自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

034 第27話 レーフェイルの監視者

最終更新:

tapper

- view
だれでも歓迎! 編集
第27話 レーフェイルの監視者

1482年6月18日 午前9時 ノーフォーク

第23任務部隊司令官であるレイ・ノイス少将は、参謀長のビリー・ギャリソン大佐と共に、大西洋艦隊司令部
で行われる定例の会議に出席した。
司令部に付いたのは時計の針が9時を回る少し前であった。
ノイス少将は、いつもの会議室に、いつも通り失礼しますと言って入室した。
会議室には、インガソル大将を始めとする大西洋艦隊のメンバーの他に、第24任務部隊司令官のブリンク・スレッシャー少将
と、第25任務部隊司令官のジェイムス・クランス少将、第26任務部隊司令官のジェイムス・サマービル中将と、
その参謀長が出席していた。
いつもは出席しているはずの戦艦部隊司令官と、潜水艦部隊司令官がまだ来ていない。
ノイスとギャリソンは、出席者達に挨拶を言いながら、左側の真ん中辺りの席に座った。

「さて、全員来たようだな。これより、諸君らに重大な事を伝える。」

インガソル司令長官はおもむろに言い放った。ノイス少将は不思議に思った。
(全員、だと?TF21、22やTF29、30、31の司令官はまだ来ていないぞ。)
いつもは各艦隊の司令官で埋まる席も、今日は4割方が空いている。それなのに、なぜ全員来たと言うのか?
それに重大な事とは?
ノイスはどこか理解しがたい気持ちになりつつも、インガソルの言葉に聞き耳を立てた。

「現在、大西洋艦隊は、いつ侵攻して来るか分からぬマオンド共和国に備えて、日々訓練に励んでいる。
マオンド共和国は、諸君もご存知の通り、シホールアンル帝国の同盟国である。去年の11月、我が大西洋艦隊は、
機動部隊と潜水艦部隊を用いて、このマオンド軍の渡洋侵攻を阻止できたが、それでも、マオンドはレーフェイリ大陸に
強大な兵力を温存している。」

インガソルは言葉を切ると、作戦参謀に視線を向けた。

作戦参謀は立ち上がると、いつも掛けられている地図を指示棒で指した。
地図は、東海岸と大西洋、レーフェイル大陸が描かれている。

「先のボストン沖海戦で、敵輸送船団を撃退出来ましたが、潜水艦部隊の偵察では、大陸南部、南西部、西部、東部、
東北部に、マオンド軍の根拠地を見つけています。特に、東部のこの根拠地には、戦艦3隻を中心とする主力部隊がおり、
他の根拠地にも、必ず巡洋艦主体の快速部隊が配備されています。この他にも、大陸の西部地域に複数の港があり、
マオンド共和国の旗を掲げた護送船団が、常時20隻以上往復しています。」
「この輸送船団は、恐らく占領地に駐留する部隊への物資補給、または人員輸送を主任務としているものと思われます。」

参謀長が発言した。

「潜水艦部隊の報告では、この3つの占領地に、合計で70隻余の護送船団が往復を行っている事になっています。
船団には、輸送船10から12、3隻、巡洋艦が1、2隻、駆逐艦が8隻程度護衛に付いています。」
「この船団は、陸から常に50マイルほどの距離を保ちつつ、北上しています。」
「50マイルとなると、まるで何かに恐れて、必要以上に陸から離れまいとしているみたいだな。彼らが恐れているのは。」

サマービル中将が言う。

「この、大西洋艦隊。そうだな?」
「そうです。ボストン沖海戦の後、我が潜水艦部隊はレーフェイル大陸の近海で、敵艦を数隻撃沈しています。
その結果、マオンド軍は戦力の消耗を恐れ、近海の警戒を高めつつも、西側洋上の遠洋航海を自粛しているようです。」

マオンド軍は、ボストン沖海戦の大損害と、潜水艦部隊の跳梁により、西側で200マイル以上の陸から離れて、航海する船は
ほとんどいなくなった。
ボストン沖海戦後、潜水艦部隊は、輸送船2隻に巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、哨戒艇を7隻撃沈している。
その事は、マオンド海軍の封じ込めという目的を達成できるに至ったが、マオンド側は生命反応探知装置を載せた駆逐艦を大幅に増強し、
近海を血眼になって捜し回った。

警戒強化による犠牲は、3月に潜水艦1隻、4月に1隻が失われたのみであったが、緊急の帰還を要するほどの
損傷艦も2隻出ており、大西洋艦隊のマオンド哨戒網は穴が開いている。

「だが、自粛しているとは言え、マオンド海軍の戦力は未だに強大だ。旧式艦ばかりの艦隊と言えども、
一度出港し、姿を眩ませてしまえばこっちも動けなくなる。その時に、太平洋艦隊から増援要請が出た際に、
戦力を送れませんでは話にならない。」

インガソルは睨みつけるような視線で、全員の顔を見渡す。

「そのためにも、敵側にはレーフェイルでたっぷり休んでもらう。本作戦の目的は、マオンド海軍を
レーフェイル大陸に封じ込める事にある。そのために、」

インガソルは立ち上がると、作戦参謀から指示棒を取り、地図のいくつかをトントンと叩いた。

「この護送船団、もしくは本国の根拠地に高速機動部隊で奇襲を仕掛け、停泊中の船団を撃沈する。
攻撃は、船団がまだ港にいる時間に行う。」

室内に驚きの声が上がる。話の内容からして、大西洋艦隊司令部幕僚以外の参加者たちは、洋上を航行中の
船団に空襲を仕掛け、それを撃滅するものと思い込みかけていた。
ところが、インガソルは船団が未だに港を出ていないうちに。つまり、レーフェイル大陸に接近して叩くと言うのだ。

「最大の目的は、港内にいる船団の攻撃だが、もう1つ目的がある。それは、マオンドの支配下にある被占領国に、
支配側のみじめな姿を晒す事だ。」
「被占領国の住民に、マオンドも強くないと言う事を分からせてやる。という事ですね?」

ノイス少将はインガソルに言う。

「そうだ。すぐにクーデターや反乱が起きる事は無いだろうが、少なくとも、支配側にも対処し切れない
敵がいる。と言う事を印象付けられる。」

(要するに、種まきと言う事か)
ノイス少将は内心でそう思った。
マオンド本国の国民や、被占領国の国民に、自分達の上に君臨する軍があっけなくやられる、と言う事は
夢にも思わぬ事である。
恐れおののき、頼りにする軍が大敗すれば、市民も動揺する。
殊更、被占領という屈辱に甘んじている者達にとっては、動揺どころか別の感情を抱く可能性がある。
そう、大西洋艦隊は、起こるかも知れぬ革命や反乱の種まきをやろうとしているのだ。

「現在、レーフェイル大陸には、南大陸にいたレーフェイル出身の軍人がスパイとして3月からいる。」
「スパイ・・・ですか。いつの間に。」

スレッシャー少将が驚いた様子で言う。

「この戦争が始まった直後、太平洋艦隊司令部に根回しをしておいた。」

インガソルはニヤリと笑みを浮かべた。

「そしたら、南大陸にいたレーフェイル出身者の中で、応募者が多数出たようだ。キンメルは何人か、
適正者を選抜してこのノーフォークに送り、専門家に訓練させた。3ヶ月ほどみっちり仕込んだ後、
3月初旬に潜水艦で各方面に送っている。」

そう言った後、インガソルは情報参謀に目配せをした。情報参謀は頷いて紙の束を取り出した。

「彼らは良くやってくれているよ。多くの情報が送られてきた。今の所、20人のスパイは誰1人として掴まっていない。」

紙の束には、西海岸側に移駐する陸軍部隊や、ワイバーン部隊、水上部隊の行動の詳細等が事細かに記されていた。
専門家に仕込まれたレーフェイル出身者たちは、いずれも国を攻め滅ぼされ、命からがら逃げ延びてきた者たちばかりだが、
祖国をマオンドの元から解放すると言う使命感から、専門家が次々と与える厳しい訓練にも耐えて、スパイとなった彼らは
今も情報を送り続けている。

「情報が全く揃わないで出撃、と言うことではないのですな。」
「勿論だ。奇襲という形を取るからには、情報は必要だからな。」

インガソルはさも当然と言う表情で、ノイス少将に語った。

6月13日 午後7時 ノーフォーク

空母イラストリアスのパイロットであるジェイク・スコックス少尉は、愛機のコクピットに乗りながら探し物をしていた。

「ジェイク!そこで何をやっているんだい?」

唐突に、下から声が掛かった。
コクピットから顔を出してみると、飛行隊長であるジーン・マーチス少佐がいた。

「あっ、マーチス隊長。」
「今日は非番なのに、愛機に乗って計器点検かね?」

マーチス少佐は冗談めいた口調でスコックス少尉に質問した。

「いえ、探し物ですよ。」
「探し物?いつも身につけているお守りかね?」
「そうですよ。昨日の訓練の時にこっちに落としたみたいで。」

そう言いながら、スコックス少尉はコクピットを再び探し始めた。
目的の物は、10秒ほどで見つかった。

「見つかったかね?」
「ええ。ありましたよ。」

スコックス少尉は、笑みを浮かべながら、それをマーチス少佐に見せた。赤い布製の腕輪である。

「死んだおふくろから貰ったんですよ。これをつけている時は不思議に緊張しないんです。」
「不死身のコックスと言われる由縁がそれか。」

マーチス少佐は納得したように言った。
コックス少尉は、1940年5月からイラストリアスに配備されて以来、常に第一線で戦っている。
11月のタラント空襲では、愛機が酷く損傷しながらも、無事にイラストリアスに帰還している。
41年5月のビスマルク追撃戦の時には、スコックス少尉は重傷を負い、母艦に戻ってからは1週間ほど
ベッドで生死の境を彷徨ったが、無事に生き延びている。
このように、決死的な状況にもかかわらず、必ず生還して来ることから、彼はイラストリアスの仲間達から
不死身のコックスと言われている。

「それとは別に関係ないですよ。タラントの時も、ビスマルクの時も、運が良かっただけです。
仲間内では不死身とか言われてますけど、自分はただ運がよかっただけとしか思っていません。」
「ほう。そう思っていたのか。」

マーチス少佐は感心したように呟いた。

「てっきり、天狗になっていたかと思っていたが。」
「皆があれこれ言い過ぎるんですよ。自分は別に大した存在ではありません。」

スコックスは苦笑しながら言った。

「謙虚なもんだ。」

マーチスはそう呟いた。探し物を終えたスコックスが機体から降りてきた。

「それにしても・・・・」

スコックスは、マーチス少佐の隣に来ると、機体のある部分を感慨深げに眺めていた。
彼が乗っていた機体。フェアリー・ソードフイッシュ。
1935年に採用されたイギリス海軍の艦上攻撃機だが、複葉機のためスピードは遅く、第1次大戦の骨董品に見える。
しかし、この機体も、これまで数々の武勲を立ててきた名機である。スコックスは、胴体の後ろ部分に見入っていた。
青と赤丸の国籍マークが描かれていた部分には、星のマークが代わりに描かれている。

「改めて、自分らがアメリカ海軍の部隊になったと、思わせられますね。」
「戻れないからな。」

マーチス少佐は、寂しげな表情を浮かべる。

「NOS-233と言う部隊名も、今はVT-9という部隊名に変わった。
しかし、同じ英語圏とはいえ、違和感は拭えないな。」
「時が経てば慣れるんでしょうが、あとしばらくはこんな気持ちなんでしょうなぁ。」

一緒に転移した第12艦隊は、アメリカ海軍の編入の際に、アメリカ側から新たな艦番号を与えられた。
彼らの母艦のイラストリアスはCV-9、艦隊の旗艦であるプリンス・オブ・ウェールズにはBB-58、
レナウンにはCB-1と、アメリカ式の番号が振り分けられている。
当初、イギリス海軍側は反発の声が上がったが、もう本国には戻れぬ事と、アメリカ海軍の一員となるからには
艦隊丸ごとが別の扱いでは作戦に支障を来たす事から、各艦に合衆国海軍の軍艦としての、新たな生涯が始まった。
各艦が米軍艦として編入された一方で、部隊のシンボルマークであるユニオンジャックは、そのまま部隊旗として扱われる事になり、
艦から降ろされる事は無くなった。

「ところで、自分達はどこで戦う事になるんですかね?」
「さあ、私にも分からんさ。」

スコックス少尉の言葉に、マーチス少佐はただ肩を竦めるだけだ。

「太平洋でシホット相手に暴れるか。大西洋でマイリー(マオンドの蔑称)相手に暴れるか。
2つのうちどちらかだな。」
「自分は太平洋でも大西洋でも構いませんけどね。ただ、コイツで飛んで敵艦の土手っ腹に魚雷をぶち込めれば、
それだけで満足ですよ。」
「まるで血に飢えた獣みたいな奴だな。」

そう言うと、マーチス少佐は大笑いした。ひとしきり笑い飛ばすと、彼は真剣な表情に変わった。

「だがな、出撃がそう遠く無い時期に行われるのは、恐らく確実かも知れんな。」

彼は、やや声のトーンを下げて言う。

「隊長も分かりますか?」
「分かるさ。ここ最近、大西洋艦隊司令部や、旗艦で会議が開かれている。タラント空襲やビスマルク追撃の
時にも似たような事はあった。」
「と、なると。」

スコックスがやや緊張した表情で言うと、マーチス少佐は彼の肩を叩いた。

「お前の望みが、近いうちに叶えられるかもしれないぞ。」
「もうちょっと、ゆっくり叶って欲しかったのですが。」

マーチス少佐の言葉に、スコックスは苦笑しながら答える。

VT-9は、8月になればTBFアベンジャーに機種転換する事になっているが、少佐の話や、お偉いさん方の
行動からして、その8月までになんらかの作戦が行われるかもしれない。

「次の戦いは、コイツのラストバトルになるかもしれせんね。その時は、大物を食って敵を驚かしてやりましょう。」


1482年 6月15日 午後2時 マオンド共和国領エルケンラード

酒場の窓から、彼は反体制者が憲兵隊に連行されていく様子を見つめていた。

「また反体制者か。どうせでっち上げだろうが。」

彼、クルッツ・ラエクは忌々しそうな口調で呟く。
割合で1ヶ月に1度、多くて2度ほど、マオンド軍の憲兵隊によって、住民が連行されていく。
時折、真夜中に怒鳴り声や、悲鳴じみたものが上がる時があるが、その翌日には、街角に人が吊るされている時がある。
吊るされている者には必ず、哀れな反逆者、ここに散るとメッセージが書かれている。
犯人がマオンド側と言う事は誰もが知っている。
そんな血生臭い事が起きているにもかかわらず、町は平穏である。

「連行されて行く人のその後って、聞いたことあるかい?」

後ろから声が問いかけてきた。クルッツが寄っている酒場の主人のものだ。

「いや、無いが。でも、その後は大体予想がつくよ。」
「予想ね。」

酒場の主人は苦笑しながら言う。

「暇潰しにとりあえず言っておくか。あの連行されていく連中。表向きは反体制者ってなっているが、
実際はマオンドの奴らが適当に罪をでっち上げて、連れて行っているだけなんだ。」

主人は水を飲んでから言葉を続ける。

「その連れて行かれた奴ら。噂ではどこぞの魔道研究所で、魔法の実験に使われているとか、
キメラの餌にされているとか。女に到ってはあのゴミ溜めにいる領主様に献上されているとか。
まあ、噂に過ぎないけどな。」
「噂にしても。どれもこれもえげつない話だ。」

クルッツは顔をしかめてそう言い放つ。

「マオンドの奴らに聞かれていないから、言える事だが。俺に言わせて貰えば、この町、いや、
ヘルベスタン王国そのものが反体制者の集まりだ。だが、俺達も従わせれば、マオンド本国に入る金も
たんまりあるから、適当に言い繕って、こうやって働かせて重税を敷いている。いわば、レーフェイル大陸は
マオンドという看守のいる巨大刑務所さ。」
「巨大刑務所か。うまい例えだ。」

クルッツは無表情でそう呟く。ヘルベスタン王国が、マオンドに取り込まれたのは今から10年前の事である。
ヘルベスタンは、レーフェイル大陸中西部に位置する国で、人口は1200万人、西側は沿岸部に当たる。
そのヘルベスタンは、隣国マオンドの電撃作戦によって瞬く間に占領され、今ではマオンド共和国の一領に成り下がった。
この町エルケンラードはマオンドの中でも最も北に位置する港町で、昔から貿易や漁業で栄えた町である。
マオンドに占領された今でも、漁業は盛んに行われており、港の市場には商売人の客寄せや粋のいい声が上がり続けている。
しかし、それは表面上であり、人々の内面は、重い圧迫感に苛まれている。

「特に、このエルケンラードはあの領主のせいで監獄同然さ。」
「領主の文句は、あまり言わんほうがいいぞ。」

クルッツは口の前に人差し指を立てた。

「領主様のお仲間は住人の中にもいるみたいだ。」
「それは聞いているよ。その点については、俺も十分気をつけているよ。」

酒場の主人は特に驚いた様子も無く、淡々とした口調で答えた。
エルケンラードには、町の外れに大きな豪邸がある。
その豪邸はこの町のみならず、ヘルベスタン王国を取り仕切る、ジヘル公爵の住家である。
ジヘル公爵は、外見は陽気で温和だが、実際には粗暴で出世欲が強く、それでいて遊び事にも熱を入れているようだ。
この公爵は、よくこの領の娘を側室に出迎えているが、帰ってきた娘は、例外なく精神を壊され、
回復不能とまで言われた者もかなりいた。
ちなみに、町の中央にはその公爵の銅像などが立っているのだが、住人達には影で、文句のはけ口となっている。

「それよりも、ここ最近はマオンドの奴らが、漁船の遠洋漁業を禁止しているのが気に入らんね。」

主人が険しい表情を浮かべた。彼の関心事はここにあるようだ。

「最近、魚の漁獲量が少ないからね。」
「マオンド軍の奴らが、敵の潜水艦とやらがいるから危険だ、とか抜かして漁船の遠洋航海を認めてない。
そのせいで、良質な魚が手に入らなくなったし、メニューも書き換えるしかなかった。」

主人は、持っていた布をカウンターに投げつけるように置き、頭を抱えた。

「お陰で、ここ2ヶ月は売り上げも減ったまま。このままでいけば、3ヵ月後にはどこぞの金融屋に頭を下げる羽目になる。
親父の代からこの店をやってきたんだが・・・・」

主人が大きくため息をついた。

「そう気を落とすなって。この不況がいつまでも続くとは限らないさ。それに、常連がこっちにいるじゃないか。
あんたの店の酒やメシはうまいから、いつでも来てやるよ。」
「ありがとうよ。あんたのような客がいると、俺も嬉しい限りだね。」

主人は微笑みながらそう言った。この青年と会って1ヶ月にも満たぬが、主人はすぐに彼と打ち解けた。
週に1回はこうして飲みに来て、他愛も無い話をしている。夜に来たり、昼に来たりと、来店時間はばらばらだが、
今や、主人にとっては大事な常連客の1人である。

「3日おきに来るマオンドの輸送船団から、何かかっぱらって売り飛ばすか。そしたら、あっという間に大金持ちさ!」
「おいおい、そんな事は夢の話にしといてくれ。俺はこうやって、酒や食い物を売る仕事が好きなんでね」

主人は笑いながら答えた。
時折、青年が言い出す冗談が、この人物魅力の1つでもあり、主人がこの青年と親しく話すきっかけにもなっている。

「そろそろ時間だ。金を置いていくよ。」
「まいどあり。」

主人は布を畳みながらそう言った。青年は、いつもの通り店を後にしていった。

小高い丘の上にある酒場の道から、港はほぼ全て見渡せた。
クルッツは帰り際に、港をちらちら見ながら、20分後に自分の住家に戻った。

住家は、普通の人が見れば眉をひそめるほどのぼろ屋であるが、中はきちっと整理整頓がされており、
住人の性格がそのまま現れていた。
クルッツは家に入ると、そのままベッドに入って考え事を始めた。
考え事を5分ほどで終えると、彼はベッドのすぐ側の床をはがし、そこから何かを取り出した。
1つの木箱を取り出した彼は、蓋を開けて、中から無線機を取り出した。
無線機と打鍵キーを取り出すと、蓋を閉めて空の箱をテーブル変わりにして、右手でキーを叩き始めた。

「敵船団、2時にエルケンラードに入港せり。数は輸送船12、軍艦10。」
+ タグ編集
  • タグ:
  • 星がはためく時
  • アメリカ軍
  • アメリカ
ウィキ募集バナー