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073 第64話 アムチトカ島沖海戦(前編)

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第64話 アムチトカ島沖海戦(前編)

1483年(1943年)5月26日 午前10時30分 アムチトカ島北北西480マイル沖

第24竜母機動艦隊第2部隊の旗艦である、竜母ホロウレイグの艦上で、艦長のクリンレ・エルファルフ大佐は、
望遠鏡から目を離して、第2部隊司令官のワルジ・ムク少将に向き直った。
彼が今見ていた空には、アメリカ軍機と思しき偵察機が、黒煙を噴出しながら海に墜落しようとしていた。

「また敵偵察機撃墜です。これで3機目ですね。」
「最初こそ、敵さんに驚かされたが、流石はベテランのワイバーン乗り達だ。アメリカの蚊トンボ共を次々と落としているな。」

ムク少将は、無表情でそう言った。
一番最初に現れた偵察機は、第24竜母機動艦隊の将兵を驚かせた。
通常、アメリカ軍の偵察機は、ほとんどがカタリナか、海軍機であるドーントレスかアベンジャーだ。
撃墜された3機のうち、2機はカタリナで、1機はアベンジャーだ。
だが、取り逃がした偵察機は、艦隊に接触した後、とんでもない速さで逃げて行った。
偵察機の速度は、少なめに見ても300レリンクは出ていた可能性があり、艦隊将兵の内心にかなりの衝撃を与えていた。
その後は、リリスティの目論見通り、飛来偵察機を次々と叩き落していた。

「ですが、我が艦隊の上空に現れたアメリカ軍偵察機はこれで4機目です。これはかなりまずいのではないですか?」

クリンレは、緊張した面持ちでムク少将に言った。ムク少将はその言葉に深く頷いた。

「まずい状況だよ。ウラナスカ島空襲は成功したが、やはりアリューシャンはアメリカ本土の一部だ。朝から次々に
やって来る偵察機の数からして、この辺りの防御は相当固いと見た。恐らく、我が機動部隊の位置は敵に知られている
かもしれないな。」

ムク少将は、浮かない顔で自分の考えを言った。

「しかも、我が艦隊から南西135ゼルドの海域に、空母2隻を含む機動部隊が、15リンル以上の速度で我が艦隊に
向かっていると聞いている。こいつらと、キスカ島のアメリカ軍機に大挙して来られたら、ちとしんどい事になるな。」

リリスティの放ったワイバーン隊のうち、1騎が進撃中のアメリカ空母部隊を見つけ、報告を送ってきた。
報告の中に、新型と見られる大型空母1隻と、小型空母を伴うとあった事から、大型空母はエセックス級空母であると見て間違いない。
この報告からして、第24竜母機動艦隊は、キスカ島とアメリカ機動部隊の航空部隊を同時に相手取らねばならなかった。
いや、キスカとアメリカ機動部隊のみではない。当初、航空基地は無いと思われた、南のアムチトカ方面からも、偵察機らしき
機影が飛んで来ている。
となると、第24竜母機動艦隊は、一気に3つの敵と戦わねばならない。

「全く、酷い所に来たもんだ。南のアムチトカに南西の米機動部隊とキスカ。航空機の総数は200機以上を越えるだろう。」
「こちらに向かう敵を少しでも減らすために、キスカ用の第1次攻撃隊を敵の機動部隊に向けると決めましたが、ワイバーン隊は
やってくれるでしょうか?」

クリンレは不安だった。
シホールアンル海軍の宿命のライバルとも言えるアメリカ空母部隊は、対空砲火が常に激しい事で有名である。
ここ最近は特に、対空砲火の威力が上がっており、ワイバーン乗りの中には、すぐ近くで炸裂する高射砲弾が多くなった
と言う者も多い。
現在、第24竜母機動艦隊が保有するワイバーンは出撃時と比べて減少している。
第1部隊の竜母モルクドは、戦闘ワイバーン40騎、攻撃ワイバーン26騎。
竜母ギルガメルが攻撃ワイバーン32騎、攻撃ワイバーン26騎。
小型竜母ライル・エグが戦闘ワイバーン24騎、攻撃ワイバーン10騎。
小型竜母リテレが戦闘ワイバーン20騎、攻撃ワイバーン11騎の計189騎。
第2部隊の竜母ホロウレイグは、戦闘ワイバーン51騎、攻撃ワイバーン35騎。
竜母ランフックが戦闘ワイバーン51騎、攻撃ワイバーン31騎。
小型竜母リネェングバイが戦闘ワイバーン20騎、攻撃ワイバーン13騎の計201騎。
総数では390騎を数える。
このうち、17騎の攻撃ワイバーンが偵察に参加している。
攻撃に出せるのは、第1部隊から戦闘ワイバーン39騎、攻撃ワイバーン43騎。
第2部隊から戦闘ワイバーン42騎、攻撃ワイバーン38騎の計162騎である。

ホロウレイグの甲板上には、18騎の戦闘ワイバーンと16騎の攻撃ワイバーンが並べられ、発艦の時を待っていた。

「162騎の攻撃隊は確かに大きいが、敵も寡兵とはいえ、立派な機動部隊だ。恐らく、護衛艦艇には強力な対空火器が
取り付けられているに違いない。数はこっちが多いから、必ずしとめてくれるだろうが、この162騎のうち一体何騎が
戻ってくるだろうか。」

ムク少将は、皺の増えた顔に暗い表情を浮かべた。
それから20分後、艦橋に魔道将校がやって来た。

「旗艦より通信です。攻撃隊は直ちに、発進せよであります。」
「うむ、分かった。」

ムク少将はそう言うと、魔道将校を下がらせた。

「さて、いよいよ決戦だぞ。艦長、待機しているワイバーンを発艦させたまえ。」

その言葉を聞いたクリンレは、ついに来たかと思った。
彼は、新鋭の竜母に乗り込んだからには、宿敵のアメリカ機動部隊と戦いたいと思っていた。
それが、初陣早々、敵の機動部隊と、しかも、エセックス級と呼ばれる新鋭艦を合間見える事になるとは。
(ここはひとつ、リリスティ姉さんに俺の腕前を見せてやるか)
そう思った彼は、待望の命令を下した。


アムチトカから発進したハイライダーの通信文を受け取ったのは、アムチトカや第36任務部隊のみではなかった。
アムチトカから西に離れた海域にあるキスカ島の基地にも、その通信文は届いていた。
キスカ島には、陸軍第7航空軍に属する第131爆撃航空師団所属、第77爆撃航空郡のB-17爆撃機24機に、
第76爆撃航空郡のB-25ミッチェル爆撃機24機とA-20軽爆撃機34機。
第69爆撃航空郡のB-26爆撃機30機。
そして第93戦闘航空師団のP-38戦闘機68機。

この他に、海兵隊航空隊のVMF-21のF4F戦闘機36機とVMB-23のSBD艦爆24機。
海軍のカタリナ飛行艇や、輸送機が計40機駐留している。
キスカ島航空隊を統括している、ヨハンス・ゲイガー陸軍少将は、この通信文を受け取るや、TF36やアムチトカに
向けて、キスカ島航空隊も戦闘参加したいとの電文を送った。
20分後に送られた返事は、了解であった。この事を予期していたキスカ島の航空部隊は既に攻撃機に弾薬を搭載しており、
後は燃料を入れるのみであった。
出撃準備始めの命令が下るや、直ちに給油を始め、各航空隊は大車輪で準備を進めた。
攻撃隊は陸軍航空隊の機を中心に編成され、内訳はB-17爆撃機24機、B-25、A-20爆撃機各20機ずつ、
B-26が20機にP-38が50機出撃。
海兵隊航空隊は、敵がキスカ島に向けて攻撃した場合に備えてキスカに待機した。
これらの攻撃隊が発進したのは午前10時半頃であり、その頃、TF36やアムチトカの航空隊は未だに発進準備中であった。


その事からして、一番初めに敵艦隊に辿り着いたのは、キスカ島から発進した攻撃隊であった。
午前11時40。攻撃隊を発進させて、一息ついた第24竜母機動艦隊の上空にアメリカ軍機の大編隊が現れた。
この時、上空に上がっていた戦闘ワイバーンは74騎であった。

「敵大編隊、我が艦隊に接近中!」
「敵は4発大型機を多数伴う。」
「敵戦闘機は50機近くいる模様。」

刻々と、敵編隊に対する詳細が明らかになって来た。
第2部隊旗艦である竜母ホロウレイグの艦橋から、艦長のクリンレ・エルファルフ大佐はゴマ粒を多数浮かべた
ような敵編隊を見つめて、思わず息を呑んだ。
敵編隊がやって来た方角からして、恐らくキスカ島からの攻撃隊であろう。

「どうやら、ダッチハーバー空襲はアメリカ人を相当怒らせたようだな。」

ムク少将は、何気ない口調でそう呟いた。

見たところ、アメリカ軍機は150機近くいるようだ。
先の偵察機の情報を聞きつけたアメリカ軍は、使える限りの航空機を攻撃に差し向けてきたのだろう。
第1部隊に近い上空で、ワイバーン隊とアメリカ軍機の空中戦が始まった。
空中戦は初っ端から乱戦状態となった。
P-38との乱戦を抜けたワイバーンや、敵戦闘機との空戦に参加しなかった、余ったワイバーンがアメリカ軍の
爆撃機編隊に向かう。
すぐさま、アメリカ軍爆撃機編隊は防御機銃を撃ちまくってワイバーンを近づけまいとする。
特に、爆撃機郡の先頭を行くB-17は激しい弾幕を張り巡らせて、襲い来るワイバーンをなかなか近付かせない。
だが、攻撃側と防御側は、常に攻撃側が主導権を握る物である。
防御側となっているアメリカ軍機には、時間が経つにつれて犠牲が出始めた。
ワイバーン隊は犠牲を出しつつも、執拗にアメリカ軍爆撃機を襲った。
1機のB-25が、無数の光弾を、特徴ある2枚の垂直尾翼に喰らって粉砕される。
バランスを失ったB-25は、腹に抱いた3発の500ポンド爆弾を敵艦に当てる事すら叶わずに冷たい海に落ちていく。
爆弾倉に光弾の連射を受けたA-20が木っ端微塵に吹き飛び、細切れになった破片が煙を引きながら空にばら撒かれた。
その直後に別のA-20がコクピットに光弾をぶちこまれた。
一瞬にしてパイロットを殺されたA-20は、機体自体には目立った損傷が無いまま、くるりと横転し、コクピットから
ガラス屑を撒き散らしながら真っ逆さまに墜落していった。
被害はB-17にも及んだ。
最初こそ、強靭な防御力と、隙間の無い防御火力でワイバーン郡を蹴散らすように進んでいたB-17郡も、1機が
エンジンに相当数の光弾を浴びて、エンジンが火を噴いた。
すぐにエンジンが止められて、火が消えそうになるが、その頃には高度も、速度も下がり、編隊から取り残されて行った。
1機だけ取り残されたB-17に、3騎のワイバーンが取り囲み、下方や側方、あるいは正面からと、思い思いの方向から
B-17をいたぶり回した。
やがて、主翼やエンジンに致命的なダメージを受けたそのB-17は、片方の主翼から炎を吹きながら、急速に高度を下げていった。
ワイバーン隊は思いのほか善戦していたが、アメリカ軍機は多すぎた。
やがて、最初の敵機郡が、ワイバーン隊の迎撃を跳ね除けて、第1部隊、そして第2部隊の輪形陣にやって来た。
共に、大型爆撃機であるB-17である。
数は8機で高度は約1500グレルほどだが、クリンレは、初めて見るその大きさに半ば驚いていた。

「なんて大きさでしょうか。あれほどの飛行機があるとは何度も聞いていましたが、実際に目にすると、アメリカという
国がどういうものか、分かるような気がしますな。」
「私もそう思うよ。フライングフォートレスの爆弾搭載量は半端じゃない。あの爆撃機の腹の中には、10発程度の
爆弾が入っているかも知れんぞ。」
「注意して操艦しないと、まともに爆弾を浴びてしまいますな。」

クリンレはやや震えた口調でそう言った。
決して無敵ではない爆撃機だが、その爆弾搭載量や、打たれ強さは異常といっても良い。
B-17郡には12、3機のワイバーンが向かったが、それでも撃墜が2機、脱落させ、追い払ったのが3機のみで、
残りはこうして竜母部隊の真上から爆弾を叩き込もうとしている。
B-17郡は一旦進路を変えた後、第2部隊の真正面から向かい合うような形で進んで来た。
先頭のB-17が輪形陣の外輪部に差し掛かったとき、第2部隊の各艦は一斉に対空砲火を撃ち始めた。
B-17郡の周囲に無数の小さな黒煙が沸き起こり、黒煙から吐き出される破片がB-17に突き刺さったり、
かすったりして傷付けていく。
ホロウレイグの左舷に位置する巡洋艦は、他艦に比べてかなり激しく対空砲火を撃ちまくっている。
その巡洋艦は、ルオグレイ級に似てはいるが、砲の数や配置からしてルオグレイ級ではない。
間断なく対空砲火を放っているその巡洋艦は、ルオグレイ級に次ぐ新鋭巡洋艦を、対空戦闘用の艦に手直しした、
フリレンギラ級と呼ばれる艦である。
全長97グレル(194メートル)幅11.2グレル(22.4メートル)基準排水量6000ラッグ(9000トン)
の艦体に、4ネルリ連装両用砲を艦前部に2基、左右両舷に4基、後部に2基の計16門搭載している。
魔道銃は総計で46丁を積んでおり、シホールアンル帝国としては初の対空巡洋艦である。
速力は16.5リンル(33ノット)出せ、高速機動部隊に追随できるようになっている。
フリレンギラ級巡洋艦は、既に3隻が就役しており、1番艦のフリレンギラ、2番艦のルバルギウラは第1部隊に、
3番艦のルンガレシは第2部隊に配備されている。
この他の艦も、高射砲や魔道銃の増設が行われており、進入してくるB-17郡に対して猛烈に撃ちまくっていた。
しかし、B-17郡の周囲に間断なく高射砲弾が炸裂しているものの、脱落する敵機は1機も見当たらない。
敵は徐々に距離を詰めつつある。

「まるで怪物だ・・・・・」

ムク少将は、高射砲弾を跳ね除けながら、依然突き進んでくるB-17郡に対して恐怖のこもった声音で呟いた。
このまま、敵は1機も落とされずに爆弾を投下するのだろうか?
第2部隊の将兵が誰もがそう思いかけた。
その時、先頭機より右斜めにいたB-17が、右主翼のすぐ下で高射砲弾が炸裂するといきなり翼が折れた。
そのまま、B-17はきりきりと回りながら墜落して行った。

「やった!叩き落してやったぞ!!」

対空砲の要員がやっと笑みを見せた。この調子で、ばたばた叩き落してやるぞと意気込み、更に高射砲を発射した。
新たに1機が、主翼から白煙を引いた。
そのB-17は墜落とまではいかなかったが、爆弾を投棄して、よろめくように避退していく。
阻止できたのはこれだけであった。

「敵大型機、間も無く直上に到達します!」

B-17郡のねらいは、明らかに竜母であった。このまま進めば、まともに爆弾を喰らうだろう。

「面舵一杯!」

クリンレはすかさず、艦を変針させる。
B-17の胴体が開き、中の爆弾が艦隊の陣容を覗き始めたとき、ホロウレイグを始めとする竜母郡はすでに回頭を始めていた。
ホロウレイグが高射砲を撃ちながら、右舷に回頭している最中に、B-17郡が爆弾を投下した。
水平爆撃は、地上の目標ならば効果は絶大である。
だが、洋上を高速で走り回る艦船に対しては効果が薄いどころか、無きに等しかった。
次々と水柱が吹き上がったが、その位置には、目的の竜母はおろか、1隻の艦艇すらいなかった。
竜母の未来位置を狙って投下した爆弾は、目標自体が回避したために全てが外れてしまった。
B-17郡は、そのまま砲火を浴びながらも、艦隊の上空から避退していった。

しかし、まだ敵がいる事には変わりが無かった。
隊形が先の爆撃で半ば崩れ、それを組み直そうとしているときに、今度は双発機が輪形陣の左側から襲い掛かって来た。
襲って来たのは、A-20ハボック14機と、B-26マローダー8機であった。

「新たな敵機、左舷方向より接近!機種はハボック!」

クリンレは、艦橋から左舷方向を見た。
そこには、ハボックと思しき機影が、B-17とは対照的に低い高度から猛速で迫りつつある。
クリンレが見る限り、ハボックは5機ほどしか見えない。
恐らくは4、5機ずつが散開し、横一列になって敵艦に接近。
その少し離れた後方にまた4、5機ずつが同じように散開して接近し、波状攻撃を仕掛けるのであろう。
やがて、駆逐艦が高射砲と魔道銃を撃ち始めた。
ハボックの周囲に高射砲弾が炸裂する。1機のハボックが爆風の衝撃でゆらめくが、海面スレスレで機体を立て直す。
その直上に別の砲弾が炸裂し、頭から叩き潰されたかのように機首を下げ、そのまま海面に突っ込んだ。
残り4機のハボックが目も眩みそうな低高度を、最高速度で飛行し、駆逐艦郡の上空をあっさりと飛び抜けた。
ハボック4機は全てホロウレイグに向かっていた。ホロウレイグが左舷の連装高射砲3基を撃った。
そして、ホロウレイグの左舷にいるルンガレシが、向けられるだけの高射砲を一気に放った。
5秒おきに放たれる速射砲が、主人を守らんとする騎士の手早い斬撃の如く撃ちまくり、ハボックの前面に多数の
高射砲弾が炸裂する。
それでもハボックは高度を上げようとはせず、黒煙を突っ切って突進を続ける。
そのハボックに魔道銃の射撃が加えられた。
無数の光弾をまともに浴びたハボックが、あっという間に前面をズタズタに引き裂かれた。
エンジンからも火を噴出したハボックは、もんどりうって海面に叩き付けられた。
残り3機のハボックが、機種から発射炎を煌かせて、ルンガレシの上空を突破する。
ルンガレシの上空を飛び抜けたハボックは、真っ直ぐホロウレイグに向かって来た。
ホロウレイグもまた、左舷側の魔道銃を一斉に撃ち放った。
28丁の魔道銃が狂ったように撃ちまくり、そこから吐き出される無数の光弾がハボックを絡め取るろうとする。

「取り舵一杯!」

クリンレは取り舵を命じた。

30秒ほどの間を置いて、ホロウレイグの艦首が回頭を始める。
その10秒後にハボックが、機首の機銃を撃ちながら2発の爆弾を落とした。
合計4発の爆弾は、ホロウレイグを飛び越して、全て右舷側で高々と水柱を吹き上げた。
右舷側の魔道銃が、3機のハボックに追い撃ちかける。
1機が胴体に光弾をしこたま振るわれた。光弾の弾着位置は胴体から後部、そして垂直尾翼にへと移動し、尾翼の
上半分がぼきりと折れた。
バランスを失ったハボックが、滑り込むようにして海面に突っ込む。
その時には第2波のハボックが迫っていた。
4機のハボックのうち、1機がルンガレシの猛射に捉えられ、あっという間に砕け散った。
残り3機が、全速力でホロウレイグに突っ掛かかって来た。
魔道銃の弾幕によって、1機が撃墜されるが、残る2機が爆弾を投下した後、機首の12.7ミリ機銃を撃って来た。
機銃弾がホロウレイグの後部甲板を、横に薙いで行き、運の悪い機銃座の兵員が胸や腹に風穴を開けられた。
戦友の死を目の当たりにした水兵が、怒りの形相を浮かべてハボックを撃ち落そうとするが、500キロ以上の
高速で飛び抜けるハボックになかなか当たらない。
ホロウレイグの左舷側後部で500ポンド爆弾が落下し、高々と水柱が吹き上がる。
至近弾炸裂の衝撃に、ホロウレイグの艦体が振動する。

「直撃・・・・・ではないか。」

一瞬、直撃かと思ったクリンレだが、離れた海面に上がった水柱を見てホッとするが、右舷側からも至近弾炸裂の衝撃が伝わり、艦が再び揺れた。

「なかなか激しい爆撃だな。」

ムク少将が苦笑しながら、クリンレに言って来た。

「あんな低高度で突っ込んで来るとは、敵も勇敢です。とても僻地でのんびりしていた部隊とは思えませんな。」
「のんびりはしていただろうが、その静寂をいきなりぶち壊しにしたから頭に来ているんだろう。」
「寝る子を起こすような事をしてしまった訳ですか。」
「まっ、そういう事だな。」

ムク少将は頭を掻きながら返事する。
新たなハボックは5機だ。5機のうち1機が、駆逐艦の高射砲弾に右エンジンをやられた。
右エンジンから白煙を噴出したハボックは、爆弾を投棄して避退したが、残る4機がそのままホロウレイグに迫りつつあった。
この4機に、ルンガレシが砲撃を加える。この時、4機のハボックの狙いがホロウレイグからルンガレシに変わった。

「あいつら、ルンガレシに向かってる!」

クリンレは呻くような口調でそう言った。
(ルンガレシは、先ほどから対空砲火を撃ちまくっているが、あのハボックの編隊はこっちを狙う前に、邪魔な
ルンガレシを叩き潰すつもりだな!)
彼の考えは当たっていた。
このハボックの編隊は、アトランタ級並みに砲撃を行うこの新鋭巡洋艦を脅威とみなしたのだ。
ルンガレシは、自艦に向かって来るハボックに対してこれまで以上に高射砲や魔道銃を撃ちまくった。
激しい対空砲火に1機のハボックが捕捉され、火達磨となって散華するが、残り3機が急接近して来る。
ハボックが爆弾を投下する直前に、ルンガレシの艦長は取り舵一杯を命令する。
機動性に富む巡洋艦だけに、ホロウレイグと違って回頭までの時間は短い。
10秒ほどで艦首が回り始めるが、その頃には、ハボックは爆弾を投下していた。
回頭しているルンガレシの周囲に、爆弾が落下して水柱がルンガレシの姿を覆い隠す。
ハボックが散開して、思い思いの方向に逃げ散っていく。
水柱が晴れると、ルンガレシの後部甲板から黒煙が吹き出ていた。

「ルンガレシ被弾!」

見張りが、上ずった声で叫んだ。今まで自慢の対空砲で敵機を脅かしたルンガレシがついに手傷を負ったのである。
しかし、ルンガレシは速力を落とす事無く、15リンル以上の高速で海上を驀進している。
砲は既に、次の敵に向けられていた。
今度の敵は、B-26マローダーであった。

「また中型爆撃機だ。あいつら、まずはホロウレイグや他の艦を爆弾で痛めつけるつもりだな。」

ムク少将が忌々しげな口調でそう呟くが、クリンレはとある点に気が付き、不審に思った。
マローダーはハボックに速力は劣るが、それでも220レリンク程度の速力で飛行できる。
しかし、マローダーの速力はかなり遅く、しかも高度が先のハボック隊よりも低い。

「司令官、変だとは思いませんか?」
「変だと?」

ムク少将が怪訝な表情でクリンレを見つめる。
「速力が襲い上に、高度がかなり低い。ハボックもそうでしたが、あのマローダーはそれこそ、海面に機体を
こすりつけそうな高度で迫っています。」
「言われてみれば、確かに・・・・・」

マローダー8機が、横一列に散開しながら輪形陣の内部に進みつつある。
アメリカ軍機に向けて駆逐艦が発砲するが、今度は高度が低すぎて全く当たらない。
そのままマローダー郡は駆逐艦の防御ラインを突破し、今度はルンガレシに迫る。
高度は25グレル程度か、それ以下しか無い。
操縦するパイロットは、必死の思いで機体を操っている事だろう。
1機のマローダーが高度をやや上げた。その直後、魔道銃の光弾に捉えられ、すぐに叩き落された。
頑丈なアメリカ軍機であっても、光弾の連続射撃には耐え切れないのだろう。
残りは臆した様子も無く、徐々に距離を詰めつつある。
ルンガレシの猛射も、海面スレスレに張り付くマローダーには狙いが付けにくいのか、なかなか有効弾を与えられない。
やがて、ルンガレシをも飛び越えたマローダーが、横一列に展開したままホロウレイグに迫って来た。
胴体の爆弾倉は開いている。
距離が1500メートルを切った所で、右側から3番目のマローダーがホロウレイグの対空砲火で撃墜された。
1000メートルを切った所で、マローダーは何かを投下した。

「魚雷だ!!」

いきなりムク少将が叫んだ。その声は驚きの余り上ずっていた。

「取り舵一杯!」

クリンレは慌てて指示を出す。
まさか、双発機で魚雷を投下するとは思っても見なかった。
クリンレは、最初マローダーの動きが、話で聞く雷撃機のような動きだと思っていた。
しかし、本当に魚雷を抱いているとは思わず、マローダーが魚雷を投下するまで、彼は爆弾を積んでいると思っていたのだ。
だが、予想に反して敵は甲板を叩いて、母艦機能を失わせる爆弾ではなく、船の命そのものを失いかねない魚雷を引っ下げて来た。
(ずっと爆弾で来ると思わせておいて最後に魚雷とはな。心理作戦を用いるとは、敵もやり手だ)
クリンレはそう思いながら、左舷側海面を見つめる。
魚雷と思しき白い航跡が、扇状にするする伸びている。
そのうちの3本はホロウレイグに向かっていた。
回頭をやめていた艦首が再び左に回り始める。そのため、2本の航跡が、艦尾側の海面を抜けていく。
だが、最後の1本が左舷ど真ん中にするすると伸びていく。
(遅すぎた!)
クリンレは、自分の判断の遅さを呪いながら、自艦に向かって来る魚雷をじっと見つめた。
航跡が甲板の影に見えなくなった、と思った次の瞬間、ドォーン!という衝撃が艦を叩いた。
下から突き上げるような衝撃にホロウレイグの巨体が地震のごとく揺さぶられ、クリンレは思わず、床に這わされてしまった。

「左舷中央に魚雷命中ー!」

見張りの絶叫が艦橋に響いた。クリンレはやってしまったと思いながらも、伝声管に取り付いた。

「こちら艦長だ。各部被害知らせ!」

しばらくは返事が無かったものの、やがて次々に報告が舞い込んできた。

「左舷第3魔道銃郡に損害!戦死3、負傷4!」
「こちら左舷第4甲板。防水区画に浸水中!火災が発生!区画を閉鎖します!」
「こちら第4甲板倉庫室。衝撃で若干の破損あるものの、目立った損害はありません。」

報告を聞いたクリンレは、ひとまず安堵した。
ホロウレイグ級竜母には、左右両絃に張り出し鋼板と、その内側に防水区画と呼ばれる物がある。
張り出し鋼板は、いわばバルジであり、防水区画は、魚雷が命中し、浸水した時に閉鎖する区画である。
ホロウレイグ級より以前の竜母には、このような対魚雷対策は無かった。
このホロウレイグ級で、対魚雷対策が初めて取り入れられたのである。
マローダーの発射した魚雷は、左舷中央のバルジを突き破り、防水区画の外版に当たって炸裂した。
その結果、防水区画に海水が侵入したものの、浸水区画意外は全て閉鎖された為、浸水は最小限で抑えられた。
また、魚雷命中の際の火災もすぐに消し止められ、大事に至らなかった。
ホロウレイグは、被雷の影響で、速力が15リンルまでしか出せなくなったが、機関や甲板は無事であり、傷は浅いと言えた。
ホロウレイグの被雷を最後に、第2部隊に対する空襲は終わった。

「アメリカ軍編隊、撤退していきます。」

見張りの報告を聞いたクリンレは、思わずため息を吐いた。
艦の損害が少ないとはいえ、初めて体験するアメリカ軍機の空襲はかなり激しい物だった。
この時になって、体から汗が吹き出した。
心臓の鼓動も早く、彼は足がよろけそうになるが、気を保って平静さを装う。

「ルンガレシの奮戦が無ければ、危なかったも知れないな。」

ムク少将が、これまた安堵した表情で言って来た。クリンレは彼に顔を向けるが、ムク少将はかなり落ち着いていた。

「アメリカ海軍が対空巡洋艦を配備する事も納得が行くよ。撃墜するだけじゃなく、高射砲弾を周囲で炸裂させたり、
魔道銃を思い切り撃ちまくった事が、敵さんの心理に影響を与えたかも知れん。先のハボックは勇敢だったが、この
ホロウレイグには爆弾を当てられなかった。君の操艦もだが、対空砲火もよく機能したからこそ、ホロウレイグが
少ない被害で済んだ原因なのだろう。」
「なるほど。確かにそうなりますね。しかし、アメリカ軍機はなかなか落としにくいですな。」
「君もそう思ったか。そう、アメリカ機は落としにくいよ。光弾が命中しても利いているのか分からん場合が多いから、
魔道銃の射手達も忌々しがっているそうだ。まあ何はともあれ、早く隊形を立て直さねば。敵機動部隊やアムチトカから
の攻撃隊も向かって来るはずだ。」

ムク少将はそう言って、崩れた第2部隊の隊形を立て直す事に決めた。

その頃、リリスティの第1部隊もアメリカ軍機による空襲を終えていた。
第1部隊の被害は、小型竜母ライル・エグが爆弾1発を浴び、甲板から火災を起こしているが、航行には支障は無い。
他に戦艦のケルグラストが爆弾2発を浴びたが、これは大した損害も無く、戦闘行動に影響は無かった。
第1部隊の旗艦モルクドは、マローダーからの魚雷を1発受けていたが、幸いにも不発で大事には至らず、
唯一、駆逐艦1隻が爆弾1発に、外れた魚雷1本を浴びて轟沈していた。
戦いはまだ始まったばかりであり、TF36から発艦した艦載機や、アムチトカからの攻撃隊が、第24竜母機動艦隊との
距離を詰めつつあった。
その一方で、TF36は敵竜母部隊から発艦したワイバーン隊の空襲を受けていた。
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