20:13
Tさんが携帯を切った。そのタイミングを見計らって俺は声をかける。
「Tさん? 黒服さんから連絡があったんだろ? いったいなんだって?」
「……マッドガッサー一味が中央の高等学校に出没したらしい。≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の彼が見つけたようで潜入中だそうだ。
ミサイルもそこにある可能性が高く、すぐに発射できる状態かは分からないが恐らく彼らはそこでガスを詰めたミサイルを発射するものだと考えられる。どうも一味全員がそこに集まっているようだ。
それと、これはマッドガッサーの一味に関連があるかどうかは謎らしいが黒服さんが≪組織≫で担当している≪骨を溶かすコーラ≫の契約者との連絡が付かないらしい。元々無精者らしいが、このタイミングというのは不安になるな」
「へぇ~……って、」
中央の高等学校だぁ?
「ここなの?」
学校町東区、学校町のほぼ中央にある高校。
まさに今俺たちが見上げているこの学校だ。
「はー、あのでっかい鳥みたいな飛行物体見て野次馬精神爆発させてこっち来てみたら、やっぱりあの鳥っぽいの髪の伸びる黒服さんが言ってたマッドガッサーの仲間だっていう巨大都市伝説だったんだな」
「そのようだな」
頷くとTさんはどこかに電話をかけ始めた。
「――夜分にどうも、あなたの娘さんに町の中央にある高校で動きあり、本体を叩く。元に戻れるかもしれない。と伝えておいてくれ」
手短に言うとそのまま相手の返答を聞かずに電話を切っちまった。
Tさんの言ってた内容からすると、相手はあの≪赤い靴≫の嬢ちゃんの親父さんか。
確かに手短に言っちまった方が良さげだな。あのおっちゃんとの話は面倒そうだ。
ともかく、相手さんはこの学校の中にいることがめでたく確定したんだ。
「じゃあ行くかー」
気楽に言うと正門へと足を向けた。
「契約者は――」
「帰らないぜ?」
何か言おうとしていたTさんに即行で返す。Tさんは額に手を当てて呻くと、
「あ~わかったわかった。――ただし、ここからは俺の指示に従え、危険な気配が強い」
真剣な目で言ってきた。
「あいよ」
「わかったの」
リカちゃんと一緒に頷くと正門に到着した。
試しに扉を押したり引いたりスライドさせたりを試みるが、
「閉まっているか」
「まあ乗り越えりゃいいんだろ?」
これくらいなら乗り越えるのは簡単だ。あっと言う間に正門の扉の上に身を躍らせて高校の敷地へと進入する。
そして、
「なんじゃこりゃ?」
塀や地べたに描き込まれた幾何学的な模様の数々を見て素っ頓狂な声を上げた。それは見た感じとしては、
「魔方陣?」
「おそらくは何らかの効果のある陣だろう」
Tさんはそう言うと模様の一つに手をかざした。
「この陣の正体を知ることができれば、幸せだ」
Tさんの手から光が発されて、
「――転移系能力の妨害か」
模様の効果を察したらしいTさんはリカちゃんへと顔を向ける。
「ちょっと試してみてくれないか」
「わかったの」
リカちゃんが答えた途端、
――ジリリリリリリ
Tさんの携帯が音を立てる。通話ボタンを押すと携帯からはスピーカーモードでもないのにはっきりよく聞こえる機械を通したリカちゃんのかわいらしい声がした。
『もしもし、わたしリカちゃん。今、お兄ちゃんの後ろにいるの』
しかしリカちゃんは俺の肩につかまったままだ。転移してはいない。
「あれ?」
「だめかー」
不思議そうなリカちゃんとそういうものなんだろうと思う俺、Tさんも、
「の、ようだな。リカちゃんありがとう」
そう言うと携帯をしまった。
「解除とかできないのか?」
訊ねてみると、
「だめだな。おそらく全ての陣を消すか、陣の製作者を倒さなくてはならん」
「そりゃ、めんどうだな」
「――学校を破壊してもいいのならこの程度、霊体的にも物理的にも吹き飛ばせなくはないんだが……」
そう言って校舎へ向けて構えるTさん。
「まじか!? ちょっと今度俺の学校でやってくれよ」
五割マジで言ってみると、
「却下だ」
駄目らしかった。くそう、
「すてーきのお兄ちゃんは、いいの?」
リカちゃんが校舎へ向かって構えられた腕を見ながら言う。
「…………尊い犠牲だったな」
「…………ああ、彼のことは忘れないでおこう」
「…………?」
俺とTさんのどこか遠くを見つめる優しい眼差しにリカちゃんは首を傾けていた。
しばらくそうした後、
「――っと、まあ冗談はこれくらいにしておこうか。流石に校舎を破壊するわけにもいかんだろう」
そう言って歩き出す。
玄関はチャラい兄ちゃんが壊したのか全開になっている。不気味ではあるけどそれはそれでなかなか興奮するシチュエーションだなーとか思いながら校舎の中へと足を踏み入れた。
すると、
「あ、だれかいるの」
リカちゃんの声、
「っ!」
「……誰だ?」
瞬間的に反応して振り向く、Tさんが薄い月明かりでは見通せない闇の向こう、下駄箱の影に向かって誰何の声を上げた。
数秒、
「待て待て待て! なんだ? いきなり身構えやがって」
そんなことを言いながら陰から出てきたのは、
「あれ? チャラい兄ちゃんの友達?」
「ん? あ、誰かと思ったら……」
何度か顔を合わせたことのあるチャラい兄ちゃんの友達だった。
「なんでこんな時間にこんなところにいるんだよ?」
訊いてみると、
「さっきでっけー鳥みたいなのいただろ? この学校の上にいたみたいだからちょっと母校の様子を見がてらな。
……そういうお前らこそなんなんだよ? こんな時間に」
訊ね返された。
……えーっと、
「あー、忘れ物を……」
「嘘だろ」
見抜かれた。
「やっぱりわかる?」
「この前会った時、ここの学校と制服が違ったからな」
そんなことを言うチャラい兄ちゃんの友達、どう言い訳しようか考えていると、
「あー、黒服さん絡みで少しな」
Tさんが微妙に会ってるようで違うことを言った。
「ふぅん」
分かったような分からないような頷き方をするチャラい兄ちゃんの友達。黒服さんの名前を出した途端に少し目線に険が出たような気がする。この人は黒服さんが嫌いなんだろうか?
そんなことを思っていると、
「ところでリカちゃん、よく下駄箱に隠れるようにしていた彼に気付いたな」
「わたし、リカちゃん。でもひとりかくれんぼでもあるの」
「うおっとおおおおおおおぉっ!」
肩のリカちゃんをひっつかんで体をくるくる回転させながら距離を少しとる、頭にリカちゃんを乗っけて、
「どうよ? 俺の腹話術!!」
ポーズを決めながら言うと、
「あ、ああ、すごいな」
若干引かれ気味な返答が返ってきた。
「……」
Tさんはそんなチャラい兄ちゃんの友達をじっと見ている。俺は耳元へと口を寄せるとチャラい兄ちゃんの友達には聞こえないように、
「Tさん、いきなりリカちゃんとナチュラルトーク始めんなよっ! あの人、チャラい兄ちゃんの友達だけどあんまりこっちのことは知らないんだぞ!?」
言うと適当な返事が、
「すまん」
と返ってきた。
「悪いな、つい関係者が見回りにでも来たのかと思って隠れちまった」
チャラい兄ちゃんの友達はそんなこっちの状態に見かねたのかTさんがリカちゃんにした質問の答えを話してくれた。
Tさんは一つ頷くと、周囲を見回し、
「ともあれ、ここはなにかと危険な状態だ。早く離れ――」
その途端、何かが近くの床に激突した。床を削りとっていく音が響き、月明かりに金の色彩が一瞬きらめくのが見える。
「な?」
「うわ!?」
チャラい兄ちゃんの友達と俺がそれぞれ驚いていると、
「マリ・ヴェリテのベート……」
Tさんが相手を見据えて名を呼んだ。
視線の先では淡い月光に光る金の髪を湛えた女の子が、鋭い獣の視線で俺たちを見返していた。
「Tさん? 黒服さんから連絡があったんだろ? いったいなんだって?」
「……マッドガッサー一味が中央の高等学校に出没したらしい。≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の彼が見つけたようで潜入中だそうだ。
ミサイルもそこにある可能性が高く、すぐに発射できる状態かは分からないが恐らく彼らはそこでガスを詰めたミサイルを発射するものだと考えられる。どうも一味全員がそこに集まっているようだ。
それと、これはマッドガッサーの一味に関連があるかどうかは謎らしいが黒服さんが≪組織≫で担当している≪骨を溶かすコーラ≫の契約者との連絡が付かないらしい。元々無精者らしいが、このタイミングというのは不安になるな」
「へぇ~……って、」
中央の高等学校だぁ?
「ここなの?」
学校町東区、学校町のほぼ中央にある高校。
まさに今俺たちが見上げているこの学校だ。
「はー、あのでっかい鳥みたいな飛行物体見て野次馬精神爆発させてこっち来てみたら、やっぱりあの鳥っぽいの髪の伸びる黒服さんが言ってたマッドガッサーの仲間だっていう巨大都市伝説だったんだな」
「そのようだな」
頷くとTさんはどこかに電話をかけ始めた。
「――夜分にどうも、あなたの娘さんに町の中央にある高校で動きあり、本体を叩く。元に戻れるかもしれない。と伝えておいてくれ」
手短に言うとそのまま相手の返答を聞かずに電話を切っちまった。
Tさんの言ってた内容からすると、相手はあの≪赤い靴≫の嬢ちゃんの親父さんか。
確かに手短に言っちまった方が良さげだな。あのおっちゃんとの話は面倒そうだ。
ともかく、相手さんはこの学校の中にいることがめでたく確定したんだ。
「じゃあ行くかー」
気楽に言うと正門へと足を向けた。
「契約者は――」
「帰らないぜ?」
何か言おうとしていたTさんに即行で返す。Tさんは額に手を当てて呻くと、
「あ~わかったわかった。――ただし、ここからは俺の指示に従え、危険な気配が強い」
真剣な目で言ってきた。
「あいよ」
「わかったの」
リカちゃんと一緒に頷くと正門に到着した。
試しに扉を押したり引いたりスライドさせたりを試みるが、
「閉まっているか」
「まあ乗り越えりゃいいんだろ?」
これくらいなら乗り越えるのは簡単だ。あっと言う間に正門の扉の上に身を躍らせて高校の敷地へと進入する。
そして、
「なんじゃこりゃ?」
塀や地べたに描き込まれた幾何学的な模様の数々を見て素っ頓狂な声を上げた。それは見た感じとしては、
「魔方陣?」
「おそらくは何らかの効果のある陣だろう」
Tさんはそう言うと模様の一つに手をかざした。
「この陣の正体を知ることができれば、幸せだ」
Tさんの手から光が発されて、
「――転移系能力の妨害か」
模様の効果を察したらしいTさんはリカちゃんへと顔を向ける。
「ちょっと試してみてくれないか」
「わかったの」
リカちゃんが答えた途端、
――ジリリリリリリ
Tさんの携帯が音を立てる。通話ボタンを押すと携帯からはスピーカーモードでもないのにはっきりよく聞こえる機械を通したリカちゃんのかわいらしい声がした。
『もしもし、わたしリカちゃん。今、お兄ちゃんの後ろにいるの』
しかしリカちゃんは俺の肩につかまったままだ。転移してはいない。
「あれ?」
「だめかー」
不思議そうなリカちゃんとそういうものなんだろうと思う俺、Tさんも、
「の、ようだな。リカちゃんありがとう」
そう言うと携帯をしまった。
「解除とかできないのか?」
訊ねてみると、
「だめだな。おそらく全ての陣を消すか、陣の製作者を倒さなくてはならん」
「そりゃ、めんどうだな」
「――学校を破壊してもいいのならこの程度、霊体的にも物理的にも吹き飛ばせなくはないんだが……」
そう言って校舎へ向けて構えるTさん。
「まじか!? ちょっと今度俺の学校でやってくれよ」
五割マジで言ってみると、
「却下だ」
駄目らしかった。くそう、
「すてーきのお兄ちゃんは、いいの?」
リカちゃんが校舎へ向かって構えられた腕を見ながら言う。
「…………尊い犠牲だったな」
「…………ああ、彼のことは忘れないでおこう」
「…………?」
俺とTさんのどこか遠くを見つめる優しい眼差しにリカちゃんは首を傾けていた。
しばらくそうした後、
「――っと、まあ冗談はこれくらいにしておこうか。流石に校舎を破壊するわけにもいかんだろう」
そう言って歩き出す。
玄関はチャラい兄ちゃんが壊したのか全開になっている。不気味ではあるけどそれはそれでなかなか興奮するシチュエーションだなーとか思いながら校舎の中へと足を踏み入れた。
すると、
「あ、だれかいるの」
リカちゃんの声、
「っ!」
「……誰だ?」
瞬間的に反応して振り向く、Tさんが薄い月明かりでは見通せない闇の向こう、下駄箱の影に向かって誰何の声を上げた。
数秒、
「待て待て待て! なんだ? いきなり身構えやがって」
そんなことを言いながら陰から出てきたのは、
「あれ? チャラい兄ちゃんの友達?」
「ん? あ、誰かと思ったら……」
何度か顔を合わせたことのあるチャラい兄ちゃんの友達だった。
「なんでこんな時間にこんなところにいるんだよ?」
訊いてみると、
「さっきでっけー鳥みたいなのいただろ? この学校の上にいたみたいだからちょっと母校の様子を見がてらな。
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訊ね返された。
……えーっと、
「あー、忘れ物を……」
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見抜かれた。
「やっぱりわかる?」
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そんなことを言うチャラい兄ちゃんの友達、どう言い訳しようか考えていると、
「あー、黒服さん絡みで少しな」
Tさんが微妙に会ってるようで違うことを言った。
「ふぅん」
分かったような分からないような頷き方をするチャラい兄ちゃんの友達。黒服さんの名前を出した途端に少し目線に険が出たような気がする。この人は黒服さんが嫌いなんだろうか?
そんなことを思っていると、
「ところでリカちゃん、よく下駄箱に隠れるようにしていた彼に気付いたな」
「わたし、リカちゃん。でもひとりかくれんぼでもあるの」
「うおっとおおおおおおおぉっ!」
肩のリカちゃんをひっつかんで体をくるくる回転させながら距離を少しとる、頭にリカちゃんを乗っけて、
「どうよ? 俺の腹話術!!」
ポーズを決めながら言うと、
「あ、ああ、すごいな」
若干引かれ気味な返答が返ってきた。
「……」
Tさんはそんなチャラい兄ちゃんの友達をじっと見ている。俺は耳元へと口を寄せるとチャラい兄ちゃんの友達には聞こえないように、
「Tさん、いきなりリカちゃんとナチュラルトーク始めんなよっ! あの人、チャラい兄ちゃんの友達だけどあんまりこっちのことは知らないんだぞ!?」
言うと適当な返事が、
「すまん」
と返ってきた。
「悪いな、つい関係者が見回りにでも来たのかと思って隠れちまった」
チャラい兄ちゃんの友達はそんなこっちの状態に見かねたのかTさんがリカちゃんにした質問の答えを話してくれた。
Tさんは一つ頷くと、周囲を見回し、
「ともあれ、ここはなにかと危険な状態だ。早く離れ――」
その途端、何かが近くの床に激突した。床を削りとっていく音が響き、月明かりに金の色彩が一瞬きらめくのが見える。
「な?」
「うわ!?」
チャラい兄ちゃんの友達と俺がそれぞれ驚いていると、
「マリ・ヴェリテのベート……」
Tさんが相手を見据えて名を呼んだ。
視線の先では淡い月光に光る金の髪を湛えた女の子が、鋭い獣の視線で俺たちを見返していた。
●
目の前、ほんの数メートルの間の向こうにはマリ・ヴェリテのベートがいる。
あと少しで正体を見極めることも可能だったろうに、
思い、青年は舌打ちを一つ、≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年の友人へと向かって声をかける。
「青年、早くこの学校の敷地から逃げろ! これは俺たちで引き受ける!」
「あ、ああ」
走り去っていく音が青年の背後でする。
それを見送っていた青年の契約者の少女は青年に耳打ちする。
「Tさん、チャラい兄ちゃんのことは、」
「言わないままの方がいい」
彼が仮に敵であったとしても何も知らないにしても≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年の情報はここに彼を縛りつける。危険だ。
「契約者、俺の後ろへ」
「おう」
素直に自分の背後、数メートルの位置に契約者が来たことを気配で確認すると、青年は金髪の少女へと声をかけた。
「久しぶり、マリ・ヴェリテのベート」
「あんたか、路地裏以来だな」
声をかけた瞬間、月光に、やはり艶やかに輝く毛並みをもった人狼へと姿を変えたマリ・ヴェリテのベート、彼は殺気と共に警戒の視線を光らせながら、
「俺たちの邪魔をする気か」
「まあな。少しやりすぎだ」
その青年の言葉にマリ・ヴェリテのベートは軽く俯くと、視線を跳ね上げた。獣の目は強い意志と合間にのぞく理知的な光を湛えて青年に叫ぶ。
「……お前に、お前らに俺の大事な群れを襲わせはしねえっ!」
「群れ?」
怪訝そうな顔の青年に乱暴に頷く人狼。
「契約者を得ているお前にはわかんねえだろうなぁっ! 化け物と、人食いと忌み嫌われ恐れられて誰にも信じてもらえずに、群れる事を許されず、契約しようとする者は皆力に呑まれて消え去っちまって契約者を得る事すら許されなかった都市伝説の絶望がぁッ!」
一息、
「やっと、やっと出来た仲間で、大事な群れなんだ。どんな犠牲を払ってでも絶対に護らせてもらうぜぇッ!」
叫びは届いた。そしてその返答もまた、届いた。
「なるほど、ではお前に解るか? 幸運に見舞われすぎた人間の不幸が」
青年は過去を懐かしむように語る。
「ある家系では代々密かに幸せを呼ぶ≪ケサランパサラン≫なる物を伝えていたんだ。ある時その家系の子供は父親から≪ケサランパサラン≫を譲り受けた。契約したんだな。数日後、一家は≪ケサランパサラン≫を譲り受けた少年以外殺された。少年は犯人に連れていかれて彼らのために幸運を与え続けた。大それた願いを聞き入れてはもらえないと何度言っても聞いてもらえなくてな、それなりにひどい目に遭った。やがて幸せなことにその犯人たちは全滅するわけだが。
以降は≪組織≫の下で十数年鉄砲玉生活だ。能力の正体は誰にもしゃべりはしなかった。『≪ケサランパサラン≫は所持しているということはあまり人に知らせないほうがいい。』よく言ったものだ。誰だって幸せが手に入ると分かれば目の色を変えるのだからな」
苦笑、
「そんな中一度死んで、出会ったのが契約者だ。馬鹿だから、この能力をなかなか私欲に利用しようとしない。ついつい自主的に宝くじを当ててきてしまったよ」
はは、と笑い、
「そんなわけで、死んでからやっと手に入れた大事な大事な幸せなんだ。――俺もこの群れを護りたい」
だから、
「不幸自慢は終いにしよう。降伏しろ、マリ・ヴェリテ。お前たちを悪いようにはしない」
青年の言葉はしかし、
「お断りだねえええええええっ!」
人狼の心を動かすことはできなかった。
マリ・ヴェリテのベートは青年へと向かって、彼にとっては数歩の距離を駆ける。
「残念だ。また気が向いたら俺の気が変わらないうちに言ってくれ」
青年は言いながら五指を開いてマリ・ヴェリテのベートへとその掌を向ける。
――アレを打ち抜ければ、幸せだ。
祈りと共に光弾が生まれ、
「破ぁ!!」
放たれた。
飛んだ光の玉は五つ、それぞれ、上、下、右、左、正面からマリ・ヴェリテのベートを狙う。
対するマリ・ヴェリテのベートの取った行動は簡単だった。
駆ける速度を上げ、突進してきたのだ。
四つの光弾が目標に当たらず相殺し合い、残った正面の一撃に対しては、
「ガアアアアアアアアア!」
獣の咆号と共に繰り出した右拳がぶつかり、光弾は飛沫の音を立てて消え去る。
右腕から煙が上るがマリ・ヴェリテのベートは構わず青年へと距離を詰める。
遠距離攻撃を突破、近距離で打ち倒す!
そう思考するマリ・ヴェリテの顔には素早い接敵に反応出来ないであろう相手に向けた笑みがあり、
対する青年も同じような笑みを浮かべていた。
青年が差し出した腕、その先の五指は未だ開かれており、――光を纏っていた。
「破ぁ!!」
気合い一声、次に放たれた光は壁のような一撃だった。
近距離では回避のしようがない一撃、
だからマリ・ヴェリテのベートは避けようとは考えなかった。
腕を組んで壁にぶち当たる。
激突の瞬間に両の腕を開き、壁を腕で切り裂く。
マリ・ヴェリテのベートは光りの壁を抜け、開いた腕をその開ききった反動でもって突き入れた。
速度は多少落ち、全身から煙が立ち上ってはいるが、それでも尚高速の爪が青年を貫こうと突き込まれる。
打音!
「……!?」
肉を貫く音ではなく、己の腕には肉を貫く感触が返ってこない。
何事かと疑問を抱いた刹那、光の残滓の向こうに答えがあった。
青年の光りを纏った両の腕がマリ・ヴェリテのベートの両の腕をそれぞれ掴んでいたのだ。
「無茶苦茶な野郎が」
「鏡見ろ、鏡」
マリ・ヴェリテのベートは無言で両手をつかまれたまま、跳んだ。足を揃え、
「喰らえ!」
蹴りつけようとする。
青年はその前に反応、腹を狙って繰り出された蹴りを喰らう前に後方へと退いた。
床に倒れる形になったマリ・ヴェリテのベートはしかし、手を付き、身をバック転のように持ち上げる。
距離を置いた。そう思って視線を前に向けたとき――
青年が手の届く範囲に近づいていた。
「っ!」
青年の右の拳が胴を打つが、その程度で倒れはしない。拳が引かれる前に腕を逆にひっつかみ、青年の体を壁へと叩きつける。
腕が変な方向にねじ曲がると同時に骨が折れる乾いた音が鳴り、次いで体が壁にぶつかり鈍い音が鳴る。
「ガッ、」と空気が吐き出される音が青年から聞こえ、
「潰れろおおぉ!!」
マリ・ヴェリテのベートは伏せった青年を踏みぬこうと足を振り上げた。
が、その振り上げられた足とは逆の足を光弾が焼いた。
「―――ッ!?」
足を撃たれてバランスが崩れたマリ・ヴェリテのベートの胴体に青年は再び一撃を、今度は右の蹴りを叩き込む。
繋げるように放った左の蹴りはマリ・ヴェリテのベートによって身を捻って避けられる。狙いを外した蹴りは青年が叩きつけられた壁とは反対、どこかの教室の窓枠を打ち、歪め、窓枠の歪みはガラスをねじ割って、
青年の声が響き、
「割れた窓ガラスの破片が、全てマリ・ヴェリテのベートを貫けば、幸せだ」
――幸せが履行された。
光りを纏ったガラスの破片が、光りの壁を抜けた時に焼けた体毛の隙間から無数に突き刺さる。
が、
と続いた悲鳴をバックに青年は掌をマリ・ヴェリテのベートへと向けた。
「今度は片腕だけでは済まんが、――まあどうにかなるだろう」
掌には光、青年が荒い呼吸を沈めながら一撃を下そうとすると、
――ジリリリリリリリリリ
――プルルルルルルルル
――リリリリリリリ
電話の呼び出し音が複数響いた。
「ッ!」
青年が止めるべき電話の対象を探して視線をさまよわせると、
「Tさん! こっち!」
彼の契約者が手招きして呼んでいた。
青年がそちらへと走った瞬間、
轟音と閃光と衝撃が同時多発的に発生し、青年が先程までいた辺りを包みこんで消し飛ばした。
そのまま三人は廊下を端まで走り、トイレの前で一息つく。
「――大丈夫か? Tさん」
息を整えながら少女が問う。
「ああ、問題無い」
そうか? と言いつつも少女は別の話題を振る。
「マリ・ヴェリテのベート、あの爆発だし消しとんでんのかな?」
「おそらく生きているな。あの携帯爆弾、爆発の方向に指向性があった。おそらく校舎を破壊しない気遣いだろうが、あれならばほとんどマリ・ヴェリテのベートは爆風を受けていないことになる」
言った途端、
電話の呼び出し音が響いた。
「ここもかよ!」
辺りを見回す少女、しかし携帯は巧妙に隠されているのか見つけることができず――
「いや、これは――」
青年がハッとした顔をする。
「契約者、携帯を出せ!」
「え?」
「奴さん、どういうわけかこっちの携帯番号を知っている!」
そう言って取り出された携帯に青年が光りをぶつけようとすると、
「だいじょうぶ、なの」
少女の頭につかまっていたリカちゃんが言葉を放った。
携帯は呼び出し音は鳴るが、一向に爆発を起こさない。やがて呼び出しはやみ、携帯からはリカちゃんの声が聞こえた。
『もしもし、わたしリカちゃん。いま、けいたいのしゅどーけんをにぎったの』
声を聞いた少女はクタクタと床に座り込んだ。
「……はー、しんどい」
「トラップが多いな。黒服さんに連絡を入れておこう」
青年は負傷を治しつつ携帯を取り出し、リカちゃんへと視線をむけた。
「これは、」
「わたしにしかかけられないの」
そうリカちゃんが言ったと同時に携帯電話が勝手に作動し、呼び出しを始めた。
あと少しで正体を見極めることも可能だったろうに、
思い、青年は舌打ちを一つ、≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年の友人へと向かって声をかける。
「青年、早くこの学校の敷地から逃げろ! これは俺たちで引き受ける!」
「あ、ああ」
走り去っていく音が青年の背後でする。
それを見送っていた青年の契約者の少女は青年に耳打ちする。
「Tさん、チャラい兄ちゃんのことは、」
「言わないままの方がいい」
彼が仮に敵であったとしても何も知らないにしても≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年の情報はここに彼を縛りつける。危険だ。
「契約者、俺の後ろへ」
「おう」
素直に自分の背後、数メートルの位置に契約者が来たことを気配で確認すると、青年は金髪の少女へと声をかけた。
「久しぶり、マリ・ヴェリテのベート」
「あんたか、路地裏以来だな」
声をかけた瞬間、月光に、やはり艶やかに輝く毛並みをもった人狼へと姿を変えたマリ・ヴェリテのベート、彼は殺気と共に警戒の視線を光らせながら、
「俺たちの邪魔をする気か」
「まあな。少しやりすぎだ」
その青年の言葉にマリ・ヴェリテのベートは軽く俯くと、視線を跳ね上げた。獣の目は強い意志と合間にのぞく理知的な光を湛えて青年に叫ぶ。
「……お前に、お前らに俺の大事な群れを襲わせはしねえっ!」
「群れ?」
怪訝そうな顔の青年に乱暴に頷く人狼。
「契約者を得ているお前にはわかんねえだろうなぁっ! 化け物と、人食いと忌み嫌われ恐れられて誰にも信じてもらえずに、群れる事を許されず、契約しようとする者は皆力に呑まれて消え去っちまって契約者を得る事すら許されなかった都市伝説の絶望がぁッ!」
一息、
「やっと、やっと出来た仲間で、大事な群れなんだ。どんな犠牲を払ってでも絶対に護らせてもらうぜぇッ!」
叫びは届いた。そしてその返答もまた、届いた。
「なるほど、ではお前に解るか? 幸運に見舞われすぎた人間の不幸が」
青年は過去を懐かしむように語る。
「ある家系では代々密かに幸せを呼ぶ≪ケサランパサラン≫なる物を伝えていたんだ。ある時その家系の子供は父親から≪ケサランパサラン≫を譲り受けた。契約したんだな。数日後、一家は≪ケサランパサラン≫を譲り受けた少年以外殺された。少年は犯人に連れていかれて彼らのために幸運を与え続けた。大それた願いを聞き入れてはもらえないと何度言っても聞いてもらえなくてな、それなりにひどい目に遭った。やがて幸せなことにその犯人たちは全滅するわけだが。
以降は≪組織≫の下で十数年鉄砲玉生活だ。能力の正体は誰にもしゃべりはしなかった。『≪ケサランパサラン≫は所持しているということはあまり人に知らせないほうがいい。』よく言ったものだ。誰だって幸せが手に入ると分かれば目の色を変えるのだからな」
苦笑、
「そんな中一度死んで、出会ったのが契約者だ。馬鹿だから、この能力をなかなか私欲に利用しようとしない。ついつい自主的に宝くじを当ててきてしまったよ」
はは、と笑い、
「そんなわけで、死んでからやっと手に入れた大事な大事な幸せなんだ。――俺もこの群れを護りたい」
だから、
「不幸自慢は終いにしよう。降伏しろ、マリ・ヴェリテ。お前たちを悪いようにはしない」
青年の言葉はしかし、
「お断りだねえええええええっ!」
人狼の心を動かすことはできなかった。
マリ・ヴェリテのベートは青年へと向かって、彼にとっては数歩の距離を駆ける。
「残念だ。また気が向いたら俺の気が変わらないうちに言ってくれ」
青年は言いながら五指を開いてマリ・ヴェリテのベートへとその掌を向ける。
――アレを打ち抜ければ、幸せだ。
祈りと共に光弾が生まれ、
「破ぁ!!」
放たれた。
飛んだ光の玉は五つ、それぞれ、上、下、右、左、正面からマリ・ヴェリテのベートを狙う。
対するマリ・ヴェリテのベートの取った行動は簡単だった。
駆ける速度を上げ、突進してきたのだ。
四つの光弾が目標に当たらず相殺し合い、残った正面の一撃に対しては、
「ガアアアアアアアアア!」
獣の咆号と共に繰り出した右拳がぶつかり、光弾は飛沫の音を立てて消え去る。
右腕から煙が上るがマリ・ヴェリテのベートは構わず青年へと距離を詰める。
遠距離攻撃を突破、近距離で打ち倒す!
そう思考するマリ・ヴェリテの顔には素早い接敵に反応出来ないであろう相手に向けた笑みがあり、
対する青年も同じような笑みを浮かべていた。
青年が差し出した腕、その先の五指は未だ開かれており、――光を纏っていた。
「破ぁ!!」
気合い一声、次に放たれた光は壁のような一撃だった。
近距離では回避のしようがない一撃、
だからマリ・ヴェリテのベートは避けようとは考えなかった。
腕を組んで壁にぶち当たる。
激突の瞬間に両の腕を開き、壁を腕で切り裂く。
マリ・ヴェリテのベートは光りの壁を抜け、開いた腕をその開ききった反動でもって突き入れた。
速度は多少落ち、全身から煙が立ち上ってはいるが、それでも尚高速の爪が青年を貫こうと突き込まれる。
打音!
「……!?」
肉を貫く音ではなく、己の腕には肉を貫く感触が返ってこない。
何事かと疑問を抱いた刹那、光の残滓の向こうに答えがあった。
青年の光りを纏った両の腕がマリ・ヴェリテのベートの両の腕をそれぞれ掴んでいたのだ。
「無茶苦茶な野郎が」
「鏡見ろ、鏡」
マリ・ヴェリテのベートは無言で両手をつかまれたまま、跳んだ。足を揃え、
「喰らえ!」
蹴りつけようとする。
青年はその前に反応、腹を狙って繰り出された蹴りを喰らう前に後方へと退いた。
床に倒れる形になったマリ・ヴェリテのベートはしかし、手を付き、身をバック転のように持ち上げる。
距離を置いた。そう思って視線を前に向けたとき――
青年が手の届く範囲に近づいていた。
「っ!」
青年の右の拳が胴を打つが、その程度で倒れはしない。拳が引かれる前に腕を逆にひっつかみ、青年の体を壁へと叩きつける。
腕が変な方向にねじ曲がると同時に骨が折れる乾いた音が鳴り、次いで体が壁にぶつかり鈍い音が鳴る。
「ガッ、」と空気が吐き出される音が青年から聞こえ、
「潰れろおおぉ!!」
マリ・ヴェリテのベートは伏せった青年を踏みぬこうと足を振り上げた。
が、その振り上げられた足とは逆の足を光弾が焼いた。
「―――ッ!?」
足を撃たれてバランスが崩れたマリ・ヴェリテのベートの胴体に青年は再び一撃を、今度は右の蹴りを叩き込む。
繋げるように放った左の蹴りはマリ・ヴェリテのベートによって身を捻って避けられる。狙いを外した蹴りは青年が叩きつけられた壁とは反対、どこかの教室の窓枠を打ち、歪め、窓枠の歪みはガラスをねじ割って、
青年の声が響き、
「割れた窓ガラスの破片が、全てマリ・ヴェリテのベートを貫けば、幸せだ」
――幸せが履行された。
光りを纏ったガラスの破片が、光りの壁を抜けた時に焼けた体毛の隙間から無数に突き刺さる。
が、
と続いた悲鳴をバックに青年は掌をマリ・ヴェリテのベートへと向けた。
「今度は片腕だけでは済まんが、――まあどうにかなるだろう」
掌には光、青年が荒い呼吸を沈めながら一撃を下そうとすると、
――ジリリリリリリリリリ
――プルルルルルルルル
――リリリリリリリ
電話の呼び出し音が複数響いた。
「ッ!」
青年が止めるべき電話の対象を探して視線をさまよわせると、
「Tさん! こっち!」
彼の契約者が手招きして呼んでいた。
青年がそちらへと走った瞬間、
轟音と閃光と衝撃が同時多発的に発生し、青年が先程までいた辺りを包みこんで消し飛ばした。
そのまま三人は廊下を端まで走り、トイレの前で一息つく。
「――大丈夫か? Tさん」
息を整えながら少女が問う。
「ああ、問題無い」
そうか? と言いつつも少女は別の話題を振る。
「マリ・ヴェリテのベート、あの爆発だし消しとんでんのかな?」
「おそらく生きているな。あの携帯爆弾、爆発の方向に指向性があった。おそらく校舎を破壊しない気遣いだろうが、あれならばほとんどマリ・ヴェリテのベートは爆風を受けていないことになる」
言った途端、
電話の呼び出し音が響いた。
「ここもかよ!」
辺りを見回す少女、しかし携帯は巧妙に隠されているのか見つけることができず――
「いや、これは――」
青年がハッとした顔をする。
「契約者、携帯を出せ!」
「え?」
「奴さん、どういうわけかこっちの携帯番号を知っている!」
そう言って取り出された携帯に青年が光りをぶつけようとすると、
「だいじょうぶ、なの」
少女の頭につかまっていたリカちゃんが言葉を放った。
携帯は呼び出し音は鳴るが、一向に爆発を起こさない。やがて呼び出しはやみ、携帯からはリカちゃんの声が聞こえた。
『もしもし、わたしリカちゃん。いま、けいたいのしゅどーけんをにぎったの』
声を聞いた少女はクタクタと床に座り込んだ。
「……はー、しんどい」
「トラップが多いな。黒服さんに連絡を入れておこう」
青年は負傷を治しつつ携帯を取り出し、リカちゃんへと視線をむけた。
「これは、」
「わたしにしかかけられないの」
そうリカちゃんが言ったと同時に携帯電話が勝手に作動し、呼び出しを始めた。