ケモノツキ_04_男が来りて針を打つ
「やっぱり部長は強いなぁ。」
部活動の帰り道、悠司は誰にともなく、そう呟いた。
『そうじゃねぇ、てめぇが弱すぎなんだよ、主。』
『しかしタイガ、あなたの最初の攻撃は、彼に軽々と避けられてましたよね。』
『その上、カウンターも喰らってたよねー。』
「僕もあれは早計だったと思うなぁ。」
『てめぇらうるせぇぞ!とにかく攻めなきゃ勝てねえだろうが!!』
『しかしタイガ、あなたの最初の攻撃は、彼に軽々と避けられてましたよね。』
『その上、カウンターも喰らってたよねー。』
「僕もあれは早計だったと思うなぁ。」
『てめぇらうるせぇぞ!とにかく攻めなきゃ勝てねえだろうが!!』
全員から総攻撃を受けるタイガ。
その様子を見て、タマモはくすくすと笑う。
その様子を見て、タマモはくすくすと笑う。
『まぁ、失敗から学ぶことは多いですから、これを糧に成長しましょう。』
『せんせー、失敗したことも分かってない馬鹿犬に、成長は無理だと思いまーす。』
『はん、弱えぇ癖に口だけは達者だな、雌猫が。』
『あーっ!言ったなこの馬鹿犬!あたしが本気出せば、あんたなんか余裕なんだから!』
『てめぇなんざ軽く返り討ちだ!かかって来いよ雌猫!!』
『せんせー、失敗したことも分かってない馬鹿犬に、成長は無理だと思いまーす。』
『はん、弱えぇ癖に口だけは達者だな、雌猫が。』
『あーっ!言ったなこの馬鹿犬!あたしが本気出せば、あんたなんか余裕なんだから!』
『てめぇなんざ軽く返り討ちだ!かかって来いよ雌猫!!』
悠司の中で、二人が喧嘩を始めたのを感じ取り、悠司はため息をついた。
「はぁ…部長は妹さんと仲がいいのに、なんでタイガたちは喧嘩ばっかり…。」
『あれも一つの仲の良さですよ。相手に自分を認めてもらいたいから、喧嘩をするのです。』
「喧嘩するほど仲がいい…って奴?まぁ、互いに無関心よりはましなのかなぁ…。」
『あれも一つの仲の良さですよ。相手に自分を認めてもらいたいから、喧嘩をするのです。』
「喧嘩するほど仲がいい…って奴?まぁ、互いに無関心よりはましなのかなぁ…。」
複雑な表情を浮かべる悠司。ふと前方の電柱の影に、人影を発見した。
真っ白な白衣を着たそれは、悠司の視線に気づくとこちらに向かって歩いてきた。
真っ白な白衣を着たそれは、悠司の視線に気づくとこちらに向かって歩いてきた。
「なんだか変な感じがする…もしかして…。」
『ええ、都市伝説の類かもしれません。用心してください。』
『ええ、都市伝説の類かもしれません。用心してください。』
徐々に近づいてくるそれを警戒し、悠司は立ち止まる。
それは悠司の2mほど手前で歩みを止め、悠司を見やる。
それは悠司の2mほど手前で歩みを止め、悠司を見やる。
「少年、今何時だい?」
顔に巻かれた包帯を通して、くぐもった声で問いかけてくる男。
その言葉に、少年はいっそう警戒心を強める。
その言葉に、少年はいっそう警戒心を強める。
「…そういう陽動は、気づかれたら意味が無いんですよ。」
悠司の言葉は、暗に”お前の考えはお見通しだぞ”、と言い放っている。
それを察した男は、チッと舌打ちし、右腕を突き出してきた。
ある程度それを予想していた悠司は、後ろに飛びのいて男と距離をとる。
男の手も顔と同じように包帯で覆われており、その手は注射器が握られていた。
それを察した男は、チッと舌打ちし、右腕を突き出してきた。
ある程度それを予想していた悠司は、後ろに飛びのいて男と距離をとる。
男の手も顔と同じように包帯で覆われており、その手は注射器が握られていた。
「白衣を身に着け、包帯で覆われた体。その上、この襲い掛かる手口…。」
『ええ、間違いなく”注射男”ですね。』
『ええ、間違いなく”注射男”ですね。』
都市伝説に関わる身として、このような危険な都市伝説の情報は頭に入れている。
そうでなければ、時間を見ようと携帯電話を取り出した時点で、男に注射をされていただろう。
そうでなければ、時間を見ようと携帯電話を取り出した時点で、男に注射をされていただろう。
『主、どうしますか?』
「もし奴から逃げたら、他の誰かが襲われるかもしれない。…だから、倒す。」
『わかりました。では、私が出て…』
『あたし!あたしが出る!』
「もし奴から逃げたら、他の誰かが襲われるかもしれない。…だから、倒す。」
『わかりました。では、私が出て…』
『あたし!あたしが出る!』
いつの間にやら喧嘩を終えたらしいミズキが、声高らかに宣言する。
直後、悠司の意識は心の中へ引きずり込まれ、代わりにミズキが表に出てきた。
直後、悠司の意識は心の中へ引きずり込まれ、代わりにミズキが表に出てきた。
『ミズキ…っ!勝手な真似をしないでください!』
「注射されないように、あいつを倒せばいいんでしょ?簡単だよー。」
『一度でも刺されたら、主が死ぬかもしれないんですよ!』
「注射されないように、あいつを倒せばいいんでしょ?簡単だよー。」
『一度でも刺されたら、主が死ぬかもしれないんですよ!』
悠司を案ずるがゆえに、声を荒げるタマモ。
『大丈夫だよ、タマモ。ミズキなら出来るって信じてるから。』
それを悠司はやんわりと制する。
その言葉は確信に満ちており、ゆるぎない意思が感じられた。
その言葉は確信に満ちており、ゆるぎない意思が感じられた。
『ですが…わかりました。主がそう言うなら、私もミズキを信じます。』
「まっかせなさい!あたしが馬鹿犬よりも優秀ってことを、見せてあげるんだから!」
「まっかせなさい!あたしが馬鹿犬よりも優秀ってことを、見せてあげるんだから!」
そう言うとミズキは、注射男をしっかりと見据える。
注射男はミズキに向け、再び右手の注射器を突き出してきた。
ミズキの能力で強化された動体視力は、その攻撃をたやすくかわす。
そして両手で相手の右腕を掴んで捻り上げ、注射男は短いうめき声を上げる。
その隙にミズキは注射器を取り上げ、再び注射男と距離をとる。
注射男はミズキに向け、再び右手の注射器を突き出してきた。
ミズキの能力で強化された動体視力は、その攻撃をたやすくかわす。
そして両手で相手の右腕を掴んで捻り上げ、注射男は短いうめき声を上げる。
その隙にミズキは注射器を取り上げ、再び注射男と距離をとる。
「これで片がつけばいいんだけど…。」
ミズキは注射器を地面に落とし、それを踏み割った。
しかし注射男は動じた様子も無く、バッと白衣を広げて見せる。
その白衣の裏にあるのは、ずらりと並ぶ無数の注射器。
注射男はそのうちの一本を取り出すと、再びミズキ目掛けて歩み寄る。
しかし注射男は動じた様子も無く、バッと白衣を広げて見せる。
その白衣の裏にあるのは、ずらりと並ぶ無数の注射器。
注射男はそのうちの一本を取り出すと、再びミズキ目掛けて歩み寄る。
「やっぱり、これくらいじゃ終わらないよねー。」
『ぶっ倒すんなら、俺が出た方がいいんじゃねーの?』
「馬鹿犬は黙ってて!あたしだって、やれば出来るんだから!」
『ぶっ倒すんなら、俺が出た方がいいんじゃねーの?』
「馬鹿犬は黙ってて!あたしだって、やれば出来るんだから!」
三度注射器を突き出す注射男。
ミズキは怯む様子も無くその腕を掴み、そのまま背後へ回り込む。
ミズキは怯む様子も無くその腕を掴み、そのまま背後へ回り込む。
ゴギッ
「ぎゃああああああああ!!?!?」
男は叫び声を上げ、注射器を取り落とす。
ミズキが注射男の右腕を離すと、その腕は力なく垂れ下がった。
ミズキが注射男の右腕を離すと、その腕は力なく垂れ下がった。
ミズキの能力では、単純な力の強化は出来ない。
しかし、相手の関節を外すことならば、悠司自身の力でも十分可能だ。
敵の動きを見切り、捕らえ、極める。
筋力で勝るタイガとの喧嘩を通して、筋力で劣るミズキが考えた戦法である。
しかし、相手の関節を外すことならば、悠司自身の力でも十分可能だ。
敵の動きを見切り、捕らえ、極める。
筋力で勝るタイガとの喧嘩を通して、筋力で劣るミズキが考えた戦法である。
注射男は左手を白衣の中に突っ込み、注射器を取り出そうとする。
しかしミズキはその左腕も掴み、捻り上げる。
しかしミズキはその左腕も掴み、捻り上げる。
ゴギッ
再び響く、鈍い音と叫び声。
もう既にその両腕は、だらんと垂れ下がるのみである。
注射器を持てない注射男に、恐れるものはなにもない。
注射男の足を払ってうつ伏せに倒し、その背中に乗って、押さえつける。
もう既にその両腕は、だらんと垂れ下がるのみである。
注射器を持てない注射男に、恐れるものはなにもない。
注射男の足を払ってうつ伏せに倒し、その背中に乗って、押さえつける。
「主様、止めを刺してもいいんだよね?」
『…うん、倒さなきゃ。…僕がやらなきゃ、いけないんだ。』
『…うん、倒さなきゃ。…僕がやらなきゃ、いけないんだ。』
ゴキャッ
先ほどとは質の違う、鈍い音。
注射男は体をビクン、と痙攣させると、空の一点を見つめるようにして、動かなくなった。
注射男は体をビクン、と痙攣させると、空の一点を見つめるようにして、動かなくなった。
*
ミズキは立ち上がって、服の汚れをはたく。
「これで終わりっと。主様、あたし頑張ったよ!」
『うん、ありがとうミズキ。助かったよ。』
「へへん、あたしの方が、あの馬鹿犬よりも優秀なんだから!」
『調子に乗ってんじゃねーぞ雌猫。さっさと戻って来い、その鼻へし折ってやるよ。』
「なによ、やってやろうじゃない!じゃあ代わるね、主様。」
『うん、ありがとうミズキ。助かったよ。』
「へへん、あたしの方が、あの馬鹿犬よりも優秀なんだから!」
『調子に乗ってんじゃねーぞ雌猫。さっさと戻って来い、その鼻へし折ってやるよ。』
「なによ、やってやろうじゃない!じゃあ代わるね、主様。」
ふっ、と目を閉じた瞬間、悠司の膝がカクンと崩れる。
数分間全力疾走した後のような疲労感が、悠司の体を襲う。
数分間全力疾走した後のような疲労感が、悠司の体を襲う。
『主、大丈夫ですか?』
「これくらい…平気、だよ。」
「これくらい…平気、だよ。」
体に力を込め、立ち上がる悠司。
ふう、と一つ息をつくと、よろよろと歩き出す。
ふう、と一つ息をつくと、よろよろと歩き出す。
『…主、あれは人ではありません。よしんば人だったとしても、殺意を殺意で返すのは、当然のことです。』
「大丈夫、わかってるよ。今までだって何度も…倒してきただろ?」
「大丈夫、わかってるよ。今までだって何度も…倒してきただろ?」
そうは言うものの、悠司の心中は穏やかではない。
”人の形をしたものを壊す”という行為を、いともたやすく行えるほど、悠司の心は強くない。
それでも悠司が戦う理由は、”誰かがやらなければいけない”という責任感と使命感。そして決意。
その決意から逃げ出す弱さを、悠司自身は決して認めない。
”人の形をしたものを壊す”という行為を、いともたやすく行えるほど、悠司の心は強くない。
それでも悠司が戦う理由は、”誰かがやらなければいけない”という責任感と使命感。そして決意。
その決意から逃げ出す弱さを、悠司自身は決して認めない。
「帰ったら黒服さんに報告して、お風呂に入って、ゆっくり寝よう…。」
『…そうですね、明日は普通通りに学校です。早く寝て、明日に備えましょう。』
「よし、じゃあさっさと帰ろうか。」
『…そうですね、明日は普通通りに学校です。早く寝て、明日に備えましょう。』
「よし、じゃあさっさと帰ろうか。」
悠司は振り返ることなく、家への道のりを歩き続ける。
その遥か後ろでは、地面に横たわる注射男が、光の粒となって消えていった。
その遥か後ろでは、地面に横たわる注射男が、光の粒となって消えていった。
【ケモノツキ_04_男が来りて針を打つ】 終