はや半日。
過去、過ぎ去った時間が
虹村億泰にもたらす事実はあまりに、重いものだった。
自分のわがままで別れた知人。
大木のような安心感のある物腰が失われたその姿に違和感を持ったものの、今ではそれさえ後悔する。
変に勘ぐらなければ、もう少し冷静でいられたかもしれないのに。
過去は取り戻せない。この先埋めていく術も、今の億泰は持たない。
「うっ……うぅ」
溢れる悲しみは涙に変わる。掬いあげて元に戻すことなどできない。
拳を握りしめ、歯を食いしばる力は所詮徒労。
「うおおおおおおおおおおお!」
行き場のないわだかまりは、所構わずぶつけられる。
線路を構成する鋼造りの軌条。選ばれた標的。
拳一つで殴ると、銅鑼のような音が鳴り響き、飴細工のようにレールがひしゃげ。
それだけでは飽き足らず、粘土細工のようにちぎっては投げ、ちぎっては投げの繰り返し。
この時点で原型をとどめていないが、まだ容赦しない。枕木を虱潰しに砕いていく。
知性とか理性とか、そんなものはかけらも感じられない、まるで獣の様相を呈していた。
「う、ぐう、う、おおおおおお!」
叫ぶ、吠える、哮る。
泣きじゃくる声も混じり、波となって空気を揺らす。
何せ地下だ、反響することで音量は倍となり、鼓膜をつんざく。
「やっかましいんだよ、さっきから!」
「WHOOOOOOOHHHHHHH!」
――虹村億泰の鼓膜を。
我を失い取りみだす
エシディシを、億泰はスタンドで必死に押さえこんでいた。
★
「
カーズは……我らの一族である以前に、同志だった」
泣き止んだエシディシの語り口は、先との落差を考慮に入れても異常なくらい淡々としていた。
「俺はな、奴の夢に惹かれたんだ。俺たち一族――いや、今や俺一人だが、太陽の光の下では生きられん宿命にある」
宿命を与えられるまま受け入れることなく、抗う存在。
そうやって見方を変えれば、黄金の精神を持つ者たちと同じだろう。
「カーズは天才だった。太陽を克服する、その夢を奴なら本当に実現出来るんじゃあないか。
そう思わせるほどの凄みがあった」
石仮面を発明し、赤石で脳を押すパワーを強化するという理論に到達。
ヨーロッパで条件に見合う、言わばスーパー・エイジャの所有者を見つけ、守護する波紋戦士との激闘を繰り広げる日々。
やがて2000年の眠りに落ち、目を覚ました時には波紋戦士は残りわずかとなっていた。
ついにスーパー・エイジャがヴェネチアにあると知り、ようやく自分の、カーズの悲願が果たされると内心浮足立った。
――そして、この殺し合い。
「……何だかよくわからねえけどさ」
億泰は、似た痛みを知っている。
「俺も、仗助や康一、承太郎さんが死んだって聞かされた時、同じこと思ったよ。すげーショックでさ。
ひたすら走りまわったりもした。……流石にさっきみたく泣き叫びはしなかったがよ。そいで、襲われて気絶して、そいつらの夢見たんだ」
彼も、迎え入れるはずの平穏をいともたやすく崩された被害者だ。
億泰は理解している。掴み取った日々がかき消される痛みを。
時に惑い、兄の仇敵を見つけた時のように周りを見失いもした。
「夢の中でそいつら悲しそうな顔してたよ。なんて言えばいいか分かんねーけど、心で伝わった。
こんなことしてる場合じゃあねー、あいつらの無念を晴らしてやんなきゃってな」
しかし、街をあらゆる怪奇から守るために、
東方仗助は戦った。
見た目に反し強い勇気をもってして、
広瀬康一は成長した。
経験からなる判断力としたたかさを、空条承太郎は体得していた。
彼らに恥じないよう、億泰は今度こそ立ち向かうことを誓う。
「お前も、そのカーズってやつが望んだことをすればいいんじゃあねえか? そいつもそうしてほしいはずだぜ、きっと」
人を励ます柄ではないし、自覚もある億泰にとっては、これが精いっぱい。
こういった仕事は、僅かに会っただけだがサウンドマンの方が向いている気がした。
エシディシは、ふ、と息を吐く。
「名を聞いていなかったな、人間」
「……億泰。虹村億泰だ」
「俺の名はエシディシ。人間には『柱の男』と呼ばれていた」
(柱の男、ねえ……柱どころか、大木じゃあねえの? やっぱ人間じゃあねーのな)
影で悪口じみたことを呟くが、名前を聞かれた意味を好意的に解釈したりもする。
悪くは思われていないようだし、敵意むき出しで向かってくることはないだろう。
名前を聞くタイミング的に、会話が成り立ってない気もするが。そのあたりも人間ではない感じがした。
「カーズが望んだこと……か。なるほどな」
「お、おい? どこ行くんだよ」
ホームを飛び降り、線路上に立つエシディシ。
いくらどこぞの部族のような格好をしていようと、そうだと自称しようとも。
億泰にとってその姿はいささか非常識で、奇怪だった。
「駅の路線図はもう見た。今は別行動をとっているが、行動を共にしていた者がいてな。
いるかどうかは別として、ここでじっとしているよりはましだろう」
「線路歩いて行くのかよ!?」
にべもない態度でエシディシが答える。
「違うな、『走って』だ」
と。
クラウチングスタートから始まる全力疾走。
億泰が始動を認識した時には、トップスピード。
それこそ、本来我が物顔でこの場を走る電車に比類する速度。
瞬く間に視認不可能に。
「おいおい……」
しばし、あんぐりと口を広げる億泰。
だが、ずっとそうしているわけにもいかないらしい。
かつり、かつりと段を下る音。
騒がしい大男が一人減ったからか、微々たるものだろうとよく聞こえてきた。
万全ではないことに不安を覚えつつ、それでもエシディシに対して大見栄を張ったのだからと気合を入れる。
「誰だ!」
「待ってくれ。俺はこの殺し合いに乗っていない。お前もそうなんだろう? さっきの会話からすると」
諸手を上に挙げ現れた男の見てくれは、悲惨だった。
腕を中心として無数の傷があり、右腕は人体の構造を無視した方向に折れ曲がっている。
何より特徴的なのは、左眼付近に縦一線にしかれたジッパー。
右腕をボロボロにした億泰でさえ、その姿に心を締め付けられるものがあった。
「誰かいるな……放送の内容と、
空条徐倫を知っているかを聞かせろ」
そして、また一人。
傷ついた愛の戦士がコロッセオ地下を訪れる。
【E-3 コロッセオ駅ホーム/1日目 午後】
【虹村億泰】
[スタンド]:『ザ・ハンド』
[時間軸]:4部終了後
[状態]:右腕がカビの攻撃により重症
(ザ・ハンドの『削る』能力は現在は使用不可。スタンド自体は発現可能。回復すれば使用できるようになると思われます。)
自分の道は自分で決めるという『決意』。肉体的疲労(中)、精神的には少々弱気。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式。(不明支給品残り0~1)
[思考・状況]
基本行動方針:味方と合流し、荒木、ゲームに乗った人間をブチのめす(特に音石は自分の"手"で仕留めたい)
1.とりあえず二人の対応。
2.エシディシも仲間を失ったのか……。こっちに危害は加えないらしいが。
3.仗助や康一、承太郎の意思を継ぐ。絶対に犠牲者は増やさん!
4.もう一度会ったなら
サンドマンと行動を共にする。
5.なんで吉良が生きてるんだ……!?
【備考】
※
オインゴが本当に承太郎なのか疑い始めています(今はあまり気にしていません)
※オインゴの言葉により、スタンド攻撃を受けている可能性に気付きましたが、気絶していた時間等を考えると可能性は低いと思っています
(今はあまり気にしていません)
※名簿は4部キャラの分の名前のみ確認しました。ジョセフの名前には気付いていません。
※サンドマンと情報交換をしました。 内容は「康一と億泰の関係」「康一たちとサンドマンの関係」
「ツェペリの(≒康一の、と億泰は解釈した)遺言」「お互いのスタンド能力」「
第一回放送の内容」です。
※デイパックを間違えて持っていったことに気が付きました。誰のと間違ったかはわかっていません。
(急いで離れたので、多分承太郎さんか?位には思っています。)
※エルメェスのパンティ(直に脱いぢゃったやつかは不明)はE-4に放置されました。
※『グリーン・ディ』のカビは解除されています。
【
ブローノ・ブチャラティ】
[時間軸]:護衛指令と共にトリッシュを受け取った直後
[状態]:肩に切傷(血は止まっている)、左頬の腫れは引いたがアザあり、右腕の骨折、
左手の甲と左腕に無数の傷、右肩、右大腿、左腹部に掠り傷、
左眼球付近を消失(ジッパーで処置しています)、
トリッシュの死に後悔と自責、アバッキオとミスタの死を悼む気持ち
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シャーロットちゃん、スージーの指輪、スージーの首輪、
ワンチェンの首輪、包帯、冬のナマズみたいにおとなしくさせる注射器
[思考・状況]
基本行動方針:打倒主催、ゲーム脱出
0.二人と情報交換
1.いずれジョナサンを倒す。(殺害か、無力化かは後の書き手さんにお任せします)
2.絶対にジョセフと会い、指輪を渡す。彼にはどう詫びればいいのか…
3.チームの仲間に合流する。極力多くの人物と接触して、情報を集めたい。
4.ダービー(
F・F)はいずれ倒す。
5.“ジョースター”“ツェペリ”“空条”の一族に出会ったら荒木について聞く。
特に
ジョセフ・ジョースター、
シーザー・アントニオ・ツェペリ(死亡したがエリザベス・ジョースター)には信頼を置いている。
6.ジョージはどこに行ったのだろう?
7.他のジョースターと接触を図りたい。
8.ダービー(F・F)はなぜ自分の名前を知っているのか?
9.スージーの敵である
ディオ・ブランドーを倒す
[備考]
※パッショーネのボスに対して、複雑な心境を抱いています。
※ブチャラティの投げた手榴弾の音は、B-2の周囲一マスに響きわたりました。
※波紋と吸血鬼、屍生人についての知識を得ました
※荒縄は手放しました。
※ダービー(F・F)の能力の一部(『F・F弾』と『分身』の生成)を把握しました。
※ブチャラティが持っている紙には以下のことが書いてあります。
①荒木飛呂彦について
・ナランチャのエアロスミスの射程距離内いる可能性あり
→西端【B-1】外から見てそれらしき施設無し。東端の海の先にある?(単純に地下施設という可能性も)
・荒木に協力者はいない?(いるなら、最初に見せつけた方が殺し合いは円滑に進む)
②首輪について
・繋ぎ目がない→分解を恐れている?=分解できる技術をもった人物がこの参加者の中にいる?
・首輪に生死を区別するなんらかのものがある→荒木のスタンド能力?
→可能性は薄い(監視など、別の手段を用いているかもしれないが首輪そのものに常に作用させるのは難しい)
・スティッキィ・フィンガーズの発動は保留 だか時期を見計らって必ず行う。
③参加者について
・知り合いが固められている→ある程度関係のある人間を集めている。なぜなら敵対・裏切りなどが発生しやすいから
・荒木は“ジョースター”“空条”“ツェペリ”家に恨みを持った人物?→要確認
・なんらかの法則で並べられた名前→国別?“なんらか”の法則があるのは間違いない
・未知の能力がある→スタンド能力を過信してはならない
・参加者はスタンド使いまたは、未知の能力者たち?
・空間自体にスタンド能力?→一般人もスタンドが見えることから
【
ナルシソ・アナスイ】
[時間軸]:「水族館」脱獄後
[状態]:健康 (?)全身ずぶぬれ、右足欠損(膝から下・ダイバーダウンの右足が義足になっている)
[装備]: なし
[道具]:支給品一式(食料、水2人分)、点滴、クマちゃん人形、双眼鏡、首輪(ラング)、トランシーバー(スイッチOFF)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
0.二人に
第二回放送と徐倫のことを聞く
1.仲間を捜す(徐倫は一番に優先)
2.殺し合いに乗った奴ら、襲ってくる奴らには容赦しない
3.ウェザー…お前…
4.徐倫に会った時のために、首輪を解析して外せるようにしたい
5.アラキを殺す
6.あの穴を作ったのは誰だ?
7.徐倫に会えたら特別懲罰房へ行く…のか?
[備考]
※
マウンテン・ティム、
ティッツァーノと情報交換しました。
ベンジャミン・ブンブーン、
ブラックモア、
オエコモバ、ブチャラティ、ミスタ、アバッキオ、フーゴ
ジョルノ、
チョコラータの姿とスタンド能力を把握しました。
※ティッツァーノとの情報交換で得た情報は↓
(自分はパッショーネという組織のギャングである。この場に仲間はいない。ブチャラティ一派と敵対している。
暗殺チームと敵対している。チョコラータは「乗っている」可能性が高い。
2001年に体に銃弾をくらった状態でここに来た。『トーキングヘッド』の軽い説明。)
親衛隊の事とか、ボスの娘とかの細かい事は聞いていません。
※
マイク・Oのスタンド能力『チューブラー・ベルズ』の特徴を知りました。
※アラキのスタンドは死者を生き返らせる能力があると推測しています。
※
ラバーソールとヴェルサスのスタンド能力と容姿を知りました。
※ティッツァーノの『トーキングヘッド』の能力を知りました。
※デイパックには『トーキング・ヘッド』入りの水が入っています。
※首輪は『装着者が死亡すれば機能が停止する』ことを知りました。
ダイバー・ダウンを首輪に潜行させた際確認したのは『機能の停止』のみで、盗聴機能、GPS機能が搭載されていることは知りません。
※ヴェルサスの首筋に星型の痣があることに気が付いていません
※自分達が、バラバラの時代から連れてこられた事を知りました。
※ヴェルサスとティッツァーノも穴に落ちたと思っています。
※ダイバーダウンが義足になっています。(原作神父戦でウェザーにやったように)
その為、スタンドの行動に制限があると思われます(広範囲に動き回れない等)。
その他の細かい制限は後の書き手さんにお任せします。
[備考]コロッセオ地下は駅ホーム以外は遺跡(7、8巻参照)のような構造になっています。
コロッセオ駅の線路が一部破壊されました。電車の運行にどの程度影響があるかは後の書き手さんにお任せします
★
「僕は何をやってるんだ……」
ジョナサンは、ブチャラティから速足で逃げ、今なお走り続ける。
『スティッキィ・フィンガース』の能力の恐ろしさは、以前身をもって味わった。
例え重傷の身でも、手足を失うリスクがあるのは変わらない。ゆえに、闘争より逃走を取ったのだ。
「これは、こんなのは逃げだ」
しかし、そう、逃げだ。
ジョナサン・ジョースターはブローノ・ブチャラティの気迫に恐れをなした。
このことが紛れもなく一要因として働いているし、当人も自覚している。
目的から遠ざかる行為でしかない、と。
「目を覚ませ、ジョナサン・ジョースター!
お前が全てをなかったことにするって誓いは! 全て打ち砕くって誓いは! この程度の弱さなのか!」
頬を叩いて言い聞かせても、吐きだされる呼気は相変わらず荒れている。
前に進むための足は、目立った怪我も疲労もないのにどこかおぼつかない。
ついに跪き、息を整える。
こうしている間にもブチャラティが追ってきているかもしれないのに。
蛇に睨まれた蛙のように身動きをとれず、肩を抱えて震える。
「何でこうも苦しい……!? やり方が変わった、それだけのこと!
他に目的は出来たけど、荒木に辿り着くためには、必要な事なんだ!」
今となっては死ぬことさえできない。
何もかもなかったことに出来る、自分にならそれが出来ると、希望を見出してしまったから。
ジョナサンは認めようとしない。新しい決意には、新しい痛みが伴うことを。
反省すべきは認識の甘さ。
ここには彼が目指した紳士の面影も、あえて悪を貫く戦士の姿もない。
惑い、歩む道も見出せない巨躯の男がいるだけだ。
★
『本当に、空条承太郎ってやつとその仲間を殺せば』
『ああ、一億ドルは君のものだ。殺害の手段は問わない』
『そいつはとってもお得な仕事ですね、ヒヒ』
『油断するなよ。既に何人か刺客を送り込んだが、誰一人欠けることなくここへ近づいてきている』
『心配せんでくださいよ、『黄の節制』に弱点はない』
『……試してみるか?』
『! ひっ……ひぃっ!』
『やれやれ……ここで私を倒せば報酬以上の金が手に入ると思ったか。
これに懲りたら二度とそのような愚かな考えは起こすな。さもなくば……』
『ハァー、ハァー、ハァー……!』
『私がお前を殺すぞ』
★
「くっ……」
未だジョルノの脳裏に焼きつき、時たまフラッシュバックするラバーソールの記憶。
――正確には、自らの父親『帝王DIO』の片鱗だが。
底の見えないドス黒さ、計り知れない恐怖に鳥肌が治まらない。
一度の対面しかしていない彼の記憶でさえ、上に立つべき支配者の圧倒的な印象が集約されていた。
「ディオ……良かった……」
「馴れ馴れしくするな! うっとうしい!」
それもこれも、この『ディオ』の未来の姿。
ラバーソールの記憶を頼りに塔の頂上へいくと、面影こそあるものの似ても似つかぬ未来のDIOがいた。
参加者間の時間のズレを知り、ラバーソウルの記憶を見ても、ジョルノはどこか信じきれない。
しかし、目をそむけることは出来ない。彼の聡明さは全てを見渡さんばかりに開かれている。
「プッチ神父。僕はいったんコロッセオに戻ります。
吉良さんがまだ戻ってきません。何らかのトラブルがあったのかも」
「正直に言ってくれても、私は構わない」
俯き思案するジョルノだったが、そうまで言われて引くことはできない。
「……わかりました。出会った時からそうでしたが、僕はあなたを信用できない」
神父は狼狽するわけでもなく話を聞く。強いて言うなら、僅かに眉間にしわを寄せる程の変化しかなかった。
その返答を想定していたか、していた中でも悪くない部類の答えだったのか。
二人の間の空気は変わらない。ただ、プッチが次に何を発するか考えあぐねているのみだ。
「DISCの件をあなたが知らなかったということもあり得ますが、僕はそんな答えでは納得できません」
なので、先にジョルノが自らの発言を補足する。
ジョルノ・ジョバァーナには、ギャングスターになるという夢がある。
私腹を肥やすためだけに人々に――例え子供相手でも――麻薬を広めるようなボスを許せないから打倒する、そんな夢が。
目的のためには他の痛みなど省みないDIOは、パッショーネのボスと同じなのだ。
それが分かっていてプッチに協力するのは、黄金のような夢に反する真似だ。
自分の父親であろうと――実感が薄いのもあるが――ジョルノがこのことを黙認できるはずがない。
「私の配慮不足、それは認めよう。だがここを去ってどうする? 誓いの約束は?」
「どうするかはあなたが示すことです。目的が一致するなら、戦う必要はありません。
誓いは、由花子さんとラバーソウルは非協力的ですし、吉良さんだってまだ戻ってこないんですからそもそもできませんよ」
だが何も今すぐ敵対するわけではない。
脱出に人手はいるだろうし、むやみやたらに敵を増やす必要もないのだから。
「スピードワゴンさんも連れて行きます。あなたが疑わしいと言うのなら僕が監視に付きましょう。構いませんね?」
不信感が現れていないということはないはずだが、なぜかプッチはジョルノを信頼している。
ジョルノにはそれが不思議で、なお且つ不愉快だった。
自分を『あの』DIOに重ねようとしているのなら、迷惑なことこの上ない。
しかし、その信頼を逆に利用することで、スピードワゴンの無事は確保できる。
暫しの黙考を経て首肯するプッチを確認し、足早にジョルノは塔を去る。
プッチはその姿を目で追い続ける間、ある問いを自分に投げかけた。
(結局、彼もジョースターの血統ということか?)
当然と言えば当然だ。と言うより、わかりきっていたこと。
肉体はジョナサン・ジョースター。DIOの影響はあってもDIOの血を完全に引き継げやしない。
DIOの息子と認識するのは筋違いもいいところ。
あるべき未来における
エンリコ・プッチは、DIOの息子たちを『天国へ押し上げる存在』としか認識していなかった。
彼らの命はそのためにあり、そうするのが何より幸福な生きる目的であると。ジョースター家もそれに含まれる。
しかしここにいるのはDIOの意思が融合したプッチではない。故に甘さが出る。ジョルノにそこを利用されようと尚。
(だが私は諦めない。彼には、私とDIOの深遠なる目的を必ず理解させる)
「プッチ……プッチ! 聞いているのか!」
一層決意を固めるプッチを遮るように、ディオが叫ぶ。
ディオは、プッチらが自分が知らない話を進めていることに憤慨しているのではない。
彼にとっては、目の前の小事より自分の大事だ。
「俺を陥れたユカコと変装男はどこだと聞いている!」
「由花子は館を去った。しかし、その相方は拘束済みだ。下らぬ企みの裁きは君に任せる」
怒りを隠しきれないのはプッチも同じだ。
由花子とラバーソールの計画は記憶DISCから読み取れた。
よもや共謀し、ディオを殺し合いで優勝するためのまき餌にしようとは。
知っていれば、あの場で絞め殺していただろうに。
「奴らには、この俺の誇りを傷つけた報いを受けさせるッ! 必ずな!」
ここに帝王の姿はない。
あるのは、誇りからは程遠い自尊心に満ちた、怒り狂う青年だけだ。
★
「どうしたもんかな……」
周囲の警戒に当たるウエストウッドをよそに、
岸辺露伴がつぶやく。
あくまで彼は普段『ヘヴンズ・ドアー』を『読み取る』目的で使う。
人の心を盗み見てでも知りたいという好奇心がそうさせたのだ。
『書き込む』のは必要があるときしかしない特例。
だからこそ、何を書けばどこまでやれるとか試したことはないし、今現在だって思い悩む。
(例え危険でも、彼の人間性を失わせることはなるべくしたくないからね)
そして岸辺露伴が取った暫定的措置。
治療できる場所へ運ぶ云々の記述を、『岸辺露伴を信頼する』に書き換えた。
命令を遵守し、自制を効かせられない事態を避けるためだ。
『殺し合いからの脱出に平和的に協力する』などと欲張った命令は下さない。
それは彼の持つ凶暴的な面を否定し、リアルを失わせ、人生を偽物にすることに繋がるからだ。
殺人は見ていていい気分するものではないから止めるが、他人の人格を変えてまでする気はない。
更生は、警察とか法に委ねるべきだ、と。看守である彼に更生と言うのもおかしな話ではあるが。
とにかく、リアリティを保ちたいがゆえに岸辺露伴は悩むのだ。
しかし、良かれと思ってやったことが大きな痛手にもなりうる。
これだと、疑わしい者にも鉄拳制裁で対応してしまうかもしれない。何かほかにいい書き込み方は。
「答えが出ないな。それより、あいつに放送のこと聞く方が先だね」
地図を見る気はなかったが、禁止エリアは死活問題だ。
魂を賭けはしたものの、自分の与り知らないことで命を奪われるつもりはない。
都合良く青年も通りかかった。血に塗れているのが気になるが、いざとなればスタンドを使えばいい。
「おい、そこの君! 二回目の放送聞き逃したんだけど、教えてくれないかい?」
「すいません。僕もほとんど聞き逃しちゃって……知ってる分だけでも教えましょうか?」
「ああ、頼むよ」
その言葉に露伴は舌打ちたい気分になるが、紳士的対応に免じて抑えを効かせた。
名簿を開き、青年が寄ってくる。
「えっとですね、まず死者が……」
――ヒュン
露伴の耳に空を切る音が入るのと、ウエストウッドが青年を殴ったのは同時だった。
首だけ動かし、ウエストウッドを見やる露伴。
ウエストウッドが作り出すは、拳にした右手と、青年の整った手刀を抑える左手。
青年に殺意があったと認めるには十分な証拠。
「ウラァ!」
「チィ……!」
そこからウエストウッドは、剛体を生かした強烈な体当たりで追撃。
手放し放り投げたジュースが天よりぶちまけられ、両者を濡らす。
転げ回り、共に飛び跳ねるように起き上がる。
間合いが開く。攻めに転じる前にウエストウッドが叫ぶ。
「ロハン、とっとと逃げろ!」
「その言葉に甘えさせてもらうかな……!」
先のタックルで、『ヘヴンズ・ドアー』の能力射程外程度の距離がおかれた。
肉弾戦となると車椅子の世話になっている自分にはつらいものがあるし、命令のせいでウエストウッドが露伴を庇う必要性が生じる。
露伴にとってここは離れるのが得策。
慣れない車椅子の操作でその場を離脱する露伴。
「殴る相手がいなくなってウズウズしてたとこだぜ! スカッとキレまくってはらしてやる!」
青年――ジョナサンが構え、深呼吸を始めたことで、火蓋は切って落とされた。
★
「なあ、ジョルノ。ディオのことを聞かせてくれってのは別にいいんだがよ。
その前に俺はお前が何者なのか聞かせてほしいぜ」
タルカスに断わりを入れ、門番のリンゴォに軽く挨拶し、二人はDIOの館を出た。
ホル・ホースとの約束はまだ猶予があり方向も同じなので、スピードワゴンはジョルノの事情を優先することに。
しかしそれも火急の用事ではないから、これくらいの雑談は許されるだろう。
そう踏んでいたスピードワゴンだが、肝心要のジョルノは少し憂鬱気味だ。
無理に答えなくていいんだぜ、と遅めのフォーローを入れても、沈む表情が締まることはない。
「僕は……」
答え難い質問。
『俺は、ディオの敵だッ!吸血鬼ディオの!』
こうまで言われた後で、『僕はDIOの息子です』と言える無神経さをジョルノは持ち合わせていない。
吸血鬼――およそ悪の存在として用いられる、いいイメージのない言葉。
親だの血筋だので人を決めてほしくはないとジョルノは考える。
トリッシュだってボスの娘という理由で忌避はしなかったし、襲いかかる奴らは打ちのめしてきた。
しかし、スピードワゴンがどう判断するかは分からない。断言するに足る証拠がないのだから。
二人の沈黙は、他者の乱入によって破られた。
「君たち、悪いけど僕を押して行ってくれないか?
暴漢に襲われたんだ。仲間が戦ってるけど、今の僕が追われるとまずいだろう?」
持ち前の器用さで車椅子を操る、岸辺露伴に。
「……スカッとキレまくってはらしてやる!」
「コオオオオオオ!」
間髪いれず交錯する、己を鼓舞するかのような怒声と吸気。
どうやら戦場はさほど離れていないらしい。
ジョルノとスピードワゴンは同時に振り向いたが、スピードワゴンの場合は事情が違った。
(あの深い呼吸音は、ジョースターさん!)
自然のエネルギーを取り込むかのような独自の音は、波紋の呼吸。
そこからスピードワゴンが導き出した答えは一つ。
「ジョルノ! そいつを連れて逃げろ!」
「スピードワゴンさん!」
「なあに、心配なさんな! 向こうで戦ってるのは俺の知り合いなんだからよ!」
岸辺露伴の仲間はジョナサン・ジョースターである、と。
しかし現実は非情である。
襲いかかってきたのはジョナサンで、襲われたのはウエストウッド。
ジョナサンは殺人止むなしの立場で、ウエストウッドは逆。
誤解から生まれた争いでも何でもない。
スピードワゴンは勘違いしている。不幸な事に、露伴もジョルノもそれに気づけない。
看守とチンピラが知り合いというのは少し考えればおかしいと思うはずだが、生憎非常事態でそんな余裕がなかった。
こうしてはいられないと、迷いなくハンドルを握るジョルノ。
目的地は変わらない。
「島があるのにも驚いたけど、コロッセオまであるとはね。
……って、おいおい、もしかしてあのコロッセオに行こうっていうのかい?」
「その通りです」
「冗談じゃあないよ! あんな目立つところ」
目立ち、人が集まるばなら、その分取材が出来る。
その点に関しては喜ばしいが、身動きが制限されるなか、自分から中心地へ向かっていくつもりはなかった。
焦る露伴とは対照的に、椅子を押すジョルノは自らの平静たる所以を答える。
「奇襲される可能性ですか? まずないです、番人がかなり強いんですから」
【D-3/1日目 午後】
【岸辺露伴】
[スタンド]:ヘブンズ・ドアー
[時間軸]:四部終了後
[状態]:右肩と左腿に重症(治療済みだが車椅子必須)、貧血気味(少々)、右腿にアトゥムの右足首
[装備]:ポルナレフの車椅子
[道具]:基本支給品、ダービーズチケット
[思考・状況] :
基本行動方針:色々な人に『取材』しつつ、打倒荒木を目指す。
0.一先ずジョルノと一緒にコロッセオへ避難。
1.“時の流れ”や“荒木が時代を超えてヒトを集めた”ことには一切関与しない
2.後でダービーのところに戻り決着をつける。その際色々取材したい
3.隕石を回収……ああ、そんなのあったね
[備考]
※参加者に過去や未来の極端な情報を話さないと固い決意をしました。時の情報に従って接するつもりもないです。
ヘブンズ・ドアーによる参加者の情報を否定しているわけではありません。 具体例は「
知りすぎていた男」参照。
※名簿と地図は、ほとんど確認していません(面倒なのでこれからも見る気なし。ただし地図は禁止エリアの確認には使うつもり)
※傷はシーザーのおかげでかなり回復しました。現在は安静のため車椅子生活を余儀なくされています。
※第一放送、第二放送を聞き逃しました。
※右腿に食い込んでいるダービーの足首は、露伴の足をつぶす程度のパワーはあるようです。異物感、痛みなどは全くありません。
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:メローネ戦直後
[状態]:健康、精神疲労(中)、トリッシュの死に対し自責の念、プッチからの信頼に戸惑いと苛立ち
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3
[思考・状況]
0.コロッセオへ行き、エシディシにプッチとの協力を断ち切る旨を伝える。
1.『DIO』は吐き気を催す邪悪なのでは?
2.トリッシュ……アバッキオ…!
3.ディオに変な違和感(父という事には半信半疑)→未来のDIOには不信感。
4.吉良に不信感。彼の真意を知りたい
5.ジョナサンの名前が引っ掛かる
6.プッチとエシディシに対して不信感(プッチは特に)
7.プッチとエシディシを警戒。プッチを放っておくのはまずいが、彼は疑わし過ぎる
[備考]
※
ギアッチョ以降の暗殺チーム、トリッシュがスタンド使いであること、ボスの正体、レクイエム等は知りません。
※ディオにスタンドの基本的なこと(「一人能力」「精神エネルギー(のビジョン)であること」など)を教えました。
仲間や敵のスタンド能力について話したかは不明です。(仲間の名前は教えました)
※彼が感じた地響きとは、スペースシャトルが転がった衝撃と、鉄塔が倒れた衝撃によるものです。
方角は分かりますが、正確な場所は分かりません。
※ジョナサン、ジョージの名前をディオから聞きました。ジョナサンを警戒する必要がある人間と認識しました。
※参加者が時を越えて集められたという説を聞きました
(他の可能性が考えられない以上、断定してよいと思っています。ただし、ディオが未来の父親であるという実感はありません)
※「吉良はスタンド能力を隠している」と推測しています。
※ラバーソウルの記憶DISCを見、全ての情報を把握しました。
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最終更新:2010年02月27日 16:28