「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-03

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 人口もそう多くは無い町の更に端、山の中に隠れようとしているかのような位置にある家。
 その家を囲う塀を眺めて、千勢は呟いた。
「……≪赤いクレヨン≫か」
 家の中に隠された部屋があり、その部屋を確認してみたら赤いクレヨンでびっしりと落書きがしてあるという話から生まれた都市伝説だったろうか。
 そう考えながら千勢は草が伸び放題になっている庭へと踏み込み、自身の横でこの〝≪赤いクレヨン≫で隠された家〟を嗅ぎつけた白い獣を見やる。
「人の気配が無いな。ケウ、この中になにかがあるのか?」
 名を呼ばれた毛むくじゃらの白い獣は、喉を小さく鳴らして肯定の意を告げる。
「ふむ……」
 千勢は家の敷地内へと土足のままで侵入した。
 家の塀を囲むようにして≪赤いクレヨン≫で綴られた、

 ――ここから出して! ごめんなさい! ここから出して! ごめんなさい! ここから出して! ごめんなさい! ――

 という文字を見る。
 内側からこの家を意図的に隠そうとしたのだろう。随分と念入りな筆跡で≪赤いクレヨン≫は塀を囲っていた。
 庭には何かを埋めた跡のように盛り上がった土の山がいくつかあった。埋められ方が甘いのか、土山の辺りからは腐敗臭が漂っている。
 ……人が埋められているな……中で殺し合いでもあったのか?
「――いや」
 千勢は首を振る。
 もしそうだとしたらわざわざ埋める事も無いだろう。墓の内、二つだけがいくつかある墓の中でも特に丁寧に作られている事も気になる。
 その事を心に留めおき、ケウが先導するままに千勢は家の中へと入って行った。
 ケウを追っていくと、中には一人の子供がいた。
 長くこの家の中に居たのか、髪が伸び放題で、本人はかなり衰弱しているようだった。
 その衰弱した少年の肩には、彼を励まそうとでもしているかのように飛び跳ねている小さな存在がある。
 あれは、≪ケサランパサラン≫……。
 確認して、千勢は少年に声をかけた。
「何があったか訊いてもかまわないか?」
 少年は無言。ただ視線だけを向けてきた。
 虚無に近いその瞳を覗き込んで千勢は参ったなぁと思う。
「だんまりか、子供のクセにひどい目をしている」
「……」
「庭にあった墓、あれはお前がこしらえたものだな?」
「……」
「墓はいくつかあるな、そのうち二つが他の墓から遠ざけてあった。……お前の両親のものだな?」
 置物のように黙っていた少年が顔を上げて千勢を見据えた。視線に淡い敵意が込められたのを感じとって千勢は首を左右に振る。
「暴いてなどいないさ。ただ、この家に張られた結界を壊した時にいろいろと推測はついた」
 傍らの白い獣を示し、
「こいつはケウ、≪ケサランパサラン≫の一つの姿だと思ってくれればいい。お前の≪ケサランパサラン≫の匂いを嗅ぎつけたらしくてな、お前をこうして見つけられたわけだ」
 少年はケウを見た。その上で興味深げに問いかけてくる。
「その≪ケサランパサラン≫には、幸福を……」
「招く力は無い。せいぜいかくれんぼが上手なくらいだな」
「そうか……」
 落胆の気配を見せながら、少年は顔を伏せた。
 労わるように少年の肩上で跳ねている≪ケサランパサラン≫に目をやって、千勢は訊ねる。
「≪ケサランパサラン≫を恨んではいないのか?」
「同情はしてる……契約の時、いろいろ視たから」
 なるほど、と千勢は頷いた。
 心はまだ死んではいないし、人格は善良らしい。流石は≪ケサランパサラン≫が契約した人間という事か。
 このまま死なすには惜しいな……。
 千勢は少年を見つけたケウを誉めるように顎の下に手をやる。喉を鳴らすケウに微笑みかけ、少年に提案した。
「どうだ少年、私と一緒にこないか? 生きていく術を教えてやろう。どちらにせよこのままここにいてはいつか衰弱死するぞ」
「……それでもいい」
 少年はどこか無気力感が漂う声で答えた。
「随分とひどいものを見たようだな」
「おかげで悟った」
「それで、もう自分の命もどうでもいいと?」
「……執着はない」
「そう言うな、私はお前を引っ張り出してしまいたい。そういう性分なんだ」
「そうして≪ケサランパサラン≫を、幸せを要求するのか?」
「興味無いな、この家に結界を張った連中と一緒にしてくれるなよ?」
 自然、強くなった語調に目を丸くした少年へと苦笑を浮かべ、千勢は言う。
「私はお前に生きる術を、戦う方法を、不幸を招く幸せを使いこなす意志の持ちようを、そしてそれを繰る責任を教えよう。
 見返りは私の自己満足と、あとはまあ、飲み仲間にでもなってくれればいい。――ついて来い」
 手を伸ばす。それをぼんやりと眺め、ややあって迷うようにゆっくりと手を伸ばしながら、少年は口を開く。
「……じゃあ、利用させてもらう。あんたからいろいろ習って、そして――」
 少年の言葉が止まった。少年自身、まだ何を目標にこれからを生きて行けばいいのか分からないのだろう。
 千勢は笑顔で頷く。
「ああ、そしてお前自身の幸せを見つけてみるのもまた一興だろう」
 中途半端に伸ばされていた少年の手を掴まえた。
 少年の、肉が削げ落ちて骨ばってしまった小さな手を自身の手の中に感じる。
「私は高坂千勢、こいつはケウだ。少年、名前は?」
「俺は――」
 多くの闇を見せられた少年は疲弊し、一度は立ち止まって緩やかな死を望み――しかし前へと進む事を選択した。


            ●


 千勢は過去の記憶の中の少年と目の前の青年の姿を比べ、己の目的を一瞬忘れて彼の無事に内心胸を撫で下ろした。
 立派に育ったものだ……。
 そう思いながら、笑みで彼女はTさんを見据える。
「さて、簡単な紹介が済んだところでモニカを渡してくれないか?」
「何故だ?」
「それは秘密という奴だ。それに、お前達には関係のないことだろう? 馬鹿弟子」
 モニカは由実にしがみついて千勢の視線から隠れるようにしている。それに一足で飛びかかろうとして、Tさんの声に邪魔された。
「これがそうでもない。モニカは初見だが、フィラちゃんとは面識がある」
「フィラちゃん?」
「こっちの、≪フィラデルフィア計画≫の契約者の渾名だそうだ」
「……藤宮由実よ」
 千勢はそういう名前か、と頷いた。
 その上で、
「フィラちゃんには手を出しはしない。そう約束しよう」
 千勢の視界の中、由実が何故かうなだれた。
「ではフィ……藤宮由実」
 Tさんが憐れみのこもった目で由実を見て言い直す。
「その条件でモニカを師匠に渡す気はあるか?」
「あるわけないでしょ」
「即答、か」
 うん、とどこか満足げな笑みを浮かべて千勢は言う。
「お前も私と敵対するか? 馬鹿弟子」
「理由も話せないのではな」
 そう言って肩をすくめたTさんに千勢はそうか、と答える。
「理由を話す気は無いんだな?」
「今はまだな」
 そう言って千勢はTさん達へ向けて歩き、戦闘に臨む気配を発散させる。
「……アレを止める事が出来たら幸せだ」
 諦めたようなため息と共に小さな呟きが聞こえ、≪ケサランパサラン≫の加護がTさんに付与されるのを千勢は確認した。
「祈祷強化、同化した今でも使えるか……」
「無理にモニカを攫おうとするのなら邪魔をさせてもらうぞ、師匠」
「それは面白いな××、私と戦うのか?」
 殊更に以前の名前を強調したが、Tさんは動じた様子もなく構えをとった。人であった時の自分に執着は無いようだと確認し、千勢は告げる。
「ふむ……。では久しぶりに手合わせといこうか」
「ああ」
 Tさんと千勢、双方が初動の為に重心を移動させる。
 両者の初手は意気の声。
「往くぞっ!」
 揃ったその声と共に、地を蹴りつける音が住宅街に木霊した。




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