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【ガーネット】「柘榴石の心(グラナート・クオーレ)」【クロウ】第10話 二つの狂気 前編 - (2010/04/03 (土) 17:18:43) の1つ前との変更点
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第10話 二つの狂気 前編
ミラノ某所
薄暗い部屋の中で、二人の男がチェスに興じている。
一人は外見的に若く、少年と青年の中間といった感じだ。
そしてもう一人は、何を思っているのか、常にニヤリと笑った口元から白い歯が覗いている金髪の青年である。
二人は長い時間、ただ黙々と駒を進めていたが、ある時急に金髪の青年が口を開いた。
「なぁ~、ギャングの奴らが殴り込みに来るかもしれねぇって、知ってたか?」
「・・・知ってる」
少年のように若い男はボソッと答えた。
すると金髪の男はニヤリと笑う口角をますます上げ、話を続けた。
「それでよ、面白いのはそこからなんだ。
そいつらを返り討ちにするために、部隊から何人かが向かってるらしいんだ。
その中によォ~、ククッ! 『カルニチーノ』と『マジェンタ』もいるらしいぜェ!」
男はそう言うと、手を叩いて笑い始めた。
「・・・カルニチーノとマジェンタが?」
それまでずっと下を向いていた若い男が、興味深そうに顔を上げた。
「そうだぜ! “あの二人”に仕事させるだなんて、ジジイも相当テンパってんだなァ!」
「・・・・・・」
若い男は何かを考えるように、しばらく空中を見つめていた。
「ブハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
突然、それまで物静かに見えた若い青年が、狂ったように笑い始めた。
「“あの二人”が!? ヤバくねwwwまともに仕事出来んの?www
相手が気の毒すぎるwwwwwwハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
青年は一人大笑いしながら、機関銃のように言葉を発した。
その様子を、金髪の男は少しの間黙って見ていた。
しばらくすると・・・
「・・・・・・」
若い青年はピタリと笑いを止めた。
今までの騒がしさがまるで嘘のように。
「・・・それで、そいつらは今どこにいるの?」
嵐が過ぎたようにおとなしくなった青年の質問に、金髪の男は相変わらずの笑顔で答えた。
「あァ~、たぶん奴等は“太陽道路”に向かってるんじゃあねぇかな~。
待ち伏せして殺すつもりだって噂だぜ・・・クククッ!
あ、ほれチェックメ~イト!」
「・・・・・・」
思いもよらないタイミングでチェスに負けた青年は、呆然と盤面を見下ろしていた。
そして機嫌が悪くなったのか、彼はその後しばらくは何も話さなかった。
&nowiki(){* *}
太陽道路 PM 11:30
完全な不意打ちだった。
移動経路を含め、敵は討ち入りのことを何も知らないだろう、と鷹をくくっていたのが間違いだった。
ヴェルデが負傷した・・・
いつ攻撃されたのかまったく分からなかったが、応報部隊の人間が襲ってきたのだ。
ヴェルデの話では、“俺達が突然消され、車に乗った男が攻撃してきた”らしい。
予想だにしなかった緊急事態に、俺達は不安と緊張に襲われていた。
ビアンコ「こんな所まで追手が来るだなんて! とんでもねぇ奴等だぜ!」
アラゴスタ「ヴェルデさん、大丈夫なの?」
ヴェルデ「・・・あぁ、心配はいらねぇよ」
ロッソ「しかし回復は必要だ。もうすぐパーキングエリアだから、そこに車を停めて治療しましょう」
俺達の車は小さなパーキングエリアに停まった。
ここでイザベラの『シルキー・スムース』を使い、ヴェルデを回復させる。
真夜中のハイウェイ、走行している車はほとんどおらず、この駐車場にも車は他に二台しかいなかった。
シュルシュルシュルシュル・・・
『シルキー・スムース』の繭糸がヴェルデの全身を覆っていく。
イザベラ「ひどい怪我・・・回復には時間がかかりそうだわ」
ビアンコ「仕方ねぇこった。待つしかねぇぜ」
ロッソ「またいつ敵が来るか分からない・・・周りをよく警戒しないと」
俺達は車から降り、夜の空気を吸っていた。
駐車場の周りは雑木林に囲まれ、今にも切れそうなライトの光が辺りを照らしている。
生暖かな風が顔に弱く吹き付け、俺達の不安を煽っていた。
そんな時・・・
アラゴスタ「ねぇ・・・あれって何かな・・・?」
ロッソ「ん?」
アラゴスタが指差したのは、向こうに停まっていた一台の車。
俺は一瞬、何がおかしいのか分からなかったが、直後にその“異変”に気付き、息を飲んだ。
ロッソ「あれは・・・ッ!」
イザベラ「・・・どうしたのロッソ?」
ロッソ「あそこを見て・・・」
俺が見たものは、その車から点々と続く“それ”であった。
イザベラ「・・・えっ!?」
ビアンコ「おい、何だありゃあ・・・
モロに“血痕”って奴じゃねぇか・・・!」
アスファルトに垂れた血の跡が、向こうのトイレなどがある建物まで延々と続いていたのだ。
アラゴスタ「僕・・・ちょっと見てくる!」
ロッソ「待ってッ! あれに近づいちゃあ駄目だ!
敵の罠かもしれない!」
俺は咄嗟にアラゴスタを止めたが、アラゴスタは落ち着かない様子で言った。
アラゴスタ「でもあのまま知らんぷりして行くの!? 何か別の事件かもしれないよ!」
イザベラ「確かにそうだけど・・・余りにも危険だわ!」
イザベラの言う通り、あれに関わるのは危険過ぎる。
そうは言っても、アラゴスタの意見も無視は出来なかった。
ビアンコ「・・・おい、どうするよリーダー?」
ビアンコに一言そう言われ、俺は僅かな時間考えた。
結論が出るまで、五秒とかからなかった。
ロッソ「・・・俺とビアンコさんとで、向こうの様子を見にいきましょう。
イザベラとアラゴスタは、ここで待ってて」
&nowiki(){* *}
ビアンコ「・・・車ン中には誰もいねぇ。争った跡もないぜ」
俺とビアンコは例の車に近付き、中を覗いてみた。
車は空っぽで、運転席を一歩出た所から血痕の道が始まっていた。
ロッソ「血を辿って・・・向こうに行ってみましょう」
俺は血の道の先にある建物を見た。
古ぼけたコンクリートの小さな建物。あるのはトイレと自販機ぐらいだが、周りの闇に溶けて一際薄暗く見えた。
俺達二人は慎重に血痕を辿って歩いていく。
やがて建物の傍まで来ると、俺は息を殺しゆっくりと中を覗いた。
&nowiki(){・・・}何の気配も無い。
ロッソ(誰もいないのか・・・? おかしいな・・・)
俺は不審に思った。
最近になって、俺は周囲の「感情」を察知出来るようになってきている。
今誰がどんな感情を抱えているのか、その姿が見えなくともレーダーのようにハッキリと感じ取れるのだ。
恐らくは『ガーネット・クロウ』の能力の影響によるものだと思う。
しかし現在、周囲に存在する感情はただ一つ。
俺とビアンコの「緊張」のみだ。
血痕は建物の中まで続いている。
となるとここまで血を垂らしてきた人物が、この中に居るはずなのに・・・
ロッソ(もう死んでいるのか・・・?)
俺は音を立てないよう、一歩一歩慎重に建物内入っていく。
その後を、ビアンコが同じく慎重に足を踏み入れていった。
??「こんな夜中だから、誰もいねぇと思ってたんだがよォ~」
「!」
俺達がその声を聞いたのは、あれから数十秒後のことだった。
地面に垂れた血液が、ある所で途絶えたのに気付いた瞬間である。
俺達の頭上、壁が凹んで人が入れるほどの隙間に“彼”は居た。
ビアンコ「誰だテメェッ!」
真っ先に声を上げたのはビアンコであった。
そこに居たのは一人の男。
ビアンコと同い年くらいの青年だ。
手には血の付いたナイフが握られている。
青年は至極マイペースな口調で話を続けた。
??「“見られたらいけねぇ仕事”だからよォ、誰もいないで欲しいなァ~って思ってたんだ・・・
でもこういう時に限って・・・“一人だけ”いるんだよなアァァ~~!! ほれ!」
ドシャン!
ロッソ「・・・うわあぁぁぁぁッ!!」
俺は突然目の前に投げられた物を見て肝を潰した。
ビアンコ「こいつはッ・・・!」
ロッソ「死体・・・!!」
見知らぬ中年男性の死体。
全身を切り裂かれ、恐怖と苦しみに歪んだ表情をしていた。
??「外にもう一台車があっただろ? それに乗ってたんだよ。
車ン中で一人で寝ててさ。まぁ仕方ねぇことなんだぜ」
ロッソ「・・・!」
この男は・・・
何の躊躇もなく、人を殺している。
今まで出会ったどの人物よりも、いや、比べる価値も無いほど危険過ぎる。
ビアンコ「さっきから誰だって聞いてんだよ! 答えろッ!! 教団の人間かッ!」
ビアンコは声を更に大きくして怒鳴った。
男は数回瞬きをしてから言った。
??「ビアンコと・・・え~っとロッソだっけ? 遅くまでご苦労さん。
俺の名前は『カルニチーノ』。応報部隊に所属してる。ハタチ独身。趣味は献血だ。よろしくゥ~」
シュタン!
カルニチーノと名乗った男が、壁の窪みから飛び降りて着地した。
それと同時に、俺とビアンコは一歩下がって彼との間をとる。
ビアンコ「やっぱ敵か・・・次から次へとしつけぇぜ。
俺達がボコボコにしてやらぁ!」
ロッソ「・・・・・・」
ズォン!
ビアンコと俺はスタンドを出し、カルニチーノと睨み合った。
&nowiki(){・・・}さっき俺はこの男を「比べる価値も無いほど危険」と表現した。
それは易々と人を殺せる精神によるものであるのは言うまでもないが、彼にはもう一つ、“他と違う”部分が存在する。
ここに来た時、“彼の感情を何一つ感じなかった”ことだ。
一体なぜ・・・?
ロッソ(まさかとは思うが・・・)
俺はある一つの“恐れ”を抱いていた。
常識では通用しない、彼への“恐れ”を・・・
カルニチーノ「一対二かァ~。まぁ面白そうだし、別にいいか。
そっちからどうぞ、カモォ~ン」
カルニチーノは恐ろしく余裕な態度で俺達を挑発する。
その余裕に何か底知れないものを感じた俺は、思わずゾッとした。
ビアンコ「チッ・・・ナメてんじゃねぇぞコラァ!」
挑発に耐えかねたビアンコがカルニチーノに歩み寄っていく。
ロッソ「ビアンコさん、気をつけて下さい! 奴のスタンドの正体を見極めなければ!」
俺はビアンコに忠告した。
カルニチーノがスタンド使いであることは確かだ。
しかし奴はナイフを持っているのを除けば、まだ俺達にスタンドらしきものを見せていない。
ビアンコ「心配ねぇぜロッソ。俺は何も考えずに突っ込むような男じゃねぇよ」
ビアンコは俺に向かってそう答えると、更に一歩一歩カルニチーノに近付いていった。
そしてナイフの間合いまであと一歩の所までくると立ち止まり、言った。
ビアンコ「出しな・・・テメェのスタンドを」
カルニチーノはピクリとも動かず、微笑を浮かべながら答えた。
カルニチーノ「そっちからどうぞ、って言っただろ? お好きにど~ぞ」
それから一秒と経たなかった。
ドスンッ!
瞬間、『エイフェックス・ツイン』の白い拳が、カルニチーノの腹を捉えていたのだ。
ロッソ「!」
ドガッ! バタリ
カルニチーノ「う゛ッ! ・・・ガホッ・・・」
カルニチーノは後ろの壁に衝突し、弱々しく地面に崩れ落ちた。
ビアンコ「“一発”先に入れてやったぜ。さぁ早くスタンドを出しな」
ビアンコは仁王立ちのままカルニチーノを睨む。
カルニチーノ「ハァ・・・ハァ・・・」
カルニチーノはフラフラしながらも立ち上がる。
その顔は、未だにうっすらと笑みを浮かべていた。
カルニチーノ「いいパンチだ・・・ほら、もっと来いよ」
ビアンコ「何ィ!?」
予想外の返事に、ビアンコは顔をしかめた。
ビアンコ「どういうつもりだッ! テメェドMか?」
カルニチーノ「ヘヘヘ・・・」
おかしい・・・
なぜ奴はスタンドを出そうとしないんだ?
その不敵な笑いも相まって、彼に対する不安が一層強くなる。
ビアンコ「ったくよォ~、一方的にボコるのは礼儀に反するから嫌なんだけどよ・・・
おちょくられてんじゃあ仕方ねぇぜ!」
バッ!
ビアンコはカルニチーノに向かって走り出す。
ロッソ「待っ・・・!」
咄嗟にビアンコを止めようとしたが無駄だった。
カルニチーノ「ウッシャアァァァ!!」
カルニチーノは持っていたナイフを突き出した。
ガキィン!
『エイフェックス・ツイン』はすかさずその刃を弾き・・・
ビアンコ「ドルミーラ!!」
ズドンッ!!
カルニチーノのボディに、再びその拳を叩き込んだ。
カルニチーノ「ガボォッ! ・・・オェッ・・・」
ガシッ
カルニチーノが苦痛の表情でその場に倒れようとするのを、ビアンコは掴み起こした。
ビアンコ「どうだこの野郎。次で最後だぜ・・・」
カルニチーノ「ウッ・・・ガフッ・・・」
ロッソ「・・・!」
その時だった・・・
俺がカルニチーノの様子に、確かな“異変”を感じたのは。
ロッソ「ビアンコさん! まずい、離れてッ!!」
ビアンコ「!?」
カルニチーノ「ウゲッ・・・
グゥエヴォォォォォ─────!!」
バシュン!
ビアンコ「!」
ロッソ「!!」
俺がもっと早く“異変”に気付いていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
ビアンコ「な・・・に・・・」
カルニチーノの口から、何か“赤いもの”が吐き出された。
そして、それはビアンコの胸を刺し貫いていたのだ。
ビアンコ「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ロッソ「ビアンコさん!!」
キュン!
カルニチーノが吐き出した“赤いもの”が、目にも止まらぬ速さで口の中に戻っていく。
ビアンコ「がはっ・・・!」
それと同時に、ビアンコがガクリと崩れ落ち、仰向けに倒れた。
ロッソ「・・・!」
カルニチーノ「危ねぇ危ねぇ。あやうく最後の一撃を食らう所だったぜ。
どれどれ、心臓らへんにジャストミートしたかなァ~~?」
ビアンコ「う・・・が・・・」
ビアンコは白目をむき、声にならない声をあげて苦しんでいる。
ロッソ(・・・大変だ・・・!)
カルニチーノ「スタンドも出せるか出せないかってとこだし、大丈夫だな! ほっとけば死ぬだろう。
さァ~て次は・・・ロッソ、お前だぜ」
カルニチーノは俺に流し目を送ると、ゆっくりと近付いてきた。
ビアンコ「ぐっ・・・待・・・て・・・」
ビアンコがカルニチーノを呼び止めるが、奴は全く聞き入れていない。
一歩ずつ迫り来る“狂気”に、俺は完全に威圧されていた。
口から出てきたあの“赤いもの”・・・
あれが奴のスタンドなのだろうか?
ビアンコは一瞬で串刺しにされた。
そして次は俺・・・
途端に恐怖が込み上げてくる。
全身がジワリと熱くなり、服に汗が染み込んでいく。
カルニチーノ「うぐっ・・・ゴボッ・・・」
カルニチーノが歩きながら、今にも嘔吐しそうな仕草をする。
体の中から、あの赤いスタンドを出す前兆だ。
ロッソ(恐れるな・・・何のために此処に来たんだ・・・)
俺は自らに問いかけた。
すべては「運命」に従うため。
定められた「運命」はやり遂げなければならない。
こんな所でやられる訳にはいかないんだ。
カルニチーノ「あァ~~ん」
カルニチーノが大きく口を開けた。
ロッソ(来るッ!!)
俺は反射的に体勢を低くした。
クイッ
カルニチーノはそれを予測していたように、俺の方向に顔を向ける。
ロッソ「!」
バシュン!
口の中から彼の赤いスタンドが飛び出した。
カルニチーノ「ンがっ」
&nowiki(){・・・}間一髪、『ガーネット・クロウ』は赤いトゲを横に払いのけていた。
ロッソ「ウラァッ!!」
ドゴォ!
有無を言わさず、カルニチーノの腹にパンチを叩き込む。
カルニチーノ「うげぇッ!!」
殴られた勢いで、カルニチーノは後ろに倒され、地面を転がった。
ロッソ「『敵対心』を取り除きましたよ。これでもう危害は加えられ・・・」
カルニチーノ「んばァ」
ロッソ「!?」
バシュン!
ロッソ(何ッ・・・!)
カルニチーノは起き上がりざま、再び俺に“赤いトゲ”を放ってきた。
予想外・・・
と言うより、それは“恐れていた”出来事だった。
幸いトゲの直撃は免れたが、トゲは左の二の腕をかすめ、浅く抉った。
“敵対心を取り除いたはずなのに”・・・
普段ならば疑問に感じることだったが、この時の俺は一つの「確信」を得ていた。
“奴には、初めから敵対心など無かったのだ”と・・・
感情というものは「理性」が前提となって存在する。
人間は「理性」によって成っているのだから当然だ。
しかしこの男の場合、「理性」なんてものが備わっていない。
よって感情も無いし、俺達への敵対心も勿論無い。
ただ、機械のように動いている。“殺すために”。
カルニチーノ「やってくれるじゃあねぇかよォ~~。気に入ったぜェ」
起き上がったカルニチーノが、またも近付いてくる。
『ガーネット・クロウ』の能力が効かない以上は・・・
ロッソ(此処で殺すしかない・・・!)
俺は即座に身構えた。
カルニチーノ「あ~~ん」
カルニチーノが口を開ける。
ダッ!
俺はカルニチーノに向かって突っ込んだ。
ズキュン!
飛び出してくる赤いトゲを払いのける。
そしてその手で手刀をつくり・・・
ロッソ「ウラァ─────ッ!!」
ズバァッ!!
カルニチーノの身体を一直線に切り裂いた。
カルニチーノ「があぁぁぁ───ッ!!」
カルニチーノは断末魔を上げ・・・
ニヤリと笑った。
ロッソ「!?」
ブシャアァァァァァッ!!
凄まじい勢いで液体が吹き出す音がする。
今切り裂いた、カルニチーノの胴体からだった。
ロッソ「う・・・」
一瞬、その状況を把握することが出来なかったが・・・
しばらく経って初めて、“俺の身体が切り裂かれている”ことに気が付いた。
ロッソ「な・・・に・・・」
熱い。
焼けつくような痛みが身体に走っている。
体が動かず、俺はいつの間にか天井と向き合っていた。
ビアンコ「ロッソォォォ────!!」
気を失った訳でもなかったが、俺はしばらく時間がスローモーションのように感じられた。
カルニチーノ「フヒャハハハハハハハ!! ビックリしただろ?」
カルニチーノは平然と俺を見下ろしていた。
ロッソ(馬鹿な・・・)
何が・・・
何が起こったんだ?
カルニチーノ「そろそろ俺のスタンド能力の種明かしといくかァ。
いいかロッソ、オメェは今、俺の“血”に切られたんだぜ」
ビアンコ「何ィ・・・?」
ロッソ「“血”・・・だと・・・?」
カルニチーノ「そ。俺のスタンドは俺の“血”の中に無数に存在する。
そいつらのお陰で、俺は自分の“血”を自由に操ることが出来るんだぜ!
名前は『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』! かっけぇだろ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
自分の“血”を操る能力・・・
そういえば、彼の傷口からは血が一滴も流れていない。
ロッソ(あの“赤いもの”は血だったのか・・・)
理解したところで、俺達二人は重傷を負っている。
奴にとどめを刺されるのは時間の問題だ。
ビアンコ「ざけんなよ・・・チクショォォ────!!」
ドガァァァァァン!!
ビアンコは地面を叩いてコンクリートを砕いた。
カルニチーノ「おいおい、ヤケになんなって。後ですぐ楽にしてやるよ。
とどめを刺すのは・・・ロッソからだぜ」
カルニチーノはもう一度俺を見下ろした。
その目は嬉々としていて、さながら新品の玩具を見る子供のようだった。
カルニチーノ「なぁロッソ、俺はよォ~『静かなる殺人鬼』ってあだ名が欲しいんだ」
カルニチーノは急に俺に向かって話し始めた。
カルニチーノ「何でかって~とよ、ほら最初に『献血が趣味』って言っただろ? だから俺、周りからは良い奴だと思われてる。
でもよく考えてみろよ。俺の血ン中にはスタンドが入ってんだぜ? そいつを輸血なんかしたら、どうなると思う?」
ロッソ「・・・!」
カルニチーノ「患者死ぬに決まってんだろ! ヒャハハハハッ!!
善良な人間が提供してくれたはずの血液が、まさか患者を殺す毒だったなんて、傑作だよなァ!!
そうやって死んでった奴等のことを考えると・・・マジでワクワクすんぜ! フヒャハハハハハ!!」
この男は・・・
“この世に居てはならない存在だ”。
犯罪者とか殺人鬼とか、そういう言葉で表せるものではない。
混じりけの無い、「完全な悪」。
どんな闇よりも暗い、最悪の存在だ。
奴に対する“恐れ”の心が消え、代わりに尋常ではない“怒り”が込み上げる。
その時、カルニチーノは近くに落ちていた自分のナイフを拾った。
カルニチーノ「俺って痛いのは好きだけどよ、“人の痛みを想像する”ってのがもっと好きなんだよなァァァ!!
フヒャハハハハハハハ!!」
ザクッ! ザクッ!
ロッソ「!」
俺は目を見張った。
カルニチーノは持っていたナイフで、自分の身体を滅茶苦茶に切り刻み始めたのだ。
当然そこからは、おびただしい血が流れてくるはず・・・
だが奴の場合は違った。
ブシャン! ブシャン! ブシャン!
彼の身体から勢いよく吹き出した血はそのまま空中にとどまり、細長い蛇のような形を作り出した。
カルニチーノ「俺の『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』はよォ~、俺が血を流せば流すほど勢いが増すッ!
折角の機会だ、全力パワーで葬らせてもらうぜ、ロッソ君よォォ!」
全身から触手のように生やした“血”をくねらせながら、カルニチーノが迫る。
あれほどの“血”に一斉に攻撃されては、流石の『ガーネット・クロウ』でも防ぎきれないだろう。
ロッソ(こ・・・ここまでか・・・)
敵のおぞましい姿を目の当たりにした俺は、もはや「死」の予感を感じることしか出来なくなっていた。
カルニチーノ「フヒャハハハハハハハ!!」
カルニチーノの高笑いが脳内に響き、そして・・・
カルニチーノ「!!」
バシィィッ!
突然、カルニチーノは顔色を変え、飛んできた“何か”を弾き飛ばした。
カルニチーノ「ビアンコォォ・・・どうしてテメェは大人しく出来ねぇんだよォ~~・・・」
ビアンコ「くっ・・・」
飛んできた“何か”は、ビアンコが放った物だった。
さっき砕いたコンクリートの破片を、スタンドの指で弾いたのだ。
カルニチーノ「そんな鼻糞飛ばすような真似して、俺を倒せるとでも思ったのか?」
ビアンコ「ハァ・・・ハァ・・・
おめぇみてーなイカれた野郎は・・・飛び道具で脳天撃ち抜くしかねぇんだよ!」
カルニチーノ「ほぉ~、だったらやってみせろ鼻糞野郎がァッ!!」
ビアンコ「ヌアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
バババババババババババ!!
ビアンコがスタンドを用いて、無数の瓦礫をカルニチーノに飛ばす。
一方カルニチーノは、身体から出た“血”すべてが腕となり、瓦礫をすべて弾き飛ばした。
カルニチーノ「ヌルイ! 弾幕がヌルイんだよォ!
マジメにブッ殺してぇ時はなァ~・・・こうするんだよ!」
ビアンコ「何ィッ!!」
ロッソ「・・・!」
カルニチーノは、瓦礫を“弾き飛ばしている”のではなかった。
すべて“掴んでいた”のだ。
そしてその瓦礫は、いつの間にか色が赤くなり、形も変わっていた。
カルニチーノ「テメェの弾に俺の“血”をコーティングした・・・速く飛ぶ、殺傷力の強い形になるようになァ!!」
ビアンコ「・・・くそッ!」
ロッソ「ビアンコさん・・・!」
俺は立ち上がろうとしたが、体に全く力が入らない。
この絶望的な状況を、ただ見ることしか出来なかった。
カルニチーノ「これが“裁き”だ・・・くたばれビアンコ!!」
バババババババババババ!!
ビアンコ「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
無数の赤い弾丸がビアンコを襲う。
ビアンコはスタンドで防御を試みるが、弾丸は情け容赦なく彼の身体を突き破っていく。
ロッソ「あ・・・」
あっという間に、すべての弾がカルニチーノのスタンドから消えた。
ロッソ「・・・そんな・・・」
「蜂の巣」という言い方は、今の彼のためにあるようなものだった。
ビアンコは頭部への直撃こそ避けられたものの、全身をくまなく撃ち抜かれ、動かない。
カルニチーノ「フヒャハハハハハハハハハハ!! 痛快愉快な最期だったなァビアンコ!!」
ロッソ「嘘だ・・・」
そんなはずはない。
あのビアンコがこんな所で死ぬはずがない。
ロッソ「ビアンコさん・・・」
カルニチーノは振り返り、絶望する俺を見下ろした。
カルニチーノ「俺が教祖に認められて以来、初めてのミッションクリアだぜェ!
最後にテメェの息の根を止めればなァ~~~!! ヤッフ~ウ!!」
カルニチーノが俺に“血”の触手を振りかざす。
ロッソ(・・・!)
“死”を目の前にした俺はもう、何も考えられなくなっていた。
“その声”を聞くまでは。
ビアンコ「まだだ・・・」
カルニチーノ「・・・あぁ?」
ロッソ「ビ・・・ビアンコさん!」
ビアンコは、まだ生きていたのだ。
カルニチーノ「テメェ、まだ生きてんのかよ? 馬鹿じゃねーの?」
ビアンコ「まだ・・・“一発分”残ってんだ・・・弾がな。
そいつでテメェを仕留めてやる・・・!」
大量の血を失いながらも、ビアンコはなんとか上半身を持ち上げ、スタンドに瓦礫を握らせた。
カルニチーノ「フヒャハハハハハハハッ!! 可哀想な奴だぜ! 今更悪足掻きかよ!」
ビアンコ「いくぜ・・・『エイフェックス・ツイン』・・・」
シュバッ!
ビアンコが放った、最後の一発は・・・
ロッソ「な・・・」
&nowiki(){・・・}カルニチーノから大きく外れた所へ飛んでいった。
カルニチーノ「可哀想ォォォ~~~ッ!! これじゃあ生きてた意味ねぇじゃ・・・」
ズガン!!
カルニチーノ「・・・!!」
ロッソ「・・・!」
意外。
外れたはずの瓦礫がカルニチーノの頭に命中し、打ち砕いていたのだ。
カルニチーノ「ぶぎゃあああああああああ!!」
ビアンコ「油断したな・・・糞野郎」
ビアンコは僅かながら、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
ビアンコ「『エイフェックス・ツイン』の“衛星”をテメェの死角に配置して壁を張った。
その壁に弾を当てて、ピンボールみてーに跳ね返らせたんだぜ。
壁に当たったエネルギーが反射するから、弾の速度も落ちねぇ。
・・・どうだ、痛ぇか?」
カルニチーノ「あああああああああああああああテメェええええええええええええええ!!」
頭部を損傷し、“血”で塞ごうとも塞ぎきれない怪我を負ったカルニチーノは、かなりのパニックに陥っていた。
俺はその様子を見ると、全身の力を込めて立ち上がった。
ロッソ「あなたは・・・これ以上この世に居てはならない。真の“裁き”を受けるべきは・・・あなたなんだ」
カルニチーノ「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお死ねええええええええええええええ!!」
シュバババババババババババ!!
ヤケになったカルニチーノは、全身の“血”によるラッシュを放ってきた。
しかし、精神を乱した状態のスタンド攻撃など、普段の足下にも及ばないものだった。
ロッソ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラガ─────────ノ!!」
ズガアアアァァァァァァァァァァァン!!
・・・・・・
ビアンコ「ロッソ・・・やったのか?」
ロッソ「ハァ・・・ハァ・・・」
俺はビアンコに返事をすることなく膝をつく。
ビアンコ「おい・・・まさか・・・」
ガラガラガラ・・・
瓦礫の山が崩れて現れたのは、もはや原形を留めていないほどの怪我を負いながら、なおも生きているカルニチーノだった。
ビアンコ「何ィィ─────ッ!!」
カルニチーノ「う・・・あ・・・」
カルニチーノはゾンビのような足取りで、ゆっくりと俺達に近付いてくる。
カルニチーノ「があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ブシャアァァァァァッ!!
カルニチーノは、全身“血”の塊とも言うべき姿となっていた。
ビアンコ「嘘だろ・・・こんなのに・・・勝てねぇよ・・・!」
ビアンコは悲痛な声をあげ、今にも泣きそうだった。
ロッソ「心配要りませんよビアンコさん・・・俺の『攻撃』は、まだ続いていますから・・・」
ビアンコ「何だと・・・?」
俺はこの時、既に勝利の確信を得ていた。
だが、“それ”は決して後味の良いものではなかった。
カルニチーノ「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ズバッ! ズバッ!
ビアンコ「!」
カルニチーノは、スタンドで“自らの身体を切り落とし始めたのだ”。
ビアンコ「何が・・・起こってやがる?」
ロッソ「やれやれ・・・あなたは最期まで最悪な人間だった・・・カルニチーノ」
俺はカルニチーノに語りかけた。
ロッソ「あなたにとって初めての体験だったんでしょう。あなたが頭を砕かれた時、追い詰められたと感じたあなたに『理性』が戻ったのが分かりました。
『自分はまだ死にたくない、死ぬのが怖い』っていう感情ゆえにね。だから俺は、あなたの感情を操作出来たんだ。
あなたには、“最悪の死に方”で死んでもらう。『自分がこの世に受けた生を自ら断つ』という、最悪の死に方。
そうせずにはいられない感情にさせてもらいましたよ・・・」
カルニチーノ「が・・・うがァ・・・」
自らの身体を切り尽くしたカルニチーノは、もう死を待つのみの状態となった。
ロッソ「そうやって死ぬことだけが、あなたに命を侮辱された人達への償いだ。
俺に出来ることはここまでです・・・あとは地獄の神に裁いてもらってください」
カルニチーノ「・・・・・・」
しばらくして、カルニチーノが事切れたのを確認すると、俺はビアンコに歩み寄った。
ロッソ「ビアンコさん・・・歩けますか?」
ビアンコ「いや、一人じゃちょっとな・・・スタンドに担いでもらうか。ちっと情けねぇけどな」
ロッソ「・・・・・・」
俺は自分達二人が生き延びたことに対する安心と、これから先に待ち受ける新たな不安を感じていた。
&nowiki(){・・・}だがそれよりも、俺はもっと強い感情を抱いていた。
それは、初めて人を殺してしまったという「嘆き」。
なぜか分からないが、ただ悲しい。
殺しても何も悪くないような人間だったのに。理由が分からない。
そうやって悲しむ自分を、俺は心の中で、ただ一言で奮い立たせた。
ロッソ(恐れるな・・・)
応報部隊)カルニチーノ/スタンド名『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』 → 死亡。
第10話 完
使用させていただいたスタンド
No.564 『[[ブラッド・シュガー・セックス・マジック>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/125.html#No.564]]』
考案者:ID:CjAbZtaQ0
絵:ID:Jt+Ch7js0
&sizex(5){第10話 二つの狂気 前編}
ミラノ某所
薄暗い部屋の中で、二人の男がチェスに興じている。
一人は外見的に若く、少年と青年の中間といった感じだ。
そしてもう一人は、何を思っているのか、常にニヤリと笑った口元から白い歯が覗いている金髪の青年である。
二人は長い時間、ただ黙々と駒を進めていたが、ある時急に金髪の青年が口を開いた。
「なぁ~、ギャングの奴らが殴り込みに来るかもしれねぇって、知ってたか?」
「・・・知ってる」
少年のように若い男はボソッと答えた。
すると金髪の男はニヤリと笑う口角をますます上げ、話を続けた。
「それでよ、面白いのはそこからなんだ。
そいつらを返り討ちにするために、部隊から何人かが向かってるらしいんだ。
その中によォ~、ククッ! 『カルニチーノ』と『マジェンタ』もいるらしいぜェ!」
男はそう言うと、手を叩いて笑い始めた。
「・・・カルニチーノとマジェンタが?」
それまでずっと下を向いていた若い男が、興味深そうに顔を上げた。
「そうだぜ! “あの二人”に仕事させるだなんて、ジジイも相当テンパってんだなァ!」
「・・・・・・」
若い男は何かを考えるように、しばらく空中を見つめていた。
「ブハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
突然、それまで物静かに見えた若い青年が、狂ったように笑い始めた。
「“あの二人”が!? ヤバくねwwwまともに仕事出来んの?www
相手が気の毒すぎるwwwwwwハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
青年は一人大笑いしながら、機関銃のように言葉を発した。
その様子を、金髪の男は少しの間黙って見ていた。
しばらくすると・・・
「・・・・・・」
若い青年はピタリと笑いを止めた。
今までの騒がしさがまるで嘘のように。
「・・・それで、そいつらは今どこにいるの?」
嵐が過ぎたようにおとなしくなった青年の質問に、金髪の男は相変わらずの笑顔で答えた。
「あァ~、たぶん奴等は“太陽道路”に向かってるんじゃあねぇかな~。
待ち伏せして殺すつもりだって噂だぜ・・・クククッ!
あ、ほれチェックメ~イト!」
「・・・・・・」
思いもよらないタイミングでチェスに負けた青年は、呆然と盤面を見下ろしていた。
そして機嫌が悪くなったのか、彼はその後しばらくは何も話さなかった。
&nowiki(){* *}
太陽道路 PM 11:30
完全な不意打ちだった。
移動経路を含め、敵は討ち入りのことを何も知らないだろう、と鷹をくくっていたのが間違いだった。
ヴェルデが負傷した・・・
いつ攻撃されたのかまったく分からなかったが、応報部隊の人間が襲ってきたのだ。
ヴェルデの話では、“俺達が突然消され、車に乗った男が攻撃してきた”らしい。
予想だにしなかった緊急事態に、俺達は不安と緊張に襲われていた。
ビアンコ「こんな所まで追手が来るだなんて! とんでもねぇ奴等だぜ!」
アラゴスタ「ヴェルデさん、大丈夫なの?」
ヴェルデ「・・・あぁ、心配はいらねぇよ」
ロッソ「しかし回復は必要だ。もうすぐパーキングエリアだから、そこに車を停めて治療しましょう」
俺達の車は小さなパーキングエリアに停まった。
ここでイザベラの『シルキー・スムース』を使い、ヴェルデを回復させる。
真夜中のハイウェイ、走行している車はほとんどおらず、この駐車場にも車は他に二台しかいなかった。
シュルシュルシュルシュル・・・
『シルキー・スムース』の繭糸がヴェルデの全身を覆っていく。
イザベラ「ひどい怪我・・・回復には時間がかかりそうだわ」
ビアンコ「仕方ねぇこった。待つしかねぇぜ」
ロッソ「またいつ敵が来るか分からない・・・周りをよく警戒しないと」
俺達は車から降り、夜の空気を吸っていた。
駐車場の周りは雑木林に囲まれ、今にも切れそうなライトの光が辺りを照らしている。
生暖かな風が顔に弱く吹き付け、俺達の不安を煽っていた。
そんな時・・・
アラゴスタ「ねぇ・・・あれって何かな・・・?」
ロッソ「ん?」
アラゴスタが指差したのは、向こうに停まっていた一台の車。
俺は一瞬、何がおかしいのか分からなかったが、直後にその“異変”に気付き、息を飲んだ。
ロッソ「あれは・・・ッ!」
イザベラ「・・・どうしたのロッソ?」
ロッソ「あそこを見て・・・」
俺が見たものは、その車から点々と続く“それ”であった。
イザベラ「・・・えっ!?」
ビアンコ「おい、何だありゃあ・・・
モロに“血痕”って奴じゃねぇか・・・!」
アスファルトに垂れた血の跡が、向こうのトイレなどがある建物まで延々と続いていたのだ。
アラゴスタ「僕・・・ちょっと見てくる!」
ロッソ「待ってッ! あれに近づいちゃあ駄目だ!
敵の罠かもしれない!」
俺は咄嗟にアラゴスタを止めたが、アラゴスタは落ち着かない様子で言った。
アラゴスタ「でもあのまま知らんぷりして行くの!? 何か別の事件かもしれないよ!」
イザベラ「確かにそうだけど・・・余りにも危険だわ!」
イザベラの言う通り、あれに関わるのは危険過ぎる。
そうは言っても、アラゴスタの意見も無視は出来なかった。
ビアンコ「・・・おい、どうするよリーダー?」
ビアンコに一言そう言われ、俺は僅かな時間考えた。
結論が出るまで、五秒とかからなかった。
ロッソ「・・・俺とビアンコさんとで、向こうの様子を見にいきましょう。
イザベラとアラゴスタは、ここで待ってて」
&nowiki(){* *}
ビアンコ「・・・車ン中には誰もいねぇ。争った跡もないぜ」
俺とビアンコは例の車に近付き、中を覗いてみた。
車は空っぽで、運転席を一歩出た所から血痕の道が始まっていた。
ロッソ「血を辿って・・・向こうに行ってみましょう」
俺は血の道の先にある建物を見た。
古ぼけたコンクリートの小さな建物。あるのはトイレと自販機ぐらいだが、周りの闇に溶けて一際薄暗く見えた。
俺達二人は慎重に血痕を辿って歩いていく。
やがて建物の傍まで来ると、俺は息を殺しゆっくりと中を覗いた。
&nowiki(){・・・}何の気配も無い。
ロッソ(誰もいないのか・・・? おかしいな・・・)
俺は不審に思った。
最近になって、俺は周囲の「感情」を察知出来るようになってきている。
今誰がどんな感情を抱えているのか、その姿が見えなくともレーダーのようにハッキリと感じ取れるのだ。
恐らくは『ガーネット・クロウ』の能力の影響によるものだと思う。
しかし現在、周囲に存在する感情はただ一つ。
俺とビアンコの「緊張」のみだ。
血痕は建物の中まで続いている。
となるとここまで血を垂らしてきた人物が、この中に居るはずなのに・・・
ロッソ(もう死んでいるのか・・・?)
俺は音を立てないよう、一歩一歩慎重に建物内入っていく。
その後を、ビアンコが同じく慎重に足を踏み入れていった。
??「こんな夜中だから、誰もいねぇと思ってたんだがよォ~」
「!」
俺達がその声を聞いたのは、あれから数十秒後のことだった。
地面に垂れた血液が、ある所で途絶えたのに気付いた瞬間である。
俺達の頭上、壁が凹んで人が入れるほどの隙間に“彼”は居た。
ビアンコ「誰だテメェッ!」
真っ先に声を上げたのはビアンコであった。
そこに居たのは一人の男。
ビアンコと同い年くらいの青年だ。
手には血の付いたナイフが握られている。
青年は至極マイペースな口調で話を続けた。
??「“見られたらいけねぇ仕事”だからよォ、誰もいないで欲しいなァ~って思ってたんだ・・・
でもこういう時に限って・・・“一人だけ”いるんだよなアァァ~~!! ほれ!」
ドシャン!
ロッソ「・・・うわあぁぁぁぁッ!!」
俺は突然目の前に投げられた物を見て肝を潰した。
ビアンコ「こいつはッ・・・!」
ロッソ「死体・・・!!」
見知らぬ中年男性の死体。
全身を切り裂かれ、恐怖と苦しみに歪んだ表情をしていた。
??「外にもう一台車があっただろ? それに乗ってたんだよ。
車ン中で一人で寝ててさ。まぁ仕方ねぇことなんだぜ」
ロッソ「・・・!」
この男は・・・
何の躊躇もなく、人を殺している。
今まで出会ったどの人物よりも、いや、比べる価値も無いほど危険過ぎる。
ビアンコ「さっきから誰だって聞いてんだよ! 答えろッ!! 教団の人間かッ!」
ビアンコは声を更に大きくして怒鳴った。
男は数回瞬きをしてから言った。
??「ビアンコと・・・え~っとロッソだっけ? 遅くまでご苦労さん。
俺の名前は『カルニチーノ』。応報部隊に所属してる。ハタチ独身。趣味は献血だ。よろしくゥ~」
シュタン!
カルニチーノと名乗った男が、壁の窪みから飛び降りて着地した。
それと同時に、俺とビアンコは一歩下がって彼との間をとる。
ビアンコ「やっぱ敵か・・・次から次へとしつけぇぜ。
俺達がボコボコにしてやらぁ!」
ロッソ「・・・・・・」
ズォン!
ビアンコと俺はスタンドを出し、カルニチーノと睨み合った。
&nowiki(){・・・}さっき俺はこの男を「比べる価値も無いほど危険」と表現した。
それは易々と人を殺せる精神によるものであるのは言うまでもないが、彼にはもう一つ、“他と違う”部分が存在する。
ここに来た時、“彼の感情を何一つ感じなかった”ことだ。
一体なぜ・・・?
ロッソ(まさかとは思うが・・・)
俺はある一つの“恐れ”を抱いていた。
常識では通用しない、彼への“恐れ”を・・・
カルニチーノ「一対二かァ~。まぁ面白そうだし、別にいいか。
そっちからどうぞ、カモォ~ン」
カルニチーノは恐ろしく余裕な態度で俺達を挑発する。
その余裕に何か底知れないものを感じた俺は、思わずゾッとした。
ビアンコ「チッ・・・ナメてんじゃねぇぞコラァ!」
挑発に耐えかねたビアンコがカルニチーノに歩み寄っていく。
ロッソ「ビアンコさん、気をつけて下さい! 奴のスタンドの正体を見極めなければ!」
俺はビアンコに忠告した。
カルニチーノがスタンド使いであることは確かだ。
しかし奴はナイフを持っているのを除けば、まだ俺達にスタンドらしきものを見せていない。
ビアンコ「心配ねぇぜロッソ。俺は何も考えずに突っ込むような男じゃねぇよ」
ビアンコは俺に向かってそう答えると、更に一歩一歩カルニチーノに近付いていった。
そしてナイフの間合いまであと一歩の所までくると立ち止まり、言った。
ビアンコ「出しな・・・テメェのスタンドを」
カルニチーノはピクリとも動かず、微笑を浮かべながら答えた。
カルニチーノ「そっちからどうぞ、って言っただろ? お好きにど~ぞ」
それから一秒と経たなかった。
ドスンッ!
瞬間、『エイフェックス・ツイン』の白い拳が、カルニチーノの腹を捉えていたのだ。
ロッソ「!」
ドガッ! バタリ
カルニチーノ「う゛ッ! ・・・ガホッ・・・」
カルニチーノは後ろの壁に衝突し、弱々しく地面に崩れ落ちた。
ビアンコ「“一発”先に入れてやったぜ。さぁ早くスタンドを出しな」
ビアンコは仁王立ちのままカルニチーノを睨む。
カルニチーノ「ハァ・・・ハァ・・・」
カルニチーノはフラフラしながらも立ち上がる。
その顔は、未だにうっすらと笑みを浮かべていた。
カルニチーノ「いいパンチだ・・・ほら、もっと来いよ」
ビアンコ「何ィ!?」
予想外の返事に、ビアンコは顔をしかめた。
ビアンコ「どういうつもりだッ! テメェドMか?」
カルニチーノ「ヘヘヘ・・・」
おかしい・・・
なぜ奴はスタンドを出そうとしないんだ?
その不敵な笑いも相まって、彼に対する不安が一層強くなる。
ビアンコ「ったくよォ~、一方的にボコるのは礼儀に反するから嫌なんだけどよ・・・
おちょくられてんじゃあ仕方ねぇぜ!」
バッ!
ビアンコはカルニチーノに向かって走り出す。
ロッソ「待っ・・・!」
咄嗟にビアンコを止めようとしたが無駄だった。
カルニチーノ「ウッシャアァァァ!!」
カルニチーノは持っていたナイフを突き出した。
ガキィン!
『エイフェックス・ツイン』はすかさずその刃を弾き・・・
ビアンコ「ドルミーラ!!」
ズドンッ!!
カルニチーノのボディに、再びその拳を叩き込んだ。
カルニチーノ「ガボォッ! ・・・オェッ・・・」
ガシッ
カルニチーノが苦痛の表情でその場に倒れようとするのを、ビアンコは掴み起こした。
ビアンコ「どうだこの野郎。次で最後だぜ・・・」
カルニチーノ「ウッ・・・ガフッ・・・」
ロッソ「・・・!」
その時だった・・・
俺がカルニチーノの様子に、確かな“異変”を感じたのは。
ロッソ「ビアンコさん! まずい、離れてッ!!」
ビアンコ「!?」
カルニチーノ「ウゲッ・・・
グゥエヴォォォォォ─────!!」
バシュン!
ビアンコ「!」
ロッソ「!!」
俺がもっと早く“異変”に気付いていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
ビアンコ「な・・・に・・・」
カルニチーノの口から、何か“赤いもの”が吐き出された。
そして、それはビアンコの胸を刺し貫いていたのだ。
ビアンコ「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ロッソ「ビアンコさん!!」
キュン!
カルニチーノが吐き出した“赤いもの”が、目にも止まらぬ速さで口の中に戻っていく。
ビアンコ「がはっ・・・!」
それと同時に、ビアンコがガクリと崩れ落ち、仰向けに倒れた。
ロッソ「・・・!」
カルニチーノ「危ねぇ危ねぇ。あやうく最後の一撃を食らう所だったぜ。
どれどれ、心臓らへんにジャストミートしたかなァ~~?」
ビアンコ「う・・・が・・・」
ビアンコは白目をむき、声にならない声をあげて苦しんでいる。
ロッソ(・・・大変だ・・・!)
カルニチーノ「スタンドも出せるか出せないかってとこだし、大丈夫だな! ほっとけば死ぬだろう。
さァ~て次は・・・ロッソ、お前だぜ」
カルニチーノは俺に流し目を送ると、ゆっくりと近付いてきた。
ビアンコ「ぐっ・・・待・・・て・・・」
ビアンコがカルニチーノを呼び止めるが、奴は全く聞き入れていない。
一歩ずつ迫り来る“狂気”に、俺は完全に威圧されていた。
口から出てきたあの“赤いもの”・・・
あれが奴のスタンドなのだろうか?
ビアンコは一瞬で串刺しにされた。
そして次は俺・・・
途端に恐怖が込み上げてくる。
全身がジワリと熱くなり、服に汗が染み込んでいく。
カルニチーノ「うぐっ・・・ゴボッ・・・」
カルニチーノが歩きながら、今にも嘔吐しそうな仕草をする。
体の中から、あの赤いスタンドを出す前兆だ。
ロッソ(恐れるな・・・何のために此処に来たんだ・・・)
俺は自らに問いかけた。
すべては「運命」に従うため。
定められた「運命」はやり遂げなければならない。
こんな所でやられる訳にはいかないんだ。
カルニチーノ「あァ~~ん」
カルニチーノが大きく口を開けた。
ロッソ(来るッ!!)
俺は反射的に体勢を低くした。
クイッ
カルニチーノはそれを予測していたように、俺の方向に顔を向ける。
ロッソ「!」
バシュン!
口の中から彼の赤いスタンドが飛び出した。
カルニチーノ「ンがっ」
&nowiki(){・・・}間一髪、『ガーネット・クロウ』は赤いトゲを横に払いのけていた。
ロッソ「ウラァッ!!」
ドゴォ!
有無を言わさず、カルニチーノの腹にパンチを叩き込む。
カルニチーノ「うげぇッ!!」
殴られた勢いで、カルニチーノは後ろに倒され、地面を転がった。
ロッソ「『敵対心』を取り除きましたよ。これでもう危害は加えられ・・・」
カルニチーノ「んばァ」
ロッソ「!?」
バシュン!
ロッソ(何ッ・・・!)
カルニチーノは起き上がりざま、再び俺に“赤いトゲ”を放ってきた。
予想外・・・
と言うより、それは“恐れていた”出来事だった。
幸いトゲの直撃は免れたが、トゲは左の二の腕をかすめ、浅く抉った。
“敵対心を取り除いたはずなのに”・・・
普段ならば疑問に感じることだったが、この時の俺は一つの「確信」を得ていた。
“奴には、初めから敵対心など無かったのだ”と・・・
感情というものは「理性」が前提となって存在する。
人間は「理性」によって成っているのだから当然だ。
しかしこの男の場合、「理性」なんてものが備わっていない。
よって感情も無いし、俺達への敵対心も勿論無い。
ただ、機械のように動いている。“殺すために”。
カルニチーノ「やってくれるじゃあねぇかよォ~~。気に入ったぜェ」
起き上がったカルニチーノが、またも近付いてくる。
『ガーネット・クロウ』の能力が効かない以上は・・・
ロッソ(此処で殺すしかない・・・!)
俺は即座に身構えた。
カルニチーノ「あ~~ん」
カルニチーノが口を開ける。
ダッ!
俺はカルニチーノに向かって突っ込んだ。
ズキュン!
飛び出してくる赤いトゲを払いのける。
そしてその手で手刀をつくり・・・
ロッソ「ウラァ─────ッ!!」
ズバァッ!!
カルニチーノの身体を一直線に切り裂いた。
カルニチーノ「があぁぁぁ───ッ!!」
カルニチーノは断末魔を上げ・・・
ニヤリと笑った。
ロッソ「!?」
ブシャアァァァァァッ!!
凄まじい勢いで液体が吹き出す音がする。
今切り裂いた、カルニチーノの胴体からだった。
ロッソ「う・・・」
一瞬、その状況を把握することが出来なかったが・・・
しばらく経って初めて、“俺の身体が切り裂かれている”ことに気が付いた。
ロッソ「な・・・に・・・」
熱い。
焼けつくような痛みが身体に走っている。
体が動かず、俺はいつの間にか天井と向き合っていた。
ビアンコ「ロッソォォォ────!!」
気を失った訳でもなかったが、俺はしばらく時間がスローモーションのように感じられた。
カルニチーノ「フヒャハハハハハハハ!! ビックリしただろ?」
カルニチーノは平然と俺を見下ろしていた。
ロッソ(馬鹿な・・・)
何が・・・
何が起こったんだ?
カルニチーノ「そろそろ俺のスタンド能力の種明かしといくかァ。
いいかロッソ、オメェは今、俺の“血”に切られたんだぜ」
ビアンコ「何ィ・・・?」
ロッソ「“血”・・・だと・・・?」
カルニチーノ「そ。俺のスタンドは俺の“血”の中に無数に存在する。
そいつらのお陰で、俺は自分の“血”を自由に操ることが出来るんだぜ!
名前は『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』! かっけぇだろ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
自分の“血”を操る能力・・・
そういえば、彼の傷口からは血が一滴も流れていない。
ロッソ(あの“赤いもの”は血だったのか・・・)
理解したところで、俺達二人は重傷を負っている。
奴にとどめを刺されるのは時間の問題だ。
ビアンコ「ざけんなよ・・・チクショォォ────!!」
ドガァァァァァン!!
ビアンコは地面を叩いてコンクリートを砕いた。
カルニチーノ「おいおい、ヤケになんなって。後ですぐ楽にしてやるよ。
とどめを刺すのは・・・ロッソからだぜ」
カルニチーノはもう一度俺を見下ろした。
その目は嬉々としていて、さながら新品の玩具を見る子供のようだった。
カルニチーノ「なぁロッソ、俺はよォ~『静かなる殺人鬼』ってあだ名が欲しいんだ」
カルニチーノは急に俺に向かって話し始めた。
カルニチーノ「何でかって~とよ、ほら最初に『献血が趣味』って言っただろ? だから俺、周りからは良い奴だと思われてる。
でもよく考えてみろよ。俺の血ン中にはスタンドが入ってんだぜ? そいつを輸血なんかしたら、どうなると思う?」
ロッソ「・・・!」
カルニチーノ「患者死ぬに決まってんだろ! ヒャハハハハッ!!
善良な人間が提供してくれたはずの血液が、まさか患者を殺す毒だったなんて、傑作だよなァ!!
そうやって死んでった奴等のことを考えると・・・マジでワクワクすんぜ! フヒャハハハハハ!!」
この男は・・・
“この世に居てはならない存在だ”。
犯罪者とか殺人鬼とか、そういう言葉で表せるものではない。
混じりけの無い、「完全な悪」。
どんな闇よりも暗い、最悪の存在だ。
奴に対する“恐れ”の心が消え、代わりに尋常ではない“怒り”が込み上げる。
その時、カルニチーノは近くに落ちていた自分のナイフを拾った。
カルニチーノ「俺って痛いのは好きだけどよ、“人の痛みを想像する”ってのがもっと好きなんだよなァァァ!!
フヒャハハハハハハハ!!」
ザクッ! ザクッ!
ロッソ「!」
俺は目を見張った。
カルニチーノは持っていたナイフで、自分の身体を滅茶苦茶に切り刻み始めたのだ。
当然そこからは、おびただしい血が流れてくるはず・・・
だが奴の場合は違った。
ブシャン! ブシャン! ブシャン!
彼の身体から勢いよく吹き出した血はそのまま空中にとどまり、細長い蛇のような形を作り出した。
カルニチーノ「俺の『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』はよォ~、俺が血を流せば流すほど勢いが増すッ!
折角の機会だ、全力パワーで葬らせてもらうぜ、ロッソ君よォォ!」
全身から触手のように生やした“血”をくねらせながら、カルニチーノが迫る。
あれほどの“血”に一斉に攻撃されては、流石の『ガーネット・クロウ』でも防ぎきれないだろう。
ロッソ(こ・・・ここまでか・・・)
敵のおぞましい姿を目の当たりにした俺は、もはや「死」の予感を感じることしか出来なくなっていた。
カルニチーノ「フヒャハハハハハハハ!!」
カルニチーノの高笑いが脳内に響き、そして・・・
カルニチーノ「!!」
バシィィッ!
突然、カルニチーノは顔色を変え、飛んできた“何か”を弾き飛ばした。
カルニチーノ「ビアンコォォ・・・どうしてテメェは大人しく出来ねぇんだよォ~~・・・」
ビアンコ「くっ・・・」
飛んできた“何か”は、ビアンコが放った物だった。
さっき砕いたコンクリートの破片を、スタンドの指で弾いたのだ。
カルニチーノ「そんな鼻糞飛ばすような真似して、俺を倒せるとでも思ったのか?」
ビアンコ「ハァ・・・ハァ・・・
おめぇみてーなイカれた野郎は・・・飛び道具で脳天撃ち抜くしかねぇんだよ!」
カルニチーノ「ほぉ~、だったらやってみせろ鼻糞野郎がァッ!!」
ビアンコ「ヌアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
バババババババババババ!!
ビアンコがスタンドを用いて、無数の瓦礫をカルニチーノに飛ばす。
一方カルニチーノは、身体から出た“血”すべてが腕となり、瓦礫をすべて弾き飛ばした。
カルニチーノ「ヌルイ! 弾幕がヌルイんだよォ!
マジメにブッ殺してぇ時はなァ~・・・こうするんだよ!」
ビアンコ「何ィッ!!」
ロッソ「・・・!」
カルニチーノは、瓦礫を“弾き飛ばしている”のではなかった。
すべて“掴んでいた”のだ。
そしてその瓦礫は、いつの間にか色が赤くなり、形も変わっていた。
カルニチーノ「テメェの弾に俺の“血”をコーティングした・・・速く飛ぶ、殺傷力の強い形になるようになァ!!」
ビアンコ「・・・くそッ!」
ロッソ「ビアンコさん・・・!」
俺は立ち上がろうとしたが、体に全く力が入らない。
この絶望的な状況を、ただ見ることしか出来なかった。
カルニチーノ「これが“裁き”だ・・・くたばれビアンコ!!」
バババババババババババ!!
ビアンコ「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
無数の赤い弾丸がビアンコを襲う。
ビアンコはスタンドで防御を試みるが、弾丸は情け容赦なく彼の身体を突き破っていく。
ロッソ「あ・・・」
あっという間に、すべての弾がカルニチーノのスタンドから消えた。
ロッソ「・・・そんな・・・」
「蜂の巣」という言い方は、今の彼のためにあるようなものだった。
ビアンコは頭部への直撃こそ避けられたものの、全身をくまなく撃ち抜かれ、動かない。
カルニチーノ「フヒャハハハハハハハハハハ!! 痛快愉快な最期だったなァビアンコ!!」
ロッソ「嘘だ・・・」
そんなはずはない。
あのビアンコがこんな所で死ぬはずがない。
ロッソ「ビアンコさん・・・」
カルニチーノは振り返り、絶望する俺を見下ろした。
カルニチーノ「俺が教祖に認められて以来、初めてのミッションクリアだぜェ!
最後にテメェの息の根を止めればなァ~~~!! ヤッフ~ウ!!」
カルニチーノが俺に“血”の触手を振りかざす。
ロッソ(・・・!)
“死”を目の前にした俺はもう、何も考えられなくなっていた。
“その声”を聞くまでは。
ビアンコ「まだだ・・・」
カルニチーノ「・・・あぁ?」
ロッソ「ビ・・・ビアンコさん!」
ビアンコは、まだ生きていたのだ。
カルニチーノ「テメェ、まだ生きてんのかよ? 馬鹿じゃねーの?」
ビアンコ「まだ・・・“一発分”残ってんだ・・・弾がな。
そいつでテメェを仕留めてやる・・・!」
大量の血を失いながらも、ビアンコはなんとか上半身を持ち上げ、スタンドに瓦礫を握らせた。
カルニチーノ「フヒャハハハハハハハッ!! 可哀想な奴だぜ! 今更悪足掻きかよ!」
ビアンコ「いくぜ・・・『エイフェックス・ツイン』・・・」
シュバッ!
ビアンコが放った、最後の一発は・・・
ロッソ「な・・・」
&nowiki(){・・・}カルニチーノから大きく外れた所へ飛んでいった。
カルニチーノ「可哀想ォォォ~~~ッ!! これじゃあ生きてた意味ねぇじゃ・・・」
ズガン!!
カルニチーノ「・・・!!」
ロッソ「・・・!」
意外。
外れたはずの瓦礫がカルニチーノの頭に命中し、打ち砕いていたのだ。
カルニチーノ「ぶぎゃあああああああああ!!」
ビアンコ「油断したな・・・糞野郎」
ビアンコは僅かながら、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
ビアンコ「『エイフェックス・ツイン』の“衛星”をテメェの死角に配置して壁を張った。
その壁に弾を当てて、ピンボールみてーに跳ね返らせたんだぜ。
壁に当たったエネルギーが反射するから、弾の速度も落ちねぇ。
・・・どうだ、痛ぇか?」
カルニチーノ「あああああああああああああああテメェええええええええええええええ!!」
頭部を損傷し、“血”で塞ごうとも塞ぎきれない怪我を負ったカルニチーノは、かなりのパニックに陥っていた。
俺はその様子を見ると、全身の力を込めて立ち上がった。
ロッソ「あなたは・・・これ以上この世に居てはならない。真の“裁き”を受けるべきは・・・あなたなんだ」
カルニチーノ「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお死ねええええええええええええええ!!」
シュバババババババババババ!!
ヤケになったカルニチーノは、全身の“血”によるラッシュを放ってきた。
しかし、精神を乱した状態のスタンド攻撃など、普段の足下にも及ばないものだった。
ロッソ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラガ─────────ノ!!」
ズガアアアァァァァァァァァァァァン!!
・・・・・・
ビアンコ「ロッソ・・・やったのか?」
ロッソ「ハァ・・・ハァ・・・」
俺はビアンコに返事をすることなく膝をつく。
ビアンコ「おい・・・まさか・・・」
ガラガラガラ・・・
瓦礫の山が崩れて現れたのは、もはや原形を留めていないほどの怪我を負いながら、なおも生きているカルニチーノだった。
ビアンコ「何ィィ─────ッ!!」
カルニチーノ「う・・・あ・・・」
カルニチーノはゾンビのような足取りで、ゆっくりと俺達に近付いてくる。
カルニチーノ「があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ブシャアァァァァァッ!!
カルニチーノは、全身“血”の塊とも言うべき姿となっていた。
ビアンコ「嘘だろ・・・こんなのに・・・勝てねぇよ・・・!」
ビアンコは悲痛な声をあげ、今にも泣きそうだった。
ロッソ「心配要りませんよビアンコさん・・・俺の『攻撃』は、まだ続いていますから・・・」
ビアンコ「何だと・・・?」
俺はこの時、既に勝利の確信を得ていた。
だが、“それ”は決して後味の良いものではなかった。
カルニチーノ「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ズバッ! ズバッ!
ビアンコ「!」
カルニチーノは、スタンドで“自らの身体を切り落とし始めたのだ”。
ビアンコ「何が・・・起こってやがる?」
ロッソ「やれやれ・・・あなたは最期まで最悪な人間だった・・・カルニチーノ」
俺はカルニチーノに語りかけた。
ロッソ「あなたにとって初めての体験だったんでしょう。あなたが頭を砕かれた時、追い詰められたと感じたあなたに『理性』が戻ったのが分かりました。
『自分はまだ死にたくない、死ぬのが怖い』っていう感情ゆえにね。だから俺は、あなたの感情を操作出来たんだ。
あなたには、“最悪の死に方”で死んでもらう。『自分がこの世に受けた生を自ら断つ』という、最悪の死に方。
そうせずにはいられない感情にさせてもらいましたよ・・・」
カルニチーノ「が・・・うがァ・・・」
自らの身体を切り尽くしたカルニチーノは、もう死を待つのみの状態となった。
ロッソ「そうやって死ぬことだけが、あなたに命を侮辱された人達への償いだ。
俺に出来ることはここまでです・・・あとは地獄の神に裁いてもらってください」
カルニチーノ「・・・・・・」
しばらくして、カルニチーノが事切れたのを確認すると、俺はビアンコに歩み寄った。
ロッソ「ビアンコさん・・・歩けますか?」
ビアンコ「いや、一人じゃちょっとな・・・スタンドに担いでもらうか。ちっと情けねぇけどな」
ロッソ「・・・・・・」
俺は自分達二人が生き延びたことに対する安心と、これから先に待ち受ける新たな不安を感じていた。
&nowiki(){・・・}だがそれよりも、俺はもっと強い感情を抱いていた。
それは、初めて人を殺してしまったという「嘆き」。
なぜか分からないが、ただ悲しい。
殺しても何も悪くないような人間だったのに。理由が分からない。
そうやって悲しむ自分を、俺は心の中で、ただ一言で奮い立たせた。
ロッソ(恐れるな・・・)
応報部隊)カルニチーノ/スタンド名『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』 → 死亡。
第10話 完
使用させていただいたスタンド
No.564 『[[ブラッド・シュガー・セックス・マジック>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/125.html#No.564]]』
考案者:ID:CjAbZtaQ0
絵:ID:Jt+Ch7js0
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