自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

068 第59話 真の要因

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第59話 真の要因

1483年(1943年)2月20日 午前7時 シホールアンル領ウェンステル

フェイレは、いつもの通り朝早く目覚めた。
まだ冬の抜け切らぬ2月の朝である。気温は低い。
彼女は自前の冬用の衣服を身に付けているが、厳しい寒さにはあまり効果が無い。
起き上がると、背伸びをしながら周りの風景を見る。
周りの山々は、雲海に頂上が覆われて、その全容を見ることが出来なかった。

「まだ2月・・・・なのかな?」

長い間、人里を離れているフェイレは、月日の流れを感じる事が常人より曖昧になっている。
それでも、季節の移り変わりで、今が何月であるかは分かる。

「ウェンステルの山岳地帯に隠れて、早1年近く経った。1年って、意外に短い物なのね。」

フェイレは、感情のこもらぬ口調でそう呟いた。
彼女がいるウェンステルは、元はウェンステル公国と呼ばれた国であり、国の南側にはマルヒナス運河という交通の要衝がある。
そのマルヒナス運河から北西90ゼルドの所にある山岳地帯に、彼女は身を潜めている。
シホールアンル側は、南大陸にフェイレが居ると思っていたが、当の本人は、シホールアンル支配下で潜伏していたのである。

「どんな曲者でも、雑踏に隠れれば分からなくなる。それは、どんな時においても一緒。あの村で習った
ことわざが、こんなにも役に立つなんて。」

フェイレはそう言いながら、腕に刻まれた刻印に目が留まる。

彼女の目は一瞬にして殺気立った。
この刻まれた刻印を見る度に、自分をもてあそんだシホールアンルの魔法学者達を呪っている。
(試験体の状態は良好です)
頭に刻まれた忌々しい声音が脳裏に響く。

「だまれ。」

(こんな小娘も、私達にかかればあっという間に偉大なる兵器になる)

「だまれ。」

(手段は問わん。失敗しても後が居るんだ)

「だまれ・・・・だまれ・・・・!」

(鍵は、1人で逃げない物だよ?)

「だまれだまれだまれだまれ!!!!」

フェイレは唐突に、頭を抱えてうずくまった。
「こんな事にならなければ、あたしは逃げなかったさ。あんな酷い事を起こさせなければ、逃げなかったさ。
どうして世界は、あたしを裏切り続けるの?」

フェイレは悲壮な表情でそう呟いた。
聞こえてくるのは、風の吹く音と、時折聞こえる動物達の鳴き声ぐらいだ。
彼女に答えを与えるのは、何ひとつとして無かった。

「・・・・・は・・・・はは・・・・・・ははは・・・・」

急に、フェイレは笑い出した。
最初は小さかった笑い声は、唐突に大きな物になった。

「あはははははは!!どうせ、私は朽ちるまで、ずっとこんな生活を送らなければならないのよ。大罪を犯したのに、
今更、人並みの幸せなんか出来ないわ。あはははは!」

しばらくの間、彼女は笑い続けた。
16歳の誕生日に、突如として体が熱くなった。それからの記憶は忘れたくても忘れられなかった。
酷く曖昧なのに、なぜかあっさりと思い出してしまう。
気が付くと、彼女は親友の亡骸を目の前にして茫然と立ち尽くしていた。
村を全滅させた彼女には、望む幸せなどありはしない。
それは、シホールアンルの魔の手から逃げた時以来、繰り返した自問自答だ。
だが、最近はこの過激な自問自答が1週間に2、3度の割合で繰り返されている。
最初の頃は、1ヶ月に1度ほどであったのに、最近では間隔が極端に短くなっている。
ひとしきり笑った彼女は、再び生気を失ったような表情に戻る。

「あたし・・・・・そろそろ壊れるのかな・・・・・」

フェイレはぽつりとそう呟いた。
よろよろと立ち上がったフェイレは、そのまま山道を進み始めた。
自分の未来に絶望し、そして何の感情を持たずに山を歩く。
いつもの1日はそうして始まり、何事も起きぬまま、いつものように適当な場所で寝る。

しかし、今日は珍しい事が起きた。

フェイレが山岳地帯を歩き始めて1時間が経過した。今日は珍しく、空は晴れており、山の頂上にかかっていた雲海も切れていた。
その時である。
聞きなれぬ爆音が西から聞こえてきた。最初、フェイレは気にも留めなかった。
だが、音は次第に大きくなる。

「いったい何の音?」

流石に気になったフェイレは、音のする方向に視線を向けた。
視線の先には、何も無い。いや、いくつかの黒い粒が見えた。

「・・・・・あれは?」

フェイレはそれが何であるか分からなかった。
彼女がぼうっと見つめている間に、いつの間にか黒い粒はかなりの数に上っていた。

「あれって・・・・・まさか・・・・!」

黒い粒が、飛行物体の形を成してから、フェイレは思い出した。
それはいつの日か、山の獣道に捨てられていた南大陸の広報紙を見た時に書いてあった、シホールアンルの宿敵、
アメリカ軍に関する記事を見た時だった。
この時こそ、彼女はアメリカ軍がいる事を初めて知ったが、それ以来は広報紙の類は見なくなっていた。
彼女はアメリカ軍の存在すら、気にも留めていなかったが、こうして、シホールアンルが持っていない飛空挺が
大量に現れた所を見ると、フェイレはなぜか、嬉しい気持ちになった。
アメリカ軍機の大群は、堂々たる編隊を組んで、山岳地帯の上空を飛び抜けていった。
種類は3種類あり、小さいながらもごつい格好の飛空挺、胴体が太く、後部が嫌に細く見える飛空挺、丸々太った豚を
思わせながらも、力強さを感じさせる飛空挺。

いずれにも、丸い青時の上に星のマークが描かれていた。

「確か、あの先にはシホールアンルの基地が・・・・」

フェイレは、アメリカ軍機の編隊が向かう先に何があるのか知っていた。
この山岳地帯から東に8ゼルドほど進んだ所に、シホールアンル軍の基地がある。
やがて、山岳地帯を通り過ぎたアメリカ軍機の編隊は、遠くにうっすらと見える、シホールアンルの基地にへと殺到した。
虚を突かれたのか、迎撃にあたるワイバーンは1騎もおらず、アメリカ軍機はこれ幸いとばかりに基地を襲った。
フェイレは、視力強化の魔法を使って、遠くのシホールアンル基地が破壊されていく光景を眺めていた。
先ほどの飛空挺の何機かが、高空から逆落としに突っ込んでいく。
シホールアンル基地からは見た事もない激しい対空砲火が噴き上げられているが、アメリカ軍機には当たらない。
小さい粒が低高度で急降下から水平飛行に移った直後、基地の一角に爆炎が上がった。
それを皮切りに、シホールアンル基地に次々と火の手が上がった。
ワイバーンの迎撃を受けなかったアメリカ軍機は、都合20分ほどで基地を蹂躙し、アメリカ軍機が基地を離れる頃には、
その基地は各所から濛々たる黒煙を広げ、遠めで見ても少なくない被害を被った事が分かった。
一方的に基地を叩きまくったアメリカ軍機の編隊は、悠々と北西方面に引き返していった。

「あれが、アメリカ軍の実力。」

フェイレは、初めて目にしたアメリカ軍の実力に溜飲を下げた。
正直、自分を悩ませたシホールアンル軍の基地が、抵抗空しく炎上していく様は実に気分が良かった。
特に、一際大きな爆発が起きた時には、思わず快哉を叫んだ。

「アメリカなら、シホールアンルを倒す事が出来るかもしれない。」

ふと、フェイレはそう確信した。
いつもとは違う、どこか明るい笑みを浮かべたフェイレは、再び山道を歩き始めた。
いつもなら重い足取りも、この時はどこか軽やかであった。

1483年(1943年)3月2日 午後2時 ヴィルフレイング北東沖60マイル地点

この日、洋上の天気は、曇りであった。
第38任務部隊は、時速18ノットでヴィルフレイングに向かっていた。
TF38の旗艦である空母エンタープライズの右舷後部側の通路で、ラウスはぼーっとした表情で海を眺めていた。
最近は休憩の時によく、飛行甲板の端にある通路に出て、ぼーっとしているのが彼の日課となっている。
時折、エンタープライズの乗員や、航空隊のパイロット達が親しげに声をかけてくれるが、それ以外は、何も
考える事もなく、ずっと水平線を眺めている。
今日も、何もしないで休憩が終わるだろうと思った時、唐突に肩を叩かれた。

「よおラウス君。ここに居たかね。」

聞き慣れた声が、彼の名を呼んだ。
振り向くと、TF38の長でもあり、TF38、TF37を統括する司令官でもある、ウイリアム・ハルゼー中将がいた。

「あっ。ハルゼー提督。こんちわっす。」
「おう。今日も相変わらず、ここで日光浴かな?今日は日光浴には向かない天気だが。」

ハルゼーはいかつい顔に邪気の無い笑みを浮かべながら、ポケットからライターと葉巻を取り出し、それに火を付けて旨そうに吸った。

「さあ、自分でもさっぱりっすよ。」
「ハハハハ。自分でもさっぱりか、ラウスらしい答えだ。」
「強いて言うなら、ここのほうが気持ち良い風が来るから、船に揺られながら休むにはいいかなと、
いつもここに居るんですよ。」
「ふむ。確かに、ここもいい風が来るからな。ビッグEの連中も良くここで休憩を取ってる。
最も、最近は君がここを占領しているがね。」
「提督、占領してるつもりはないんすけど・・・・傍から見たらそう見えます?」
「見える。」

ハルゼーの即答に、ラウスは少しだけ苦い気持ちになった。

「う、やっぱりですか。」
「というのはほんの冗談だが。」

先とは異なる答えの出現に、ラウスは思わず脱力しかけた。

「ま、まあ・・・・・いい冗談すね。」
「いい冗談か。ありがとうよラウス君。今度はもっといい冗談を言ってやるから、期待して待っておけ。」

そう言って、ハルゼーはガハハハと高笑いした。

「それにしても、君達がアメリカをこの世界に呼び出してから、早1年4ヶ月が経ったなぁ。
思えば、この短い間に色々あったな。」
「ハルゼー提督の国を見て以来、自分も見識を改めましたよ。今だから言えますが、デトロイトの工場群を見た時は、
正直言って同じ人間が作った物か?と思っちまいましたよ。なんせ、工場だけで広い陸地が埋まってるんすから。
自分達の世界じゃ、あんな光景はシホールアンルに行っても見れないですよ。自分も合間に、アメリカの事を
勉強しましたけど、今になって思えば、あのデトロイト工場群こそ、アメリカの精神そのものなのかな。」

ラウスは、どこか照れるような口調でハルゼーに言った。

「ほう、勉強してるじゃねえか。君の言ったとおり、いずれ、俺達アメリカが作った軍艦や戦車が、
シホット共に襲い掛かる。俺達海軍にも、エセックス級を始めとする新鋭艦が続々と出て来る。
戦力さえ揃えば、シホットの艦隊なぞ、俺が綺麗さっぱり水葬にして見せるぜ。ラウス君、今に
このTF38程度の艦隊なぞ、うじゃうじゃ編成されるぞ。そうなった時こそ、シホットやマオリー達の最後だ。」
「そうなったら、早く戦争が終わるかもしれませんね。戦争が終わったら、のんびりとしたいです。」

「のんびりか。君の言うのんびりとは、ずっと眠りまくる事じゃねえか?」
「ハルゼーさん、人聞きが悪いっすよ。自分だって人並みに彼女作って、結婚して余生送りたいんですから。」
「こんな若いのに余生の話しをしちゃあ、既に年寄りだぞ。」

そう言うと、互いに苦笑する。

「しかし、シホット共も馬鹿みたいに領土を拡張しまくった物だな。北大陸だけでも俺達合衆国の1.5倍近くは
ありやがる。あんな大帝国を作ったうえに今度は南に攻めるとは。どこぞの悪食野郎みたいだな。」
「元来、シホールアンルは戦争ばかりしていましたからね。」
「だがなラウス。そもそも南大陸攻め込んだ原因というのが、自分達の安全圏を確保するためだとか、
優秀な支配下に置いて平和にするとか、馬鹿げた事の様だが、しかしだな、どうも俺には理解できんのだ。」
「理解できない?それは、どういう意味で?」
「シホールアンルは、宣戦布告なぞ全くやらんで敵を攻撃しているんだろう?まあ、そのお陰で、アメリカの国民は
スニーキーシホットを叩き潰せと息巻いて、晴れて俺達が参戦できたが。しかし、なぜ南大陸に侵攻する前に、
わざわざ宣戦布告同然の大義名分を言ったんだ?おかしいとは思わねえか?」
「おかしい、ですか。」

ラウスは抑揚の無い口調で答えた。

「そうだ。何かな、大事な事を隠しているみたいだ。例えば、とある人物が大事な物を無くした。だが、他の奴に
知られてはまずいから、わざとらしい事を言ってその大事な物から目を逸らすとかな。よく映画とかで似たよう
部分があるんだよ。」

ハルゼーは疑っていた。シホールアンルの大義名分の裏に、何かがある事を。

「ラウス君、何か知らんかね?」

「俺が・・・・ですか?」
「ああそうだ。君は俺達の国をこの世界に呼び出したほどの魔法使いだ。その技量からしてかなりの物だろう。
いわば、国からしたら重要な人物ってわけだ。その君が、例えばシホールアンルの大義名分の裏に、何かが
あった事を知っているとか。」

ラウスは内心仰天していた。
シホールアンルが南大陸に侵攻した真の原因。
つまり、鍵の事は、召喚メンバーのリーダーであったレイリーとルィールが良く知っており、2人は北大陸で、
この不思議な少女に会っている。
ラウスは2人から、鍵と名乗った少女の事を聞かされただけだ。
その鍵の事が、シホールアンルが南大陸に侵攻した事に絡んでいる事は、シホールアンルとの開戦した時に改めて
聞かされたが、ラウス達には厳重な緘口令が敷かれている。
真実を知る者は、ラウスら召喚メンバーと、南大陸の一部の権力者のみとなった。
国民は、先の大義名分を信じ切っており、アメリカ人もまた、この馬鹿げた大義名分を信じていた。
だが、それに疑問を持つ者も、今、目の前にいる。

「まあ、俺達を呼び出すだけで精一杯だった君らが、戦争の真の原因なぞ分かる筈も無いか。いらん事を聞いてしまったな。」
「いえ、別にいいですけど、でもなんでそんな事を?」
「ああ、実はな。レイの奴があの大義名分には少し疑問を感じると思ったんだ。俺はそんなことは無いだろうと思ったんだが、
ここ最近は良く考えてしまうんだ。」
「スプルーアンス提督から言われたんですか?」
「ああ、そうだ。元々の発端は、キンメルからの指示だったんだがな。それがニミッツや、スプルーアンスの耳に届いて、
今では秘密裏に調べ回っているらしい。」
「そうなんですか。で、成果は?」
「さっぱりさ。まっ、南太平洋部隊司令部も、キンメルもあまり期待してねえようだ。最も、俺はこうして船に乗ってれば満足だが。」

そう言ってから、ハルゼーは再び高笑いをした。
対するラウスは、意外に勘のいいアメリカ軍人達に驚き、半ば尊敬したい気持ちになっていた。

「さて、そろそろ補給船団との会合地点に到達するな。ラウス君、そろそろ艦橋に上がらんかね?」
「ええ。そいじゃ行きますか。」

ラウスは相変わらずの口調でそう言うと、葉巻を吹かすハルゼーと共に艦橋に上がっていった。


午後7時 燃料補給を終えたTF38は、進路を再び北にへ向けた。
時間は7時を回り、待望の夕食時になった。
ハルゼーや艦隊司令部の幕僚達は、7時30分に食堂に集まったが、そこでは、いままでに嗅いだ事も無い珍しい匂いが満ちていた。

「おい、今日は変な匂いがするな。なんか、ツンと来るような感じだ。」

席に座ったハルゼーは、隣に座ったブローニング参謀長にそう言った。

「確かに。ピザにしては違いすぎる匂いですな。先に食った連中は何の料理を食べたんですかな。」

ハルゼーは夕食前に、艦長に対してたまには珍しい料理でも食べたい物だなと言っていた。
ハルゼーとしては冗談であったが、気を利かせた艦長は、ハルゼーの言葉通りに珍しい料理を用意したようだ。
その時、主計科の水兵が、皿や料理の入った丸い鍋と箱を持って来た。

「おお、メシがやって来たぞ。ラウス、今日はたっぷり食っていっぱい寝ろよ。いい夢が見られるぞ。」

航海参謀のエド・ウォーレンス中佐がラウスに向かっていった。

「いい夢っすか。どのような根拠でいい夢が見れるんです?」
「なあに、軍人特有の勘さ。」
「貴様の勘は当てにならんぞ。この間だって、ポーカーでお前の勘を当てにしたら参謀長に負けちまったじゃねえか。」

ウォーレンス中佐に、航空参謀のグィン・タナトス中佐が文句を言う。

「馬鹿野郎。人に頼るからいい目をみねえんだよ。それにお前だって、勘があるとか言ってギャンブルでは
いつも大負けしてるだろう。」
「それ以前に貴様らの勘は頼りにならんだろうが。」

ハルゼーの一言に、2人はうっと唸って、そのまま視線を伏せる。
それを見て一同が大笑いをした。
談笑している間に、テーブルには、珍しい匂いを放つ、茶色と白が混ざった料理が置かれていった。

「あの~、これって、何すか?」

思わず、ラウスの間の抜けた声が食堂に響いた。

「俺も知らん。まあ、とにかく食ってみよう。この白いのは、良く見ると米という物のようだが・・・・」

ハルゼーは恐る恐る、白い物、米と茶色が混ざった部分をスプーンですくい、それを口にしてみた。
辛い。だが、

「うまい!こいつぁいけるぞ!」

彼は、獰猛な笑みを浮かべて皆に言った。それから幕僚達は、置かれたスプーンを使って料理を食べ始めた。

「おお、確かにうまい。」
「程よい辛さですね。米とこの茶色いのが見事に会ってる。」
「初めて食うが、こいつは本当に美味しい!こんな料理があったとは。」

幕僚達には好評であった。彼らが見慣れぬ料理に喰らい付いてから1分が経ち、不意にウォーレンス中佐が口を開いた。

「長官、こいつはカレーライスという食べ物ですよ。」
「「カレーライス?」」

皆が異口同音に喋った。図らずして成った出来事に、主計科の兵が一瞬引いた。

「そうです。自分は39年から41年の春頃まで、日本の大使館に駐在武官として派遣されていましたが、当時
知り合いだった、日本海軍の貝塚武雄中佐にカレーを勧められて食べました。日本のカレーはかなり美味でしたな。」
「ほう・・・・カレーライスっていうのか。日本人もいいメシを食ってるじゃねえか。所でエド。このカレーと昔食った
カレーは、どっちが美味いかね?」
「日本のカレーと比べますと、ちょっと辛いですな。ですが、どっちも旨いですよ。」
「そうか。しかし、こんなにも上手い料理を作れるとは。おい、料理長を呼んで来い。」

ハルゼーは、主計科兵にそう言って料理長を食堂にまで呼び付けた。
2分ほど経って、料理長が、若い主計兵を伴って食堂に現れた。

「長官、お連れしました。」
「ご苦労。料理長、君ら主計兵の作ったカレー。初めて食ったが、かなり美味かったぞ。」
「はっ、お褒めにあずかり、光栄であります。」

がっしりとした体格の、黒髪の料理長は張りのある声音でそう返事した。その上に、料理長は付け加えた。

「ですが長官。私はサポートしただけです。このカレーは、元々はこいつが作った物なのです。サムナー1水。」

料理長の声と共に、傍にいた若い主計兵が1歩前に出た。

「ほう、君がこのカレーを作ったのか。この年でこんな立派な料理が作れるとは、大したもんだぜ。
この料理はどこで習った?」
「は、はい!」

サムナー1等水兵は、緊張した表情で返事した。
「実はですね、あれは40年の12月でしたか。当時、海軍に入る前に故郷のダラスで散歩していたら、見慣れぬシスターが
この料理を作っていたんです。当時、自分は色々な料理を習得しようと、日々料理の自己研鑽に励んでおりました。」
「シスターだと?こいつは不思議だな。」
「シスターとは言っても、普通の協会のシスターが着ける修道服とは違っていました。ちなみに、外見的にはボーイッシュで、
眼鏡をかけていました。自分は思わず、そのシスターにこの料理を習わせて下さいと言ってしまいました。そしたら、
そのシスターが二つ返事でOKを出してくれて、5日ほど料理を教えてくれました。そのシスターは意外に気さくな方で、
名前は聞きそびれてしまいましたが、料理の腕前は凄く良い物でした。そのシスターから習ったカレーが、これなんです。」
「シスターがカレーを作るとは、これまた珍しい物だ。ちなみに、奴さんはまだアメリカにいるのかね?」
「いえ、カナダに行くと言って別れてしまいました。今頃はカナダあたりにいるでしょう。」
「長官、サムナー1水のカレーライスは見事な物です。今では、エンタープライズ、いや、合衆国海軍で
カレーライスを作らせたら、サムナー1水が一番でしょう。」
「同感だ。そのシスターから伝授したとはいえ、それを充分に生かしきれるとは、実に見事な物だ。君のような
主計兵がいれば、俺達合衆国海軍は安泰だな。そう思わんかね、諸君?」

ハルゼーの言葉に、皆が微笑みながらも、深く頷いた。

「さて、カレーライスはまだあるぞ。諸君、げっぷが出るまで食って、サムナー1水を喜ばそうじゃねえか!」

彼がそう言うと、幕僚達は再びスプーンを動かし、カレーライスに舌鼓を打った。


エンタープライズの夕食として出された、初めてのカレーライスは、乗員にも非常に受けが良く、しまいには
噂を聞きつけた他艦の料理長が教えを乞いに来るほどであった。
44年初旬には合衆国海軍の標準食として取り入れられ、後に陸軍や海兵隊、戦後は一般家庭に普及することになった。
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