……一年ほど、昔の話
はらり、はらりと、雪が舞い散る
掌に落ちてくる雪は、体温で一瞬で解けてしまい、ただの水滴へと変わる
雪は、どこか温かみを感じさせてくれるというのに、何故、水滴に変わると冷たさを感じるのだろうか
掌に落ちてくる雪は、体温で一瞬で解けてしまい、ただの水滴へと変わる
雪は、どこか温かみを感じさせてくれるというのに、何故、水滴に変わると冷たさを感じるのだろうか
「…積もりますかね、これは」
降り続ける雪を見つめ、呟くカイザー
夜の闇の中、降り続ける雪
この調子で降り続ければ、明日の朝にはだいぶ積もって居る事だろう
…子供達が喜びそうだ
自分達は、雪かきに忙殺される事になりそうだが
夜の闇の中、降り続ける雪
この調子で降り続ければ、明日の朝にはだいぶ積もって居る事だろう
…子供達が喜びそうだ
自分達は、雪かきに忙殺される事になりそうだが
「何やってるのー?」
「寒くないー??」
「寒くないー??」
…と
どすっ、どすっ、と
飛びついてきた小さな影、二つ
それを見下ろし、カイザーは小さく笑う
どすっ、どすっ、と
飛びついてきた小さな影、二つ
それを見下ろし、カイザーは小さく笑う
「リュリュ、マドレーヌ……いえ、雪を見ていただけです。寒くはありませんよ」
「そうー?」
「カイザー、手、冷たいー」
「そうー?」
「カイザー、手、冷たいー」
きゅう、きゅう、と
右手と左手、それぞれ、リュリュとマドレーヌに握られた
暖かな体温が、伝わってくる
右手と左手、それぞれ、リュリュとマドレーヌに握られた
暖かな体温が、伝わってくる
「教会の中、入ろー!」
「カインが、クッキー焼いてくれたのー!」
「ケーキも作ってくれたのー!」
「でも、見た目が貧相なの」
「十字架のクッキーって言ってたけど、ミジンコかゾウリムシに見えるの」
「ケーキも、クリームがうまく塗れてないの。めちゃくちゃなの」
「カイン不器用ー」
「ニーナが作ったクッキーの方が上手ー」
「カインが、クッキー焼いてくれたのー!」
「ケーキも作ってくれたのー!」
「でも、見た目が貧相なの」
「十字架のクッキーって言ってたけど、ミジンコかゾウリムシに見えるの」
「ケーキも、クリームがうまく塗れてないの。めちゃくちゃなの」
「カイン不器用ー」
「ニーナが作ったクッキーの方が上手ー」
…何と、子供は正直なことか
まぁ、本人の前で言ってないだけマシか…
まぁ、本人の前で言ってないだけマシか…
「…悪かったな、不器用で」
ぼそり、と
やや恨みがましい声が聞こえてきた
きゃー、と、リュリュとマドレーヌが、カイザーの体を盾に隠れる
小さく苦笑し、カイザーは振り返った
やや恨みがましい声が聞こえてきた
きゃー、と、リュリュとマドレーヌが、カイザーの体を盾に隠れる
小さく苦笑し、カイザーは振り返った
そこには、やや小柄な体格の、若い司祭がいた
翡翠色の瞳は、カイザーの後ろに隠れたリュリュとマドレーヌを睨んでいるようだ
信心深い素晴らしい司祭なのだが、若干目つきと口調が悪いのと、致命的に不器用なのが欠点だ
…身長については触れないでやろう、本人も気にしているようだし
翡翠色の瞳は、カイザーの後ろに隠れたリュリュとマドレーヌを睨んでいるようだ
信心深い素晴らしい司祭なのだが、若干目つきと口調が悪いのと、致命的に不器用なのが欠点だ
…身長については触れないでやろう、本人も気にしているようだし
「…カイン司祭。お菓子を作ってくださったそうですが、火傷などしていませんか?」
「……問題ない」
「……問題ない」
ふと、カインの手に視線を落とす
…大火傷はしていないようだ
軽い火傷はしているようだが
相変わらず、この若い司祭は不器用なようである
…大火傷はしていないようだ
軽い火傷はしているようだが
相変わらず、この若い司祭は不器用なようである
「…とりあえず、その二人の言う通り、中に入るといい。今夜は、冷え込むようだから」
「そうですね。そうさせていただきます」
「先に行ってるねー!」
「競争してるねー!」
「そうですね。そうさせていただきます」
「先に行ってるねー!」
「競争してるねー!」
きゃいきゃいきゃい
リュリュとマドレーヌが、追いかけっこするように駆けて行く
転びますよ、と声をかけたが…まぁ、聞いちゃいないだろう
本当、転ばないと良いのだが
リュリュとマドレーヌが、追いかけっこするように駆けて行く
転びますよ、と声をかけたが…まぁ、聞いちゃいないだろう
本当、転ばないと良いのだが
…二人を見ていて、ふと、昔の事を思い出したからだろうか
カインが心配そうに、その翡翠色の瞳を向けてきた
カインが心配そうに、その翡翠色の瞳を向けてきた
「…カイザー司祭。考え事でも?」
「……少し、昔を思い出していただけですよ」
「……少し、昔を思い出していただけですよ」
気遣うような言葉をかけてきたカインに、そう答えるカイザー
昔の記憶
失ってしまった、尊いもの
失ってしまった、尊いもの
それを、取り戻したい
蘇らせたい
……故に、カイザーは、ここにいる
蘇らせたい
……故に、カイザーは、ここにいる
「……カイン司祭。あなたは……失ってしまったものを取り戻したいと………死者に、蘇って欲しいと、そう、願った事はありますか?」
教会へと、足を向けながら…そう、尋ねてみたカイザー
我ながら、残酷な質問をしてしまったと考える
この司祭もまた、自分のように、大切な存在を失っているのだから
我ながら、残酷な質問をしてしまったと考える
この司祭もまた、自分のように、大切な存在を失っているのだから
カイザーの問いに…カインは、一瞬、悲しげな表情を浮かべ
しかし、軽く首を左右に降って、答える
しかし、軽く首を左右に降って、答える
「…死者の眠りを妨げるのは、罪深い事だ。俺達にできるのは、死者の為に祈る事だけだ」
「……その眠りが、安らかなものではなかったとしても?」
「死者が安らかな眠りにつけているかどうか、俺達は知る事が出来ない……だからこそ、祈るんじゃないか?」
「………そうですね。だからこそ……私達は、祈らずに居られないのでしょうね」
「……その眠りが、安らかなものではなかったとしても?」
「死者が安らかな眠りにつけているかどうか、俺達は知る事が出来ない……だからこそ、祈るんじゃないか?」
「………そうですね。だからこそ……私達は、祈らずに居られないのでしょうね」
…それでいい
きっと、カインが正解なのだ
自分は、間違った方法を選んでしまっている
だが、もはや、それからは逃れられない
…せめて、この青年には、自分と同じような道を歩んで欲しくない
カイザーはそう、願う
きっと、カインが正解なのだ
自分は、間違った方法を選んでしまっている
だが、もはや、それからは逃れられない
…せめて、この青年には、自分と同じような道を歩んで欲しくない
カイザーはそう、願う
「…ありがとうございます、カイン司祭。そして、すみません、つまらぬ事を聞いてしまって」
「……つまらないことではないさ。死者に、蘇って欲しい。それは、太古より人々が願い続けた奇跡の一つだ」
「……つまらないことではないさ。死者に、蘇って欲しい。それは、太古より人々が願い続けた奇跡の一つだ」
さく、さく、と
つもりはじめた雪を踏みしめながら
ゆっくり、カインは続ける
つもりはじめた雪を踏みしめながら
ゆっくり、カインは続ける
「…だが。死者蘇生は、神にのみ許された領域。俺達には手が届かないし、届いたとしても許されるものではないさ」
「そう、ですね…神にのみ、許された領域。そこに、私達は触れるわけにはいかないのでしょうね」
「そう、ですね…神にのみ、許された領域。そこに、私達は触れるわけにはいかないのでしょうね」
……わかっている
わかっては、いるが
わかっては、いるが
それでも……手を伸ばさずに、自分はいられないから
だから、また、罪を重ねるのだ
だから、また、罪を重ねるのだ
「カイザー司祭」
「はい?」
「はい?」
翡翠色の瞳が、見上げてくる
やはり、気遣っているような視線
…少々、心を見せすぎただろうか
やはり、気遣っているような視線
…少々、心を見せすぎただろうか
「…悩みがあるのなら、いつでも相談に乗る。懺悔があるのなら、いつでも聞いてやる………だから。あまり、背負いすぎるなよ?」
「……お気遣い、感謝します。私は大丈夫ですから……あなたこそ、背負いすぎないように」
「……お気遣い、感謝します。私は大丈夫ですから……あなたこそ、背負いすぎないように」
まったく
こんな若い司祭に気遣われるなど
…まだ、自分は未熟だ
心を、完全に隠しきれないままだ
こんな若い司祭に気遣われるなど
…まだ、自分は未熟だ
心を、完全に隠しきれないままだ
…教会に到着するまで、会話が途切れる
中からは、リュリュ達の賑やかな声が聞こえてきていた
……この声、お菓子を取り合っているな
注意しなければ
中からは、リュリュ達の賑やかな声が聞こえてきていた
……この声、お菓子を取り合っているな
注意しなければ
…と、教会の扉を、開けようとしたところで
「…カイザー司祭………その、俺は、途中で抜けるから…」
と
カインが、やや申し訳なさそうに、口を開いてきた
あぁ、とカイザーは小さく微笑み、カインを見下ろす
カインが、やや申し訳なさそうに、口を開いてきた
あぁ、とカイザーは小さく微笑み、カインを見下ろす
「ご友人とのお約束、でしたか?構いませんよ、イザーク達もいるんですから。子供達の面倒は、私達が見ておきますよ」
「……すまない」
「お気になさらず。「教会」とは関わりのないご友人なのでしょう?」
「……すまない」
「お気になさらず。「教会」とは関わりのないご友人なのでしょう?」
頷いてくるカイン
詳しくは知らないが、「教会」とは関わりのない友人を、カインは持っているらしい
どのような存在かは知らないが、ずいぶんと大切な存在のようだ
何せ、「教会」内で親しい友人である、ヘンリーやロリスよりも、古い付き合いであるようだし
詳しくは知らないが、「教会」とは関わりのない友人を、カインは持っているらしい
どのような存在かは知らないが、ずいぶんと大切な存在のようだ
何せ、「教会」内で親しい友人である、ヘンリーやロリスよりも、古い付き合いであるようだし
「そのお相手が女性なのでしたら、朝帰りは控えるように、と言うところなのですがね」
「……そんな相手はいない。あれは男だ」
「……そんな相手はいない。あれは男だ」
なら良いのですが、と笑ってみせるカイザー
何も、カインが嘘をついているとは思わない
…嘘をつけるような性格ではないのだ、この真面目な司祭は
万が一、相手が女性だったとしても、朝帰りするような性格でもない
何も、カインが嘘をついているとは思わない
…嘘をつけるような性格ではないのだ、この真面目な司祭は
万が一、相手が女性だったとしても、朝帰りするような性格でもない
「言い訳も、私が適当にしておきますよ、あなたは、気にしなくとも大丈夫です」
「………本当に、すまない」
「………本当に、すまない」
謝罪してくるカインに、気にしないように言いながら
カイザーは扉を開け、中に入って……
カイザーは扉を開け、中に入って……
「っいやぁあああああああああああああああああああああっ!!??地獄の底から悪魔が這い上がってここまで来たぁあああああああああああああ!!??」
……絶叫が、耳に届いた
「ちょっとぉ!?何よ失礼ねっ!?」
「……ヴァレンタイン、その不気味な顔で突然ジョルディの前に現れるな。こいつが怯える」
「ヴァタァシの顔のどこが不気味だって言うのよっ!?」
「全部ー」
「厚化粧ー」
「……ヴァレンタイン、その不気味な顔で突然ジョルディの前に現れるな。こいつが怯える」
「ヴァタァシの顔のどこが不気味だって言うのよっ!?」
「全部ー」
「厚化粧ー」
………
…何と、言うか
…何と、言うか
「…厚化粧は、罪」
「そうよねン。もはや、あの顔は凶器よねン」
「失礼しちゃうわ小娘共っ!?」
「喧嘩はいけません!神の前では、皆平等なのですっ!!」
「そうよねン。もはや、あの顔は凶器よねン」
「失礼しちゃうわ小娘共っ!?」
「喧嘩はいけません!神の前では、皆平等なのですっ!!」
………
軽い、頭痛を覚える
隣を見れば、カインも同じ様子のようだ
軽い、頭痛を覚える
隣を見れば、カインも同じ様子のようだ
「……カイザー司祭。俺は、とりあえずニーナを中心になだめて来る」
「…私も、リュリュとマドレーヌをなだめてきます。ジョルディはイザークに任せるとして、ヴァレンタインは…」
「…シスター・ヴァレンタインは、二人係で落ち着かせようか」
「………そうですね」
「…私も、リュリュとマドレーヌをなだめてきます。ジョルディはイザークに任せるとして、ヴァレンタインは…」
「…シスター・ヴァレンタインは、二人係で落ち着かせようか」
「………そうですね」
…あぁ
何故、「13使徒」は無駄に賑やかなのか
全員揃っているわけでもないのに、これだ
何故、「13使徒」は無駄に賑やかなのか
全員揃っているわけでもないのに、これだ
…自分達のような集団に、カインを巻き込んだ事を申し訳なく思いながら
カイザーは、賑やかなクリスマスの光景に………しばし、己の罪から救われたような錯覚を覚えたのだった
カイザーは、賑やかなクリスマスの光景に………しばし、己の罪から救われたような錯覚を覚えたのだった
fin