自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

101 外伝9

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tapper

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※投稿者は作者とは別人です

325 :外伝(またはパラレル):2007/12/12(水) 09:13:07 ID:OiXF2z220
フランク・ベルソンが入ってきたとき私はヘヴィ・バッグを打っていた。
ベルソンが自分の足で私を訪ねてくるときはやっかいごとを押し付けるときと決まってい
るので、私は彼を無視してコンビネイションを続けた。
左ジャブ、左ジャブ、右クロス。
ベルソンは黙って私を見つめている。
とうとう無言の圧力に屈した私はベルソンに向き直った。
「何か用か?」
「オフィスで話そう」
私とベルソンは連れ立って宿舎を出た。
未舗装の誘導路をタキシングするOD色の急降下爆撃機が私達に猛烈な砂煙を浴びせた。
私達第530爆撃飛行中隊は陸軍航空隊の中ではマイノリティと言えた。
ドイツの成功に刺激されたとはいえ専用機を一から開発するほどの熱意を持てなかった陸
軍が実戦に投入したAナンバーの単発機のうちA-24は海軍のSBDから母艦用の装備
をオミットしたもので、これは海軍の兄弟ほど活躍できずすぐ第一線から引き上げられた。
私達が飛ばすA-36はP-51を手直しして低空用のアリソン発動機を積み、主翼に爆
弾架とダイブブレーキを取り付けたもので私はこの飛行機が大いに気に入っていた。
ベルソンのオフィスには女がいた。
「こちらミス・ガーベラ」
女は立ち上がった。
6フィート1インチある私より僅かに背が高い。
乳と尻はヴォリュウムたっぷりだがウエストは戦闘機のカウルのように鋭く絞り込まれて
いる。そして何より印象的なのはトパーズ色の瞳とズボンから伸びる灰色と黒の縞模様の
尻尾だった。
「彼女はグランガラン族だ」
私は敵地に不時着した場合に備えて渡されたガイドブックの内容を思い出した。
グランガラン族はリクリシルツ山脈に住む少数民族で、虎と人間のハーフみたいな連中だ
というようなことが書いてあったはずだ。
ベルソンは説明を始めた。
敵の補給線に対する攻撃のうちリクリシルツ山脈を縦断するブリングル街道に対する攻撃
をグランガラン族が担当することになり、現地のレジスタンスへの武器弾薬の投下と近接
航空支援を行うのが我々第530飛行中隊、そのための調整役がガーベラというわけだ。
飛行ルートの選定、投下ポイントでの地上との連絡方法について話し合ったあとガーベラ
の接待係を押し付けられた私は虎女を伴って宿舎に向った。
「ボクシング?」
ふいに言葉を発したガーベラの視線は天井から吊るされたヘヴィ・バッグに注がれていた。
「知っているのか?」

326 :外伝(またはパラレル):2007/12/12(水) 09:15:49 ID:OiXF2z220
「此処に来る前、三週間ほど海兵隊で訓練した。あなた方の武器の使い方を学ぶためだっ
たが、昨年まで太平洋艦隊のミドル級王者だったという軍曹と余興で試合をした」
彼女はそこで言葉を切った。
私は続きを促した。
「私が勝った」
グランガラン族の強さについて色々と尾鰭のついた噂を聞いていた私は突然目の前の牝虎
に悪戯を仕掛けたくなった。
ノースハーレムの、よほどあからさまでない限りベルト下への打撃も黙認される上品とは
言えない賭け試合で荒稼ぎしていた十代の頃の血の滾りが年甲斐も無く甦っていた。
私は何気ない動きで右手に持ったペンを顔の前に持ってきた。
彼女の注意が私の右手に向けられたのを確認し、こめかみをギリギリかすめる軌道で左の
フックを繰り出す。
次の瞬間大陸横断鉄道のピストンに飛び込んだような衝撃が私を襲った。
ショートレンジからの稲妻のようなストレートが、心臓のすぐ上に叩き込まれたと分かっ
たのはベッドの上で目覚めてからだ。
それから一週間、私は操縦席背後の装甲版を取り払って無理矢理複座にしたA-36にガ
ーベラを乗せ、毎日のようにリクリシルツ山脈に飛んで目印となる地形を探し、航空写真
を撮った。
一度ワイバーンの奇襲を受け、敵弾がオイルパイプを切断してしまったときなどは私がワ
イバーンを振り切るためありとあらゆる操縦テクニックを搾り出している間、ガーベラは
底なしの体力を発揮して手動ハンドルを回し続け、油圧が抜けてブラブラになった主脚を
巻き上げていた。
この一連の飛行で私と彼女の距離が急速に縮まったのは事実だろう、それが単なる吊橋効
果にすぎなかったのかどうかは今でも謎だが。
そんな訳でガーベラが仲間の元に戻ることになり基地を上げてのお別れパーティーの中、
即興で始まったボクシング大会でまたも1ラウンドKOをくらった私のベッドに深夜音も
無く裸のガーベラが忍び込んできたときも私はパニックを起こさなかった。
それから第550飛行隊とグランガラン族の共同作戦が始まった。
我々はライフル、機関銃、分解した60ミリ迫撃砲などを収めたコンテナを投下し、発煙
弾とVHF無線機の誘導を受けて敵の輸送隊に爆撃と機銃掃射を加えた。
運よく空爆から逃れることが出来ても天性の狩人であるうえアメリカ製の火器で武装した
グランガラン族からは逃げられない。
我々は目覚しい成功を収め一月足らずで1ダースを越える輸送隊を壊滅させた。
あまりに目覚ましかったのでとうとう敵は北大陸へ移動中の部隊から最新装備で固めた3
個師団をグランガラン族討伐に差し向けた。

327 :外伝(またはパラレル):2007/12/12(水) 09:19:26 ID:OiXF2z220
子供や老人を加えても二千人ちょっとのグランガラン族と重装備の3個師団では勝負にな
るはずもなく、プトラワップ山に追い詰められたグランガラン族を救出するためパナマで
私の上官だったヘインズ大佐-私に「優秀」と「偉大」の差を思い知らせたパイロットだ
-の率いる輸送隊が送り込まれた
この救出作戦で私はヘインズ大佐の偉大さを再確認することになった。
断崖絶壁に囲まれた猫の額ほどの平地にC-47を降ろし、積載制限を大幅に超えるグラ
ンガラン族を詰め込んで離陸を敢行するには勇気以上のものが必要だった。
最後の輸送機の離陸を援護すべく500ポンド爆弾2発を抱えて低空を旋回していた私は
牽引式の大口径マジックガンを運ぶ2体のゴーレムに気付いた。
輸送機の駐機する平地に通じる急斜面を登るゴーレムは歩兵が軽機関銃で対空射撃をする
要領で1体が砲身を肩に担ぎ、もう1体が砲尾を支えていた。
そして先頭のゴーレムの胴体にはぐったりとしたガーベラが縛り付けられていた。
敵は負傷して捕えられたガーベラを弾除けにして輸送機を攻撃するつもりなのだ。
輸送機は少しでも離陸を容易にするため向かい風に正対しようとヨタヨタと回頭している。
ゴーレムはあと500ヤードも前進すれば輸送機を狙えるし、その場に留まっても空中に
飛び出した輸送機の下腹を一連射するチャンスは充分にある。
そしてシホットが捕虜、特に女をどう扱うかについては胸の悪くなるような話をたっぷり
と聞いていた。
現実は常に非情で結局私に出来ることは一つしかなかった。
私はゴーレムのいる斜面の右上に張り出した岩棚に狙いをつけ、ダイブブレーキを開いて
ほぼ垂直に近い降下に移った。
私の放った2発の500ポンド爆弾は岩棚を吹き飛ばし、落下する巨岩の群れがゴーレム
と後続の歩兵、そしてガーベラを飲み込んだ。
その後本国では「戦闘機に急降下爆撃機の代役は勤まるが急降下爆撃機に戦闘機の代わり
は出来ない」という意見が大勢を占め、A-36の生産はちょうど500機で打ち切られ、
手持ちのA-36を乗り潰した第530飛行隊は本国に戻って休養と隊員の入れ替えを行
ったのち、P-40のMとNを受け取って前線に舞い戻った。
ある日、シホットを追い払い平和になった故郷へ戻る途中のグランガラン族の一団が基地
を訪ねてきた。
私は一人宿舎に篭りヘヴィ・バッグを叩いていると松葉杖をついた女が入ってきた。
右目を眼帯で覆い、中身の無いズボンの左足を揺らしながらゆっくりと歩いてきた女は案
山子のように立ち尽くす私に笑いかけた。
「言わなかったか?グランガランは殺しても死なないんだ」
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