現代日本を〈わたし〉から考える ―「新型うつ」という警告 ―
発表者:小松 美由紀 指導教員:亀山 純生
発表者:小松 美由紀 指導教員:亀山 純生
1. 背景と目的
レジャーには行けるが仕事はできない。そんな「うつ」が社会問題になっている。多くの専門家がこの型破りな「うつ」について考察しているが、統一的な見解はまだなく、現場は診断や治療に頭を悩ませている。企業等による理解・対策も不十分であり、あまり楽観できる状況ではない。
本研究では、近年増加傾向にあるこの「うつ」を「新型うつ」という言葉で表し、これをテーマとする。そして、「新型うつ」を「特殊な病気」としてではなく身近な問題として扱うべく、〈わたし〉(≒心)という概念を導入する。〈わたし〉を持ち出すのは、「新型うつ」が一面的にのみ理解されるのを、ワンクッション置くことで避けるためだ。また、〈わたし〉を用いることで、「新型うつ」の人の社会における立ち位置が理解しやすくなり、さらにそこから一般人にもできる対策が見えてくるのではないか、という期待もある。
本研究の目的は、「新型うつ」問題を〈わたし〉という言葉を用いて分析し、問題解決のヒントを提示することである。その際、現代日本の〈わたし〉が置かれた状況を理解し、より現状に即した内容にすることを目的に、〈みんな〉(≒空気、世間)という概念も取り入れる。
レジャーには行けるが仕事はできない。そんな「うつ」が社会問題になっている。多くの専門家がこの型破りな「うつ」について考察しているが、統一的な見解はまだなく、現場は診断や治療に頭を悩ませている。企業等による理解・対策も不十分であり、あまり楽観できる状況ではない。
本研究では、近年増加傾向にあるこの「うつ」を「新型うつ」という言葉で表し、これをテーマとする。そして、「新型うつ」を「特殊な病気」としてではなく身近な問題として扱うべく、〈わたし〉(≒心)という概念を導入する。〈わたし〉を持ち出すのは、「新型うつ」が一面的にのみ理解されるのを、ワンクッション置くことで避けるためだ。また、〈わたし〉を用いることで、「新型うつ」の人の社会における立ち位置が理解しやすくなり、さらにそこから一般人にもできる対策が見えてくるのではないか、という期待もある。
本研究の目的は、「新型うつ」問題を〈わたし〉という言葉を用いて分析し、問題解決のヒントを提示することである。その際、現代日本の〈わたし〉が置かれた状況を理解し、より現状に即した内容にすることを目的に、〈みんな〉(≒空気、世間)という概念も取り入れる。
2.「新型うつ」問題について
1) 「新型うつ」の特徴
「新型うつ」は一部のマスコミや専門家が一般向けに用いている言葉であり、正式な病名ではない。本研究における「新型うつ」は、「新型うつ(病)」「現代型うつ病」等と呼ばれているものを総合し、共通項をもとに簡単に再定義したものである。
以下に「新型うつ」の主な特徴を3つ挙げる。①自分の好きな活動の時には元気になるが、仕事や勉学においてはうつ状態になる ②他罰的なことが多く、自己中心的に見える ③20~30代の若い人に多い。これらの他に、他人の発言を被害的にとらえる、衝動的に自傷行為をする等のケースもある。
こうした「新型うつ」と良く比較されるのが、メランコリー型のうつ病だ。これを「従来型うつ」とし、以下に主な特徴を3つ挙げる。①無気力状態や不安感がほとんど毎日続く ②自罰的なことが多く、自殺衝動が起きやすい ③中高年に多いとされていたが、近年は低年齢化している。
1) 「新型うつ」の特徴
「新型うつ」は一部のマスコミや専門家が一般向けに用いている言葉であり、正式な病名ではない。本研究における「新型うつ」は、「新型うつ(病)」「現代型うつ病」等と呼ばれているものを総合し、共通項をもとに簡単に再定義したものである。
以下に「新型うつ」の主な特徴を3つ挙げる。①自分の好きな活動の時には元気になるが、仕事や勉学においてはうつ状態になる ②他罰的なことが多く、自己中心的に見える ③20~30代の若い人に多い。これらの他に、他人の発言を被害的にとらえる、衝動的に自傷行為をする等のケースもある。
こうした「新型うつ」と良く比較されるのが、メランコリー型のうつ病だ。これを「従来型うつ」とし、以下に主な特徴を3つ挙げる。①無気力状態や不安感がほとんど毎日続く ②自罰的なことが多く、自殺衝動が起きやすい ③中高年に多いとされていたが、近年は低年齢化している。
2) 「新型うつ」をどう解釈するか
「新型うつ」は「従来型うつ」が変容したものだと理解する人もいるようだが、それは表面的な解釈である。精神科外来における「新型うつ」の割合が大きくなってきたのは2005年頃だ。(上野,2010)しかし、1970年代には既に「新型うつ」に類似するものが確認されており、「逃避型抑うつ」(広瀬)などが提唱されていた。また、うつ病全体に占める「従来型うつ」の割合はおそらく減っているが、うつ病の人の数は増えている。「従来型うつ」は決して過去のものではない。
「新型うつ」に対する専門家の見解は多様である。正式な病名で解釈する場合、主に以下の4つ、特に前半の2つが挙げられているようだ。①非定型のうつ病 ②発達障害やパーソナリティ障害+うつ病 ③適応障害(+うつ病) ④双極性障害(躁うつ病)のⅡ型。また、上記とは別に、「ディスチミア親和型(のうつ病)」(樽味)や「逃避型抑うつ」等、独自に提唱された病型で理解する専門家もいる。これらのどれかが正しいというより、病気とすべきでないケースも含め様々な要素が混ざっているのが「新型うつ」の実態なのかも知れない。ただし、実際にはうつ病と診断されることが多いようだ。
「新型うつ」は「従来型うつ」が変容したものだと理解する人もいるようだが、それは表面的な解釈である。精神科外来における「新型うつ」の割合が大きくなってきたのは2005年頃だ。(上野,2010)しかし、1970年代には既に「新型うつ」に類似するものが確認されており、「逃避型抑うつ」(広瀬)などが提唱されていた。また、うつ病全体に占める「従来型うつ」の割合はおそらく減っているが、うつ病の人の数は増えている。「従来型うつ」は決して過去のものではない。
「新型うつ」に対する専門家の見解は多様である。正式な病名で解釈する場合、主に以下の4つ、特に前半の2つが挙げられているようだ。①非定型のうつ病 ②発達障害やパーソナリティ障害+うつ病 ③適応障害(+うつ病) ④双極性障害(躁うつ病)のⅡ型。また、上記とは別に、「ディスチミア親和型(のうつ病)」(樽味)や「逃避型抑うつ」等、独自に提唱された病型で理解する専門家もいる。これらのどれかが正しいというより、病気とすべきでないケースも含め様々な要素が混ざっているのが「新型うつ」の実態なのかも知れない。ただし、実際にはうつ病と診断されることが多いようだ。
3) 「新型うつ」の何が問題なのか
「新型うつ」が当人や精神医学にとって重大なのは言うまでもないが、企業にとっても深刻な問題になりつつある。ここではその大枠だけ書くが、論文では「新型うつ」問題の全体像をイメージできるように、具体的な事例を紹介する。
企業における「新型うつ」で苦しむ・困るのは、本人、同僚や上司、「従来型うつ」の人、企業だろう。一方、「新型うつ」に対する姿勢に問題がありそうなのは、本人、同僚や上司、企業、精神科医、マスコミである。
メンタルヘルスに関する視点が欠けている企業では、「新型うつ」の人は辞めさせれば良いと考えるかも知れない。しかし、「新型うつ」と混同された「従来型うつ」の有能な社員を失いかねない、会社のイメージが悪くなるなど、それは必ずしも得策ではない。また、社会全体としては何の解決にもならない。
「新型うつ」が当人や精神医学にとって重大なのは言うまでもないが、企業にとっても深刻な問題になりつつある。ここではその大枠だけ書くが、論文では「新型うつ」問題の全体像をイメージできるように、具体的な事例を紹介する。
企業における「新型うつ」で苦しむ・困るのは、本人、同僚や上司、「従来型うつ」の人、企業だろう。一方、「新型うつ」に対する姿勢に問題がありそうなのは、本人、同僚や上司、企業、精神科医、マスコミである。
メンタルヘルスに関する視点が欠けている企業では、「新型うつ」の人は辞めさせれば良いと考えるかも知れない。しかし、「新型うつ」と混同された「従来型うつ」の有能な社員を失いかねない、会社のイメージが悪くなるなど、それは必ずしも得策ではない。また、社会全体としては何の解決にもならない。
4) なぜ「新型うつ」が増えたのか
「新型うつ」が増えた背景や理由については様々な説がある。それらを逃げるという言葉で整理すると、①うつに逃げやすい状況 ②逃げ出したくなる環境 ③逃げてしまいがちな人、という3つに大別できる。
①は、うつ病が社会的に認知され抵抗が少なくなった、うつ病の診断基準が甘くなった等である。②には、成果主義による職場環境の変化、景気や環境問題などへの不安等が当てはまる。③は、現代人が弱体化した、自己愛の強い人が増えた等だ。
「新型うつ」が増えた背景や理由については様々な説がある。それらを逃げるという言葉で整理すると、①うつに逃げやすい状況 ②逃げ出したくなる環境 ③逃げてしまいがちな人、という3つに大別できる。
①は、うつ病が社会的に認知され抵抗が少なくなった、うつ病の診断基準が甘くなった等である。②には、成果主義による職場環境の変化、景気や環境問題などへの不安等が当てはまる。③は、現代人が弱体化した、自己愛の強い人が増えた等だ。
3. 〈わたし〉について
これ以降の部分に関しては、まだ内容が固まっていない。〈わたし〉を通して考えたいのは、2-4)でいう③や、人間関係の部分である。
〈わたし〉の定義は「 一人の人間である「私」の(対象化された)心・自我であり、知識(記憶)・感情・意志等の総体 」である。
〈わたし〉には以下の2つの特徴がある。①認識できる〈わたし〉は言語化された〈わたし〉のみ ②認識できる〈わたし〉は過去化された〈わたし〉(「私」の痕跡)であり、しかもその一部のみ。 これらに注意しつつ、〈わたし〉を図にして説明していく予定だ。
これ以降の部分に関しては、まだ内容が固まっていない。〈わたし〉を通して考えたいのは、2-4)でいう③や、人間関係の部分である。
〈わたし〉の定義は「 一人の人間である「私」の(対象化された)心・自我であり、知識(記憶)・感情・意志等の総体 」である。
〈わたし〉には以下の2つの特徴がある。①認識できる〈わたし〉は言語化された〈わたし〉のみ ②認識できる〈わたし〉は過去化された〈わたし〉(「私」の痕跡)であり、しかもその一部のみ。 これらに注意しつつ、〈わたし〉を図にして説明していく予定だ。
4. 〈みんな〉について
まだ曖昧だが、世間や空気と呼ばれるものに近い。日本に特有で、圧力や絶対性を持つ。〈みんな〉を用いて2-4)の②③を考えたい。
まだ曖昧だが、世間や空気と呼ばれるものに近い。日本に特有で、圧力や絶対性を持つ。〈みんな〉を用いて2-4)の②③を考えたい。
5. 結論の方向性
〈わたし〉〈みんな〉で明らかになったことから、解決策を検討する。ジレンマや人間関係でのすれ違いがあるようなので、コミュニケーションに関するものが多くなりそうだ。
〈わたし〉〈みんな〉で明らかになったことから、解決策を検討する。ジレンマや人間関係でのすれ違いがあるようなので、コミュニケーションに関するものが多くなりそうだ。
6. 参考文献
上野玲『都合のいい「うつ」』祥伝社新書,2010
山田和男『医者を悩ます「ニュータイプの
うつ病」がわかる本』講談社,2009
香山リカ『うつで困ったときに開く本』
朝日新書,2009
上野玲『都合のいい「うつ」』祥伝社新書,2010
山田和男『医者を悩ます「ニュータイプの
うつ病」がわかる本』講談社,2009
香山リカ『うつで困ったときに開く本』
朝日新書,2009