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089 第76話 ベグゲギュスVS大西洋艦隊

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第76話 ベグゲギュスVS大西洋艦隊

1943年(1483年)7月20日 午後7時 マオンド共和国領ユークニア島

第61特戦隊指揮官のハニジ・リゴル大佐は、第5発着場を見渡せる小高い崖から入り江を見渡していた。
この第5発着場は、第1~第4の発着場と比べて約2倍の広さを持っている。
そのため、いつもならこの発着場には60頭の生物兵器、ベグゲギュスが勢揃いしているはずだった。
しかし、今発着場には、10頭のベグゲギュスが心細そうに泳いでいるだけだ。
残りは全て出払っていた。

「いつもなら、10~20頭ほどを班ごとに出していたが、今回は初めて70頭のベグゲギュスを出した。10頭程度で、
敵の小型船や空母を沈められるのだ。こちら側も帰って来ないベグゲギュスが出始めたが、5~6頭の喪失は想定内だ。」

リゴル大佐はそう言うと、不適な笑みを浮かべた。
7月18日。リゴル大佐は戦果拡大のため、これまで小出しにしていた生物兵器を、いつもより多く出す事に決め、18日早朝に70頭の
ベグゲギュスがアメリカ東海岸沖を目指して出撃していった。
その前に東海岸沖に張り付いていた12、3頭ほどのベグゲギュスは休養のためユークニア島に戻るように指示を出していた。
ベグゲギュスから送られて来る情報によると、アメリカ側は依然として船の単独行動を行っているようだ。
中には護衛付きの船団を組んで航行している船もあるようだが、そのような報告はきわめて少数である。

「アメリカ側が本格的な対策を採らぬうちに、1隻でも多く敵の船を沈めねばな。今までは少数で敵の大型艦や船を沈められたのだ。
70頭もいれば、戦艦や大型空母の1、2隻は食えるかも知れんな。」

リゴル大佐は、早くも結果が待ち遠しくなった。

「まあ、軍艦が沈められなくても、敵の漁船や民間船を沈めまくるのもよしだ。特に輸送船は、船倉内に軍需物資を積んでいる場合があるから、
ある意味では空母や戦艦よりも価値の大きい獲物だ。アメリカめ、俺達マオンドを敵に回した事を、泣いて後悔するがいい。」

彼はそう言いながら、次々と撃沈されていく敵船の姿を思い浮かべていた。

1943年(1483年)7月21日 午前7時 ボストン沖東90マイル地点

アメリカ海軍は、問題となっている敵海洋生物対策として、東海岸沖に哨戒部隊を配備した。
哨戒部隊の主役を担うのは、第23、26任務部隊に所属する5つの任務群である。
まず、最南端のフロリダ~ジョージア沖には、TF26所属のTG26.1(第26.1任務群)。
その北であるサウスカロライナ~ノースカロライナ沖には同じくTF26所属のTG26.2。
ヴァージニア沖にはTF23所属のTG23.1。
その以北には、同じくTF23所属のTG23.2とTG23.3が配備された。
その他の開いた区域には、海軍や陸軍航空隊の航空機が常時哨戒機を飛ばし、海軍や沿岸警備隊の魚雷艇、哨戒艇とチームを組んで、海洋生物を探し回っていた。

TG23.3に所属する護衛駆逐艦のエヴァーツでは、いつもの日課が始まっていた。
エヴァーツ艦長のクラレンス・ブラント少佐は、7時に艦橋に上がってきた。
髪は黒で、短く刈り上げている。顔立ちは精悍ながらも、どこか棘のあるような感がある。
体格はヘビー級ボクサーのようにがっしりとしているが、実際、彼は大学時代までボクシング選手であった。
露天艦橋に上がったブラント少佐に、副長や当直将校等が気付いて敬礼をする。

「おはようございます艦長。」
「おはよう諸君。」

ブラント少佐は答礼しながらそう言うと、露天艦橋にある艦長席に座った。

「副長。俺が寝ている間に何か異常はなかったか?」

ブラント少佐は、右隣の副長に聞いてみた。

「今の所異常はありません。平穏そのものですよ。」
「平穏か・・・・まっ、それに越した事は無いな。」

副長の言葉を聞いた彼は、苦笑交じりにそう呟いた。

エヴァーツの属するTG23.3は、2隻の護衛空母と、18隻の護衛駆逐艦で編成されている。
エヴァーツは第106駆逐隊の3番艦として、輪形陣の左下方に位置している。
護衛空母クロアタン、ブレトンを護衛する駆逐艦は、DS103の5隻、DS104の5隻、DS105の4隻、DS106の4隻、計18隻である。
これらはいずれも戦時急造型のエヴァーツ級に属している。
「周りを見ても、このエヴァーツの妹ばかりだな。どうも変わり栄えがしない。俺が前、ジャービスに乗っていた時は、駆逐艦のみならず、
巡洋艦や戦艦もいて誇らしげな気持ちになったものだが。」
「そういえば、艦長は以前、駆逐艦ジャービスの副長でしたな。」
「ああそうだった。ジャービスの副長を務めていたときは色々な部隊を転々とさせられたな。戦艦主体の打撃部隊に配備される時もあれば、
空母機動部隊に配備された時もある。去年の10月には、バゼット半島沖で水上戦闘も経験したな。いやはや、昼間の航空戦も、夜間の艦隊戦も
なかなかの激戦だったな。」
「そうでしたか。」
「副長の時はかなり忙しかったな。今、副長からこうして一艦長になれたのは嬉しい限りだが、ここ2、3日。こうして暇が続くと、
どういう訳か、嫌でたまらなかったあの忙しい副長勤務が懐かしく思えるよ。」

ブラント少佐は正面を見据えながら、ゆったりとした口ぶりで言う。

「早くマイリーの化け物共が現れませんかな。今なら速攻で叩き潰せますよ。」

副長は自身ありげな表情で言いながら上を指差す。
艦隊の上空を、4機の味方機が旋回しながら飛行している。
この4機は、TG23.3に属する護衛空母クロアタン、ブレトンから発艦したアベンジャーだ。
アベンジャーは、腹に2発の500ポンド爆弾を抱いて艦隊の周囲を警戒している。
今は上空にいないが、海軍のカタリナやコロネード飛行艇、陸軍のハボックも時折艦隊の上空を援護してくれる。

「確かにな。アベンジャーが敵の化け物を仕留めてくれればOKだ。だが、アベンジャーが敵を取り逃がして、俺達が追いかけるとなると、
ちときついかもしれんな。」

ブラント少佐は艦首を見つめながら、やや険しい表情で言う。
彼の乗る護衛駆逐艦エヴァーツは、エヴァーツ級護衛駆逐艦の1番艦として建造されたものである。

全長88.2メートル、幅10.3メートル。基準排水量は1140トンと、艦隊型駆逐艦よりも小型だ。
武装は50口径3インチ単装両用砲3門に40ミリ連装機銃1基、20ミリ機銃9丁。
爆雷はMk10爆雷を使用し、最大で144個搭載している。
爆雷投射機は8基、投下機は艦尾に2基、そして最新型のヘッジホッグも1基装備されている。
速力は22ノットと、駆逐艦にしてはかなり遅く、武装も爆雷装備以外は艦隊型駆逐艦よりも劣る。
それもそのはず。エヴァーツ級護衛駆逐艦は、短期間で大量建造を行う事を目的に造られた戦時急造型駆逐艦である。
艦隊型駆逐艦よりは簡易な作り方が行われており、艦体には直線が多用されて無駄な部分を極力省こうとしている試みが見られる。
建造行程は艦隊型駆逐艦より短く、予算も少なく済むため、護衛駆逐艦の建造がピークに達した時期には、2隻の予算で3隻が建造できたほどであった。
しかし、建造が容易な護衛駆逐艦と言えど、備えるべき物はしっかり備えている。
駆逐艦の耳となるであろうソナー類は、艦隊駆逐艦にも採用されている最新型が搭載されており、ソナー員も専門の訓練を受けた者があてがわれている。
それに加え、アメリカ海軍では最近採用したばかりのヘッジホッグ投射機も装備されている。
傍目から見れば、一見頼りなさげに見えるエヴァーツだが、海中の敵に対しては互角以上に戦う能力を有しているのだ。
しかし、エヴァーツが戦うはずだった相手は、水中ではせいぜい8ノットほどの速度しか出せない潜水艦である。
今回、敵となる相手は水中でも17~18ノットの速度が出る生き物だ。
速度差は4ノットしかなく、22ノットしか出せないエヴァーツでは、追いつくにも一苦労しそうだ。

「情報では、敵の化け物は18ノットまでスピードが出る。一方でエヴァーツは22ノットだ。敵が逃げに入った時、追い付くまで時間が
かかってしまう。昼間は護衛空母の艦載機と共同で攻撃できるからまだ楽だが、夜間は、航空機の飛行が制限されるから俺達護衛部隊だけで
対応しなきゃならん。俺としては、まだ昼間に来て欲しいと思う。」
ブラント少佐はそう言いながら、航行中の艦隊を見回す。
輪形陣の中央には、2隻の護衛空母が縦一列になりながら、14ノットの艦隊速度で航行している。
飛行甲板には2機の艦載機が上げられている。
恐らく、交代のアベンジャーであろう。
目を他の護衛駆逐艦に目を向ける。
エヴァーツの姉妹艦である17隻の護衛駆逐艦は周囲をがっちりと取り囲み、いずれの艦も、艦隊速度である14ノットで航行している。
普通の潜水艦ならば、見ただけで身が竦むような艦隊編成だ。
(だが、俺たちが叩く相手は、潜水艦とは違う奴だ。この編成で、どこまでやれるだろうか)
ブラント少佐は、内心不安を感じつつも敵が現れた時に備え続けた。

午前11時 TG23.3担当海域

艦橋で座っていたブラント少佐は時計に目をやった。
時間は午前11時を過ぎている。

「7時からこっちに上がって4時間。相変わらず異常無しか。」

彼はしんみりとした口調で呟くと、被っていた制帽を取って頭に浮いた汗をハンカチで拭いた。

「艦長。コーヒーをお持ちしました。」

艦橋に上がってきた従兵が、ブラント少佐にコーヒーを差し出した。

「ありがとう。」

ブラント少佐は従兵に礼を言うと、コーヒーを啜った。
ふと、彼は上空を見てみる。
艦隊の上空には、4機のアベンジャーが上空を旋回している。
上空を旋回している航空機はTBFだけではなく、他にも1機の飛行艇がアベンジャーより大きな旋回半径を描いて飛び回っていた。

「コロネードか。4つのエンジンを積んでいるだけあって、流石にでかいね。」

ブラント少佐は、輪形陣外周を飛ぶコロネードを見つめ続ける。
外見的にずんぐりとした形であり、カタリナと比較すると倍近い大きさがある。
PB2Yコロネードは、PBYカタリナに代わる飛行艇として作られた大型飛行艇である。
4発のエンジンを持つこの飛行艇は、その分爆弾搭載量もカタリナと比べて格段に向上しており、いざと言う時は頼れる存在である。

「弟が、ボストンの海軍基地であの飛行艇のパイロットをしとるのですが、話によるとカタリナのほうがまだ使いやすいようで。」

隣にいた副長がブラント艦長に言う。

「なんでも、機体がでかくなった分、操縦しにくくなったと言っておりましたよ。」
「なんとなく分かるな。」

その時、コロネードがいきなり高度を下げ始めた。

「ん?何か様子が変だぞ。」

コロネードの不審な行動にブラント艦長のみならず、左舷で見張りに当たっていた将兵は誰もが首をかしげた。
コロネードは暖降下しながら腹から何かを吐き出した。

「爆弾を落としたぞ!」

誰かがそう叫んだ直後、水柱が次々と吹き上がった。

「艦長!旗艦より緊急信!」

突如、艦橋に通信兵が上がってきた。

「艦隊の左8000メートル、方位90度方向に白い不審な生物を発見、数は8ないし10、約18ノットの速度で艦隊に接近中!」
「ついに来たか!」

ブラント少佐はそう言うと、艦長席から立ち上がってから命令を下した。

「左舷の見張りを厳にせよ!コロネードが敵を見つけて爆撃したようだが、全て仕留めたとは限らん!」

そして5分後。

「左舷側方に潜望鏡らしきもの発見!距離5000メートル!」

左舷見張り員から報告が上がった。
すかさずブラント艦長はその潜望鏡らしき物を探した。それはすぐに見つかった。
傍目から見れば、それは潜望鏡に似ていたが、よく見てみると、根元が黒く太い棒状になっており、そこから伸びる細い線が波を切っている。
その少し後ろには背ビレのような物も見えた。
それが50メートル間隔で近付いてくる。見る人によっては寒気すら感じさせる光景だ。

「敵発見!対潜戦闘用意!」

ブラント艦長はすぐに対潜戦闘用意を命じた。
待機していた兵員達がすぐに爆雷投射機に爆雷を載せ、砲員は3インチ砲に砲弾を込めていく。
エヴァーツの乗員が手早く戦闘準備を済ませた時、上空を4機のアベンジャーが飛び抜けていった。
アベンジャーが細い棒状の物体に近付く前に、そこから何か光る物が打ち出された。

「敵生物、魚雷らしき物発射!距離4500、数は7!本艦へ真っ直ぐ向かって来ます!」
「面舵一杯!」

ブラント少佐はすぐに命じた。
命令を受け取った操舵員が復唱しながら舵を回す。
小型艦艇だけあって、回頭までの時間は短い。低速であるため通常よりは時間がかかったが、それでも20秒ほどで艦首が敵と相対した。

「速度上げ!最大戦速!ヘッジホッグを叩き込んでやる!」

その直後、アベンジャーが相次いで爆弾を投下した。
各機2発ずつ、計8発の500ポンド爆弾が順に落下していき、1秒おきに2本の水柱が立ち上がった。
だが、

「下手糞め!ほとんど外れてるじゃねえか!」

アベンジャー隊の爆弾は、速度を見誤ったのかほとんどがベグゲギュスの後方に外れていた。

4番機の投下した爆弾だけが、一番左側の2頭をバラバラに吹き飛ばした。
艦の左右を光る魚雷が通り過ぎていく。7発の光る魚雷は、エヴァーツに当たる事は無かった。

「敵の魚雷らしき物、全て回避しました!」
「艦首見張りより報告!敵海洋生物更に接近中!距離4000!」
「ヘッジホッグ発射用意!」

ブラント少佐は、まずはヘッジホッグでベグゲギュスを叩く事にした。
エヴァーツは22ノットの最大戦速で
エヴァーツが向かって来るベグゲギュスに突進している間、DS106の僚艦もエヴァーツの後を追い始めた。
途中、光る魚雷の1つが、僚艦カールソンに命中しそうになったが、緊急操舵で難を逃れた。

「敵海洋生物、魚雷らしき物発射!数は5!距離2000!」

ブラント少佐は、艦橋上で前方から光る魚雷が発射され、向かって来るのが見えた。

「その事は既にお見通しだ!取り舵30度!」

彼は獰猛な笑みを浮かべながら新たな指令を下す。
エヴァーツに5本の光る魚雷が迫って来る。

「魚雷らしき物、急速接近!距離800!」

見張りが上ずった声で報告してくる。エヴァーツの艦首がやや左に振られ、光る魚雷の進路から外れ始める。
5本中4本は外れるコースだが、一番左側から来る光る魚雷は明らかに衝突コースだ。
(しくじったか!?)
ブラント艦長は自分の失態を悟った。

「魚雷1!艦尾に向かいます!距離200!」

艦橋からも、光る魚雷が艦尾に向かうのが見えている。あの進路からして、艦尾部分から外れるかは微妙だ。

「頼む、外れてくれ!」

彼は必死に祈った。魚雷は徐々に艦尾に迫りつつある。
光る魚雷が艦尾に迫り、艦上の誰もが来るであろう衝撃に耐えようとした時、

「敵魚雷、外れました!」
見張りから歓喜の声が上がった。この時、ブラント艦長の祈りは何とか通じた。

「ようし!今度はこっちの番だ。」

エヴァーツが敵海洋生物を、ヘッジホッグの射程内に捉えるまではそう時間はかからなかった。

「敵海洋生物、距離240!」
「ヘッジホッグ発射!」

艦長が命じた直後、艦橋の前に取り付けられたヘッジホッグ発射機から、瓶のような形をした小弾が一斉に発射された。
24個の小弾が円のような物を形成しつつ、ベグゲギュスのいる海域にぱらぱらと落ちていく。
落下した小弾のうち、1発が不運にも1頭のベグゲギュスに当たる。その瞬間、小弾が爆発してそのベグゲギュスの体が真っ二つに千切れた。
それが合図であったかのように、残りの小弾も次々と爆発を起こした。
ベグゲギュスの顔の目の前に落ちた小弾が炸裂し、一瞬のうちに頭部が吹き飛ばされる。
別のベグゲギュスは尻尾の近くで小弾が炸裂した。
炸裂の瞬間、体の半分が何かに食い千切られたかのように無くなり、強靭であったはずのベグゲギュスが瞬時に絶命する。
ヘッジホッグによって、新たに3頭のベグゲギュスが撃沈された。
残り2頭は不利と判断したのだろう、慌てて引き返し始めた。
だが、ヘッジホッグの炸裂は、生き残った2頭にも深い傷を与えており、18ノットを発揮出来た速度も、今や半分ほどしか出せなくなっていた。

「敵海洋生物2頭、撤退していきます!」

他の駆逐艦からは、新たな敵が見つかったとの報告は無い。
敵は、目の前で逃げつつある2頭のベグゲギュスのみであった。

「追撃する。1匹残らず沈めるぞ!」

ブラント艦長は吼えた。DS106の僚艦もエヴァーツに近付きつつあった。

「敵海洋生物、潜航を開始しました!」
「敵の真上につけ!爆雷を投下する。」

エヴァーツは、海の中に潜りつつあるベグゲギュスの真上を通り過ぎようとした。
しばらくして、ソナーが、ベグゲギュスが発する独特の音を捉えた。

「ソナー員より報告。敵の音源らしき物を探知。深度約25メートル。敵は依然潜航中。」
「爆雷深度30に設定!」

ブラント艦長はソナー員の報告を元に爆雷深度の設定を決めた。
艦尾の爆雷班は手馴れた手付きで爆雷の深度設定を終える。

「投下準備完了!」
「爆雷投下!」

艦長から命令を受け取った班長が、号令を発する。投射機から両舷に爆雷が打ち出される。艦尾からは2基の投下機からドラム缶状の爆雷が次々と落とされる。
最初に、左右に投射された爆雷が爆発して海面に水柱が吹き上がる。
次に艦尾側から投下された爆雷も炸裂し、海面が盛り上がった後、大量の海水が弾け飛んだ。
爆雷が投下されるたびに、海面に派手な水柱が吹き上がる。
その頃、海中に潜り込もうとしたベグゲギュスは地獄を味わっていた。
深度30メートルに達しようとした時、周囲に何かが沈んできた。
2頭のベグゲギュスは、先の一連の攻撃から、これが危険な物と判断し、すぐに逃げようとした。

だが、爆雷は逃げようとするベグゲギュスの周囲で炸裂し始めた。
ヘッジホッグより威力範囲の大きい爆雷が炸裂すると、2頭のベグゲギュスは海中でもみくちゃにされた。
やや遠めに落ちた爆雷が炸裂しても、ヘッジホッグとは比べ物にならぬ衝撃波が、ベグゲギュスの体を叩き、内臓や骨を確実に傷付けていく。
1回目の爆雷攻撃には、なんとか生き残る事が出来た2頭のベグゲギュスであるが、地獄はまだ終わっていなかった。
エヴァーツの後を追いかけて来たDS106所属の護衛駆逐艦3隻が、新たに爆雷攻撃を開始したのだ。

僚艦3隻が、ベグゲギュスがいる海域に向けてヘッジホッグや爆雷を好き放題叩き込んでいると、いつもと同様に吹き上がった水柱の中に、
明らかに血らしき物が混じっていた。

「司令駆逐艦より通信。爆雷攻撃を一時中止せよ、であります。」
「分かった。とは言っても、俺のエヴァーツは爆雷攻撃を止めているんだが。」

ブラント少佐は思わず苦笑する。
エヴァーツは通過間際に20発の爆雷を投下した。
しかし、有効弾を与えられなかったので、反転してもう1度爆雷を叩き込もうとした。
だが、追い付いて来た僚艦が、浮いて来た血らしき物を目標にヘッジホッグや爆雷を投げ込んでいた。
僚艦が爆雷攻撃を開始してから5分が経過し、ついにベグゲギュスは息の根を止められた。
ベグゲギュスが仕留められた海面には、赤に似た色の血が海面に広がり、その中に引き千切られたベグゲギュスの死体が散乱していた。
その後、ベグゲギュスらしき物は発見されず、TG23.3は元の隊形に戻って哨戒を続けた。


午後1時 護衛駆逐艦エヴァーツ
「しかし、一時はどうなるかと思いましたが・・・・終わってみると意外にあっけないですね。」

艦橋で海風に当たっていたブラント艦長は、副長と先の戦闘の事で話し合っていた。

「ああ。先の戦闘で、俺達は敵の化け物を叩きのめせたが、危ない場面もあったな。あの光る魚雷の発射速度は、潜水艦の魚雷より速いぞ。」
「あの発射速度の速さは自分も驚きました。潜水艦なら、一度魚雷を発射すれば再装填まで時間を食いますが、あの化け物は10分間に2度、
魚雷のような物を撃ってきましたね。これなら、充分に兵器として使えますよ。」

「マイリーも厄介な物を送り込んできたものだ。」

ブラント少佐はそう言ったが、口調はどこか明るかった。

「だが、マイリーが送り込んできた化け物も、相手が対潜戦闘を専門とした艦の場合は不利になる。特に航空機に弱いと言う事が、
さっきの戦闘で証明された。化け物共は、もはやこの東海岸には居られなくなるだろう。」


哨戒部隊の本格配備は、ベグゲギュスに致命的な結果をもたらしていた。
満を持して送り出された70頭のベグゲギュスは、大きいもので30頭、小さいものでは10頭ずつのチームを組んで、東海岸沖を航行しているだろう
アメリカ側の民間船や艦艇を狙った。
しかし、東海岸沖には単独行動を取る船舶は1隻も無く、代わりに厳重な警戒網が敷かれていた。
まず、TG23.3が哨戒している区域に忍び込んだベグゲギュス10頭が同部隊を発見し、一気に襲いかかった。
しかし、逆に反撃を受けて、10頭全てが討ち死にした。
この戦闘におけるアメリカ側の損害は皆無である。
それから2時間後、今度はフロリダ沖に展開していたTF26所属のTG26.2に10頭のベグゲギュスが襲い掛かったかが、これも損害を与えられぬまま全滅した。
ましな戦闘が出来たのは、30頭で編成されたベグゲギュスの部隊である。
夕刻前、このベグゲギュスの部隊はノースカロライナ沖で哨戒中のTF23所属のTG23.1に襲い掛かった。
この攻撃で、TG23.1は駆逐艦1隻を撃沈され、配備されたばかりの空母ゲティスバーグと重巡洋艦ウィチタが中破されてしまった。
だが、哨戒部隊の主力とも言えるTG23.1は攻撃前に発艦した20機以上の艦載機を持ってベグゲギュスを攻撃。
その後は護衛の駆逐艦も加わった。
10隻以上の駆逐艦(しかも高速力が出る艦隊型駆逐艦)にたかられたベグゲギュスの群れは、それでも駆逐艦2隻を大破させたものの、これまた全滅してしまった。
7月22~23日に行われた哨戒部隊と、ベグゲギュスの戦いは、投入した70頭全てを失う事で決着が付いた。
確かに、ベグゲギュスは優れていた生物兵器であった。
だが、その生物兵器も対潜部隊には敵うはずも無く、また、敵わぬ事を知らぬばかりに、強力な哨戒部隊を、獲物と判断してあたら突撃を繰り返した。
だが、最新の対潜装備を備えたアメリカ大西洋艦隊には格好の目標でしかなく、ベグゲギュスは次々と討ち取られていった。
大西洋艦隊は、護衛駆逐艦1隻、駆逐艦1隻を撃沈され、正規空母ゲティスバーグと護衛空母キルアン・ベイ、重巡洋艦ウィチタ、駆逐艦2隻、
護衛駆逐艦3隻を大中破させられた。
それに対して、マオンド側はベグゲギュス70頭を全て失った。
リゴル大佐が期待して行った大作戦は、自軍の完敗という予期せぬ形で終わりを告げた。
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