自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

009 第8話 ボストン沖海戦

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第8話 ボストン沖海戦

1481年11月21日 午前6時 バージニア州ノーフォーク

「出港用意!」
冬の寒さが滲み始めてきたノーフォークの港に、唐突に声が上がった。
その声が呼び水となったのか、港に停泊していた一部の艦艇が機関のうなりを高めた。
船のうち、小型の駆逐艦が我先にと港の外に出て行く。
その後ろを、やはり駆逐艦が前の艦と同じく、港外に出ようとしていた。
港を出ようとしている船は合計で16。内、大型艦が2隻含まれている。
駆逐艦5隻出港した後に、一回り大きな艦影が同じように出港して行き、その後方を巨大な艦が、のっしのっしと歩くように航行する。
そのまた後方には、煙突と艦橋が一体となったアイランドを持つ、平たい艦が後を追っていく。
第25任務部隊司令官である、フランク・フレッチャー少将は、まだ暗いノーフォークの港町を見つめながら、物思いにふけっていた。

「ヴィンセンス、出港します!」

見張りが、寮艦の出港を告げてくる。

「あれから潜水艦部隊からの通信は届いていないか?」

フレッチャー少将は、後ろに立っている通信参謀に問いかける。

「サーモンとタンバーの報告電以外は、新しい情報は入っていません。」
「TF27は?」
「さきほど、ニューヨークを出港いたしました。」
「そうか。」

フレッチャーは軽く頷いて、張り出し通路から艦橋内に戻り、司令官席に座った。

「艦長、君は今回の防衛戦について、どう思うかね?」

彼は、右隣に立っているバックマスター艦長に聞いてみた。

「今回の作戦ですか。私としては、今回の案はいいと思います。まずは空母艦載機で叩けるだけ叩き、
それでも後退しない場合は待機している潜水艦部隊で攻撃を加える。これなら、犠牲も少なく出来るでしょう。」
「空母がレンジャーとヨークタウンしかいないのが、少し寂しい限りだな。
ホーネットは慣熟訓練中で、連れて行っても足手まといだし、イギリス側の空母はどうも使う気になれない。」
「要するに、TF25、27が、合衆国本土守る要、と言うことですな」
「そう言う事だ。しかし、敵は護衛艦艇以外は帆船やらスループ船やらの集まりらしい。
1000ポンドや魚雷を当てようとしても、突き抜けて効果が薄くなる可能性があるな。」
「爆弾は陸上攻撃用の榴弾で行えば、なんとかなるかもしれませんが、雷撃機をどの装備で攻撃させるか。
やはり、爆弾を抱かせたほうがいいのでしょうか。」

現在、ヨークタウンには更新成ったばかりのF4Fが28機、SBDが32機、TBDが32機の計92機が搭載されている。
ヨークタウンは、その気になれば100機の艦載機を積めるが、今回の開戦があまりにも突然であったので、定数目一杯まで埋める暇は無かった。
被害の受けたTF23を護衛しながら帰還したのは11月18日であり、それから100機編成にしようとした矢先に急遽出撃命令が下ったのだ。
状況は、TF27のレンジャーでも似たような物であり、F4F24機、SBD27機、TBD24機の計75機しか積まれていない。
2艦合計で167機。この167機を、潜水艦部隊が発見した敵輸送船団に当てるのだ。
一方で、敵輸送船団はサーモン、タンバーの報告で南西の方角、つまりアメリカ本土に向かっており、
数はサーモンの情報では100隻以上、タンバーの情報では200隻以上と、かなり増えている。
敵船団は14ノットのスピードで航行していて、第29任務部隊の後に出撃した第30任務部隊は、
ボストンから東北東1000マイルの付近に散開線を張り、敵輸送船団の航過を今か今かと待ち構えている。

「爆弾を抱かすか、魚雷を抱かすかは後に決めよう。
それよりも、今は入ってくる情報を分析し、敵の正確な位置と規模を調べる事だ。今はそれに集中しよう。」

ノーフォークを出港した各艦は、外洋で集結した後、18ノットの速力で一旦北東に向かった。
ボストン沖250マイル地点でTF27と合流した後、機動部隊は一路、東北東へと進んでいった。

1481年11月23日 午前1時 ボストン沖東北東750マイル付近

「潜水艦トリトンからの通信が途絶えた?」

ヨークタウンの艦橋上、フレッチャー少将の素っ頓狂な声が響いた。
潜水艦のトリトンは、1時間前に敵輸送船団を発見し、位置を知らせてきた。
この時、潜水艦のサーゴも同じように敵発見の通信を送って来ていた。

「定時連絡にトリトンからの通信が全く入らなかったようです。」
「通信機が故障でもしたのかな?」

フレッチャー少将はそう思った。
しかし30分後、潜水艦サーゴからの通信が入った。
潜水艦サーゴは、トリトンから20マイル離れた海域で哨戒活動行っていた。

「我、圧壊音らしきものを探知せり。」
その通信文を見た者は、誰もが目を丸くした。
彼らは知らなかったが、潜水艦のトリトンは、マオンド軍の駆逐艦によって撃沈されていたのである。
それも水中で。

「圧壊音だと!?」

一瞬、艦橋内が静まり返った。

「圧壊音らしきものなので、まだ確証は持てませんが・・・・・」
「・・・・・まあいい。確証は持てないのなら、トリトンはまだ生きていると考えよう。
それよりも、敵輸送船団の規模は判明したか?」
「トリトン、サーゴからの報告では、敵輸送船団は150~250隻の船団で、2~3の梯団に分かれているようです。
いずれの挺団も大型の帆船を多数有している事です。針路は依然、南西に向けられています。」
「ふむ。これで、敵側がアメリカに乗り込もうとしている事が分かった。」
「司令官、攻撃はどのようになさいますか?」
「昨日決めたとおりに行おう。」

フレッチャー少将は躊躇い無く言い放った。

「策敵機を飛ばし、敵船団の位置が分かれば、攻撃隊を放つ。日が暮れるまで、反復攻撃を行う。
それでも後退しない場合は潜水艦部隊に攻撃させ、それでも来るのならば水上部隊で撃滅する。」

フレッチャーは、司令官席から立ち上がり、スリットガラスに目を向ける。
視線の向こうには、戦艦のノースカロライナが前方700メートルの位置で航行している。
敵が引かぬのなら、ノースカロライナも投入して16インチ砲でなぎ倒しても良いと、フレッチャーは考えた。

「諸君。敵にはたっぷりと教えてやろう。合衆国本土には、我々がいるという事を、嫌と言うほど思い知らせてやろう。」

11月23日 午前7時

この日の午前6時、第25、27任務部隊から16機の策敵機が発艦した。
ヨークタウン、レンジャーからそれぞれ8機のドーントレスが発艦し、南東から北東海域の広い範囲に散らばっていった。
策敵機が発艦した後、機動部隊の各艦はそれぞれの仕事に従事した。

ヨークタウン、レンジャーでは、格納甲板で攻撃隊の発艦準備が進められる。
ドーントレスは、胴体に1000ポンド爆弾を抱かれ、デヴァステーターは調整された魚雷を搭載されていく。
ワイルドキャットには、4丁の12.7ミリ機銃に機銃弾が装着され、弾倉を腹いっぱい満たしていく。
整備員がエンジンに取り付き、最後の微調整を行う。
空母を守る護衛艦艇は、もしもの場合に備えて、見張り員が目を更にして、海上をくまなく探し、
駆逐艦のソナー員は、謎の海洋生物が現れるかもしれないと思い、耳に全神経を集中させた。
艦隊の雰囲気は、1分が過ぎ、1メートル進むごとに、次第に緊張の度合いを高めていく。
攻撃が今日になるのは確実だが、果たして、200隻以上の大船団に、わずか空母2隻の艦載機だけでどれだけ沈められるか。
その結果は誰も分からない。
しかし、敵が迫っている異常、最初の防衛網たるTF25、27の将兵達は、どんな手を使ってでも
敵船団を壊滅させるか、追っ払ってやると言う思いに燃えていた。

レンジャーを発艦した索敵4号機は、母艦より180マイル離れた東の海域を、
高度3000メートル、150マイルのスピードで飛行していた。

「機長!どうも見つかりませんね!」

後部座席に座るベニー・ベンダー兵曹は、操縦席のジョー・ニックス少尉に問いかけた。

「何も見つからんかったら、海を見つけましたって報告してやるさ!」

彼がそう言うと、2人は爆笑した。
偵察活動と言うものは、大抵外れの場合が多い。
見つけたら殊勲モノではあるが、それまで乗員は、淡々と続く飛行に耐えなければならない。
これが敵の地上部隊や、艦隊を攻撃しに行く時ならば、敵を食ってやると意気込んで暇を感じなくなるが、
偵察飛行であるとやる気が大幅に変わってくる。
重要な任務である事には変わりは無いのだが、単調な飛行時に押し寄せてくる疲労感は、乗員の判断能力を徐々に鈍らせてくる。

それが嫌で、偵察飛行を嫌う物は少なくない。

「燃料をちょっと食いすぎたな。向かい風が強いせいで、燃費が悪い。」
ニックス少尉はそう言って顔をしかめる。
燃料切れとなれば、海上に不時着して、いつ来るとも知れぬ救援を待つしかない。
(嫌だな。サメよりも恐ろしい化け物がいるかも知れねえこの海で、不時着するのは)

「機長!燃料のほうは大丈夫ですかい?」
「目盛りが半分近く行ってやがる。向かい風が強すぎて、燃料を無駄に使っちまった。」
「あとどれぐらい進めますか?」
「せいぜい、5、60マイルってとこだな。無理すりゃあ250マイル地点まで進めるかもしれんが。」
「無理はよしましょう。偵察飛行で死ぬのはゴメンっすよ。」

ベンダー兵曹は半ば本気でそう言った。

「無理するつもりは無いよ。それよりも、帰った後が問題だな。帰還直後にすぐに飛んでくれって言われたら最悪だ。」
「せめて、1時間ほどは眠れるといいですな。」
「1時間と言わずに、2時間3時間と寝てやれ。」

そう言いながら、彼は欠伸をかみ殺した。
それから10分後。

「機長!」
「ん?どしたぁ!?」
「3時方向に何かが見えます!」

それまで、漫然とした疲労感に包まれていたが、その言葉を聞いて急に疲労感が引いた。

すかさず、彼は右方向に目をやった。
肉眼では、雲の切れ目に青い海が延々と続いているだけだ。

「今双眼鏡を使っているか?」
「使ってますよ!」

そうか、と言って彼はぶら下げていた双眼鏡を取り、それを使って改めて見る。
水平線上に、うっすらとだが何かが見え隠れしている。

「ここじゃ遠くて確認しづらい。近付くぞ!」

彼は機体を見え隠れする影に向けた。影は雲の切れ目に隠れてしまった。
彼らのドーントレスは、雲に突っ込み、10秒ほどの時間を置いて雲から飛び出した。
その次の瞬間、

「す、すげえ・・・・・・・」

2人は言葉を失った。
なんと、眼下に陣形を組んだ大輸送船団がいたのだ。
それも50隻は下らぬ大船団だ。
船団は、外周部は鋼鉄製の軍艦が護衛しており、陣形の中心部には大小の輸送船がいる。
水平線の向こうにも、うっすらとだが、似たような船団がいた。
彼らのドーントレスは、船団の上空を斜めに横切った。
「ベンダー!至急機動部隊に送れ!我、敵大輸送船団を発見せり、編成は護衛に巡洋艦、
駆逐艦10隻余り、輸送船は50隻以上。位置は母艦より東200マイル付近、以上だ!」

彼の指示通りに、ベンダー兵曹は無線機に取り付き、殴り書きした文面の内容をそのまま、機動部隊に送信し始めた。

午前8時 TF25旗艦ヨークタウン

「敵は輸送船団及び軍艦を編成している模様。尚、敵船団より対空砲火を受けるも、損傷なし、か。」

フレッチャー少将は、レンジャーから送られてきた報告文を読んだ。

「空母はいないのですかな?」

バックマスター艦長が聞いてきた。

「特使からの情報によれば、マオンド共和国は主にシホールアンルから払い下げられた軍艦を使用しているようです。
だとすると、空母も1、2隻いるのでは?」
「空母がいれば、護衛のワイバーンにドーントレスは追い散らされているか、叩き落されている。
だが、ドーントレスが今も生きていると言う事は、敵は航空機の援護を伴っていないと言う事になる。」
「では、司令官。」

バックマスター大佐は、何かを期待するような表情になる。それは、誰が見てもすぐに分かった。

「200マイルならデヴァステーターもなんとか出せる。艦長、攻撃隊を出そう。」
「分かりました。」

フレッチャー言葉を聞き、バックマスター大佐は大きく頷いた。
艦長の号令が伝わるや、格納甲板から艦載機が次々と運び上げられ、飛行甲板の後部に集められていく。
既に攻撃準備を整えていたため、準備はスムーズに行われた。
並べられた艦載機は、何分かエンジンを動かし、暖機運転を始める。
ある程度エンジンが温まると、整備員がエンジンを止めた。

「第1次攻撃隊は、F4F12機、SBD14機、TBD18機の計44機を発艦させます。
レンジャーからはF4F10機、SBD12機、TBD12機が発艦予定です。」
「TF25、27合わせて78機か・・・・・あと1隻、空母が欲しかったな。」

フレッチャー少将は複雑な表情を浮かべた。
本来ならば、TF23のワスプも、ヨークタウン、レンジャーと肩を並べて敵に立ち向かう筈だった。
しかし、ワスプはシホールアンル軍の不意討ちで大破され、今はドッグで傷を癒している。
せめてホーネットを持って行きたかったが、ホーネットはまだ慣熟訓練中で使い物にならない。

(無い物ねだりしても始まらんか)
そう思った時、バックマスター艦長の声が聞こえた。それと同時に、艦載機のエンジン音が聞こえ始めた。

「司令官。攻撃隊発艦準備完了です。」
「うむ。艦長、仕事を始めよう。」

その言葉を聞いたバックマスター大佐は頷き、最後の仕上げに掛かった。

「艦首を風に立てろ!」

艦長の命令が下り、操舵員が風上に向けて舵を回す。
19800トンのヨークタウンが、鈍重そうな艦体とは裏腹に、意外と小さな旋回半径を描いて風上に立つ。
ヨークタウンを援護する護衛艦艇も、それに習って定位置にぴったり付いてくる。
28ノットの高速で航行し、風が飛行甲板の先から吹き込んできた。発艦の下準備は出来た。
飛行甲板に並べられた44機の艦載機が、エンジンを轟々と鳴らし、発艦を時を待っている。
頃合よしと見たバックマスター艦長は、ついに待望の命令を発した。

「発艦始め!」

それから間もなくして、タイミングを見計らった甲板要員が、フラッグを振った。
頷いたF4Fのパイロットが、ブレーキを離し、エンジン出力を上げる。
艦橋の張り出し通路に出たフレーチャー司令官や幕僚、バックマスター艦長が敬礼をして見送る。
酒樽に翼を生やしたような機体が、みるみるうちに速度を上げ、ヨークタウンの飛行甲板の先端を蹴り上げ、空に舞い上がっていった。
それを機に、次々と艦載機は発艦して行った。機銃手や高角砲要員、甲板要員が声援を送り、大手を振って攻撃隊の発艦を見送った。
攻撃隊パイロットの中には、必ず戻ってくるとばかりに、腕を振り上げたり、親指を上げたりして乗員達の声援に答える。
最後のデヴァステーターが発艦すると、攻撃隊は編隊を組み上げ、艦体上空をフライパスして敵輸送船団に向かっていった。

「たっぷり暴れて来いよー!」
「敵のボロ船なんざ全部叩き沈めてしまえ!」
「大西洋には魔物がいる事をたっぷり教育してやれ!」

艦隊の将兵達は、それぞれが勝手な事を口走りつつも、整然とした攻撃隊を見送っていった。
時に11月21日、午前8時30分の事であった。

午前9時40分 

マオンド共和国海軍第34艦隊に所属する駆逐艦のイッグレは、輸送船団と共に順調な航海を続けていた。
イッグレスの艦長であるルロンギ少佐は、ある物を読んでいた。

「全く、理解できぬ言語だな。」

彼は知らなかったが、その本の題名はタイムマシーンと書かれていた。撃沈した米潜水艦の遺品である。

「海中にあんな物がいるとは驚きましたな。」

副長が興奮冷めやらぬ口調で言ってきた。

「それよりも、あのポンコツが役に立った事事態、私は驚いたね。」

ルロンギ少佐はポンコツの姿を思い浮かべた。
ポンコツとは、このイッグレに積まれていた、対海洋生物用の生体反応装置だ。
この生体反応装置は艦底部にある個室に設置されており、これまで海洋生物の探知に使われてきた。
しかし、10年前に有害な海洋生物はほとんど絶滅し。残るは南大陸の沿岸部にいるのみとなっている。
この装置は、紫色の魔法石が置かれており、魔法石が発する波動で魔法石が反応する。
もし海洋生物がいれば、その生体反応を探知して、魔法石が黒く染まっていく。
イッグレは、元々シホールアンル海軍のお下がりで、艦のあちこちにガタが来ていた。
この対海洋生物用の探知機も、今では役立たずとされており、ここに配属されるのは落ちこぼれか、厄介者だった。
この探知機は、現在は旧式艦にしか設置されておらず、最近の艦艇には全く配備されていない。
このイッグレの探知機も、今回のアメリカ侵攻作戦が終われば取り外す予定だった。

だが、23日の未明、いきなりこの探知装置が強く反応した。
絶命したはずの海洋生物が、船団を狙っている!
慌てた艦隊は、探知機を装備した駆逐艦5隻をイッグレの元に向かわせ、周辺海域に魔道爆雷を狂ったように投げ込んだ。
爆雷を投げ込んで30分後、イッグレの後方に突然、一際でかい水柱が立ち上がった。
有害な海洋生物を攻撃した時には、このような水柱は全く無かった。
突然の怪奇現象に誰もが首を捻った時、今度は真っ黒い液体が浮いてきた。
その後に、人間らしい遺体や遺品が多数吹き上がってきた。
彼らは知らなかったが、それは先頭の第1梯団の様子を報告した、米潜水艦トリトンの遺品であった。
イッグレの他に現場に留まった2隻の駆逐艦が、浮き上がってきた遺品類を片っ端から引き上げた。
その中には、海軍鑑定の艦影表や暗号帳といった機密文書も含まれていた。

「海中には、未知の物体がいるようだな。それも多数の兵を乗せ、海中から敵を監視できる船が。」

「もしかすると・・・・・・・」

次第に副長の顔は青ざめてきた。
これまで、侵攻部隊の輸送船団は何事も無く進んできた。
途中で敵艦隊に会わずに済み、前半はなんとか隠密行動を保てたと思った。
だが、他の駆逐艦と共同で撃沈した、あの未知の海中船が出てきた事で、ルロンギ少佐の不安はますます大きくなってきた。
もしかしたら、アメリカ軍はあのような海中船を多数投入し、海中から様子を伺っていたとしたら。
そして、その海中船からの情報を元に、敵の艦隊が待ち構えていたとしたら・・・・・
当初の作戦計画では、航海の半分以下で発見されてもやむを得ないとされており、航海の前半を無事に過ごせば、
ある程度の兵はアメリカ本土に取り付けると見込まれている。
しかし、あの海中船がこっちの動きを、それも前半を終わらぬ内に味方艦隊に伝えていたとしたら。

(作戦はその時点で失敗したと言う事になる!)
彼は、副長に顔を向けた。

「なあ副長。」
「なんでありますか?」
「今から作戦を中止する事は出来んのかね?」

いきなり副長の顔色に戸惑いが走った。

「えっ?艦長、いきなり何を言われるのです?」
「分からんのか?作戦中止を進言できるか?と言う事だよ。」

彼の言葉に、艦橋要員の目が彼に剥いた。
誰もが信じられないといった表情である。

「中止は、恐らく無理なのでは?それに進言したところで、握りつぶされるのがオチかと。」
(進言したらしたで、帰還後に反逆罪として処刑されるかな。)

そう思った時、自分が嫌に冷静だなと感じた。

彼の危惧は、すぐに現実の物となった。

唐突に、何かの音が聞こえてきた。
最初、羽虫か?と思ったが、羽虫が立てる音にしては、少し重々しい。

「副長、何か聞こえないか?」
「艦長も聞こえますか?」

その刹那。

「第1梯団より緊急信!未確認飛行物体を多数視認!」

午前9時50分

第1次攻撃隊指揮官である、空母ヨークタウン所属の艦爆隊長、マックス・レスリー少佐は水平線から湧き出てきた輸送船団を見て口笛を鳴らした。

「おい、見てみろ!あの大艦隊を!」
「ヒュウ、とんでもねえ数ですね。俺達だけで潰しきれませんぜ。」

寮機の部下も、驚きの声を発した。
目の前の船団は、最低でも50隻以上はいようかという大船団であり、輪形陣を組んでいる。
そのような巨大輪形陣があと1つ、攻撃隊の左方向に展開している。こちらもほぼ同数だ。

「この陣形・・・・・この世界の奴らも、航空機と言うものが分かっているのか。」

船団の編成は、20隻程度の軍艦が船団の周囲を取り囲み、その輪の中に帆船らしき輸送船を入れている。
「なんか、ワイバーンという飛行物体が航空兵力の主役のようです。そのワイバーンも、自分達と
同じように爆弾とかで攻撃してくるから、このような陣形を取って被害を極限しようとしているのかも。」

「多分、そうだろうな。だが、俺たちはワイバーンとは違う。」

レスリー少佐はそう言いながら、船団の上空を見ていた。船団の上空には飛行物体が見えない。
(空母はいないな。だとすりゃ好都合だ。)
そう確信したレスリー少佐は、ついに命令を下した。

「全機に告ぐ。攻撃隊の目標は、目の前の敵輸送船団。繰り返す、目の前の輸送船団だ。
各機攻撃位置に付け!戦闘機隊は敵船団の対空砲火を制圧せよ!」

命令が下ると、護衛のワイルドキャットが攻撃隊から離れ始める。ドーントレスは高度4000まで上昇して行き、デヴァステーター隊は低空に降りていく。
空母レンジャー所属のワイルドキャット隊は、敵船団の右舷側に回りこんで突入を開始した。

「野郎共!思う存分暴れ回れ!」
「「ラジャー!!」」

レンジャー戦闘機隊隊長のマーチン少佐はそう言って、部下達の士気を鼓舞した。
ワイルドキャットは、高度500メートルから、思い思いの目標に向かって突っ込み始めた。
敵の護衛艦が大砲を回し、発砲してきた。マーチン少佐機の下方で砲弾が炸裂し、薄い灰色の煙が沸いた。

「敵は高射砲を撃ってきた!当たらんように注意しろ!」

少佐は部下達に対して注意を促した。
ワイルドキャットは最大速度に近い500キロのスピードで、駆逐艦と思しき軍艦にぐんぐん迫っていく。
距離が1000メートルを切った所で、敵艦がいきなり、カラフルな光弾を撃ってきた。
(機銃弾!?)
マーチン少佐は、まさか敵駆逐艦が機銃を持っているとは思わなかった。その為、彼は度肝を抜かれた。
しかし、慣れていないのか、七色の機銃弾は見当はずれの方向に撃たれている。

「なっとらんな!」

マーチン少佐は吼えるように言った。距離が目測で700メートルまで迫った。

「撃つってのは、こうやるんだ!」

彼は機銃の発射ボタンを押した。ドダダダダダダダ!というリズミカルな音と振動が機体を揺さぶった。
両翼の12.7ミリ機銃4丁が、敵駆逐艦に向けて発射された。
無数の曳光弾が敵駆逐艦に注がれ、周囲の海水が泡立ち、敵艦から白煙が上がる。
機銃を撃ちまくりながら、駆逐艦の上空をフライパスする。
後ろから弾が追いかけてきたが、当たらなかった。
目の前に、巨大な木造の帆船がいる。長さが200メートル近い。

「あれを狙うぞ。」

彼は舌なめずりして呟き、そのまま大型帆船に向けて突っ込む。
距離が徐々に縮まり、輸送船の甲板にいる人影が見えた。
不思議な事に、人影は異様に小さい。小人しかいないようだ。

「人・・・・にしては小さすぎるが、そんな事は後だ。」

再び12.7ミリ機銃を撃った。4本の火箭がミシンを縫うように木造帆船に突き刺さる。
木屑が飛び散り、小人らしき影がばたばたと倒れた。

「俺達からのプレゼントだ。受け取ってくれ!」

彼はそう言って、スイッチを押す。
両翼に設置されていた150ポンド(90キロ)爆弾が離れ、ワイルドキャットの機体が浮き上がった。
輸送船とぶつからぬように、機首を上げて、帆船のマストの上を飛びぬけた。
彼が放った2発の150ポンド爆弾は、輸送船の中央甲板に命中すると、その場で炸裂し、逃げ遅れたゴブリン兵を多数殺傷した。
普通の艦爆が搭載する爆弾よりは遥かに小型で軽量だが、この船の敵兵のみならず、他の輸送船の敵兵達も、この爆発に度肝を抜かれた。
黒煙を吹き上げた輸送船に、さらに別のワイルドキャットがやってきて機銃弾を浴びせる。
遮蔽物に隠れたゴブリン兵が、貫通してきた12.7ミリ弾に撃ち倒された。
機銃弾が梱包された木箱に命中するや、中に入っていた頑丈な盾や槍が叩かれ、大きくひしゃげ、叩き折られる。
そこに2発の小型爆弾が落下し、木箱を木っ端微塵に粉砕した。
左舷側方向の軍艦や輸送船にも、ワイルドキャットが両翼から機銃弾をぶち込み、小型爆弾を放り投げる。
左舷側で2発の小型爆弾を食らった駆逐艦が、後部の命中箇所から大爆発を起こした。
後部にある2つの砲塔のうちの4番砲塔辺りから猛烈に火炎が吹き上げ、艦尾側が木っ端微塵にぶっ飛んだ。
推進力を失った駆逐艦がガクリとうなだれ、停止した。
別の機は、小型のスループ船を狙う。
スループ船の帆に無数の機銃弾が突き刺さって、張られた帆が大きく裂かれていく。
支柱に集中して高速弾をぶち込まれ、やがて耐用限界に達したマストが甲板に倒れ込み、不運な騎士や船員を押し潰した。
ワイルドキャット隊の攻撃は止まらない。

別の小隊は、中央部に陣取る一際でかい木造輸送船に入れ替わり立ち代わり機銃弾を浴びせて行き、
逃げ惑う敵兵や梱包された物資に次々と12.7ミリ機銃弾が降り注ぐ。
部下に早く船内に入るよう促していた将校が唐突に機銃弾によって体を吹き飛ばされ、海面に落下していった。
大砲の火薬の入った樽に機銃弾が命中するや、突然大爆発が起こり、輸送船の甲板の一部が吹き飛んだ。

その輸送船は、導火線に火がついたように瞬く間に燃え広がり、爆発からわずか10分足らずで船そのものが炎の塊と化した。
ワイルドキャットがひとしきり暴れまわった後、敵輸送船団は4隻が炎上し、
6隻が甲板上を穴だらけにされ、兵員におびただしい死傷者をだしてしまった。
護衛艦艇では駆逐艦1隻が大破航行不能に陥り、3隻が砲塔の1、または2つをただの鉄屑に変えられた。
船団の波乱はここから始まった。
いつの間にか、上空に来ていたドーントレス隊が次々と急降下を開始し始めた。
急降下爆撃の先鋒を努めたのは、ヨークタウン隊のレスリー少佐である。
落ちるように突っ込みつつあるドーントレスから、甲高い轟音が発せられ始めた。
ドーントレスの周囲に高射砲弾が炸裂し、破片が機体に当たるが、まるで蚊が刺したなと言わんばかりに、ドーントレス群は急降下を続ける。

「早すぎて照準が!」

護衛艦艇の砲手は、始めて経験する米艦爆の急降下になかなか狙いが付けられない。
マオンド軍が敵対していた国にもワイバーンなどはあり、爆撃を受けた事もあったが、それらはいずれも暖降下爆撃であった。
だが、眼前の未知の飛空挺は、真っ逆さまに急降下を続けている。
傍目から見れば、落ちていくのと変わらない。
それに、高射砲を装備している艦がわずか6隻しかいないため、弾幕はまばらで、薄すぎた。
そのか細い弾幕を突っ切って、ドーントレスは4機1組が一本棒となって目標に突っ込んでいく。
レスリー少佐が狙ったのは、他の輸送船とは少し角張った木造の輸送船だった。
輸送船は左に回頭しようとするが、なめくじが曲がるように遅い。
高度が800メートルを切った所で1000ポンド爆弾を投下した。
解き放たれた爆弾は、角張った輸送船に過たず突き刺さった。
その輸送船は、バフォメットやキメラといった生物兵器を輸送していた船だった。
マオンド軍やシホールアンル軍は、バフォメットやキメラ等のモンスターを生物兵器として数多く運用している。
それらは、捕獲時に埋め込まれた魔法によって、敵味方が分かるようになっている。
マオンド、シホールアンルはこれらを投入して、地上戦で大きな成功を収めていた。
これらが前線に出るや、敵軍は対処に苦労し、一般住民の住む市街地に投入されれば、たちまち死体であふれ返った。

今回の作戦にも、これらの生物兵器はおよそ25000ほど参加する予定だった。
甲板上に突き刺さった1000ポンド爆弾は、第2甲板のバフォメットの檻にまで達し、
不運な一頭のバフォメットが爆弾によって頭を叩き割られた。
その次の瞬間、爆弾が炸裂し、さらに多数のバフォメットが木っ端微塵に吹き飛んだ。
2発目の爆弾はキメラの居住区で炸裂し、ちょっとやそっとで傷つかないはずのキメラの群れが、
至近距離で起きた爆弾の爆発で10頭単位の数が一気に殺される。
3発目は右舷側に至近弾として落下し、高々と水柱を吹き上げる。
水雷防御の為されていない船底に、水中爆発の衝撃波が襲い掛かり、船底にたちまち直径6メートルの大穴を開けた。
トップヘビー気味だった輸送船が右舷に傾き始め、梱包された物資や船内の生物兵器たちが右舷側の壁に叩きつけられた。
4発目の爆弾が前部に命中し、船員室を見るも無残に打ち砕いた後、紅蓮の炎が船員室を席巻した。
木造船だけに、火災が起きれば致命的な二次被害を招いた。
命中箇所で発生した火災が確実に周囲に及び、さほど間を置かずに大火災にへと変貌を遂げる。
船内の生物兵器達が、前線で敵を殺しまくる事も敵わず、次々と焼け死んでいった。
ドーントレスの小隊が急降下、離脱していくと、狙われた船は船体のどこかに爆弾を浴び、爆発を起こす。
爆弾を投下したドーントレスは、それだけでは飽き足らずに輸送船や敵護衛艦に傍若無人な機銃掃射を繰り返した。
甲板で消火活動に当たっていた作業員にドーントレスが機銃弾を見舞ってなぎ倒し、その船の消化班員が激減して、
他の火災現場の消火が疎かになり、結果的に火達磨になる輸送船もあれば、積んでいた火薬が一斉に爆発し、
煙が晴れたら姿が掻き消えた輸送船もある。
駆逐艦の光弾が纏まってドーントレスに注がれ、瞬きした後にはドーントレスの右主翼が吹き飛んでいた。
喝采を叫んだ乗員達だが、そのドーントレスはそのまま目標の輸送船にぶち当たり、大爆発を起こした。
爆弾ごと体当たりをかまされた中型輸送船は急激にスピードを衰えさせ、その船尾に避け損なった輸送船が激突し、
他の船の乗員がその光景を見るなり、思わず目を覆った。
ドーントレス群の攻撃によって、輸送船5隻が爆沈し、4隻がその場にへたり込み、7隻が航行しながらも、火災炎を吹き上げていた。
船団の中には、急降下してくるドーントレスを避けようとして、隣の小型船をひき潰した船もある。
攻撃開始前にみられた整然たる隊形は、ワイルドキャットとドーントレスに荒らし回され、ものの見事に崩れ去っていた。

この光景をマオンドの首脳部が見れば、恐らく目も当てられない光景であったろう。
その断末魔の輸送船団に、新たなる刺客が忍び寄ってきた。
それは、レンジャー、ヨークタウンのデヴァステーター雷撃隊だった。

「ワイルドキャット隊とドーントレス隊は派手に暴れ回ったな。」

レンジャー雷撃隊の隊長機であるウィル・パーキンス少佐は、隊形の崩れた輸送船団を見てそう呟いた。
「いいか、無傷の獲物を狙えよ!敵の船は木造のポンコツ船ばかりだが、魚雷を爆発させんでも船底に穴を開ければ沈む。
訓練どおりにやれ!散開!!」
「「ラジャー!」」

部下達の威勢のいい掛け声が、無線機から流れてきた。
2機1組ずつに分かれたデヴァステーターは、鈍重な機体を巧みに操り、それぞれの目標に向かった。

「あれを狙うぞ!」

パーキンス少佐は、1隻だけ陣形を脱して行く方向とは反対の方角に逃げ去ろうとしている大型輸送帆船を狙った。
全長は200メートルほどありそうな大きな船だ。

「距離4000!」

デヴァステーターの900馬力エンジンが唸り、スピードが300キロ近くにまで上がる。
輸送船は、14ノットほどのスピードでひたすら直進している。

「あいつら、避けようともしない。」
「それなら好都合です。避けなかったらどんな目に合うか、思い知らせてやりましょう!」

後部座席のヘンリー・リッティングトン兵曹長がニヤリと笑みを浮かべた。
パーキンス少佐の後方には、2番機がピッタリくっ付いて来る。

「3000!」

敵船との距離がみるみる縮まる。
いきなり、船の甲板上で閃光が走った。デヴァステーターの前方に水柱が吹き上がる。
狙いがでたらめなのか、見当外れの方向だ。

「あいつら、積んでいた大砲を撃ってきやがった。」

別の大砲が撃ってきたが、これも機体の遥か前方に落下して空しく水柱を上げる。
何度か、甲板上に並べられた大砲をぶっ放してくるが、高度60メートルの低空で這うデヴァステーターに全く当たらない。

「800で投下するぞ!」

敵船は必死の防戦に出てきた。
輸送船の中に魔法使いがいたのか、何人かが並んで光弾らしきものを放ってくる。
機体の周囲にカラフルな光弾や火の玉のような物が飛んで来たが、不思議と当たらない。

「800!」

目測で距離800に達した時、パーキンス少佐は敵船の未来位置を狙って魚雷を投下した。

「ささやかな土産だ。たんと味わってくれ!」

彼はそう叫ぶと、機首の7.7ミリ機銃をぶっ放した。

輸送船の船体に曳光弾がミシンを縫うように着弾する。

「魚雷、走っています!」

リッティングトン兵曹が報告してくる。
デヴァステーターは船尾を通り抜けた。後部座席から機銃の発射音が聞こえた。
輸送船はそのまま直進を続けているが、その船腹に真っ白い航跡が吸い込まれた、と思われた直後、
Mk13魚雷は船腹を突き破って船内で爆発した。
いきなりマストよりも高い水柱が吹き上がった。
初めて食らう魚雷の衝撃に、船が大きく右舷側に仰け反った。
追い打ちとばかりに2番機の魚雷が船首に突き刺さり、1本目とほぼ同じ水柱が立ち上がった。
輸送船には、マオンド共和国軍第478歩兵師団の第3連隊と物資が載っていた。
第3連隊長であるウリ・ベイリピ大佐は、甲板に係留してあった大砲を引っ張り出して、向かって来る飛空挺を撃ち落せと命じた。
左舷側に6門の大砲が並べられ、満を持して放たれたが、1発も命中しなかった。

「馬鹿者共が!貴様らはめくらか!?」

ベイリピ大佐は、あまりにも悪い命中率に顔を真っ赤にして怒鳴った。
元々陸上で使う物であり、おまけに砲をろくに固定していない。
そのため、常に揺れのある船上で使ってなかなか当たるものではない。

「近くに来たら、魔道師達はダガーやフレアを放て!」

彼は連隊に所属している魔道兵にも迎撃を命じたが、この魔道兵達による攻撃も、デヴァステーターには当たらなかった。
ベイリピ大佐の怒声が魔道師達に向けられようとした時、いきなり飛空挺が爆弾を海中に投げ落とした。
1番機が爆弾を落とすと、しばらくして2番機までもが爆弾を投棄した。

「おい、何であいつらはいきなり爆弾を捨てたんだ?」

連隊長は側の副官に聞いたが、誰もが米機の意図が分からなかった。
彼らは、2機の飛空挺が低空飛行で爆弾を叩きつけてくると思ったのだが、
船に近付く前にあっさり爆弾を捨てたので拍子抜けした。

「大砲や魔法攻撃に恐れをなしたのかな。」

彼は納得が行かないと行かなかった。飛空挺が機首から光弾のようなものをばら撒いてきた。
船体にバリバリと音が鳴り、機銃弾が突き刺さった。2番機の機銃弾は甲板にも向かってきた。

「伏せろ!」

誰かの声が響いて、甲板上にいた大砲の操作要員や魔道師が伏せる。
甲板上や大砲に機銃弾が突き刺さって破片を吹き上げる。
運の悪い兵が銃弾の餌食になり、ひとしきり悲鳴を上げてのた打ち回ると、いきなり動きを止めた。

「何かが向かって来まーす!」

その声が聞こえた瞬間、ベイリピ大佐は舷側に寄って海面を見た。
白い航跡が船に接触した、と思った瞬間、ガンという何かが突き刺さる衝撃が伝わった。

「な、何だ?」

誰もが首を捻った刹那、ズドーン!という物凄い衝撃と、小山のような水柱が吹き上がった。
左舷中央部にそびえ立った水柱は、マストよりも高く上がり、衝撃によって10人以上の兵が海に投げ出される。
恐怖を感じる暇も無く、2本目の水柱が船の前部舷側に立ち上がった。

あまりの衝撃に、大型の輸送帆船は海面から飛び上がったと誰もが確信した。
水柱が崩れ落ちると、船は左舷側へ傾斜し始める。傾斜のスピードはかなり早い。
この船には、ベイリピ大佐の連隊の他に、船内にストーンゴーレムが満載されていた。
その数、なんと2000体。
そのゴーレム2000体は、魚雷爆発の衝撃で傾いた左舷側にのしかかり、傾くスピードを余計に速める結果となった。
パニックに陥った乗員達は、我先に海に飛び込み始める。
乗員や兵達が飛び込んでいる間にも、デヴァステーター隊の餌食になる船が続出する。
マオンド側も反撃してきた。
護衛駆逐艦が輸送船とデヴァステーターの間に割り込んで、魔道銃や高射砲弾を狂ったように撃ちあげる。
1機のデヴァステーターが光弾をしこたま食らい、海面に墜落して砕け散った。
護衛駆逐艦の乗員が喝采を叫ぶが、別のデヴァステーターが駆逐艦に向けて魚雷を投下した。
至近距離で投下されたMk13魚雷は駆逐艦に向かっていく。艦長の咄嗟の判断で、駆逐艦は左舷に急回頭するが、遅かった。
艦首部分に魚雷が突き刺さり、大水柱が立ち上がる。
魚雷の爆発で艦首が食いちぎられ、本体部分が前のめりになる状態でずぶずぶと沈み始めた。
別の輸送船は、迫り来るデヴァステーターの攻撃から逃れようと急に回頭するが、別の船と激突して動きが止まってしまった。
大鋸帆船同士の激突は、乗っていた兵員や乗員達に夥しい死傷者を出したが、
迫って来たデヴァステーター2機は、この哀れな輸送船に遠慮介錯なく魚雷をぶち込んだ。
1発目が激突したほうに、2発目が不運にも激突された輸送船に叩き込まれ、100メートル以上の水柱を吹き上げる。
その次の瞬間、激突したほうの輸送船が突如大爆発を起こした。
船倉内に収容されていた火薬が、突入してきた魚雷の爆発によって誘爆を引き起こしたのだ。
不運にも、激突された輸送船も船尾部分を共に吹き飛ばされて、船のサイズを強引に縮小させられてしまった。
もはや、船団は爆弾によって猛火を上げる船、操舵不能に陥って海面をのた打ち回る駆逐艦、被雷して沈み行く船と、
さながら船の沈み方、壊れ方の見本市と化していた。

攻撃隊指揮官のレスリー少佐は、敵の第1船団を見つめていた。
今や隊形はばらばらになり、被害を受けて停止している船や今沈みつつある船が多数見受けられた。

「攻撃隊より母艦へ、攻撃成功。戦果は輸送船13隻、駆逐艦3隻撃沈確実。輸送船8隻、駆逐艦1隻大破。
輸送船10隻、巡洋艦1隻、駆逐艦1隻に損傷を与えた。我が方の損害はSBD2、TBD3機を喪失、以上。」

第1船団は、輸送船60隻、護衛艦18隻で編成されていたが、第1次攻撃だけで半数近くの船が被害を受けたのだ。

「隊長、デヴァステーター隊の奴ら、もういませんね。」
「あいつら、航続距離がいまいち足らないからな。早めに母艦のほうに向かったんだろう。」

レスリー少佐は後部座席の部下にそう伝えた。
「本当なら、第1次攻撃にはドーントレスとワイルドキャットのみで出す予定だったんだが、
デヴァステーター隊も出した方が敵に与える被害は大きくなるからと言われて、結局出す事になったんだ。
今頃、母艦も28ノットのスピードで、敵船団の方角に向かってるよ。」
「なるほど。母艦群も敵の方向に向かえば、その分距離は縮まりますからね。」
「そうしないと、貴重な雷撃機が海没するからな。
それにしても、1波や2波の攻撃だけじゃあ、この輸送船団を壊滅できんなぁ。」

レスリー少佐は顔をしかめたが、後は第2次攻撃隊に任せるだけである。

午後7時30分

夕闇に包まれたはずの海であったが、海はまだ明るさを少しばかり保っていた。
明るさを保っているとは、それでは太陽がまだ出ているのか?と聞く者もいるだろう。
確かに海面は明るかった。それは自然の明るさではなく、作られた明るさだった。
海の所々が、オレンジ色の篝火に照らされている。そのどれもが、自らを松明に変えていた。
第3梯団に属していた駆逐艦のイッグレでは、重苦しい敗北感に包まれていた。

「やはり、敵は待っていたんだな。」

彼は今日の出来事を思い出した。
内心では思い出したくなかったが、思い出したいという感情の方が勝った。
悪夢の始まりは、第1梯団の上空に現れた無数の飛空挺だった。
優に70以上はいる飛空挺は、猛然と第1梯団に襲い掛かり、思う存分暴れまわった。
敵の飛空挺集団が過ぎ去り、しばらくは来ないだろうと思ったが、30分後に第2次攻撃隊の68機が第2梯団に現れた。
第3梯団にはそれから4時間後の午後3時、またしても敵飛空挺集団がやってきた。
敵部隊は、第1、第2梯団には目もくれず、第3梯団に襲い掛かった。
74機の第3次攻撃隊は、訓練でも行うかのように、輸送船を片っ端から襲い、次々と撃沈した。
護衛艦艇も奮戦した。
しかし、高射砲や魔道銃を持つ護衛艦は船団の中で4隻のみであったため、弾幕は薄く、
最終的に2機の飛空挺を撃ち落しただけに留まった。
第3梯団は輸送船57隻、護衛艦16隻で編成されていたが、この攻撃で輸送船11隻が撃沈され、7隻が航行不能。
4隻が大破し、9隻が損傷を受けた。
護衛艦艇も巡洋艦1隻と駆逐艦1隻を撃沈されている。
敵はそれだけでは飽き足らず、さらに4回目の空襲が、第1梯団に行われた。
半分強しか満足に航行できる船が残っていなかった第1梯団は、この空襲で壊滅的打撃を受けてしまった。
米機動部隊は実に4波もの空襲を仕掛け、戦果は輸送船43隻、護衛艦6隻を撃沈し、輸送船47隻を脱落させ、20隻に損傷を与えたのである。
第1、第2、第3梯団合計226隻中、実に100隻以上の船が、空襲だけで被害を受けたのだ。
まさに悪夢としか言いようが無かった。

だが、悪夢はまだ終わりではなかった。
午後6時40分。アメリカ本土侵軍司令官が、再度進撃を強行する、と決断した時、第3梯団の輸送船に突然水柱が立ち上がった。
3つの水柱が上がり、大型の輸送船があっという間に転覆した。
これを皮切りに、2隻の駆逐艦と5隻の輸送船に水柱が立ち上がり、その内駆逐艦1隻と輸送船3隻が瞬く間に轟沈し、残りはただの漂流物と成り果てた。
それから30分後、新たに8隻の輸送船と護衛艦が被雷してしまった。

この突然の悲劇を引き起こしたのは、味方潜水艦の報告を受けて待ち伏せしていた、第31任務部隊であった。
魚雷は面白いように命中し、結果的に第3梯団も壊滅同然の損害を被ってしまった。

「・・・・・想定以上の大損害じゃないか・・・・・・」

艦長のルロンギ少佐は、出港前の作戦会議を思い出していた。
当初の予定では、行程の半分を過ぎた時に、35隻以上の輸送船が撃沈されなければ作戦は中止しないと伝えられていた。
行程の3分の1を過ぎた時には40隻を失い、20隻の船が損傷すると伝えられ、彼はこの侵攻作戦は多大な犠牲が出るなと思っていた。
だが、被害はその数を大きく上回ってしまった。
行程を少し過ぎた時点で60隻以上を撃ち沈められたのだ。
この調子では、敵国の血を見る前に、文字通り全滅するであろう。

「俺たちの・・・・・負けだな。」

ルロンギ艦長の声音は、酷くかすれていた。

マオンド軍の侵攻船団は、急遽反転し、レーフェイル大陸に向かったが、その向かう途中にも米潜水艦は待機しており、
少なくない数の船が魚雷や砲撃の餌食となった。
最終的に、マオンド軍は84隻の輸送船、護衛艦艇を失い、侵攻軍8万7千のうち、実に3万の将兵、
バフォメットやキメラといった生物兵器の大半、そして膨大な物資が海の藻屑と化した。

アメリカ大西洋艦隊の損害は、潜水艦トリトンと、F4F2機、SBD7機、TBD17機を失ったのみだった。
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