―B Part 2024―
◇新宿駅東口・改札 panKing panQueen前 某時刻
そのとき、新宿駅地下一階、東口改札前には、ただひたすらの殴打の暴音が、一帯の空気を揺さぶっていた。
拳で肉と骨がひしゃげる音である。みちみちという、今にも肌が弾けて体液が飛び散りそうなそんな危険な音がする。
原因は、2mを超す巨躯の持ち主・三上 猛の、吉田 忍に対する一方的な暴力であった。
三上は表情を醜く歪めて笑い、赤ちゃんの頭ほどある拳をさも楽しそうに吉田にぶつけていた。
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ
三上「アーッハッハッハッハッ! やべえ! やべえよこれッ!!」ドドドドド
忍「・・・・・・」バキベキボキベキ
三上「楽しいッ! 気持ちいいッ!! 素晴らしいッ!!!
最ッッ高だァァァーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」ドドドドドドド
拳のラッシュが一旦止み、その衝撃で忍の体は吹き飛ばされた。
辺りを見回すと、どうやら券売機の前を通り過ぎたようだ。水銀が充満する一帯からはなんとか離れられたらしい。
わかることはそれだけだった。
忍「・・・・・・かっ・・・」ドクドクドク
三上「やべッ、やべッ! 抑えなきゃ、抑えなきゃなッ!
あんまりやるとイッちまうからなッ! まだ殺ッたらダメだなッ! ヒヒヒッ!」
ここなら水銀の吸引で死ぬことはないだろうが、それとは別の問題が忍にはあった。
もはやどこの骨が折れて、どこの骨が折れていないのか、正確に把握するのも困難だった。
裂けた皮膚から血がどくどくとあふれ出して、周囲は赤黒く染まっている。
顔面はかろうじて原型がわかるほどに腫れ上がり、首が動かない。
もしかしたらもう死んでいるのかも・・・と想像する脳みそはなんとか残っていた。
忍「・・・・・・」
吉田 忍は考える。
きっと自分では、この巨人には勝てない。
三上「ヒヒヒッ! あははははははは」
KOL『・・・・・・』
三上の持つ獅子のスタンド、『キングス・オブ・レオン』は最強の破壊力と俊敏性を持つスタンドである。
『キングス・オブ・レオン』は本体である三上が“前へ歩みを進めていく間”、無敵のパワーを得る能力のスタンドだ。
知ってはいたが、いざ相手にしてみると、それは忍の想像を遥かに超えた。
忍「・・・・・・」
吉田 忍は想像する。
もしも勝つ方法があるのなら、それは三上を一歩でも“後退”させるか、
“鋼の体にも通用する強烈な一撃を入れるか”・・・の二つであると。
忍(・・・・・・)
三上「あああダメだぁぁ殺りてぇッ! もう殺りてえ!!」
三上が一歩ずつ、忍へ近づく。
忍(・・・・・・)
昔は―――
まだ地元で名の無いチンピラやってた頃は、俺は無敵だった。
絶対に負けなかった。負けたことなんかなかった。誰でも、どんな相手でも完璧にぶちのめした。
忍(・・・・・・)
それが、今のこのザマはなんだ? 俺は、こいつに負けるのか? 殺されるのか?
何故だ? あの頃と何が違う?
三上「もうッ! もう限界ッ! 殺るよ? 殺るヨ? 殺すよォォォ????!??」
あの頃は―――
忍(・・・あの頃は―)
そうだ。
あの頃の俺は、絶対に勝てると“信じていた”。
この俺が負けるわけがないと、100%の自信で相手に挑んでいた。
勝利を疑ったことなんか、一度もなかったんだ。
忍(・・・・・・そうか)グググッ
三上「!? ほう、まだ立ち上がるくらいの力が残ってたか」
忍「ハァー・・・ハァー・・・・・・」フラフラ
俺はこいつにビビったんだ。“勝てないかも”と心の隅で、少しでも思ってしまった。
だから負けそうになるんだ。
三上「フラフラだな、吉田ァ! 安心しろォ、まずはその両脚を砕く!」
忍「・・・・・・」
たとえ、どんなに実力差が開いていても―――
三上「あらぬ方向に捻じ曲げてやる! 皮膚を突き破って飛び出た大腿骨を引き抜いて、
それでお前の顔面を刺してやる! 百万回も刺してやる! ブッ刺してやるよォォォ!!」
傍から見て、どんなに無茶な相手でも―――
忍「うっせェェーーーよブタァッ!! かかってこいオラァ!!!」
自分が自分を信じ続けている限り、俺は最強でいられるんだ。
三上「『キングス―――』」
忍「『ナイン―――』」
獅子のスタンドを携え、ぐんぐんと進む三上と、それに対峙して、蜥蜴のような人型スタンドを出現させた忍。
蜥蜴の方は本体のダメージと比例して、ヴィジョンがボロボロだったが、それでも屈せず構えを取る。
三上「『オブ―――』」
忍「『インチ―――』」
一歩ずつ、一歩ずつ、距離を詰めていく二つのスタンド。
そして、ついに互いの射程内に入ると――
三上「『レオン』ッッッ!!!」
忍「『ネイルズ』ッッッ!!!」
KOL『グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』ドゴォォォ!
NIN『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』ドゴォォォ!
獅子の『キングス・オブ・レオン』、蜥蜴の『ナイン・インチ・ネイルズ』。
それぞれの全力が込められた右拳が、それぞれの胴体に突き刺さった。
三上「・・・・・・」
忍「・・・・・・」
互いのスタンドの拳、そのダメージを受け止めて、そして受け止め切れなかったのは――
三上「・・・・・ニヤリ」
忍「・・・・・・ゴフッ」
吉田 忍だった。
だが。
三上「・・・!?」
三上は気付いた。自分の胸の前で力尽きて倒れそうな忍の、『ナイン・インチ・ネイルズ』の右腕が、
自分の厚い胸板の中にずぶずぶと潜り込んでいたのだ。
忍「・・・・・・」
NIN『キ・・・シャ・・・・・・』ずぶずぶ
三上「・・・く! こ、コイツ・・・・・・! 俺の“心臓”をッ!」
KOL『グルルルルルル』
『ナイン・インチ・ネイルズ』の能力で半液状と化し、ずぶずぶになった三上の胸板に忍び込んだ右手は、
三上の心臓をギュッと掴んでいた。
口から大量の血液を零しながら、忍がニヤリと微笑んだ。
忍「・・・・・・ニヤリ」
しかし。
忍(・・・・・・くッ)ズキズキィッ
フラァ
三上「!!」
忍(・・・・・・)フラァ・・・
三上「・・・はっ、ハハハ! 手に込める力はもう残ってないか!
あははははははははははははははははは!」
忍の全身から力がふっと抜けていく。
忍(・・・・・・)
三上「いつまで人様の心臓を触ってるッ! 離れろォォッ!!」
KOL『グルアアアアアアアア』ドゴォッ!
忍「ぶ・・・・・・グ・・・・・・」
『キングス・オブ・レオン』の拳をもう一度受けた忍は、三上の体から引き離され、
その場にずるりと倒れた。
三上「ハァ・・・ハァ・・・!」
忍「・・・・・・」
三上「ザコが・・・・・・一瞬ヒヤっとしたぜ・・・・・・!」
決着はついたかのように見えた。
だがその一瞬、三上は見逃さなかった。
血まみれの忍の口元が、力なくだが、たしかに再度“にやり”と歪むのを。
三上「!? なんだ、なにがおかしい!」
忍「・・・・・・俺の・・・右手を・・・・・・」
三上「ああ!?」
忍「“引き離した”な・・・・・・自分の・・・・・・胸元から・・・・・・」ズブズブ・・・
三上「!」
地面が『ナイン・インチ・ネイルズ』の能力で半液状化し、忍が地面に沈み込まれていく。
三上はその光景を見つめながら、忍の右手の中指に、“あってはならないモノ”が引っ掛かっているのを発見した。
三上「!!!! あ、ああああ・・・・・・・・・」
忍「・・・・・・ハッ・・・・・・これは、・・・・・返すぜ・・・・・・」
三上(あああああああああああああああああああああああああああああああああああ)
忍の中指から、それはコロンと抜け落ちた。
鉄製の、リング状のそれは―――
忍(埋め込ませてもらったよ・・・・・・お前の胸の中に・・・)
“手榴弾”のピンだった。
忍(コイツをな・・・・・・)
忍「・・・・・・グッ・・・・・・バイ・・・・・・」ズブズブ・・・
三上「うあああ―――
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
すぐ上で、断末魔を掻き消す爆裂音が聞こえた。
それで満足したのか、忍はどろどろの地面の中で最後にふっと微笑むと、そのまま意識を失った。
比奈乃「!?」
川崎「!?」
ドゴオオオオン!
金属のドームを展開し、その中に閉じこもる川崎と、右脚を挟まれ動けなくなった比奈乃。
二人の耳朶を、手榴弾の爆発音が打った。
比奈乃「忍・・・・・・?」
そこからは向こうでなにが起きたのか、視認することはできない。
「遊んでいる暇はないな!」と川崎が叫び、比奈乃の右脚を取り込んだドームの周りが、ぐにゅぐにゅと変形する。
その一部分は“ギロチン”と化した。
川崎「切断させてもらうッ!」
比奈乃「やってみろッ!」
D・B『ウオオオ!』バリバリバリ
川崎「!」
脚を固定する土台と、振り落とされる刃。その間にできた空洞に、比奈乃は
『ダーケスト・ブルー』の“紺碧の電撃”を凝縮させた“電撃弾”を撃ち込む。
あわててドームを解除し、“電撃弾”を回避した川崎は、出し抜けに液体金属を再び変形させた。
鋭い先端をもつ、二本のチューブである。
シュンシュン!
比奈乃「!」
ヘビのように獲物にせまる二本のチューブを避けながら、『ダーケスト・ブルー』は“電撃弾”を撃ち放つ。
しかし『メタル・ジャスティス』は余った液体金属でシールドを展開させ、それを防ぐ。
やがて足元から迫る固定用の金具に両脚を捕らえられた比奈乃が、ついにチューブを両腕に一本ずつ喰らった。
ドスッドスッ
比奈乃「ぐッ!」
川崎「ふぅ、やっとだ・・・・・・ちょこまか動き回りやがって・・・・・・」
チューブの先端が両腕に突き刺さり、両脚は金具で固定。
身動きが取れなくなった比奈乃は、チューブの伸びた先の、金属でできたタンクのようなものをみた。
比奈乃「・・・なに? なにする気? そのタンクにはなにが入ってるの?」
川崎「『X-MEN』の映画を見たことがあるか?」
比奈乃「は?」
川崎「ヒュー・ジャックマン演じる『ウルヴァリン』は、ある実験で体中に熱い液状の金属を流し込まれるんだ・・・。
そう、ちょうど今の君みたいな状態でな」
比奈乃「!!!」
比奈乃はタンクを見た。タンクの中から、ぐつぐつと何かが煮えたぎる音が聴こえる。
川崎「彼は不死身の能力を持つからなんとか生き延びたが・・・・・・」
そしてその何かは、チューブを通り、比奈乃の両腕に流れ込んだ。
ぶすぶすと体の内側から、筋肉と骨、血管を焼きながら両腕に巡っていくそれは、想像を絶する激痛の波だった。
じゅわじゅわと腕が煮え、皮膚が膨れて、爛れる。
比奈乃「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
川崎「君は不死身じゃないよな?」
比奈乃「あッ、あああっ、ダ、『ダーケスト・ブルー』ゥゥゥーーーーーーーーッ!!!」
D・B『ドラァァーッ!」』シュバッ!
『ダーケスト・ブルー』の手刀でチューブは切断され、熱した液体金属の注入は停止された。
金属は全身には回らず、なんとか両腕のみの犠牲で済んだが、そのダメージは深刻だった。
両腕が中から焼け落ち、固まり始めた金属のお陰でふくらみ、重みを増した。
指先まで巡った金属は爪から肩までを煮えたぎらせ、両腕を使い物にならなくした。
比奈乃「うう、うううッ・・・・・・」ブスブス・・・
川崎「最高の痛みだろ? しかも笑えるのは、一度そうなったらもう手術でも元には戻らない。
両腕は切断するしかない」
川崎「障害者デビューおめでとう。ヒナちゃん」
にこやかに笑って見せた川崎を、睨む余裕すら比奈乃にはなかった。
骨を焼き続ける激痛と、両腕を失った絶望から、比奈乃は大粒の涙を零してわんわんと泣き始めた。
比奈乃「うう、うわぁぁぁーーーーん・・・・・・ひどいよ、こんなぁぁぁあああ」ボロボロボロ
川崎「次は両脚に注入だ。ダルマにしてやる」
川崎「そしたらウチで飼ってやってもいいよ! アハハハ」
高笑いをする川崎。しかしその顔から、笑みが引くのはすぐだった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
川崎「ハハ・・・・・・・・・」
比奈乃「ふぅッ・・・・うッ・・・・・・・ふぅ」グスン
川崎「ハ・・・・・・」
比奈乃「ふぅ・・・・・・ちょっと、落ち着いた・・・・・・」
川崎(な、なんだ・・・? あの“眼”・・・・・・)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
涙が引いたあとの比奈乃の“眼”は、いままで見たことの無い色をしていた。
“怒り”でも“恨み”でも、“絶望”とも違う。何か別の感情の色。
いや、そもそも感情の色かどうかもわからない、そんな色。
比奈乃「・・・・・・・・・」
強いて言うなら、何かが抜け落ちたような、そんな眼。
ただしそれは“失意”や“呆然”ではない。
そう、まるで――――
川崎(な、なんなんだよ・・・・・・。み、見るな・・・・・・)ゾワッ
比奈乃「・・・・・・『ダーケスト・ブルー』・・・」ボソッ
“虚無”。
川崎「その眼で、俺を見るな!!」ゾワゾワゾワ
川崎「『メタル・ジャス―――」
それは一瞬だった。
ブスッ
川崎(あ、あれ?)
さっきも体感した、ワープと見紛うほどの、『ダーケスト・ブルー』の光速移動。
背後を取られたことすら、背中を指で突かれてから気付くほどのスピード。
だが、攻撃があったことを認識しているのはおかしい。
なぜなら、『ダーケスト・ブルー』の“紺碧の電撃”は、すこし触れただけで即死という壊れた威力を持っているからだ。
しかしながら、何故か川崎の体は粉々に吹き飛んでいない。生きている。
川崎(な、なんで? 指で背中を刺しただけか? 電撃は?)
D・B『・・・・・・』
ドサッ
力が抜け、倒れこむ川崎。だが原因は、唖然としたからではない。
“力が入らない”のだ。立ち上がれない。
体が麻痺したようになって、動かすことができなくなっていた。
川崎(あ、あう・・・・・・な・・・なんだ・・・・・・体が・・・・・・喋ることもできない・・・・・・)
比奈乃「・・・『ダーケスト・ブルー』が、脊髄に弱い電気を流したの・・・・・・」
川崎(・・・あ?)
比奈乃「全身麻痺だよ・・・・・・。キミも障害者だね・・・・・・」
川崎(あ? あ? ウソ、ウソだろ? ウソだろ? あ? あ?)
川崎(『メタル・ジャスティス』ッ! 殺せ! こいつを今すぐ!)
しかし次の瞬間、川崎は更に絶望的な光景を目の当たりにする。
唯一の武器である、変幻自在の液体金属が、自分の意思に反して―――
川崎(・・・・・・は?)
比奈乃「・・・・・・」バチバチッ
川崎(な、なんで、液体金属が・・・・・・ヤツの両腕に???)
肩から切断され、捨てられた比奈乃の両腕に、集まって動けなくなっていたのだった。
川崎(こいつ、いつの間に両腕を・・・・・・両腕?)
比奈乃「あんましね・・・・・・痛くなかったよ。切り離すとき・・・・・・」
川崎(そうか、両腕)
川崎(鉄の塊となった両腕に、電気を流して“電磁気”を・・・・・・。
“電磁石”にしたんだ・・・! 残りの液体金属が、一箇所に引き寄せられるように・・・・・・!)
比奈乃「だって、これからのキミのがもっと痛いもんね・・・・・・」
『メタル・ジャスティス』自体は、能力を除けば戦闘には向かないひ弱なスタンドである。
自分の身を守る手段を失った川崎に待っていたのは、一生よりも長い地獄の夜。
比奈乃の肩の傷口は電撃で焼いて閉じてあった。両腕を失った彼女は川崎の体に乗っかると、
『ダーケスト・ブルー』から発せられる電撃を、川崎の足の指から一つずつ、ゆっくりと当てていった。
“藍色の電撃”は絶妙な威力に設定され、肉体に触れると、肉だけを吹き飛ばして骨が残るようにした。
バチィッ
川崎(ぐううッ!!)バンッ!
比奈乃「こうやってゆっくりね・・・」
バチィッ
川崎(がああああああああああああああああ)
比奈乃「足の爪先から始めて、頭のてっぺんまでゆっくり・・・・・・
キミの肉をそぎ落としていくよ。気絶したら電気ショックで起こすからね」
バチィッ
比奈乃「骨格標本にしてあげる。そしたら買ってあげてもいいよ」
バチィッ
比奈乃「・・・・・・でもウチには置くとこないから、学校に寄贈かな」
バチィッ
激痛に涙を流すことも、許しを乞う事もできない、全身麻痺状態の川崎 祐介は、
何度も気を失ってはその都度叩き起され、自分の体から肉が剥がされていく光景を、死ぬまで見せられ続けるのだった。
<<新宿駅・地下 vs『組織』暗殺チーム戦、決着!>>
一戦目
△『ナイン・インチ・ネイルズ』吉田忍・・・・・・勝利。地面に沈んで爆発から逃れるも、地中で意識を失う。生死不明。
×『キングス・オブ・レオン』三上猛・・・・・・敗北。手榴弾の爆発で爆死。
二戦目
△『ダーケスト・ブルー』藍川比奈乃・・・・・・勝利。代償に両腕を失う。
×『メタル・ジャスティス』川崎祐介・・・・・・敗北。電撃で体中の肉をじわじわ剥がされ、しばらくした後死亡。
―A Part 2027―
航平「う、ウソだろ・・・・・・」
数分間、車内で身を潜めていた航平は、突然音が聞こえなくなった窓の外を、おそるおそる覗いてみた。
車外には、死体が複数転がっていた。そのそばには、血まみれのナイフを握り、返り血を浴びた男達が立っている。
戦闘は終わった。ただし、死体は全て襲撃者たちのものだった。
返り血を浴びて立っているのは、丈二と未来の二人だ。
丈二「ハァ・・・ハァ・・・。ケガは・・・?」
未来「ハァ・・・ハァ・・・。大丈夫です。腕は鈍ってませんね、丈二」
丈二「ふっ・・・お前もな。阿部に鍛えてもらっただけはあるな、俺たち」
未来「阿部さんの地獄の訓練を思い出しますね・・・・・・」
航平(これ、全部あいつらがやったのか・・・?
ナイフ一本で、スタンド使い十四人を・・・二人で・・・? 冗談だろ・・・・・・?!)
ガチャッ
丈二「終わった。行くぞ、車を出してくれ」
未来「どこへ行くんですか?」
丈二「ミシェルのところだ。今日本にいるらしい」
未来「ミシェル? ミシェル・ブランチですか? 何故日本に・・・」
丈二「さあな。だが、まずそこに――」
航平「ちょっ、ちょっと待てよ! なに平然と何事もなかったように・・・・・・あんたら、マジであいつら全員・・・」
丈二「やったよ。問題あるか?」
ナイフの血を拭いながら、平然と丈二が言う。
航平「いや・・・・・・つか、あんたらなにもんだよ・・・・・・。なんでそんな強いんだ・・・」
未来「彼らはアマチュアだ。僕たちとはレベルが違う」
丈二「俺たちはプロだからな。昔はこれで飯食ってた」
航平「・・・・・・マジかよ」
後部座席で震える天斗に、「大丈夫だ。安心していいよ」と優しく告げて丈二は血まみれのシャツを脱いだ。
航平がアクセルを踏み、車はミシェル・ブランチとの合流を目指し、走り出した。
―B Part 2024―
◇新宿駅・東口 同時刻
激しくぶつかりあう丈二と未来、そのスタンド。
新宿駅・東口は、もはや地獄だった。
あらゆる建物に穴が開き、車が燃え、“人だった”肉の欠片が散らばっている。
肉を切りながら、骨を割りながら、丈二と未来は互いを傷つけあう。
それはそれぞれの血が枯れるまで続く。周囲の風景を壊しながら・・・・・・。
丈二「うおおおおおお!」ベキィイ
A・モンキーズ『ムヒャアアアアアア』
未来「うおおおおおお!」ボコォオ
W・ヒーロー『ハァァァァァアアア』
丈二の振るったナイフが、未来の右目の眼帯を切り裂いた。
ぽとっと地面に落ちた眼帯の奥に隠されていたものを見て、丈二の動きが一瞬止まる。
スパァ
丈二「! お前、その目・・・・・・」
未来「・・・・・・」
未来の右目は、潰れていた。目蓋に刺し傷のような痕が拡がっている。
丈二「なにか・・・あったのか? 右目・・・・・・」
未来「・・・・・・生まれたときから、こうだったらしい。原因は未だに不明だそうだ。
母親の胎内に刃物があるわけもないし、出産時のケガでもない・・・・・・」
未来「だが、そんなことは関係ない! お前程度、片目でも十分すぎるほどだ!」
『ウエスタン・ヒーロー』の回し蹴りが、咄嗟に身を反らした丈二の鼻先を掠める。
丈二「くッ!」フッ
丈二(だけど・・・未来)
丈二(“どこかで見た気がする”んだ、その右目の傷・・・・・・。一体、何処で・・・?)
そのときだった。
???「そろそろいいかしら?」
丈二「!?」
未来「!?」
どこからか聴こえる少女の声。
振り返ると、半壊した救急車の上に、それらはいた。
丈二「な、なンだ・・・・・・!?」
???「お開きの時間よ」
くま、ねこ、うさぎ。三体のどうぶつのきぐるみが。
くま「・・・・・・」
うさぎ「・・・・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ねこ「未来。よくやってくれました、この辺でいいでしょう」
未来「・・・・・・いえ、まだです。この男と決着をつけさせてください」
ねこ「ダメよ。彼は連れて行くわ。大事なお客様ですもの」
未来「!? はッ!?」
丈二(?? なんだ、未来の知り合いか? こいつら・・・)
ねこの着ぐるみの中から聴こえてくる声は、若い少女のもので間違いなかった。
だが、なにか違和感のあるトーンだ。少女のようで、もっと歳を取った女性のもののような気もする声。
未来「しかし・・・・・・!」
ねこ「あなたがどうこう言えるの? 私がいなければ、3分後には『組織』に殺されている、あなたが」
未来「・・・・・・ッ!」
ねこ「・・・・・・さあ。丈二、行きましょう」
丈二「・・・あ? なんで俺が・・・つか、なんで俺の名前・・・・・・」
ねこ「着いて来ないのなら、無理やり連れて行く! アヤ!」
くま「・・・・・・」バッ
『アヤ』と呼ばれ、反応したのはくまの着ぐるみだった。中身は女性か?
くまの『アヤ』は丈二に飛び掛ると、素早く手に持った注射器を丈二の首に突き刺した。
丈二「・・・うっ!」プスッ
フラッ
くま「・・・・・・」
一瞬で気を失い、倒れこんだ丈二をくまの『アヤ』が受け止める。
ねこ「さすが。動物用鎮静剤はすぐにきくわね。アヤ、車へ運んで」
くま「・・・了解です、“ミサキさま”」
『ミサキさま』と呼ばれたねこの着ぐるみは未来の肩に手を置くと、ねこの大きな頭を未来の耳元に近づけ、言った。
ねこ「この借りは大きい。期待していいわよ」
未来「・・・僕は、貴女が僕と交わした“約束”が守られれば、それでいい」
ねこ「・・・・・・任せて」
近くに駐車してあったバンの荷台に丈二が押し込まれ、うさぎとくまがそれぞれ運転席と助手席に座る。
後部座席のドアを開けて、ねこの『ミサキさま』が未来に言った。
ねこ「しばらく隠れる場所が必要でしょう? よかったら乗りなさい」
未来「いえ、結構」
ねこ「そう。頑張ってね。では近いうちに」
ドアが閉まり、バンは発車した。
未来は、先ほど切り落とされた眼帯を拾って、新宿駅構内へ消えていった。
<<新宿駅・東口 vs倉井 未来戦 決着!>>
△『アークティック・モンキーズ』城嶋丈二・・・・・・引き分け。戦闘の最中、着ぐるみの連中に拉致される。
△『ウエスタン・ヒーロー』倉井未来・・・・・・引き分け。
―A Part 2027―
◇????? ???
そこは、どこかの寝室。
ふわふわの大きなキングサイズベッドで眠る、一人の少女がいる。
女子高生くらいの見た目であるその少女は、ベッドの側に置いたケータイの着信音で目を覚ました。
少女「・・・・・・ん」
ケータイを手に取り、画面を開く。
時刻は午前6時。30分後にはセットしたアラームが鳴り出す頃合である。
着信先の名は『宮原 彩(みやはら あや)』と表示されている。
少女「・・・・・・もしもし、アヤ?」
彩<おはようございます。朝早くに申し訳ございません>
少女「いいわ。どうせすぐに起きる時間だし。用件は?」
彩<雇った14人のスタンド使い、先ほど全滅を確認しました>
少女「・・・まあ、期待はしていなかったけれど。城嶋 丈二は天斗を回収したのかしら?」
彩<そのようです。一時間ほど前に『虹の園』を発っています>
少女「どこへ向かったのかしらね・・・。追跡をお願いできる?」
彩<了解しました。見つけたらどうしますか?>
少女「私に連絡を。私も向かうわ」
彩<・・・“ミサキさま”、自らですか?>
ミサキ「なにか問題が?」
彩<いえ・・・・・・>
ミサキ「そろそろご挨拶といこうではありませんか。彼らはよく働いてくれた。
神宮寺家十四代当主、『神宮寺 美咲紀(じんぐうじ みさき)』の名を―――」
美咲紀「彼らが最期の瞬間に、噛み締めることができるように」
彩<・・・・・・はい。美咲紀さま>
美咲紀「・・・・・・」
通話を切って、『神宮寺 美咲紀』と名乗ったその少女は、再びベッドに潜った。
そして枕元に置いておいた、昨晩の読みかけの漫画の続きを読み始めるのだった。
『アップル シナモン キャラメリゼ』の。
◆キャラクター紹介 その5
川崎 祐介(メタル・ジャスティス)
―A Part 2027―
死亡済み。(2024年に那由多に殺害されている)
―B Part 2024―
『組織』暗殺チームの一人。冷酷な性格。
比奈乃との戦闘で、体中の肉を剥がされ死亡。
比奈乃との戦闘で、体中の肉を剥がされ死亡。
三上 猛(キングス・オブ・レオン)
―A Part 2027―
廃人。
―B Part 2024―
『組織』暗殺チームの一人。戦闘狂。
忍との戦闘で、手榴弾を胸に埋め込まれ、死亡。
忍との戦闘で、手榴弾を胸に埋め込まれ、死亡。
神宮寺 美咲紀とその仲間
神宮寺 美咲紀(???)
―A Part 2027―
天斗を狙う一味のトップと思われる少女。女子高生。
神宮寺家の第十四代当主であるらしい。
神宮寺家の第十四代当主であるらしい。
―B Part 2024―
郊外の洋館に暮らす少女。ねこの着ぐるみを着て、丈二を拉致する。
未来となにかの“約束”をしているらしい。
未来となにかの“約束”をしているらしい。
宮原 彩(デッドバイ・サンライズ)
―A Part 2027―
美咲紀に仕える女性。マユと比奈乃をスタンドの爆弾で殺害した。
現在スタンドを失っているが・・・?
現在スタンドを失っているが・・・?
―B Part 2024―
同じく美咲紀に仕える身。美咲紀の要望で着ぐるみを製作した。
くまの着ぐるみを着て、丈二と未来の前に現れる。
くまの着ぐるみを着て、丈二と未来の前に現れる。
不明(男)(スルー・ザ・ファイア)
―A Part 2027―
“テント”を狙う神宮寺 美咲紀の一味。警官に成りすまし、航平を拉致して拷問した。
赤ペンキの中に沈められ、丈二によって火を付けられ焼死。
赤ペンキの中に沈められ、丈二によって火を付けられ焼死。
―B Part 2024―
敵対組織のスタンド使い。ポジション的にはAパートの白髪女。
忍と対決し、NINの能力で床の中に生き埋めにされて死亡。
忍と対決し、NINの能力で床の中に生き埋めにされて死亡。
◇その他
虹村 那由多(リトル・ミス・サンシャイン(Aのみ))
―A Part 2027―
死亡済み。(2025年に柏に殺害されている)
―B Part 2024―
私立大学に通う女子大生。琢磨とは恋仲。スタンド使いではない。
家族(父、母、姉)は全員生存している。
家族(父、母、姉)は全員生存している。
福野 一樹(カズ)(ノー・リーズン(Aのみ))
―A Part 2027―
死亡済み。(2024年に柏に殺害されている)
―B Part 2024―
都内の私立大に通う大学生。一人暮らし。ミシェル・ブランチの大ファン。
憧れのミシェルにつれられ、どこへ行く!?
憧れのミシェルにつれられ、どこへ行く!?
ミシェル・ブランチ(ホテル・ペイパー)
―A Part 2027―
3rdアルバムが全世界で大ヒット。現在来日中であるらしい。
―B Part 2024―
こちらでも歌手。理由は不明だが、丈二やカズを探して集めようとしている。
柏 龍太郎(レイト・パレード、ロン(Aのみ))
―A Part 2027―
死亡済み。(2025年に丈二に殺害されている)
―B Part 2024―
大学教授。ゼミ生の那由多をなにかと気にかけている。スタンド使いではない。
その端麗な容姿と知的な雰囲気に女子生徒から大人気。
その端麗な容姿と知的な雰囲気に女子生徒から大人気。
※ ―A Part 2027― (2027年。前作のその後の世界)
※ ―B Part 2024― (2024年。前作と異なる世界)
※ ―B Part 2024― (2024年。前作と異なる世界)
第6話 アップル シナモン キャラメリゼ(Apple Cinnamon Caramelisee) おわり
使用させていただいたスタンド
No.113 | |
【スタンド名】 | アークティック・モンキーズ |
【本体】 | 城嶋 丈二 |
【能力】 | 赤い色のものに出入りできる |
No.177 | |
【スタンド名】 | ウエスタン・ヒーロー |
【本体】 | 倉井 未来 |
【能力】 | 殴った物質をヒーローベルトに変え、巻いた者はその物質が持っていた性質を取得する |
No.2336 | |
【スタンド名】 | ダーケスト・ブルー |
【本体】 | 藍川 比奈乃(ヒナ) |
【能力】 | 掌から青い電撃を発する |
No.1340 | |
【スタンド名】 | ナイン・インチ・ネイルズ |
【本体】 | 吉田 忍 |
【能力】 | 殴ったものをドロドロにする |
No.60 | |
【スタンド名】 | ワンステップフォワード |
【本体】 | 須藤 |
【能力】 | 範囲内のすべての者の歩行時に足跡が出現し、地雷になる |
No.381 | |
【スタンド名】 | メタル・ジャスティス |
【本体】 | 川崎 祐介 |
【能力】 | 範囲内にある金属を引き寄せて溶かす |
No.587 | |
【スタンド名】 | 獅子座の暗示(キングス・オブ・レオン) |
【本体】 | 三上 猛 |
【能力】 | 「前進する」事において、無類の力を発揮する |
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