【Scene.7 宇宙人、ヴァチカンへ行く】



ここサンピエトロ大聖堂は真正面から姿を見せ始めた朝日に照らされ、黄金色に輝いていた。
聖堂内に篭城していたプッチ神父はサンピエトロ広場に何らかの気配を感じ、外の様子を伺った。
すると、広場の中央付近に大きな馬が唸り声を上げて暴れまわっている。
騎手の姿は見えない。裸馬だった。
どこかから迷い込んだのか、どうやら興奮状態にあるらしい。
なんにしても、キリスト教の聖地であるこの場所には、場違いな存在だった。

プッチはホット・パンツに声をかけ、2人は外に出た。
あんなうるさい馬を放置できないからだ。
プッチは暴れまわる馬に近寄り、ホット・パンツに『ホワイト・スネイク』の姿を見られぬよう気を付けながら、素早く馬から記憶DISCを抜き去った。
途端に馬はおとなしくなり、地面に座り込んで動かなくなった。
どうやったと問うホット・パンツに、プッチはとぼけてみせる。
馬の記憶なんて覗いても仕方がないだろうし、さっさとDISCを処分してしまうか。
そう考えるプッチに、何かに気がついたホット・パンツが声を上げた。

「待って神父様! どこかで見たことがあると思ったけれど…… この馬、Dioの『シルバーバレット』だ! さっき私の話したDioの愛馬です!」
「何だとッ!?」

その言葉に、プッチの顔色が変わった。
頭の中で、プッチは先ほどの思考を撤回する。
別世界、ジョッキーとして活躍していたDioの愛馬。
彼について、何か情報が得られるかもしれない。
そして、何故Dioの愛馬がこんなところに迷い込んだのか?

多くの疑問と、それ以上の期待と好奇心がプッチの脳内を巡った。

「ム? あそこに倒れているのは誰だ?」

ホット・パンツが、今後は馬から十数メートル離れた地面に倒れる人間の姿を発見した。
2人は人影に近寄る。
間抜けそうな顔をした長身の男が、目を回して気絶していた。
シルバーバレットに乗ってきた男だろうか。
馬に乗ってこのサンピエトロ広場に訪れ、興奮したこの馬から振り落とされ、落馬して頭を打った。といったところだろう。
プッチとホット・パンツは、この気絶した男の処遇をどうするか、相談を始めた。





(ミキタカァ―――! あンのバッキャロォ~~! あんな目立つ場所で気絶しやがって!!)

ヴァチカンの国境沿い、サンピエトロ広場の外壁の支柱の一つに隠れ、ミスタは広場の様子を伺っていた。
ミキタカは暴走する馬に振り回され、この広場に辿りついたころに振り落とされてしまったようだ。

彼らにとっての不運は、このヴァチカン市国に先客がいたこと。
そして、ミスタがミキタカに追いつくより先に、その先客がミキタカに接触してしまったことだ。


(どうする? 出て行くか? しかし、相手は2人…… 何者かもわからない。だが、放っておいたらミキタカはどうなるかわからない)


ミスタの手の内にあるのは、3人で分けた閃光弾が2つ。
スタンドがまともな戦力にならないミスタが、こんなしみったれな武器を持っているくらいで出来ることなんて限られている。
もし相手がやる気満々だったとしたら、ノコノコ出ていくミスタの姿は、さながらライオンの檻の中に飛び込む間抜けな羊だ。

ミスタは支給品の懐中時計を取り出して時間を確認する。
放送まであと僅かだ。

(クソォ…… オレはこういう選択問題は苦手なんだよ! ブチャラティなら、ジョルノなら…… こんな時どうするッ!?)

飛び出すか、否か。
ミスタは選択を迫られていた。



【C-1 サンピエトロ広場 / 1日目・ 早朝】

グイード・ミスタ
[スタンド]:『セックス・ピストルズ』
[時間軸]:JC56巻、「ホレ亀を忘れてるぜ」と言って船に乗り込んだ瞬間
[状態]:健康
[装備]:閃光弾×2
[道具]:基本支給品一式、拡声器
[思考・状況]
基本的思考:仲間と合流し、主催者を打倒する
1.飛び出してミキタカを助けるか、否か。
2.ミキタカの傍にいる2人(プッチ&ホット・パンツ)は敵か、味方か。
3.ジョルノと再会したい。合流地点はダービーズ・カフェ。
(8時までにジョルノが姿を見せなければ無視するよう指示されているが……)
4.武器(特に銃)を手に入れたい。
5.死んでいったジョルノはわからないが、さっきまで一緒にいた彼はまぎれもなくジョルノだ。

※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。


ヌ・ミキタカゾ・ンシ
[スタンド?]:『アース・ウィンド・アンド・ファイヤー』
[時間軸]:JC47巻、杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、閃光弾×2、地下地図、シルバーバレット
[思考・状況]
基本的思考:ゲームには乗らない
0.気絶中
1.サイレンの音から遠ざかる ⇒ ひいいい!下ろしてくださいぃぃ~
2.知り合いがいるなら合流したい
3.承太郎さんもジョルノさんと同じように生きているんでしょうか……?

※ジョルノとミスタからブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ、フーゴ、トリッシュの名前と容姿を聞きました(スタンド能力は教えられていません)。
※第四部の登場人物について名前やスタンド能力をどの程度知っているかは不明です(ただし原作で直接見聞きした仗助、億泰、玉美については両方知っています)。
※シルバーバレットは神父にDISCを抜かれて記憶を失い、大人しく座っています。


【ホット・パンツ】
[スタンド]:『クリーム・スターター』
[時間軸]:SBR20巻 ラブトレインの能力で列車から落ちる直前
[状態]:健康
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本行動方針:元の世界に戻り、遺体を集める
1.この気絶した男は誰だ? こいつをどうする?
2.この世界の大統領を探す
3.プッチと協力する。しかし彼は信用しきれないッ……!

エンリコ・プッチ
[スタンド]:『ホワイト・スネイク』
[時間軸]:6部12巻 DIOの子供たちに出会った後
[状態]:健康
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2、シルバーバレットの記憶DISC
[思考・状況] 基本行動方針:脱出し、天国を目指す。手段は未定
1.この気絶した男は誰だ? こいつをどうする?
2.シルバーバレットの記憶DISCの中身を見たい。
3.ホット・パンツを利用する。懐柔したいが厄介そうだ……
4.ホット・パンツの話は半信半疑だが、「ジョースター」「Dio」「遺体」には興味

※プッチ達はミスタの存在には気がついていません。

【補足】
ホット・パンツの仮説
「ここはSBRレースの代わりにバトルロワイヤルの行われている世界。
大統領が何らかの理由で色々な世界からここに人間を集めている。」
プッチはこの仮説を信じていません。もっと複雑な裏があると読んでいます。




☆ ☆ ☆


【Scene.8 生き残る希望を捨てない少女たちの強い意志】



「スピードワゴン!! そこのトンネルに入れッ!!」

カイロ市街地を離れ、ティベレ運河を越えた東側へと車を走らせたシーラEたち。
彼女たちは古代環状列石の付近に設けられたトンネルの入口を発見し、地下へと救急車を走らせた。
落ち着いた環境でエルメェスの治療を行うため、周囲から身を隠せる地下へ逃げ込むことを選んだのだ。
トンネルに入り100メートルほど走らせたところで救急車を停止させる。


「エルメェスの様子はどうだっ! シーラEくんッ!!」
「正直言って、良くはないね。あの執念深いリサリサのおかげで、治療に取り掛かるのが思いのほか遅くなってしまった!」

壁の棚から予備のストレッチャーを取り出し、エルメェスの身体を寝かせる。
シーラEは患部の衣服を破り捨てた。
改めて見るエルメェスの状態は素人目にも非常に悪く、痛々しい。
身体はアザだらけ。首には物凄い握力で締め付けられた痕。
そしてなにより、胸に開けられた大穴から、血液が溢れ出していた。
だが、胸に穴を開けられたにしては、これでも出血は軽いくらいである。

こんな大怪我で、生きているのが不思議なくらい。いや、普通ならば生きているはずがない。
心臓の破壊は免れたとはいれ、胸に穴を開けられ心臓は剥き出し状態。
その状態で長時間放置されたのだから、常人ならば出血多量で既に死亡しているはずだった。

それを免れたのは、エルメェスの強靭な精神力によるもの。
既に意識は完全に失われているが、それでも彼女はまだ、スタンドの一部を操っていた。
気絶しているにもかかわらず、彼女の『キッス』は胸の大穴を必死で塞ぎ続けていた。
すべてはエルメェスの、誰にも負けない生への執着心による物だった。

「スピードワゴン!! 止血剤とガーゼだッ! それに消毒剤と糸をくれ! 縫合するぞ!!」
「シーラEくん! きみ、医療の知識はあるのか?」
「そんなものない! 勘と見様見真似だッ!! だがっ、あたしたちがやらないとエルメェスは死んじまうだろうッ!!」

スピードワゴンを怒鳴りつけ、シーラEは自分に出来うる限りの処置を必死に施す。
『できる』か『できない』かじゃあない。
『やる』か『やらない』かなのだ。
絶対に彼女を助けられると信じているかが重要なのだ。

「はぁッ…… はぁッ……… 絶対助けてやるぞッ―――――― エルメェス!!」

自らの肩の火傷を抑えながらも、鬼気迫る表情のシーラE。
自分だってリサリサに散々痛めつけられているはずなのに……
彼女だって、いつ気絶してもおかしくない激痛と戦っているはずなのに……

「何故…… そこまでしてくれるんだ…… 君は?」

スピードワゴンは、つい聞いてしまった。


元々、エルメェスを助けたいとシーラEに頼み込んだのはスピードワゴンだった。
だからシーラEには、エルメェスに対しここまでする義理は何もない。
なのに、彼女がエルメェスのため、どうしてここまで必死になってくれているのか、スピードワゴンにはわからなかった。



「………似てると思ったんだ。こいつは、あたしに――――――」

シーラEがポツリと言った。
また怒鳴られるのではないかと覚悟していたスピードワゴンは、シーラEのその掠れた小さな声に驚きを感じていた。



リサリサを体当たりでぶっ飛ばした時。
倒れていたエルメェスに初めに駆け寄った時。
シーラEはエルメェスの言葉を聞いたのだ。


「――――――姉さん、と。そう言ったんだ。こいつは」

その時、エルメェスは既に虫の息だった。
うわ言のように、ただの一言、『姉さん』と……。
エルメェスはそれ以上語ることもできず、シーラEもエルメェスについてそれ以上のことは何も知らない。
だが、その瞬間。シーラEは理解したのだ。


自分とこのエルメェスは似ている。
同じように愛する姉を失い、そして辛い過去を生きてきた人間なんだと。
そして、にも関わらず強い希望を持ち、現在を戦い続けている少女であることを――――――


言葉ではなく、心で。
魂と信念で理解できた。

エルメェスとシーラEは、いわば精神的な双子のような存在なのだ。



「助ける! 絶対に助けてやるぞ! エルメェス!!」

力強いシーラEの言葉に、スピードワゴンも頷いた。

絶対に死ねないというエルメェスの生命力と、絶対に助けるというシーラEの強い意志。
相対するは、死神の鎌と天国への扉。

どっちが勝つかの根比べだ。


【B-5 地下 ウインドナイツのトンネル 救急車の中 / 1日目 早朝】

【前を向いた老人と姉を失った2人の少女】

ロバート・E・O・スピードワゴン
[スタンド]:なし
[時間軸]:シュトロハイムに治療され、ナチス研究所で覚醒する直前
[状態]:肉体的疲労(小)、精神的疲労(大)
[装備]:救急車
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.シーラEと共にエルメェスを助ける。
2.リサリサ…… ジョージ……… すまない。
3.最初の場所で殺されたのはジョセフ……?

[備考]
救急車内に、エルメェスの基本支給品、ジョージ・ジョースターⅡ世の支給品(基本支給品一式・ナランチャの飛び出しナイフ)があります。
スピードワゴンの支給品の一つに、ドノヴァンのマントがありました。ジョージⅡ世の遺体に被せられていましたが、ジョージの遺体とともに救急車から投げ出されました。


【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:全身打撲、左肩に重度の火傷傷、肉体的疲労(大)、精神的疲労(大)、普通なら気絶しているほどの痛みがある
[装備]:救急車
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2(確認済み/武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
1.自分と似ているエルメェスを何が何でも助ける。
2.主催者のクソジジイを探し、殺す
3.リサリサの生死を確認したい。もし生きていたら殺す。
4.邪魔する奴には容赦しない
5.身体を休めたい。

[備考]
参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
(もちろんジョルノも面識がありますが死んだと思っていますので彼女の中では除外されています)
元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。

エルメェスに自分に近いものを感じています。
ただし、エルメェス自身のことはほとんど何も知りません。なんとなく感じているだけです。


エルメェス・コステロ
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前。
[状態]:気絶中、重体、全身アザだらけ、胸に大穴を開けられて出血している。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.気絶中
1.徐倫、F・F、姉ちゃん…… ごめん

[備考]
エルメェスは生きているのが不思議なくらい痛めつけられています。
客観的に見て、助かる確率は非常に低いです。
素人の手術では生存率は5%未満と考えていいでしょう。



☆ ☆ ☆


【Scene.9 時を超えた義姉弟】



遠くでのサイレンの音を頼りに、ウェザーと琢馬は東に進路を変えていた。
そうしてB-3エリアの北東部あたりまで辿りついたかと思えば、今度は走り去っていく救急車の姿を目撃した。
ウェザーはその動きを目で追うのがやっとだったが、琢馬は視線を横切る一瞬で救急車の詳細な状態を見極めていた。

車両前方にはものすごい衝撃で何かに衝突した凹み。
そして白い車体を真っ赤に染める、何者かの血液の痕。
フロントガラスは派手にひびが入り、今にも割れそうだった。


運転手の顔にも見覚えがあった。
ウェザーに悟られぬよう【本】で【検索】し、出た答えに驚愕する。

救急車を運転していたのは、あのスピードワゴン財団の設立者、ロバート・E・O・スピードワゴンの晩年の姿だった。
しかし、スピードワゴンは1952年に心臓発作で死亡している。
それに彼は生涯結婚はせず、子もいなかったはずだ。
他人の空似にしては、あまりにも瓜二つすぎる。


そして、救急車自体も特異な存在だった。
救急車の後部にでかでかと記された「杜王消防署」の文字。
あの車体は、琢馬の住む杜王町で使われている救急車と同じ種類のものだ。

ナンバープレートの番号を【検索】し、車両を特定する。
なんとあの車は、昨年の初夏に事故でとある会社員を轢き殺したものと同一の車両だった。
被害者の名前は、吉良吉影

吉良は事故死する少し前に謎の失踪を遂げており、オカルト好きな千帆が興味を持っていたことを思い出した。
吉良の失踪した日は、ムカデ屋でガス爆発があったあの日―――
琢馬が街中で承太郎を見かけたあの日とも一致していた。
さらに、吉良吉影という男の家は、配布された地図の中にも記されていたではないか。


(なんだというのだ。まったく………)


琢馬の記憶を辿れば、パズルのピールはそれこそ無制限に広がっていく。
だが、真相に辿り着けている気はまったく起きない。
自分たちの身に、一体何が起こっているのか。考えれば考えるほど、謎は深まる一方だった。



琢馬とウェザーは取り敢えず、救急車の走り去った方へ向かうことにした。
救急車に追いつけるはずもないが、特に目的地もあるわけではない。
そうして道路沿いにいくらか進み、会場内で北から2番目の橋の手前の地面に倒れる2人の人間を発見した。
近くには大破した医療用のストレッチャーの残骸がある。
数分前にさっきの救急車がここを走り去ったはずだから、その車内から投げ出されたと推理するのが自然だった。

「こっちの男は駄目だ。もう死んでいる。だが、地面に投げ捨てられて死んだわけではない。
もっと以前から死んでいたようだ」

男の方へウェザーが駆け寄り、確認する。
ウェザーは倒れている男の様子を観察して、遺体の状態を端的に告げた。
それを聞いて琢馬の方は、もうひとりの女性の方へ足を運んだ。

「こっちはまだ生きている。だが、もう助からないだろう。頭が割れて出血がひどい。
それに左腕は途中で無くなっているし、全身血塗れだ」

全身にある打撲と切り傷のあとは、車に轢かれたあとのようだった(自分も経験があるからなんとなくわかった)。
状況を考えると、さっきの救急車に轢かれたのはこの女かもしれない。
頭部の傷が真新しいことから、女の方は救急車から叩き落とされた時に致命傷を負ったのだろう。
まあ、事実がどうであれ、東方仗助の能力でも使わない限りこの女は死ぬだろう。
もちろん、琢馬はそんなこと口にはしないが。




「お前たち! そこで何があったか見ていなかったか!?」


後方から不意に掛けられた声に、ウェザーと琢馬は振り返る。
そして現れた少年の顔を見て、2人は目を丸くした。
そこに立っていたのは、忘れようにも忘れられない奇抜な髪型をした金髪の少年。
ゲーム開始前のデモンストレーションとして殺された、空条承太郎の隣に座っていたあの少年だったのだ。

ジョルノにしても、2人のこの反応は想定内。
できる限り刺激を与えないように心がけ、ジョルノは2人に更に語りかける。

「僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。僕自身の存在について疑問を感じるのは当然でしょうが、僕はあなたたちと争うつもりはありません。
それより、そこに倒れている人たちに何があったのか? ここで何があったのか知りたいんです」

傍にいたからといって、加害者だと疑って掛かるような短絡的な思考は持ち合わせていない。
もちろん警戒を怠るようなことはないが、無意味に争いに発展するようなことを避けたい。

東洋人の少年と、白人の壮年男性。
人種も年齢も全く違うにも関わらず、行動を共にしていた。
ゲームに乗っている可能性は低いのではないか、そう判断したからこそ、ジョルノは2人に声をかけたのだ。

琢馬は未だ懐疑心を向け無言を貫いていたが、ウェザーがジョルノへの警戒を軽くし、説明を始めた。

「俺たちもここへ来たばかりで、詳しいことは何もわからない。だが、この2人は走り去った救急車の車内から投げ捨てられたものだと思う。
こっちの男は既に死んでいる。そっちの女も虫の息だ」

ジョルノに掻い摘んだ状況説明をするウェザー。
黙っている琢馬の様子を伺いながら、ジョルノは彼らのもとへ駆け寄った。
死んでいる、と紹介された方の男の顔を一瞥し、ジョルノはふと『自分と似ている』という感想を持った。
だが既に死んでいる人間について深く考えることは放棄し、虫の息であるという女性の傍へ駆け寄る。
何を考えているのかわからない琢馬の動きを警戒しつつも、ジョルノは倒れている女性の状態を調べる。



「これは酷いですね。特に頭からの出血がすごい。こんな状態で生きている方が不思議なくらいだ」

軽く身体に触れる。
『ゴールド・エクスペリエンス』の能力によりさらに詳しく分析する。
彼女の生命エネルギーは尽きかかっている。
全身の骨が4割近く骨折しており、中には粉々に砕けているものもある。

先端部を失った左肘からも出血も酷く、痛みは相当なものだろう。
まるで、強力な脳内麻薬を用いて痛みを忘れさせ、身体を酷使させ続けたような状態だった。


(だが、助けられるかもしれない。僕の『ゴールド・エクスペリエンス』ならば……)

とはいえ、彼のスタンドの治癒能力はあくまで身体の『部品』を作り出すもの。
患者の体力がここまで消耗していては、可能性は低いかもしれない。
たとえ助かっても、完治させることは難しいだろう。
だがそれでも、ジョルノが手を差し伸べることによって、この女性は命をつなぐことができるかもしれない。


しかし、ジョルノはなかなか治療に踏み切る決断ができなかった。


(この女性を助けてしまって、本当にいいのだろうか。)


先刻ジョルノが訪れたカイロ市街地北部の悲惨な惨状を思い出し、ジョルノは躊躇していた。
あそこに転がっていた腕は、ほぼ間違いなくこの女性のものだった。
つまり、この女性は、あの凄惨が戦場跡の当事者なのだ。
あれほどの戦いを経験し、なおも命を繋いでいられる。
彼女がもし危険な人物だったとしたら、自分の手に負える人物なのかどうかわからない。


女性の身体に手を添えたまま考え倦ねているジョルノの手の甲に、力なく別の手のひらが添えられた。

「!?」
「まさか………」
「………………」

予想外のことにジョルノは驚き、琢馬も感嘆の声を漏らした。
そしてその様子を、ウェザーは一歩離れて見つめていた。
虫の息だった女性がわずかに意識を取り戻し、ジョルノの手に自分の手のひらを重ねたのだ。
そして、女性の瞳はジョルノの目を見つめ返し、そして掠れた声で呟いた。


「あなた…… ジョージ……… ごめ…… なさい……… わたし………」


それだけ呟き、女性の右手からは再び力が失われた。
瞳は閉ざされ、再び意識を失ってしまった。


(ジョージ…… 誰のことだ。僕のことを誰かと見間違えたのか?
もしかして、ジョージとはそこで亡くなっているもうひとりの男性のことでは………)

再び、黙り込むジョルノ。
決意は固めた。
黙り込むジョルノに、ウェザーは質問を投げかける。

「ジョルノ・ジョバァーナとやら。一体何だというのだ? その女は何者だ?」
「僕にもわかりません。ですが、僕は今から僕のスタンド能力で、彼女の治療を行います。手を貸してくれませんか?」

そしてジョルノは強い決意と込めた言葉で、ウェザーに意思を示した。
ウェザーは無意識のうちに、ジョルノのその真っ直ぐで輝かしいオーラを気に入り、自らの意思も固めた。


「わかった。俺たちもお前に聞きたいことはたくさんある。お前は悪人ではないようだし、とりあえず信じて従おう」
「俺もこいつほどお前を信用しているわけではないが、とりあえずは了解した」

ジョルノの正体。
見せしめとして殺されたはずのジョルノがなぜ生きているのか。
聞きたいことは山ほどある。
ウェザーと琢馬はジョルノの提案を呑み、行動を共にすることを了承した。

「ありがとうございます。よければ、おふたりの名前を伺っても宜しいですか?」
ウェザー・リポート
「………蓮見琢馬だ」



運命に導かれて引かれあったジョルノ・ジョバァーナとジョージ・ジョースターⅡ世。
彼らは父親も母親も違う、そして年齢すら100歳近く離れた実の兄弟である。
そしてジョージの妻、エリザベス。
彼女こそが今回の災悪の元凶であることを、ジョルノたちはまだ知らない。
世代をも超えたこの運命的な出会いは、ジョルノ・ジョバァーナの未来に何を及ぼすのか。

時刻はまもなく、午前六時。
ローマは第一回放送の朝を迎える。


【A-3 ピエトロ・ネンニ橋の西側 / 1日目 早朝】


【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:健康、やや興奮状態
[装備]:閃光弾×1
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える 。
1.瀕死の女性(リサリサ)の治療を行う。
2.ウェザー、琢馬と情報交換。
3.ミスタたちとの合流。できれば午前8時までにダービーズ・カフェに戻りたい。
4.この女性(リサリサ)とジョージとの関係は? カイロ市街地北部で一体何があった?
5.救急車の行方など、その他のことは放送後にゆっくり考える。

[参考]
時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。
ウェザーについてはある程度信頼、琢馬はまだ灰色です。


【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:身体疲労(中)、右肩にダメージ(中)、右半身に多数の穴、
[装備]:スージQの傘、エイジャの赤石
[道具]: 基本支給品×2、不明支給品1~2(確認済み/ブラックモア
[思考・状況]
基本行動方針:襲いかかってきたやつには容赦しない。
1.ジョルノと情報交換。特に見せしめで死んだはずのジョルノの秘密が知りたい。
2.琢馬について、なにか裏があることに勘付いているが詮索する気はない。
 敵対する理由がないため現状は仲間。それ以上でもそれ以下でもない。
3.妹、か……
4.今後については放送後、ジョルノ、琢馬らと相談して決める。


【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:憂鬱、思案中、精神疲労(中)、身体疲労(小)
[装備]:双葉家の包丁
[道具]: 基本支給品、不明支給品2~4(琢馬/照彦:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
1.ジョルノと情報交換。特に見せしめで死んだはずのジョルノの秘密が知りたい。だがジョルノはまだ信用できない。
2.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない。
3.千帆との再会を望むが、復讐をどのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。
4.妹、か……
5.今後については放送後、ジョルノ、ウェザーらと相談して決める。

[参考]
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
琢馬は救急車を運転していたスピードワゴン、救急車の状態、杜王町で吉良吉影をひき殺したものと同一の車両であることを確認しましたが、まだ誰にも話していません。
スピードワゴンの顔は過去に本を読んで知っていたようです。


【リサリサ】
[時間軸]:ジョセフの葬儀直前。
[状態]:気絶中、重体、頭部裂傷(致命傷)、全身複雑骨折、全身打撲、左腕切断(肘から先)、精神崩壊。
[装備]:承太郎のタバコ(17/20)&ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品1
[思考・状況]基本行動方針:優勝してジョセフを蘇らせる。
1:???

[参考]
リサリサの頭部の傷は生きているのが不思議なくらいの致命傷です。
ジョルノの治療がなければ数分で死亡します。
また左腕の切断部からの出血も激しく、こちらも放置すると死に至ります。
その他、救急車の体当たりを食らった際に全身打撲および複雑骨折を負い、まともに動ける体ではありません。
(作中では波紋の呼吸により痛みを軽減して無理をしていました)
ジョルノの治療を経ても完治することは難しいです。
特に脳には重大な障害が残る可能性が高いです。(重要)

※リサリサが初めから所持していたサングラスは破壊されました。
現在は裸眼です。




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キャラを追って読む

前話 登場キャラクター 次話
083:由来 ロバート・E・O・スピードワゴン 106:男たちの挽歌
050:戦う女と泣けない復讐者 リサリサ 108:メメント
073:『ボス』の役目とは ヌ・ミキタカゾ・ンシ 121:聖堂に運ばれた2人の男
073:『ボス』の役目とは ジョルノ・ジョバァーナ 108:メメント
073:『ボス』の役目とは グイード・ミスタ 121:聖堂に運ばれた2人の男
050:戦う女と泣けない復讐者 エルメェス・コステロ 106:男たちの挽歌
086:愛してる ――(I still......) 後編 ウェザー・リポート 108:メメント
054:心全て引力 エンリコ・プッチ 121:聖堂に運ばれた2人の男
054:心全て引力 ホット・パンツ 121:聖堂に運ばれた2人の男
086:愛してる ――(I still......) 後編 蓮見琢馬 108:メメント
083:由来 シーラE 106:男たちの挽歌

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最終更新:2012年12月01日 04:10