自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

072 第63話 疾風のハイライダー

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第63話 疾風のハイライダー

1483年(1943年)5月25日 午後11時セミソポクノイ島北西230マイル沖

北太平洋部隊所属の第68任務部隊に配備されている16隻の潜水艦は、キスカ、アムチトカ、セミソポクイ島の
周辺に3~4隻ずつに分かれて、いつ来るかも知れぬシホールアンル竜母部隊に備えていた。
TF68に所属する潜水艦部隊のうち、セミソポクイ島近海に網を張る4隻のガトー級潜水艦は、互いに30マイル
ほどの距離を置いて周辺海域の監視に当たっていた。
その中の1隻、SS-221ブラックフィッシュは、夜間の浮上航行を行いながら、艦内の空気を入れ替えていた。
ブラックフィッシュ艦長である、シオン・レイバック中佐は、哨戒長や見張りの水兵と共に、夜間の海を見張っていた。
5月下旬とはいえ、北の海であるアリューシャンの気温は低い。
レイバック艦長を始めとする見張り員達は、皆が厚手のコートや冬服に身を包み、中には体を動かしながら艦の周囲を見張る水兵もいた。

「レーダー員、感度はどうか?」

レイバック艦長は、電話でレーダー員を呼び出した。

「感度良好。今の所異常無しですよ。」

相手の誇らしげな口調がレイバック艦長の耳に伝わった。
ブラックフィッシュのレーダーは、2日前から調子が悪くなっていた。
レーダー員は、レーダーを2日掛かりで修理して、今こうして動作状況を調べている。
どうやら、ブラックフィッシュのレーダーは復活したようだ。

「よし、ご苦労だった。帰港したら貴様らに酒をおごってやる。」
「ありがとうございます艦長。楽しみにしておきますよ。」

それで、レーダー員との会話は終わった。

「しかし、寒い物だな。本国じゃぽかぽかと暖かいのに、アリューシャンはこの季節でも真冬同然だ。」
「それは仕方ないでしょう。」

哨戒長である日系人士官、シキ・トラダ少尉が苦笑しながら言った。

「アリューシャンの位置は高緯度ですからね。高緯度や低緯度の地域は1年の殆どが同じ季節です。」
「それは知ってるよ。しかしなあ、カリフォルニアで生まれ育った俺にはなかなか合いにくいよ。」

レイバック艦長はそう言いながら、体をさすった。
誰もが寒さに耐えながら見張りをしている中、彼自身、先ほどから足踏みをして寒さを紛らわせようとしていた。

「しかし、味方側勢力下で哨戒活動をやるハメになるとは。ウラナスカ沖まで出張って来たシホット共も侮れん奴らだ。」

レイバック艦長はそうぼやきながら、23日の出来事を思い出していた。
彼のブラックフィッシュは、ダッチハーバーが空襲を受けた時はアムチトカ島の港で休息を取っていた。
乗員達が艦内でのんびりしている時に、突如、ダッチハーバー空襲の凶報が舞い込んできた。
空襲後にTF68司令部から発せられた命令に従って、ブラックフィッシュは僚艦と共にこの海域に進出した。
進出してから丸1日近く経ったが、ブラックフィッシュを始めとする散開線の潜水艦は、未だに敵の機動部隊を見つけていない。

「いつになったら来ますかね?」
「さあ。しかしな、本当に敵は来ると思うか?」

レイバック艦長は、質問して来たトラダ少尉に向けて逆に聞き返す。

「来るかもしれません。敵の狙いは、このアリューシャンに駐屯するわが合衆国軍を叩いて、この方面の防備を
わざと厚くさせる事でしょう。」
「アリューシャンの防備が厚くなれば、その分、南大陸やレーフェイルに回す兵力が薄くなるからな。確かに、
シホット共の考えはそこにあるだろう。だがな、俺としては微妙だな。」
「え?何が微妙なのです?」

「敵が新たな攻撃を行う可能性についてだ。上層部は、シホット共がウラナスカ以西のどこかを襲うと見ている
ようだが、果たしてそうなるのかね?」

レイバック艦長はそう言った後、首を横に振った。

「俺としてはそうは思えない。確かに、敵はダッチハーバーを火達磨にしたが、アリューシャン列島の各島には
まだ大多数の航空機や、俺達潜水艦部隊が残っている。それらは、ダッチハーバーを燃やした自分達を血眼で
探し回っている。そんな中に飛び込んで来る馬鹿がいると思うか?」
「まあ・・・・しかし、常識でならさっさと引き上げるでしょうが、もし、あの敵将だったらやりかねませんよ。
あの竜母使いはこれまでに、我々合衆国海軍を苦しめてきましたからね。」
「あのシホットガールか。あんな高校生みたいな女に苦しめられるとは、合衆国海軍も落ちた物だ。」
「ちゃんとリリスティ・モルクンレルという名前がありますよ。」
「シホットガールで充分だよ。」

レイバック艦長は鼻を鳴らして、そう言った。
アメリカの機動部隊相手に、五分に近い戦いを繰り広げてきたシホールアンル機動部隊の敵将は、最初全く
知られていなかった。
そのため、敵機動部隊の指揮官はハルゼーみたいな猛将タイプか、それよりも激しい気性の性格の持ち主か、
またはスプルーアンスのような思慮深い人物か・・・・・
ともかく、誰1人として相手が女とは思っていなかった。
ところが、ビッグEに居付いているラウスとかいう魔法使いが描いた似顔絵が、たまたま海軍の広報関係者に見つかった。
その広報関係者は、どこぞの誰かが書いた漫画の女の子だろうと思ったが、ハルゼー中将が、

「そいつが我が機動部隊に挑んできた、勇敢な“鬼提督”だよ。」

と言ったことからその広報関係者は仰天した。そして、彼がこの絵を海軍広報に載せたいと頼み込むと、ハルゼーは了承した。
そして1月の海軍広報に、「これが、敵機動部隊の指揮官だ!」という大見出しでリリスティの似顔絵が公開された。
この海軍広報は、リリスティの似顔絵の他に、今では語り草となった第2次バゼット半島沖海戦時(主にリルネ岬沖海戦)
の写真が多数載せられた。

意外な敵将の姿に、アメリカ海軍の将兵は度肝を抜かれた。
鬼の猛将と恐れていたはずの敵将が、似顔絵とはいえ、実際にはまだあどけなさを残す若い女性だったのだ。
驚くなと言う方が無理であった。
だが、アメリカ海軍の将兵はリリスティに「シホットガール」、又は「プリンセスリリスティ」と呼んでこの
若い女性提督を敵視し、そして尊敬した。
中には、リリスティに対してファンクラブを作るという馬鹿げた将校や水兵達も出る始末であり、彼女は、
アメリカ海軍にとって良きライバルとして広く知れ渡っている。
特にエセックス級空母やインディペンデンス級軽空母の艦長達は、

「是非、プリンセスリリスティの機動部隊と一戦交えたい物だ。」

と言って対決の時を待っていると言う。

「まあ、シホットガールも、貴重な竜母をいつまでも敵地に留めて置く訳にはいかないと思うだろう。シホール
アンルは去年だけで戦力を失いすぎた。特に10月の大海戦で、我が合衆国海軍も手酷い被害を受けたが、
奴さんは主力艦だけで竜母4隻に戦艦3隻、他も含めたら少なくない数の艦船、兵員を失っている。
今、貴重な竜母でダッチハーバーを壊滅させた上に、更に危険を押して攻撃を仕掛けるのは、あり得ないだろう。」

レイバック艦長はそう断言した。
だが、それから20分後、彼の言葉を覆す物が、ブラックフィッシュのレーダーに捉えられた。

「艦長!水上レーダーに不審な物が映りました!」

突然、電話口からレーダー員の裏返った声音が聞こえて来た。

「どうした、落ち着いて報告しろ。」

レイバック艦長は顔をしかめながら、相手に注意した。

「すいません。実は、水上レーダーに先ほどから不審な物が映っているのです。」
「方角は?」
「方角は北北東、方位47度です。距離は8マイルほどです。」
「8マイルか。臭いな。」

レイバック艦長はそう言いながら、トラダ少尉に顔を向けた。

「どうやら、君の言うとおりになったようだ。」
「まさか艦長・・・・・」
「そう、そのまさかだ。」

彼はそう言うと、トラダ少尉の肩を叩いた。

「TF36は既にアムチトカとキスカの間で待機している。本国から急行中の護送船団はウラナスカに向かっている。
キスカに向かっている艦隊は、合衆国海軍には存在しない。」

彼はそう言うと、甲板上で見張りに付いている水兵達に指示を飛ばした。

「これより潜行する!見張り員は至急艦内に入れ!」

彼の言葉を聞いた見張り員達は、慌てて艦橋に上がって、開けられたハッチの中に入って行った。
トラダ少尉が中に入った時、最後にレイバック艦長が入り込んで来た。

「ふう、これでうすら寒い外に立たんで済むな。」

彼はどこか嬉しげなそう言った後、ハッチを閉めた。

5月26日 午前5時 アムチトカ島

アムチトカ島駐留の海兵隊航空隊の偵察機が、洋上偵察のために飛行場を発進していく中、アルバ・パイル中尉は、
相棒のハワード・バージニア兵曹と共にアムチトカ島航空隊司令部に乗り込もうとしていた。
ちょうど、司令部の外に出て、偵察機の発進をみつめていたジョン・マレー大佐にパイル中尉らはかけよった。

「司令!お願いがあります!」

マレー大佐は、突然駆け寄った2人にやや驚いた。

「お願い?何のお願いだ?」

マレー大佐は怪訝な表情で、2人のパイロットに問うた。

「はい。私達も、偵察行に参加させてください!」
「いや、それは駄目だ。」

マレー大佐は即座に断った。

「君達は確かに、海軍航空隊のパイロットだが、君達の乗っている飛行機は、まだ量産機でない貴重な新鋭機だ。
その新鋭機を、むざむざ失う訳には行かない。」
「司令の言う事はごもっともです。しかし、従来の索敵機には無い能力を、ハイライダーは持っています。
それに、ハイライダーはこのアムチトカでの試験飛行を基に、いつ量産機が出来上がるのかが決まります。
つまり、このハイライダーも使えば、実戦でのデータを早く取る事が出来、ハイライダーの量産が早くなる
可能性があります。そうなれば、実戦配備は早く進みます。」
「しかしなあ・・・・・・」

マレー大佐は思い悩んだ。
アムチトカ島には現在、ダッチハーバー空襲前に移動してきた、陸軍航空隊のB-26爆撃機12機に、元々島に
いる海兵隊航空隊のVMF-234のF4F28機。

VMB-282のSBD30機にVMT-343のアベンジャー30機。
それに陸軍第7航空軍に属している第93戦闘航空師団所属第14戦闘航空郡のP-3824機。
この他にカタリナ飛行艇18機が駐留し、そのうちの8機が、ドーントレスやアベンジャーと共に索敵に向かっていた。
そこにハイライダーも索敵に加えようと言うのだ。
マレー大佐は思い悩んだが、2人の熱意に打たれて出撃を許可した。

「よろしい。ならば君達にも飛んでもらおう。チャートを持って来てくれ。」

マレー大佐はそう言うと、司令部の中に入って行った。

それから1時間後。ハイライダーは、アムチトカから北北東の方角を、時速250マイルのスピードで飛行していた。
天候は晴れだが、洋上には、所々雲がかかっており、索敵行にはやや不向きな天候だ。

「とりあえず、700マイルまで進出しろとは言われたが、天候がこれではちと微妙だな。」
「レーダーがあれば、幾分楽になるんですけどね。」
「航空機搭載用のレーダーが回って来るのはまだ先だよ。今は、俺達の目で、この海域を探すしかないさ。」

パイル中尉はそう言いながら、回りの海を見渡した。
雲の切れ目には、海が広がっている。
アリューシャン海は、南洋と違って色は鮮やかな青ではなく、黒に近い青である。
夏になれば海の色も少し変わるが、まだ冬のこの時期はずっとこのような感じだ。

「しかし、あいつら驚いていたなあ。あそこまで驚かれると、何か悪い事をしたような気がするぜ。」

パイル中尉は苦笑しながらそう言った。

「まだ出来たての新鋭機で、いきなり偵察に言って来ると言われれば誰でも驚くでしょう。しかし、
ミレルティの剣幕は凄かったですね。」
「ああ。機体を壊したら殺してやるとまで言われたよ。全く、女というものは恐ろしくてたまらん。」

「でも、敵に見つかる可能性は、必ずしもあるとは限りませんよ。索敵に出てきたとはいえ、もしかしたら、
敵さんはさっさと逃げていった、という事もあり得ますから、自分達が索敵行に参加したのも、ただのテスト飛行
にしかなりませんよ。」
「思うのもアレだが、どうせなら、俺達が敵の艦隊を見つけたいな。そうすれば、ハイライダーの真価を発揮できる。」
「そうなるといいですが・・・・・」

それっきり、2人は黙って見張りを続けた。
シホールアンル機動部隊が、セミソポクノイ島の近海で味方潜水艦に発見されたのは、昨日の午後11時50分頃である。
潜水艦のブラックフィッシュから発せられたこの報告に、アリューシャン列島のアメリカ軍部隊は直ちに索敵機の発進準備を進めた。
それと同時に、アムチトカ島の西側海域で待機していた第36任務部隊は、急遽、全速力で北上し、今や予定地点に到達しつつあった。

その頃、第24竜母機動艦隊は、キスカ島の北東400マイルの海域を10リンルのスピードで航行していた。

「司令官、あと3時間でワイバーン発信地点に到達します。」
「わかった。それよりも、索敵ワイバーンは何騎出すの?」
「第1部隊から9騎、第2部隊から8騎を出す予定です。」
「そう。」

リリスティは、首席参謀に無表情で答えた。
彼女は、ダッチハーバー空襲後に、キスカをワイバーンで襲撃してから、本国に戻る事を決めた。
アメリカ領であるアリューシャンの根拠地を奇襲する作戦は成功を収めた。
後は、他の島に散在するアメリカ軍基地か、飛行場を叩き潰してアメリカ側の混乱を煽るだけである。
だが、彼女は数日前から滅多に笑わなくなっていた。
首席参謀は、彼女が笑わなくなった原因を知っている。

「アメリカの空母部隊は、どこに隠れているのか?」

リリスティは、やや顔をしかめながらそう呟いた。彼女が神経質になる原因はそれだった。

ダッチハーバー空襲2日前に、大型空母、小型空母1隻ずつを伴う敵機動部隊が西に向けて出港したとの情報が、
ダッチハーバーを監視していたレンフェラルという海洋生物から届いた。
それ以来、この未知の米空母部隊はどこかに消えてしまっていた。
戦力は僅か2隻のみの敵空母部隊だが、この2隻のみが、リリスティにとって最も気になる相手だった。
2隻のうち、1隻は、アメリカが前線に投入しつつあるエセックス級の大型空母である可能性が高く、全体の搭載機数は、
小型も含めて130~140機以上に上ると予想されている。
それに対して、リリスティの機動部隊は、未だに400騎近いワイバーンを有しており、正面から戦えば、米空母部隊は
たちまち全滅するだろう。
しかし、寡兵とはいえ、侮れぬ戦力を有した機動部隊が、リリスティ達の目に触れずにこの近海をうろつき回っているのだ。
もし、発艦準備中に不意打ちされたら、目も当てられぬ結果を招く事になる。
そうなる前に、敵機動部隊の位置を掴む必要があった。
リリスティは空を見てみた。艦隊の上空には、所々雲がかかっており、ちょうど偵察機からはやや見えにくい位置にいる。

「このまま、何事もなければいいけど・・・・・」

ふと、彼女はそう呟いていた。

「大丈夫です。艦隊の上空には、常時10機以上の戦闘ワイバーンを飛ばしております。敵の偵察機が来れば、即座に
発見して叩き落すでしょう。」
「それもそうね。ワイバーンより鈍足な偵察機は、雲に逃げ込まない限り追っ手から逃げ切れない。」

(いや、雲に逃げても、ワイバーンからは逃げられないわね。)
リリスティはそう思うと、不敵な笑みをこぼした。
対空哨戒に当たっている戦闘ワイバーンの御者は、生命反応探知魔法が使える竜騎士を中心である。
とくに、対空哨戒を任される竜騎士にはその魔法が得意である者が多く、例え敵の偵察機が雲に逃げ込んでも、
その生命反応を頼りに追い回す事が出来る。
これは、前回の海戦で得た教訓を基にした対処法である。これによって、やって来るアメリカ軍偵察機を片っ端から
叩き落すつもりだった。
そして1時間後、最初の獲物が、不用意にも艦隊の至近に迫って来た。

「哨戒ワイバーン7番騎より、我敵偵察機発見との事です。」
「すぐに撃ち落しなさい。鈍足の偵察機など、ワイバーンの敵ではないわ。」

リリスティはそう言いながら、内心では舌打ちしていた。
(もう見つかったの・・・・相変わらず、アメリカ軍の索敵能力は侮れない。恐らく、電波を発信されてるかもしれない。でも、見つけた相手にはしっかり義理を果たさないと)
彼女はそう思いながら、7番騎の報告を待った。

「8、9番騎も同じ敵偵察機を追撃し始めました。あっ、そこです。」

首席参謀が上空を指差した。リリスティは、持っていた望遠鏡で指差した方向を見る。
1500グレルほどの高度に、1機の偵察機が逃げ回っている。
その後方に3騎のワイバーンが喰らいつき、敵を追い回していた。

「敵偵察機の撃墜も、間も無くですな。」

首席参謀が自信たっぷりで言った。偵察機は、どうしてかワイバーンを引き離しつつあった。
そして偵察機が雲に逃げ込み、ワイバーン達も遅れて雲に飛び込んで、小癪な偵察機を落としに行く。

「なかなか偵察機もやるわね。」
「恐らく、あの偵察機には手錬が乗っているのでしょう。とは言っても、彼らの命もあと少しですが。」

しかし3分後、戦闘ワイバーンから耳を疑うような報告が飛び込んで来た。


「機長!敵の機動部隊です!」

唐突に、後部座席のバージニア兵曹が大声で報告して来た。

「何!?敵だと!?」

「はい!右前方です!」

パイル中尉は、視線を右前方遠くの洋上に向けた。そこには、堂々たる輪形陣を組んだ敵機動部隊が航行していた。

「凄い、シホット共の船だ!真ん中に空母らしきものが何隻かいるぞ。」
「機長、すぐ下方にも敵の機動部隊がいます!」
「・・・・本当だ。畜生、シホット共は大艦隊で攻めて来たぞ!空母らしきものが・・・・4隻もいやがる!」

パイル中尉は興奮したような口調でそう言った。まさか、彼らは本当に敵を見つけるとは思わなかった。
彼らは、恐らくカタリナ飛行艇か、海兵隊航空隊の索敵機が先に見つけるだろうと思っていた。
しかし、彼らは見つけた。それも、いの一番に。

「報告だ!すぐに送れ!」
「分かりました!」

バージニア兵曹はすぐに通信文を作成し、それを味方部隊に伝えはじめた。
その作業も半ばに達した時に、彼らの後方に出会いたくない相手が現れた。

「あっ!機長、後方に敵機です!1、いや、あと2騎ほどが近付きつつあります!」
「ようし、分かった!飛ばすぞ!!」

パイル中尉はすぐにスロットルを開き、機体の速度を上げた。
それまで、巡航速度で飛行していた機体がぐんと加速し、機首のR2800-10空冷2000馬力エンジンが
待ってましたと言わんばかりに猛り狂う。
敵機動部隊の輪形陣の左側上空を斜め下に駆け抜け、雲に逃げ込んだ。
1分ほど経って雲から飛び出した。その時には、ハイライダーの速度は最高速度に近い650キロにまで上がっていた。
雲から飛び出してから10秒ほど経って、3騎のワイバーンが雲から出て追撃してきたが、ワイバーンの姿は既に
小さくなっていた。ワイバーンとの距離は開きつつある。

「機長、送信終わりました!」
「ようし。ひとまずは任務を果たしたな。敵はどうだ?」

バージニア兵曹は首を後ろにひねって、追撃して来るワイバーンを見つめた。
3騎のワイバーンは、既に豆粒ほどの大きさになっており、その3つの豆粒が引き返していくのが見えた。

「敵は引き返しました。凄いですよ、あのワイバーンをあっという間に引き離しましたよ!」
「ほう、そうか。流石は最速の偵察機だ。」

このとき、パイル中尉はとある言葉を思い付いた。

「バージニア兵曹、追加文を送れ。」
「追加文ですか。どんなのです?」
「われに追い付くワイバーンなし、だ!」

パイル中尉はそう言うと、愉快そうに高笑いを上げた。


5月26日 午前7時20分 アムチトカ島北西沖200マイル沖
キスカと、アムチトカの間に入るように展開した第36任務部隊は、午前7時20分、アムチトカ島駐留の
偵察機からの報告を傍受していた。
TF36旗艦である空母フランクリンの艦橋上で、司令官であるフレデリック・シャーマン少将は、通信将校が
言う通信文の内容を聞いていた。

「アムチトカ島北方480マイル、方位360度付近に敵の大機動部隊を発見せり、敵は竜母5ないし6、戦艦2、
巡洋艦、駆逐艦多数を含む。敵の進行速度は20ノット、進路は西、上空に戦闘ワイバーン多数を配置しているとの事です。」
「アムチトカから480マイルとすると・・・・我が機動部隊からは北東280マイルの位置にありますな。」

航空参謀がシャーマン少将に進言する。

「とすると、我が艦攻、艦爆の航続距離内に充分入ります。司令官、ここは待機させている攻撃隊を発艦させるべきでは?」

TF36は、既に攻撃隊を用意していた。
空母フランクリンは、搭載機数110機のうち、F6Fが60機、SBDが26機、TBFが24機となっている。
軽空母プリンストンはF6F24機にTBF21機を搭載している。
攻撃隊の内訳は、フランクリンからF6F24機、SBD18機、TBF18機。
プリンストンからF6F12機、TBF12機の計84機が、攻撃隊の陣容である。
航空参謀は、敵の機動部隊を先に叩き潰そうと言うのである。
だが、シャーマン少将は首を盾に振らなかった。

「いや、攻撃隊はまだ出さない。」
「し、司令官!」

航空参謀は声を荒げてシャーマン少将に翻意を促そうとした。
だが、次の言葉が出る前に、シャーマンは口を開いた。

「フランクリン、プリンストンのパイロット達を、ヴィルフレイングの精鋭達と一緒にしてはいかん。確かに、
航空隊の錬度は大幅に向上したが、パイロットの多くは実戦を経験していない新兵だ。その彼らには、この距離から
発艦させて敵を攻撃させても、機位を見失う者がいるかもしれん。彼らをそうさせぬためには、せめて250マイルか、
230マイル付近にまで近付いて攻撃隊を発艦させるしかない。」
「し、しかし。我が方も見つかってしまえば、敵機動部隊から攻撃隊が殺到してきます。そうなれば、TF36にも
多大な危険が及びます!」
「それでも構わない。敵が俺達に攻撃隊を差し向けるのなら、尚好都合だ。アムチトカからの攻撃隊と共同して、
防備の薄くなった敵機動部隊に攻撃を仕掛けられる。万が一、フランクリンやプリンストンが沈んでも、我が合衆国には
いくらでも予備がある。ここで敵の主力艦が1隻でも多く沈めれば、その分、後が楽になるよ。」

シャーマン少将は、恐ろしい事をさらりと言ってのけたが、幕僚達はシャーマンの熱い決意に呑まれてしまった。

「さあ、後は敵機動部隊に向けて突進するだけだ。」

シャーマン少将は意気込んだ口調で言うと、艦隊速力を再び30ノットにし、艦隊の進路を北東に向けた。

ここにして、アムチトカ島沖海戦の火蓋は切って落とされた。
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