「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 女装少年と愉快な都市伝説・その他編-02

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とある男の日記帳


「つーかなんだよもう、これ俺達いなくても問題なくねえか?」
「まあまあ、いいじゃないですかー。どうせ暇人なんですしー」

 米国、とある片田舎の牧場内にて。
 二人の男性が緊張感の欠片もなく、だらだらと会話していた。

「つってもなあ。俺にだってやりてえことくらいあるんだぜ? 適当にその辺のねーちゃん引っかけたりよお」
「出来もしないことを見栄張って言わない方がいいですよー。後々悲惨ですしー」

 一人は青年、もう一人は少年と言ってもいいくらいの年齢に見える。
 青年の方はかなりの長身―――おそらく、190センチはあるだろう―――で、その身体は引き締まった筋肉で覆われている。プロレスラーだと言われても納得出来るような身体だ。
 対して少年の方は、身長こそそこそこあるもののその身体の線は細い。言葉を選ばなければ、モヤシと表現するのが一番分かりやすいだろう。

「おいコラてめえ、それどういう意味だ!」
「どういう意味だって、そのままじゃないですかー。あ、でも一部にはモテてるからそっち方面にチャレンジとかー? ゲイバーみたいなー」

 二人は喋りながらも、その視線は常に夜空に向けている。
 地に向けられることのない二つの視線は、ゆっくりと彼らを取り囲んでいる影たちを捉えることはない。

「………てめえ、いい度胸だな。身元不明の白骨にしてやろうか?」
「いいですねー、それ。まあ、あなたが泡吹きながら白目向いてご臨終するのが先だと思いますけどー。それより―――アレ、何が乗ってると思いますー?」

 アレ、と呼ばれたそれは、二人の視線の先、夜空に浮かんでいる。
 銀色に輝き、灰皿を上下に二つ重ねたような形のそれは―――。

「―――UFO、ねえ。どうせあれだろ、小気味の悪いグレイ型でも乗ってんじゃねえのか?」
「まあ被害から言っても十中八九そうだとは思いますけどー。それでもですよー、プレデターやらエイリアンやらみたいなのが乗ってたらどうしますー?」

 もしそんなんが乗ってたら僕とあなたじゃあ相性悪すぎでバラバラ確定ですよー、と少年はいたって暢気に言う。

「まあそんときゃそんときだ、口ん中ぶちこんでやりゃ何とかなるだろ。―――それよりもヤバイのは、だ……」
「何ですかー?」
「………もし『スペース・ヴァンパイア』で出てきた美人でナイスバディなエロねーちゃんみたいなのがUFOから降りて来たら―――俺はおそらく何の迷いも躊躇もなく、命を捧げるだろうことだ」
「アホの極みですねー。一人で勝手に干からびて死んでてくださいー」

 バッサリと発言を切り捨てた少年に、んだと男のロマンだろうがコラァ! と噛みつく男。どうやら外見年齢はともかく、精神年齢においては少年の方が上らしい。
 なおも下らない言い争いを続ける彼らに痺れを切らしたのか、彼らを遠巻きに取り囲んでいた影達が動きを見せた。
 男と少年を取り囲む輪を縮め、彼らとの距離を詰めていく。
 そしてその距離が、たとえどんなに鈍い者であろうと気付くと思われるような距離になって、その影達―――異常に大きな頭とそれに見合わぬ小さな身体、ひょろ長い手足を持った、俗に"グレイ"と呼ばれる宇宙人―――の中で最も大きい集団のリーダーであろう個体が、男達に向かって言葉を発した。

「………君らは何者なのかね? 我々がそこの実験体達を回収することを許さず、しかし母船については眺めているだけ―――何が望みだ?」

 その言葉を聞いて、男達は顔を見合わせる。
 彼らの足元、グレイのリーダーが"そこ"と呼んだその場所には、数人の男女―――老若男女、年齢がバラけている所から見て、この牧場を営んでいる家族なのだろう―――が重なって倒れていた。
 グレイ達に先んじてその一家を、方法こそ悪かったものの保護していたその男と少年。
 空にはUFO、そして周りは十数人のグレイ達に囲まれているというのに、彼らからは一片の緊張も感じられない。

「………何が望みだっつわれても、なあ?」
「とってもとっても簡単な、朝飯前のことなんですけどねー。―――ああ、もう済みますー」

 少年の言葉に疑問を投げ掛けようと、グレイのリーダーが口を開いたその時。
 その場にいた全ての者の頭上を、巨大な黒い影が横切っていった。
 次の瞬間、爆音が響く。
 男と少年は全く動じず、対照的にグレイ達は慌ててその爆音が聞こえた方へと顔を向ける。

「―――な、あ…………?」

 炎を立ち上げ墜ちていく、銀色の輝きを黒煙にくすませたそれは、

「我々の、船が……! 貴様ら、一体何を―――むごっ!?」

 激昂して叫んだグレイのリーダーの口内に、黒い塊が飛び込んだ。
 その塊はリーダーの口内と食道に異物感を与えつつ胃へと到達し―――そこで、異物感は灼熱感へと変わる。
 リーダーの口から血が溢れだすと同時、周囲のグレイ達が動き出す隙も与えず、男と少年の足元から赤と黒が湧き出した。
 二色の津波はグレイ達を一瞬で飲み込み、競うようにしてその体内へと入り込んでいく。

「俺らの望み………っつーか俺らのボスの望みはな、お前らの排除だ。色々な意味で目障りなんだとよ」
「まあ、そんなわけで大人しく死んどいて下さいー。……っと、電話ですねー」

 懐から携帯電話を取り出し、対応し始める少年。
 周囲で上がる断末魔や血飛沫すら欠片も気にかける様子はない。

「くっくっく、いい悲鳴だなあ! あー安らぐぜ。これだから殺しは止められねえ!」
「―――はい、終わりましたよー。………はい、はい。ちょっとー、馬鹿笑いなんて止めて聞いてくださいー」
「くははははっはは―――って何だよ、人が折角気持ちよく笑ってっ時に」
「ボスからですよー。次のノルマがあるらしいですー」

 げ、またかよ、と顔をしかめる男。
 少年は携帯電話を操作し、スピーカーモードへと変える。

『あー、あー。聞こえているかね?』
「残念ながらな。それより、またかよボス?」
「そうですよー。休みもなしとは、流石に酷いと思いますー」
『ははは、何を言うんだね。君達は年がら年中、休みみたいなものだろう』
「ねえ、この腐れボス喰っちまいませんー?」
「いいなそれ。勿論生きたままな」
『君達は上司に対する尊敬の念はないのかね!? ―――というか喰わないで下さいお願いします』

 非常に緊張感に欠けたその会話も、血と白骨が散らばるこの場においては酷く不気味なものとなる。
 赤と黒―――真紅の蟻と巨大なゴキブリは、グレイ達の全てを喰らい尽くしてしまったようだ。草原に散らばった奇妙な形状の白骨だけが、グレイ達が生きていたという、ただ一つの証拠となっていた。

「―――まあそれは冗談としてー。内容をさっさと言ってくださいー。いい加減眠いですー」
『…………全く誰も彼も、何故目上に敬意を払おうとしないのかね。まあそれはいいとして、《ファイアーアント》の契約者が出現したらしい』
「敬意を払われたければそれなりの威厳を見せろってことだな。それより………《ファイアーアント》、だと?」

 男は傍らの少年へ目を向ける。
 その言葉を聞いた少年は俯き―――しばらくすると、肩を不気味に揺らし始めた。

「………あは、あははははは―――面白いじゃないですかー。他人様のものをパクってくれたゴミクズには、それなりの礼をしなくちゃいけませんねー………」

 低い声で呟く少年―――《ファイアーアント》の契約者。
 それを見て、男―――《生物兵器・人食いゴキブリ》の契約者は、携帯電話に向かってぼやく。

「………なあ、ものすっげえ燃えてやがるんだが、こいつ。ぶっちゃけおっかねえんだが」
『またまた、君も十分おっかない嗜好を持っているくせに。それより、もう一人はどうしたね? 君達が対空戦力を持ち合わせていない以上、UFOを撃墜したのは彼であるはずなんだが』
「ああ、あいつか。―――いや、マジでどこ行ったんだろうな?」

 夜空を見上げても、そこにあるのはキラキラと瞬く星々のみ。巨大な影も、銀色に輝いていたUFOすらも見かけることは出来ない。
 と、まるでまだ見ぬ敵を呪うかのようにブツブツ何かを呟いていた少年が顔を上げ、横からその質問に答えた。

「"コンドル"さんなら、もう夜遅いし帰ったそうですよー。UFO持ってったのは鳥目対策らしいですー」
『ほう、成る程。そういう理由なら仕方がない。―――ところで、"コンドル"というのは?』
「渾名みたいなもんですよー。秘密組織っぽくてステキだと思いませんー?」
「いや、思わねえよ、普通」

 少年の意見を、しかしすぐさま否定する男。
 しかし、

『―――確かに、その通りだ。……ふむ、そうだね、これはいい機会かもしれん…………』
「……あー、ボス? 念のために訊いといてやるが、何企んでやがる?」
『企むなどと、とんでもない! 私はただ、これから『メンバー』各員はコードネームを名乗ることを義務付けようかと思っていただけだ!』
「十分企んでるの範疇に入るわこのボケボス! んな恥ずかしいこと義務付けてみろ、一気に組織内が過疎化するだろうが!」
「僕はいいと思いますけどねー、それー。それこそ男のロマンってやつですよー」
「てめえは黙ってろこのゲーム脳が!」
「む、言いましたねー。ゲーム脳なんてものは何の実証もない、それこそ都市伝説よりも薄弱な程度のものですよー。それを以て罵倒とするなんて、笑えちゃいますー」

 つい先ほど幾つもの命を奪ったことを感じさせないほどぎゃあぎゃあと騒ぐ男と少年。
 しばらく言い争い、少年が完膚なきまでに男を言葉で叩きのめしたあたりで、携帯から声が響く。

『おーい、もしもーし。仲良きことは美しきことだが、少しくらいは放っておいたままの携帯電話の相手にも注目してもらいたいところなのだが』
「あー、はいはい。で、何だ? つーかもう要件は済んだんだし切っていいだろ?」
『ああ、後一つだけ伝えたら切るのでそれまで待ってくれたまえ。まあ、大したことではないのだが』
「だったらさっさと言いやがれ」
『それでは、早速―――さっきのコードネーム制だがね、賛成多数で可決されたよ。よって一週間以内に、自分のコードネームを考えておいてくれたまえ』
「……………は? いや、え? ………ははは、冗談きついぜボス?」
「おお、流石ですねー、ノリがいい人がいっぱいいて嬉しい限りですー」
『ははは、そうだろうそうだろう。いや、私も流石に通るとは思っていなかったのだがね。片っぱしから連絡をとって訊いた限りでは賛成意見が八割ほどを占めてね。全くもって素晴らしい』

 絶句する男を尻目に、とても楽しそうに″男のロマン″(とはいってもその男にとっては一生理解できないであろう内容だ)について語り合う少年と携帯の声。
 その会話が終わるのと男が絶句から立ち直るのとは、ほぼ同時だった。
 また語り合いましょうー、と別れの挨拶をかわし、通話を切る少年。
 その大きな身体をしょんぼりと縮めている男に対して、

「まあまあ、そんなに嫌なら自分でまだマシなコードネーム申請すればいいだけの話じゃないですかー」

 と慰めになるようなならないような、微妙なことを言ってくれる。

「…………ま、そんなんだけどな。今さら反抗しても遅いしな。……………はあ」
「溜め息をつくと幸せが逃げますよー」
「誰のせいで逃げてると思ってるんだこの野郎」

 骨をバリボキと砕きつつ、帰っていく男と少年。
 彼らの姿が消えた後には、奇妙な形の白骨と、未だ意識を失ったままの牧場の一家が残された。





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