夢子ちゃんの所へ戻ろうとしていた俺は今、階段上からひたすらシャッターを切っていた。
「何をしているんだ?」
振り返るとTさんがやや呆れた顔で俺を見ていた。
「いや、なんか愉快なことになっててな」
そう言って俺は被写体を指差す。Tさんは目を向け、
「黒服さん……か?」
Tさんをもってしても目の前のモノが信じられないという声。
「あぁ、いい笑顔だろ?」
それもそのはずで、あの、普段は控えめに微笑んでいる印象の黒服さんが満面の笑みを浮かべているのだ。
そりゃもうこの人こんなに表情筋動いたんだ。ってくらいに。
「確かにいい笑顔だが、あれは」
異常だ。とTさんが言う。
酒か何かを摂取したんだろうか。とTさんが呟いている間にも黒服さんは都市伝説として契約したという二人に迫って行き、その片方、チャラい兄ちゃんの頬を両手で包み込み、
「口移しっ!?」
口を重ねた。なんかもう、こう、ぶちゅーっと。
呆然と見ていると、
「≪はないちもんめ≫の契約者もか……」
≪はないちもんめ≫の嬢ちゃんも黒服さんに襲われていた。口の端を流れる液体が、果てしなくエロい。
あ、さっきの攻守逆転だ。
半ば呆然と思いつつもシャッターを切る指の動きは止まらない。
「契約者よ」
「なに?」
「その写真は、あの人には見せてやるな」
「……おう、了解」
流石に、これは、な。
黒服さんの心労が一気に増えちまいそうだ。
しばらく見ていると黒服さんは寝入ったみたいだった。嬢ちゃんと兄ちゃんがぎくしゃくしながらも黒服さんの介抱に動きだしている。
「そ、そういえば何しに降りてきたんだ?」
努めて何事もなかったかのようにTさんに話を振る。
「契約者が遅いから何かあったのかと確認、あと将門公に一応礼を言いにな」
おかげでとんでもないものを見たわけだが。とTさんはこめかみをもみほぐしている。
「将門のとこに行くの?」
「数日世話になったんだ。何も言わないというわけにはいかん」
来るか? とTさんは訊いてくる。
正直将門はあまり得意なタイプの奴じゃないけど……。
「あー、んー、まあ、そうだな。世話になったしな」
お礼を言わないわけにもいかないよな~。と言って歩こうとしたところで、
「え~~~いっ」
元気な声が聞こえた。
その方向に目を向けると一人の酔ってテンションがハイになったらしい女の子がナイトドレス姿の姉ちゃんのスカートを景気よくめくりあげていた。
姉ちゃんのスカートの中は、
「うわぁ」
「うわぁ、とか言いつつシャッターを切るな。契約者」
「いや、まさか裸とか、なぁ?」
裸だった。完全無欠に、裸だった。いや、完全に欠っしているから裸なんだが。
周囲に居た野郎どもが前かがみになっている。なんというか、かわいそうに。
さてTさんをからかってやろうと視線を向けると、
「縄の跡があったな、そういう趣味なのだろうか」
どうでもいいところに目を奪われていたらしい。
「俺が言うのもなんだけど目の付けどころが違うな、流石寺生まれ、すげぇ!」
そんなことをやけ気味に言いつつ、将門がいる会場の奥、畳のところへと歩を進めた。
「何をしているんだ?」
振り返るとTさんがやや呆れた顔で俺を見ていた。
「いや、なんか愉快なことになっててな」
そう言って俺は被写体を指差す。Tさんは目を向け、
「黒服さん……か?」
Tさんをもってしても目の前のモノが信じられないという声。
「あぁ、いい笑顔だろ?」
それもそのはずで、あの、普段は控えめに微笑んでいる印象の黒服さんが満面の笑みを浮かべているのだ。
そりゃもうこの人こんなに表情筋動いたんだ。ってくらいに。
「確かにいい笑顔だが、あれは」
異常だ。とTさんが言う。
酒か何かを摂取したんだろうか。とTさんが呟いている間にも黒服さんは都市伝説として契約したという二人に迫って行き、その片方、チャラい兄ちゃんの頬を両手で包み込み、
「口移しっ!?」
口を重ねた。なんかもう、こう、ぶちゅーっと。
呆然と見ていると、
「≪はないちもんめ≫の契約者もか……」
≪はないちもんめ≫の嬢ちゃんも黒服さんに襲われていた。口の端を流れる液体が、果てしなくエロい。
あ、さっきの攻守逆転だ。
半ば呆然と思いつつもシャッターを切る指の動きは止まらない。
「契約者よ」
「なに?」
「その写真は、あの人には見せてやるな」
「……おう、了解」
流石に、これは、な。
黒服さんの心労が一気に増えちまいそうだ。
しばらく見ていると黒服さんは寝入ったみたいだった。嬢ちゃんと兄ちゃんがぎくしゃくしながらも黒服さんの介抱に動きだしている。
「そ、そういえば何しに降りてきたんだ?」
努めて何事もなかったかのようにTさんに話を振る。
「契約者が遅いから何かあったのかと確認、あと将門公に一応礼を言いにな」
おかげでとんでもないものを見たわけだが。とTさんはこめかみをもみほぐしている。
「将門のとこに行くの?」
「数日世話になったんだ。何も言わないというわけにはいかん」
来るか? とTさんは訊いてくる。
正直将門はあまり得意なタイプの奴じゃないけど……。
「あー、んー、まあ、そうだな。世話になったしな」
お礼を言わないわけにもいかないよな~。と言って歩こうとしたところで、
「え~~~いっ」
元気な声が聞こえた。
その方向に目を向けると一人の酔ってテンションがハイになったらしい女の子がナイトドレス姿の姉ちゃんのスカートを景気よくめくりあげていた。
姉ちゃんのスカートの中は、
「うわぁ」
「うわぁ、とか言いつつシャッターを切るな。契約者」
「いや、まさか裸とか、なぁ?」
裸だった。完全無欠に、裸だった。いや、完全に欠っしているから裸なんだが。
周囲に居た野郎どもが前かがみになっている。なんというか、かわいそうに。
さてTさんをからかってやろうと視線を向けると、
「縄の跡があったな、そういう趣味なのだろうか」
どうでもいいところに目を奪われていたらしい。
「俺が言うのもなんだけど目の付けどころが違うな、流石寺生まれ、すげぇ!」
そんなことをやけ気味に言いつつ、将門がいる会場の奥、畳のところへと歩を進めた。
●
「くくく、わざわざ何をしに来たぁ?」
将門は畳の一番奥にドカリと座り込んで酒を飲んでいた、周りには大量の空の酒瓶、酌をしている綺麗な着物を纏った姉ちゃん、お菓子をつまんでいる小学生くらいの男の子、フィラちゃん。ありゃ? いつも側にいるキャリアウーマンの姉ちゃんの姿が見当たらないや。
「お菓子の少年の加護の正体か」
Tさんは着物の姉ちゃんとお菓子をつまんでいる男の子を見てほう、と呟いていた。その少年――お菓子をつまんでいる男の子は、
「うー?」
と首をかしげるだけだったけど。
Tさんはそれを見て力を抜いた笑みを浮かべると、将門に向き直りこっちもドカリと座った。
俺もそれに倣う。
「将門公、此度の長い滞在の礼を言いに来た」
Tさんの言葉。それに将門は愉快そうに笑うと。
「くっかかかか良い、良い。その程度のこと、なんの問題もないわ」
めちゃくちゃ気分よさげに言った。
「なぁ将門、会場荒れてるけど止めなくていいのか?」
先程までのあの会場を見て思ったことを言うと、Tさんに窘められる。
「一応格の高い神格でもあるんだから建前だけでも気を使ってはどうだ?」
まあそれはそれとして、とTさん。
「酒に呑まれてる人間が多い、止めた方が得策かと思うが」
「そういやTさん酔わないな」
「呑みはするが呑まれはせん」
「酒豪め」
将門は着物の姉ちゃんに酌をさせながらこちらの会話を聞いて笑い、
「くっくくく、止めはせん。真に愉快であるからなぁ」
無責任にもそうのたまった。
「会場、ジュースと酒が混ざってるわね」
傍でチビチビやっていたフィラちゃんが缶を振りつつ言う。
うわ、そりゃ酔っ払いも続出するわけだ。
「そうか」
Tさんは溜息一つと共に立ち上がり、言いたいことは言った。と言って将門に背を向け、
「将門公、俺たちは夢子ちゃんの所でのんびりさせてもらうよ。あそこならまだ酒とジュースが混ざっていない飲み物もあるしな」
「くく、そうか。彼の王によろしくな」
「ああ」
そう言って去ろうとすると、
「待て」
目の前にでっかい蝦蟇と髑髏が出てきた。
おお、なんか気持ち悪い!
「……公よ、どういうことだ?」
Tさんが振り返って困惑気に訊くと、将門も、
「ふむぅ、滝夜叉よ、一体どういうつもりか?」
そう言って着物の姉ちゃんに顔を向けた。
滝夜叉って名前らしい姉ちゃんは不満げな顔をして、
「この者たち、父上に対してあまりに不敬、どうしてこのまま見逃すことができましょうか?」
と言う。
あぁ、
「Tさん、しっかり謝れよ」
「謝るなら契約者だろう」
二人で言いあっていると、
「妾をも馬鹿にするか?」
蝦蟇と髑髏からやば気な気配が漂いだした。
やばいっ!
「すんませんでしたぁ!」
「すまん。つい宴の空気でな」
場の気配を読んで即謝る俺たち。
滝夜叉の姉ちゃんはどうにも怒りが収まらないようで、威嚇するように俺たちを睨みつけ、
「少し、妾に祟られて反省せい」
言葉と共に蝦蟇と髑髏が迫ってきて、
「将門公」
Tさんの光弾で吹き飛ばされた。
「今夜は荒事は無しの方向ではなかったか?」
火種を作っておいてなんだが。と言うTさん。
「くっくくかかかかかかっ! 興が乗れば構わんやも知れぬなぁ」
将門もおもむろに刀に手をかけ、抜いた。
「あー、娘をいじったことには謝るが、先に手を出したのは滝夜叉姫でこれは正当防衛だ。実際に攻撃を当てたわけでもないのだし」
まぁ許せ。とTさん。
将門は刀とTさんとを見比べ、
「ふむ、」
刀を鞘に収めた。
「かっかかか、まあよしとしようっ!」
将門も元々本気じゃあなかったらしい。刀から手を放すと滝夜叉の姉ちゃんを抱き寄せた。
「ち、父上!?」
「かかか、さて、この手に抱くのは幾年月ぶりか」
そう言って将門は滝夜叉の姉ちゃんを抱え込んでいる。娘ってTさんは言ってたけど二人の外見的にとてもそうは見えんなぁ。普通に妻でも通じるぞ?
ってか滝夜叉の姉ちゃんも顔赤らめてるし、あれか? やっぱり≪首塚≫は禁断な人間の巣窟なのか?
「では」
邪魔しちゃ悪い、と呟いてTさんは歩きだした。
「じゃあな」
俺も挨拶をしてついて行く。お菓子をつまんでいた男の子が「ばいば~い」と言って送ってくれた。
畳から出る瞬間、疲れた声のフィラちゃんに声をかけられる。
「あなたたち見てるこっちがヒヤヒヤするわ」
いやあ、面目ない。
Tさんも俺も、苦笑するしかなかった。
将門は畳の一番奥にドカリと座り込んで酒を飲んでいた、周りには大量の空の酒瓶、酌をしている綺麗な着物を纏った姉ちゃん、お菓子をつまんでいる小学生くらいの男の子、フィラちゃん。ありゃ? いつも側にいるキャリアウーマンの姉ちゃんの姿が見当たらないや。
「お菓子の少年の加護の正体か」
Tさんは着物の姉ちゃんとお菓子をつまんでいる男の子を見てほう、と呟いていた。その少年――お菓子をつまんでいる男の子は、
「うー?」
と首をかしげるだけだったけど。
Tさんはそれを見て力を抜いた笑みを浮かべると、将門に向き直りこっちもドカリと座った。
俺もそれに倣う。
「将門公、此度の長い滞在の礼を言いに来た」
Tさんの言葉。それに将門は愉快そうに笑うと。
「くっかかかか良い、良い。その程度のこと、なんの問題もないわ」
めちゃくちゃ気分よさげに言った。
「なぁ将門、会場荒れてるけど止めなくていいのか?」
先程までのあの会場を見て思ったことを言うと、Tさんに窘められる。
「一応格の高い神格でもあるんだから建前だけでも気を使ってはどうだ?」
まあそれはそれとして、とTさん。
「酒に呑まれてる人間が多い、止めた方が得策かと思うが」
「そういやTさん酔わないな」
「呑みはするが呑まれはせん」
「酒豪め」
将門は着物の姉ちゃんに酌をさせながらこちらの会話を聞いて笑い、
「くっくくく、止めはせん。真に愉快であるからなぁ」
無責任にもそうのたまった。
「会場、ジュースと酒が混ざってるわね」
傍でチビチビやっていたフィラちゃんが缶を振りつつ言う。
うわ、そりゃ酔っ払いも続出するわけだ。
「そうか」
Tさんは溜息一つと共に立ち上がり、言いたいことは言った。と言って将門に背を向け、
「将門公、俺たちは夢子ちゃんの所でのんびりさせてもらうよ。あそこならまだ酒とジュースが混ざっていない飲み物もあるしな」
「くく、そうか。彼の王によろしくな」
「ああ」
そう言って去ろうとすると、
「待て」
目の前にでっかい蝦蟇と髑髏が出てきた。
おお、なんか気持ち悪い!
「……公よ、どういうことだ?」
Tさんが振り返って困惑気に訊くと、将門も、
「ふむぅ、滝夜叉よ、一体どういうつもりか?」
そう言って着物の姉ちゃんに顔を向けた。
滝夜叉って名前らしい姉ちゃんは不満げな顔をして、
「この者たち、父上に対してあまりに不敬、どうしてこのまま見逃すことができましょうか?」
と言う。
あぁ、
「Tさん、しっかり謝れよ」
「謝るなら契約者だろう」
二人で言いあっていると、
「妾をも馬鹿にするか?」
蝦蟇と髑髏からやば気な気配が漂いだした。
やばいっ!
「すんませんでしたぁ!」
「すまん。つい宴の空気でな」
場の気配を読んで即謝る俺たち。
滝夜叉の姉ちゃんはどうにも怒りが収まらないようで、威嚇するように俺たちを睨みつけ、
「少し、妾に祟られて反省せい」
言葉と共に蝦蟇と髑髏が迫ってきて、
「将門公」
Tさんの光弾で吹き飛ばされた。
「今夜は荒事は無しの方向ではなかったか?」
火種を作っておいてなんだが。と言うTさん。
「くっくくかかかかかかっ! 興が乗れば構わんやも知れぬなぁ」
将門もおもむろに刀に手をかけ、抜いた。
「あー、娘をいじったことには謝るが、先に手を出したのは滝夜叉姫でこれは正当防衛だ。実際に攻撃を当てたわけでもないのだし」
まぁ許せ。とTさん。
将門は刀とTさんとを見比べ、
「ふむ、」
刀を鞘に収めた。
「かっかかか、まあよしとしようっ!」
将門も元々本気じゃあなかったらしい。刀から手を放すと滝夜叉の姉ちゃんを抱き寄せた。
「ち、父上!?」
「かかか、さて、この手に抱くのは幾年月ぶりか」
そう言って将門は滝夜叉の姉ちゃんを抱え込んでいる。娘ってTさんは言ってたけど二人の外見的にとてもそうは見えんなぁ。普通に妻でも通じるぞ?
ってか滝夜叉の姉ちゃんも顔赤らめてるし、あれか? やっぱり≪首塚≫は禁断な人間の巣窟なのか?
「では」
邪魔しちゃ悪い、と呟いてTさんは歩きだした。
「じゃあな」
俺も挨拶をしてついて行く。お菓子をつまんでいた男の子が「ばいば~い」と言って送ってくれた。
畳から出る瞬間、疲れた声のフィラちゃんに声をかけられる。
「あなたたち見てるこっちがヒヤヒヤするわ」
いやあ、面目ない。
Tさんも俺も、苦笑するしかなかった。