自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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1098年10月1日 午前8時 ラグナ岬沖北東320マイル
「気をー付けぇ!」
飛行甲板に集まった、白い軍服を来た将兵が、その号令と共に直立不動の態勢をとる。
空母レキシントンⅡの飛行甲板上で、厳粛な儀式が始まろうとしていた。
その儀式とは、死者を弔うための儀式、水葬、である。
昨日の航空戦で、レキシントンは5機のF6F、5機のヘルダイバー、6機のアベンジャーを
敵地や着艦事故で失い、12機が修理不能とみなされて廃棄処分された。
その12機の艦載機の中に、負傷が元で亡くなったパイロットは4人。
戦死が確定されている者も含めると、レキシントン・エアグループは合計で24人のパイロットが、
異世界の地で帰らぬ身となっている。
このため、レキシントンではこの日の8時に、水葬を執り行う事を決定した。
24の、星条旗に包まれた棺が並べられている。
従軍牧師が、祈りの言葉を伝えた後、儀仗隊の1人が星条旗を掲げ、残りの数人が持っていた小銃を上空に向け、撃つ。
バーク大佐の隣で、その様子を見つめていたリリア・フレイド魔道師は、内心複雑な心境であった。
戦死したパイロットに哀悼の意を捧げる気持ちと、この世界に呼んでしまった後悔の念が絡み合っている。
(亡くなったパイロット達は、どのような思いをして命を散らしていったのだろうか・・・・
この世界に呼ばれた事への恨みなのか・・・・・・はたまた・・・・・)
彼女は思いを巡らせる。
しかし・・・・・結論は出なかった。
「わからない・・・・・・・・」
リリアは、ぽつりと漏らす。
「ん?何か言ったかね?」
隣にいたバーク大佐が、怪訝な表情で聞いてくる。リリアは首を振り、
「いいえ、何も。」
「そうか。」
バーク大佐はそう呟くと、視線を元に戻した。

パパパーンという射撃音とラッパの吹聴が聞こえ、どことなく、もの悲しく思えてくる。
「戦死者に対し、敬ー礼!」
鋭い声が聞こえ、直後に皆が敬礼を行う。
棺が舷側エレベーターに運ばれていく。
24個全てが運び終わると、10人ほどの兵と一緒にエレベーターが一番下までに降ろされていく。
エレベーターが降ろされると、棺が海に落とされる。
物が落ちる音が飛行甲板にまで響き、小さな水柱が立ち上がる。
棺は、1つ1つ、別れを惜しむかのようにゆっくりと減っていく。
ふと、誰かがすすり泣くような声が聞こえてきた。
声のほうを、リリアはちらりと見てみた。声の主は、彼女の3つ左隣にいた。
レキシントンの飛行長、スノードン中佐である。
彼は、普段は陽気でいて、酒が入るとやたらに絡んでくる。
だが、乗員はいつも自分の家族と言い放っており、パイロットのみならず、艦の乗員の信頼も厚い。
普段、悲しむ事を感じさせない雰囲気のスノードン中佐が、泣いている。
水葬はまだ終わらない。海に落とされる棺は、まだまだあった。
やがて、24個の棺が全て落とされると、レキシントンは右に回頭し始める。
艦橋と一体化した煙突から、汽笛が鳴らされる。
それは、レキシントンが一周するまで続けられた。リリアの目からは、うっすらと、涙が滲んでいた。

午前10時 第5艦隊旗艦戦艦ノースカロライナ
ノースカロライナの甲板上で、第5艦隊司令長官のスプルーアンス大将は、ランニングと短パンに
着替えて、ノースカロライナの甲板上でウォーキングを行っていた。
今回は、レイム・リーソン魔道師と、兵站参謀のビッグス大佐が一緒になっている。
ノースカロライナの甲板で、日々の作業を行っていた将兵は、突然の艦隊司令長官の
行動にやや驚いたが、同時にいいと思うこともあった。
それは、レイムである。彼女は、おとといのギルガメル諸島沖海戦で受けた傷の箇所にガーゼを貼っていたが、
レイムの美貌は、ノースカロライナ乗員の注目を集めた。
彼女の格好は、今で言うTシャツと長ズボンの格好であるが、それがレイムのスタイルのよさを表していた。
ウォーキングが開始された5分ぐらいは、スプルーアンスやビッグスよりも、
レイムのほうに注目が集まっていたが、20分経った今ではそれも無くなり、将兵達は元の作業に戻っている。

「提督は、いつもこのような事を行っているのですか?」
スプルーアンスの右隣で歩くレイムが聞いてくる。
「いつもではないさ。」
彼は微笑みながら、彼女に答える。
「ストレスが溜まったときとか、やりたいと思った時ぐらいだよ。」
「そうですか。ということは、いつも誰かを誘ってから、甲板を歩いているのですか?」
「いや、いつもではないよ。」
スプルーアンスに変わって、ビッグス大佐が答える。
「今日みたいに、他の幕僚を誘う事もあるけど、大体はいつも1人で甲板を歩き回っているんだ。」
「1人で歩きたいと思うからね。」
スプルーアンスは頷きながら言う。
「色々な事を考えながら歩くよ。例えば・・・・友人の事とか、家族の事とか。」
(あたしの父と、同じだ)
不意に、レイムはそう思った。彼女の脳裏には、小さい頃に、よく父と散歩したころが思い出されていた。
彼女の父も、スプルーアンスと同じように散歩好きであった。
休日のころになると、父は張り切って、皆で散歩に出かけようと言っていたものだ。
不思議と、嫌と言う気持ちにはならなかった。むしろ、父との散歩は楽しみでもあった。
月に一度には、少し遠いところにまで歩いていき、いい木陰や丘を見つけると、そこで持参した食料を持って、よく食べていた。
戦争が始まる1週間前にも、レイムは父と、家族で散歩に出かけていた。
あれからもう2年以上が経っている。昔の良き思い出に浸っていると、スプルーアンスが問いかけてきた。
「レイム君は、家族と一緒に散歩とかはしたことはあるかね?」
「え?」
一瞬、間の抜けた言葉を言うが、慌てて返事をする。
「は、はい。」
「そうか。いつもは冷静沈着な君が、返事に間を置くとは珍しいな。流石に疲れてるのかな?」
そう言うと、スプルーアンスは笑みを浮かべた。
「いえ、別に疲れてはありません。ただ、ちょっと昔の思い出に浸っていただけで。」
「なるほど。家族の事かね?」
「そうです。実は・・・・家族も、とりわけ、父のほうが、提督と同じように散歩好きでして。」

「ほう。」
スプルーアンスは、そうなのかと言いたげな表情を浮かべる。
「小さい頃から、たまの休日にひょっこり帰ってきては、家族にちょっと散歩に行こうと言い出して、
いろいろ面白い話を聞かせながらよく散歩に連れて行かされました。」
「その父上は、いい趣味をしているな。」
「あたしから言えば、いい趣味かな?と首を傾げますね。母が断っても、
強引に連れて行こうとしたときもあるので。」
「ハッハッハ!それは、少し度が過ぎるな。私はそこまでじゃないぞ。」
珍しく、スプルーアンスが声を上げて笑う。
左隣のビッグス大佐は、さてどうだかといいたげな表情を浮かべて苦笑する。
「しかし、確かに散歩はいいものだよ。たまにこうやって汗を流し、任務を一時的にでも忘れたほうがいい。
人間、ひとつの事ばかりをやってると、後々余裕がなくなるからね。」
「なるほど・・・・・・」
レイムは納得したような表情で頷く。
「そういえば、何か面白い話とかないかね?」
彼はレイムに言ってきた。
「面白い話・・・・ですか?」
「ああ。なんでもいい。」
レイムはしばらく考え込んだ後、あることを思い出して話し始めた。
「今から4年ほど前になりますか・・・・・ちょうど仕事の休みの日に、一度実家に帰ったんです。
確か夕方辺りだと思いますけど、なぜか父が全身ずぶ濡れで帰ってきたんです。母と一緒に。」
「ずぶ濡れだって?」
ビッグスが頓狂な声を上げる。
「どっかの川に落ちたのかい?」
「いいえ、ちょっと違いますね。」
「違うだと?」
スプルーアンスは首を捻る。
「はい。で、あたしがなんで父はずぶ濡れでいるかと聞くと、母が最初にこう答えたんです。
裏の川に放り込んでやったと。」

「「どうして?」」
不意に、ビッグスとスプルーアンスの声がハモる。
「話の内容はこうです。あたしが帰ってくる20分ほど前に、父が母に散歩に行こうといったらしいんです。
最初、母はそれを断って、家事が忙しいから明日にしてと言ったんです。でも、父はそれをしつこく
言って、しまいには強引に腕を引っ張って、連れて行こうとしたんです。あまりにもしつこかったため、
母はついに怒ってしまい、一緒に行くと見せかけて、裏の川に連れ込み、足蹴りで落とした、って言ってました。」
「ハハハハハハ!それは仕方が無いな!」
思わず、ビッグスが笑い出した。
「それから1週間は、母は父と満足に口も聞いてくれなかったようで。」
レイムが、頬をぽりぽり掻きながら言う、離しているレイム自身も、口元に笑みを浮かべている。
「流石に、そこまでいくと病気だな。」
「いや、長官も人のことを言えませんぞ。」
「何だとビッグス、私にそんなことあったかね?」
「ありますよ。」
ビッグスが断言する。
「戦争が始まる前に、プエルトリコの基地司令に任じられたときに、
幕僚達が休日を一緒に過ごしたいと言ったら、散歩が大好きだねといって、
部下達を引かせたじゃないですか。」
「馬鹿者。あれは違うだろう。それに、あの時は本当に散歩がしたかったのだよ。
散歩と言っても、1人散歩だから周りに面枠はかけとらんさ。」
「いや、似たようなものですよ。」
「こらこら、そんなにしつこくせんでもいいだろう。それにレイム君の手前だからやめたまえ。」
「いえ、やめませんぞ!」
普段、マイペースのスプルーアンスに少しばかり不満を持つビッグスは、この機会に思う存分言ってやれ、とばかりに食い下がる。
しかし、わずか5分で押し問答はスプルーアンスに軍配があがった。

「まっ、とにかく。人間、だれでもストレスを解消する方法があるものだ。つまり、その人なりの心の安らぎ方があるというものさ。
方法は人それぞれだが、何も休まらずにがむしゃらに仕事をやりまくるよりは、こうやって一息つくのがいいのだよ。
そうすれば、内心の疲れも飛んで、後の仕事もやりやすくなる。最も、これは私のやり方だがね。」
そう言って彼は締めくくった。
「よく分かりました。」
レイムは元気のいい声で返事をする。
「いつも思いますが、長官と議論すると、やっぱり勝てませんな。」
「そう気を落とす事も無い。たまたま、その時の議論がうまかっただけだ。
私も議論にいつまでも勝ち続けるとは思ってないよ。」
彼はかぶりを振ってそういった。
「それはともかく、レイム君。こういう場でいうのもなんだが。」
スプルーアンスは語調を変えた。
「我々の帰還儀式はどうなっている?」
「帰還儀式については、まだ詳しい事はいえません。しかし、儀式魔法の基礎部分は、
召喚時に行おうした儀式魔法と、似通っています。帰還魔法はそれを応用して製作していくので、
本来は半年か4ヶ月はかかる魔法製作は、最長でも3ヶ月か、1ヵ月半に縮まります。
私達の努力しだいでは、1ヶ月半ほどで完成することも可能かもしれません。」
「そうか。君の召喚メンバーも、全員が復帰して、ヴァルレキュア国内で頑張っていることだからな。」
スプルーアンスはレイムに顔を向ける。
「レイム君、くどいかもしれぬが、帰還魔法については頼む。現世界では我々を待っているものも多くいる。」
「待っている・・・・ですか。」
「ああ。色々な人達がな。」
そう言うと、スプルーアンスは顔を前に向きなおした。
「今日、夢に見たのだよ。私の友人に、ハルゼーと言う者がいるのだ。私と同じ海軍大将だ。
そのハルゼーが率いる艦隊が、空母や戦艦、輸送船団を率いてマリアナに向かう光景が、夢で見えたのだ。」

彼は、いつもと変わらぬ怜悧な口調で言う。
だが、内心では、どこか不安がるような気持ちが混ざっていた。
「あくまで夢の話だがね。でも、夢としてはどこかリアルすぎたな。」
「リアルすぎる・・・・・ですか。」
ビッグス大佐が表情を強張らせる。
「しかし、考えられぬ事ではありません。今は10月ですが、太平洋艦隊も
新鋭のエセックス級空母が新たに数隻配備されてもいい時期です。」
「在来の空母サラトガやイントレピッド、召喚当時には配備されたてのフランクリンと
軽空母のインディペンデンス。それに9月中に配備される予定のタイコンデロガとハンコック、
ベニントンが加われば、空母機動部隊の形も整えられる。それに護衛艦艇も充実している。
確かに侵攻は可能だろう・・・・・・・被害を無視すればの話だが。」
「提督、度々話に出てくる日本という国ですが、その国は強いのですか?」
レイムが聞いてきた。
「強い。」
スプルーアンスは即答した。
「現在、わがアメリカ海軍の戦力は完全に日本海軍を上回っている。だが、ただ上回っていると
言う話だ。実際戦えば、損害ゼロというわけにはいかない。それに、最初はその日本と言う国が、
わが軍を圧迫していた。戦争2年目では、数少ない空母も行動可能な艦がいなくなり、一時は非常に危ない時期を迎えていたのだ。」
スプルーアンスは、太平洋艦隊参謀長を務め始めた、1942年後半を思い出していた。
あの時、米海軍は今とは比べ物にならぬぐらい苦しかった。
空母機動部隊は、日本機動部隊によって叩かれ、水上部隊は度々勝利を収めるものの、それも味方の血の代償によって収めたものである。
各部隊からは、悲鳴のような報告が相次ぎ、米軍の戦線は、日本にはない物量の差でやっと埋めている有様だった。
「果てしない殴り合いのような戦いだったが、我々はそれに勝利を収め、日本側の拠点を次々と落としていった。でも、」
彼の表情に、一瞬陰りがよぎった。

「勝利は得ても、味方の犠牲をゼロにすることはできなかった。
私は、通常戦でいつも味方の勝利を極限に押さえ、敵に最大の損害を与える方法を研究している。
あれこれやって、確かに成果は収めている。だが、戦死者ゼロというものはなし得られない。
戦争の宿命と分かりきっているのだが、どうしてどうして、作戦終了後にはどこか辛く感じるものだ。」
スプルーアンスは、苦笑しながらそう言い放つ。
彼の始めての表情に、レイムは戸惑いを感じた。
「おっと、こんな場で、こういう話はいかんな。ビッグス、何か面白い話はないかね?」
スプルーアンスはすぐにもとの表情に戻して、話題を別のものに変えた。
だが、レイムには別の事が心にあった。
普通、将軍や群を統率するものというものは、常に威厳に満ち、自分のしてきたことを
誇らしげに思うものだと、レイムは感じていた。
スプルーアンス自身も、自分の行った成果には誇りを持っていた。
だが、誇りを感じると同時に、彼は自分が行った作戦で、多くの敵味方の
将兵を殺した事を実感しているのである。
彼女はレイモンド・スプルーアンスという男を見て考え方がかわった。
そう、彼女は作戦を指導する将というものは、敵味方の痛みもわからなければならないと、今初めて知ったのだ。

彼が指揮した作戦で幾多もの敵味方の将兵が死んだのだから。

そんなスプルーアンスは、いつもと変わらぬ口調でビッグス大佐と話し合っている。
先の言葉を発したときの陰りのある表情は、綺麗さっぱり消えうせていた。

(敵味方の痛みが分かるか・・・・・それは、誰でも必要な感情なのかもしれない)
レイムは、スプルーアンスのような軍人も、この世界には充分に必要だと思った。
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