自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

007_第6話 TF23の受難

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第6話 TF23の受難

1841年11月12日 午前8時30分 ニューヨーク北東1400マイル地点

「明日、予定海域に到着します。」
航海参謀が、海図に書き込んだ線を指しながら、TF23司令レイ・ノイス少将に説明した。
現在、TF23は出港して以来、実に2200キロを航海した事になる。
速力は18~22ノットの間でずっと東を目指している。

「TF25とTF27は?」
「定時連絡では、TF25はノーフォークより東北東1000マイル、
TF27はニューヨーク沖より北北西1000マイルとなっています。」
「TF25、27が定位置に付くのは、早くても明日の午後以降だな。」

今の所、巨大な海洋生物が襲って来た、とか、シホールアンル艦の追撃を受けた、とかの報告は入っていない。
往路に、2隻ほど漁船らしい船と、遠くを擦れ違ったのみだ。

「全ては順調だな。」
「司令官、どこか具合でも悪いのですか?」

参謀長のビリー・ギャリソン大佐が心配そうな表情を浮かべる。

「いや、何とも無いが、どうしたのかね?」
「少し顔色が優れないようですが。」
「あ?ああ。心配はいらんよ。ただ、少し寝不足なだけだよ。
そんなもの、飛行甲板でジョギングすれば吹っ飛ぶがね。」

そう言って、ノイス少将は笑みを浮かべる。

「そうですか。今の所、各任務部隊とも異常無しです。」
「うむ。それでいい。」
そう言って、ノイス少将は作戦室から艦橋に戻る。
艦橋には、艦長のジョン・リーブス大佐が航海科の士官と話し合っていた。

「やあ艦長、調子はどうだね?」
「今のところは異常無しですよ。」

丸顔のリーブス大佐が満面の笑みで答えた。

「本来は、異常無しが最善なのだろうが、それが続くと、早く家に帰りたいと思ってしまうね。」
「そうは思いましても、すぐに帰れぬとこが痛い所ですな。」
「ごもっともだ。」

そう言って、2人は声を上げて笑い合った。

「ところで、パイロットの連中は大丈夫かね?」

ノイス少将は話題を変えた。

「イギリス海軍の連中になんか言われておったらしいが。」
「私が気にするなと言ってやりました。それにしても、イギリス艦隊の連中には、何か悪い事をしたような気がしてなりませんよ。」
「私も思うよ。アメリカにさえ来なければ、彼らはこの騒動に巻き込まれなかったはずだから。
しかし、予測も出来ん、こんな訳の分からない現象では致し方あるまい。」

「イギリス艦隊の連中は気の毒ですが、ある意味事故のようなものですからね。」
「せめて、イギリス艦隊が出港した後に、あの変異が起きていれば良かったのだが。
まあ、今更過ぎた事を言っても仕方ないがね。」

噂によれば、イギリス艦隊の乗員の士気はみるみる落ちていると聞く。
このまま士気の低下を免れなければ、彼らが兵士として役に立たなくなるのは、火を見るより明らかだ。
イギリス艦隊司令官のサマービル中将が、士気低下を防ぐ打開策を練っている事を2人は知らない。

「策敵機の準備はどうだね?」
「策敵機に関しては、目下整備中です。今の所、出撃予定機には異常は見られないとの事です。」
「そうか。」

ノイス少将は満足した表情で頷く。

(このまま、何事も無く過ぎ去ればいいが)
彼はそう思った。しかし、そう思うたびに、なぜか不安が増していくように感じられる。
唐突に、

「駆逐艦トリップより緊急信!艦隊前方に複数の船舶発見!」

異変は起きた。

重巡洋艦のウィチタは、ワスプの左舷前方800メートルの位置を航行していた。
艦隊最先頭を行く、駆逐艦のトリップが、しきりに無線でワスプに報告を送っている。

「どうした、何があった?」

艦長のブルース・メイヤー大佐は電話でCICを呼び出した。

「トリップから、複数の船舶を発見との報告を傍受しました。」
「複数の船舶だと?距離はいくらだ?」
「距離は17000メートルです。相手はこちらの方向に向かっているようです」
「近いな。それに、こっちに向かっているとは。」

メイヤー大佐は眉をひそめた。

「トリップより新たな報告、敵船舶は戦闘艦の模様。時速は25ノットで、依然我が艦隊に接近中。」
「艦長、ワスプに意見具申をしてはどうでしょうか?」

副長がメイヤー艦長に言う。

「トリップが発見した艦隊が、シホールアンル帝国に属する艦であったならば、砲撃を受ける可能性があります。
ハル国務長官との会見で、あの国外相がとんでもない言葉を口走った事はお分かりでしょう?」
「それは分かってる。だが、たまたま訓練中で、偶然我が艦隊と出会ってしまった、とも考えられるが。」
「しかし、念の為に意見具申をしたほうがいいのでは?」

副長の言い分にも一理あった。

メイヤー艦長は考え始めたが、その間にも、未知の軍艦群との距離はみるみる縮まっていく。
TF23は、輪形陣のまま前進を止めようとしない。

「分かった。ワスプに意見具申の通信を送ろう。内容は、一旦南に針路を変えられたし、だ。
すぐに送れ。それから戦闘配置に付け。撃って来るとは思えないが、念の為だ。」

ウィチタの通信室が、意見具申の文面をワスプに送信している間、艦内に総員戦闘配置に付けのブザーが鳴り響いた。
それまで通常配備であった乗員達が、ブザーに刺激されたかのように、慌てて戦闘時の持ち場に付いて行く。
乗員の大多数が、テキパキとした動きで主砲や艦内の防御区画や、待機室に入っていく。
もたつく者は上官の怒声を浴びた。
5分ほど経って、ウィチタは戦闘配置をし終えた。

「主砲、いつでもやれるよう準備しておけ。」
「アイアイサー!」

電話の主がそう答えると、メイヤー艦長は電話を切った。
ワスプからの指示は、今の所無い。
総員戦闘配置が済んだ後、未知の艦群は編成が明らかになって来た。
距離は12000メートルまで縮まっており、このまま行けば、互いに横6000メートルの間隔で擦れ違う。
相手側の艦群は合計で12隻。内、先頭の4隻は少しばかり大きく、後続の8隻は小さい。

「やっこさんの1番から4番艦は巡洋艦のようです。前部に連装砲が2基ずつ設置されています。」
「後続は駆逐艦か?」
「そのようですな。それに、どの艦も中央部はすっきりしています。」

相手側の巡洋艦らしきものは、艦橋が高く、櫓のような物が天辺にある。
ペンサコラやノーザンプトン級のような巡洋艦だが、4番艦だけはウィチタやセント・ルイスのように艦橋の背が低い。
その前部には、2門の連装式砲塔が設置されている。

大きさは、ウィチタやセント・ルイス並みであろう。
姿としては、前、後部に構造物があり、真ん中がかなりすっきりしている。

「煙突が無いなぁ。嫌に貧相に見える。」
「巡洋艦だけではなく、駆逐艦も煙突を付けていません。ん?マストに国旗らしき物が。」

メイヤー艦長はマストに翻る国旗に双眼鏡を向けた。だが、遠すぎて分からない。
既に、射程距離圏内だが、相手側はこちらが見えてないかのように、ひたすら前進を続けている。
主砲は少し仰角が掛けられているが、それはいつまでも前方に向けられているだけだ。
距離が次第に狭まり、気がつく頃には、もう少しで擦れ違うとこまで来ていた。
相手側は発光信号を送る事も、乗員が手を振る事も無い。
TF23なんぞ見えてない、とばかりに前進を続けるのみだ。
その時になって、ようやく相手側の国旗が見えた。
その旗には、赤と白の下地に黒い丸と、それに突き立てられようとする剣の絵。

「あれはシホールアンル帝国の旗だな。」

メイヤー艦長は冷静な口調で呟いた。
ノーフォークを出港する前に、彼は高速輸送船のレゲイ号を見たが、その船にも同じ旗が翻っていた。
あの時は、なんて悪趣味な旗なんだろうと思ったが、今回はその旗がどこか重々しいように感じられた。

「艦長、あの旗にある、剣に突き刺されそうになる黒い丸って、どこか不気味に思いませんか?」
「そんなものは知らんよ。直接、本人達に聞かないと分からないさ。」

旗の事はどうでも言いとばかりに、メイヤー艦長は言う。
TF23と、シホールアンル軍らしき艦隊は、やがて擦れ違った。

「なあ副長。もし、アメリカがシホールアンルと戦うとしたらどうなると思う?」

副長は、通り過ぎていくシホールアンル艦隊を見ながら答えた。

「かなり手強いのでは?目の前にいる軍艦だって、我が海軍の巡洋艦、駆逐艦と性能は大差なさそうですし、
まあどっちが勝つかなんてやってみなけりゃ分からんでしょう。」
「そうだろうな。まあ、今すぐはごめんだが。」

そう言って、メイヤー艦長は苦笑する。その苦笑も、緊張のためか顔が引きつっていた。
重苦しい緊張感の中、1隻、また1隻と、TF23と徐々に擦れ違っていく。
相変わらず、シホールアンル艦隊はこっちに見向きもしない。

「後から戦闘配置を出した事を、兵達はぶうぶう不平を言うかも知れんなぁ。」

何気なく、メイヤー艦長はそう呟いた。
その刹那、ウィチタの艦橋の視界から消えようとした巡洋艦4番艦の後部砲塔が、一瞬回ったように見えた。

「そんな時にはもっと訓練を重ねて、しごいてやりましょう。」

副長がそう言った直後、

「シホールアンル艦、主砲を向けました!」

という、絶叫に似た報告が艦橋に伝わった。誰もが一瞬、唖然となった。
メイヤー艦長だけは早かった。

「砲戦用意!目標、敵艦隊!!」
艦橋職員の誰もが仰天して、ガラス越しの敵艦隊を凝視した。そして数秒後、砲声が鳴り響いた。

「シホールアンル艦、発砲!」

その時、メイヤー艦長は左舷後方600メートルの駆逐艦ラッフェイが砲撃を受けたと確信した。
艦橋前の2基の8インチ3連装砲が敵側に向けて旋回を始める。
メイヤー艦長の当ては外れた。
敵艦はラッフェイではなく、

「ワスプの至近に着弾!」

ワスプを狙ってきた。

次の瞬間、メイヤー艦長は敵の狙いがワスプであることを確信した。

「敵の狙いはワスプだ!ワスプを守れ!」

メイヤーは叫んだ。水柱が晴れると、ワスプは慌てて敵艦隊の射程内に逃れようとする。
その間に、敵巡洋艦と駆逐艦が第2斉射を放った。
30門は下らぬ大砲から放たれた砲弾は、血に飢えた獣の如く叫び声を発し、やがてワスプの周囲に着弾する。

「ワスプが夾叉されました!」
「いかん、たった2斉射で夾叉弾を出すとは。敵はなかなかの手練だぞ!」

初めて狙う相手に、2斉射のみで夾叉を出すのは至難の技だ。
それをやってのけたと言う事は、敵艦隊の乗員は、相当の錬度を持っている事になる。
この時になって、右舷側に配置されていた軽巡のセント・ルイス、駆逐艦のグリーブス、カッシン、バルチが
ワスプを庇う様にして、ウィチタのいる左舷側に向かって来た。
敵巡洋艦の後ろにいる駆逐艦が離れ、ワスプを追いかけようとする。

巡洋艦群は速力、針路をそのままで、第3斉射を放った。
ワスプの周囲に三たび水柱が立ち上がる。
そして、それが晴れると、ワスプは飛行甲板から黒煙を引いていた。

「ワスプ、被弾した模様!」
「取り舵一杯!駆逐艦部隊は、敵駆逐艦部隊を食い止めろ!」

メイヤー艦長は矢継ぎ早に命令を下した。
メイヤーが命令を下す前に、駆逐艦のトリップが敵駆逐艦8隻の前に立ち塞がった。
米側で最初に発砲したのは、このトリップだった。右舷側を晒したトリップが、5インチ両用砲をぶっ放した。
4門の38口径5インチ両用砲は速射性のある砲で、5~6秒の間に5インチ砲弾を叩き出す。
敵駆逐艦8隻もトリップに向けて砲撃を加える。
数秒おきに、敵1番艦の前方や後方に5インチ砲弾が着弾し、水柱を吹き上げる。
トリップの7回目の斉射で、敵1番艦の後部に1発が命中する。
続いて8回目の斉射で敵1番艦の中央部に2発が叩き込まれた。

「いいぞ!その調子だ!」

艦長が喝采を叫んだ直後、トリップの艦体が激しく揺さぶられた。
敵駆逐艦の砲弾もトリップを叩いたのだ。
トリップの周囲には、5インチ砲弾よりは少し低めの水柱が乱立する。
乗員が衝撃の余韻に苦しんでいる最中、今度は4発がトリップにぶち込まれた。
砲弾が2番砲塔を操作要員もろとも叩き壊し、1本しかない煙突に風穴を開ける。
後部に命中した砲弾のうち、1発が4番砲塔を破壊してしまった。

「魚雷発射用意よし!」
トリップの艦長はまだ諦めていない。
トリップが持つ最大の武器、魚雷を敵駆逐艦に当てるつもりでいる。

「よし、撃て!」

艦長はすぐに命令を下した。
3番砲塔の後ろにある、53センチ4連装魚雷発射管から、4本の魚雷が放たれた。
なぜか・・・・敵1番艦は白い航跡を無視しているのか、避けようとしない。魚雷の存在を知らないのか。
距離4000で放たれた4本の魚雷は、みるみる内に敵1番艦に迫ってくる。
その間にも、トリップは敵駆逐艦8隻の砲撃を一心に受け続ける。
既に空となった右舷発射管に敵弾がぶち込まれ、逃げ損なった発射管要員もろとも砕いた。
煙突の付け根に命中した砲弾は甲板上で炸裂し、煙突の下部が大きくまくれ上がった。
次いで、後部の12.7ミリ機銃座に砲弾が落下して、スポンソンを鉄屑置き場に変換させた。
トリップが20を数える被弾に力尽きようとした時、急に敵1番艦が右に回頭しようとした。
どうやら、迫り来る航跡を危険な物であると判断したらしい。しかし、判断は遅すぎた。
回答を始めた瞬間、艦首と正面衝突しようとした魚雷が敵1番艦の左舷後部に斜めに突き刺さった。
その2秒後、大水柱が立ち上がり、1番艦が後ろから持ち上がる。
魚雷の爆発パワーは、後部の3番砲塔からその後を、あっさり食い千切ってしまった。
1番艦は100メートルも進まぬうちに停止し、艦体が右舷側に傾斜し始める。
1番艦をよけて、2番艦以降のシホールアンル艦が突進を続ける。
そこに、駆逐艦ラッフェイとグリーブスが向かってきた。

ラッフェイ、グリーブス共に主砲を乱射して敵2番艦に集中射撃を加える。
5,6秒おきに放たれる5インチ砲弾が2番艦に雨あられと降り注ぎ、命中弾が出ると、
その後は面白いように次々と命中した。
艦砲としては小さい5インチ砲といえども、距離4000~5000でバカスカ食らってしまったらたまった物ではない。
敵艦は防御装甲がそれほどないのだろう、12、3発ほど食らうと、ガクッとその場に停止した。
だが、敵側の方が数が多すぎた。
ラッフェイ、グリーブスの周囲に、2艦の主砲の数より更に多い水柱が乱立する。
唐突に、ラッフェイの1番砲塔が爆裂し、黒煙と破片を吹き上げた。

「目標、敵4番艦!」
ウィチタ艦長、メイヤー大佐は目標を4番艦に定めさせた。
敵艦が砲撃を開始した直後、ウィチタは一旦右に回頭し、後方にセント・ルイスを従えると、猛然と敵巡洋艦群に追随し始めた。

「距離5500メートル!照準よし!」
既に測的を終えていた主砲は、筒先を敵4番艦に向けている。
今は敵4番艦が前方に位置しているため、前部2基、6門の8インチ砲しか使えない。
その間にも、敵巡洋艦4隻が何度目かになる斉射をぶっ放す。
この時点で、ワスプには敵弾18発が命中し、苦痛に悶えるように海面をのた打ち回っている。
そこに新たな敵弾が飛来し、5発の敵弾がワスプの艦体に突き刺さる。
飛行甲板をぶち抜いた敵弾が格納甲板で炸裂し、残骸になっていたワイルドキャット、ドーントレス、
デヴァステーターを余計に細切れにする。
とある1弾は薄い格納甲板までも突き破り、第2甲板の兵員居住室で炸裂し、
まだ無傷だった寝台や私物を一緒くたに粉砕してしまった。

「撃ち方始めぇ!」

メイヤー大佐が号令を下した瞬間、ウィチタの8インチ砲が唸った。
最初は、第1、第2砲塔の1番砲のみが砲弾を放つ。
2門発射のみだが、それでもドーン!という腹に応える音が辺りに木霊する。
しばらく間を置くと、敵4番艦の左舷に2本の水柱が立ち上がり、直後に一際小さい2本の水柱が立つ。
セント・ルイスもまずは敵4番艦に射撃を集中させるのだろう。10秒後に2番砲が砲弾をぶっ放した。

「ワスプ大火災!左舷に傾斜しています!」

巡洋艦クラスの砲弾を20発以上も浴びたワスプは、飛行甲板、格納甲板を滅茶苦茶に破壊され、各部から火災を生じさせていた。
さらに敵弾のうち何発かは、艦深部の機関部にも達しており、機関部は実に30パーセントが破壊された。

また、至近弾の爆圧によって推進スクリュー1基が捻じ曲げられ、停止している。
ワスプは17ノットのスピードでしか航行していなかった。
ワスプはヨークタウン級やレキシントン級と比べると、防御力に難があった。
飛行甲板はまだしも、格納甲板にはわずか32ミリの鋼板しか張られていない。
舷側装甲に関しては、装甲は全く張られていなかった。
ワスプよりも古いレンジャーは、防御に関してはもっと悲惨であるが、ワスプもレンジャーと比べると、
ちょびっとはマシ、と言った程度だ。
これでは、敵の砲弾に、どうぞ、貫いてください、と言わんばかりだ。
そして、現実に敵弾はワスプの薄い防御をどんどん貫き、瀕死の状態に陥らせている。

「よくも・・・・・よくもやりやがったな!」

メイヤー艦長は思わず怒鳴った。」

「油断させて、いきなり砲撃とはなんて卑怯な奴らだ!あいつらを1隻残らず叩きのめしてやるぞ!」

彼は額に青筋を浮かべて怒鳴り散らした。
メイヤー艦長だけではない、艦隊の将兵は誰もが怒りに震えていた。
第3射が放たれて、艦橋に黒煙が流れてくる。
黒煙が晴れると、敵4番艦は相変わらず前進を続けている。
水柱が吹き上がったらしい跡が、敵4番艦の左舷側後部に見られた。
次いで、セント・ルイスの6インチ砲弾が落下する。
2本の水柱は敵4番艦の左舷と、右舷側に吹き上がっている。
敵巡洋艦群は相変わらず25ノットほどのスピードで航行しているため、次第に敵4番艦の左舷側全体が見えてくる。
この時には、後部の第3砲塔も、敵4番艦を射界に捉えていた。

「セント・ルイスの砲弾が敵4番艦を夾叉!」
「馬鹿もん!セント・ルイスに先を越されたぞ!最新鋭重巡の意地を見せろ!」

メイヤー艦長は砲術科員を電話で叱咤する。それに答えるかのように、第4射が放たれた。
2発から3発に増えた8インチ弾が、敵4番艦の左舷200メートルに纏まって着弾する。
この時になって、ワスプを撃沈確実と思ったのか、敵巡洋艦群が主砲をウィチタ、セント・ルイスに向けた。
直後、セント・ルイスの砲弾が落下する。敵4番艦がまたもや夾叉弾を浴びた。
第5射が2番砲より放たれる。
砲弾か、主砲のどちらかが馬鹿になったのか、3発の8インチ弾はまたもや敵4番艦の右舷側海面を空しく抉るだけだった。
一方、セント・ルイスの砲弾は、ついに敵艦に命中弾を与えた。4番艦の中央部に閃光が走り、黒煙と破片が舞い上がった。

「何をやっとるか!腰をすえて撃て!」

メイヤー艦長はまたもや、砲術科に向けて怒鳴り込んだ。
ウィチタが第6射を放った直後、敵巡洋艦が斉射を放ってきた。
砲弾の飛翔音が鳴り、それが徐々に大きくなってくる。

「夾叉弾を得ました!」

と報告が聞こえた時、ウィチタの左舷側海面に12本の水柱が立ち上がった。
セント・ルイスにも左舷側に14本の水柱が立つ。

「敵1、2、3番艦は前部に2基、後部に1基、4番艦は前部、後部共に2基ずつの砲塔を有しています。」

双眼鏡で、敵艦隊をじっと見つめていた副長が言った。

「確かにな。恐らく、敵巡洋艦はいずれも主砲6門、もしくは8門を持っているという事だな。」

彼は頷きながら呟いた。その呟きが第7射の発射音に掻き消される。
3発の8インチ弾のうち、2発が右舷側へ、そして1発が敵4番艦の後部艦橋に命中した。

「敵艦に命中弾1!」

その瞬間、艦橋が歓声で沸いた。

「よし、一斉撃ち方用意!」

メイヤー艦長はすかさず次のテンポに進める。交互撃ち方である程度、弾道が修正されれば、次は全主砲を用いた一斉撃ち方に移る。
この一斉撃ち方で、敵艦を一気に潰してしまおうと言うのだ。
敵艦隊からまたもや斉射が放たれる。後方のセント・ルイスが、15門の6インチ砲を一斉にぶっ放した。
ウィチタが斉射を開始する直前、敵4番艦の周囲に10本以上の水柱が林立した。
ズドーン!という、先の交互撃ち方とは比べ物にならぬ砲声が轟き、艦橋内の誰もが空気の塊で殴られたように感じた。
セント・ルイスの第1斉射は、的確に敵4番艦を捉え、3発の6インチ弾が前、中、後部と、満遍なく叩いた。
次いで、ウィチタの8インチ砲弾が落下し、2発が敵4番艦のすっきりとした甲板にぶち込まれ、そこから爆炎と黒煙が吹き出た。
ウィチタが次の斉射を放つ前に、敵巡洋艦から砲弾が飛来し、今度は右舷側に落下して、10本以上の水柱がウィチタの視界を遮った。

「ええい、邪魔だ!」

メイヤー艦長は目の前に現れた水の壁に、苛立たしげに叫んだ。
水柱が晴れると、敵4番艦は中央部と後部から盛大に黒煙を噴き出していた。
4番艦がセント・ルイスに砲弾を撃つが、8基あるはずの主砲が6基に減っていた。
後部の第4砲塔がセント・ルイスの第2斉射で叩き潰されたのだ。

「やるな、リューエンリ。」

彼はセント・ルイスの艦長の名前を読んで苦笑した。
彼の脳裏に、北欧系のコールマン髭を生やした、リューエンリ・アイツベルン大佐の顔が思い浮かぶ。
共にアナポリスで、肩を並べて学びあった仲だ。

(物思いは後にするとして、今は目の前の敵を潰さねば)
余計な思いを振り払い、彼は敵4番艦に視線を集中する。
ウィチタが第2斉射を撃った。9発中2発が敵4番艦の後部甲板と中央部に叩き込まれる。
中央部から吹き上げる黒煙がより一層濃くなり、敵4番艦は破壊された後部艦橋を完全に覆うまでになった。
しかし、それでも敵は諦めず、健在な6門の砲を撃ってくる。

「セント・ルイス被弾!」

見張りが悲鳴に近い声音で報告してきた。
この時、セント・ルイスの前部甲板に敵4番艦の砲弾が突き刺さり、第2甲板で炸裂した。
第2甲板の兵員室脇のトイレで炸裂した砲弾は、トイレットペーパーや便器のみならず、隣り合わせの部屋2つを完全にぶち壊し、
他に4つの兵員などが損傷を受けた。
セント・ルイスの第3斉射が敵4番艦に放たれ、15発の砲弾がスコールのように降り注ぐ。
4発が後部と中央部に叩きつけられ、更に敵4番艦を痛めつけた。
この被弾で、後部の第3砲塔が粉砕され、使える主砲は前部の2基4門のみとなった。
ウィチタが次の斉射を撃つ前に、セント・ルイスが早くも第4斉射をぶっ放す。
またもや4弾の6インチ弾を叩き込まれ、敵4番艦の艦容がみるみるうちに醜い鉄のオブジェへと変わっていく。
そこにウィチタの第3斉射が降ってくる。
今度は3弾が敵4番艦の前部と中央部に命中し、第2砲塔と思しき構造物が黒煙を吹き上げて視界から消えうせた。
「敵4番艦はもう少しでノックアウト出来るな。」
メイヤーがそう呟いた時、敵巡洋艦群の砲弾が落下してきた。
周囲にドカドカと敵弾が叩きつけられる。
次の瞬間、ガァーン!という巨大なハンマーがぶつかった様な衝撃がウィチタを襲った。

「右舷中央部に被弾!クレーン損傷!」

敵弾は、ウィチタの右舷中央部に命中し、救命ボートとクレーンを叩き壊した。

救命ボートは跡形も無く粉砕され、クレーンは音を立てて海面側に落下し、先端が折れて海に落ちてしまった。

「主砲はすべて健在であります!」
「よし!」

それを聞いたメイヤー艦長は安心した。
セント・ルイスが第5斉射を放った。新たに3弾が命中し、敵4番艦の火災が一層激しくなった。
ハッチから、乗員らしき人影がわらわらと出てきた。
その中に、緑色のローブを付けた乗員も幾人か混じっていた。
そこにセント・ルイスの第6斉射が振ってきた。
乗員が出てきた箇所に爆発が沸き起こり、その箇所も発生した火災によって覆い隠されてしまった。
それでも、敵4番艦は砲撃を止めない。
2門のみとなった主砲がセント・ルイスに向けて咆哮する。
2発中、1発がセント・ルイスの後部艦橋の横に着弾し、5インチ連装両用砲を真上から叩き潰した。
4番艦の抵抗はそこまでだった。
直後に飛来したセント・ルイスの第7斉射が敵4番艦を水柱で覆った。
ウィチタの第4斉射の砲弾も加わって、4番艦は見えなくなる。
水柱が晴れると、敵4番艦は艦体の大部分が噴き出す黒煙に覆われ、ノロノロとした速度で海面を這っていた。

「敵4番艦沈黙!」
「目標変更。次の目標、敵1番艦!」
「目標、敵1番艦、アイアイサー。」

敵4番艦を完全にたたきのめしたウィチタとセント・ルイスは、今度は別々の目標を狙った。
敵巡洋艦群も、今や30ノットほどのスピードでウィチタ、セント・ルイスに同航している。
主砲が、右舷やや前方を行く敵1番艦に向けられる。
発砲する直前に、敵弾の1発がウィチタの艦体を捉えたが、主砲は全て健在である。

「測的よし!」
「目標、敵1番艦。撃ち方始め!」

再び、各砲塔の1番砲が咆哮した。
敵4番艦を砲撃した時、第1射は敵艦から700メートルも離れた海面に落ちていたが、
先の敵4番艦との戦いがいいウォーミングアップとなったのか、今度は第1射から敵1番艦の右舷200メートル圏内に落下した。

「さっきよりもいいぞ。」

メイヤー艦長は満足したように頷いた。
敵1番艦の発砲した砲弾が降って来た。敵弾はウィチタを飛び越えて、またもや左舷側に落下する。
ワスプを砲撃されてから20分が経っているが、敵巡洋艦の砲撃はなぜか精度が落ちている。
砲戦開始3分足らずでしんがりを叩きのめされた事がよほどショックであったのか、次の斉射もウィチタを外れてしまった。
ウィチタの第2射が敵1番艦に落下する。右舷側に1本、左舷側に2本。夾叉だ。
10秒後に第3射を放つ。今度は1発が敵1番艦の平たい中央部に命中した。
敵艦から放たれた砲弾が周囲に落下し、ウィチタに新たな敵弾が襲った。命中数は2。
1発は第2煙突横の右舷甲板に命中し、28ミリ4連装機銃を吹き飛ばす。
もう1発が後部甲板に落下し、カタパルト上に駐機していたOS2Uキングフィッシャーを2機、ばらばらに打ち砕いてしまった。

「後部甲板より火災発生!」

見張りの報告と共に、第4射が放たれ、1発が敵1番艦の艦橋の後ろ部分に命中した。

「一斉撃ち方。」

先とはいささかトーンを落とした口調で次のステップに移らせる。
一斉射撃の準備には、少しばかり時間が掛かる。

主砲が全て撃てるうちに早く、と。内心で焦る。
敵巡洋艦の斉射弾が降って来た。
着弾の瞬間、5本の水柱はウィチタを取り囲み、1発がウィチタの右舷中央部に命中する。

「敵巡洋艦の主砲は、6インチ~8インチの中間あたりですな。」

副長がメイヤー艦長に言ってきた。

「君もそう思うか?」
「ええ。敵弾が吹き上げる水柱が、8インチ弾のものと比べると小さく、6インチ弾と比べると
大きいように見えたので。恐らく、敵巡洋艦の主砲は7インチクラスでしょう。」
「確かに。それはそうとして、早めに敵1番艦を黙らさんと、後ろのセント・ルイスが危ないな。
奴ら、セント・ルイスの相手を2、3番艦に任せている。」

一際多い主砲の門数と、発射速度の異様に速いセント・ルイスを一番の強敵と見なしたのか、敵巡洋艦群は
2、3番艦が専らセント・ルイスを狙っている。
セント・ルイスは自艦を狙う2、3番艦のうち、2番艦を叩いていた。
そして、2番艦はこの後の第1斉射で4発をぶち込まれたのを機に、次々と数発ずつの砲弾を見舞わされた。
まず、第2斉射のうち、3発が後部甲板に命中して、撃ちまくっていた第3砲塔を黙らせる。
その7秒後に放たれた第3斉射が中央甲板と後部艦橋に命中し、命中箇所から火災を発生させた。
第1斉射から1分後には、セント・ルイスは敵弾13発を受け、後部第4砲塔と前部の第2砲塔を潰され、
中央部と後部艦橋から激しく黒煙を噴き出している。
だが、その間、敵2番艦に10斉射分の射弾を浴びせ、敵2番艦の主砲を全て叩きつぶしてしまった。
主砲を全て失った敵2番艦は、機関部には損傷は無いのか、急に転舵して隊列から逃げ始めた。
完全に行き足の止まった4番艦よりは幾分マシに見えたが、それでもセント・ルイスより激しい火災煙を吹き上げている。

ウィチタは敵1番艦との殴り合いに専念していた。
第7斉射がウィチタの9門の主砲から放たれる。
その直後、敵1番艦の砲弾が第1砲塔に突き刺さった。
次の瞬間、敵弾の炸裂によって天蓋が大きく捻じ曲がり、3本の主砲のうち1本が根元から叩き折られ、
残りの2本もあらぬ方向を向いた。

「第1砲塔損傷!旋回盤故障により使用不能!」
「野郎!」

メイヤー艦長は歯軋りをして悔しがる。今まで、主砲は全て健在であった。
敵1番艦は前部と中央部から煙を引き、傍目から見れば死に体だった。
もう少しで押し切れると思った矢先に、砲戦力の3分の1を失ったのだ。
残り6門の8インチ砲が、猛然とぶっ放す。
6発中、2発が敵1番艦に命中。うち1発は艦橋の後ろに立っているマストを叩き倒した。

「早くこの忌々しい巡洋艦を倒して、ワスプに向かわなければ!」

既に、ワスプは7インチクラスの砲弾をしこたま食らい、重傷を負っている。
そのワスプに襲い掛かろうとしている敵駆逐艦8隻は、護衛駆逐艦5隻の巧みな攻撃でなんとか足止めされている
状況だが、いつ敵駆逐艦が防御網を破り、ワスプに殺到するか分からない。
敵1番艦に発砲煙が吹き上がり、砲弾の飛翔音が次第に近付いてきた。
来る!と感じた直後、ガガーン!という衝撃がし、ウィチタの艦体があちこち軋みを響かせる。
打ち続くに打撃に耐えられないと言っているかのようだった。
(これぐらいでへこたれるな!!お前は合衆国で最新鋭の重巡だ。あんな卑怯者ぐらい、すぐにぶちのしてやるんだ!!)
メイヤー艦長は、内心でウィチタに渇を入れた。
それに答えるかのように、6門の8インチ砲が轟然と唸る。
8インチ弾がまた1発、敵1番艦の前部甲板付近に突き刺さった。
その直後、黒煙の向こうから火柱が立ち上がった。

午前9時50分

ノイス少将は、ワスプの周囲に寄ってくる護衛艦艇を見て、不覚にも涙をこぼしそうになった。
ワスプを守るべく、必死に戦った各艦は、どれもこれも損傷を受けていた。

「司令官、大丈夫ですか?」

艦長のジョン・リーブス大佐が心配そうな声音で尋ねてくる。
ノイス少将は飛び込んできた砲弾の破片で右肩をザックリ抉られており、今は司令官席に座って衛生兵の手当てを受けている。

「ああ。なんとか生きているよ。それにしても、彼らはよくやってくれたものだ。」

そう言って、彼の脳裏にはあの衝撃的な瞬間が頭によぎった。
シホールアンル軍と思しき艦隊が、突然主砲を向けて発砲してくる事なぞ、誰もが思ってもいなかった。
全く未知の艦隊が放った砲撃に、誰もが呆然とし、その次に怒り狂った。
彼らの最初の目標は、TF23の旗艦ワスプだった。
砲撃の精度は憎らしいほど良く、転舵してジグザグに逃げようとするワスプに、砲弾は次々と命中していった。
敵弾のうち1発は艦橋のすぐ横の飛行甲板に着弾し、破片が艦橋職員をも襲った。
この時、ノイスは針路を変え、敵艦隊との接触を避けるべきだったと、激しく後悔した。
味方艦が敵艦に発砲すると、敵艦隊は目標をワスプから護衛艦艇に切り替え、それを専ら攻撃した。
ワスプに命中した敵弾は実に32発!
内6発は艦深部にまで達しており、機関室や缶室にも被害は及んでいた。
舷側にも2,3発が命中し、ワスプは左舷に傾きながら、17ノットに落ちた最大速力で必死に離脱を試みた。
格納甲板は、搭載機が次々と炎上して大火災が発生し、リーブス大佐は放棄を考えたが、ワスプ乗員達は諦めなかった。

「艦長。」

艦橋に入って来たダメージコントロール班の班長がリーブス大佐を呼んだ。班長の顔は真っ黒に煤けている。

燃料庫に火災が及びつつあると聞いた時は、流石に諦めかけたものの、決死の消火作業はワスプの命を繋ぎ止めた。

「格納甲板の火災は依然予断を許しませんが、延焼は食い止められました。」
「そうか。」

やや暗めであったリーブス艦長の表情が、次第に明るくなっていく。

「それに、機関部のほうでも応急修理は順調に進んでおり、4時間後には18ノットまでスピードが出せるそうです。」
「ご苦労だ。火が消えるまでは気が抜けないが、必ず消し止めてくれ」
「アイアイサー。」

班長が敬礼し、リーブス大佐は答礼する。
それを確認するのももどかしく、班長は慌てて艦橋から飛び出していった。
入れ替わりに、通信士官が紙を持って艦橋に飛び込んできた。
「司令、被害状況をお伝えします。我が方の損害は、駆逐艦トリップ沈没、ラッフェイ航行不能、後自沈。
空母ワスプ、巡洋艦セント・ルイス大破、巡洋艦ウィチタ、駆逐艦バルチ中破。駆逐艦カッシン、グリーブス、小破です。
人員の被害状況については現在調査中です。」

ノイス少将は体を震わせた。
不意打ちとはいえ、敵と最初の対決で早くも駆逐艦2隻を失い、空母、巡洋艦、駆逐艦に無視し得ないダメージを負わされた。
ノイス少将はみすみす不意打ちを許した自分に怒りを感じた。
これを、あのニトログリセリンが聞いたら、自分の事をどう言うだろうか?
近い将来、軍艦に乗って、気心の知れた部下達と航海する日は、もはや無くなるだろう。

「戦果のほうはどうかな?」

彼は、せめてもの気晴らしと思い、自分達の反撃で上げた成果を確かめた。

「戦果は、敵巡洋艦2隻撃沈、2隻大破。駆逐艦2隻撃沈、3隻大破、2隻に損傷を負わせています。
結果的に見れば、我が方の勝利です。」

通信士官は語調を強めていった。
ワスプが砲撃を受けた後、各護衛艦は死に物狂いで戦った。
駆逐艦部隊は、どれほど叩かれようが、敵の針路を塞ぎ続け、ワスプに近寄らせようとはしなかった。

巡洋艦部隊は、駆逐艦部隊と同じように劣勢下にありながらよく奮闘し、逆に敵巡洋艦2隻撃沈、2隻大破の戦果を挙げた。
特にセント・ルイスの戦いぶりは凄まじい物であり、自慢の6インチ砲15門を乱射して敵巡洋艦を終始圧倒した。
敵3番艦と打ち勝った時には、セント・ルイスも大損害を受けており、5基あった6インチ砲塔は1基が使えるのみで、
速力も最大24ノットが限界だった。
ウィチタも主砲塔1基を潰され、右舷側の対空火器を全滅している。
いずれにせよ、彼らの奮闘無くしては、TF23はワスプも含め、全滅は免れなかったであろう。

「不意討ちを受けたとはいえ、我々はなんとか勝った。」

ノイス少将は、視線を宙に漂わせる。

「とは言え、あのような、手強い艦艇を持つ国と戦うとなると、
今後の戦闘も楽には勝たしてもらえないだろう。」

1481年11月14日 ワシントンタイムス紙朝刊

「シホールアンル側の艦艇、合衆国海軍の軍艦を撃沈破!!

去る11月12日。偵察活動に従事していた大西洋艦隊所属の第23任務部隊は、シホールアンル海軍所属の軍艦に
突然砲撃を受けた。この突発的な戦闘で、我が方の駆逐艦2隻が撃沈され、空母1隻と巡洋艦2隻、駆逐艦1隻が大破、
もしくは中破された。シホールアンル側は護衛艦艇の反撃で巡洋艦、駆逐艦各2隻を撃沈された模様。
この報告を受けたルーズベルト大統領は各ラジオ通信社に向けて、14日午後2時の番組枠を空ける様に伝えた。
この突発的な戦闘は、大局的に見れば小さな物であるが、シホールアンル帝国が不意討ちを食らわせた事は、我が合衆国
政府や国民の反発を高める事は確実で、国際的にもシホールアンル帝国の立場はより一層、悪くなるであろう。」
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