亀山研4年生ゼミ 輪読
海上知明2005『環境思想 歴史と体系』NTT出版
2011/05/11 駒津弘和
海上知明2005『環境思想 歴史と体系』NTT出版
2011/05/11 駒津弘和
[第二章]現代環境思想以前の思想をめぐる論争
1 環境思想の始祖とは
●プラトン『クリティアス』
→土壌流出と森林伐採の被害について記す。
→自然破壊の問題や自然との共生を説いた思想家は古代から存在していた。
→原「環境思想」が多く生まれていた。(特に東洋)
●プラトン『クリティアス』
→土壌流出と森林伐採の被害について記す。
→自然破壊の問題や自然との共生を説いた思想家は古代から存在していた。
→原「環境思想」が多く生まれていた。(特に東洋)
「有機秩序」=動物裁判とアリストテレス的世界観
→環境問題の発生源とされるヨーロッパにおいても、問題の悪化に伴って起こった発想。
害をなす動物を人間と同様に「神」の名で裁判にかける。
⇔しかしそれは同時に「人間中心主義」の面を持つ。
→環境問題の発生源とされるヨーロッパにおいても、問題の悪化に伴って起こった発想。
害をなす動物を人間と同様に「神」の名で裁判にかける。
⇔しかしそれは同時に「人間中心主義」の面を持つ。
●何故このように見方・評価が分かれるのか
- 環境思想としてどこまで自然と人間の関わりを深く見ていくかによって異なる
・当然、時代・社会の評価によっても異なる
・評価は思想家の立脚する環境思想によって異なる
・系譜的に、どのような形で過去の思想と結び付けられるかによって異なる
Ex)人間を自然の中の秩序で位置付ければ、環境思想?
・評価は思想家の立脚する環境思想によって異なる
・系譜的に、どのような形で過去の思想と結び付けられるかによって異なる
Ex)人間を自然の中の秩序で位置付ければ、環境思想?
●環境問題の原点をどこに置くか
→ハーディン、エーリック →「人口爆発」
コモナー →「科学技術の発達」
リーン・ホワイト・ジュニア →「キリスト教の解釈」
ブクチン →「人間の人間に対する支配」
フォアマン →「にんげんそのもの」
→ハーディン、エーリック →「人口爆発」
コモナー →「科学技術の発達」
リーン・ホワイト・ジュニア →「キリスト教の解釈」
ブクチン →「人間の人間に対する支配」
フォアマン →「にんげんそのもの」
⇒特に激しい議論が交わされる、キリスト教の問題、マルキシズムの問題、マルサスの問
題を見てみる。
特にマルサスは現代環境思想を二分するほどの激しい論争が展開した。
題を見てみる。
特にマルサスは現代環境思想を二分するほどの激しい論争が展開した。
2 キリスト教の問題
なぜキリスト教の問題は最も激しく議論されたか?
●きっかけとしてのリーン・ホワイト・ジュニア『機会と神』1966
→生態系の危機を今日のレベルに押し上げたのは、ユダヤ・キリスト教である。
『創世記』第一章二十八節が特に問題
「神は彼らを祝福して言われた。『生めよ、ふえよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動く全ての生き物とを治めよ』。神はまた言われた。『わたしは全地のおもてにある種をもつすべての草と、種のある実を結ぶすべての木とをあなたがたにあたえる。これはあなたがたの食物になるであろう』」
→神の言葉を大義名分として人間の自然支配は加速した。
人間に対する搾取は悪しきことでも、自然に対する搾取は正義。
※ホワイト以前にもルネ・デュボスなどがいたが、本格的な論戦はホワイト以降とする。
なぜキリスト教の問題は最も激しく議論されたか?
●きっかけとしてのリーン・ホワイト・ジュニア『機会と神』1966
→生態系の危機を今日のレベルに押し上げたのは、ユダヤ・キリスト教である。
『創世記』第一章二十八節が特に問題
「神は彼らを祝福して言われた。『生めよ、ふえよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動く全ての生き物とを治めよ』。神はまた言われた。『わたしは全地のおもてにある種をもつすべての草と、種のある実を結ぶすべての木とをあなたがたにあたえる。これはあなたがたの食物になるであろう』」
→神の言葉を大義名分として人間の自然支配は加速した。
人間に対する搾取は悪しきことでも、自然に対する搾取は正義。
※ホワイト以前にもルネ・デュボスなどがいたが、本格的な論戦はホワイト以降とする。
●リーンのキリスト教への評価
←一律に批判したわけでは無くギリシァ正教会、アッシジ聖フランチェスコに対しては
評価している。
→問題はローマ・カトリック教会のあり方
「自然を操作しようとするような自然神学の考え方が、どうして13世紀に。そしてラ
テン西欧のみに生まれたのだろうか」
→キリスト教は、もともと二千年以上の間人々の土台にあったギリシァ的な思考類型の
上に、新しい上部構造を形作る力になったと主張。
→しかし、反論が相次ぐ
主な内容として、キリスト教の本意は人間による自然支配ではない。
・『聖書』の真意は人間に自然の管理者として責任を負わせるものである
(グラッケン、デュボス、パスモアら)
・スチュワード精神の忘却に問題がある
(シューマッハ、ネスら)
←一律に批判したわけでは無くギリシァ正教会、アッシジ聖フランチェスコに対しては
評価している。
→問題はローマ・カトリック教会のあり方
「自然を操作しようとするような自然神学の考え方が、どうして13世紀に。そしてラ
テン西欧のみに生まれたのだろうか」
→キリスト教は、もともと二千年以上の間人々の土台にあったギリシァ的な思考類型の
上に、新しい上部構造を形作る力になったと主張。
→しかし、反論が相次ぐ
主な内容として、キリスト教の本意は人間による自然支配ではない。
・『聖書』の真意は人間に自然の管理者として責任を負わせるものである
(グラッケン、デュボス、パスモアら)
・スチュワード精神の忘却に問題がある
(シューマッハ、ネスら)
●キリスト教そのものを弁護する主張
←ジョセフ・シットラー、ポール・シェパード、ヘンリック・スコルモフスキー
→ホワイト自身も問題はキリスト教ではなく、ローマ・カトリックによる誤った解釈と
する。
←ジョセフ・シットラー、ポール・シェパード、ヘンリック・スコルモフスキー
→ホワイト自身も問題はキリスト教ではなく、ローマ・カトリックによる誤った解釈と
する。
●ホワイトへの評価とホワイト自身の考え
→ウォーウィック・フォックスはホワイトによってキリスト教が人間中心主義に果たし
た役割が明白になり、背後に横たわる思想構造の問題を見つけ出した。
→ホワイト自身は徐々にキリスト教批判をトーンダウンさせ、論点を宗教全般に問題が
あるという形に改めている。
→ウォーウィック・フォックスはホワイトによってキリスト教が人間中心主義に果たし
た役割が明白になり、背後に横たわる思想構造の問題を見つけ出した。
→ホワイト自身は徐々にキリスト教批判をトーンダウンさせ、論点を宗教全般に問題が
あるという形に改めている。
⇒ホワイトが提起した問題の対立はキリスト教の解釈をめぐるものであり、今日の環境主
義の分化(人間中心vs自然中心、ヒューマニズムvsエコロジーなど)以前の内容であ
る。
これによって環境神学が大きく発達していった。
ローマ・カトリックに限らず、キリスト教は破壊・保護どちらにも解釈が可能である。
しかし、ヨーロッパで必要とされたのは、自然克服という解釈であった。
義の分化(人間中心vs自然中心、ヒューマニズムvsエコロジーなど)以前の内容であ
る。
これによって環境神学が大きく発達していった。
ローマ・カトリックに限らず、キリスト教は破壊・保護どちらにも解釈が可能である。
しかし、ヨーロッパで必要とされたのは、自然克服という解釈であった。
3 マルクスの評価
2節から、マルキシズムは「その根元は西欧文明にあり、概念の構造はキリスト教に類似
していた。」をうけて
ソ連崩壊を受けて、マルキシズムは新たな道を探しだすが、環境問題が表面化すること
でマルキシズムはその左翼的思想をエコロジー化していく。
2節から、マルキシズムは「その根元は西欧文明にあり、概念の構造はキリスト教に類似
していた。」をうけて
ソ連崩壊を受けて、マルキシズムは新たな道を探しだすが、環境問題が表面化すること
でマルキシズムはその左翼的思想をエコロジー化していく。
●マルクスの生きた時代と思想
←進歩と機械論と科学信奉という社会的背景から抜け出ない。
→パスモアによると自然を人間のために効用を備えた物質とみなした。
=マルキシズムの典型的立場
メラーによると、マルクスは資本主義的工業システムを前提に理論を展開した。
=自然破壊が問題ではなく、生産手段の所有者は誰か、価値配分はどうかを問題視
→また、エネルギーフロー、人口問題、貧困問題にも関心がなかったと指摘されている。
←進歩と機械論と科学信奉という社会的背景から抜け出ない。
→パスモアによると自然を人間のために効用を備えた物質とみなした。
=マルキシズムの典型的立場
メラーによると、マルクスは資本主義的工業システムを前提に理論を展開した。
=自然破壊が問題ではなく、生産手段の所有者は誰か、価値配分はどうかを問題視
→また、エネルギーフロー、人口問題、貧困問題にも関心がなかったと指摘されている。
●マルクスの思想の問題
→ハンス・イムラーによると、マルクスの思想の柱の一つである労働価値説が自然を除
外して成立していること。資源の無限性を前提として議論している。
→マルサス批判が最大の要因との指摘もある。マルクスにとって、人口問題は産業予備
軍の問題、資源問題は配分問題とされ、ここでも自然の潜在力が過度に評価されてい
た。
→ハンス・イムラーによると、マルクスの思想の柱の一つである労働価値説が自然を除
外して成立していること。資源の無限性を前提として議論している。
→マルサス批判が最大の要因との指摘もある。マルクスにとって、人口問題は産業予備
軍の問題、資源問題は配分問題とされ、ここでも自然の潜在力が過度に評価されてい
た。
⇒環境思想家としてのマルクスの評価は、高く評価する者、問題を指摘する者様々だが、
恐らく評価することは、時代の制約もあってか難しいのでは。
恐らく評価することは、時代の制約もあってか難しいのでは。
語句
- 機械論
様々な自然現象について、精神・意志・霊魂といった概念を用いずに、専らその部分
や要素からの決定的因果関係によって解釈されるという立場。
提唱の古くはデモクリトス、有名なのはデカルト。
⇔目的論・生気論
や要素からの決定的因果関係によって解釈されるという立場。
提唱の古くはデモクリトス、有名なのはデカルト。
⇔目的論・生気論
4 マルキシズムの解釈
●ゴールドマンによる分析
→自然への関心の高さについてレーニン、マルクス、エンゲルスの三者で比較すると、最
高はエンゲルス、最低はマルクスであった。
→マルクス・エンゲルスと一括りにされるが、環境思想については分けるべき。
●ゴールドマンによる分析
→自然への関心の高さについてレーニン、マルクス、エンゲルスの三者で比較すると、最
高はエンゲルス、最低はマルクスであった。
→マルクス・エンゲルスと一括りにされるが、環境思想については分けるべき。
●現在のマルキシズム
→「マルキシズムとエコロジー」は最近注目されている。
→しかし、環境思想的にかつてのマルキシズムを評価するのは相当な無理がある。
何故???
→「マルキシズムとエコロジー」は最近注目されている。
→しかし、環境思想的にかつてのマルキシズムを評価するのは相当な無理がある。
何故???
⇒マルクスのみに限定した狭義のマルキシズムの環境思想は限界があるが、他の多くの思
想家を含む広義のマルキシズム(エンゲルス『自然の弁証法』、ウィリアム・モリス『エ
コトピア』など)には、環境思想としての可能性が含まれている。
想家を含む広義のマルキシズム(エンゲルス『自然の弁証法』、ウィリアム・モリス『エ
コトピア』など)には、環境思想としての可能性が含まれている。
5 マルサスをめぐる論争
マルサスの思想は環境思想以前から多くの著名な論争が展開されてきた。マルサスの思想はこれまでのキリスト教やマルキシズムとは異なり、環境思想と呼べる。
マルサスの思想は環境思想以前から多くの著名な論争が展開されてきた。マルサスの思想はこれまでのキリスト教やマルキシズムとは異なり、環境思想と呼べる。
●人口問題の原点としてのマルサス思想
→ネオ・マルサス主義や、生態系保存論、一部のディープ・エコロジストは人口爆発を
敵視。
社会派エコロジストは、人口爆発を神話とみなす。
また初期に人口爆発を糾弾したのはギャレット・ハーディンである。
→ネオ・マルサス主義や、生態系保存論、一部のディープ・エコロジストは人口爆発を
敵視。
社会派エコロジストは、人口爆発を神話とみなす。
また初期に人口爆発を糾弾したのはギャレット・ハーディンである。
→マルサスの思想、特に『人口論』は科学的な装いの中にも弱者を切り捨てる思想が含
まれている点で適者生存というダーウィン思想が見られ、人種問題にも関与している。
まれている点で適者生存というダーウィン思想が見られ、人種問題にも関与している。
⇒思想のどの部分を強調するかによって、環境思想にも反環境思想にもなりうる。マルサ
スの論争はその意味で、マルサスという思想家を巡る以上に今日の諸環境思想を巻き込
む議論になっている。
スの論争はその意味で、マルサスという思想家を巡る以上に今日の諸環境思想を巻き込
む議論になっている。
語句
- マルサス
『人口論』
人口は幾何級数的に増加する一方で、食料は算術級数的にしか増加し得ないため、人口
が増加すれば、貧困が発生する。
→人間自身が自然選択圧を受けていくことになる。
人口は幾何級数的に増加する一方で、食料は算術級数的にしか増加し得ないため、人口
が増加すれば、貧困が発生する。
→人間自身が自然選択圧を受けていくことになる。
- ネオ・マルサス主義
マルサスの人口理論を肯定しつつも、人口抑制の手立てとしてマルサスの言う道徳的抑
制ではなく、受胎調節の必要性を訴える立場。
制ではなく、受胎調節の必要性を訴える立場。
- ディープ・エコロジー
思想のつながり
キャリコット →プラトン
ピーター・シンガー →ジェレミー・ベンサム
アルネ・ネス →スピノザ、ガンジー
ハンス・イムラー →ケネー、フィジオクラシー
マレイ・ブクチン →アナーキスト達
キャロリン・マーチャント →ギャレット・ハーディン、ホッブズ
キャリコット →プラトン
ピーター・シンガー →ジェレミー・ベンサム
アルネ・ネス →スピノザ、ガンジー
ハンス・イムラー →ケネー、フィジオクラシー
マレイ・ブクチン →アナーキスト達
キャロリン・マーチャント →ギャレット・ハーディン、ホッブズ
