自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

080 第70話 攻撃目標 ルベンゲーブ

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第70話 攻撃目標 ルベンゲーブ

1483年(1943年)6月24日 午後6時 ミスリアル王国ルイシ・リアン

「どうにも気にいらねえなあ・・・・・・」

基地の中にある休憩室で、B-24の機長であるラシャルド・ベリヤ中尉は少し不満げな口調でそう呟いた。

「どこが気に入らないんだ?さっきからその言葉ばっかりしか繰り返してないけど。」

隣に座っていたハンス・マルセイユ中尉が苦笑しながら聞いてくる。

「どこが気に入らないかって?それは簡単さ。俺達B-24乗りは、君達戦闘機パイロットがやるような
難しい訓練ばかりさせられてる。今日だって、いつもの如く山脈の間を3回も抜けて来た。その後はどこぞ
の原っぱで超低空の爆撃訓練さ。そのうち、君ら戦闘機隊のように、爆撃機で敵ワイバーンと格闘戦をしろと
言われるかもしれん。」
「そいつはおっかないもんだな。」

と、マルセイユ中尉は声を上げて笑った。

「でも、確かに変だな。3ヶ月以上も目的も知らせずに訓練を続けるなんて。君らのB-24部隊は
まだ実戦に行ってないよな?」
「この新しい爆撃航空師団が編成されてからは、ずっと訓練ばかりさ。我らの攻撃目標はい~ずこや~♪い~ずこや~♪
草木もな~び~く~、って、俺らはずっと思ってるよ。」

ベリヤ中尉は戯れ歌を交えながらマルセイユ中尉に言った。

「見事な歌だ。復員したら歌手になれるぜ。」
「よせやい。ただのふざけ歌さ。それにしても、ドイツ人もいい冗談を言える奴がいるんだな。
てっきり、頭の固い連中ばかりしかいないと思っていたが。」

「大体合ってるけどな。でも、ドイツ人全てが真面目、頑固一徹と言うわけじゃないぜ。グデーリアン将軍
のように電撃戦の生み出した人や、ロンメル将軍のような柔軟な人もいる。そして、素行不良でアメリカに
左遷された奴もいる。」

マルセイユ中尉はそう言いながら、自分の顔に人差し指を向けた。
ハンス・ヨアヒム・マルセイユ中尉は、元々はドイツ空軍のパイロットであった。
彼は空軍の花形とも言える戦闘機乗りであったが、普段の素行は必ずしも良い物とは言えず、普通の者なら
とっくに中尉に昇進しても良いはずなのに、彼はずっと少尉候補生のままであった。
そのマルセイユに受難が訪れた。1941年5月、彼は上官との口論のさい、カッとなって上官を叩きのめしてしまった。
マルセイユの言い分では、その上官が最初に因縁をつけ、自分も言い返したらいきなり喧嘩になったようであるが、
普段の素行が悪かった彼は、上官暴行罪の角で空軍から危うく叩き出されそうになった。
しかし、マルセイユと親しく交友のあった上官の弁護が功を奏し、マルセイユは空軍からの追放を免れた。
だが、完全に無罪となった訳ではなく、マルセイユは6月付けを持って駐米ドイツ大使館の駐在武官を拝命され、
アメリカに飛ばされてしまった。
最初、マルセイユは首にならぬだけマシだと思ったものの、41年10月に起きた突然の転移で、マルセイユは
自分の行き場を失ったと思い、しばらくは絶望に暮れた。
だが、41年の12月に、アメリカ政府が各国大使館の駐在武官にも合衆国軍の参加を認めた事が、彼が絶望の淵から
立ち直るきっかけとなった。
早速アメリカ陸軍航空隊に志願したマルセイユは、英語を早々とでマスターし、アメリカ製戦闘機の操縦にも
すぐに慣れていった。
42年7月には、正式にアメリカ陸軍航空隊の少尉に任官し、10月には第5航空軍所属、第293戦闘航空師団配下の
第133戦闘航空群の一員として実戦に参加した。
参加当初はP-39エアコブラを駆り、42年3月まで200回出撃し、7騎のワイバーンを撃墜した他、地上部隊の
航空支援も多く行っている。
3月14日に、機種転換のため一旦アメリカ本土に戻った後、5月には中尉に昇進し、新鋭機のP-51Bマスタングに
乗ってヴェリンス領やカレアント領に向かう爆撃機群の護衛に当たっている。
マルセイユ中尉はこれまでに24騎のワイバーンを撃墜している。
この撃墜数は、第293戦闘航空師団の中でも5本の指に入るほどで、つい最近から、マルセイユはミスリアルの星という
あだ名を、仲間から頂戴している。

ベリヤ中尉が、このマルセイユ中尉と知り合ったのは、彼のB-24隊がこのルイシ・リアンに到着した時、
タバコの火をマルセイユに貸してもらった時である。
ベリヤ中尉は爆撃機乗り。片やマルセイユ中尉は戦闘機乗りだが、不思議にも2人はかなりウマが合い、暇な時に
目が合うと、こうして雑談を交わしているのである。

「ドイツ人も、アメリカ人と同じように人それぞれって訳さ。」
「なるほどね。」

マルセイユの言葉に、ベリヤは納得して頷く。

「とりあえず、爆撃目標が決まったら、俺の航空団が君らの爆撃機を護衛するかもしれないな。」
「そん時はよろしく頼むぜ。リトル・フレンドさんよ。」

ベリヤ中尉はそう言って、マルセイユ中尉の肩を叩いた。
その時、休憩所のドアが開かれた。

「あっ、機長。こんな所にいましたか。」

彼の機のコ・パイロットであるレスト・ガントナー少尉がベリヤ中尉の側に歩み寄って来た。

「どうしたレスト?」
「機長、集合ですよ。第691爆撃航空群の機長と副操縦士は、すぐにブリーフィングルームに集まれとの事です。」

ガントナー少尉の言葉を聞いたベリヤ中尉は、そうかと言ってすぐに立ち上がった。

「どうやら、俺達にも出番が回ってきそうだ。」
「そうか。これで、君の機にいる新米も、戦闘処女は終わりになるな。」
「ハッハッハ!確かにな。それじゃ、またな!」

ベリヤ中尉は高笑いした後、マルセイユ中尉に軽く敬礼して、ガントナー少尉と共に休憩室を後にした。

搭乗員待機所には、第689爆撃航空群に属する中隊長や、それぞれの機の機長や副操縦士が集まっていた。
待機所にやって来たベリヤ中尉とガントナー少尉は、前から3列目の空いている席に座った。

「ようベリヤ。」
「おう、ブレンナーか。」

隣に座っていた同僚の将校がベリヤ中尉に声をかけてきた。彼と同じ中隊の6番機を操縦するブレンナー中尉だ。

「最近、調子はどうだい?」
「ぼちぼちってとこかな。そっちは?」
「絶好調さ。一番良くなった所は、俺の機に配属されてる新米に度胸が付いたところかな。まだ実戦経験が無いから
やや不安ではあるが。」
「本番で混乱しない事を祈るだけだな。それにしても、いきなりお呼びがかかったと言う事は・・・・」
「恐らく、近いうちに本番だろうな。」

ベリヤ中尉が答えた時、待機所に爆撃航空郡の司令であるジェームス・ドーリットル大佐が入って来た。

「気を付け!」

第1中隊長兼飛行隊長のロイド・エーベル中佐の声が響き、席に座っていた全員が立ち上がる。

「休め。」

ドーリットル大佐はそう言って、立ち上がったパイロット達を再び座らせる。

「諸君、3月初旬の航空隊編成以来、厳しい訓練にも見事に耐えてくれた。諸君らの中には、自分達の攻撃目標は
どこなのか?なぜ教えないのか?と思うものも居るだろう。今日集まってもらった事は他でもない。」

ドーリットル中佐はそう言った後、後ろに目配せした。

パイロット達の席の後ろには、映写機が設置されていた。
ベリヤ中尉は最初、この映写機を見た時、映画の上映会でも始めるのかと思っていた。
彼の思いは、半分違い、半分当たっていた。
待機所の明かりが消されると、正面に映像が映し出された。
映像には、何かの模型が映っている。

「今回、君達にはこの工場群を攻撃してもらう。君達の攻撃目標は、ウェンステル公国にあるルベンゲーブと
言われる町だ。この町には広大な魔法石精錬工場があり、この模型は偵察写真を元に作られた物だ。」

ドーリットル大佐は、持っていた指示棒でいくつかの箇所を叩いた。

「我が第145爆撃航空師団が叩く場所は、この上の2つの部分、次に、この3つの部分、そしてその下の
2つの部分だ。ルベンゲーブの西側には山脈があるが、この山脈には南北に2つの峡谷がある。この峡谷から、
わが航空部隊は敵の目を欺きつつ、峡谷から抜け出た後は低空飛行で目標に接近し、爆弾を投下する。」

皆が真剣な表情で、ドーリットル大佐の説明に聞き入っている。そして、搭乗員の誰もが、意外な攻撃目標に驚いていた。
ウェンステル公国は、現在はシホールアンルの占領下にあるが、この国は北大陸の南部を構成する国であり、南部には
有名なマルヒナス運河が通っている。
その北大陸の入り口の国に、300機のB-24を突っ込ませようと言うのだ。
ウェンステルには、既に海軍の空母部隊が何度か空襲を仕掛けているが、いずれも申し訳程度の攻撃だ。
しかし、今度の作戦は単なる嫌がらせではない。
シホールアンルの保有する戦略拠点の一つを、一挙に壊滅させる本気の作戦だ。
ついに、シホールアンルに本格的な戦略爆撃を仕掛ける時が来たのだ。
搭乗員達は、誰もがそう思っていた。
ドーリットル大佐の説明は続く。

「この7つの攻撃目標のうち、北側の2つと真ん中側の2つは第74航空団が担当する。我が第69航空団は、
真ん中側の1つと、南側の2つの工場を爆撃する。そして、我が航空郡の目標は、南側の2つ目の工場だ。」

大佐は、南側2つ目の工場を指示棒で叩いた。

「このルベンゲーブ精錬工場は、シホールアンル軍の魔法石供給の2割、多くて3割を賄っている。当然、この工場群は
重要目標であるから敵の守りは固い。最新の情報では、敵はワイバーン250騎、高射砲200門、魔道銃400丁前後を
配備しているとの事だ。当然、敵の迎撃が予想されるだろう。危険な任務だ。」

大佐の言葉に、搭乗員達は息を呑む。

「だが、我々も出来る限りの手は打ってある。この空襲作戦には、海軍の空母部隊も参加する事になっており、当日は
空母部隊の戦闘機が、君達の援護をする事になっている。それに、司令部ではP-51を護衛に付ける事も検討している。
気をしっかり引き締めておけば、決して出来ない作戦ではない。この精錬工場を壊滅させれば、シホールアンル軍の
魔法石生産力、供給量に少なからぬダメージを与える事が出来る。この作戦は、敵の精錬工場破壊も目的であるが、
もう1つ、別の目的がある。」

大佐は一旦言葉を区切り、映写機を止めさせ、明かりを付けさせた。
明かりが点いた事を確認した大佐は、皆の頭に刻み付けるような、ややゆっくりとした口調で言葉を続ける。

「その目的は、俺達の力を見せ付ける事だ。シホールアンルは勿論、長い間、シホールアンルの占領下にある被占領国の
住民達にアピールする事だ。アメリカ人は遠い所からでも固い拠点なぞいつでも灰燼に返せる力を持つ事を。そして、
B-24乗りは底抜けに勇敢である、と言う事をな。」

ドーリットル大佐が言い終えると、搭乗員達は誰もが大きく頷いた。

「作戦実施は28日の午前6時だ。それまでは休息とする。以上!」

ドーリットル大佐はそう言ってから、待機所を後にした。
次に、エーベル中佐が出撃までの予定を搭乗員達に話してから、この日の業務は終わった。

待機所から出て、自分達の宿舎に戻ろうとしていたベリヤ中尉とガントナー少尉は、先のドーリットル大佐が
話した事を何度も頭に思い浮かべていた。

「機長、とうとう出撃が決まりましたね。」
「ああ。これで訓練地獄からも解放されたな。全く、長かったもんだぜ。」

ベリヤ中尉はそう言いながら、両腕を上に伸ばして思い切り背伸びした。

「どうした?声が震えてるぞ。」
「なんか、少し怖くなってしまったようです・・・・」
「怖くなっただと?」
「はい。攻撃目標はルベンゲーブの魔法石精錬工場。ですが、敵の防備はかなり手厚い。ワイバーンが250騎ですよ?
最初こそ自分達に圧倒されたワイバーンですが、今では戦闘機と互角に渡り合い、護衛無しとはいえ、防御に自身のある
B-17の編隊までもを全滅寸前まで追い込んだ強敵が、250騎もいるんですよ?それに加え、高射砲や対空機銃も
かなりの数が配備されて、あれじゃ工場群の周りはハリネズミですよ!そこに300機のB-24が突っ込んだら・・・・」

ガントナー少尉は、やや青ざめた表情で一気にまくし立てた。
ガントナー少尉は、厳しい訓練を受けているうちに、自分達は重要な拠点を攻撃させられるだろうと確信していた。
その予想は当たっていた。
しかし、その重要拠点は、多数のワイバーンや、増強された対空部隊に守られた対空要塞と化している。
そこに300機のB-24が突っ込んでも、犠牲が出るだけで中途半端に終るだけではないのか?
しかし、その思いを見越したのか。
ベリヤ中尉は不安を感じさせぬ笑みを浮かべつつ、ガントナー少尉の肩を叩いた。

「心配するな。戦地に行くのは俺達だけじゃねえ。ドーリットル中佐が言ってたろ?俺達にはバゼット海海戦や
アリューシャン列島で敵を追い払った、歴戦の精鋭機動部隊が援護に回ってくれる。運が良けりゃ、航続力のある
P-51もこの作戦に参加するかも知れねえ。こいつらが加われば、鬼に金棒だぜ?」

この言葉を聞いたガントナー少尉は、引きつっていた表情をやや緩ませた。

「それにな。この作戦で、俺達は敵さんの頭上を、車輪で掠めるような低空で飛んで行くんだ。
シホット共のツラが生で拝めるほどのな。出撃の日には、シホットの魔法石工場なんかさっさと掃除して、
敵の驚くツラを見て、帰還したらそれを肴に皆で一杯やろう!」

ベリヤ中尉は豪快な口調でそうまくしたてた。
彼の言葉を聞いていたガントナー少尉は、自然に不安が引いていくのを感じていた。


6月25日 午前7時 ミスリアル王国エスピリットゥ・サント

「俺た~ちは。荒々しい~所がお気に入り~」

第3艦隊の旗艦である空母エンタープライズの艦橋で、野太い歌声が響いた。
その声を聞いた幕僚や艦橋要員達が思わず苦笑した。

「長官、朝から歌を歌うとは、今日は調子がいいっすね。」

背後で歌を聞いていたラウスは、相変わらずの口調で戯れ歌を口ずさむウィリアム・ハルゼー中将に言った。

「なあに、ただの戯れ歌さ。本当の事を交えた戯れ歌だがね。しかしラウス君。我がアメリカが根拠地用に
選ぶ港は、どうして寂れた寒村しかない港ばかりなんだ?」
「ヴィルフレイングよりはマシっすよ。あっちは本当に寒村でしたが、エスピリットゥ・サントは人はまあ
多いし、建物もそれなりに多いですよ。王族に強い繋がりのある領主の屋敷もあるぐらいだし。」
「それでも、どうして閑散としているんだね?」

ハルゼーはそう言いながら、陸地のほうを指差した。

「自分に言われても、詳しい事は分からないっすよ。元々バルランド出身ですから。」

ラウスは正論でハルゼーに返事した。
エスピリットゥ・サントはミスリアル王国北海岸側、半島の西に位置する場所にあり、人口6000人ほどだ。
この港町にはヴィルフレイングと同等か、勝るほどの巨大な入り江がある。
一見、普通に栄えても良さそうな所なのだが、隣の港町に経済の面で後塵を浴びてしまっている他、人口もあまり
多くない事、それに加えて、シホールアンルのミスリアル侵攻が始まるまではミスリアル海軍の臨時根拠地として
使われていたため、竜母部隊や砲戦部隊の攻撃を受け続けてしまった。
お陰で、元々少なかった人口は更に少なくなり、今ではギリギリ6000人を維持している所まで追い込まれた。
この寂れた港町を収めるのは、長い間ミスリアルの政治の重臣、あるいは正室を送り続けたレインツェル家であったが、
ここ最近は落ち目にあり、エスピリットゥ・サントのみならず、統治する領全体の税収も思うように行かぬ状態であった。
しかし、今年の4月に転機が訪れた。
アメリカ海軍は今後の作戦の為に、ヴィルフレイング並みの重要拠点を新たに欲しいと考えていた。
それに食い付いたミスリアル王国は、港町を持つ貴族達に掛け合い、4つの候補地が挙げられた。
しかし、アメリカ海軍はこの候補地を全て、港湾地区として使うには不充分であるとして取り下げ、自ら艦隊泊地に
適した土地を探した結果、このエスピリットゥ・サントが適地であると判断した。
そして4月、この港を管理していた領主である、エルフのリミネ・レインツェルに太平洋艦隊司令部はスミス参謀長を
使いとして送り、当惑していた領主に事情を説明して了承を取ると、ミスリアル側から正式に使用許可を得られた。
使用許可を得られた1週間後には、早くもシービースを乗せた輸送船や、移動サービス部隊の工作艦が現地に向かった。
それから2ヶ月。
エスピリットゥ・サントは変わりつつあるが、外見は使用許可を取り付ける前の寂れた港町とあまり変わらなかった。
その港町に、6月23日。初めてアメリカ海軍の大艦隊が姿を現した。

「作戦開始まではあと2日足らずだな。陸軍の戦略爆撃を支援するため、わざわざ俺の第3艦隊が出向いてきた訳だが。
やはり、数を揃えてこその機動部隊だな。」

ハルゼーはそう言いながら、泊地に停泊している艦隊を眺めていた。
第3艦隊は、南太平洋部隊司令部からルベンゲーブを攻撃する爆撃隊の支援を行うために、ヴィルフレイングから
エスピリットゥ・サントまでやって来た。
この作戦に投入される空母の数は、先の第2次バゼット海海戦を上回っている。

支援部隊として参加予定の部隊は、まず歴戦のヨークタウン3姉妹を有する第38任務部隊。
それに新鋭空母のエセックス、ボノムリシャール、軽空母インディペンデンスを有する第39任務部隊。
そして、最近配備された空母フランクリンを始めに、イントレピッド、軽空母プリンストンを有する第36任務部隊の
計3個機動部隊だ。
休養の為にヴィルフレイングの留まっているレキシントン、サラトガ以外を除く第3艦隊の全ての稼動空母が、
B-24爆撃隊の支援のために、この寂れた港町に集結しているのだ。

「これほどの空母が、ただ1度の作戦に投入されるのは初めてですね。」
「ああ、確かにそうだ。」

ラウスの言葉に、ハルゼーは頷いた。

「ワイバーンは、ルベンゲーブにいる奴らで250騎ほど。他の港町に配備されているワイバーン共を含めると、
400~450騎近い数になる。それに対し、B-24は300機だが、護衛に付く予定のP-51は僅か48機のみ。
これじゃあ少なすぎる。そこで、俺達の機動部隊でもって、B-24隊の攻撃前に、ルベンゲーブ以外の所を艦載機で
吹っ飛ばして混乱させる訳だ。B-24には、TF37の戦闘機隊が援護に当たり、残りは俺と共にシホット共を掻き回す。
これが作戦の内容だ。」
「でも、難しいんじゃないですか?特に、TF37の戦闘機隊がB-24隊と合同するタイミングが。」
「合同できるかどうかは・・・・五分五分といった所だ。だが、俺はB-24隊を必ず援護させる。一番難しい事を
やるのは、B-24隊だからな。あいつらが存分に働けるような環境を作ってやり、任務を果たしてもらう。」

ハルゼーは熱い口調で、自分の思いを吐いた。
(本当、このおっさんは戦いになると熱くなるなぁ・・・・・でも、そこがいい所でもあるしな)
ラウスは心中でそう思いながら、ハルゼーに言葉を返す。

「B-24に乗っているパイロットが聞いたら、皆から感謝されますよ。」
「大した事じゃない。俺は同じ合衆国軍人として当然の事を言っているまでだ。」

そう言ったハルゼーは幾度と無く浮かべた獰猛な笑みを見せた。

その日の午前8時、第3艦隊の空母群は順次出港し、迂回進路を取りながら一路北大陸南部に向かった。

6月25日 午後2時 ルベンゲーブ

「こちらビベグゲス1。予定進路に入った、今より着陸する。」

第1戦闘隊指揮官である、レガルギ・ジャルビ少佐は、愛機を慎重に操りながら着陸態勢に入った。
彼のケルフェラクは、徐々に速力を落としながら、草原に急造された滑走路に向かい、そして、見事に着陸した。
しばらく草原を滑走して速度を落とした後、ジャルビ少佐は機体を滑走路の左に向けた。
ゆっくりと停止したケルフェラクに、地上で待機していた整備員や将校が駆け寄って来た。

「お疲れ様です隊長!」

大尉の階級章を付けた将校が、ジャルビ少佐に労いの言葉をかけてきた。

「ありがとう大尉。400ゼルドの距離をひとっ飛びで来た物だから、いつも以上に疲れてしまう物だな。」
「飛空挺はいいですな。我々は鉄道と馬車を使って、2日ほど掛けてここに着いた物ですが。」

大尉は続きを言おうとしたが、降りてきた3番機の爆音を聞いて言うのを止めた。
3番機が着陸し、スピードを下ろしたのを確認してから再び言葉を続ける。

「後続機は全て着いて来ていますか?」
「戦闘飛空挺は自分も含めて、24機全て到着だ。搭乗員は前の飛空挺部隊以来のベテランだからな。ただの
遠距離飛行なら朝飯前だ。」

ジャルビ少佐はケルフェラクの操縦席から出て、翼に脚を乗せた後、地上に降りた。
彼の操縦するケルフェラクは、試作機を元に製造された量産型である。
試作機の得たデータを基に製作された量産機の製造は、4月に開始され、5月までに32機が生産された。
ジャルビ少佐はこの量産型に切り替え、選抜した部下と共に訓練を行った。
そして6月18日。
ケルフェラクの実戦での能力を測るため、ジャルビ少佐の率いる24機の戦闘飛空挺は第1戦闘隊として編成され、
実戦に投入される事が決まった。

「しかし、実戦参加が意外に早まりましたね。予定では7月の末頃だったのに。」
「前線の状況が、それほど思わしくないと言う事だろう。敵にも新型機が出て来ているようだからな。」
「新型といえば、例の奴ですね?」
「そう。サンダーボルトとマスタングだ。」

最近になって、アメリカ軍も新鋭機、サンダーボルトと、マスタングという機体を投入してきている。
サンダーボルトは機体そのものが大きく、スピードは340レリンク以上、機銃を8丁も積んでいる強力な戦闘機だ。
運動性能は鈍いが、その高速力を生かした一撃離脱戦法は強力であり、8丁の機銃から放たれる弾幕に捕らえられれば、
ほぼ確実に撃墜される。
一方のマスタングは、サンダーボルトとは違って小ぶりな体型に、武装も機銃4~6丁とほぼ平均的である。
だが、このマスタングはこれまでのアメリカ軍機と違って運動性能が格段に向上している。流石にワイバーンには及ばない。
しかし、従来のアメリカ機とは違う機動性に加え、強力な一撃離脱戦法には、さしものワイバーン隊も苦戦を強いられている。
この新たな2機種によって、前線のワイバーン部隊の損失はまた上昇し始めていると言う。

「サンダーボルトは武装もそうだが、速度が速い上に頑丈だ。光弾をしこたま食らわせても落ちなかった、
なんて話があるからな。」
「ですが、ケルフェラクも負けていませんよ。部分的な性能はアメリカ戦闘機に軍配が上がりますが、
ケルフェラクも戦闘飛空挺として生まれてきたんですから、完全に対抗できぬとまでは行かないでしょう。」
「いや、対抗できるよ。何たって、ケルフェラクは310レリンクのスピード叩き出せる。確かに相手は
厄介な奴ばかりだが、使いようによっては、アメリカ野朗を一撃で落とす事も可能だ。」

ジャルビ少佐は自信に満ちた表情で言った。
それは、過小評価で起こる慢心などではなかった。

「アメリカ人に、こっちにも凄い飛空挺がある事を、身をもって教えてやるよ。」

支援部隊編成表

第3艦隊 旗艦エンタープライズ(司令官ウィリアム・ハルゼー中将)

第36任務部隊 旗艦フランクリン(司令官フレデリック・シャーマン少将)
正規空母フランクリン イントレピッド 軽空母プリンストン
戦艦アラバマ
重巡洋艦ボルチモア 
軽巡洋艦モービル サンアントニオ ナッシュヴィル
駆逐艦16隻

第38任務部隊 旗艦ヨークタウン(司令官フランク・フレッチャー中将)
正規空母ヨークタウン エンタープライズ ホーネット
戦艦ノースカロライナ
重巡洋艦アストリア ニューオーリンズ
軽巡洋艦ブルックリン モントピーリア アトランタ
駆逐艦16隻

第39任務部隊 旗艦エセックス(司令官エリオット・バックスマスター少将)
正規空母エセックス ボノムリシャール 軽空母インディペンデンス
戦艦サウスダコタ
重巡洋艦ヴィンセンス
軽巡洋艦デンヴァー コロンビア サンディエゴ
駆逐艦16隻
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