たゆたう水面の中、飛び跳ねる泥水の音と、整わない呼吸音が複数。
無限に続くかと思われる闇の中で、微少な音だけが、自分以外の人間の存在を証明している。

そこで彼は、辛うじて同行者の呼び声を掬い取った。
すぐさま応酬するも、漆黒が猛威をふるう、この状況を打開できそうにない。

空気を確保する為、手足を櫂のように動かしながら頭を巡らせ、周囲を見回す。
が、己の周りの状況を何一つとして捉えることができない。

同行者も諦めたのか呼び声は消え、水と固体のぶつかり合う音だけが辺りに反響している。
複数の水音から、当然ヴェルサスとティッツアーノ、及び先ほどの敵性人物たちもこの近くにいるのだろう。
落下の衝撃から落ち着きを取り戻し始めた彼は、警戒心及び緊張感の増幅に伴って己の神経が研ぎ澄まされてゆくのを感じる。

何が原因でこのような状況にもつれ込んだのか、理解の範疇ではないが…。
落下したその瞬間、自分達はそれほど離れた場所にいたわけではなかったのだから、今まで行動を共にしてきたマウンテン・ティムは近くにいるはず…。
そう考えスタンドを発現、辺りを探ろうと試みた。自分自身もスタンドと離れすぎないよう、手でそろりと周囲を探ってみる。

と、そこでさらに別の音___正確には音楽___が、彼の鼓膜をふるわせた。
穴の上から辛うじてこぼれ聞こえるようで、ひどく不明瞭なその音だが、かの有名なベートーヴェンの交響曲であるらしかった。
その苛烈な運命を暗示する旋律の中に、さらにまた別の音が重なる。
その『声』から主催者による第二回放送であるらしいことをようやく悟り、彼は周りを警戒しつつも耳に神経を注ぐ。

何処かではまたバチャバチャと水音が跳ね、穴の中の空気を震わせている。
さらに耳に届く音楽と声は不明瞭で、かなり聞き取りにくい。
どうやら今から死者を読み上げるらしいが、飛ばし飛ばしにしか聞き取ることができない。
彼は拾うことの難しい小さな音にイラつき、同時に己の中にある一抹の懸念が肥大してゆくのを止められずにいた。

もしも、もしも…あの子の名前が挙がっていたなら?
今いるここよりも深く黒い穴の中から、自分を救い出してくれた彼女の名前がもし…呼ばれていたら?

だが人間の予想が当たった試しがあるだろうか?
得てして予想は裏切られるもの。
今回のそれは最悪よりもさらに悪い方向へと帰結した。
なんとか死者の全てを聞き取り、意中の人物の当面の無事が確認されたにも関わらず、彼の唇は安堵に緩みはしなかった。

「…ッは…やべえな、こりゃあ…」

そう呟いたとき、彼は3つの情報を認識した。
まず、ひときわ大きく跳ねた泥水が乱れ反響する、その水音。
次に、忙しなく動かしていた自分の右腕がどろりとした壁をつかむ手触り。
最後に、スタンドの腕に何かしら異物が絡み付く感触。


目の前の影は、一体誰か?

止まらぬ汗、不快な泥水の質感。

マウンテン・ティムは思い切り水を掻き、迫りくる陰から距離を取ろうと動いた。
その瞬間、今まで自分が位置していた場所に水の塊が怒号した。
やはりこの影は敵、と認識し、さらに距離を取ろう足をばたつかせた瞬間。
水中を彷徨っていた左足に鋭い痛みを感じた。

「…ッ」

相手はどうやら大体の位置で声のした方向に攻撃を仕掛けているらしい。
先ほどアナスイの無事を確認する為に、大声を出したのはまずかった。

攻撃のショックで大きく体がぶれ、ひときわ高い水しぶきが上がる。
その音が暗闇に反響していくが、相手の位置すらつかめず、自分の攻撃手段を確立することもできない。

突然の痛みに動きが鈍った時、顔の前、ごく近い位置に圧迫感を感じた。
目の前に何かある。ゆらりとした不定型の物体。
(これは、さっき我々を襲った水の塊のようなスタンド…ッ?!それともまた別のッ?!)

視界の利かない真っ暗な周辺。正体のつかめぬ相手からの一方的な攻撃。
次に何をされるのか、薄々予想が付いてしまう。
先ほど、おそらく同じ敵が試みたように、体内に潜り込まれたら…?
この暗闇では、初撃以降の攻撃をかわす事は出来ない。
今まで噴きでていた汗が、急激に迫りくる恐怖にさっと引くのを感じた。

ままよ、何もしないよりは殴りつけてでも反撃すべきかと空いている拳を握りしめた。
しかしその時、どんな境遇でも手放さなかったロープを持った方の手に、わずかな手応えを感じ取る。
同時にマウンテン・ティムの体は、強い力に引き寄せられ大きく水面を渡り出し…
次には叫ぶような声が穴の中を駆け巡った。

「ティムッ!襲われているのか!?ダイバー・ダウンがあんたのロープをつかんでる!そのまま引きよせるぞ!あんたも無事なら移動しろ!!」

ティムはその頼もしい言葉が耳に入った時、自らのスタンドを発動。
ロープの上を素早く滑走した。
力強く示される引力の様なパワーをひたすら信じ、滑り進むこと数秒。
泥壁に到達した、思ったら、アナスイのスタンドが2人の体内に潜行し、そのまま泥壁と一体化した。

「動くなよ」

ティムはつぶやかれたその声に、危機から救ってくれた感謝の言葉を返そうとしたが、今は舌を噛みそうなので黙っておく。
ダイバーダウンはそのまま、実になめらかな動作で地上を目指して上昇を開始した。
下を警戒してみたが、特に怪しげな動きを感じ取ることはなかった。

そうして穴より這い出でると、2人は再びその4つの瞳に日の光を得た。

「ぐっは…げふっ…」

地面には不透明な泥水が落ちてそのまま積み重なっていく。
彼らは咳込みつつ、口に、耳に、眼に入り込んだ泥土をこすり落とす。
しばらくして2人のうちの一人、長髪の男、ナルシソ・アナスイはドロドロになってしまった身なりを気にもしていないように立ち上がると口を開いた。

「…一応、先に聞くが。ティム。このあとどうするつもりでいる?」

まだ四つん這いの体制で喉にからみつく泥を吐き出していたマウンテン・ティムは、その声色に良からぬものを感じた。
ゆっくりとアナスイを見上げ、袖口で口元をぬぐう。
彼の、文字通り命綱であるロープはその手に握られたまま。
トレードマークのテンガロンハットをつまんで直す。縁に溜まった水がこぼれた。
アナスイを焦らす様にゆっくりと立ち上がると、相手の目をはったと見据え、問いに答える。

「体勢を整える。人のいない家屋を探すつもりだが。」
「…俺は今すぐ徐輪を探すために動く。単独でも、だ。」

二人は至近距離で見つめ合っている。
ティムは相対する男、その眼を見ていると、先ほどの穴の中で体験した真っ暗がりを思い起こした。

「…理由を聞こうか」
「あんたは聞けなかっただろうが、さっきの第2放送…死者の中に空条承太郎とウェザーの名前があった。…二人とも死んだ。」

ティムは軽く目を見張る挙動でこれに答えた。
アナスイはその様子を認め、一端言葉を切る。
ティムはあごに片手をあてると、帽子の陰からアナスイを見やった。

「…続けてくれ」
「最初は母親、次には父親と仲間までもが死んだんだ…徐輪は絶対にまいっちまってる。俺がそばに居てやらなくてどうする?これが理由だ」
「あの二人はどうする?さっき襲ってきた敵の始末は?」
「放置していく。どうせ穴の底だ。俺には構ってやってる余裕は無いんでな。あんたがどうするかは、自分で決めればいいことだよ。」

少しの間。
2人の間をさらさらと微風がよぎり、泥水の水分を奪うと、土を肌に張り付けていく。
顔や首に乾燥した土の不快感を感じながら、ティムは辛抱強くアナスイの意見を聞いていた。

「最後の質問だ。もう少し落ち着いて、考えを練るつもりはないのか?」

アナスイはふっと笑った。
何故、彼はこんな表情をする?
マウンテン・ティムは考える。
答えは明白。
自分の積み上げた推量から見れば余りにも明白。

「俺は冷静だぜ。この上無くな。冷静な状態でこれなんだ。いかれてるのさ、要するに。
…今すぐに動く。もう形振りかまっていられないかもしれない。」

おどけたように曲げた両手を空に向け、肩をすくめてみせるアナスイ。
『形振り構っていられないかもしれない』
彼の呪われた心が、その表情にうすら暗い影を投げかけている気がした。

「…いや、おまえは冷静なんかじゃない。自分が狂人だと思い込むことで考えることから逃げて、結論を急いでるだけだ。
いったん引いて、何処かで休むべきだ。そもそも、徐輪を探すあてがどこに?」

アナスイは表情を歪ませ黙りこくった。
説教ならば聞く耳持たぬ…という様子。
むっとした顔を誤魔化そうともせず、つっけんどんに言い返す。

「人の居そうなところへ出向いて、情報を集める。徐倫を見た奴がいるかもしれない。」

マウンテン・ティムは少し地面に視線を落とし、腰に手をあてるとふうと息を吐いた。
アナスイを単独で動かす訳にはいかない。彼の為にも、無害な参加者の為にも。アナスイの想う徐倫の為にも。
ティムは考えに沈みつつ、再びアナスイの視線を真っ向から受け止める。

「おい、あんたこそ目つきが穏やかじゃあないぜ。殺してでも俺を止める気か?」

『お前が、他の参加者を皆殺しにしてでも徐倫ってコを救うと言いだしたら俺がお前を止める。生死を問わずだ。』
数刻前に言い放たれた言葉。
今のアナスイは殺しに積極的なわけでは決してない。だが、これからどうなるかなど不確か極まりない霧の中。

「いや…何、殺してでも、ってのは状況によるさ。今はお前が折れてくれれば済む話だし、俺としてはそれをお勧めするがね。」

アナスイは不敵に笑う。自分の行く道が、茫漠たる険阻の道であることくらい彼にも分かっている。

もし、彼が徐倫の死体でも見つけようものなら?
次の放送で彼女の名前が呼ばれようものなら?

アナスイの笑いを認めて、ティムは再度軽くあごを引く。
帽子の縁でできた影の中から、ワントーン低い声で極めて事務的に自分の意思を告げた。

「それでも、どうしてもすぐに行く、と言うならば。俺は自分のできることをするだけだ。俺は言ったな、お前に?」

アナスイはティムが出会った当初から、徐倫という女性に関わる事柄には猪突猛進気味だった。
自らが述懐していた犯罪内容といい、不安定な人間なのだ。
この地に来てから共に苦境を抜けてきた人間でも、保安官として自らの信じる道を捨てる気などない。

「…へえ。なんだよ、それ…やってみろよ。」
「いや、もう『終わって』いる。」
「は?」
刹那、アナスイは腰から地面に崩折れた。



「があぁぁあッ!くそッ!逃がした!あ"あ"!クソが!」

アンジェロは無骨な手を水面に叩きつけ、起こった水柱を全身で受け止めながら悪辣な言葉を吐いた。
相手はすでに不潔で暗い穴の中から抜け出し、明るくさわやかな風を全身に受けているのだろう。
いい気になって揚々と民家に入り込み、シャワーを浴びているかもしれない。

「おい!Jガイル!どこに居やがる!!くたばってんじゃあねえだろうな!?」
「うゥるッせえ…反響すんじゃねえか、張り切って叫んでんじゃねえよ…傷に響くだろうが。」

一面の黒の中、意外と近くから低い声が聞こえた。
ドスを含んだ返答に、イラつきを募らせながらもアンジェロは凄んで見せる。
予想だにしない事態にかなり狼狽を覚えたが、アクア・ネックレスの健康状態は良好。
気に入らない奴はねじ伏せることができる。

「てんめえ…いい気んなって意見してんじゃねえぞ…自分が暗い中ではなんもできねえのを忘れてんのかぁぁ?」
「わ・す・れ・て・ねえよ…興奮すんじゃねえ。何かわからんが、まずはここからどうやって出るかだろうが?違うか?あ?」

Jガイルはめんどくさそうな声色に乗せて牽制する。
さらにJガイルはスタンドが役に立たずとも、まだ優位に立てる情報を持っていた。
目先の獲物に気を取られ、こぼれ聞こえた重要事項を逃しているに違いないアンジェロを冷やかすような口調で次の言葉を継ぐ。

「それによォ?第二放送、お前聞いてたのかよ?ここで俺に手出しして、死者と禁止エリアを把握できなくてもいいのか?」
「放送ッ…!?」

アンジェロのたじろいだような声を聞き、仮定は確信に変わった。
それに満足し、Jガイルは話を続ける。
面白がった声色を抑える気配すら見せず、不遜な態度で。

「へッ、その様子じゃあ聞いてなかったみてえだな。上に出たら教えてやるぜぇ~?相棒サンよォォ~??」
「…ッ!…フ~ゥ……まあいい。なんか上へ出る策でもあんのか。ここにはもう俺らしかいないっぽいが…。」

溜まった墳怒をため息で外に押しやると、見えなくてもわかる、相手のニヤ付いた顔を想像しながらも落ち着きを保つ。
そうしてアンジェロは、何か画期的なアイデア立案を期待したのだが。

「ああ~そうだな…壁までたどり着いてよじ登る、だろ。他に無い。」

言われた台詞に、また頭に血が上った。
それは子供だって考えつく、いわば定番中の定番の脱出方法。

「てめ、そんなん俺にもわかってんだっつー…!!」
「それにな、俺は骨折してんだ。第二放送を知りたきゃ下から押せ。」
「はああァ!?…ッ!…わーったよ、登るぞ。クソッ。」

何もかも気に入らないが、目の前にぶら下げられた「第二放送の内容」という餌を逃がすわけにはいかない。
お互いに小声で悪態をつき続け、服が水分を湛えて肌に張り付いてくる不快な感触に耐える。
そうしてぬるつく泥水を掻き分け掻き分け、2人の男は壁面を目指した。

【G-3 穴の底】

【J・ガイル】
[時間軸]:ジョースター一行をホル・ホースと一緒に襲撃する直前
[能力]:『吊られた男』
[状態]:左耳欠損、左側の右手の小指欠損、右二の腕・右肩・左手首骨折
    軽く情緒不安定 、全身ずぶぬれ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0.水が傷に染みるぜ…
1.アンジェロを可能な限り利用し、参加者を減らす。
2.第二放送終わったけど、駅へ向かう?→穴から出たら考える。
3.自分だけが助かるための場所の確保もしておきたい。
4.カーズ死んだの!?…まじで?
5.結局はこのゲームでは力がないと死んでしまう…
6.20時にDIOの館に向かう
7.ブラックモアへの不信感
[備考]
※デイパックと支給品一式をカーズに奪われました。
※『吊られた男』の射程距離などの制限の度合いは不明です。
※ワムウによる蹴りのダメージは右二の腕・右肩・左手首骨折でした。それぞれに対して添え木がしてあります。
※支給品一式をブラックモアから譲り受けました。
※ヴァニラアイスの能力と、ウェザー達が第二放送時に駅に襲撃を仕掛けることを知りました
※ヴェルサス、ティッツァーノ、アレッシーの容姿を知りました。
※体は大丈夫でしたが、骨折にどう影響したのかは不明です。
※両腕とも骨折個所があるので、穴の上までよじ登れるかどうかは定かではありません。
※穴の外へ出たとしても、アンジェロに第二放送を本当に教えるかどうかは分かりません。


【片桐安十郎(アンジェロ)】
[スタンド]:アクア・ネックレス
[時間軸]:アンジェロ岩になりかけ、ゴム手袋ごと子供の体内に入ろうとした瞬間
[状態]:健康、テンション高 、全身ずぶぬれ
[装備]:ディオのナイフ ライフルの実弾四発、ベアリング三十発  
[道具]:支給品一式
[思考・状況] 基本行動方針:安全に趣味を実行したい
0.どいつもこいつも気に入らねえ…
1.J・ガイルを可能な限り利用し、参加者を減らす。
2.第二放送終わったけど、駅へ向かう?→穴から出たら考える。
3.空条承太郎を殺す。
4.荒木は良い気になってるから嫌い
5.20時にDIOの館に向かう
6.ブラックモアへの不信感
[備考]
※アクア・ネックレスの射程距離は約200mですが制限があるかもしれません(アンジェロは制限に気付いていません)
※名簿に目を通しました。
※ヴァニラアイスの能力と、ウェザー達が第二放送時に駅に襲撃を仕掛けることを知りました
※ヴェルサス、ティッツァーノの容姿を知りました。
※第二放送を聞き逃しました。



ばらまかれた泥水がたまった地面。
そこに後ろ手をついて座り込み、アナスイはなにが起こったか把握できずに呆然と顔を上げた。
今、アナスイの右足は衣服ごと細かなパーツに分断され、紐に通したビーズのように滑って離れ離れになっていく。

仰いだそこには、逆光により表情のよく読めない、カウボーイハットの影になった彼の顔。

「気付かなかったのか?本当に気付かなかったのか?…完全にお前は冷静などではない。ますます単独で動かすわけにはいかない。」

(やられた!足を…ッ)
気持ちが焦り、徐輪のことにばかり気が向いていた自分。
泥の中に隠して、彼のロープが自分の足の下に仕込まれていることに気が付かなかった。
自分の靴底から延びたロープは、ところどころその表面を露出させながらも泥の下に埋まりつつ、さらに相手の靴の下を経由して彼の後ろ手に延びていたようだ。

「…ッ…初めから…ッ?」

アナスイは自分を見下ろす男を、下から精一杯睨みつける。

「放送なら、俺にも聞こえていた。最も途切れ途切れだがな。お前の言葉で、先の二人の死が確定した。
それ以降の放送内容はお前の言った通り、聞いている場合ではなかった。」

片足を分裂され、成す術もなく地面に座るアナスイを見下ろしながら彼は話を続けた。
相変わらずハットの影から射抜いてくる視線。
彼がくいと首を傾けると、その表情を鮮明に見ることができた。
彼の表情、それは実直に法に則り、仕事をこなす保安官の顔だ。

「仲間と肉親が死んだ徐倫の気持ちを慮り…お前が何かしらアクションを起こすだろうとは考えたさ。
想定の中で最も極端な行動に出たがね、お前は。」

ティムは、じり、と紐を手繰ろうと引き寄せつつ、鋭利な視線を投げてくる。
バラけてゆく片足、ゆっくりと離れる各パーツ。
アナスイは、自分も負けじと泥でごわつく長い髪を後ろへ振り退けると、己の分身をロープに送り込む。
そして地表間近から相手を睨みつけ、気丈に言い返した。

「一本取られたな。だが…あんた…俺の能力をわかってやっているのか…?
この紐伝いに潜行し、あんたの体内の組織を全部あべこべに並べ替えてやることだってできるんだぜ…」

「…ああ、わかっているさ。だが、この俺に対して…それができるのか?」

じっと睨みあう二人。

叫び出したくなるような沈黙。

見つめ合う。只黙って。交差していく、絡み合って行く視線。
二つの心、その礎。

「………ダイバー・ダウン」

機先を制したのは、一人の少女を狂おしく想い続けた殺人鬼の声だった。



静まり返った街路。
想い人を探して一人、愛の戦士が走っている。

その男は後方を確認し、誰もいないとわかるとつと立ち止まった。

びしょぬれのデイパックを持ち直す。
そして自分のつま先を数秒見つめた後、眼を閉じた。
14歳の既婚の少女への報われぬ恋。それを一人で抱えて生きていたあの男。

『アナスイ!特別懲罰房で待つ!…いいか、待っているぞ!』
遠ざかる背中から、追うように聞こえてきた言葉を思い出す。

彼を『分解』する事はどうしてもできなかった。
(あいつは俺の置き土産に気付くだろうか?)
徐倫以外には冷え切ったと思っていた自分の心に、まだこんなことを考えさせ得る何かが残っていたなんて。

だが、それもすべて徐倫がいたからこそだ。
彼女がいなくなったりすれば、自分の全てが瓦解してしまうだろう。
最も、今自分のことはどうだっていい。
彼女だけが光なのだ。

拠点確保は今の自分にはまどろっこしすぎる。
敵だろうが中立者だろうが、とにかく接触して情報収集をしなくては。
敵ならば洗いざらいゲロさせた後殺せばよい。
その為にはコロッセオや繁華街、中心部へ行く。

今もあの子は、きっとどこかで苦しんでる。
それだけで、俺の足が動くには十分な理由だ。
俺は君を見つけ出すよ。
たとえどんな暗い穴の底だろうと、俺なら潜り込んでゆける。
二人で抜け出せばいいじゃないか。

君を愛してる。君を愛してる。

そうして全てが終わって、君さえ、君さえ良ければ…俺と………




「行ってしまった、か…」

マウンテン・ティムは帽子の登頂部を押さえ、目を閉じて一人ごちた。

スタンドを義足にして逃げ出すなんて。

思い起こす、先ほどの彼の行動。
恐ろしい速度でロープを潜行してきた彼のスタンドは、あっという間にティムの足元に潜り込むと、そのまま靴に潜り込み。
自分が愛用していたウエスタンブーツの片方を、使い物にならないくらいに分解・再構築してしまった。
組み替えられたブーツは、到底靴とは呼べない、足輪のような形。
鎖状につながれた革の輪が、地面に置いていたデイパックの取っ手に繋がれていた。
要するにこれは足止め。
思いがけない攻撃に戸惑っていると、次の瞬間にはつながっていたロープが寸断されている。
ロープにつながったまま地面に落ちていくアナスイの右足。
次の瞬間には後ろを振り向きもせずに走り去っていくその背中を、茫然と見ているしかなかった。

「あいつ…もう一度会えるのか…そうしてその時、俺達は一体…」

行く先々で起こりうるだろう苦難の道を思って、頭が痛くなりかけた。
ヴェルサスとティッツァーノはまだ穴の底だろうか?
もしそうなら、無事で済んでいるとは思い難い。
何とかして抜け出してきてほしいが、自分の持つロープと能力だけではどうしようもない。
心苦しく思いつつも、一先ず誰もいない民家かどこかで怪我の治療を行い、特別懲罰房へ行くことにする。

ぐるぐると巡る思考に眉をしかめつつも目を開く。
つなぎとめられていた片足は、すでにオー!ロンサム・ミーでばらし、輪状の枷からは抜け出している。
しかし裸足になってしまい、直接踏みしめる地面はごつごつとして気持ちの良い物ではない。
大きく嘆息してしまう。

その時、ふと気付く。
足元の泥土に小さく、アルファベットと数字の羅列が書かれていることに。
それが何を意味するか理解したとき、ティムは彼の去っていった方向をはっとした様子で見つめた。

だが眼に映るのは、相も変らぬ閑散とした風景。誰も、何も彼に語りかけはしない。
ティムはもう一度下を見た。
そこには一緒に行動した時間こそ少ないものの、憎めない相方だったあいつからの、せめてものメッセージ。


1o'c I-7
3o'c D-6
5o'c E-2

Pardon me.(すまない)


マウンテン・ティムは帽子の縁をはじくと、低く口笛を鳴らした。

【イケメン組、解散】

【F-2 日中】

【マウンテン・ティム】
[時間軸]:SBR9巻、ブラックモアに銃を突き付けられた瞬間
[状態]:左肩と腹部に巨大な裂傷痕(完治)。左足に切り傷(小)。服に血の染み。やや貧血 。全身ずぶ濡れ。右足が裸足。
[装備]:物干しロープ、トランシーバー(スイッチOFF)、アナスイの右足(膝から下)
[道具]:支給品一式×2、オレっちのコート、 ラング・ラングラーの不明支給品(0~3)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
0. アナスイ…待っているぜ…右足は預かっといてやるか。重いが。
1.どこかで軽く怪我の治療をした後、特別懲罰房へ向かう
2.事情を察したのでマイク・Oは追わない
3.「ジョースター」、「ツェペリ」に興味
4.特別懲罰房を拠点にしたい(そこでアナスイを待つ)
5.もしアナスイが再び殺人鬼になるようなら止める。生死を問わず
6.アラキを倒す
7.この穴を作ったのは誰だ?

[備考]
※放送はかすかにしか聞いておらず、 完全に把握した死者は空条承太郎、ウェザー・リポートのみです。
※禁止エリアは全て把握しました。
※アナスイ、ティッツァーノと情報交換しました。アナスイの仲間の能力、容姿を把握しました。
 (空条徐倫、エルメェス・コステロ、F.F、ウェザー・リポート、エンポリオ・アルニーニョ
  ブチャラティ、ミスタ、アバッキオ、フーゴ、ジョルノ、チョコラータ)
※ティッツァーノとの情報交換で得た情報は↓
 (自分はパッショーネという組織のギャングである。この場に仲間はいない。ブチャラティ一派と敵対している。
  暗殺チームと敵対している。チョコラータは「乗っている」可能性が高い。
  2001年に体に銃弾をくらった状態でここに来た。『トーキングヘッド』の軽い説明。)
  親衛隊の事とか、ボスの娘とかの細かい事は聞いていません。
※マイク・Oのスタンド能力『チューブラー・ベルズ』の特徴を知りました。
※マイク・Oの目的(大統領夫人の護衛)を知りました。
※ラバーソールとヴェルサスのスタンド能力と容姿を知りました。
※アナスイが愛のために暴走してしまわないか心配しています。もし暴走するようなら、アナスイの生死を問わず止める覚悟はできています。
※自分が不確定だと思った考察は話さないようです。(アナスイの精神状態を心配しての配慮です。)
※自分達が、バラバラの時代から連れてこられた事を知りました。
※ヴェルサスとティッツァーノも穴に落ちたと思っています。


【ナルシソ・アナスイ】
[時間軸]:「水族館」脱獄後
[状態]:健康 (?)全身ずぶぬれ、右足欠損(膝から下・ダイバーダウンの右足が義足になっている)
[装備]: なし
[道具]:支給品一式(食料、水2人分)、点滴、クマちゃん人形、双眼鏡、首輪(ラング)、 トランシーバー(スイッチOFF)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
0.ティム、すまない…
1.仲間を捜す(徐倫は一番に優先)情報収集の為取り敢えず一番近くてでかいコロッセオへ。
2.殺し合いに乗った奴ら、襲ってくる奴らには容赦しない
3.ウェザー…お前…
4.徐倫に会った時のために、首輪を解析して外せるようにしたい
5.アラキを殺す
6.あの穴を作ったのは誰だ?
7.徐倫に会えたら特別懲罰房へ行く…のか?

[備考]
※マウンテン・ティム、ティッツァーノと情報交換しました。
 ベンジャミン・ブンブーン、ブラックモア、オエコモバ、ブチャラティ、ミスタ、アバッキオ、フーゴ
 ジョルノ、チョコラータの姿とスタンド能力を把握しました。
※ティッツァーノとの情報交換で得た情報は↓
 (自分はパッショーネという組織のギャングである。この場に仲間はいない。ブチャラティ一派と敵対している。
  暗殺チームと敵対している。チョコラータは「乗っている」可能性が高い。
  2001年に体に銃弾をくらった状態でここに来た。『トーキングヘッド』の軽い説明。)
  親衛隊の事とか、ボスの娘とかの細かい事は聞いていません。
※マイク・Oのスタンド能力『チューブラー・ベルズ』の特徴を知りました。
※アラキのスタンドは死者を生き返らせる能力があると推測しています。
※ラバーソールとヴェルサスのスタンド能力と容姿を知りました。
※ティッツァーノの『トーキングヘッド』の能力を知りました。
※デイパックには『トーキング・ヘッド』入りの水が入っています。
※首輪は『装着者が死亡すれば機能が停止する』ことを知りました。
 ダイバー・ダウンを首輪に潜行させた際確認したのは『機能の停止』のみで、盗聴機能、GPS機能が搭載されていることは知りません。
※ヴェルサスの首筋に星型の痣があることに気が付いていません
※自分達が、バラバラの時代から連れてこられた事を知りました。
※ヴェルサスとティッツァーノも穴に落ちたと思っています。
※ダイバーダウンが義足になっています。(原作神父戦でウェザーにやったように)
その為、スタンドの行動に制限があると思われます(広範囲に動き回れない等)。
その他の細かい制限は後の書き手さんにお任せします。

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キャラを追って読む

138:バーチャルスター発生学 ナルシソ・アナスイ 161:悪意の継承者(前編)
138:バーチャルスター発生学 マウンテン・ティム 157:二兎追うものは大いに悩む
138:バーチャルスター発生学 Jガイル 162:ビッチ・ボーイ
138:バーチャルスター発生学 片桐安十郎(アンジェロ) 162:ビッチ・ボーイ

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最終更新:2010年02月15日 13:40