自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

023 第19話 レーフェイルの覇者

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第19話 レーフェイルの覇者

1482年4月1日 午前8時 マオンド共和国首都クリンジェ

この日、首都の天気は雨であった。
外には大粒の雨が降りしきり、いつもなら賑わっている首都の市場などには、人通りが悲しくなるほど少ない。
そんな中、クリンジェの南西側にある巨大な王城の中で、マオンド共和国国王であるブイーレ・インリクは
普段どおり政務を行っていた。
年は48歳で、痩せ型で、病弱そうな体つきである。
黒い髪は短く刈り上げられ、顔は理知的であり、普通の人よりは数段頭がよさそうに見えた。

「国王陛下、首相閣下がおいでになられました。」

ドアが開かれ、出てきた侍従長がうやうやしく頭を下げてから、報告してきた。

「通してくれ。」

インリクは読んでいた書類を机に置いて、側にあったカップの水をすすった。

「国王陛下、おはようございます。」

目の前に現れた、白い礼装姿の太った男、ジュー・カング首相が執務室に入って来た。

「おはようジュー。外は酷い天気だな。」
「その通りであります。この豪雨で河が氾濫せぬか心配です。」
「確かに。最も、私としては」

インリクは読んでいた書類を再び取って、目を通す。

「河の氾濫以上に、シホールアンルの苦戦ぶりが心配だ。南大陸の戦況はどうなっている?」
「依然、膠着状態が続いています。目下、カレアント公国南部でアメリカ軍と、シホールアンル航空部隊の
激しい応酬が続いていますが、地上軍に関しては双方とも小石1つ投げ込まぬ有様です。」
「膠着化とは・・・・・・速攻が得意なシホールアンルにしては、らしくない戦いだな。」


3月3日の、第34空中騎士軍のロゼングラップ襲撃によって始まったカレアント南部航空戦は、消耗戦の様相を呈していた。
まず、初戦で90騎近いワイバーンを失ったシホールアンル側は、新たに増援部隊を送り込み、
4日後に300騎の戦闘ワイバーンを押し立ててロゼングラップ上空に現れた。
今度も早朝に襲撃を掛けて行ったが、驚くべき事に、アメリカ軍は前回よりも多い数の戦闘機を送り出してきた。
前回、100機程度であったアメリカ軍は、消耗しているはずなのに、今回は230機の戦闘機でシホールアンル側を迎え撃ったのである。
たちまち、前回以上の大空戦が繰り広げられた。
シホールアンル側は、今度は襲撃を予期していた事もあって72機の米軍機を撃墜できたと確信した。
実際には64機であったが、修理不能機も含めると、実に80機の戦闘機を失っていた。
だが、シホールアンル側は120騎を現地で撃墜され、脱落、以降の戦闘に耐えられぬと判断されたワイバーンを含めると、
実に160騎を失っていた。
つまり、前回以上の大損害を被ったのである。
シホールアンル側は知らなかったが、第2回ロゼングラップ空襲の2日前に、第3航空軍に属する戦闘機隊は
新たに第39航空団のP-40、P-39、それに第1海兵航空団のF4Fワイルドキャットの増援を受けていた。
勇躍出陣したワイバーンの大部隊は、またしても大損害を出して追い返されたのである。
その後、シホールアンル側はあの手、この手を尽くしてロゼングラップの航空基地を使用不能に陥れようとした。
ある時は、50騎の編隊でロゼングラップに殴り込みを掛けたり、ある時はいつも通り戦闘ワイバーンのみを出撃したと見せかけ、
時間差で攻撃ワイバーンの編隊を突入させたりなど。
激烈なシホールアンル側の航空攻勢にアメリカ軍側も少なくない犠牲を払わされ、3月20日には一時的に
ロゼングラップ飛行場を使用不能にされた挙句、時間差で突入して来た戦功混在のワイバーン部隊に21機のP-40、
18機のP-39、7機のP-38を地上撃破され、滑走路が完全に破壊される悲劇が起きた。
この日ほど、シホールアンル側は喜ばぬ事は無かった。

なにしろ、あの強力無比なアメリカ軍航空部隊を壊滅に陥らせたのだ。
それまで、大編隊攻撃から、100騎以下の散発攻撃でアメリカ軍航空部隊と戦っていたシホールアンル側は、
3月11日以来停止していた大編隊による攻撃を実行させ、満身創痍のロゼングラップに止めを刺そうとした。
だが、アメリカ軍航空部隊は壊滅してはいなかった。
アメリカ側は、この3月22日までの空中戦で、293騎の戦闘ワイバーン、209騎の攻撃ワイバーンを撃墜していたが、
自信もP-40を86機、P-39を57機、F4Fを34機、P-38を29機、地上撃破分を加えると、
合計で246機の戦闘機を失っていた。
戦死したパイロットは76名、再起不能者は実に48名に及んだ。
いくら総合性能で押しているアメリカ軍機といえど、相手も経験を積んだワイバーン部隊であり、
被害を抑える事は予想に反して困難であった。
しかし、被撃墜、使用不能機と、戦死者の比率で見ると、死者は驚くほど少ないと言える。
その理由は距離にあった。
迎撃戦は常にロゼングラップから50マイル圏内で行われる。
この50マイル圏内は、南大陸側の勢力範囲であり、撃墜されたパイロットは体が無事であれば、
再びロゼングラップに戻って戦闘が可能であった。
そして、22日時点で壊滅したはずのアメリカ軍航空隊主力は、ロゼングラップより7キロ後方のブレーネンリという
地域に作られた飛行場におり、悠々とやって来たシホールアンル側の200騎の戦爆連合に、アメリカ軍側は58機のP-40、
42機のP-39、34機のF4F、47機のP-38が迎え撃ち、27機を撃墜されたものの、戦闘ワイバーン32騎、
攻撃ワイバーン57騎を撃墜して撃退した。
その時点で、シホールアンル軍は600騎以上のワイバーンを喪失し、実に2個空中騎士軍が壊滅に至った。
それのみならず、3月29日には、双胴の悪魔と呼ばれたアメリカ軍機に援護された中型爆撃機が、逆に前線に空襲を仕掛け、
地上軍に膨大ではないが、少なからぬ被害を与えていた。

シホールアンル軍は、またしてもアメリカと言う国に負けたのである。
それ以来、戦力回復に努めているシホールアンル軍はなんら行動を起こしていない。

「それでだ、ジュー。君がわざわざ、私に会いに来たのは、何か大事な話があるから、ではないかね?」

インリクは蛇のような目をぎょろりと、ジューに向けた。

「その通りであります。実は、外務大臣からこのような物を渡されました。」

カング首相は、持っていた書簡を渡した。
インリクはそれを取って、一通り読んでから、深いため息を吐いた。

「これは、無茶だと思わんか?」

彼は、書簡をひらひらと振りながらジューに問うた。

「アメリカ艦隊に決戦を挑め、というのは明らかに無茶ですね。」
「その通りだ。それに、わがマオンドにも戦艦はあるが、艦隊の規模ではシホールアンルより少ない。
なのに、アメリカ本土を襲撃せよとは。オールフェスは血迷ったか?」

マオンド共和国は、元々、レーフェイル大陸の南半分を支配下に収めていた国であった。
当初、レーフェイル大陸はマオンドの他に、ルークアンド王国、エンテック帝國、レンベンリルカ王国という国があった。
その国々を次々と打ち破り、マオンドはレーフェイル大陸の覇者となった。
レーフェイルを制圧したのは1478年の事であり、大陸の制圧にかかった期間は10年であった。
マオンドは、シホールアンルとは400年前から交流を持っており、数々の技術をシホールアンルへ供与し、または取り入れた。
マオンドもシホールアンル同様、軍事強国である。
国自体の規模は、人口8700万ほどおり、大陸全体では12000万ほどの人口を抱える。
このうち、軍は150万人、属国軍50万を抱えており、海軍には20万の兵員が配備されている。
そして、海軍の戦力は、戦艦7隻、巡洋艦24隻、駆逐艦74隻となっている。

これらの他に掃海艇や襲撃艇などの小型艦艇が加わる。
前者の主力艦群は、6個艦隊に分けられている。
まず、第1艦隊は戦艦3隻、巡洋艦5隻、駆逐艦11隻。
第2艦隊は戦艦3隻、巡洋艦6隻、駆逐艦12隻。
第3艦隊は戦艦1隻、巡洋艦5隻、駆逐艦14隻。
第4、第5艦隊は巡洋艦4隻、駆逐艦13隻、第6艦隊は駆逐艦18隻で編成され、残りは練習艦になるか、
地方の沿岸警備艦となっている。
数から見れば、水上艦艇のみならばアメリカ大西洋艦隊と張り合えそうに見える。
しかし、数は揃ってはいるが、性能には甚だ不安点が残る。
マオンド海軍の主力である戦艦は、せいぜいシホールアンルのジュンレーザ級を若干良くしたような艦や、
シホールアンルから払い下げられた旧式艦が混じっている。
前者はマオンドの独自開発だが、前者は払い下げ艦で、速力がわずか10リンルしか発揮できず、
武装も11ネルリ連装砲8門や10ネルリ砲6門という、うすら寒い物だ。
発射速度も遅いため、本来8隻あった払い下げ戦艦は、今や4隻に減っている。
巡洋艦や駆逐艦にも、早い物では18リンルを出すものもいるが、中にはたったの13リンルしか出せぬ艦もあり、
大西洋艦隊とがっぷり組めば大損害は必至である。

「せめて、2、3隻でもいいから、シホールアンルが持つ竜母が、このマオンドにもあれば、
アメリカとやらの艦隊に決戦前から手傷を負わせてやれるのに・・・・・・・」
「しかし陛下。竜母と性能の似た軍艦、空母をアメリカは持っています。アメリカの空母の威力は計り知れぬ物ですぞ。」
「それぐらい分かっとる。」

インリクは鼻で笑ってからそう言った。

「なにせ、わしが卒倒したほどだ。あまりの被害の大きさにな。」
「今思えば、あれはやるべきでは無かったですな。」
「言えてる。未知の大陸がわがマオンドの物になると、喜び勇んで出撃を命じた私が恥ずかしい。」

インリクはどこか寂しげな表情で呟く。
あの悪夢の海戦は、4ヶ月以上が経った今でも、1分前の出来事のように覚えている。
南大陸に派遣予定だった侵攻軍を、未知の大陸制圧に出した結果は、上陸軍3万の将兵と80隻以上の輸送船、
護衛艦群の戦力半減と言う最悪の形になって戻って来た。

「アメリカとやらはすぐに撃ち滅ぼすべきです!」
「侵攻軍将兵の仇を今すぐにでも取るべく、艦隊の出撃を希望いたします!」
「空母とやらの数は多くは無い。海軍の全部隊でぶつかれば、敵の1個艦隊や2個艦隊はたやすく壊滅できる!」

あまりの悲惨な結果に、半狂乱になった陸、海軍の将軍、提督連中はこぞって、復讐戦をやろうと上層部に言い募ってきた。
だが、意識を取り戻したインリクはこれらの声を抑えて、各軍に軽挙妄動は控えよと厳命し、
従わぬ者は即刻処刑するとまで言い放った。
これには、さしもの武人達も黙らざるを得なくなり、復讐戦を唱える者はぱったりといなくなった。

「アメリカが、自分達を脅威と捕らえているのならば、いずれはこのレーフェイル大陸近海に侵攻する可能性もある。
それならば、侵攻するアメリカ艦隊を海軍、陸軍の全力で迎え撃ち、大損害を与えて撃退してから、再びアメリカ本土に
侵攻しても遅くは無い。」

インリクはそう言って、海軍やワイバーン隊に近海の捜索を強化するように命じた。
その矢先に、シホールアンル側からの要請が届いたのである。

「貴国の海軍でもって、対岸のアメリカ本土を砲撃、又は海軍戦力の減少を計られたし」

これが、シホールアンルからの要請文である。

「何が海軍戦力の減少だ。戦力を減少させられるのはこちらのほうだぞ!」

インリクが忌々しげに呻く。
レーフェイル大陸を統合した今、インリクは安心して普段の日々を生活できたが、
アメリカと言われる国が突然現れてからは、未知の強敵の襲撃に神経を尖らせ、以前とはすっかり変わってしまった。
元々、インリクはやや肥満気味であったが、去年の侵攻部隊の悲劇以来、体重は急速に落ち込んだ。
今ではすっかり痩せ型の体系になっており、顔も年齢とは裏腹に幾分老いたかのように感じられた。
それだけ、彼の精神状態は思わしくなかった。
インリクは、それを感じ取られまいと、普段は側近や閣僚達に気さくに話をしているが、それでも憔悴の色は隠せていない。

「では、シホールアンル側にはこの要請はできぬ、と返事しましょうか?」
「できればそうしたいが・・・・・・カング、すぐにできんと返事してもあちら側は納得せぬかもしれん。
一応、図上演習だけはしておいて、その結果が出るまでは回答を保留しておけ。
そうせんと、シホールアンルはますます納得しないだろう。」
「分かりました。では、海軍総司令官にそう伝えます。」

カング首相は、うやうやしげに頭を下げると、執務室から出て行った。
カングは部屋から出る時、国王陛下は以前と比べて変わったと思った。

「前と比べると、小さくなられた・・・・・・レーフェイルの覇者としての威厳はまだあるが、
現状が思わしくない以上、ああなるのは致し方ないのかもしれん。最も、」

束の間、カングは頭の深部が疼くように感じた。

「わしも天寿をまっとうできるか、怪しい物だが」

「いい出来です。」

暗闇の中で、誰かが満足そうに呟いた。

「これなら、我々は他国を差し置いて、一躍最強の称号を手に入れるでしょう。」
「同感だ。しかし、慣れるというものは恐ろしい物だ。」

別の声が笑いを含んだ口調で言う。

「こうやって、どこぞの少女の体を弄ぶのに、今では何も感じん。むしろ、楽しくなってきたよ。」
「今回はいい適正体なので、仕事は順調に進みましたな。」

真っ暗闇の中で、酷く冷たい視線が、体に突き刺さるのがはっきりと分かる。
体が、恐怖に震える。
怖い、いやだ、逃げたい。
だが、いくら思っても、体は動く事はおろか、震える事も全く出来ない。

「これで鍵は出来たと言う訳か。よし、すぐに上に報告しよう。」

その次の瞬間、けたたましい音が暗闇のなかで鳴った。
そこから音を聞く事はしばらくはなかった。

気付くと、目を開けられる事が分かった。
目をゆっくりと開けると、フェイレは誰かに抱かれていた。
外はとてつもなく寒い。辺りに雪がしとしとと舞っている。

「おっ、気が付いたか?」

抱えていた者が、彼女が意識を取り戻した事に気が付いたのだろう、歩を止めた。

「やあお姫様。今はちょっと寒いが、もうすぐあったかい所で眠れるぞ。」

人はそう言いながら、フェイレと顔を合わせた。
険しそうな顔に柔和な笑みを浮かべた男の表情は、邪なものを一切感じさせなかった。

目を開けると、そこは木陰の下だった。

「はあ・・・・・・懐かしい顔だったなぁ。」

フェイレは目元をこすりながら、ゆっくりと体を起こした。周囲は何の変哲の無い森である。
その中にぽつんと、大きな大木が生えていた。ちょうど疲れていたフェイレはこの大木の下で仮眠していた。
あれから何年経ったか分からぬまま、ずるずると続けていく1人旅。旅といっても呑気なものではない。
南大陸中に張り巡らされたシホールアンルシンパの目を気にしながらの旅だ。
いつ肩を摑まれ、シホールアンルに連れ込まれかねない状況下、彼女はこうして、人気の無い地域ばかりを歩き、
目を光らせる敵側のスパイから逃れている。
だが、この旅もいつまで続くかは分からない。

「明日に終わるか・・・・・そうでなくも、1週間後に終わるか・・・・・」

普段なら、ここで耐え難い憂鬱感に襲われるが、ここ最近はそれも滅多に出なくなっている。
おもむろに、懐からぼろぼろになった紙を取り出す。その紙は、以前ちらりと見た紙と同じものだが、内容は違っている。
これが、バルランドが発行している新聞といった類のものであると彼女は知っている。

文面にはこう書いてある。

「「アメリカ軍航空部隊、優勢のシホールアンルワイバーン部隊を完全撃破!」」
という勇ましい文字が躍り、見出しの絵には、見た事も無い異形な姿の飛空挺が描かれている。
絵の下には、小さく双胴の狩人と書かれている。

「もしくは・・・・・・」

フェイレには、おぼろげながらも、今までとは違った感情が芽生え始めていた。


1842年4月5日 午前8時 ヴィルフレイング

ヴィルフレイングの町並みは、去年と比べると、大きく様変わりしていた。
町の空き地だった場所には、無数のテント群や急造の施設が立ち並び、以前はただ広いだけで、薄ら寒ささえ感じさせた
泊地は、大小さまざまな軍艦、輸送船でごった返していた。
3月の中旬にやって来た、南西太平洋軍の第1陣はヴィルフレイングに設けられた宿舎で寝泊りしている。
そのアメリカ兵達が落としていく金を狙っているのか、ヴィルフレイングの外からも各国の行商人や旅芸人などが
やって来ては、盛んに売り込み合戦を繰り広げた。
魔法事故で壊滅する以前よりも、このヴィルフレイングは活気に満ち溢れた。
そのヴィルフレイングの一角にある建物では、周りのやや浮ついた空気とは打って変わって、いささか重苦しい雰囲気が流れている。
この日、南西太平洋軍や太平洋艦隊の首脳陣が集結し、定例の会議を行っていた。

「諸君、間もなく我が陸軍の力をシホールアンルに思い知らせる時が来る。」

南西太平洋軍司令官のドワイト・アイゼンハワー中将は、テーブルに座っている太平洋艦隊、
南西太平洋軍の幕僚達の顔を交互に眺めながら言った。

「ここ1ヶ月続いたロゼングラップを巡る航空撃滅戦は、我が方も少なからぬ犠牲を強いられたが、
関係各部隊の粘り強い精神によって、シホールアンル側の航空部隊に多大の損害を与える事ができた。
それのみならず、第3航空軍は2度にわたって敵に爆撃を敢行している。戦闘機隊が敵の攻撃を食い止めている間、
本日、B-17部隊のロゼングラップ配備が無事に行われつつある。この事は、後の反攻の礎になるものと、私は確信する。
そして2日後には、わが地上軍は南大陸軍と共に前線に加わり、圧力を加えようとするシホールアンル地上部隊を迎え撃つ。」

アイゼンハワー中将の声は、なんの変化も無く、淡々としたものだったが、会議室の幕僚達はむしろ意気込んでいるなと感じていた。

「出発は7日の午前0時。まずは工兵隊が作った道路を使用して第1機甲師団、第7歩兵師団を前線に送る。
予備部隊として第27歩兵師団を翌日に出発させ、前線より後方に配置する。その前に、陸軍航空隊の爆撃隊は
出来る限り敵の前線、並びに後方を叩き、敵の侵攻兵力を殺いでもらう。」

アイゼンハワー中将の言葉は、その後何分か続いた。
第3航空軍に所属する第12爆撃航空師団は第24航空団の3個爆撃機群から編成されている。
このうち、第82爆撃航空群の86機のB-25、第80爆撃航空群の48機のA-20は、前者がロゼングラップ飛行場、
後者がブレーネンリ飛行場に配備され、シホールアンル側の最前線部隊に爆弾を見舞っている。
そして、第24航空団の主役であるB-17爆撃機48機が今日の早朝、飛行場を飛び立って行った。

「海軍側の意見はありませんか?」

話を終えたアイゼンハワー中将は、海軍側の最高指揮官であるウィリアム・パイ中将に声をかけた。

「海軍としては、既に機動部隊を、東海岸側、西海岸側に1個ずつ配備しており、他にも潜水艦部隊を情報収集に当たらせております。
目下、シホールアンル海軍の主力艦部隊、機動部隊の存在は、東、西海岸付近には確認されておらず、定期的に輸送船団が東海岸の
占領地域に物資を運んでいるのみです。結論からして言えば、シホールアンル海軍の動向は、今の所小康状態にあります。」
「つまり、当分はシホールアンル側の艦艇は出てこない、と言う事ですな?」

アイゼンハワーが問う。

「その通りです。ですが、突然の事態も考えて、東、西海岸方面の警戒は今後、より強化していく予定です。」

太平洋艦隊は、サンディエゴの司令部の方針に従って艦隊を動かしている。
今現在、太平洋艦隊の主力はヴィルフレイングで待機しているが、東海岸には第14任務部隊、西海岸には第17任務部隊が派遣され、
敵側の哨戒半径にかかるか、かからない範囲で警戒に当たっており、潜水艦部隊も同様に行動している。
しかし、2月の海戦の影響なのか、シホールアンル側は海軍部隊の行動をバゼット半島以北沿岸に限定しており、
東海岸方面では輸送船団と、その護送艦隊の行動しか見受けられない。
その間、護衛空母ロングアイランド等の補助艦艇や輸送船は、本国からの機体の輸送を欠かさず行い、前線の消耗分を見事に補充していた。
ちなみに、太平洋艦隊に配備されている正規空母4隻のうち、警戒にあたっているTF17のヨークタウン、TF14のレキシントン以外の
空母。サラトガ、エンタープライズは、一度本国に戻って、新式機材のアベンジャーや修理を行っており、このうち、サラトガは
4月中旬にはヴィルフレイングに戻る予定である。

「今の所、太平洋方面では物事は順調に進んでいますな。ですが、気になるのは大西洋方面です。」

アイゼンハワー中将が言う。

「大西洋の向こう側の大陸・・・・マオンドとかいう国の動向がはっきりと掴めない分、私としても少々気になるのですが。」

「大西洋方面に関しては、5月に修理、改装を終える空母ワスプやホーネット、レンジャー、それにイラストリアスや
改装が終えつつあるハーミズ、と。母艦兵力は大分余裕があり、その他の戦力についても申し分ありません。万が一、
敵が侵攻してきても撃退できると、上層部は判断しています。」
「なるほど。大西洋方面に関しても、備えは万端ということですな。」
「その通りです。」

パイの言葉を聞いたアイゼンハワー中将は、満足そうに頷いた。

「とりあえずは、この戦力と第2陣の戦力で、シホールアンル相手にどれだけ戦えるかが、問題ですな。
今後は、南大陸軍側の関係者も呼んで、近いうちに戦訓分析会議を開きましょう。」


1842年4月7日 午後6時 カリフォルニア州サンタモニカ

ダグラス・エアクラフト社の社員であるエドワード・ハイネマンは、指先で鉛筆を回しながら考え事をしていた。

「どうしたエドワード、元気が無いな?」

同僚の社員であるボンズ・ランバートは声をかけた。

「いや、元気が無いわけではない。ちょっと考え事をしていただけさ。」

エドワードは席を立つと、空のコップを持ってコーヒーを入れようとした。

「それにしても、何か悔しいとは思わないかい?」

ボンズは残念そうな口調でエドワードに言ってきた。

「悔しい・・・・・か。まあ、確かに悔しいね。でも、デヴァステーターにとっては、短いとは言え
華々しい5ヶ月間だったんじゃないかな。」

エドワードは苦笑混じりに答える。

海軍の艦上攻撃機が、ダグラス・エアクラフト社が製作したTBDデヴァステーターから、
グラマン社のTBFアベンジャーに切り替えられつつある事は周知の事実だ。
元々、デヴァステーターは世界初の全金属製単葉艦上攻撃機として脚光を浴びたが、それも日本海軍の
97式艦上攻撃機の登場や、グラマン社の新鋭艦功のアベンジャーが出現してからは、一気に時代遅れの物となった。
パイロット側からも不評が起きており、早晩、デヴァステーターは空母から姿を消すものと思われていた。
だが、その駄作機の烙印を押されたデヴァステーターも、この未知の世界に連れて来られてからは、海軍の主力艦功の名に
相応しい活躍を見せた。
デヴァステーターの初陣となったボストン沖海戦では多数の輸送船を沈め、シホールアンル側との初対決となった
レアルタ島沖海戦では、ドーントレスと共に敵戦艦の撃沈に貢献し、航空機の優位性を証明した。
その他の作戦では犠牲を出しながらも、常に南大陸軍の支援に当たっている。
デヴァステーターの活躍を聞く度に、ダグラス・エアクラフト社の雷撃機カイハツチームは喜びを感じたが、
その殊勲のデヴァステーターも、ほど無くして前線から姿を消す。

「活躍できたのは確かだが、乗っていたパイロットの腕も良かった事もある。いずれにせよ、5ヶ月間とはいえ、
国のために働けたのだから、デヴァステーターもそれほど不名誉な結果を残さないで退役するんだから、
あまり悲しむ事ではないだろう。」
「後は、艦爆部門のドーントレスが、どれぐらい長く活躍できるか、だな。」

ボンズは気を取り直したような口調で入った。

「ドーントレスはまだしばらく使われるだろう。カーチス社の新鋭艦爆は、今あれこれ対応に追われているからな。」

そう言って、エドワードはコーヒーカップを流し台に置いた。

「なあエドワード。どんな艦功を作ったら、アベンジャーに勝てると思う?」

ボンズは何気ない口調で聞いた。エドワードは、そうだなあと呟いて1分ほど考えた後、言葉を吐いた。

「スピードが350マイル近く出せて、撃たれ強くて、2~3トンの搭載能力を持つモンを作れば圧勝だな。」
「おいおい、いくらなんでもそれは無理だって。」

ボンズは、エドワードのあまりにも荒唐無稽な考えに笑い出した。

「第1、2~3トンの搭載能力で350マイル近くって・・・・キッチンか流し台でも積んで敵に落とすのかい?」
「まさか、ただの漠然とした考えだよ。ていうか、そんな案を出したら社長に精神病院に行けといわれちまう。」

エドワードは頭を振ってボンズの言葉を否定した。

「大雑把すぎる考えだな。まあ、時間が経てば、そんな飛行機も作れるとは思うがね。」
「真剣に考えるとしたら、俺はそれよりもうちょっと控え目の性能を言っているよ。
まあ、今は、どうしたらグラマン社のアベンジャーに勝てるか、それを考えようぜ。」
エドワードは笑みを浮かべてそう言った。





後年、エドワードは、貴社の質問に対しこう語っていた。

「思えば、この何気ない談笑が、新鋭艦功AD-1スカイレイダーの誕生の瞬間であったかもしれない。」
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