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連載 - ケモノツキ-05

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ケモノツキ_05_やさしい黒服


「黒服さん、今日はありがとうございました。」
「いえ、これくらいのことしか出来なくて申し訳ありません。」

 任務の後、家まで送るという黒服の善意に甘え、悠司の自宅に到着した黒服と悠司。
 黒服は、優しさと悲しさを混ぜたような目で、悠司をまっすぐに見つめる。

「では、私はこれで失礼します。…どうかこれからも、お気をつけてください。」
「はい。本当に、ありがとうございました。」

 今まで、悠司たちが関わってきた黒服と比べて、この黒服は本当に異質な存在だと実感する。

 その黒服の後姿を見送ったのち、悠司は自宅のドアを開ける。
 靴を脱ぎ、リビングに入ると、一人の男性が悠司を迎えた。

「お帰り、悠司。怪我は無いか。」
「ただいま、父さん。大丈夫だよ。」

 彼は悠司の父親、橘野真一。
 悠司が「組織」の一員として働いていることを知っている、数少ない人物の一人だ。

「お前さっき、誰かと一緒だっただろ。…あれは誰だ?」
「現場で一緒になった、「組織」の黒服さん。あの人のところにも、同じような任務が出てたみたい。」
「黒服…か。」

 ほっとしたように、息を吐く真一。
 すぐさま、心配した表情で、悠司を見据える。

「もし怪しい奴が居たら、父さんに知らせるんだぞ。」
「父さんは心配しすぎだよ。じゃあ僕、黒服さんに報告しなきゃいけないから…」

 ブブブブブブ、と音を立て、悠司の携帯電話が震える。
 携帯電話の画面は、黒服からの着信を伝えていた。

「ちょうど黒服さんから電話、部屋に行ってるね。」
「ああ。風呂沸いてるから、ちゃんと入っとけよ。」

 リビングを出て自分の部屋に移動しつつ、電話に出る。

「もしもし、黒服さん。ちょうど今、電話しようと思ってたところです。」
「そうですか。先ほどの任務の際、一緒にいた人は誰ですか?」
「えっと、『骨を溶かすコーラ』の契約者さんと、その担当の黒服さん。家まで送ってもらったのは、その黒服さんです。」

 悠司は自分の部屋に入ると、そのままベッドに倒れこんだ。
 黒服や父親の前では多少我慢していたが、部屋に来て緊張の糸が切れ、体の痛みが表情に表れる。

「『骨を溶かすコーラ』…担当は、D-No.962ですね。」
「なんだか凄く、優しい人でした。人間味があるっていうか…。」
「D-No.962は元・人間の黒服です。元・人間の黒服は、以前の人格が残っている場合もあります。」
「元・人間…ですか。」

 黒服には、「組織」によって生み出された純粋な黒服と、契約者が都市伝説に呑まれるなどして、黒服になったものが居る。
 そのように、黒服から教わったことを思い出した。
 自分に対してのあの優しさは、元・人間だからなのだろうか、と、悠司は考える。

「橘野悠司、報告の続きを。」

 その言葉にハッとし、あわてて報告を再開する。

 現場に到着したとき、既に黒服たちが居たこと、彼らの任務は契約者の保護だったこと、
 契約者から悪魔の囁きを駆除し、彼らが保護したことなど、現場で起こった全てを報告した。

*



「…僕の任務は討伐でしたけど、現場の黒服さんの指示に従いました。悪かった…ですか?」
「いえ、対象の無効化が出来れば、手段は問いません。」

 その言葉に悠司は少し安心したが、同時に一つの疑問が生まれた。

「…なぜ、僕の任務は討伐だったんですか?」
「あなたが持つ、対象を無効化するために最も有効な手段は、対象を行動不能にすることだと判断しました。」
「あの黒服さんが使った薬があれば、それで解決できたんじゃ…。」
「対象が再び悪魔の囁きに取り付かれる可能性があります。それを防ぐために最も効率的な手段は、対象を処分することです。」

 淡々と語る黒服。”処分”という言葉が何を意味するのか、悠司はよく理解している。

「今回はD-No.962によって対象が保護されたので、その必要は無いと思われます。」
「…じゃあ、もしあの黒服さんたちがいなくて、僕があの契約者を気絶とかさせてたら…?」
「「組織」の黒服を派遣し、対象の回収・処分を行います。」

 ドクン、と心臓が脈打つ。
 今までに何度も都市伝説や、その契約者の討伐を行ってきたが、今日は事情が違う。
 あの黒服は、”保護”と言った。この黒服は、”処分”と言った。
 その違いが、悠司の心に絡みつき、言いようの無いもやもやとした気持ちが湧き出てくる。

「報告は以上でよろしいですか?」
「あっ、あの、一つ質問が。」
「なんでしょう。」

 ----D-No.962が、元・人間なら、名前はあるんですか?

 そう質問しようとしたが、寸前で言葉を呑む。

*



 ----黒服さんに、名前は無いんですか?
 ----私は「組織」によって作られ、黒服としての固体番号、A-No.218が与えられています。

 昔、黒服に質問したことを思い出す。
 口には出してないが、”私に名前はありません”と、はっきりそう告げた黒服。
 もし、D-No.962の名前を知ってしまったら、名前を持たないA-No.218を、人として見れなくなりそうで。

 それが、たまらなく怖くなった。

*



「…いえ、なんでもないです。」
「そうですか。では、いずれまた任務の際に連絡します。お疲れ様でした。」

 直後、電話が切れる。
 悠司は携帯電話を折りたたむとベッドに仰向けになり、ぼんやりと天井を見つめる。
 心のもやもやが、いっそうきつく、悠司の心に絡みつく。

『D-No.962だっけ?こっちの黒服と違って、すっごい優しかったねー。』
『ずいぶんと甘そうな奴だったな。あんな奴が「組織」でやってられんのかよ。』
『悪い人ではない…というより、善人の見本のような人でしたね。』

 程度の差はあれ、悠司を含む全員があの黒服に感じた印象は、”いい人”。
 担当の黒服と比べると、その違いが更に際立つ。

「A-No.218…。D-No.962…。同じ、黒服…。」
『主…?どうなさいました?』
「…ん?いや、なんでもないよ。さて、今日も疲れたし、お風呂に入ってゆっくり休もうか。」

 バッ、とベッドから起き上がるが、体を奔る筋肉痛に、顔をしかめた。
 パジャマとバスタオルを持って、体の痛みに耐えながら風呂場へと向かう。

 そして悠司は思う。
 願わくば、このもやもやとした気持ちが、体についた汗と一緒に流れてくれるように、と。



ケモノツキ_05_やさしい黒服】    終


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