第29話 ソードフィッシュの凱歌
1482年 6月30日午後9時 レーフェイル大陸沖南東180マイル沖
人は、暗闇を恐れる。
海でも、陸でも、人間と言うものは、大体が暗闇と言う環境に不慣れである。
陸では、まだ人間は大地を自分の足で踏みしめ、目的地に向かって進めるが、海に関して言えば、それは当てはまらない。
進むのは一緒だが、人間は自ら海を渡る事はできず、船と言うものを頼って行く。
それは古今東西変わることは無い。だが、頼りになる船があるないに関わらず、人は暗闇を恐れる。
かつて、レーフェイル大陸の南海上には、夜になると凶暴な海洋生物が多数出没し、闇を恐れる船を次々と沈めて行った。
以来、南大陸には闇魔の海として恐れられた。
今は、海洋生物は海軍の駆逐艦などの小型艦艇に退治され、闇魔の海という名は、元のグラーズレット海という
定められた名称で呼ばれた。
その呼び名が復活して100年が経ったこの日。その闇魔の海を、一群の艨艟が航行していた。
海でも、陸でも、人間と言うものは、大体が暗闇と言う環境に不慣れである。
陸では、まだ人間は大地を自分の足で踏みしめ、目的地に向かって進めるが、海に関して言えば、それは当てはまらない。
進むのは一緒だが、人間は自ら海を渡る事はできず、船と言うものを頼って行く。
それは古今東西変わることは無い。だが、頼りになる船があるないに関わらず、人は暗闇を恐れる。
かつて、レーフェイル大陸の南海上には、夜になると凶暴な海洋生物が多数出没し、闇を恐れる船を次々と沈めて行った。
以来、南大陸には闇魔の海として恐れられた。
今は、海洋生物は海軍の駆逐艦などの小型艦艇に退治され、闇魔の海という名は、元のグラーズレット海という
定められた名称で呼ばれた。
その呼び名が復活して100年が経ったこの日。その闇魔の海を、一群の艨艟が航行していた。
空母イラストリアスの格納庫から、1機の複葉機。
イギリス海軍の主力艦攻であるソードフィッシュが飛行甲板に上げられてきた。
エレベーターが音を立てて止まると、待機していた甲板要員がソードフィッシュを後部甲板のほうへ押していく。
後部甲板には、既に9機のソードフィッシュが、腹に魚雷を抱いて発艦の時を待っている。
イギリス海軍の主力艦攻であるソードフィッシュが飛行甲板に上げられてきた。
エレベーターが音を立てて止まると、待機していた甲板要員がソードフィッシュを後部甲板のほうへ押していく。
後部甲板には、既に9機のソードフィッシュが、腹に魚雷を抱いて発艦の時を待っている。
「艦長、あと10分で発艦準備終わります。」
飛行長のヴィンク・バイラッハ中佐が艦橋に報告にやって来た。
「あと10分か。予定では発艦準備だけで30分掛かると思っていたが、今は20分ほどしか経っていないな。」
艦長のファルク・スレッド大佐は満足そうな口調で言った。
「これも普段の訓練の賜物ですよ。」
「そうだな。それに、俺たちが狙う場所は、敵さんのほぼ中枢部だからな。やる気も出てきて仕事も捗るのだろう。」
「攻撃が成功したら、マオンドの奴らは仰天するかもしれませんよ。」
「仰天どころか、心臓発作を起こして死ぬ奴が出るかもしれんぞ。」
「そうだな。それに、俺たちが狙う場所は、敵さんのほぼ中枢部だからな。やる気も出てきて仕事も捗るのだろう。」
「攻撃が成功したら、マオンドの奴らは仰天するかもしれませんよ。」
「仰天どころか、心臓発作を起こして死ぬ奴が出るかもしれんぞ。」
スレッド大佐はニヤリと笑みを浮かべながら言う。
「マオンドの首脳がポックリ行けば、大西洋方面の戦いは終わりになりますね。
おっと、自分はこれからブリーフィングがあるので、待機室に行きます。」
おっと、自分はこれからブリーフィングがあるので、待機室に行きます。」
バイラッハ中佐はそう言うと、敬礼して艦橋を去って行った。
飛行長が去った後、スレッド艦長は飛行甲板を見渡した。
イラストリアスの飛行甲板には、既に10機のソードフィッシュが並べられている。
あと2機揃えば、出撃準備は完了となる。
飛行長が去った後、スレッド艦長は飛行甲板を見渡した。
イラストリアスの飛行甲板には、既に10機のソードフィッシュが並べられている。
あと2機揃えば、出撃準備は完了となる。
「タラントよ、再び・・・・・か。」
スレッド艦長は、感慨深げに呟いた。
待機室は、発艦を待つパイロット達で賑わっていた。そこへ、バイラッハ飛行長が入室してきた。
「気を付け!」
マーチス少佐の声が響くや、全員が立ち上がって直立不動の態勢を取った。
「休め。」
バイラッハ中佐は冷たい口調で言うと、全員を座らせた。
「さて、諸君。今回は、わがロイヤルネイビーの誇るソードフィッシュの最後の晴れ舞台である。
そのソードフィッシュの使い手である君達が狙う獲物は、ここにいる。」
そのソードフィッシュの使い手である君達が狙う獲物は、ここにいる。」
彼は鋭い口調で言うと、指示棒で、後ろの地図を叩いた。叩いた箇所には、グラーズレットと書かれている。
「グラーズレットだ。このグラーズレットは、マオンド共和国でも第2の都市であり、グラーズレット港には
敵の有力な艦隊が駐留している。我がVT-9の任務は、このグラーズレット港に在泊する敵艦隊に、
夜間攻撃で持って損害を与える事だ。」
敵の有力な艦隊が駐留している。我がVT-9の任務は、このグラーズレット港に在泊する敵艦隊に、
夜間攻撃で持って損害を与える事だ。」
バイラッハ中佐はグラーズレットより南の地点に指示棒を持っていく。
「そのため、TF26はグラーズレットより南東170マイル沖で攻撃隊を発艦させる。攻撃隊は発艦後、
グラーズレットに進撃し、軍港に停泊する敵艦を魚雷で攻撃する。攻撃目標は何でも良い。空母でも戦艦であろうが、
駆逐艦でも警備艇であろうが構わん。目的は1つだ。敵を大いに驚かして、安息の眠りを奪え。攻撃終了後は
グラーズレット港より南南西160マイル地点に向かえ。我々はここで諸君達を待つ。」
グラーズレットに進撃し、軍港に停泊する敵艦を魚雷で攻撃する。攻撃目標は何でも良い。空母でも戦艦であろうが、
駆逐艦でも警備艇であろうが構わん。目的は1つだ。敵を大いに驚かして、安息の眠りを奪え。攻撃終了後は
グラーズレット港より南南西160マイル地点に向かえ。我々はここで諸君達を待つ。」
彼は言葉を区切って、待機室にいるパイロット達を見回した。
誰もが、面白そうだと言いたげな表情を浮かべている。
誰もが、面白そうだと言いたげな表情を浮かべている。
中には、早く出発させろとばかりに、目を輝かせるパイロットもいる。
「何か質問は無いか?」
飛行隊長のマーチス少佐がパイロット達に聞く。
だが、しばらく待っても36名のパイロットからは、何ら質問の声は聞こえない。
だが、しばらく待っても36名のパイロットからは、何ら質問の声は聞こえない。
「私からはこれだけだ。」
バイラッハ中佐は頷きながら言う。
「最後に1つだけ言う。全員、生きて帰って来い。」
それから10分後。イラストリアスは、艦首を風に立てて、今しも攻撃隊を発艦させようとしていた。
艦隊は、28ノットの高速で闇の中を驀進している。
イラストリアスの前方には、第26任務部隊の旗艦である戦艦プリンス・オブ・ウェールズが航行している。
後方には、巡洋戦艦のレナウンが続行しており、この3隻が輪形陣の中央を成している。
その左右には、重巡洋艦のカンバーランドとドーセットシャー、軽巡ケニア、ナイジェリアが展開し、
更にその外周を14隻の駆逐艦が取り囲んでいる。
艦隊は、28ノットの高速で闇の中を驀進している。
イラストリアスの前方には、第26任務部隊の旗艦である戦艦プリンス・オブ・ウェールズが航行している。
後方には、巡洋戦艦のレナウンが続行しており、この3隻が輪形陣の中央を成している。
その左右には、重巡洋艦のカンバーランドとドーセットシャー、軽巡ケニア、ナイジェリアが展開し、
更にその外周を14隻の駆逐艦が取り囲んでいる。
「さて、準備は整った。」
イラストアリアス艦長スレッド大佐は、飛行甲板上から上がる轟音を聞きながら、ひっそりと呟いた。
後は、少しばかりのやりとりとして送り出すだけである。
後は、少しばかりのやりとりとして送り出すだけである。
「艦長!発艦準備完了です!」
バイラッハ中佐が、柔和な顔を紅潮させながら彼に伝えてきた。
スレッド大佐は頷き、いつも通りの命令を下した。
「発艦始め!」
やがて、ソードフィッシュの1番機が、エンジン音を一層高鳴らせて飛行甲板を走り始めた。
1番機と2番機は、魚雷の代わりに照明弾を積んでいる為、魚雷搭載機よりは重量は軽い。
向かい風を受けながら、最初のソードフィッシュが飛行甲板を走りきる前に機体を夜空に浮かべる。
続けて2番機が発艦した。3番機からは思い航空魚雷を抱えての発艦である。
(失敗は・・・・しないよな)
スレッド艦長は、搭乗員の技量は確かなものであると分かっているが、何故か心配になってきた。
その心配とは裏腹に、雷装したソードフィッシュは、イラストリアスの乗員達が送る声援に後押しされるかのように、
飛行甲板を走り切り、機体を夜空に舞い上がらせた。
1番機と2番機は、魚雷の代わりに照明弾を積んでいる為、魚雷搭載機よりは重量は軽い。
向かい風を受けながら、最初のソードフィッシュが飛行甲板を走りきる前に機体を夜空に浮かべる。
続けて2番機が発艦した。3番機からは思い航空魚雷を抱えての発艦である。
(失敗は・・・・しないよな)
スレッド艦長は、搭乗員の技量は確かなものであると分かっているが、何故か心配になってきた。
その心配とは裏腹に、雷装したソードフィッシュは、イラストリアスの乗員達が送る声援に後押しされるかのように、
飛行甲板を走り切り、機体を夜空に舞い上がらせた。
「こうでなくちゃいかん。」
3番機が無事飛び立つのを見て、スレッド大佐は少しばかり安堵した。
それからは、発艦終了まで時間の流れは早かった。12機のソードフィッシュは、1機も事故を起こすこと
なく無事に飛び立ち、集合点に向かって行った。
それからは、発艦終了まで時間の流れは早かった。12機のソードフィッシュは、1機も事故を起こすこと
なく無事に飛び立ち、集合点に向かって行った。
「さあ、後は君達の腕次第だ。結果がどうであれ・・・・」
艦長は、いかついながらも邪気の無い笑顔を浮かべるマーチス少佐の顔を思い描いた。
彼のみならず、VT-9パイロット達の顔が脳裏に次々と浮かんだ。
彼のみならず、VT-9パイロット達の顔が脳裏に次々と浮かんだ。
「君達の笑顔を再び、私に見せてくれ。」
艦長は、そう呟きながら、パイロット達の無事を願った。
午後10時35分 グラーズレット
グラーズレットの町は、昼と比べると落ち着いた雰囲気だ。
それでも、夜間営業専門の店は、仕事帰りの労働者等で賑わいを見せている。
マオンド共和国第2の首都であるこのグラーズレットは、200万人が住む大都市だ。
昼間になれば、賑わう市場や仕事をこなす職人や行商人で、町は快活さを見せる。
しかし、この日に限っては、一部の者達にはいつもと違う夜となっていた。
レーフェイル大陸南艦隊司令長官である、テレッグ・オンポロア大将は、重くなった瞼を指で揉みながら、水を飲んでいた。
普段であれば、6時には家路についているのだが、今日は何かと忙しく、帰宅時間は大幅に伸びていた。
それでも、夜間営業専門の店は、仕事帰りの労働者等で賑わいを見せている。
マオンド共和国第2の首都であるこのグラーズレットは、200万人が住む大都市だ。
昼間になれば、賑わう市場や仕事をこなす職人や行商人で、町は快活さを見せる。
しかし、この日に限っては、一部の者達にはいつもと違う夜となっていた。
レーフェイル大陸南艦隊司令長官である、テレッグ・オンポロア大将は、重くなった瞼を指で揉みながら、水を飲んでいた。
普段であれば、6時には家路についているのだが、今日は何かと忙しく、帰宅時間は大幅に伸びていた。
「主任参謀、今日は早めに寝ようか。」
彼は、肉付きの良い顔に疲労を滲ませながら、目の前の机で書類と睨めっこしている主任参謀に声をかけた。
「そうですな。敵さんも、今頃は明日に備えて休んでいる頃でしょうし。」
主任参謀は書類を見つめながら答える。
「早くて明日の昼辺りには、アメリカ軍の空母部隊は、首都か、ケベングを襲って来るだろう。」
「ここには来ないのですかな?」
「ここには来ないのですかな?」
主任参謀は怪訝な表情を浮かべつつ、そう言う。
「このグラーズレットも、首都、ケベングに劣らずの重要拠点です。敵は裏を掻いてここにやって来る、
という可能性はありますが。」
という可能性はありますが。」
「来るかも知れんが。」
オンポロア大将は、机に広げられているレーフェイル大陸の地図を見た。
「グラーズレットは南大陸の南端部だ。敵が来るとしたら、その北の海域から大陸に沿うように回り込まねばならん。
その間、グラーズレットにはワイバーンも増援を終わっている頃だし、停泊中の味方艦隊も出港して東側に向かっている。
そうなれば、敵は損害ばかりを出して得る物を得ずに帰ることになる。そんな危険を冒してまでここに来るよりは、
首都か、ケベングを襲ったほうが良いだろう。最も、」
その間、グラーズレットにはワイバーンも増援を終わっている頃だし、停泊中の味方艦隊も出港して東側に向かっている。
そうなれば、敵は損害ばかりを出して得る物を得ずに帰ることになる。そんな危険を冒してまでここに来るよりは、
首都か、ケベングを襲ったほうが良いだろう。最も、」
オンポロアはニヤリと笑みを浮かべた。
「首都には多数のワイバーンを配備しているし、ケベングの艦隊は出港を追え、既に南下しつつある。
どっちにしろ、敵は最初の攻撃のみで満足出来る戦果を収め、第2次攻撃では被害を出して撤退する事になる。
味方もかなりの犠牲を払うだろうが、2度も3度もただやられるだけのマオンドではない。」
どっちにしろ、敵は最初の攻撃のみで満足出来る戦果を収め、第2次攻撃では被害を出して撤退する事になる。
味方もかなりの犠牲を払うだろうが、2度も3度もただやられるだけのマオンドではない。」
オンポロア大将は自信ありげな口調でそう言い放った。
「確かに。」
「万が一の事も考えて、このグラーズレットにも警戒警報は出している。そう心配することは無いだろう。
第3艦隊の出港準備はどうだね?」
「デルレイト司令官からは、予定通り明日早朝に出港できると、報告がありました。」
「よし。これで、アメリカ軍が来ても、貴重な戦艦を傷付けられんで済むな。」
「万が一の事も考えて、このグラーズレットにも警戒警報は出している。そう心配することは無いだろう。
第3艦隊の出港準備はどうだね?」
「デルレイト司令官からは、予定通り明日早朝に出港できると、報告がありました。」
「よし。これで、アメリカ軍が来ても、貴重な戦艦を傷付けられんで済むな。」
第3艦隊は戦艦1隻、巡洋艦5隻、駆逐艦14隻で編成されているが、旗艦である戦艦オールデイクは
マオンドが独力で竣工させた最初の戦艦である。
マオンドが独力で竣工させた最初の戦艦である。
シホールアンルの新鋭戦艦と比べれば、旧式の感は否めないが、それでもマオンドから渡された戦艦よりは性能は良い。
11ネルリ連装砲4基8門、11リンルの速力を持つオールデイグは、常にマオンドの侵攻作戦を影ながら支え続け、
後に竣工したマオンド産の戦艦4隻や、現在竣工間近の新鋭戦艦4隻の下地になっている。
そのため、マオンド国民からも、オールデイクは海軍の近代化を促進させた英傑艦として広く知られている。
オンポロア自信、このオールデイクに乗って艦隊を指揮した事もあり、彼にとっては思い入れの深い戦艦である。
11ネルリ連装砲4基8門、11リンルの速力を持つオールデイグは、常にマオンドの侵攻作戦を影ながら支え続け、
後に竣工したマオンド産の戦艦4隻や、現在竣工間近の新鋭戦艦4隻の下地になっている。
そのため、マオンド国民からも、オールデイクは海軍の近代化を促進させた英傑艦として広く知られている。
オンポロア自信、このオールデイクに乗って艦隊を指揮した事もあり、彼にとっては思い入れの深い戦艦である。
「夜には、敵は来ない。今は体を休めるとして、明日から、アメリカの空母部隊に備えよう。」
オンポロア大将は、肥満気味の体を起こして、自分の宿舎に戻ろうとした。
ふと、港の方向から、聞き慣れぬ音が響いてきた。
ふと、港の方向から、聞き慣れぬ音が響いてきた。
「主任参謀、この音は何かな?」
「羽虫、にしては大きいですね。」
「羽虫、にしては大きいですね。」
いきなり聞こえて来たその音が何であるか、彼らは分からなかった。
「・・・・・・まさか・・・・・・」
今日早朝、北の属国で起きた惨劇を思い出したオンポロアは、背筋の凍るような感覚に囚われた。
その直後、港の上空に青白い光が現れた。
その直後、港の上空に青白い光が現れた。
攻撃隊は発艦後に集合点で編隊を組んだ後、170キロのスピードで1時間半ほど夜の洋上を進み続けていた。
8番機のパイロットを務めるジェイク・スコックス少尉は、ややのんびりとした気持ちで操縦桿を握っている。
8番機のパイロットを務めるジェイク・スコックス少尉は、ややのんびりとした気持ちで操縦桿を握っている。
「スコックス、起きているか?」
後ろから第2中隊長のボビー・パーソンズ中尉が声をかけてきた。
「起きてますよ、隊長。隊長こそ大丈夫ですか?」
「これぐらい何でもないさ。むしろ、のどかでいいもんだぜ。」
「これぐらい何でもないさ。むしろ、のどかでいいもんだぜ。」
と、パーソンズ中尉は笑みを浮かべながら言った。
「スワング!調子はどうだい?」
「良好ですぜ!」
「良好ですぜ!」
機銃手のスワング兵曹は、快活の良い声音で答えると、パーソンズ中尉は満足そうに頷いた。
「流石は、俺が鍛えた部下達だ。居眠りをやらかす奴は居ないな。」
「あなたの部下でなくても、居眠りする奴はいませんよ。何しろ、こいつの最後の晴れ舞台ですからね。」
「あなたの部下でなくても、居眠りする奴はいませんよ。何しろ、こいつの最後の晴れ舞台ですからね。」
スコックス少尉は会話を交わしながらも、前方を行く寮機をじっと見続ける。
寮機と言っても、暗闇に移る排気炎と、機体の輪郭を見ているに過ぎない。
夜間飛行に慣れているとは言え、昼間より視界の利かぬ夜間では、しきりに寮機の影や計器を見つめなければいけない。
寮機を見失い、位置が分からなくなれば、そこに待つのは着水後の受難だ。
今の所、攻撃隊のソードフィッシュは、全機が編隊を組んで飛行しているようだが、攻撃終了後に全機が再び編隊飛行できるかは運次第だ。
(例え編隊からはぐれても、予め決められた地点に向かえば大丈夫だ。それに、近海には潜水艦も何隻か待機しているようだし、大丈夫だ)
スコックス少尉はそう思い、自身の緊張を和らげて行く。
その時、スコックス少尉は前方にあるものを見た。
寮機と言っても、暗闇に移る排気炎と、機体の輪郭を見ているに過ぎない。
夜間飛行に慣れているとは言え、昼間より視界の利かぬ夜間では、しきりに寮機の影や計器を見つめなければいけない。
寮機を見失い、位置が分からなくなれば、そこに待つのは着水後の受難だ。
今の所、攻撃隊のソードフィッシュは、全機が編隊を組んで飛行しているようだが、攻撃終了後に全機が再び編隊飛行できるかは運次第だ。
(例え編隊からはぐれても、予め決められた地点に向かえば大丈夫だ。それに、近海には潜水艦も何隻か待機しているようだし、大丈夫だ)
スコックス少尉はそう思い、自身の緊張を和らげて行く。
その時、スコックス少尉は前方にあるものを見た。
「こちらソーサラー1。全機へ。あと10分でグラーズレットに到着する。
ソーサラー1、2は高度を上げて軍港上空に進出しろ。ソーサラー3~12は低空に降下後、
照明弾炸裂後に軍港に突入し、敵艦を雷撃しろ。では幸運を祈る!」
ソーサラー1、2は高度を上げて軍港上空に進出しろ。ソーサラー3~12は低空に降下後、
照明弾炸裂後に軍港に突入し、敵艦を雷撃しろ。では幸運を祈る!」
攻撃隊指揮官であるマーチス少佐から通信が入った。ソーサラーとは、攻撃隊のコールサインである。
「こちらソーサラー8、了解。第2中隊、高度を100まで下げろ。」
パーソンズ中尉は無線で列機にそう告げると、スコックス少尉に命じた。
「スコックス、今言った通りだ。」
「アイアイサー!」
「アイアイサー!」
スコックス少尉はそう返事すると、操縦桿を前に押して高度を下げようとする。
2000メートルを指していた高度計が1800・・・1600と、機体が降下していく様子を克明に伝える。
2000メートルを指していた高度計が1800・・・1600と、機体が降下していく様子を克明に伝える。
吹きさらしのコクピットに冷たい夜風が吹き込み、3人の乗員を冷やそうとする。
程無くして、ソードフィッシュは高度を100メートルまで下げた。
程無くして、ソードフィッシュは高度を100メートルまで下げた。
「後ろの連中はどうだ!?」
パーソンズ中尉はスワング兵曹に聞いた。
「列機は全機付いて来ます!」
「隊長、グラーズレットまであと5分です!」
「隊長、グラーズレットまであと5分です!」
スコックス少尉は、次第にハッキリしてきたグラーズレットの灯火を見ながら報告した。
それを見たパーソンズ中尉は顔をしかめた。
それを見たパーソンズ中尉は顔をしかめた。
「灯火管制がされてないな。町にもいくつか光があるし、港にも船から発していると思しき灯火が見えるな。
こいつぁありがたい。」
こいつぁありがたい。」
最初、パーソンズ中尉は、灯火管制の敷かれた真っ暗な軍港を、照明弾の光を頼りにしながら攻撃すると思っていた。
ところが、グラーズレットの市街地には明かりが見え、あろう事か、港の船にも灯火が見える。
これでは、攻撃してくれと言っているようなものだ。
ソードフィッシュのスピードは、170キロから200キロに上昇し、軍港も徐々に近付いて来る。
ところが、グラーズレットの市街地には明かりが見え、あろう事か、港の船にも灯火が見える。
これでは、攻撃してくれと言っているようなものだ。
ソードフィッシュのスピードは、170キロから200キロに上昇し、軍港も徐々に近付いて来る。
「照明隊はまだかな?」
スコックス少尉は、次第に近付きつつある灯火を見ながらそう思った。
マオンド側の無用心さのお陰で、目標らしきものの存在を掴めた攻撃隊だが、闇は未だに深い。
雷撃にはいまひとつ向いていない環境である。
ソードフィッシュは低空で雷撃を敢行するのだから、敵船との距離を見誤って激突する可能性もある。
そのためにも、照明弾の光は必要だ。
その時、待望の光景が目の前に現れた。軍港の上空に、2つの青白い光が煌いた。
それまで闇に覆われていた軍港は、一瞬にして明るくなり、軍港の全容が明らかとなった。
マオンド側の無用心さのお陰で、目標らしきものの存在を掴めた攻撃隊だが、闇は未だに深い。
雷撃にはいまひとつ向いていない環境である。
ソードフィッシュは低空で雷撃を敢行するのだから、敵船との距離を見誤って激突する可能性もある。
そのためにも、照明弾の光は必要だ。
その時、待望の光景が目の前に現れた。軍港の上空に、2つの青白い光が煌いた。
それまで闇に覆われていた軍港は、一瞬にして明るくなり、軍港の全容が明らかとなった。
「こちらソーサラー1、全機突入せよ!」
マーチス少佐の命令が無線機から流れた。
それに触発されたかのように、スコックス少尉は機体の速度をさらに上げ、高度をより低くする。
それに触発されたかのように、スコックス少尉は機体の速度をさらに上げ、高度をより低くする。
海面が徐々に迫り、高度計が50メートルを切る。
素人なら、目を背けんばかりの超低空だが、スコックス少尉は絶妙なバランスで機体を維持している。
ブリストル・ペガサスエンジンは力強く咆哮している。
低性能なエンジンであるが、そのエンジンが発する音は、スコックスには頼もしい戦友が送る声援にも聞こえる。
第2中隊は照明弾に照らされた軍港に接近した。
素人なら、目を背けんばかりの超低空だが、スコックス少尉は絶妙なバランスで機体を維持している。
ブリストル・ペガサスエンジンは力強く咆哮している。
低性能なエンジンであるが、そのエンジンが発する音は、スコックスには頼もしい戦友が送る声援にも聞こえる。
第2中隊は照明弾に照らされた軍港に接近した。
「第1中隊、軍港に突入します!」
スコックス少尉は、一群の機影が低空で侵入していくのを見た。
それは、先行していた第1中隊であり、彼らと同じように低空飛行で軍港に侵入しようとしている。
照明弾が煌きを失う前に、新たな照明弾が投下され、軍港上空を照らし続ける。
第1中隊が、3機と2機に分かれて各々の目標に向かう。
この期に及んでも、マオンド側からはまだ発砲の様子は無い。
それは、先行していた第1中隊であり、彼らと同じように低空飛行で軍港に侵入しようとしている。
照明弾が煌きを失う前に、新たな照明弾が投下され、軍港上空を照らし続ける。
第1中隊が、3機と2機に分かれて各々の目標に向かう。
この期に及んでも、マオンド側からはまだ発砲の様子は無い。
「あいつら、居眠りしてんじゃねえのか?」
スコックス少尉はそう呟いた。
青白い煌きの中、第1中隊のソードフィッシュが低空飛行をやめて、敵船の間近で上昇して行く。
その数秒後、ピカッと閃光が走り、鋭角的な船影が露になる。
その直後、鋭角的な船影の中央部で水柱が吹き上がった。形からして巡洋艦のようだ。
その1秒後に後部分からもう1本水柱が吹き上がった。
息つく暇も無く、100メートル離れた位置で別の水柱が立ち上がった。
船影は小さく、一瞬影が真っ二つに折れているように見えた。
影は2本のマストに折り畳まれた帆らしきものがあった。恐らく小型の帆船か警備艇であろう。
青白い煌きの中、第1中隊のソードフィッシュが低空飛行をやめて、敵船の間近で上昇して行く。
その数秒後、ピカッと閃光が走り、鋭角的な船影が露になる。
その直後、鋭角的な船影の中央部で水柱が吹き上がった。形からして巡洋艦のようだ。
その1秒後に後部分からもう1本水柱が吹き上がった。
息つく暇も無く、100メートル離れた位置で別の水柱が立ち上がった。
船影は小さく、一瞬影が真っ二つに折れているように見えた。
影は2本のマストに折り畳まれた帆らしきものがあった。恐らく小型の帆船か警備艇であろう。
「第1中隊、雷撃に成功しました!」
スコックス少尉は、張りのある声でパーソンズ中尉に報告した。第1中隊の魚雷を食らったのは2隻。
1隻は瞬く間に轟沈し、散り散りとなった炎が海面で揺らいでいる。
小型艇よりも先に被雷した巡洋艦のほうはまだ浮かんでいるが、大きく右舷側に傾斜し、沈むのは時間の問題である。
1隻は瞬く間に轟沈し、散り散りとなった炎が海面で揺らいでいる。
小型艇よりも先に被雷した巡洋艦のほうはまだ浮かんでいるが、大きく右舷側に傾斜し、沈むのは時間の問題である。
「そうか、こっちも負けてられんな!」
パーソンズ中尉は興奮したような声音で言い返した時、別の軍艦が見えた。
被雷した船が発する火災炎が、それを彼の目の前に現していた。
第2中隊は、ようやく軍港の入り口に差し掛かっていた。
スコックス少尉はどれを狙うのかと思ったが、いきなりパーソンズ中尉が彼の肩を叩いた。
被雷した船が発する火災炎が、それを彼の目の前に現していた。
第2中隊は、ようやく軍港の入り口に差し掛かっていた。
スコックス少尉はどれを狙うのかと思ったが、いきなりパーソンズ中尉が彼の肩を叩いた。
「スコックス!左前方を見ろ!」
スコックス少尉は言われた通り、右前方を見た。
そこにあったのは、高く、優美な艦橋に、明らかに口径の大きな連装砲塔、そして、他の船や軍艦と違う大きさ。
紛れも無く戦艦である。形からして、改装前のレナウンと似通った艦影だ。
そこにあったのは、高く、優美な艦橋に、明らかに口径の大きな連装砲塔、そして、他の船や軍艦と違う大きさ。
紛れも無く戦艦である。形からして、改装前のレナウンと似通った艦影だ。
「ありゃあ戦艦ですぜ!」
「あれをやろう!」
「あれをやろう!」
パーソンズ中尉の言葉に、スコックスは内心驚いたが、すぐに返事する。
「分かりました!」
スコックス少尉は高度計に注意を払いながら、機首をその戦艦に向ける。
「こちらソーサラー8。ソーサラー9、10は戦艦を狙え。ソーサラー11、12は大型輸送船を狙え。」
パーソンズ中尉は言い終えると、無線機を切った。戦艦までは1600メートル。
停泊状態であるからこの距離でも当たるとは思う。
だが、必中を期すにはせめて700まで迫ってから魚雷を投下したほうがいい。
停泊状態であるからこの距離でも当たるとは思う。
だが、必中を期すにはせめて700まで迫ってから魚雷を投下したほうがいい。
「700まで接近する!」
「アイアイサー!」
「アイアイサー!」
その時、敵戦艦からカラフルな光弾が放たれてきた。
目の前で味方の船が魚雷を食らったのを見て、ようやく敵が来た事に気付いたのだ。
光弾はソードフィッシュに向かって来るが、どういう事か、いずれも見当外れの方向に弾が逸れている。
目の前で味方の船が魚雷を食らったのを見て、ようやく敵が来た事に気付いたのだ。
光弾はソードフィッシュに向かって来るが、どういう事か、いずれも見当外れの方向に弾が逸れている。
「やっこさん、相当慌てているな。」
スコックス少尉は、冷めた口調でそう呟いた。
スコックス機、その後方に2機を従えたまま、ソードフィッシュは前進を続ける。
高度は20メートル。速度は210キロ。ソードフィッシュの全速にほぼ近い。
射点への到達は、短いようで妙に長く感じられた。時折、光弾が音立ててコクピットのすぐ側を通り抜けていく。
機体にザシュ!ザシュ!という音と振動が伝わり、束の間やられたかと思うが、エンジンは快調に回り、
敵戦艦との間合いが徐々に詰まっていく。
ソードフィッシュは複葉機であるが、2枚の主翼は羽布張りであり、敵弾はただ翼を突き抜けたに過ぎなかった。
そして、スコックス機は射点に到達した。
スコックス機、その後方に2機を従えたまま、ソードフィッシュは前進を続ける。
高度は20メートル。速度は210キロ。ソードフィッシュの全速にほぼ近い。
射点への到達は、短いようで妙に長く感じられた。時折、光弾が音立ててコクピットのすぐ側を通り抜けていく。
機体にザシュ!ザシュ!という音と振動が伝わり、束の間やられたかと思うが、エンジンは快調に回り、
敵戦艦との間合いが徐々に詰まっていく。
ソードフィッシュは複葉機であるが、2枚の主翼は羽布張りであり、敵弾はただ翼を突き抜けたに過ぎなかった。
そして、スコックス機は射点に到達した。
「700です!」
「魚雷投下ぁ!」
「魚雷投下ぁ!」
機体に抱かれていた魚雷が、胴体から解き放たれ、海中に滑るように落ちた。
海中で飛沫を上げ、魚雷は少し沈んでから前進を始めた。
魚雷の向かう先には、黒々とした鉄の塊があった。
水中を駆け始めてからしばらくして、魚雷は先端部を敵戦艦の横腹にぶち当てる。
海中で飛沫を上げ、魚雷は少し沈んでから前進を始めた。
魚雷の向かう先には、黒々とした鉄の塊があった。
水中を駆け始めてからしばらくして、魚雷は先端部を敵戦艦の横腹にぶち当てる。
鋼板を突き破って艦内に達した時、そこには目を丸くして、乱入して来た魚雷を見つめる数人の水兵と魔道士がいた。
スコックス機は、全速力で敵戦艦の上空を飛びぬけた。
唐突に、敵戦艦の左舷中央部から大水柱が吹き上がった。
スコックス機は、全速力で敵戦艦の上空を飛びぬけた。
唐突に、敵戦艦の左舷中央部から大水柱が吹き上がった。
「魚雷命中です!」
スワング兵曹は声をわななかせながら報告して来た。続いて後続のソードフィッシュも敵戦艦の上空を飛び抜ける。
その数秒後に敵艦の左舷前部で1本の水柱が立ち上がった。
その数秒後に敵艦の左舷前部で1本の水柱が立ち上がった。
「やりました!敵艦にもう1本命中です!」
「落ち着け!あっちは静止目標だ。当たって当然だ!」
「落ち着け!あっちは静止目標だ。当たって当然だ!」
興奮するスワング兵曹を、パーソンズ中尉は厳しい声音で抑える。しかし、彼としてはスワング兵曹に劣らぬ興奮に包まれていた。
マオンド艦はシホールアンル艦よりは防御力が低いと聞いたが、それでも相手は頑丈な防御を誇る戦艦である。
魚雷2本で沈める事は出来ない。だが、少なくとも、魚雷をぶちあてた敵戦艦はしばらく不本意な休息を取る事になる。
(いずれにしろ、ソードフィッシュのラストミッションは成功だ。これでこいつも満足)
想いは唐突に断ち切られた。いきなり、後方でオレンジ色の光が煌いた。
その直後に強烈な轟音が大気を轟かす。それも被雷時のものとは比べ物にならぬほど。
マオンド艦はシホールアンル艦よりは防御力が低いと聞いたが、それでも相手は頑丈な防御を誇る戦艦である。
魚雷2本で沈める事は出来ない。だが、少なくとも、魚雷をぶちあてた敵戦艦はしばらく不本意な休息を取る事になる。
(いずれにしろ、ソードフィッシュのラストミッションは成功だ。これでこいつも満足)
想いは唐突に断ち切られた。いきなり、後方でオレンジ色の光が煌いた。
その直後に強烈な轟音が大気を轟かす。それも被雷時のものとは比べ物にならぬほど。
「!?」
パーソンズ中尉は突然の閃光と轟音に仰天し、後ろを振り返る。
そこには、信じがたい光景が広がっていた。
先ほど、2本の魚雷を命中させた敵戦艦が、何故か大爆発を起こしていた。
そこには、信じがたい光景が広がっていた。
先ほど、2本の魚雷を命中させた敵戦艦が、何故か大爆発を起こしていた。
不運としか言いようが無かった。
戦艦オールデイクは、魔道銃で反撃を試みたが、結果は見慣れぬ“新鋭機”から2本の魚雷を受けてしまった。
まず、中央部に魚雷が命中し、中央部の魔道機関室を粉砕し、周囲の区画も同じように叩き壊された。
喫水線下に穿たれた穴から大量の海水が侵入し、オールデイクの艦内を席巻し始める。
その10秒後に、今度は第2砲塔の真横の舷側に水柱が立ち上がった。
魚雷はオールデイクの防御鋼板を難無くぶち破ると、艦内でエネルギーを解放する。
そのエネルギーの余波はドアを叩き割り、居合わせた水兵を吹き飛ばしてから、弾薬庫に到達した。
高熱の爆風に炙られた装薬が1つ、誘爆した。
1つの爆発が2つ、2つの爆発が3つ、4つと連鎖反応を起こし、その6秒後には第2砲塔弾薬庫の砲弾、装薬が一斉に誘爆した。
爆発エネルギーは分厚い装甲板をバターのようにぶつ切りにし、四方に拡散する。
上甲板が活火山のように大噴火を起こし、前部分が一瞬のうちに砕け散った。
戦艦オールデイクは、魔道銃で反撃を試みたが、結果は見慣れぬ“新鋭機”から2本の魚雷を受けてしまった。
まず、中央部に魚雷が命中し、中央部の魔道機関室を粉砕し、周囲の区画も同じように叩き壊された。
喫水線下に穿たれた穴から大量の海水が侵入し、オールデイクの艦内を席巻し始める。
その10秒後に、今度は第2砲塔の真横の舷側に水柱が立ち上がった。
魚雷はオールデイクの防御鋼板を難無くぶち破ると、艦内でエネルギーを解放する。
そのエネルギーの余波はドアを叩き割り、居合わせた水兵を吹き飛ばしてから、弾薬庫に到達した。
高熱の爆風に炙られた装薬が1つ、誘爆した。
1つの爆発が2つ、2つの爆発が3つ、4つと連鎖反応を起こし、その6秒後には第2砲塔弾薬庫の砲弾、装薬が一斉に誘爆した。
爆発エネルギーは分厚い装甲板をバターのようにぶつ切りにし、四方に拡散する。
上甲板が活火山のように大噴火を起こし、前部分が一瞬のうちに砕け散った。
港の一角が突然閃光を発した。その閃光をまともに見たオンポロア大将は、束の間視力を奪われた。
大音響と共に司令部が大きく振動する。
大音響と共に司令部が大きく振動する。
「い、一体何事か!?」
オンポロア大将は苛立ちまぎれに喚く。程無くして、視力が回復した彼は、港に視線を向けた。
「・・・・・・・なんたることだ・・・・・・・・・・」
オンポロア大将は愕然とした。大火災を吹き上げている大型艦。それは、戦艦のオールデイクであった。
オールデイクの艦橋は、上半分が綺麗さっぱり消え失せ、艦体が前側に大きく傾いている。
前部分は火炎に覆われてよく見えない。
だが、オールデイクが、船としての生涯は、もはや完全に絶たれた事は、オールデイク自身が見せるその断末魔の状況に、
しかと現されていた。
オールデイクの艦橋は、上半分が綺麗さっぱり消え失せ、艦体が前側に大きく傾いている。
前部分は火炎に覆われてよく見えない。
だが、オールデイクが、船としての生涯は、もはや完全に絶たれた事は、オールデイク自身が見せるその断末魔の状況に、
しかと現されていた。
「敵は・・・・・夜にはやってこなかったはずなのに・・・・・夜には・・・・・・・」
オンポロア大将は、顔面蒼白になりながらへなへなと床に崩れ落ちた。
主任参謀はオンポロア大将の顔を見て思わず仰天した。
その表情に、昔日の逞しさはすっかり失せ、この短い時間で20年は老化したように思われた。
主任参謀はオンポロア大将の顔を見て思わず仰天した。
その表情に、昔日の逞しさはすっかり失せ、この短い時間で20年は老化したように思われた。
「司令官!軍港が空襲を受けました!」
魔道参謀が、血相を変えて室内に入って来た。
「そ・・・・・そんな事ぐらい・・・・・とっくに・・・・・」
オンポロア大将は、炎上する港に視線を向けながら、しわがれた声で返事する。その声も、小さすぎて魔道参謀には聞き取れなかった。
その頃、グラーズレット市内では、突然起こった大爆発に住民が驚き、パニックを起こしかけていた。
「そ・・・・・そんな事ぐらい・・・・・とっくに・・・・・」
オンポロア大将は、炎上する港に視線を向けながら、しわがれた声で返事する。その声も、小さすぎて魔道参謀には聞き取れなかった。
その頃、グラーズレット市内では、突然起こった大爆発に住民が驚き、パニックを起こしかけていた。
午後11時50分 グラーズレット南南西160マイル沖
空母イラストリアスの飛行甲板に、グラーズレット空襲から戻って来たソードフィッシュが、鮮やかな動作で着艦した。
甲板要員がすぐさま、着艦したソードフィッシュに取り付いて、エレベーターまで移動する。
甲板要員がすぐさま、着艦したソードフィッシュに取り付いて、エレベーターまで移動する。
「あと5機が着艦待ちです。」
飛行長のバイラッハ中佐は、スレッド艦長に報告する。
「分かった。それにしても、12機全機が帰還とはな。作戦中は必ず未帰還機が出るのだが、今日は珍しい。」
「全員が無事とまでは行きませんでしたが。」
「分かった。それにしても、12機全機が帰還とはな。作戦中は必ず未帰還機が出るのだが、今日は珍しい。」
「全員が無事とまでは行きませんでしたが。」
バイラッハ中佐は、表情を僅かに曇らせた。確かに、攻撃隊は1機の喪失も無く全機が帰って来た。
だが、負傷者の出た機も混じっており、着艦時に既に意識を失っているパイロットが2人、機銃弾で負傷したものが2人出ている。
そのうち1人は助かるかどうかわからないのだと言う。軍医の診断によれば、助からぬ確率が高いようだ。
だが、負傷者の出た機も混じっており、着艦時に既に意識を失っているパイロットが2人、機銃弾で負傷したものが2人出ている。
そのうち1人は助かるかどうかわからないのだと言う。軍医の診断によれば、助からぬ確率が高いようだ。
「戦争をしているのだからな。そう思い通りにいかぬものさ。だが、彼らは良くやってくれた。」
スレッド艦長は、たった今着艦して来たソードフィッシュを見つめる。
このソードフィッシュは他の機と違って、機体全体がほぼ穴だらけだ。
それなのに、機体から降りて来た3人のパイロットは、いずれも元気そうに歩いている。
そう時間を置かずに、全機の収容が完了した。
このソードフィッシュは他の機と違って、機体全体がほぼ穴だらけだ。
それなのに、機体から降りて来た3人のパイロットは、いずれも元気そうに歩いている。
そう時間を置かずに、全機の収容が完了した。
「作戦終了だな。戦果は戦艦1隻、巡洋艦1隻、哨戒艇1隻撃沈、輸送船1隻大破か。僅か12機の攻撃にしては、大戦果だ。」
「タラント空襲と比べても、遜色ありません。今頃、旗艦ではお祭り騒ぎでしょう。」
「タラント空襲と比べても、遜色ありません。今頃、旗艦ではお祭り騒ぎでしょう。」
バイラッハ中佐の言葉に、スレッド艦長は微笑んだ。
「いくらなんでも、お祭り騒ぎは無いだろう。だが、サマービル司令官は、内心では飛び上がらんばかりに喜んでいる事だろう。」
2人とも、とりあえずの所、任務が成功したので気が緩んでいた。その時、従兵がコーヒーを持って来た。
「艦長、眠気覚ましのコーヒーです。」
「うむ。ありがとう。」
「うむ。ありがとう。」
スレッド艦長は従兵に礼を言うと、下がらせようとした。唐突に、無線機から声がした。
「艦長、サマービルだ。聞こえるか?」
その声は、サマービル中将のものであった。スレッド艦長はマイクを取ると、返事をした。
「こちらイラストリアス艦長のスレッドです。何でありますか?」
ふと、見張りから
「プリンス・オブ・ウェールズ、転舵します!」
という言葉が艦橋に響いた。
「君の艦は今すぐ西の方角に逃げろ!レーダーが敵艦隊を捉えた。敵艦隊は真っ直ぐこっちに向かいつつある。」
スレッド艦長は顔から血の気が引くのを感じた。
「レナウン、カンバーランド転舵します!」
見張りの新たな報告が、艦橋に届いた。