「組織」のお仕事より
*
ケモノツキ_05_やさしい黒服
「黒服さん、今日はありがとうございました。」
「いえ、これくらいのことしか出来なくて申し訳ありません。」
「いえ、これくらいのことしか出来なくて申し訳ありません。」
任務の後、家まで送るという黒服の善意に甘え、悠司の自宅に到着した黒服と悠司。
黒服は、優しさと悲しさを混ぜたような目で、悠司をまっすぐに見つめる。
黒服は、優しさと悲しさを混ぜたような目で、悠司をまっすぐに見つめる。
「では、私はこれで失礼します。…どうかこれからも、お気をつけてください。」
「はい。本当に、ありがとうございました。」
「はい。本当に、ありがとうございました。」
今まで、悠司たちが関わってきた黒服と比べて、この黒服は本当に異質な存在だと実感する。
その黒服の後姿を見送ったのち、悠司は自宅のドアを開ける。
靴を脱ぎ、リビングに入ると、一人の男性が悠司を迎えた。
靴を脱ぎ、リビングに入ると、一人の男性が悠司を迎えた。
「お帰り、悠司。怪我は無いか。」
「ただいま、父さん。大丈夫だよ。」
「ただいま、父さん。大丈夫だよ。」
彼は悠司の父親、橘野真一。
悠司が「組織」の一員として働いていることを知っている、数少ない人物の一人だ。
悠司が「組織」の一員として働いていることを知っている、数少ない人物の一人だ。
「お前さっき、誰かと一緒だっただろ。…あれは誰だ?」
「現場で一緒になった、「組織」の黒服さん。あの人のところにも、同じような任務が出てたみたい。」
「黒服…か。」
「現場で一緒になった、「組織」の黒服さん。あの人のところにも、同じような任務が出てたみたい。」
「黒服…か。」
ほっとしたように、息を吐く真一。
すぐさま、心配した表情で、悠司を見据える。
すぐさま、心配した表情で、悠司を見据える。
「もし怪しい奴が居たら、父さんに知らせるんだぞ。」
「父さんは心配しすぎだよ。じゃあ僕、黒服さんに報告しなきゃいけないから…」
「父さんは心配しすぎだよ。じゃあ僕、黒服さんに報告しなきゃいけないから…」
ブブブブブブ、と音を立て、悠司の携帯電話が震える。
携帯電話の画面は、黒服からの着信を伝えていた。
携帯電話の画面は、黒服からの着信を伝えていた。
「ちょうど黒服さんから電話、部屋に行ってるね。」
「ああ。風呂沸いてるから、ちゃんと入っとけよ。」
「ああ。風呂沸いてるから、ちゃんと入っとけよ。」
リビングを出て自分の部屋に移動しつつ、電話に出る。
「もしもし、黒服さん。ちょうど今、電話しようと思ってたところです。」
「そうですか。先ほどの任務の際、一緒にいた人は誰ですか?」
「えっと、『骨を溶かすコーラ』の契約者さんと、その担当の黒服さん。家まで送ってもらったのは、その黒服さんです。」
「そうですか。先ほどの任務の際、一緒にいた人は誰ですか?」
「えっと、『骨を溶かすコーラ』の契約者さんと、その担当の黒服さん。家まで送ってもらったのは、その黒服さんです。」
悠司は自分の部屋に入ると、そのままベッドに倒れこんだ。
黒服や父親の前では多少我慢していたが、部屋に来て緊張の糸が切れ、体の痛みが表情に表れる。
黒服や父親の前では多少我慢していたが、部屋に来て緊張の糸が切れ、体の痛みが表情に表れる。
「『骨を溶かすコーラ』…担当は、D-No.962ですね。」
「なんだか凄く、優しい人でした。人間味があるっていうか…。」
「D-No.962は元・人間の黒服です。元・人間の黒服は、以前の人格が残っている場合もあります。」
「元・人間…ですか。」
「なんだか凄く、優しい人でした。人間味があるっていうか…。」
「D-No.962は元・人間の黒服です。元・人間の黒服は、以前の人格が残っている場合もあります。」
「元・人間…ですか。」
黒服には、「組織」によって生み出された純粋な黒服と、契約者が都市伝説に呑まれるなどして、黒服になったものが居る。
そのように、黒服から教わったことを思い出した。
自分に対してのあの優しさは、元・人間だからなのだろうか、と、悠司は考える。
そのように、黒服から教わったことを思い出した。
自分に対してのあの優しさは、元・人間だからなのだろうか、と、悠司は考える。
「橘野悠司、報告の続きを。」
その言葉にハッとし、あわてて報告を再開する。
現場に到着したとき、既に黒服たちが居たこと、彼らの任務は契約者の保護だったこと、
契約者から悪魔の囁きを駆除し、彼らが保護したことなど、現場で起こった全てを報告した。
契約者から悪魔の囁きを駆除し、彼らが保護したことなど、現場で起こった全てを報告した。
*
「…僕の任務は討伐でしたけど、現場の黒服さんの指示に従いました。悪かった…ですか?」
「いえ、対象の無効化が出来れば、手段は問いません。」
「いえ、対象の無効化が出来れば、手段は問いません。」
その言葉に悠司は少し安心したが、同時に一つの疑問が生まれた。
「…なぜ、僕の任務は討伐だったんですか?」
「あなたが持つ、対象を無効化するために最も有効な手段は、対象を行動不能にすることだと判断しました。」
「あの黒服さんが使った薬があれば、それで解決できたんじゃ…。」
「対象が再び悪魔の囁きに取り付かれる可能性があります。それを防ぐために最も効率的な手段は、対象を処分することです。」
「あなたが持つ、対象を無効化するために最も有効な手段は、対象を行動不能にすることだと判断しました。」
「あの黒服さんが使った薬があれば、それで解決できたんじゃ…。」
「対象が再び悪魔の囁きに取り付かれる可能性があります。それを防ぐために最も効率的な手段は、対象を処分することです。」
淡々と語る黒服。”処分”という言葉が何を意味するのか、悠司はよく理解している。
「今回はD-No.962によって対象が保護されたので、その必要は無いと思われます。」
「…じゃあ、もしあの黒服さんたちがいなくて、僕があの契約者を気絶とかさせてたら…?」
「「組織」の黒服を派遣し、対象の回収・処分を行います。」
「…じゃあ、もしあの黒服さんたちがいなくて、僕があの契約者を気絶とかさせてたら…?」
「「組織」の黒服を派遣し、対象の回収・処分を行います。」
ドクン、と心臓が脈打つ。
今までに何度も都市伝説や、その契約者の討伐を行ってきたが、今日は事情が違う。
あの黒服は、”保護”と言った。この黒服は、”処分”と言った。
その違いが、悠司の心に絡みつき、言いようの無いもやもやとした気持ちが湧き出てくる。
今までに何度も都市伝説や、その契約者の討伐を行ってきたが、今日は事情が違う。
あの黒服は、”保護”と言った。この黒服は、”処分”と言った。
その違いが、悠司の心に絡みつき、言いようの無いもやもやとした気持ちが湧き出てくる。
「報告は以上でよろしいですか?」
「あっ、あの、一つ質問が。」
「なんでしょう。」
「あっ、あの、一つ質問が。」
「なんでしょう。」
----D-No.962が、元・人間なら、名前はあるんですか?
そう質問しようとしたが、寸前で言葉を呑む。
*
----黒服さんに、名前は無いんですか?
----私は「組織」によって作られ、黒服としての固体番号、A-No.218が与えられています。
----私は「組織」によって作られ、黒服としての固体番号、A-No.218が与えられています。
昔、黒服に質問したことを思い出す。
口には出してないが、”私に名前はありません”と、はっきりそう告げた黒服。
もし、D-No.962の名前を知ってしまったら、名前を持たないA-No.218を、人として見れなくなりそうで。
口には出してないが、”私に名前はありません”と、はっきりそう告げた黒服。
もし、D-No.962の名前を知ってしまったら、名前を持たないA-No.218を、人として見れなくなりそうで。
それが、たまらなく怖くなった。
*
「…いえ、なんでもないです。」
「そうですか。では、いずれまた任務の際に連絡します。お疲れ様でした。」
「そうですか。では、いずれまた任務の際に連絡します。お疲れ様でした。」
直後、電話が切れる。
悠司は携帯電話を折りたたむとベッドに仰向けになり、ぼんやりと天井を見つめる。
心のもやもやが、いっそうきつく、悠司の心に絡みつく。
悠司は携帯電話を折りたたむとベッドに仰向けになり、ぼんやりと天井を見つめる。
心のもやもやが、いっそうきつく、悠司の心に絡みつく。
『D-No.962だっけ?こっちの黒服と違って、すっごい優しかったねー。』
『ずいぶんと甘そうな奴だったな。あんな奴が「組織」でやってられんのかよ。』
『悪い人ではない…というより、善人の見本のような人でしたね。』
『ずいぶんと甘そうな奴だったな。あんな奴が「組織」でやってられんのかよ。』
『悪い人ではない…というより、善人の見本のような人でしたね。』
程度の差はあれ、悠司を含む全員があの黒服に感じた印象は、”いい人”。
担当の黒服と比べると、その違いが更に際立つ。
担当の黒服と比べると、その違いが更に際立つ。
「A-No.218…。D-No.962…。同じ、黒服…。」
『主…?どうなさいました?』
「…ん?いや、なんでもないよ。さて、今日も疲れたし、お風呂に入ってゆっくり休もうか。」
『主…?どうなさいました?』
「…ん?いや、なんでもないよ。さて、今日も疲れたし、お風呂に入ってゆっくり休もうか。」
バッ、とベッドから起き上がるが、体を奔る筋肉痛に、顔をしかめた。
パジャマとバスタオルを持って、体の痛みに耐えながら風呂場へと向かう。
パジャマとバスタオルを持って、体の痛みに耐えながら風呂場へと向かう。
そして悠司は思う。
願わくば、このもやもやとした気持ちが、体についた汗と一緒に流れてくれるように、と。
願わくば、このもやもやとした気持ちが、体についた汗と一緒に流れてくれるように、と。
【ケモノツキ_05_やさしい黒服】 終