、いや、なんか元気なかったからさ。」
「そんなことないですよ、あっ、もう朝御飯の時間ですよね、楽しみだなーっ!」
そう言ってセフェティナはニッ、と笑顔を作り、佐藤に背を向け歩いていった。
「女の子の涙の痕を見て黙っていられる程、俺は無神経な男でもないんだよな…。」
佐藤はもう小さくなった彼女の後姿を見ながらボソリと呟いた。
686 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:20 [ kHqoVL5Q ]
「青い空。輝く海。」
青島は周りを見渡した、彼の言葉通り、澄み渡った空は転移前より美しく感じられ、
青い海も妙な化け物が出てくること以外はその汚染から解放されたようだった。
といっても日本が丸ごと召還されたのだから空気はそんなには変わらないはずなのだが、
とにかく青島はそう感じたのだ。
「これで仕事が無かったらな…。」
セフェティナに町でも案内してやろうと思っていたのに、と彼は心の中で続けた。
しかし、周辺諸島への侵攻が決まった以上、その準備で彼らは目のまわるような忙しさの中に居た。
特に青島の場合、特別幹部候補になっているため余計であった。
あの赤いバッジを加藤結衣三尉に渡されて、それがどういう意味であるかを知ってからというもの、
ほぼ毎日のように研修会が開かれていたのだった。
当然その面子の中に結衣も居たのだが青島は一度以外彼女とほとんど会話することが出来なかった。
しかもとどめにはこの侵攻における青島の配属先は、
「なんか俺の行くところ激戦区ばっかだなあ…。」
三介島―――日本が仮につけた名だが―――への侵攻軍であったのだ。
687 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:20 [ kHqoVL5Q ]
三介島、青島がその名を知ったのは研修中、加藤との一度きりの会話の中でであった。
「青島二尉、今度の任務について話があるの。」
「ん、なんだ?」
研修が終わり、他の特幹候補が宿舎に戻ろうと言う時、青島は加藤に呼び止められた。
彼女の向かいの椅子に座ると彼女は一枚の地図を出した。
世界地図。もちろんこの世界の物だ。
「それで、まず質問。」
加藤は机越しにズイッと青島に顔を近づけた。
「召還された島、全部名前言える?」
「ん、ああ。一燐島、二弦島、三介島、四黒島、五系島、六案島だろ?」
幾ら応急とはいえ随分と簡単な名前をつける、日本の間ではなかなか笑いの種となっていた。
「…。」
「どうした?」
「いや、正解。全部あっさりと答えるとは思ってなかったから。」
加藤は軽く笑うと三介島を指差した。
「それで今回の話はここについて。」
青島は加藤の顔を見た、一度目にあったときのあの棘々した態度はだいぶ和らいでいるようだった。
といっても何故か敵意、というよりライバル心はまだ青島に向けられているようだったが。
「ちょっと、聞いてる?」
「ああ、それで?」
慌てて青島が先を促すと加藤は続けた。
「この三介島はね…。」
688 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:22 [ kHqoVL5Q ]
「この三介島は他の島と違ってラーヴィナ候が代理管理していない。
そしてここを管理しているのは誰かと言うと、王家最大の忠臣で戦上手と言われる鉄騎士カリヴァン候。
その上ここにはかなり大規模な鉱山がある。」
「ラーヴィナ候の代理管理していた島なら兵をひいてくれるが、
三介島はそうはいかない、その上大規模な戦いになる可能性があるということか。」
「そ。けどもう一つこれには意味があるわ。」
そこで言葉を切って加藤は青島を見た。
明らかに目は「分かる?」と聞いている。
さすがにここで答えを聞くのもなんである、青島は地図を見て、その意味に気が付いた。
「カリヴァン候の領地は小国群とラーヴィナに挟まれているのか・・・。」
「そう、小国群を私達の支配下に入れたとして、アジェントとの戦争でこの領地は重大な意味を持つ。」
「だからここでこちらの力を見せ付けておく必要があるわけだ。
場合によっては戦わずして降伏させることも出来るかもしれない。いわゆる前哨戦だな。」
「そういうこと。なかなかやるじゃない。」
加藤は笑いながら頷いた、青島もそれに釣られて笑みを浮かべた。
「けどつまりこの話を俺にするということは…。」
「そう、私達二人はこの三介島への派遣部隊の一員になったわ。
特にあなたの隊は対魔法戦闘を経験した貴重な小隊なんだから、赤羽海将の期待を裏切らないように。」
「はは…了解。」
青島はどっと身に疲れと、それ以外の何かがのしかかるのを感じた。
689 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:23 [ kHqoVL5Q ]
その日の仕事が終わり、夕食を食べに青島は食堂に向かった。
「よう、隊長。」
「ああ、村田さん、怪我の具合はもう良いみたいですね。」
「ああ、天野と違ってかすり傷だからな、奴は現場復帰にはもう少し時間がかかるようだが。」
「隣良いか?」
「いいっすよ。」
青島が村田の向かい、沢村の隣に座ろうとした時、村田は思い出したように言った。
「ああ、そういえば佐藤がお前のことを探していたぞ、今食堂に居るだろうから、探しにってやったらどうだ?」
食事を済ませ、青島が辺りを見回すと佐藤は簡単に見つかった。
同期、つまり新米の面々と一緒に居る、つまり一番うるさいテーブルにいたのだから当たり前だが。
「佐藤。」
「あ、隊長!」
佐藤が言うと彼の同期の面々が一斉に青島を見た、
正確には彼の襟元の赤いバッジと彼の顔で半分づつ視線が集まった。
「あ、この人が例のティナちゃんの…ウラヤマシイ。」
「本当に赤いバッジ…。」
「ねえ、ティナちゃんとは何処まで行ったんですか?」
彼らの中ではセフェティナはティナと略されているようだった。
中学生のような最後の質問をした男に軽い蹴りを加え、青島は佐藤の方を向いた。
「俺を探してたようだが…、何か用か?」
「いや、用なのは俺じゃなくってティナちゃんなんですけど…。」
「セフェティナが?」
690 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:23 [ kHqoVL5Q ]
「涙の痕…?」
青島は佐藤に聞き返した。
「はい。心当たりありませんか?」
十分にある。青島は今のセフェティナの状況を思って目を瞑った。
「探してくる。」
そして青島は佐藤の言葉には返事をせずに身を翻し、食堂から出て行った。
「…。」
ある種取り残されたような感覚に陥り、佐藤たちの間に沈黙が流れた。
「全くお熱いこって…。」
状況を良く分かってない佐藤の同期の一人が言い、また馬鹿話は再開されたのであった。
一方青島はセフェティナを探し回っていた。
探し回るといっても彼女の行動範囲は狭い、自分の部屋に、他数箇所、しかし見つからない。
「どこに行ったんだ…?」
どこにもいないとなれば、最悪の事態も考えられる。
少なくとも自分はいきなり見知らぬ外国に暮らすことになった上、
その国と日本が戦争をすることになったら相当苦しむだろう。
しかし、涙を流すまで苦しんでいるのを気付いてやれなった。
そんな素振りを彼女は少しも見せなかったのだ。
探し疲れ、青島が自分の部屋に戻ると、そこには人の気配があった。
青島は扉を開けた。そこに居るのは今までさんざん捜し求めていた少女だった。
「やっと、見つけた…。」
この言葉を言ったのは青島ではなかった。
そして次の瞬間には青島はセフェティナに抱きしめられていた。
「…アジェントにアシェナの神の栄光がありますように。」
セフェティナの一日は祈りから始まる。
魔術士官となってからは毎日のように礼拝堂でこの祈りを行ってきた。
アシェナの神は、いつでも自分達を見守っていてくれている、彼女はそう思っていた。
本当に…?
帰るべきか、帰らざるべきか。
セフェティナは迷っていた。
政府はもうすでに周辺奴隷島への侵攻を決めていた。
そしてそれはアジェントと日本の対立を意味する。つまり日本が母国と対立するのだ。
帰るかどうか決めねばならないリミットは刻一刻と迫っていた。
「私はどうすればいいのですか…?アシェナ様………青島さん…。」
「おはよ、セフェティナちゃん。」
ぼうっと廊下を歩いているセフェティナに声をかけたのは佐藤であった。
基地に来た当初はお客様扱いであったセフェティナも時が経つにつれて隊員の面々と打ち解け始めていた、
今はそれが逆に彼女を苦しめる結果となっているのだが。
「あ、佐藤さん…。どうしたんですか?」
「あ、いや、なんか元気なかったからさ。」
「そんなことないですよ、あっ、もう朝御飯の時間ですよね、楽しみだなーっ!」
そう言ってセフェティナはニッ、と笑顔を作り、佐藤に背を向け歩いていった。
「女の子の涙の痕を見て黙っていられる程、俺は無神経な男でもないんだよな…。」
佐藤はもう小さくなった彼女の後姿を見ながらボソリと呟いた。
686 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:20 [ kHqoVL5Q ]
「青い空。輝く海。」
青島は周りを見渡した、彼の言葉通り、澄み渡った空は転移前より美しく感じられ、
青い海も妙な化け物が出てくること以外はその汚染から解放されたようだった。
といっても日本が丸ごと召還されたのだから空気はそんなには変わらないはずなのだが、
とにかく青島はそう感じたのだ。
「これで仕事が無かったらな…。」
セフェティナに町でも案内してやろうと思っていたのに、と彼は心の中で続けた。
しかし、周辺諸島への侵攻が決まった以上、その準備で彼らは目のまわるような忙しさの中に居た。
特に青島の場合、特別幹部候補になっているため余計であった。
あの赤いバッジを加藤結衣三尉に渡されて、それがどういう意味であるかを知ってからというもの、
ほぼ毎日のように研修会が開かれていたのだった。
当然その面子の中に結衣も居たのだが青島は一度以外彼女とほとんど会話することが出来なかった。
しかもとどめにはこの侵攻における青島の配属先は、
「なんか俺の行くところ激戦区ばっかだなあ…。」
三介島―――日本が仮につけた名だが―――への侵攻軍であったのだ。
687 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:20 [ kHqoVL5Q ]
三介島、青島がその名を知ったのは研修中、加藤との一度きりの会話の中でであった。
「青島二尉、今度の任務について話があるの。」
「ん、なんだ?」
研修が終わり、他の特幹候補が宿舎に戻ろうと言う時、青島は加藤に呼び止められた。
彼女の向かいの椅子に座ると彼女は一枚の地図を出した。
世界地図。もちろんこの世界の物だ。
「それで、まず質問。」
加藤は机越しにズイッと青島に顔を近づけた。
「召還された島、全部名前言える?」
「ん、ああ。一燐島、二弦島、三介島、四黒島、五系島、六案島だろ?」
幾ら応急とはいえ随分と簡単な名前をつける、日本の間ではなかなか笑いの種となっていた。
「…。」
「どうした?」
「いや、正解。全部あっさりと答えるとは思ってなかったから。」
加藤は軽く笑うと三介島を指差した。
「それで今回の話はここについて。」
青島は加藤の顔を見た、一度目にあったときのあの棘々した態度はだいぶ和らいでいるようだった。
といっても何故か敵意、というよりライバル心はまだ青島に向けられているようだったが。
「ちょっと、聞いてる?」
「ああ、それで?」
慌てて青島が先を促すと加藤は続けた。
「この三介島はね…。」
688 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:22 [ kHqoVL5Q ]
「この三介島は他の島と違ってラーヴィナ候が代理管理していない。
そしてここを管理しているのは誰かと言うと、王家最大の忠臣で戦上手と言われる鉄騎士カリヴァン候。
その上ここにはかなり大規模な鉱山がある。」
「ラーヴィナ候の代理管理していた島なら兵をひいてくれるが、
三介島はそうはいかない、その上大規模な戦いになる可能性があるということか。」
「そ。けどもう一つこれには意味があるわ。」
そこで言葉を切って加藤は青島を見た。
明らかに目は「分かる?」と聞いている。
さすがにここで答えを聞くのもなんである、青島は地図を見て、その意味に気が付いた。
「カリヴァン候の領地は小国群とラーヴィナに挟まれているのか・・・。」
「そう、小国群を私達の支配下に入れたとして、アジェントとの戦争でこの領地は重大な意味を持つ。」
「だからここでこちらの力を見せ付けておく必要があるわけだ。
場合によっては戦わずして降伏させることも出来るかもしれない。いわゆる前哨戦だな。」
「そういうこと。なかなかやるじゃない。」
加藤は笑いながら頷いた、青島もそれに釣られて笑みを浮かべた。
「けどつまりこの話を俺にするということは…。」
「そう、私達二人はこの三介島への派遣部隊の一員になったわ。
特にあなたの隊は対魔法戦闘を経験した貴重な小隊なんだから、赤羽海将の期待を裏切らないように。」
「はは…了解。」
青島はどっと身に疲れと、それ以外の何かがのしかかるのを感じた。
689 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:23 [ kHqoVL5Q ]
その日の仕事が終わり、夕食を食べに青島は食堂に向かった。
「よう、隊長。」
「ああ、村田さん、怪我の具合はもう良いみたいですね。」
「ああ、天野と違ってかすり傷だからな、奴は現場復帰にはもう少し時間がかかるようだが。」
「隣良いか?」
「いいっすよ。」
青島が村田の向かい、沢村の隣に座ろうとした時、村田は思い出したように言った。
「ああ、そういえば佐藤がお前のことを探していたぞ、今食堂に居るだろうから、探しにってやったらどうだ?」
食事を済ませ、青島が辺りを見回すと佐藤は簡単に見つかった。
同期、つまり新米の面々と一緒に居る、つまり一番うるさいテーブルにいたのだから当たり前だが。
「佐藤。」
「あ、隊長!」
佐藤が言うと彼の同期の面々が一斉に青島を見た、
正確には彼の襟元の赤いバッジと彼の顔で半分づつ視線が集まった。
「あ、この人が例のティナちゃんの…ウラヤマシイ。」
「本当に赤いバッジ…。」
「ねえ、ティナちゃんとは何処まで行ったんですか?」
彼らの中ではセフェティナはティナと略されているようだった。
中学生のような最後の質問をした男に軽い蹴りを加え、青島は佐藤の方を向いた。
「俺を探してたようだが…、何か用か?」
「いや、用なのは俺じゃなくってティナちゃんなんですけど…。」
「セフェティナが?」
690 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/22(金) 21:23 [ kHqoVL5Q ]
「涙の痕…?」
青島は佐藤に聞き返した。
「はい。心当たりありませんか?」
十分にある。青島は今のセフェティナの状況を思って目を瞑った。
「探してくる。」
そして青島は佐藤の言葉には返事をせずに身を翻し、食堂から出て行った。
「…。」
ある種取り残されたような感覚に陥り、佐藤たちの間に沈黙が流れた。
「全くお熱いこって…。」
状況を良く分かってない佐藤の同期の一人が言い、また馬鹿話は再開されたのであった。
一方青島はセフェティナを探し回っていた。
探し回るといっても彼女の行動範囲は狭い、自分の部屋に、他数箇所、しかし見つからない。
「どこに行ったんだ…?」
どこにもいないとなれば、最悪の事態も考えられる。
少なくとも自分はいきなり見知らぬ外国に暮らすことになった上、
その国と日本が戦争をすることになったら相当苦しむだろう。
しかし、涙を流すまで苦しんでいるのを気付いてやれなった。
そんな素振りを彼女は少しも見せなかったのだ。
探し疲れ、青島が自分の部屋に戻ると、そこには人の気配があった。
青島は扉を開けた。そこに居るのは今までさんざん捜し求めていた少女だった。
「やっと、見つけた…。」
この言葉を言ったのは青島ではなかった。
そして次の瞬間には青島はセフェティナに抱きしめられていた。