自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

060 第51話 ヤンキーステーション

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第51話 ヤンキーステーション

1482年(1942年)11月2日 午後3時 エバルク・コースク

「・・・・来た!シホールアンル軍だ!」

岩場の上から、上ずったような声が響いた。
その声を聞いた兵達が、配置場所から長弓を構えたり、愛用の長剣を鞘から抜く。
部隊付きの魔道士は、すぐに魔法が放てるように、敵が来る方向に向けて両手を差し出す。
彼らの布陣する岩場は、エバルク・コースクの東3ゼルドに位置する丘にある。
岩場の前面は、広い平野となっており、その平野の向こうにはシホールアンル軍が布陣している。

「これで、6回目だな。」

中佐の階級章を付けたダークエルフがうんざりしたような口調で呟く。
ミスリアル軍第19歩兵旅団に所属する第3連隊所属である、第3大隊長の隊長バルシスク・ランドアルク中佐は、
これまで6度も、シホールアンル軍の攻勢を撃退してきた。
彼ら第19歩兵旅団が布陣するエバルク・コースクは、魔法都市ラオルネンクより北西30ゼルド、
海岸線より150ゼルド離れた中小都市である。
昔から交通の要衝として栄えた町で、シホールアンル軍が侵攻してくる前までは、3万の住民が住んでいた。
今は第19歩兵旅団と、第21歩兵旅団の兵、合わせて1万がいるのみである。
本来なら、ミスリアル軍の人員は師団で12300人、旅団で7100人である。
この町には元々、2個旅団合計14200人の兵員が配置されていた。
だが、相次ぐ敵の攻勢によって、2個旅団合わせて10000程度にまで討ち減らされているのだ。
対する敵軍は、未だに30000以上の兵がこのエバルク・コースクに向けられている。
シホールアンル軍は、大半の兵をラオルネンク攻略に差し向けてはいるが、一部の軍にはこうして、
エバルク・コースクのような中小都市を攻略させていた。

このエバルク・コースクが落ちれば、ラオルネンクの西側を守る第5軍が側面を敵にさらしまう。
現在、ミスリアル軍全軍は、組織的後退に成功した後、残存軍を持ってラオルネンク以西の防衛に当たっている。
未だに魔法通信が使えぬ中、ミスリアル軍各部隊は伝令等を使ってかろうじて連携をとり、シホールアンル軍の力押しに耐えている。

「せめて、魔法通信が使えれば、敵の最初の攻勢であんな無様な敗退を喫す事など無かったのだが・・・・
まあいい。南大陸諸国や、アメリカから救援部隊が来るまで、我々は耐え抜くまでだ。」

ランドアルク中佐は、改めて決心した。
魔法通信が使えぬから、彼らは10月24日に起きた大海戦の顛末を知らない。
敵の力押しにいつまで耐えられるか分からない。今日は耐えても、明日には壊滅するかもしれない。
あるいは、今日の攻勢にも耐え切れずに、部隊は全滅するかもしれない。
(俺達の防衛戦が破られるなら、せめて、敵兵の多くを道連れにして死んでやる!)
彼が悲壮な決意で、敵の来襲を待っていた時、ついに敵の先頭が姿を現した。
敵の先頭集団は、やはりゴーレムとキメラ、歩兵の合同部隊だ。

「野砲、撃て!」

生き残った4門の野砲が一斉に撃ち出される。彼らの布陣する岩場から、敵の居る平野までは
距離からして1000メートル程度。
ミスリアル軍の野砲の射程距離は4000メートル程度だから、充分に届く。
先頭を走っていたキメラの前面で砲弾が爆発し、大量の土や破片を浴びたそのキメラが、首を粉砕されて息絶えた。
第2射のうちの1弾がゴーレムにぶち当たり、太くて固そうな右腕が吹き飛ばされる。
敵との距離が更に縮まると、待ち構えていた魔道士が一斉に攻勢魔法を放った。
火の玉のようなものが地面に当たるや、周囲8メートル四方が一気に火に包まれ、随伴していた歩兵達が、
悲鳴を上げて転げまわった。
雷系の攻勢魔法を食らったキメラが一瞬、ビクンと痙攣するや、次の瞬間には膨張し、爆発して
グロテスクな光景を現出させる。

だが、シホールアンル軍も黙っては居ない。
いきなり、敵軍の後方から砲声が聞こえたと思うと、大量の野砲弾が岩場に落下してきた。

「敵の砲弾が来るぞ!伏せろ!!」

誰かが叫んで、何人かが岩場や掘った穴に隠れた時、野砲弾が地面に落下、炸裂した。
ひとしきり敵の支援砲火を浴びせられた後、一度前進をストップさせていた先頭集団が再び突撃し始めた。
最初のキメラが、岩場に踊り込んで来た。
そのキメラのすぐ近くにいた魔道士が、攻勢魔法を用いて仕留めようとするが、呪文詠唱に入る前に、キメラによって八つ裂きにされる。
暴れ込んだストーンゴーレムが、ミスリアル兵を隠れた岩ごと叩き潰し、又は穴を踏み潰してから陣地の奥へ、奥へと進んで行く。
ゴーレム、キメラに別の魔道士から攻勢魔法が放たれて、みるみるうちにゴーレム、キメラが討ち減らされていくが、
その間に仕留められるミスリアル兵も少なくない。
ゴーレム、キメラが半分弱に減った後には、すぐに敵の歩兵が暴れ込んで来た。
死闘が陣地の中や外で繰り広げられた。互いに体を叩き付け、剣で切り合いながらも、第3大隊は敵の先頭集団を押し返し、退却させた。
だが、第3大隊が受けた被害は、甚大であった。

「大隊長!」

エルフの女性下士官が、泣かんばかりの表情でランドアルク中佐に報告して来た。
その女性下士官は、右腕から血を滴らせていて、見るからに痛々しい。
傷口を押さえることすらしない事から、恐らく興奮と緊張で痛みを感じる事が出来ないのであろう。

「敵部隊に大損害を与えて撃退しました。しかし・・・・・しかし・・・・・」

口ごもる下士官に対して、ランドアルク中佐は穏やかな口調で言う。

「なんだ?言ってみろ。そうでないと俺も分からないよ。」
「は・・・はい。我が中隊は、士官が全て戦死しました。今、中隊の残余は定数の3割で、私が指揮を取っています。」
「3割・・・・か。凄まじい物だが、全滅するよりはまだいい。分かった。引き続き敵の襲撃に備えてくれ。
苦しいだろうが、救援が来るまでの辛抱だ。持ち場に戻れ。」

彼はそう言って、下士官を戻らせようとしたが、下士官は不満気な表情を見せながら、彼の天幕から出て行った。
その後、他の中隊からも続々と被害報告が寄せられた。
この事から、第3大隊の戦力は、定数の4割にまで落ち込んでいる事が分かった。

「敵の第2集団!接近しつつあり!上空には20騎のワイバーンがいます!」

休む暇も無く、敵の新たな突撃部隊が迫りつつある。既に野砲は無く、兵は半死半生の者がほとんど。
(それでも、俺達は戦う。長い間、蔑まれてきたエルフ族がやっと持てた国なんだ。この国を、北大陸の
野蛮人共に取られて溜まるか!)
部隊が半分以下になろうとも、ランドアルク中佐は、いや、大隊の将兵のみならず、今他の戦線で戦っている
ミスリアル兵達は、誰もがそう思いながら、勇敢に戦い続けていた。
その悲壮な思いも、新たな報告によってたちまち消え去った。

「大隊長!北西方向より飛空挺の大編隊です!」
「飛空挺、だと?」

いきなりの報告に、ランドアルク中佐は怪訝な表情を浮かべた。

「そうです。飛空挺です!聞いてください、この音を!」

彼は副官が言うままに、聞き耳を立てた。

すると、確かに何かの音が聞こえて来る。音がする方向に目を向けると、そこには飛空挺の群れが、北西の空を飛んでいた。
飛空挺の集団は、轟々たる発動機の音を響かせながら、彼らが守る岩場の上空を飛び越えて行く。
飛空挺の胴体には、どれもこれも、誇らしげに青地の上に白い星が描かれている。

「アメリカ軍だ!騎兵隊がやって来たぞ!」

副官が、熱に浮かされたような口調で叫んでいた。

「騎兵隊、だと?」
「そうです。騎兵隊ですよ!自分は6月から9月までヴィルフレイングに行った事がありまして、
その時に出来たアメリカ人の知り合いに色々教えてもらったんです。」
「そうなのか・・・・・・なるほど。」

中佐は感心した表情を浮かべた。
アメリカ軍機の編隊は、そのうちの一部が急に増速し、今しも接近しつつある敵地上軍の上空にいるワイバーンに突進していく。
いきなりのアメリカ軍機出現に泡を食ったのか、ワイバーンの集団は慌てて散開しながら、アメリカ軍機に応戦する。
ワイバーンはしきりに格闘戦を仕掛けようとするが、アメリカ軍機はそれに乗ってこない。
急降下から、水平飛行に移った1機のアメリカ軍機にワイバーンが取り付くが、その背後から別のアメリカ軍機が迫り、機銃弾を撃つ。
ワイバーンは逃げる間もなく機銃弾に絡め取られて、地上に墜落していく。
良く見てみると、アメリカ軍機は常に、離れた位置にペアの1機を配置し、互いに蛇行しながらワイバーンが間に飛び込んで来るのを待っている。
この戦法の意味を知らぬワイバーンは、アメリカ軍機の後方に付くや、すぐさま後続機に討ち取られて散華するものがあちこちで見られる。

「なるほど、2機1組でワイバーン1騎にあたるか。合理的な戦法だ。」

ランドアルク中佐は、初めて見るサッチウィーブに思わず感心していた。
今まで、敵のワイバーンには好き放題やられてきた彼らだが、その憎きワイバーンがいいようにあしらわれている様を見ると、
それまで鬱屈していた気分は一気に吹き飛んだ。

「大隊長!敵部隊が前進を止めました!」
「何、本当か!?」

ランドアルク中佐は、側に置いてあった望遠鏡を手に取り、それで敵第2集団を見てみた。
先頭に立つゴーレムやキメラが、魔道士の指示に従っているのか、行き足を徐々に鈍らせている。
中には、慌てて引き返しつつある部隊も見えた。
だが、アメリカ軍機が見えた今、シホールアンル側の判断は遅すぎた。
ずんぐりとした飛空挺が40機ほど、無防備に姿を晒す敵第2集団の上空に達した時、胴体から爆弾を投下した。
この時、アベンジャー隊は腹に2発ずつの500ポンド爆弾を抱えており、1300メートルほどの高度で
敵地上部隊の上空に達するや、一斉に爆弾をばら撒いた。
少しの間を置いて、敵軍の集団の中に次々と爆発が起こった。
500ポンド爆弾の炸裂によって、頑丈なゴーレムやキメラが粉砕され、後ろに詰めていた騎馬部隊や歩兵部隊が
ひとしなみに爆風に薙ぎ倒された。
アベンジャー隊は敵歩兵部隊を狙ったが、随行していたドーントレス隊46機は、ミスリアル軍の前線より7キロ離れた
平野に布陣する砲兵部隊を狙った。
流石に砲兵部隊も以前のように丸腰ではなく、配置された地上部隊用の魔道銃や高射砲を打ち上げる。
だが、ドーントレス隊を食い止めるには力不足であった。
ドーントレス隊が目標を見定めると、高度4000から釣瓶落としに急降下し始めた。
ハニカムフラップから発せられる甲高い轟音が大地を圧し、砲兵部隊の将兵が耳を押さえながら、大砲の周囲から逃げ始めた。
30門あった各種野砲に1000ポンド爆弾が落下し、野砲を1つ、また1つと叩き潰していく。
火柱が上がり、破片が飛び散り、負傷した兵が泣き叫びながらのたうち回る。
F4Fのみならず、ドーントレスやアベンジャーは爆撃が終わるや、地上スレスレに降りて傍若無人な機銃掃射を
入れ替わり立ち代わり繰り返した。
ワイバーンを蹴散らされたシホールアンル側は攻撃終了まで30分の間、アメリカ艦載機に蹂躙し尽くされ、第2集団は戦力の3割を
戦わずして失い、ミスリアル軍陣地の突入を断念し、後方に布陣していた砲兵隊は、急行下爆撃によって壊滅してしまった。

「来てくれた・・・・・救援が来てくれたぞ!」

空襲が終わった後、逃げ帰るシホールアンル軍を見て誰かがそう言ったとき、第3大隊の将兵達は大地に響かんばかりの歓声を上げた。

この日、バゼット半島の北海岸沿岸部に陣取ったアメリカ機動部隊は、ようやくミスリアル地上軍の支援攻撃を始めた。
最初の第1撃は、ミスリアル側と事前に協議を重ねた結果、一番苦戦しているといわれているエバルク・コースクに
向けられ、これには前線に留まっているヨークタウン、エンタープライズ、ワスプの3空母から述べ240機が参加し、
エバルク・コースク攻撃を担当していたシホールアンル第74軍に大打撃を与えた。
4日には、急遽、ヴィルフレイングから出発した後発部隊の第1、第2海兵師団がミスリアル王国南西部のバジャウルンガに
上陸し、飛行場の建設を開始した。
又、同日には第3航空軍が、稼動全機を持って、シホールアンル側の占領地であるカレアント、ミスリアル国境を絨毯爆撃した。
第3航空軍は、妨害魔法が発せられている場所に向かう際、南大陸軍側から大量に魔道士を借り受け、共に爆撃機に乗せてから
妨害魔法が起動している位置を捜索した。
妨害魔法は、効用範囲内では起動している場所すら分からなかったが、効用範囲外ではあっさりと位置を突き止められた。
爆撃は3日に渡って続けられ、妨害魔法の効用範囲はミスリアル王国の北西部の一部から北東部全体に限定され、実に3分の1の
地域が魔法通信を使えるようになった。
8日には飛行場が完成し、同日午後には第1海兵航空団、第3航空軍所属の戦闘機、爆撃機合わせて130機が到着し、同日3時には
海兵隊航空隊所属のF4Uコルセア4機とF4F18機、SBD、TBF各12機に陸軍航空隊のA-20ハボック12機が出動し、
苦戦するミスリアル軍に対して航空支援を行った。
この戦闘で、初陣となったコルセアは1機の喪失も無く、逆にワイバーン2機を撃墜し、2機を傷つける戦果をあげた。
10日からは第1、第2海兵師団が前線に現れ、南部一帯に潜む敵特殊部隊をあぶり出しにかかった。
後方撹乱を主任務とする精鋭部隊も、武器の優劣にはかなわず、立ち向かえば無数の銃弾や火砲で歓迎される始末であり、
11日には海兵隊の進撃を阻む物は正規軍のみとなった。
12日までには、圧倒的な火力と物量によって南部のシホールアンル軍は40キロも押し返され、北部分を攻め入るシホールアンル軍8万は
エバルク・コースク、ブレガーンド湾の攻略を諦め、南部軍と合わせる様に後退を始めた。
ミスリアル侵攻を行って1ヶ月足らずで、一時はラオルネンクを占領寸前にまで追い詰めたシホールアンル軍は今や勢いを失い、
体勢を立て直したミスリアル軍やアメリカ軍に徐々に押されていった。

11月14日 午前8時 ブレガーンド沖北西110マイル

「司令官、来ました。サラトガとレキシントンです。」

第16任務部隊司令官であるウィリアム・ハルゼー中将は、ブローニング参謀長が指差す方向に顔を向けた。

「おお、ついにお出ましか。待ってたぜ!」

ハルゼーは、2隻の空母の姿を見るなり、満面の笑みを浮かべながら言った。

「レディ・レックスとシスター・サラさえ来れば、ミスリアルに張り付くシホット共をより早い時間で
追い出すことが出来るぞ!」
「敵さんも、ラオルネンク攻略を諦めて後退戦に移っていますからな。大勢は決したも同然です。」
「俺達、アメリカがいる限り、シホット共には思い通りにはさせんさ。今頃、敵機動部隊の指揮官は
歯噛みして悔しがっているだろうな。」

と、ハルゼーはニヤリと笑みを浮かべる。
第16任務部隊は、他の2個任務部隊と共にバゼット半島の北海岸沖を遊弋しながら、ミスリアル軍の航空支援を行って来た。
航空支援を開始する前は、10月24日の第2時バゼット半島沖海戦で受けた傷を癒したり、損傷の大きい艦を後方に下げたり、
船団攻撃で捕虜にした12000の敵兵を、第2任務部隊が護衛しつつ、随行させてきた輸送船に乗せて、後方に送ったり等、
海戦の後始末に追われていた。
ちなみに、ノーベンエル岬沖の戦いの後に行われた、敵の捕虜救出作業は思いのほか難航を極めた。
救出作業には、船団攻撃に参加した艦すべてが当たり、大破し、沈没しつつある輸送船から脱出した物や、船から投げ出された
敵兵を片っ端から救出した。
救助作業中に力尽きて沈んでいく兵や、大破、炎上した船に取り残されたまま息絶える兵が続出し、現場海域は地獄さながらであった。
本来であれば、このような救出作業は行わぬ予定だったのだが、第5戦艦戦隊司令のリー少将の判断で救助活動が行われた。

最初、救助に当たった際は、逆上した敵兵から抵抗を受けたが、抵抗を受けた場合には容赦なく排除した。
これを見て敵はショックに陥ったのか、予想された混乱は最初のみであり、後はスムーズに救助活動が進んだ。
救助するなり、手を差しのべたアメリカ兵を睨みつけるシホールアンル兵は多かったが、船団壊滅のショックや、
疲労困憊したシホールアンル兵に抵抗する気力は無かった。
こうして、思いのほか従順になったシホールアンル兵のお陰で、救助作業は順調に進み、各艦艇の甲板上には、
合計で14000名のシホールアンル兵が収容され、後に2000名が、25日の午後やって来た輸送船に
移される前に戦傷死した。
リー少将のこの行為は、当初は敵に対する過剰な甘えであると、激しく非難された。
だが、後に敵味方から立派な行為として賞賛を浮ける事になるが、それは戦後の話である。


11月4日から、本格的に航空支援を開始したTF16を初めとする米機動部隊は、エバルク・コースクから
ブレガーンド湾沖を常に遊弋している。
今では、エバルク・コースク、ブレガーンド湾周辺の海域は、ヤンキーステーションと呼ばれ(この名前をつけたのは、
第2任務部隊司令官のアイザック・キッド少将である)、この海域からアメリカ艦載機は、ミスリアル軍の航空支援を続けている。
そのヤンキーステーションに、開戦以来の戦友であるサラトガとレキシントンが加わったのである。
新たに加わるのは、サラトガ、レキシントンの他に、新鋭軽巡のコロンビアと駆逐艦6隻である。
予定では、サラトガは第16任務部隊に、レキシントンは第17任務部隊に配備され、これまで通り航空支援を行う。
航空機の総数は412機までに回復し、敵地上軍に対してより強力な打撃力となるであろう。

「ハルゼー提督。」

唐突に、後ろから声がかかった。やや気だるげな声の主は、当然ラウスであった。

「おう、ラウス君。相変わらず、さっぱりとした顔つきをしとるな!」

ハルゼーはそう言いながら、ラウスの左肩を叩いた。

ラウスの顔は、普通のさっぱりとした顔つきとはどこか違う物であるが、ハルゼーやTF16の幕僚達はもはや
気にしていなかった。

「はは、ども。そういえば、ハルゼー提督は、先の海戦で戦った敵竜母部隊の指揮官はどう評価されますか?」
「どう評価されるかだと?それはもう分かってるぜ。大胆かつ、勝負に強い、おまけに判断力に優れている。
過去の海戦で、敵さんはいずれも俺達をあっと驚かせるような戦法を取り入れてきた。確かに俺達は勝ったが、
こっちも参加空母全てを傷物にされた。この事からして、俺は敵将を、ある意味で尊敬に値する男だと思っている。
あの野郎が生き残っていれば、また戦いたいものだ。」

ハルゼーは感慨深げな表情で言った。
あの海戦が終わった後、ハルゼーは敵将を出来る奴と思い、ある意味で尊敬していた。

「そうですか。あっ、これあげます。」

ラウスは、持っていた紙をハルゼーに渡す。

「ん?何だねこれは?」

彼はそう言いながら、紙を見てみると、そこには絵が描いてあった。
絵は女の絵である。顔立ちは流麗で髪は紫色の長髪、目つきはどことなく鋭いが、やや少女のような
面影も滲ませている。誰に尋ねても、この女性は美人であると言うだろう。
全体的に、頭の切れそうな顔つきでもあり、見る人が見れば、その視線に釘付けになるだろう。

「ラウス君。俺は女の子の絵は欲しくないのだが。」

ハルゼーは怪訝な表情でラウスを見つめる。ラウスは苦笑しながら、絵を指で突付いた。

「あなたがまた戦いたいと言った敵将が、この女の子ですよ。」
「ハッハッハ!ラウス君、アイスクリームでも食い過ぎたかね?」

ハルゼーは冗談だと思って、笑い飛ばした。だが、ラウスは言葉を続ける。

「この人はリリスティ・モルクンレル。年齢は30歳。シホールアンル海軍所属の海軍中将で、
第24竜母機動艦隊、アメリカ海軍でいれば、TF16や17に相当する機動部隊を率いていました。
昨日送られて来た魔法通信に、彼女の似顔絵が混じっていたので、そえを克明にスケッチしたのが、
これですよ。」
「まだ冗談を言うのか!困った物だ・・・・・・・・・・・・何!?」

途端、ハルゼーの表情が変わり、絵をまじまじと見つめる。

「ラウス君は、今までに嘘を言った事は無いからな。だとすると・・・・・・司令官。我々は
女性と戦っていた事になりますな。」
「・・・・・こんな小娘が、俺達と機動部隊決戦をやったのか。30歳とは、俺からしたら
子供のようなもんじゃないか!」

ハルゼーは顔を真っ赤にして叫んだ。

「信じ難いとは思うようですが、事実っすよ。彼女、シホールアンル国内では有名で、シホールアンル帝国内の
名門貴族の令嬢でもあります。昔から軍事の才に長けているようで、よく士官学校の教官連中を驚かせていた、
という噂があります。真実かどうかは分からないっすけどね。」

ラウスののんびりとした口調に、ハルゼーは危うく激発しかけたが、寸出のとこで抑える。

「そうか。こんな小娘が・・・・いや。まだ若いからこそ、頭が柔軟で、より効果的な作戦を考えられるのかも知れんな。
確かに、出来る奴のいい見本だな。このような若い司令官がシホット共には何人もいるのだろう?」
「ええ。表に出ていない奴も含めれば、かなりの数になるかと。」

ラウスの言葉に、ハルゼーのみならず、TF16のスタッフ全員が震え上がる。
リリスティのような英傑が、種類を違えど、まだまだ居るというのだ。
確かに、合衆国軍は強いが、敵も強い。
その強さの秘訣は、リリスティのような優秀な司令官がいるからであろう。

「開戦直後に、早々と敵国本土に侵攻しようとか発言した輩が、本国に何人もいたそうだ。うちのシャープエッジが
防御、防御攻勢、攻勢防御、攻勢の4段階案を発表してからはそんな妄言を吐く奴は居なくなったが・・・・・・
さっさと攻め込んでいたら、今頃は危なかっただろう。」
「同感です。下手をすれば、主力艦をあたらに喪失し、新鋭艦が配備されても、満足な作戦行動が出来ぬ可能性も出たでしょうな。」
「事前に、敵の戦力を少しずつ減殺していく形で、今に至ったからな。結果的にいい方向に行っていると思う。それに、
来年の6月までには正規空母3隻と軽空母2隻が配備される。こいつらが加われば、敵の少し後方にも空襲をかけられるだろう。」

太平洋艦隊は、来年の6月までには、エセックス級空母のネームシップであるエセックスとボノム・リシャール、イントレピッド。
それに軽空母のインディペンデンスとプリンストンを受領する事になっている。
これらが加われば、太平洋艦隊は正規空母8隻、軽空母2隻を保有する事になる。
正規空母のうち、ワスプが空母戦力が拡充した後は大西洋艦隊の所属に戻る事になっているが、それでも、大小9隻の
空母を保有する事になり、太平洋艦隊司令部では来年6月に、空母3隻ずつ主体の機動部隊を3個編成する方針だ。

「先の話はこれぐらいにして、今はミスリアル領からシホット共を叩き出す事が先決だ。
参謀長、今日の第1次攻撃隊は何時に出れそうかね?」
「8時30分までには発艦を開始します。第1次攻撃隊はTF17のヨークタウンと合同で行います。」

「よろしい。1日でも早く、ミスリアルの戦友達を安心させたいものだな。」

ハルゼー中将は頷きながら言うと、いつものように張り出し通路に出て、飛行甲板上で発艦準備中の艦載機群を眺めた。



ヤンキーステーションから発艦した艦載機は、11月4日から、シホールアンル軍がミスリアル領から完全撤退する
12月中旬まで述べ2000機に及び、その間、機動部隊は機体の補充を受けながらも、ミスリアル軍の上空を守り続けた。
ミスリアル軍の将兵達は、アメリカ軍機が支援に来る度に、口々に騎兵隊が来たと言って常に歓迎していたと言う。
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