【陛下と僕と獣の数字 第九話~陛下ピンチ~】
「この……ド変態め!」
右アッパーがセージの後頭部に突き刺さる。
見事に弧を描いて吹き飛ぶセージ。
見事に弧を描いて吹き飛ぶセージ。
「おー」
思わず感嘆の声をあげるトト。
「まったく、これに懲りて妙なことは……」
此処で初めてクラウディアは気づく。
今殴り飛ばした筈のセージが居ない。
と、いうかそもそも見覚えのない場所に彼女らは居た。
今殴り飛ばした筈のセージが居ない。
と、いうかそもそも見覚えのない場所に彼女らは居た。
「……クラウディア、さん。新手の契約者です」
自らの契約者の不在を感知出来なかったことにトトは焦っていた。
自分は弱っていて戦闘できないし、九郎も恐らく自分が居なくては能力は使えない。
実際、九郎が一人で能力を発動させた所をトトは見ていないのだ。
自分は弱っていて戦闘できないし、九郎も恐らく自分が居なくては能力は使えない。
実際、九郎が一人で能力を発動させた所をトトは見ていないのだ。
「ふむ、空間操作か。操作系統の極致だが……」
そうなると厄介な相手だ。
クラウディアは周囲を警戒する。
クラウディアは周囲を警戒する。
「皇帝特権を以て宣言しよう。私の目に映らぬ物はない!」
クラウディアの右手から大量の数字を模した形の赤い光がこぼれて彼女の右目に入り込んでいく。
片目だけが紅く染まった彼女が辺りを見回すと、一人の男が立っていた。
片目だけが紅く染まった彼女が辺りを見回すと、一人の男が立っていた。
「そこの貴様だな!?」
「え?」
トトは慌ててクラウディアの見ている方向と同じ方向を向く。
居た。
確かに男が一人立っていた。
居た。
確かに男が一人立っていた。
「は?」
男としても完全に予想外だったらしく目を丸くしている。
が、実戦においてそんなことをしている時間はない。
クラウディアはその隙の生じ方から男が戦闘慣れしていないと判断した。
が、実戦においてそんなことをしている時間はない。
クラウディアはその隙の生じ方から男が戦闘慣れしていないと判断した。
「――――嘘だろ、僕を逃がせ隙間女!」
遅いな、とクラウディアは思う。
男が慌てて何かの隙間に駆け込もうとする姿を見て彼女は笑った。
あんな鈍さではとっくに殺されている。
男が慌てて何かの隙間に駆け込もうとする姿を見て彼女は笑った。
あんな鈍さではとっくに殺されている。
「まあ、今から死ぬのだがな」
トトを肩車したままでクラウディアは瞬時に男の真後ろに走りこむ。
足の甲を男の腹に引っ掛けてそのまま脚力任せに“足で”男を背後へ投げ飛ばす。
足の甲を男の腹に引っ掛けてそのまま脚力任せに“足で”男を背後へ投げ飛ばす。
「皇帝に無断で尻を向けるとは不敬である」
地面から龍の顎が現れる。
「その罪」
大きく口を開き
「死を以て償うがいい」
噛み砕く。
血の一滴すら漏らさぬ大口、問答無用の咀嚼。
悲鳴がしばらく続いたところからするとあえてゆっくりと味わったと見える。
血の一滴すら漏らさぬ大口、問答無用の咀嚼。
悲鳴がしばらく続いたところからするとあえてゆっくりと味わったと見える。
「ふん、中々良い歌を吟じたものだ。許してやろう」
酷く楽しそうに、カラカラと笑う。
吐き気を催す邪悪が其処に存在る。
吐き気を催す邪悪が其処に存在る。
「トトよ、怪我は無かったか?」
同じ笑みがトトに向けられる。
背筋が凍りつく感覚。
しかしそれを表に出せばどうなるか分からない。
トトは黙って頷いた。
その時突如として巻き起こる空間全体がねじ切られるような感覚。
今まで隙間女が形成していた異空間が破壊されたらしい。
背筋が凍りつく感覚。
しかしそれを表に出せばどうなるか分からない。
トトは黙って頷いた。
その時突如として巻き起こる空間全体がねじ切られるような感覚。
今まで隙間女が形成していた異空間が破壊されたらしい。
「あら、彼ったら殺されてしまったのね
まあ隙間女は私に帰ってくるからいいんだけど
とにかく、早めに切り上げて先回りしておいてよかったわ」
まあ隙間女は私に帰ってくるからいいんだけど
とにかく、早めに切り上げて先回りしておいてよかったわ」
世界が反転するような感覚が消えるとそこには尼姿の女が居た。
「――――誰だ!?」
「私に名前はないわ」
「クラウディア、こいつは恐らく私の同類です」
「ふむ、ならばお前の敵ということか?」
「ええ、まあ。しかしこの女は見たことが……」
「口を慎みなさい自殺志願、貴女は私たちの仲間でも無ければ同類でもない
ただの敵よ、私達を殺すよりなお残酷な目に遭わせているのだから」
ただの敵よ、私達を殺すよりなお残酷な目に遭わせているのだから」
「ふむ、それでそこの尼僧。用件はなんだ?」
「金子セージを預かった。返してほしくば貴女の能力で夜刀浦深海に眠る祟神の祭壇を破壊なさい」
「嘘をつくな」
「それはどうかしら?」
そう言って尼姿の女性は近くにあったロッカーを開く。
すると中から見慣れた顔の男性が出てきた。
気絶している。
すると中から見慣れた顔の男性が出てきた。
気絶している。
「セージ!?」
「ほら、たかが一般人。攫ってくるのは容易いことだったわ」
「…………ふん」
トトを降ろして両腕をフリーな状態にする。
「その祟神を開放してどうする?」
「ルルイエの浮上」
「うそでしょう?あんな夢物語をまだ実行に移そうとする“私”が居たなんて」
「ルルイエ?聞いたことがあるな、あの伯爵が言っていた……
あれが浮上すれば大変なことになると聞いているが」
あれが浮上すれば大変なことになると聞いているが」
「質問の権利はあなた達にはありません。残されたのは回答の義務だけ
トト神、そして獣の数字の契約者、貴女達の力はルルイエの浮上に大変役立つの
大人しく協力していただければセージ君はお返しいたしますわ
協力していただけないならば彼には死んでもらいますが……?」
トト神、そして獣の数字の契約者、貴女達の力はルルイエの浮上に大変役立つの
大人しく協力していただければセージ君はお返しいたしますわ
協力していただけないならば彼には死んでもらいますが……?」
「く……」
「さあ」
クラウディアは俯く。
彼女には解っていた。
眼の前の肉体が本当にセージである可能性が限りなく低いことが。
しかし、それでも、ほんの僅かにでもその可能性があるかぎり、彼女は動けない。
彼女には解っていた。
眼の前の肉体が本当にセージである可能性が限りなく低いことが。
しかし、それでも、ほんの僅かにでもその可能性があるかぎり、彼女は動けない。
「さあ……!答えなさい皇帝!」
「答えは……」
クラウディアは顔をあげる。
「イエスだ、だからセージは今すぐ開放してやってくれ」
「ふふふ、嬉しいわ」
尼僧はニコニコと笑う。
が、次の瞬間表情は一変する。
が、次の瞬間表情は一変する。
「トト神!妙なことは考えないほうが良いわ
いくら貴女でも契約者が居なければ戦えないでしょうに?」
いくら貴女でも契約者が居なければ戦えないでしょうに?」
女性の声に動きを止めるトト。
「ふむ、トトよ。お前はセージを助けようとしてくれたのか」
「……やれやれ」
「礼を言おう、おい貴様。そこのトトも見逃してくれるか?」
「まあ貴女が付いてきてくれるならそれくらい呑むけど……
どうせ別の誰かに狙われて彼女は死ぬわよ?」
どうせ別の誰かに狙われて彼女は死ぬわよ?」
「構わん、九郎が守る」
その言葉を聞いた瞬間、女性はニタァと笑う。
「その通り、俺が守る」
闇を吸い込み駆ける漆黒の閃光。
魔を断ち夜明けを告げるモノクロの正義。
魔を断ち夜明けを告げるモノクロの正義。
「――――え?」
それはSR-71“ブラックバード”
超高速偵察機のミニチュア
それが反応不可能な速度で尼姿の女に直撃する。
見事に胴体の上下が物別れした。
超高速偵察機のミニチュア
それが反応不可能な速度で尼姿の女に直撃する。
見事に胴体の上下が物別れした。
「九郎!?」
「ヒーローの出前一丁だ!」
九郎は人間形態に戻って素早く刀を抜き放ち、倒れているセージをおぼしき男を抱きかかえる。
「……馬鹿な、変則契約の影響で二人揃わないと能力は使えないんじゃ!?」
尼姿の女性は信じられないといった顔で九郎を見つめる。
「ああ、それな。確かに“俺一人で能力を発動させたのは今が初めて”だからな
勘違いするのも無理はないか
トトが行なっているのはあくまで俺の戦闘の補助なんだけどな
俺がトト無しでなければ戦えないと踏んで捨ておいたんだろうが……
あんたも所詮戦闘屋じゃあないみたいだね」
勘違いするのも無理はないか
トトが行なっているのはあくまで俺の戦闘の補助なんだけどな
俺がトト無しでなければ戦えないと踏んで捨ておいたんだろうが……
あんたも所詮戦闘屋じゃあないみたいだね」
「なんで今まで一度も試そうとすら……」
「面白かったから、読み違えたねえお姉さん」
面白かったから。
お化け屋敷に入ったのも、トトを助けたのも、変則契約のリスクを負っている振りをしてたのも
全てが全て特に明確な理由はない。
鷲山九郎は敏いが目的意識というものをはっきりと持っていない。
それ故に読むことができない。
行動に指向性が無いものを読むことなどできないのだ。
トト自身も、今の今まで九郎がここまで上手に補助なしで能力を使えるなど知らなかった。
お化け屋敷に入ったのも、トトを助けたのも、変則契約のリスクを負っている振りをしてたのも
全てが全て特に明確な理由はない。
鷲山九郎は敏いが目的意識というものをはっきりと持っていない。
それ故に読むことができない。
行動に指向性が無いものを読むことなどできないのだ。
トト自身も、今の今まで九郎がここまで上手に補助なしで能力を使えるなど知らなかった。
「読み違えたね、それはどっちの方かしら?」
次の瞬間、セージだと思われた“それ”が大口を開けて九郎を飲み込もうとする。
だがその直前にクラウディアによって“それ”は焼き尽くされる。
だがその直前にクラウディアによって“それ”は焼き尽くされる。
「ふむ、私に友の姿を破壞させたな?」
クラウディアの瞳が怒りに燃える。
「ひっ……!」
「覚悟しろ!」
「逃げるしか無いみたいね」
女は自らロッカーの扉に挟まれる。
すると次の瞬間、尼姿の女は煙のように消え去っていた。
すると次の瞬間、尼姿の女は煙のように消え去っていた。
「くそっ!逃したか!」
「あのセージは偽物か……」
「となると本物は何処に居るんだろう?」
「むん、とりあえず一旦ここを出よう
まだ何かトラップやら残っているかもしれないしな」
まだ何かトラップやら残っているかもしれないしな」
三人はとりあえずこのお化け屋敷から出ることを決めた。
彼らは知らない。
この時点で三人の遥か後方でセージがちょっと年上っぽいお姉さんとイチャイチャしてるなど。
彼らは知らない。
この時点で三人の遥か後方でセージがちょっと年上っぽいお姉さんとイチャイチャしてるなど。
【陛下と僕と獣の数字 第九話~陛下ピンチ~】
